説明

リチウム二次電池用電極およびそれを用いた二次電池

【課題】エネルギー密度、実装エネルギー密度が高く、サイクル性に優れ、電位平坦性の高いリチウムイオン二次電池用電極を提供する。
【解決手段】オリビン構造を有する遷移金属化合物を主たる電極活物質とするリチウム二次電池用電極であって、リチウム二次電池用電極の電極合剤は、結着剤が、電解質イオンを吸蔵することにより高い電子伝導性を示す高分子材料であり、電極合剤の密度が、1.8g/cm以上である。これにより、オリビン構造を有する遷移金属化合物を主たる活物質とする電極合剤層の集電体への密着性、密度を向上させ、高い集電性を付与し、エネルギー密度の向上を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリビン構造を有する遷移金属化合物を主たる電極活物質とするリチウム二次電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関し、特に、電極を形成する電極合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
1991年に高電圧であり且つ高エネルギー密度を有するリチウムイオン電池が実用化されて以来、電子機器の小型・軽量化、コードレス化が急速に進んでいる。一方において化石燃料の消費にともなう環境負荷物質の増加や、原油価格の高騰などを背景に、燃料電池、太陽電池などのクリーンエネルギーの導入、ニッケル−水素電池を搭載したハイブリッド自動車の普及が急速に進みつつある。特にリチウムイオン二次電池は、高電圧であり且つ高エネルギー密度を有するため、電力の貯蔵、電気自動車用の大型二次電池として、開発が活発化している。
【0003】
一般にリチウム二次電池は、正極と、負極と、正・負極間に電解質を備えている。正極及び/又は負極では、集電体の少なくとも一方の面に電極合剤層が形成されており、正・負極合剤層は、主に正極活物質又は負極活物質、結着剤及び導電剤から構成されている。例えば、18650サイズ規格の小型リチウムイオン二次電池の正極活物質には、コバルト酸リチウムを始め、リチウム,コバルト,ニッケル,マンガンなどの金属元素からなる複合酸化物が用いられ、小型電子機器用二次電池の高エネルギー密度化、低コスト化が進められでいる。一方、負極合剤にはリチウムが吸蔵可能なグラファイト、ハードカーボン、ポリアセンなどの炭素材料を活物質とする合剤が使用されているが、より高エネルギー密度化を達成するため、シリコン、酸化スズなどを活物質とする合剤電極や金属リチウム負極が検討されている。
【0004】
小型リチウムイオン二次電池では、正極活物質はコバルト酸リチウムであり、負極活物質にはグラファイトをはじめとするカーボンが最も多く利用されている。しかし、正極のコバルト酸化物は高温下では、熱分解されて酸素を放出するなど熱に対して不安定であるため、これに替わる過充電状態で安全性が高いスピネル型マンガン酸リチウムが採用されている。しかし、実効エネルギー密度ではコバルト酸化物が150Ah/kgであるのに対して、スピネル型リチウムマンガン酸化物では110Ah/kgと大きく劣る。そのため、大型リチウム二次電池電極にはスピネル型リチウムマンガン酸化物以上の安全性、コバルト酸リチウム並みの実効エネルギー密度が求められている。こうしたスピネル型マンガン酸化物に対して例えばLiMPO(M:遷移金属元素)に代表されるオリビン型結晶構造を有する遷移金属化合物が安全性・耐久性に優れたリチウム二次電池用正極活物質として検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−514304号公報
【特許文献2】特開2006−032241号公報
【特許文献3】特開2009−263222号公報
【特許文献4】特開2005−302300号公報
【特許文献5】特願平6−132028号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zhaohui Chen and J. R. Dahn, "Reducing Carbon in LiFePO4/C Composite Electrodes to Maximize Specific Energy. Volumetric Energy, and Tap Density ", Journal of The Electrochemical Society, Vol. 149 (2002), pp. A1184- A1189
【非特許文献2】Y-H.Huang, K-S.Park, J.B.Goodenough, "Improving Lithium Batteries by Tethering Carbon-Coated LiFePO4 to Polypyrrole", Journal of The Electrochemical Society, Vol.153 No.12 (2006), pp. A2282-A2286
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リン酸鉄リチウム(LiFePO)をはじめオリビン構造を有する遷移金属化合物は、安全性・熱安定性に優れ、高電位を有し、二次電池電極としてのサイクル特性が良好で,
リチウムイオンが抜けたFePOも熱安定性にすぐれる点から、スピネル型マンガン酸リチウム化物に代わる大型電池の正極活物質として注目されている。しかしながら、リン酸鉄リチウムは電子伝導性が低いためにそのままでは充放電における電極反応が困難である。実際、リン酸鉄リチウムの導電率はスピネル型マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム等の25℃における導電率が10−1S/cm〜10−6S/cm程度であるのに対して、10−8S/cm以下である。またリン酸鉄リチウムを初めとするオリビン型結晶構造を有する遷移金属化合物は粉体状で、複数の一次粒子が互いに密に凝集することなく、二次粒子を形成するため、多数の空間が存在している。このため電極合剤層の集電体への密着性、電極密度の向上が難しいという問題がある。
従って、オリビン構造を有する遷移金属化合物を主たる粒子状活物質とする合剤の集電体への密着性、電極層の密度を向上させると共に、エネルギー密度の向上、高い集電性を付与することにより、ハイレート放電における出力特性の向上を図ることが望まれている。
【0008】
こうしたオリビン構造を有する遷移金属化合物の電極活物質としての課題に対して、リン酸鉄リチウムでは実用化レベルの開発が行われている。例えば特許文献1にはオリビン型構造のLiFePOに異種金属元素を添加し、電気抵抗を低減する技術が開示されている。非特許文献1及び特許文献2にはオリビン型LiFePOの製造時にタップ密度を向上させ、粒径を数10nm〜数μm以下のカーボンとの複合体を形成する技術が開示されている。また特許文献3にはオリビン型結晶構造を有するリチウム複合酸化物の表面を導電性炭素材料で被覆した活物質が開示されている。
【0009】
リチウムイオン電池の電極は、一般に、活物質、バインダー(結着剤)、導電助剤、溶媒からなる合剤を調製してスラリーとし、集電体シート上に塗布・乾燥してシート電極とし、密度調整などの目的でプレスすることにより作製する。オリビン型結晶構造を有する遷移金族化合物を用いた合剤スラリーでは、二次粒子の空間内に正極の結着剤等が入り込み、その結果、結着剤の結着能力が低下したり、電極密度の向上が難しいという問題がある。これを解決するため特許文献4には、従来のポリフッ化ビニリデンバインダー(PVdF:poly(vinylidene fluoride)に代わり分子量が37万〜100万のポリフッ化ビニリデンを使用し粒子間の結着力を高め、正極の集電体への密着を高める方法が開示されている。
一方、ポリアセチレンを初めとする導電性高分子が電極活物質としてポリマー電極として検討されたが、体積エネルギー密度が低く、二次電池の正極としては実用化に至っていない。こうした導電性高分子電極の問題を解決するため、特許文献5には、遷移金属化合物と導電性高分子の複合電極が開示されている。即ち遷移金属化合物には五酸化バナジウム、導電性高分子にはポリアニリンを用いた複合正極が開示されているが、エネルギー密度はスピネル型マンガン酸リチウムを超えるものではない。また非特許文献2にはオリビン型リン酸鉄リチウムについては表面をポリピロールで被覆し、あるいは被覆した後に導電化する事例が開示されているが、オリビン構造を有する活物質に対して結着剤としての機能を容易に予測することは困難であった。
【0010】
本発明は、こうした実情の下、エネルギー密度、実装エネルギー密度が高くサイクル特性に優れ、電位平坦性の高い高エネルギー密度電極および当該電極を用いた二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、こうした課題に対して鋭意検討した結果、オリビン構造を有する遷移金属化合物を主たる電極活物質とするリチウム二次電池用電極合剤において、当該電極合剤の結着剤に、電解質イオンを吸蔵することにより高い電子伝導性を示す高分子材料を用いることに着目し、リチウム二次電池用電極の実装エネルギー密度を飛躍的に向上させることに成功した。
【0012】
本発明に係るリチウム二次電池用電極の一態様は、オリビン構造を有する遷移金属化合物を主たる電極活物質とする。リチウム二次電池用電極の電極合剤に含まれる結着剤が、電解質イオンを吸蔵することにより高い電子伝導性を示す高分子材料であり、電極合剤の密度が、1.8g/cm以上である。結着剤として高い電子伝導性を示す高分子材料を用いることにより、導電化剤として活物質の粒子間に浸透し、複合化する。加えて、活物質の粒子間のみならず集電体表面との結着における密着性を向上させる。さらに本高分子材料は、電解質イオンと可逆なドーピング、脱ドーピングによりそれ自身も活物質としてエネルギーを蓄えることができる。これにより電極合剤の導電性を向上させ、電極としての出力特性、集電性能、エネルギー密度を高めるとともに、電極合成剤層の厚膜化を可能とし、その結果、リチウム二次電池用電極の実装エネルギー密度を向上させることができる。
【0013】
オリビン型結晶構造を有する遷移金属化合物粒子は、一次粒子により二次粒子を形成して多数の空間が存在しているため、この空孔に他の活物質を充填することができれば、電極としての密度及びエネルギー密度を向上させることができる。
上述した電解質イオンを吸蔵することにより高い電子伝導性を示す高分子材料が、酸化又は還元状態で水又は有機溶媒に溶解及び/または均一に分散することが好ましい。当該高分子材料は結着剤として溶解及び/または均一に分散して使用することが望ましく、活物質の粒子間に均一に浸透し、これにより、電極合剤の密着性、密度を向上させることができる。
さらに、上述した電極合剤をリチウム二次電池用電極の正極として用いる場合、リチウム遷移金属化合物が鉄及びリンを含有するリチウム複合酸化物であって、正極の充電時の電気化学的電位が、高分子材料の最も貴側の酸化還元電位に対し卑であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るリチウム二次電池用電極において、電極合剤が導電助剤として導電性を有する炭素又は金属酸化物を電極合剤層の5重量%以下の範囲内で含有することが好ましい。導電助剤を適切量含有することにより、電極合剤層の導電性を向上させることができる。また、本発明に係るリチウムイオン二次電池の一態様は、上述したオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物を主たる活物質とする電極合剤が、厚みが100μm以上の電極合剤層として集電体シート上に形成したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エネルギー密度、実装エネルギー密度が高くサイクル特性に優れ、電位平坦性の高い高エネルギー密度電極および当該電極を用いた二次電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明のリチウム二次電池用電極合剤の一態様は、オリビン構造を有する遷移金属化合物(1)を主たる電極活物質とする。当該電極合剤の結着剤に電解質イオンを吸蔵することにより高い電子伝導性を示す高分子材料(2)を用いるものである。
【0017】
まず、本発明に係るリチウム二次電池用電極の電極合剤(活物質、バインダー、導電助剤等)について説明する。
[活物質:オリビン構造を有する遷移金属化合物]
本発明に使用されるオリビン構造を有する遷移金属化合物(1)とは、LiFePO、LiCoPO、LiVPO、LiVPOF、LiMnPO、LiNiVO、LiFeP、LiTePO、LiMnSiO、LiMnSiO、Li(PO、LiFeSiO、LiMnBO、LiFeBOが挙げられるが、一般式LiFe1−yC(0≦x、y≦1)で現わされる化合物が好適であり、特に、xは0.9以上、yは0.9≦y≦1.0が好適である。一般式において、"B"はCo、Mn、Ni、Te、Mo、Cu、Crなどから選ばれる。また、"C"はPO、SiO、VO、BOで表される。さらに、本発明におけるバインダーとのマッチング性能からはLiFePO、LiFe1−yPOが特に好ましい。遷移金属化合物(1)は、粒子の製造工程において導電化剤と複合体を形成したもの、あるいは表面を金属酸化物、カーボン等で導電性コーティングされたものであってもよい。
【0018】
[バインダー:電解質イオンを吸蔵することにより高い電子伝導性を示す高分子材料]
本発明におけるバインダーである、電解質イオンを吸蔵することにより高い電子伝導性を示す高分子材料(2)とは、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセンなど、電子電導性が発現する高分子材料、ポリジフェニルベンジジン、ポリビニルカルバゾール、ポリトリフェニルアミンなどのRedox活性導電性高分子材料を挙げることができる。
【0019】
(バインダーの導電性)
これらの電子電導性高分子材料は、ドナーあるいはアクセプターと錯体を形成することにより高い電気伝導性を発現するが、本発明におけるバインダーとしてはこれにより1S/cm以上の電気伝導度を有することが望ましい。またポリマー内の高いイオンの拡散性も要求される。これらの高分子は、導電性が高く集電能を有し、高分子として集電体への結着性能に優れる他、さらには活物質としての機能も有することが好ましい。これらの中でも汎用非水電解液中で、比較的安定に充放電を行うことのできる点で正極バインダーにはポリピロール、ポリアニリンあるいはこれらの誘導体体など電子親和性が高いπ電子共役系高分子が好ましい。またポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンあるいはこれらの誘導体などイオン化ポテンシャルの高いπ電子共役系高分子は負極バインダーとしても好適である。例えば正極合剤の活物質にオリビン構造のリン酸鉄リチウムをポリアニリンを結着剤とした電池系では充電により電解液中の支持電解質アニオンがポリアニリンにドーピングされると同時に、リン酸鉄リチウムのリチウムイオンはデインターカレートとして負極に移動し、結着剤と活物質に同時にエネルギーが蓄積される。この反応は可逆に進行するため放電では、リン酸鉄にリチウムイオンがインターカレートすると同時にポリアニリンからはアニオンが脱ドーピングして結着剤の導電性は低下する。
【0020】
これらの高分子の内、特に正極バインダーに用いられる電子親和性が高い高分子は、外部回路を通して電子の移動がなくても脱ドープ状態から電解質アニオンの能動的ドーピングが起こり、安定的に導電性状態になる。
これらの高分子の中でも、特に可溶性または溶融性高分子では分散性に優れた高分子がバインダーとして好適である。正極バインダーとしては、還元型ポリアニリン、2又は5位をアルキル化したポリピロール、ドーパントにスチレンアルキルスルフォン酸をドープしたポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが挙げられる。
【0021】
バインダーとオリビン構造を有する遷移金属化合物との組み合わせは極めて重要で、コバルト酸リチウムやスピネル二酸化マンガンとポリアニリンのコンポジットでは動作が難しく、これはバインダーであるポリアニリンとこれらの無機活物質との酸化還元電位の違いによるものと考えられるが詳しいことは不明である。
【0022】
(バインダーの密着性、密度)
オリビン構造を有する粉体は二次粒子の多数の空間が多く密度の向上が難しかったが、本発明によりバインダーは導電化剤として均一に浸透し、複合化ができると共にバインダーとして、活物質の粒子間のみならず集電体表面との結着においても極めて高い密着性が得られる。従来使用されているPVdF、水系結着剤として使われるSBR(スチレンブタジエンゴム)エマルジョンでは従来アルミニウム集電体への密着性は十分とは言えないが、本発明では極めて高い密着性が得られる。
その結果、合剤層のプレス後の厚膜が60ミクロン以上であっても90度の折曲げ試験で剥離することがない。さらに従来の電極膜の密度に対して充放電後の密度は2.0g/cm以上で従来の体積エネルギー密度を10%以上向上せしめることができる。またバインダーである高分子材料(2)も充放電に寄与するため、電極そのもののエネルギー密度の向上にもつながる。
合剤層密度は例えばリン酸鉄リチウムの場合、リン酸鉄リチウム自身の密度が2.7g/cmであるため、それ超えることはないが、1.8g/cm以下では従来技術のエネルギー密度を超えることはできず、特に大型電池では、実装密度を向上させるためには2.0g/cm以上の密度が好ましい。
【0023】
[導電助剤]
正極合剤成分として導電助剤を添加することができる。導電助剤としてはアセチレンブラック、アニリンブラック、活性炭、ケッチェンブラック、グラファイト粉末などの導電性炭素粉末、ポリアクリロニトリル、ピッチ、セルロース、フェノールなどの樹脂原料を出発原料とした炭素体、炭素繊維の他、Ti、Sn、Inなどの金属酸化物粉末、ステンレス、ニッケルなどの金属粉末・繊維が挙げられる。これらの導電助剤に要求される特性として高い電気伝導度に加え少ない添加量での効果が要求される。一般に電極合剤には導電助剤が5〜8重量%(wt%)程度添加されるが、オリビン構造を有する遷移金属化合物では多く添加する必要があり、特にカーボン助剤は嵩密度が高く電極の密着強度を低下させたり、またエネルギー蓄積に直接寄与しないためエネルギー密度の低下を招く。これに対して、本発明では基本的な電池動作には導電助剤を必要とせず、バインダー高分子が導電性を付与するため、導電助剤を添加する場合、その添加量は最小限にとどめることができる。即ち、エネルギー密度の低下を極力抑制しつつ電極の出力特性の向上には1〜5重量%以下の添加量が好ましい。さらに好ましくは2〜4重量%以下である。
【0024】
[その他]
本発明の正極合剤中における高分子材料(2)の量は1重量%以上、20重量%未満である。さらに好ましくは3重量%以上、10重量%未満である。1重量%未満では、結着力、導電性ともに効果を期待することは難しく、本発明を達成するものではない。また、他の結着剤をブレンドすることで電極としての密着性は保管できるが、それ以外の効果はない。一方、高分子材料(2)の量が20重量%以上では、電極密度は1.8g/cm未満となり、オリビン構造の高い体積エネルギー密度を活かすことが困難である。
正極合剤層の厚みとしては60μm以上、300μm未満、さらに好ましくは100μm以上、200μm未満である。100μm未満では大型電池の実装エネルギー密度の向上に不利である500μm以上では密着性を維持することは難しく集電効率の点でも不利である。
【0025】
上述したように、本発明のリチウム二次電池用電極によれば、オリビン構造を有する遷移金属化合物を主たる粒子状活物質とする合剤電極層の集電体への密着性、密度向上を向上させると共に、高い集電性を付与することができる。これにより、ハイレートの放電においてもリチウム二次電池用電極のエネルギー密度を向上させることができる。
【0026】
次に、上述したリチウム二次電池用電極を用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
このようにして得られた電極を使用し、二次電池の他の要素としては電解質、セパレーターなどの要素を組み合わせることにより二次電池を組むことができる。
セパレーターとしては、紙、ポリプロピレン、ポリエチレン、ガラス、セラミックなどの多孔質膜、あるいは繊維の織布あるいは不織布などを用いることができる。また、セパレーターに代わる構成要素として固体電解質を用いることもできるが、正・負極を隔離する目的で必要に応じて使用されるものであって、これらに限定されるものではない。
【0027】
電解液は溶媒に支持電解質を溶解したものである。
これらの非水系有機溶媒は、一般に用いられる電解液を用いることができるがこれに限定されるものではない。溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。中でも、誘電率が大きく、電気化学的安定で電位窓が広く、また使用温度範囲が広く、且つ安全性に優れるものが好ましい。
【0028】
有機溶媒の具体例としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、3−メチル−1,3−オキサゾリン−2−オン等のラクトン類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン等のアミド類;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、スチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類又はこれらの各種有機溶媒の水素原子やアルキル基がフルオロアルキル基に置換されたフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0029】
支持電解質塩としては、リチウム塩が挙げられ、リチウム電池又はリチウムイオン電池の作動電圧範囲で安定なリチウム塩であれば、特に制限はない。
本発明で用いられるリチウム塩として、具体的には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiN(SOCF)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)アミド(LiN(SO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)が挙げられる。
これらのリチウム塩は、1種単独で用いることも、2種以上混合して用いることもできる。
【0030】
非水電解液が使用されている現在のリチウム電池システムは電解液が可燃性液体であることから、難燃化剤、イオン液体の利用もある。またポリマー電解質は無機系ではNASICON、LISICONなどのイオン電導性ガラスの他、最近ではLiS−PS系ガラスセラミックスのリチウムイオン伝導体が10ジーメンスの伝導度を記録している。
【0031】
上述したオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物(1)を主たる活物質とする電極合剤を、厚みが60μm以上の電極合剤層として集電体シート上に形成することによって、エネルギー密度、実装エネルギー密度が高くサイクル特性に優れ、電位平坦性の高い高エネルギー密度電極を有する大型リチウムイオン二次電池を提供することができる。ここで、大型リチウムイオン二次電池とは、例えば、電力の貯蔵、自動車(電気自動車、ハイブリット自動車など)、ノート型のコンピュータなどに用いられるリチウムイオン二次電池が含まれる。
【0032】
なお、本発明の電極は特に正極材料として有利であるがこれに限定されるものではない。負極材料としてはオリビン構造を有する遷移金属のほか、炭素負材料、金属酸化物などの負極が例示できる。例えば炭素材料としては、ピッチ、コークス、石炭などの天然炭化物あるいは、これらの焼成体、合成高分子、天然高分子の焼成体である炭素体、グラファイトなどが挙げられる。ケイ素、スズ、チタン(Li4+zTi12)などの酸化物も負極材料として優れる。しかし本発明において負極はコスト等の面からも炭素あるいはシリコン負極が好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例と比較例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。
−正極の作製−
実施例及び比較例の正極合成剤層電極の構成を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例1]
(バインダー合成例)
300mLナスフラスコに蒸留して精製した5mL(55mmol)のアニリン、100mLの1MHSOを加え、食塩水を入れた氷浴で0℃以下に冷やした。50mLの0.25M(NHを1時間かけてゆっくり滴下した後終夜攪拌した。得られた緑色の沈殿をろ過し、1MHSO、水、メタノールでよく洗浄し、硫酸アニオンがドープされたポリアニリン3.24g得た。試薬はすべて和光純薬株式会社製のものを使用した。
硫酸アニオンがドープされたポリアニリンを5wt%ヒドラジン−メタノール溶液に加え、窒素雰囲気下で終夜攪拌した。得られた紫色粉末をろ過し、メタノールでよく洗浄した後、80℃で加熱真空乾燥し、白色の還元されたポリアニリン2.11g得た。還元されたポリアニリンは乾燥後すぐに不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内に保管した。
【0036】
(実施例正極の作製)
バインダー合成例で合成したポリアニリン20重量部を80重量部のN−メチルピロリドン(以下、NMPとも称する)に溶解したバインダー溶液に正極活物質としてリン酸鉄リチウムLiFePO(住友大阪セメント株式会社製)81重量部を分散してペースト状にし、NMPを適当量加え粘度調整した後、幅10cm、長さ30cm、厚み20μmのアルミ箔(日本蓄電器工業株式会社製)にブレードコーターを用いて所定の厚みで塗布し、100℃のオーブンで10分間乾燥した後、110℃でさらに10分乾燥、減圧下85℃で12時間放置させ、100kgf・cmの圧力で1軸プレスを行った後、不活性ガス雰囲気下で保存し、トムソン刃で14mmφの円盤上に打ち抜いた。実施例1では、活物質(オリビン型リン酸鉄リチウム):バインダーの割合は、81:19であり、導電助剤(カーボン助剤)を添加しなかった。
【0037】
(負極の作製)
負極活物質としてグラファイト(日本黒鉛株式会社製)と、バインダーとして平均分子量が60万〜70万のPVdF(株式会社クレハ製)と、塗工溶媒としてN−メチルピロリドンを、負極活物質:バインダー:NMP所定の割合(質量比率、但しバインダーは固形分換算)で混合してペースト状にし、幅10cm長さ30cmの銅箔(福田金属箔株式会社製)に所定の厚みで塗布し、80℃のオーブンで10分間乾燥した後、100℃でさらに10分乾燥、減圧下85℃で12時間放置させ、1軸プレスを行った後、不活性ガス雰囲気下で保存し、トムソン刃で16mmφの円盤上に打ち抜いた。
【0038】
(非水電解液の調製)
ジエチルカーボネート:エチレンカーボネート=1:1の混合液1リットルに対しLiPFが1モルの割合で溶解したものを非水電解液とした。
【0039】
(リチウムイオン二次電池の作製)
不活性雰囲気下で2極式簡易型評価セル(東洋システム株式会社製)に16mmφの大きさに打ち抜いた負極金属リチウム(本城金属株式会社製)、ポリオレフィン系セパレーター(セルガード株式会社製)、複合正極という順番で重ね合わせ、電解液として用いた。
【0040】
[実施例2]
活物質、バインダー及び導電助剤として、(オリビン型リン酸鉄リチウム):(化学重合で合成したポリアニリン):(アセチレンブラック)の重量比が85:10:5になるように塗料を調整した以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0041】
[実施例3]
活物質、バインダー及び導電助剤として、(オリビン型リン酸鉄リチウム):(化学重合で合成したポリアニリン):(アセチレンブラック)の重量比が90:6:4になるように塗料を調整した以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0042】
[実施例4]
活物質、バインダー及び導電助剤として、(オリビン型リン酸鉄リチウム):(化学重合で合成したポリアニリン):(アセチレンブラック)の重量比が92:5:3になるように塗料を調整した以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0043】
[実施例5]
活物質、バインダー及び導電助剤として、(オリビン型リン酸鉄リチウム):(化学重合で合成したポリピロール−ポリスチレンスルホン酸):(アセチレンブラック)の重量比が85:10:5になるようにバインダーのN−メチルピロリドン溶液に分散した以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0044】
[比較例1]
(比較例1の正極の作製)
平均分子量が60万〜70万のPVdF(株式会社クレハ製)10重量部を塗工溶媒としてN−メチルピロリドン90重量部に溶解し、正極活物質としてリン酸鉄リチウムLiFePO(住友大阪セメント株式会社製)と、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)と、PVdFが、88:6:6の割合(質量比率、但しバインダーは固形分換算)で混合してペースト状にし、NMPを適当量加え粘度調整した後、幅10cm長さ30cm、厚み20μmのアルミ箔(日本蓄電器工業株式会社製)に所定の厚みで塗布し、100℃のオーブンで10分間乾燥した後、110℃でさらに10分乾燥、減圧下85℃で12時間放置させ、100kgf・cmの圧力で1軸プレスを行った後、不活性ガス雰囲気下で保存し、トムソン刃で14mmφの円盤上に打ち抜いた。上述した正極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0045】
[比較例2]
平均分子量が60万〜70万のPVdF(株式会社クレハ製)10重量部を塗工溶媒としてN−メチルピロリドン90重量部に溶解し、正極活物質としてリン酸鉄リチウムLiFePO(住友大阪セメント株式会社製)と、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)と、PVdFが、84:8:8の割合にした以外は比較例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0046】
−正極の評価−
充放電試験測定方法は、北斗電工株式会社製HJ−1005SH8A充放電測定装置を用い、まず、充電方向に0.2の電流で電池電圧が3.9Vになるまで充電し、10分間の休止後、0.2の電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電し、10分間休止した。以下所定の電流値で充放電の繰り返しを行い、電池特性を評価した。この時それぞれの初期特性データは、5サイクル目のデータとし、複合化した電極トータルの容量として、電極全体の活物質及び不活物質(結着剤や導電助剤)の重量から放電容量を計算した。エネルギー容量、体積エネルギー密度、重量エネルギー密度、出力特性、ショート時、加熱時のシャットダウン特性、サイクル特性(100サイクル後の容量)を調べた。
【0047】
表1に示すリチウムイオン二次電池それぞれの評価結果を表2に記載した。
【表2】

【0048】
表2には次の項目を示している。
・密着性:90度折り曲げ試験
◎:亀裂・剥がれなし、○:折り目部分に亀裂、
△:折り目に部分剥がれ、×:折り目部周辺まで剥がれ
・エネルギー密度:
0.2Cで充電後、0.2C、1C、3C、5Cの各レートで放電した時の容量
・100サイクル後のエネルギー容量:
100サイクル充放電後の初期容量に対する容量比
・ショートテスト:外部回路で短絡したときの変化
◎:全く変化なし、再利用可能、
○:外観・温度変化なし、容量劣化50%以内、
△:外観変化なし、使用不可、
×:外観変化あり・温度上昇あり、使用不可
・オリビン鉄重量エネルギー密度(mAh/g):
オリビン構造化合物の発現エネルギー密度(活物質比換算)
【0049】
以上説明した通り、本発明に関わるオリビン型構造を有するリン含有酸化物は、低コストで環境負荷が小さく製造でき、これを正極活物質として用いた二次電池は、電流負荷特性においても高容量が得られる。また、電解質イオンを吸蔵することにより高い電子伝導性を示す高分子材料を結着剤として用いることにより、導電性が向上し且つ高速充放電用正極材料としても使える。
【0050】
なお、本発明は上記に示す実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲において、上記実施形態の各要素を、当業者であれば容易に考えうる内容に変更、追加、変換することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン構造を有する遷移金属化合物を主たる電極活物質とするリチウム二次電池用電極であって、
電極合剤に含まれる結着剤が、電解質イオンを吸蔵することにより高い電子伝導性を示す高分子材料であり、
前記電極合剤の密度が、1.8g/cm以上であるリチウム二次電池用電極。
【請求項2】
前記電極合剤が導電助剤として導電性を有する炭素又は金属酸化物を電極合剤層の5重量%以下の範囲内で含有することを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項3】
前記高分子材料が、酸化又は還元状態で水又は有機溶媒に溶解及び/または均一に分散することを特徴とする請求項1または2記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項4】
当該リチウム二次電池用電極が正極であり、
前記リチウム遷移金属化合物が鉄及びリンを含有するリチウム複合酸化物であって、前記正極の充電時の電気化学的電位が、前記高分子材料の最も貴側の酸化還元電位に対し卑であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のオリビン構造を有するリチウム遷移金属化合物を主たる活物質とする電極合剤が、厚みが60μm以上の電極合剤層として集電体シート上に形成されたリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2012−204278(P2012−204278A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70050(P2011−70050)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【Fターム(参考)】