説明

リチウム二次電池電極用導電助剤、それを用いたリチウム二次電池電極用導電助剤分散液およびリチウム二次電池用正極。

【課題】本発明は、優れた性能を発揮できるリチウムイオン電池電極用導電助剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、1次径が10nm〜200nmである多層カーボンナノチューブと極性ポリチオフェンからなる重合体コンポジットであり、該多層カーボンナノチューブの重量比が極性ポリチオフェンに対して100wt%〜500wt%であることを特徴とするリチウム二次電池電極用導電助剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性ポリチオフェンと多層カーボンナノチューブからなるリチウム二次電池電極用導電助剤及びこれを含有するリチウム二次電池電極用導電助剤分散液およびリチウム二次電池用正極に関するものである。より詳しくは、リチウム二次電池用正極に高導電性を提供しうる特定構造の多層カーボンナノチューブに、特定量の極性ポリチオフェンを複合化させることで高い分散性を付与し、優れたリチウム二次電池電極用導電助剤及び高容量・高出力なリチウム二次電池用正極を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、従来のニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べて、高電圧・高エネルギー密度が得られる電池として小型・軽量化が図れることから、携帯電話やラップトップパソコンなど情報関連のモバイル通信電子機器に広く用いられている。今後更に環境問題を解決する一つの手段として電気自動車・ハイブリッド電気自動車などに搭載する車載用途あるいは電動工具などの産業用途に利用拡大が進むと見られている一方、リチウム二次電池の更なる高容量化と高出力化が切望されている。
【0003】
リチウム二次電池は少なくともリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な活物質を有する正極と負極、そして正極と負極を隔絶するセパレータを容器内に配置し、非水電解液を充填して構成されている。
【0004】
正極はアルミニウム等の金属箔集電体に活物質、導電助剤および結着剤を含有する電極剤を塗布し加圧成形したものである。一般的に正極の活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)などに代表されるリチウムと遷移金属の複合酸化物(以後、リチウム金属酸化物と称することがある。)の粉体が用いられているほか、V等の金属酸化物やTiS、MoS、NbSeなどの金属化合物等も利用されているが、特にリチウム金属酸化物は小型電池としての性能は優れている一方、クラーク数の低い、いわゆるレアアースを含有していて、コスト面や安定供給面から避けられる傾向にあり、特に近年では資源的に豊富で安価な材料である鉄を含有したリン酸鉄リチウム(LiFePO)等が開発・利用され始めている。
【0005】
また負極は銅などの金属箔集電体に、正極同様に活物質や導電助剤および結着剤を含有する電極剤を塗布し加圧成形したものであり、一般に負極の活物質としては、金属リチウムやLi−Al合金等のリチウム合金、SiOやSiC、SiOC等を基本構成元素とするケイ素化合物、ポリアセチレンやポリピロール等のリチウムをドープした導電性高分子、リチウムイオンを結晶中に取り込んだ層間化合物や天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボンなどの炭素材料等が用いられている。
【0006】
これら正極・負極の構成における導電助剤の役割は活物質から集電体までの効率の良い導電パスを得ることにあり、リチウム二次電池(以下、リチウムイオン電池という場合がある。)用電極には欠かすことのできない構成材料である。
【0007】
しかしながら、導電助剤の含有率が多いと、電極重量あたりの電池容量は下がるため、できる限り導電助剤の量は少ない方が良く、より少ない量で導電性が確保できる高導電性の導電助剤が求められている。
【0008】
また、近年例えばオリビン系の正極活物質など、高容量にもかかわらず、導電性が低いために実用化にいたっていない活物質が数多く検討されており、この点でも高導電性の導電助剤が求められている。
【0009】
導電助剤として従来用いられている材料としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられる。これらは安価な上に適度な分散性を持つが、結晶性が低いため導電率はグラファイトなどよりも低く、多量に添加する必要がある。
【0010】
そこで、導電助剤としてカーボンナノチューブを導入することが試みられている(特許文献1など)。
【0011】
カーボンナノチューブとはナノメートルスケールの直径を持つ炭素繊維であり、優れた機械特性、導電性を持つことが知られている。カーボンナノチューブのポテンシャルを引き出し導電助剤として利用できれば高容量・高出力のリチウムイオン電池電極を作製できる可能性がある。
【0012】
また、カーボンナノチューブを導電材として用いるにあたり、ポリチオフェンとカーボンナノチューブを複合化している例としては、透明電極用の導電材として利用している例(特許文献2)や、有機FET用の導電材として利用している例(特許文献3、4)、水溶性導電性ポリマーと多層カーボンナノチューブを複合化して水溶化している例(特許文献5)などが開示されている。
【0013】
また、リチウムイオン電池用としてポリチオフェンと多層カーボンナノチューブを複合化している例としては、正極活物質として用いている例(特許文献6)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第2513418号公報
【特許文献2】特開2008−103329号公報
【特許文献3】特開2010−18696号公報
【特許文献4】特開2011−126727号公報
【特許文献5】特開2009−245903号公報
【特許文献6】特許第3913208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のとおり、リチウム二次電池の導電助剤としてカーボンナノチューブを導入することが試みられている(特許文献1など)。しかしながら、カーボンナノチューブは表面積が大きく分子間力により非常に凝集しやすく、凝集した導電助剤は電池電極内で導電パスを作ることが難しいため、カーボンナノチューブの導電助剤に用いても効果は不十分であることを発明者らは見出した。
【0016】
そこで、カーボンナノチューブをリチウムイオン電池電極用導電助剤として適用するには、分散性を向上する添加剤が必要であると考えた。
【0017】
ここで、特許文献2〜6では、ポリチオフェンを利用して分散している例がある。この手法はカーボンナノチューブの導電性を確保しつつ分散性向上することが可能であり、導電助剤としてのポテンシャルを引き出す手法として非常に有力な手法であると考えた。
【0018】
しかしながら、特許文献2〜6はいずれも10nm未満の径のカーボンナノチューブを扱っており、このような細径のカーボンナノチューブは、比表面積が大きいため実際にはポリチオフェンが多量に必要となる。そうすると、カーボンナノチューブの比が小さくなり、リチウムイオン電池電極用導電助剤としては実用には適さないものであった。
【0019】
本発明は特定構造の多層カーボンナノチューブ及び特定量の極性ポリチオフェンを複合化し、優れた性能を発揮できるリチウムイオン電池電極用導電助剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明では、高極性の溶媒に可溶化するために極性ポリチオフェンを利用する。さらに適した径を有するカーボンナノチューブ選択することで優れた導電助剤として機能するカーボンナノチューブ/ポリチオフェン複合コンポジットを与える。
【0021】
すなわち本発明は
(1)1次径が10nm〜200nmである多層カーボンナノチューブと極性ポリチオフェンからなる重合体コンポジットであり、該多層カーボンナノチューブの重量比が極性ポリチオフェンに対して100wt%〜500wt%であることを特徴とするリチウム二次電池電極用導電助剤。
(2)該多層カーボンナノチューブの1次径が50nm〜150nmである、(1)記載のリチウム二次電池電極用導電助剤。
(3)該多層カーボンナノチューブの重量比が極性ポリチオフェンに対して200wt%〜400wt%である(1)又は(2)記載のリチウム二次電池電極用導電助剤。
(4) 該極性ポリチオフェンがN-メチルピロリドン又はγ-チロラクトン又はジメチルアセトアミド又は水に重量濃度1%以上の溶解性がある(1)〜(3)のいずれかに記載のリチウム二次電池電極用導電助剤。
(5)(1)〜(4)ののいずれかに記載のリチウム二次電池電極用導電助剤をN-メチルピロリドン又はγ-ブチロラクトン又はジメチルアセトアミド又は水に分散したリチウム二次電池電極用導電助剤分散液。
(6)正極活物質とバインダーポリマーと導電助剤とを含有するリチウム二次電池用正極であり、該導電助剤の少なくとも一部に、(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウム二次電池電極用導電助剤を含むことを特徴とするリチウム二次電池用正極。
である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特定構造の多層カーボンナノチューブ及び特定量の極性ポリチオフェンを複合化することにより、優れた性能を発揮できるリチウムイオン電池電極用導電助剤を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で用いる多層カーボンナノチューブは直径10nm〜200nmの繊維状炭素であり、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた構造を持つ。CNTは、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等により得ることができる。
多層カーボンナノチューブの導電性(体積抵抗率)は1.0[Ω・cm]以下のものが好ましく用いられ、1.0×10−1[Ω・cm]がさらに好ましく、1.0×10-6[Ω・cm]〜1.0×10−2[Ω・cm]であることが特に好ましい。体積抵抗率の低いものほど導電助剤としての性能は高い。
【0024】
本発明に用いる多層カーボンナノチューブの1次径は10nm〜200nmであるが、50nm〜150nmの多層カーボンナノチューブが好ましく用いられる。多層カーボンナノチューブはリチウムイオン電池電極用導電助剤としては、従来のケッチェンブラックやアセチレンブラックと比較すると重量あたりの個数が多く、導電パスが得やすい。重量あたりの個数という観点では多層カーボンナノチューブの1次径が低いほど導電パスが得やすい。
【0025】
しかしながら1次径が小さすぎると非常に凝集しやすくなり、電極作製上問題が発生しやすい。また、後述する重合体コンポジットを作製する上でも、1次径が大きいほど少ない極性ポリチオフェンの量で分散力を向上することが可能である。1次径が10nm以下であると凝集が顕著であり、必要になる極性ポリチオフェン量も多くなるため導電助剤としての適用は難しい。また、1次径が200nm以上であると重量あたりの個数が少なくなり導電助剤として適さない。ここで言う1次径とは多層カーボンナノチューブの単糸の直径である。
【0026】
多層カーボンナノチューブの単糸の直径は、電子顕微鏡により測定することが可能である。電子顕微鏡により、多層カーボンナノチューブを10万倍から20万倍の倍率で観察し、ランダムに100箇所選んで直径を測長し、個数平均を取ることで多層カーボンナノチューブの単糸の直径を決定できる。
【0027】
多層カーボンナノチューブの長さについては特に限定されるものではないが、パスを形成するには長いことが好ましく、個数を多くするという点では短い方が良い。カーボンナノチューブとしては一般的には0.1μmから3μm程度のものが市販されており、これらの長さであれば問題なく用いることができる。
【0028】
多層カーボンナノチューブは10nm以下の薄層カーボンナノチューブと比べて安価であり電池電極用導電助剤としての実用性は高く、本発明により高い分散性を付与することで、安価に高導電性の導電助剤を提供することができるようになる。
【0029】
本発明における極性ポリチオフェンとはポリチオフェン側鎖に極性基が含まれているものを指し、下記一般式(1)で表される。
【0030】
【化1】

【0031】
Rは極性基が含まれる側鎖である。3位又は4位、のいずれでも良く、両方が置換されていても良い。極性基としては、酸性基であってもよく、エーテル構造・アセチル構造・ケトン構造を含むのであっても良い。
【0032】
たとえば酸性基としてはスルホン酸基・水酸基・カルボン酸基などがあげられる。エーテル構造を含むものとしては、メトキシ基、エトキシ基、n − プロポキシ基、などのアルコキシ基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、n−プロポキシエチル基などのアルコキシアルキル基、エーテル構造が複数あるメトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基などが挙げられる。アセチル構造又はケトン構造を含むものとしては、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基などが挙げられる。
【0033】
特に、N-メチルピロリドン、γブチロラクトン、ジメチルアセトアミドなど電池ペースト用極性溶剤に溶解性が高いと好ましく、1%以上の溶解性があることが好ましい。
【0034】
極性ポリチオフェンの分子量は特に限定されるものではないが、好ましい分子量は重量平均分子量で800〜100000である。
【0035】
本発明で用いられる共役系重合体の合成には、公知の方法を使用することができる。たとえば重合性官能基を二つ有するモノマー同士を反応させる方法、異なる二つの重合性官能基を有するモノマー同士を鉄またはニッケル触媒下で反応させる方法が挙げられる。
【0036】
また、本発明で用いられる共役系重合体の不純物を除去する方法は特に限定されないが、基本的には合成過程で使用した原料や副生成物を除去する生成工程であり、再沈殿法、ソクスレー抽出法、ろ過法、イオン交換法、キレート法などを用いることができる。中でも低分子量成分を除去する場合には、再沈殿法、ソクスレー抽出法が好ましく用いられる。これらの方法を2種以上組み合わせてもよい。
【0037】
本発明における重合体コンポジットとは、上記多層カーボンナノチューブと極性ポリチオフェンが複合化したものを指し、多層カーボンナノチューブの表面の一部、あるいは全部を極性ポリチオフェンが被覆した状態になっているものを指す。
【0038】
多層カーボンナノチューブと極性ポリチオフェンは主に、カーボンナノチューブ表面のグラファイト構造の芳香環とチオフェン環それぞれの共役系構造に由来するπ-π相互作用及び、分子間力による相互作用により被覆することができていると推測される。
【0039】
複合体とする手法は特に限定されないが、(I)溶融した極性ポリチオフェン中に多層カーボンナノチューブとを添加して混合する方法、(II)極性ポリチオフェンを溶媒中に溶解させ、この中に多層カーボンナノチューブとを添加して混合する方法、(III)多層カーボンナノチューブをあらかじめ超音波等で予備分散させておき、そこへ共役系重合体を添加し混合する方法、(IV)溶媒中に極性ポリチオフェンと多層カーボンナノチューブをいれ、この混合系へ超音波を照射して混合する方法などが挙げられる。本発明では、いずれの方法を用いてもよく、いずれかの方法を組み合わせてもよいが、効率よく複合化するという観点では(IV)の方法が好ましい。
【0040】
極性ポリチオフェンと多層カーボンナノチューブを複合化させる際に用いる溶媒としては、極性ポリチオフェンの溶解性が高いものが好ましく、極性ポリチオフェンの溶解度が1wt%を超えるものがより好ましい。複合化するには極性ポリチオフェンと多層カーボンナノチューブの入った分散液を超音波分散器によって処理することで好ましく分散することができる。超音波分散器としては、分散液に直接エネルギーを加えることのできる超音波ホモジェナイザーが好ましい。
【0041】
本発明における多層カーボンナノチューブの重量比は極性ポリチオフェンに対して100wt%〜500wt%であり、より好ましくは200wt%〜400wt%である。電極導電助剤として用いるので、多層カーボンナノチューブの重量比が少なすぎると、極性ポリチオフェンを多量に電極に入れ込むことになり、電極の接着性低下の問題が生じる。また、多層カーボンナノチューブの重量比が多すぎると、極性溶媒に対する分散力が低下し、電極中のカーボンナノチューブの分散が悪くなる。
【0042】
繊維径10nm以下の薄層カーボンナノチューブと比較して繊維径10nm〜200nm多層カーボンナノチューブは相対的に表面積が少ないため、極性ポリチオフェンに対するカーボンナノチューブの重量比を高くすることができる。具体的には重量比500wt%以下の比率に選択して重合体コンポジットを作製することで、極性溶媒中で分散することが可能になる。カーボンナノチューブの重量比がポリチオフェンに対して500wt%以上であると、分散力が向上できず、電極ペーストとしたときにカーボンナノチューブが凝集してしまい、導電助剤としての性能が発揮できない。
【0043】
また、カーボンナノチューブの重量比をポリチオフェンに対して100wt%以下にすると、ポリチオフェンの比率が多く、カーボンナノチューブの導電特性を阻害してしまう。カーボンナノチューブの重量比をポリチオフェンに対して100wt%以上にすることで、カーボンナノチューブの優れた導電特性を阻害せずに導電助剤として活用できるようになる。
【0044】
このように、カーボンナノチューブの重量比がポリチオフェンに対して100wt%以上500wt%以下に選択することにより太径のカーボンナノチューブの優れた導電特性を維持したまま、電池電極用極性溶剤に分散できる。
【0045】
上記重合体コンポジットは、電極活物質とバインダーポリマーと導電助剤と混合し正極または負極として用いられる。
【0046】
正極活物質としては、特に限定はされないが、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)などのリチウム金属酸化物系、V等の金属酸化物やTiS、MoS、NbSeなどの金属化合物系、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウムなどのオリビン系などが上げられる。
【0047】
負極活物質としては、特に限定されないが、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボンなどの炭素系材料、SiOやSiC、SiOC等を基本構成元素とするケイ素化合物、リチウムイオンとコンバージョン反応しうる酸化マンガン(MnO)や酸化コバルト(CoO)などの金属酸化物などがあげられる。
【0048】
パインダーポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴムから選択することができる。
【0049】
導電助剤は本発明の重合体コンポジットのみでもよいし他に添加しても良く、他に添加する導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維及び金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウム及び銀等の金属粉末類などが挙げられる。
【0050】
リチウムイオン電池電極用ペースト溶剤には、多くの場合N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、水などの極性溶剤が用いられる。本発明では、これらの溶剤への溶解性を持ち、かつカーボンナノチューブとの複合化が可能なポリマーとして極性ポリチオフェンを用いる。極性ポリチオフェンは導電性ポリマーであり、カーボンナノチューブの優れた導電性を阻害することなく、極性溶剤への分散性を向上することが可能である。
【0051】
電極を作製する手法は特に限定されないが、上記バインダーポリマー、電極活物質、導電助剤、及び溶剤を各種分散・混練機で混練してペーストとし、集電体に塗布・乾燥することで作製する。
【0052】
分散・混練手法としては、自動乳鉢・三本ロール・ビーズミル・遊星ボールミル・自公転ミキサー・湿式ジェットミル・ホモジェナイザー・プラネタリーミキサーなどを利用した手法などが挙げられる。
【0053】
分散・混練して得られたペーストを集電体に塗布する手法としては、バーコータ・ドクターブレードによる塗布、スリットコーター、ダイコーター、ブレードコーターなどが挙げられる。
【0054】
上記重合体コンポジットは、分散液としても有用性が高く、リチウムイオン電池用電極ペースト混練工程中に、分散液のまま導入しても、良好な分散を得ることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。実施例中の物性値は、下記の方法によって測定した。
【0056】
A.粘度降伏値の測定法
ペーストの降伏値は、粘度計(レオテック社、型番RC20)を用いて測定した。プローブにはコーンプレート(C25-2)を用い、温度25℃の条件でせん断速度0〜500毎秒で30段階について、段階的にせん断速度を上げて各粘度を測定した。せん断速度とせん断応力についてカッソンプロットして、切片から降伏値を計算した。
【0057】
B.容量の測定法
直径16.1mm厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極とし、直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)セパレータとして、下記実施例で作製した電極を直径15.9mmにきりだして正極とし、電解液と電解液としてLiPFを1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3の溶媒を電解液として、2042型コイン電池を作製し、電気化学評価を行った。レート1C、上限電圧4.0V、下限電圧2.5Vで充放電測定を3回行い、三回目の放電時の容量を放電容量とした。
【0058】
[実施例1]
極性ポリチオフェンである、ポリ(チオフェン-3-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-2,5-ジイル]スルホン化物(シグマアルドリッチ社、品番699799、下記式参照)3重量部と、多層カーボンナノチューブ(1次径:65nm、保土谷化学社製MWNT)10重量部とを、N-メチル−2−ピロリドン(NMP)487重量部中で混合し、超音波分散機で30分間分散し、重量体コンポジット分散液を得た。
【0059】
このうちの重合体コンポジット分散液100重量部(うち、多層カーボンナノチューブ2重量部含有)と、電極活物質としてリン酸鉄リチウムを80重量部、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を8重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン(PVDF)10重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、4.5 Paであった。
【0060】
電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、150mAh/gであった。
【0061】
【化2】

【0062】
[実施例2]
極性ポリチオフェンの量を5重量部とした以外は実施例1と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、2.6 Paであった。
【0063】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、138mAh/gであった。
【0064】
[実施例3]
多層カーボンナノチューブの径を150nmとした(昭和電工社製、VGCF-H)以外は実施例1と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、3.2 Paであった。
【0065】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、153mAh/gであった。
【0066】
[実施例4]
極性ポリチオフェンの量を5重量部とした以外は実施例3と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、2.0 Paであった。
【0067】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、143mAh/gであった。
【0068】
[実施例5]
多層カーボンナノチューブの径を15nmとした(昭和電工社製、VGCF-X)以外は実施例1と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、9.5 Paであった。
【0069】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、131mAh/gであった。
【0070】
[実施例6]
極性ポリチオフェンの量を5重量部とした以外は実施例3と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、3.7 Paであった。
【0071】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、145mAh/gであった。
【0072】
[比較例1]
極性ポリチオフェンの量を1重量部とした以外は実施例1と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、253 Paであった。
【0073】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、110mAh/gであった。
【0074】
[比較例2]
極性ポリチオフェンの量を30重量部とした以外は実施例1と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、2.6 Paであった。
【0075】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、98mAh/gであった。
【0076】
[比較例3]
極性ポリチオフェンを用いずに、多層カーボンナノチューブ10重両部のみをN-メチル−2−ピロリドン487重量部中で分散した以外は、実施例1と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、546 Paであった。
【0077】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、95mAh/gであった。
【0078】
[比較例4]
多層カーボンナノチューブの径を5nmとした以外は実施例1と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、1501 Paであった。
【0079】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、111mAh/gであった。
【0080】
[比較例5]
多層カーボンナノチューブの径を300nmとした以外は実施例1と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、5.2 Paであった。
【0081】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、104mAh/gであった。
【0082】
実施例1〜4、比較例1〜5の条件と結果をまとめたものを表1に示す。
【0083】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の導電助剤はリチウム二次電池用電極を高容量化することできることから、高性能のリチウム二次電池製造に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次径が10nm〜200nmである多層カーボンナノチューブと極性ポリチオフェンからなる重合体コンポジットであり、該多層カーボンナノチューブの重量比が極性ポリチオフェンに対して100wt%〜500wt%であることを特徴とするリチウム二次電池電極用導電助剤。
【請求項2】
該多層カーボンナノチューブの1次径が50nm〜150nmである、請求項1記載のリチウム二次電池電極用導電助剤。
【請求項3】
該多層カーボンナノチューブの重量比が極性ポリチオフェンに対して200wt%〜400wt%である請求項1又は2記載のリチウム二次電池電極用導電助剤。
【請求項4】
該極性ポリチオフェンがN-メチルピロリドン又はγ-チロラクトン又はジメチルアセトアミド又は水に重量濃度1%以上の溶解性がある請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム二次電池電極用導電助剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム二次電池電極用導電助剤をN-メチルピロリドン又はγ-ブチロラクトン又はジメチルアセトアミド又は水に分散したリチウム二次電池電極用導電助剤分散液。
【請求項6】
正極活物質とバインダーポリマーと導電助剤とを含有するリチウム二次電池用電極であり、該導電助剤の少なくとも一部に、請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム二次電池電極用導電助剤を含むことを特徴とするリチウム二次電池用電極。

【公開番号】特開2013−62236(P2013−62236A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171635(P2012−171635)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】