説明

リニアアクチュエータの駆動回路および駆動方法ならびにそれらを用いたレンズモジュールおよび電子機器

【課題】撮像デバイスに及ぼすノイズの影響を低減可能な、アクチュエータの駆動回路を提供する。
【解決手段】駆動回路100は、撮像デバイス6とともに使用されるリニアアクチュエータ3を駆動する。パルス幅変調器10は、リニアアクチュエータ3の目標ストローク量を指示する指令値S1に応じたデューティ比を有するパルス信号S2を生成する。ブリッジ回路16は、パルス信号S2に応じてスイッチングし、リニアアクチュエータ3に駆動電流Idrvを出力する。パルス信号S2の周波数fPWMは、撮像デバイス6の水平走査周波数fHSYNCの実質的に(2×K−1)/2倍(Kは自然数)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアアクチュエータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラあるいは撮像機能付きの電子機器(たとえば携帯電話)には、フォーカシングレンズを位置決めするためのアクチュエータが設けられる。アクチュエータとしてはステッピングモータ方式、ピエゾ方式、ボイスコイルモータ(VCM)方式等が採用される。
【0003】
VCMは、そのコイルに流れる電流の向きに応じた直線方向に推進力を発生させることができる。たとえばVCMにHブリッジ回路を接続した場合、コイル電流の向きを切りかえることができ、正方向と負方向に推進力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−28281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電池駆動型の電子機器では、低消費電力化が要求される。アクチュエータをHブリッジ回路あるいはハーフブリッジ回路で駆動する場合、PWM(Pulse Width Modulation)制御を行うことにより、消費電力を低減することができる。ところがブリッジ回路をPWM制御すると、スイッチングにともなうノイズが撮像デバイスに混入し、画質が低下するという問題が生ずる。
【0006】
上記の解決するためには、アクチュエータの駆動回路と撮像デバイスの間に、電磁ノイズを遮蔽するシールドを挿入するなどの対策が必要となる。ところが、シールドは遮光性を有するため撮像デバイスの受光面全体を覆うことはできず、したがってシールドの配置は物理的な制約を受け、画像に影響の無いレベルまでノイズを抑制することが困難な場合がある。その場合、駆動回路の出力にローパスフィルタを追加するなど、更なる対策が必要となる。
【0007】
これらの対策には、シールドやローパスフィルタなどの部品が必要となるため、コストの増加、実装面積の増大といった問題が生ずる。
【0008】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、撮像デバイスに及ぼすノイズの影響を低減可能な、アクチュエータの駆動回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、撮像デバイスとともに使用されるリニアアクチュエータの駆動回路に関する。この駆動回路は、リニアアクチュエータの目標ストローク量を指示する指令値に応じたデューティ比を有するパルス信号を生成するパルス変調器と、パルス信号に応じてスイッチングし、リニアアクチュエータに駆動信号を出力するブリッジ回路と、を備える。パルス信号の周波数は、撮像デバイスの水平走査周波数の実質的に(2×K−1)/2倍(Kは自然数)である。
【0010】
撮像デバイスは、マトリクス状に配置された複数の画素を有する。撮像デバイスから、順次走査(プログレッシブ走査、あるいはノンインタレース走査ともいう)により画像データを読み出す際の、ある同じ列の、隣接する2つの行の隣接する2つの画素に着目する。撮像デバイスには、ブリッジ回路の駆動と同期した、すなわちパルス信号と同じ周波数のノイズが混入する。パルス信号の周波数、すなわちノイズの周波数が、撮像デバイスの水平走査周波数の実質的に(2×K−1)/2倍(Kは自然数)であるとき、行方向に隣接する2画素には、逆相のノイズが混入することになる。この態様によれば、読み出された画像データにおいて、ノイズを視覚的に目立たなくすることができる。
【0011】
ある態様の駆動回路は、外部から水平走査周波数を有する水平同期信号を受ける端子と、水平同期信号の(2×K−1)/2倍の周波数を有する内部クロック信号を生成するオシレータと、をさらに備えてもよい。パルス変調器は、内部クロック信号にもとづいてパルス信号を生成してもよい。
【0012】
本発明の別の態様は、レンズモジュールに関する。レンズモジュールは、フォーカシングレンズと、その可動子がフォーカシングレンズに連結されたリニアアクチュエータと、リニアアクチュエータを駆動する上述のいずれかの態様の駆動回路と、を備える。
【0013】
本発明の別の態様も、レンズモジュールに関する。レンズモジュールは、手ぶれ補正用レンズと、その可動子が手ぶれ補正用レンズに連結されたリニアアクチュエータと、リニアアクチュエータを駆動する上述のいずれかの態様の駆動回路と、を備える。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、電子機器に関する。電子機器は、上述のいずれかの態様のレンズモジュールと、レンズモジュールを通った光を撮像する撮像デバイスと、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノイズが画像に及ぼす影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る駆動回路を備える電子機器の構成を示す図である。
【図2】図2(a)は、図1のレンズモジュールの動作を示す波形図であり、図2(b)は、M行N列の画素を含む撮像デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、実施の形態に係る駆動回路100を備える電子機器1の構成を示す図である。電子機器1は、撮像機能付きの携帯電話、あるいはデジタルカメラ、ビデオカメラなどであり、CPU(Central Processing Unit)2、レンズモジュール9、撮像デバイス6、読み出し回路8を備える。
【0018】
レンズモジュール9は、いわゆるオートフォーカス機能を実現するために設けられ、リニアアクチュエータ3、フォーカシング用のレンズ4、駆動回路100を含む。
【0019】
リニアアクチュエータ3は、レンズ4を位置決めするアクチュエータであり、その可動子は、レンズ4と連結されている。レンズ4と撮像デバイス6の距離は、リニアアクチュエータ3によって制御される。
【0020】
駆動回路100は、リニアアクチュエータ3のコイルL1に駆動電流Idrvを供給し、レンズ4の位置を制御する。具体的には、駆動回路100はコイルL1に駆動電流Idrvを流す向きによって、可動子の変位方向を制御し、駆動電流Idrvの電流量に応じて変位量を制御する。
【0021】
CPU2は、レンズ4を通過した像が、撮像デバイス6上で結像するように、レンズ4の目標位置を決定し、その目標位置に応じたリニアアクチュエータ3のストローク量を指示する指令値S1を駆動回路100に出力する。
【0022】
撮像デバイス6はマトリクス状に配置された複数の画素を含む。読み出し回路8は、複数の画素の輝度データを、外部から与えられる水平同期信号HSYNCおよび垂直同期信号VSYNCと同期して順次走査方式によって読み出す。
【0023】
以上が電子機器1全体の構成である。続いて駆動回路100の構成を説明する。
【0024】
駆動回路100は、パルス幅変調器10、オシレータ12、ドライバ14、ブリッジ回路16を備え、ひとつの半導体基板に集積化された機能IC(Integrated Circuit)である。
【0025】
駆動回路100の出力端子OUTP、OUTNの間には、リニアアクチュエータ3のコイルL1が外付けされる。出力端子OUTP、OUTNにはブリッジ回路16が接続される。本実施の形態において、ブリッジ回路16はHブリッジ回路であるが、ハーフブリッジ回路であってもよい。
【0026】
パルス幅変調器10は、リニアアクチュエータ3の目標ストローク量を指示する指令値S1を受け、指令値S1に応じたデューティ比を有するパルス信号S2を生成する。パルス幅変調器10の構成は特に限定されず、公知の構成を用いればよい。
【0027】
本実施の形態において、パルス信号S2の周波数fPWMは、撮像デバイス6の水平走査周波数fHSYNCの実質的に(2×K−1)/2倍(Kは自然数)とされる。
PWM≒fHSYNC×(2×K−1)/2 …(1)
「実質的に」とは、(2×K−1)/2倍を中心とするある範囲を許容する趣旨である。パルス信号S2の周波数fPWMは、撮像デバイス6の水平走査周波数fHSYNCの関係については、後述する。
【0028】
駆動回路100の制御端子P1には、外部から水平走査周波数fHSYNCを有する水平走査信号HSYNCが入力される。オシレータ12は、水平走査信号HSYNCを受け、その(2×K−1)/2倍の周波数の内部クロック信号CKINTを生成する。オシレータ12は、PLL(Phase Locked Loop)回路などを用いて構成できるが、その構成は特に限定されない。たとえば、オシレータ12は、水平走査周波数fHSYNCより十分に高い周波数のマスタークロック信号と同期して、内部クロック信号CKINTの周期をカウントするカウンタを用いて構成してもよい。パルス幅変調器10は、内部クロック信号CKINTと同期して、パルス信号S2を生成する。
【0029】
ドライバ14は、パルス信号S2に応じてブリッジ回路16を構成する複数のスイッチSW1〜SW4をスイッチングする。パルス信号S2のデューティ比によってスイッチSW1〜SW4のオン時間が調節され、リニアアクチュエータ3に供給される駆動電流Idrvの量が調節される。
【0030】
以上が駆動回路100の構成である。続いて、レンズモジュール9の動作を説明する。
【0031】
図2(a)は、図1のレンズモジュール9の動作を示す波形図であり、図2(b)は、M行N列の画素を含む撮像デバイス6を示す図である。図2(a)の波形は、ブリッジ回路16のスイッチングにともない発生するノイズを模式的に示し、ここでは理解の容易化のため正弦波であるものとする。図2(a)では、パルス信号S2の周波数fPWMは、水平走査周波数fHSYNCの2.5倍の場合が示される。水平走査周波数fHSYNCの周期1/fHSYNCごとに、読み出される行が、第1行目から第M行目まで順にシフトしていく。第i行目については、第1列から第N列までのデータが順に読み出される。
【0032】
いま、第i行第j列の画素PIXi,jと、それと列を同じくして隣接する第i+1行第j列の画素PIXi+1,jに着目する。画素PIXi,jの輝度を読み出す期間が、図2(a)にTi,jで示され、画素PIXi+1,jの輝度を読み出す期間が、図2(a)にTi+1,jで示される。
【0033】
本実施の形態では、ノイズの周波数fPWMが、水平走査周波数fHSYNCの(2×N−1)/2倍に設定される。したがって、行方向に隣接する2つの画素PIXi,j、PIXi+1,jそれぞれの読み出し期間Ti,j、Ti+1,jにおけるノイズは、実質的に逆相となって現れ、それらは最終的な画像処理によって互いに打ち消しあう。その結果、最終的に生成される画像データにおいて、ノイズを視覚的に目立たなくすることができる。
【0034】
スイッチング周波数の最適化によって画像データに表れるノイズを目立たなくできるため、リニアアクチュエータ3と撮像デバイス6の間、あるいは駆動回路100と撮像デバイス6の間のノイズの混入経路に形成すべき遮蔽シールドを簡素化でき、あるいはそれを省略することができる。同様に、従来必要であったフィルタも簡素化、あるいは省略できる。これらにより、電子機器1のコストを下げることができ、あるいはノイズ対策の労力を大幅に低減できる。
【0035】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0036】
実施の形態では、ノイズの周波数fPWMが、水平走査周波数fHSYNCの(2×N−1)/2倍に設定される場合を説明したが、本発明はそれには限定されず、実質的に(2×N−1)/2倍に設定されていればよい。すなわち、ノイズの周波数fPWMが、水平走査周波数fHSYNCの(2×N−1)/2倍である場合、行方向に隣接する2つの画素PIXi,j、PIXi+1,jそれぞれの読み出し期間Ti,j、Ti+1,jにおけるノイズの位相差は180°となり、それらは打ち消し合う。
【0037】
これと同様に、読み出し期間Ti,j、Ti+1,jにおけるノイズの位相差が180°からある程度ずれている場合であっても、ノイズは打ち消しあうため、180°の場合と同様の効果を得ることができる。つまり「実質的に」とは、180°の場合と同様に、顕著な、あるいは有意な効果を得ることができる範囲を包含する趣旨である。
【0038】
本発明者らが検討したところ、位相差は、150°〜210°の範囲において、顕著な、あるいは有意なノイズ低減の効果が得られた。したがって、fPWMとfHSYNCの間には、以下の関係式が成り立てばよい。
HSYNC×(K−7/12)≦fPWM≦fHSYNC×(K−5/12) …(2)
【0039】
実施の形態では、ブリッジ回路16が駆動回路100に内蔵される場合を説明したが、ブリッジ回路16はディスクリート部品で構成されてもよい。
【0040】
実施の形態では、フォーカシング用のレンズモジュールを説明したが、駆動回路100の用途はそれには限定されない。たとえばリニアアクチュエータ3は、手ぶれ補正用のレンズを駆動してもよい。あるいは、駆動回路100は、フォーカシング用のレンズを駆動するチャンネルと、手ぶれ補正用のレンズを駆動するチャンネルと、が集積化されてもよい。
【0041】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
L1…コイル、1…電子機器、S1…指令値、2…CPU、S2…パルス信号、3…リニアアクチュエータ、4…フォーカシングレンズ、6…撮像デバイス、8…読み出し回路、9…レンズモジュール、10…パルス幅変調器、12…オシレータ、14…ドライバ、16…ブリッジ回路、100…駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像デバイスとともに使用されるリニアアクチュエータの駆動回路であって、
前記リニアアクチュエータの目標ストローク量を指示する指令値に応じたデューティ比を有するパルス信号を生成するパルス変調器と、
前記パルス信号に応じてスイッチングし、前記リニアアクチュエータに駆動信号を出力するブリッジ回路と、
を備え、
前記パルス信号の周波数は、前記撮像デバイスの水平走査周波数の実質的に(2×K−1)/2倍(Kは自然数)であることを特徴とする駆動回路。
【請求項2】
外部から前記水平走査周波数を有する水平同期信号を受ける端子と、
前記水平同期信号の(2×K−1)/2倍の周波数を有する内部クロック信号を生成するオシレータと、
をさらに備え、
前記パルス変調器は、前記内部クロック信号にもとづいて前記パルス信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
フォーカシングレンズと、
その可動子が前記フォーカシングレンズに連結されたリニアアクチュエータと、
前記リニアアクチュエータを駆動する請求項1または2に記載の駆動回路と、
を備えることを特徴とするレンズモジュール。
【請求項4】
手ぶれ補正用レンズと、
その可動子が前記手ぶれ補正用レンズに連結されたリニアアクチュエータと、
前記リニアアクチュエータを駆動する請求項1または2に記載の駆動回路と、
を備えることを特徴とするレンズモジュール。
【請求項5】
請求項3または4に記載のレンズモジュールと、
前記レンズモジュールを通った光を撮像する撮像デバイスと、
を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項6】
撮像デバイスとともに使用されるリニアアクチュエータの駆動方法であって、
前記リニアアクチュエータの目標ストローク量を指示する指令値に応じたデューティ比を有するパルス信号を生成するステップと、
前記パルス信号に応じてスイッチングし、前記リニアアクチュエータに駆動信号を出力するステップと、
を備え、
前記パルス信号の周波数は、前記撮像デバイスの水平走査周波数の実質的に(2×K−1)/2倍(Kは自然数)であることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−80062(P2013−80062A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219516(P2011−219516)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】