説明

リポプロテイン(a)の免疫比濁測定法およびその試薬

免疫学的測定法において、多様な表現型(フェノタイプ)を有する抗原を正確に定量測定するための方法の提供。 フェノタイプが存在する抗原の抗原抗体反応を利用した免疫比濁測定法を用いた検出において、測定系に添加する該抗原に対する抗体量を調節し、かつ測定系に塩基性アミノ酸を添加することにより、各フェノタイプの種類による測定値の変動を回避し、生体試料中の抗原を分子単位で測定した場合の測定値と高い相関を有する測定値を得られる、抗原抗体反応を利用した免疫比濁測定法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、免疫学的測定法において、多様な表現型(フェノタイプ)を有する抗原を正確に定量測定するための方法に関する。
【背景技術】
免疫学的測定法において、多様な表現型(フェノタイプ)を有し、各表現型の分子量が異なる抗原を分子単位で定量するためには、異なる抗原部位を認識する複数のモノクローナル抗体を用いた酵素免疫測定法(ELISA)が必要とされていた。例えば、血液中の蛋白であるリポプロテイン(a)は、アポ蛋白であるapo(a)がLDLに結合した構造を有している。apo(a)はプラスミノーゲンのkringle4と相同性の高いドメインの繰り返し構造を有しており、この繰り返し数が個体によって一定ではないため、apo(a)の分子量に多様性が生じ、Lp(a)に種々のフェノタイプが存在している。例えばUtermann,Gらは6種類のフェノタイプに大別できることを報告している(Utermann G.et al.,J Coin Invest 1987;80:458−465)。このため、各表現型の分子量の違いから、通常免疫学的測定で用いられる重量単位での測定を行なう場合、ある分子量の表現型の分子を標準物質として用いて分子量の異なる他の表現型の分子を測定した場合、分子単位による測定値から乖離した値が得られる。また、このとき表現型が異なれば、ある抗体に対する反応性が異なってくるという問題もある。表現型の違いに拘らず総ての表現型の分子を正確に定量的に測定するためには、血清中の蛋白測定で一般的に用いられる重量濃度の単位ではなく、モル濃度による分子単位での測定が理想的とされる。理論上、免疫学的測定法を用いて分子単位での測定を行なうためには、抗原に対して1対1で反応するモノクローナル抗体を用いた酵素免疫測定法が望ましく、さらに多様な表現型に対応するためには複数のモノクローナル抗体を使用する必要がある(Clin Chem 1995;41:245−255)。一方で、リポプロテイン(a)の測定にはポリクローナル抗体を用いた免疫比濁測定法も広く用いられており、一般的に重量濃度での測定を目的としている。このため、酵素免疫測定法と比較した場合、抗原の表現型の違いによって測定値に乖離が認められることが問題であった(Curr Cardiol Rep 1999;1:105−111)。
リポプロテイン(a)は動脈硬化、虚血性心疾患等と関係があり、血中のリポプロテイン(a)濃度は、これらの疾患の罹患リスクの評価にも用い得る。このような状況下で、迅速かつ簡便に正確なリポプロテイン濃度を測定し得る方法が望まれていた。
【非特許文献1】 Clin Chem 1995;41:246−255
【非特許文献2】 Curr Cardiol Rep 1999;1:105−111
【発明の開示】
本発明は、免疫比濁測定法において、酵素免疫測定法と比較した場合に抗原の表現型の違いにより生じる測定値乖離の問題を解決することを目的とする。具体的には、試薬成分の調整により、酵素免疫測定法と測定値を一致させる方法を提供することである。
本発明者らは、複数の表現型を有する抗原の測定を行なうための免疫比濁測定法において、試薬成分の調整によって測定値の制御が可能となることを見出した。すなわち、試薬成分中に抗体量を多く添加し、さらにアルギニン等の塩基性アミノ酸を一定量添加することで、表現型の違いによる測定値のばらつきという影響を回避し、分子単位での測定が可能な酵素免疫測定法による測定値と高い相関を有する測定値が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1] 複数のフェノタイプが存在するリポプロテイン(a)の抗原抗体反応を利用したラテックス免疫比濁測定法を用いた検出において、測定系に添加するリポプロテイン(a)に対する抗体量を調節し、かつ測定系に塩基性アミノ酸を添加することにより、各フェノタイプの種類による測定値の変動を回避し、生体試料中のリポプロテイン(a)を分子単位で測定した場合の測定値と高い相関を有する測定値を得られる、抗原抗体反応を利用したラテックス免疫比濁測定法、
[2] 添加する抗体量が抗原抗体反応時の反応溶液中において0.16mg/mL以上である[1]の方法、
[3] 添加する抗体量が抗原抗体反応時の反応溶液中において0.16mg/mL以上0.23mg/mL以下である[2]の方法、
[4] 添加する塩基性アミノ酸量が抗原抗体反応時の反応溶液において15重量%以上である[1]から[3]のいずれかの方法、
[5] 塩基性アミノ酸の添加量が抗原抗体反応時の反応溶液において15重量%以上17重量%以下である[4]の方法、
[6] 塩基性アミノ酸がアルギニンである[1]から[5]のいずれかの方法、
[7] フェノタイプが存在するリポプロテイン(a)の抗原抗体反応を利用したラテックス免疫比濁測定法を用いた検出試薬であって、試薬中に抗原抗体反応時の反応溶液中の抗体量が0.16mg/mL以上となる分だけのリポプロテイン(a)に対する抗体、および試薬中に抗原抗体反応時の反応溶液中の塩基性アミノ酸量が15重量%以上となる分だけの塩基性アミノ酸を含む、各フェノタイプの種類による測定値の変動を回避し、生体試料中のリポプロテイン(a)を分子単位で測定した場合の測定値と高い相関を有する測定値を得られる、抗原抗体反応を利用したラテックス免疫比濁測定用検出試薬、
[8] 添加する抗体量が抗原抗体反応時の反応溶液中において0.16mg/mL以上0.23mg/mL以下である[7]のラテックス免疫比濁測定用検出試薬、
[9] 添加する塩基性アミノ酸量が抗原抗体反応時の反応溶液において15重量%以上17重量%以下である[7]または[8]のラテックス免疫比濁測定用検出試薬、および
[10] 塩基性アミノ酸がアルギニンである[7]から[9]のいずれかのラテックス免疫比濁測定用検出試薬。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願特願2003−094059号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、各抗体濃度における対照測定法における測定値と、ラテックス凝集法における測定値の相関を示す図である。
図2は、各抗体濃度における各表現型の検体の回帰直線からの乖離を示す図である。
図3は、各アルギニン濃度における対照測定法における測定値と、ラテックス凝集法における測定値の相関を示す図である。
図4は、各アルギニン濃度における各表現型の検体の回帰直線からの乖離を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、免疫比濁測定法を用いた多様な表現型を有する抗原の検出において、抗原の表現型の違いに起因する測定値の変動を回避する方法である。検出の対象とする抗原は複数の表現型を有するタンパク質ならば限定されないが、表現型の違いにより分子量が異なるタンパク質が好ましく、特にリポプロテイン(a)が好ましい。リポプロテイン(a)には、F、B、S1、S2、S3、S4の6つの表現型が存在することが知られている(日本臨床 57巻、1999年増刊号、p42−44)。これらの表現型はUtermanらの方法(Utermann,G et al.,Proc.Natl.Acad,Sci,USA1989;86:4171−4174)によって決定できる。即ち、SDS−PAGEを行い移動度をapo−Bを基準とし、それより早い移動度を示す分子量の小さいものをF、apo−Bと同じ移動度のものをB、遅い移動度のものを順にS1、S2、S3およびS4と分類する。
免疫比濁法とは、測定試薬中に抗体を含有させておき、生体試料中の抗原により抗原抗体反応を起こさせ、凝集塊を形成させ凝集塊の形成を吸光度により測定し、生体試料中の抗原を定性または定量する方法であり、例えば、抗体を不溶性担体に感作(結合)させて使用する。用いる担体は限定されず、例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子を使用する免疫比濁法をラテックス免疫比濁法といい、ラテックス免疫比濁法は抗体を感作(結合)させたラテックス粒子を測定しようとする生体試料中の抗原と混合しラテックス粒子の凝集を形成させ、該凝集の程度を吸光度により測定し、抗原を定性または定量する。本発明で用いる生体試料は限定されないが、血液、血清、血漿が好適に用いることができる。
ラテックス粒子としては、例えば、塩化ビニル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のビニル系モノマーの単一重合体及び/又は共重合体ポリスチレンラテックス粒子、スチレン−ブタジエン共重合体メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等が挙げられる。なかでも、各種タンパク質、又は、ポリペプチド類等の吸着性に優れており、かつ生物学的活性を長期間安定に保持できる点で、ポリスチレン系のラテックス粒子が好ましい。上記ラテックス粒子の粒径は、好ましくは0.01〜1μmであり、さらに好ましくは0.1〜1μmである。粒径が0.01μm未満であると、微凝集が多発し、見かけの粒径が不均一となり、同時再現性等に悪影響が及ぶことがあり、また、抗体の数に対して充分な凝集が得られないことがある。粒径が1μmを超えると、自己凝集が進み、分散性が低下する。
ラテックス粒子の感作に使用する抗体はウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ等のポリクローナル抗体が望ましい。該ポリクローナル抗体は精製したリポプロテイン(a)を免疫原として動物を免疫し、抗血清を得て抗血清から硫安塩析法、DEAEセルロース等の陰イオン交換体を利用するイオン交換クロマトグラフィー、分子量や構造によってふるいわける分子ふるいクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜に選択して、またはこれらを組み合わせることにより精製することにより得ることができる。この際、免疫に用いるリポプロテイン(a)の表現型は限定されない。リポプロテイン(a)は、例えば正常ヒト血清より超遠心により比重1.063〜1.15の画分を分取し、それらをSepharose CL−4B等のカラムを用いたクロマトグラフィーにより精製することができる。
ラテックス粒子への抗体の感作方法は、特に限定されない。例えば、抗体を担体に物理的に吸着させてもよいし、化学的に結合させてもよい。より具体的には、例えば、抗体と担体とを混和した後、30〜37℃で1〜2時間加温振盪することにより、抗体を担体に感作させることができる。担体に感作する抗体の量は、使用する担体の粒径に応じて適宜設定することができる。抗体を担体に感作した後、担体表面上の未感作部分をウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、卵白アルブミン等でブロッキングするのが好ましい。ポリクローナル抗体を感作した担体は、生体試料と反応させる時まで媒体分散液として保持しておくのが好ましい。この際、媒体としては、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液等を使用することができる。ポリクローナル抗体に感作した担体の含有量は、通常、媒体分散液に対して0.05〜0.5重量%とすることができるが、0.1〜0.3重量%とするのが好ましい。媒体中には、必要に応じてウシ血清アルブミン、ゼラチン、アラビアゴム等を添加してもよい。
抗体感作ラテックス粒子と生体試料を適当な緩衝液中で混合することによりラテックス免疫比濁法を行なうことができる。本発明においては、抗体感作ラテックス粒子と生体試料を混合して凝集させるときの反応系に存在する抗体量を多くし、さらに塩基性アミノ酸を存在させる。通常ラテックス免疫比濁法において、反応系に添加する最終抗体濃度は0.05〜0.1mg/mLであるのに対して、本発明においては少なくとも、0.15mg/mL以上、好ましくは0.16mg以上の濃度で添加する。上限は、表現型による測定値の変動を抑えるという効果の点では限定されないが、ラテックス免疫比濁法を行い、良好な凝集像を得るという観点から、1mg/mL以下が好ましく、さらに0.3mg/mL以下が好ましく、0.23mg/mL以下で添加するのが特に好ましい。添加する抗体量は、反応系に添加する抗体で感作したラテックスの添加量を多くしてもよいし、ラテックス粒子を抗体で感作するときの単位ラテックス粒子当たりの感作量を多くしてもよい。上述のように、抗体で感作したラテックス粒子は、媒体分散液に対して0.05〜0.5重量%の濃度で感作ラテックス粒子として調製されるが、この時の濃度を高くしておいてもよい。
塩基性アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、グルタミン、アスパラギンまたはシトルリンが例示できるが、この中でもアルギニンが望ましい。塩基性アミノ酸の添加量は、抗体感作ラテックス粒子と生体試料を混合して凝集させるときの反応系の最終濃度は、12%以上、好ましくは15%以上である。塩基性アミノ酸の濃度の上限は表現型による測定値の変動を抑えるという効果の点では限定されず、例えば、アルギニンを用いる場合、40%程度の濃度で用いることもできるが、良好な凝集像を得るという観点からは、25%以下が好ましく、20%以下がさらに好ましく、17%以下が特に好ましい。
本発明によるラテックス凝集法は、典型的には生体試料1容、緩衝液を含む第1試薬40容および感作ラテックス粒子溶液20容を混合して行なわれる。但し、この混合比率には限定されず、生体試料中の抗原および感作ラテックス粒子の存在比が適切で、良好な凝集像が得られる比率ならばどのような比率でもよい。また、第1試薬と第2試薬を一緒にしてもよい。反応系に加える感作ラテックス粒子溶液の反応系全容量に対する容量比に応じて感作ラテックス粒子溶液中の粒子濃度を適宜調節すればよい。第1試薬を構成する緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液pH7、グリシン緩衝液pH7が用いられる。また、塩基性アミノ酸は上記第1試薬に添加しても、第2試薬に添加しても、両方に添加しても、最終濃度が前記濃度になればよい。前記典型例において、感作ラテックス粒子溶液中の好ましい濃度は、0.5mg/mL以上0.7mg/mL以下である。また、例えば塩基性アミノ酸を第1試薬および第2試薬の両方に添加する場合第1試薬に7〜10%添加し、第2試薬に30%添加すればよい。これらの試薬中の抗体または塩基性アミノ酸の好ましい濃度は、上記の最終反応系における最終濃度およびそれぞれの試薬の容量比から容易に換算することができる。
反応は、生体試料、第1試薬および第2試薬を混合することにより行なわれる。混合の順番は限定されないが、最初に生体試料と第1試薬を混合し、数分間、好ましくは1〜5分間、さらに好ましくは5分間攪拌混合し、次いで第2試薬を混合しさらに攪拌混合すればよい。凝集反応は1〜4分行ない、凝集の程度を調べる。この際の温度は限定されないが、37℃で行なうのが望ましい。プラスチックセル若しくはガラスセル内で行なうこともできる。この場合、セル外部より可視光から近赤外域の光、例えば、通常400〜2400nm、好ましくは550〜800nmの波長の光を照射し、吸光度変化又は散乱光の強度変化を検出して担体粒子の凝集の程度を測定する。この場合、予め作成した検量線を用いれば、試料内のリポプロテイン(a)量(濃度)が算出できる。このとき検量線の作成に用いるリポプロテイン(a)の表現型は限定されない。凝集の測定は、例えば三菱化学株式会社のLPIA−S500ラテックス凝集全自動測定器、(株)東芝のTBA−200FR自動分析装置及び日立製作所の日立7170形自動分析装置等を用いて行なうことができる。
凝集反応は、生理的食塩水、pH5.0〜10の適当な緩衝液、例えば、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液等の溶液中で行なわせればよい。
本発明の方法により、各フェノタイプの種類による測定値の変動を回避し、生体試料中のリポプロテイン(a)を分子単位で測定した場合の測定値と高い相関を有する測定値を得られる。ここで、生体試料中のリポプロテイン(a)を分子単位で測定した場合の測定値とは、例えば特定の条件下で行なう酵素免疫測定法(ELISA)で測定した値を指す。
ELISA(エンザイム・リンクト・イムノ−ソルベント・アッセイ:Enzyme Linked Immuno−Sorbent Assay)法は、抗体を酵素で標識し、該抗体と結合する物質(抗原)を検出する方法であり、特に抗原蛋白質の検出方法として、抗原抗体反応を利用して検体中の抗原蛋白質或いは逆に特定の抗原蛋白質に結合する抗体を検出する分析方法として広く用いられている。ELISA法は、測定対象とする抗原と反応する抗体を、予めペルオキシダーゼやガラクトシダーゼ等の酵素を化学的に結合させた第2の抗体で検出方法であり、反応系内に酵素反応によって発色する基質を加えて、その発色度合から目的とする抗原の有無や量を検出する方法である。
ELISA法では、一般的にポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体同士、或いはポリクローナル抗体とモノクローナル抗体とを組み合わせ抗原を固相化抗体および標識化抗体ではさむサンドイッチ抗体法による目的蛋白質の検出が現在主流となっている〔「生化学実験法11エンザイムイムノアッセイ」、1989年11月15日東京化学同人発行〕。
ELISA法においては、通常1分子の固相化抗体−1分子の抗原−1分子の標識抗体という結合が成立し、標識抗体の認識するエピトープ(抗原決定基)が一つの抗原分子上に複数存在しない限り多彩な表現型が存在する抗原であってもいずれの表現型の抗原に対しても上述の結合が成立するので、分子単位での測定が可能となる。すなわち、標準物質としてどの表現型の分子を用いても、他の表現型の分子が分子単位で正確に測定できる。
例えば、リポプロテイン(a)の場合、構成蛋白のひとつであるapo(a)分子中にkringle4と呼ばれる繰り返し構造が存在し、type1からtype10までの10の異なるタイプに分類されている。このうち、kringle4 type 1およびtype3からtype10は、総てのapo(a)において一つだけ存在するのに対して、kringle4 type2はapo(a)分子ごとに複数が繰り返し存在し、その数は3から40であると言われている。すなわち、リポプロテインの表現型の違いによる分子量の違いは専らkringle4 type2の繰り返し数に起因している。この各kringle4の各タイプの繰り返し数から、ELISAを用いてリポプロテイン(a)を測定する場合、kringle 4 type 2に対する抗体が固相抗体および標識抗体の双方に含まれると正確に分子単位での測定ができないことを示す(Clin Chem 1995;41:245−255)。また、異なるタイプのドメイン上に、同一のまたは類似したエピトープも存在する。このことは逆に固相化抗体と標識抗体としてkringle4 type1およびkringle4 type3から10のいずれかと結合し得る抗体であって、異なるタイプに共通して存在しないエピトープを認識する抗体の中から選択し、固相化抗体と標識抗体が結合するタイプを別のものにすれば、必ず1分子の固相化抗体−1分子の抗原−1分子の標識抗体という結合が成立するので、分子単位での測定が可能になる。また、kringle4以外のドメインに存在するエピトープであっても、apo(a)中に、複数存在しないエピトープを認識する抗体を少なくとも標識抗体として、好ましくは標識抗体と固相化抗体の両方に用いてもよい。本発明において、リポプロテイン(a)を分子単位で測定した場合の測定値とは、このように1分子の固相化抗体−1分子の抗原−1分子の標識抗体という結合が成立する条件で行われるELISAを指す。このようなELISAとして例えば、Clin Chem 1995;41:246−255に記載のELISAが挙げられる。このようなELISA法による測定値と本発明の方法による測定値の相関をとった場合、相関係数(R)は、0.97以上、好ましくは0.98以上、さらに好ましくは0.99以上である。
また、本発明の各フェノタイプの種類による測定値の変動を回避し、生体試料中のリポプロテイン(a)を分子単位で測定した場合の測定値と高い相関を有する測定値を得られる免疫比濁法とは、IFCC(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Mdeicine,Via Carlo Farini 81,20159 Milano,Italy)により認証されたリポプロテイン(a)の標準物質(PRM;IFCC proposed reference material)を試料として生理的塩類溶液により段階的に希釈したものを前記免疫比濁法により測定した場合、理論濃度と吸光度変化量として表される測定値の関係をグラフで示すことにより作成される検量線に対して、いかなる表現型のリポプロテイン(a)を試料として同様な測定を行った場合に作成される検量線とも実質的に平行性を示す免疫比濁法である。
また、本発明の方法によれば各フェノタイプの種類による測定値の変動を回避し、生体試料中のリポプロテイン(a)を分子単位で測定した場合の測定値と高い相関を有する測定値を得られるが、これは標準物質として用いる表現型の分子を変えても、常にほぼ同一の測定値が得られることを意味する。従って、本発明の方法は、標準物質として用いる分子の表現型にかかわらず一定の測定値が得られる方法である。
以下、本発明の実施例に基づき具体的に説明する。もっとも本発明は下記実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 ラテックス濃度(抗体量)を変えた試薬での測定値の変化(対照法(ELISA)との相関)
ウサギ抗ヒトリポプロテイン(a)ポリクローナル抗体(DAKO社より入手)をラテックス粒子(積水工業株式会社から入手)に混和し、室温にて60分間、その後60℃の恒温槽中で50分間加温を行った後、冷水中で20分間冷却することにより感作した。感作量は、ラテックス粒子1mg当たりポリクローナル抗体0.14mgであった。感作ラテックス粒子を0.17Mグリシン緩衝液pH7に0.5重量%の濃度で分散し抗ヒトリポプロテイン(a)ウサギポリクローナル抗体分散液とした。
抗ヒトリポプロテイン(a)ウサギポリクローナル抗体を感作したラテックス粒子の分散浮遊液において、第2試薬中の抗体の終濃度がそれぞれ約0.3、0.4、0.5、0.7mg/mLとなるように調製し、第2試薬とした。第1試薬として0.1MのNaClおよび0.05MのEDTA、1%のBSA、非特異反応の回避を目的として正常ウサギグロブリンを25mg/mLを加えたグリシン緩衝液を用いた。塩基性アミノ酸としてアルギニンを第1試薬に10%、第2試薬に30%添加した。反応液中の終濃度としては16.7%であった。
測定する試料として、それぞれ表現型の異なるリポプロテイン(a)を含むヒト血清を20検体用いた。20検体中、表現型がB、S1、S3、S4およびS5のものをそれぞれ4検体ずつ用いた(Technoclone社より入手)。
反応は試料となる血清4μLに対して第1試薬160μLを加え攪拌し、5分後に第2試薬80μLを添加攪拌し、凝集反応を行なった。測定は日立7170形自動分析装置を使用し、この際約1分後から4分間の37℃における凝集反応を波長570nmの吸光度変化量として測定するよう設定した。吸光度変化量から濃度を算出するために、あらかじめ既知濃度の標準(Technoclone社より入手)を試料として同条件で測定し、濃度と吸光度変化量の関係を表す検量線を作成しておいた。
また、上記20検体を対照法として以下のように酵素免疫測定法で測定した。用いるモノクローナル抗体はClin Chem 1995;41:246−255に記載の方法により入手することができる。Nunc社製の96ウェルマイクロタイタープレートに、抗ヒトリポプロテイン(a)モノクローナル抗体(kringle4 type2に結合するが、kringle type1およびtype3から10には結合しないモノクローナル抗体)を0.5μg/wellで固相化した(0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液pH9.6中5μg/mLの抗体溶液を100μLウェルに入れ1時間室温で攪拌した後一夜4℃でインキュベート)。PBS pH7.4を用いてウェルを3回洗浄し、30g/LのBSAを含むPBS300μLをウェルに入れ1時間室温でインキュベートしブロッキングを行った。ブロッキング後、PBS pH7.4を用いてウェルを3回洗浄し該ウェル中に前記検体を100μL添加し、1時間28℃で攪拌した。この際、検体は1g/L BSA、0.5mL/L Tween 20を含むPBSを用いて適宜希釈した。PBS pH7.4を用いてウェルを3回洗浄し、HRPで標識した抗ヒトリポプロテイン(a)モノクローナル抗体(kringle4 type2以外のkringle4ドメインに結合する)溶液を100μL添加し、1時間28℃で攪拌した。その後、OPDおよびHを添加し、発色反応を行い、15分後に1mol/L硫酸100μLを添加し反応を停止した。反応停止後反応液の495nmにおける吸光度を測定した。この際、吸光度から濃度を算出するために、あらかじめ既知濃度の標準を試料として同条件で測定し、濃度と吸光度の関係を表す検量線を作成しておいた。
結果、第2試薬中の抗体濃度が0.3mg/mLおよび0.4mg/mLの試薬による測定では、酵素免疫測定法との相関性より求めた回帰直線から乖離する検体が認められるが、抗体濃度0.5mg/mLおよび0.6mg/mLの試薬による測定では、酵素免疫測定法との相関性より求めた回帰直線から乖離する検体は見られなかった。図1に各抗体濃度における対照測定法における測定値と、ラテックス凝集法における測定値の相関を示す。また図2には、各表現型の検体の回帰直線からの乖離を示す。
試薬中の抗体濃度を調整することにより、対照となる酵素免疫測定法と測定値が一致させることが可能であることを確認した。
〔実施例2〕 アルギニン濃度を変えた試薬での測定値の変化(対照法(ELISA)との相関)
抗ヒトリポプロテイン(a)ウサギポリクローナル抗体を感作したラテックス粒子の分散浮遊液は、実施例1と同様にして作製した。
抗ヒトリポプロテイン(a)ウサギポリクローナル抗体を感作したラテックス粒子の分散浮遊液において、第2試薬中の抗体の終濃度が約0.7mg/mLとなるように調製した。また、塩基性アミノ酸としてアルギニンを反応液中の終濃度としてそれぞれ10、15、17%となるように第1試薬中に添加した(第2試薬中濃度は30%)。
測定条件および測定する試料は実施例1と同様であった。
結果、反応液中のアルギニン濃度が10%の場合、酵素免疫測定法との相関性より求めた回帰直線から乖離する検体が認められるが、15%および17%の場合、酵素免疫測定法との相関性より求めた回帰直線から乖離する検体は見られなかった。図1に各アルギニン濃度における対照測定法における測定値と、ラテックス凝集法における測定値の相関を示す。また図2には、各表現型の検体の回帰直線からの乖離を示す。
試薬中のアルギニン濃度を調整することにより、酵素免疫測定法と測定値を一致させることが可能であることを確認した。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
実施例に示すように、ラテックス免疫比濁法において、反応系に添加する抗体量を多くし、さらに反応系に一定濃度の塩基性アミノ酸を添加することにより、多彩な表現型が存在するヒトリポプロテイン(a)の表現型の違いによる測定値の変動を回避することができる。
本発明により、多様な表現型を有する抗原を測定する場合に、酵素免疫測定法と測定値の相関性に優れ、かつ自動分析装置で迅速・簡便に測定することが可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフェノタイプが存在するリポプロテイン(a)の抗原抗体反応を利用したラテックス免疫比濁測定法を用いた検出において、測定系に添加するリポプロテイン(a)に対する抗体量を調節し、かつ測定系に塩基性アミノ酸を添加することにより、各フェノタイプの種類による測定値の変動を回避し、生体試料中のリポプロテイン(a)を分子単位で測定した場合の測定値と高い相関
を有する測定値を得られる、抗原抗体反応を利用したラテックス免疫比濁測定法。
【請求項2】
添加する抗体量が抗原抗体反応時の反応溶液中において0.16mg/mL以上である請求項1記載の方法。
【請求項3】
添加する抗体量が抗原抗体反応時の反応溶液中において0.16mg/mL以上0.23mg/mL以下である請求項2記載の方法。
【請求項4】
添加する塩基性アミノ酸量が抗原抗体反応時の反応溶液において15重量%以上である請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
塩基性アミノ酸の添加量が抗原抗体反応時の反応溶液において15重量%以上17重量%以下である請求項4記載の方法。
【請求項6】
塩基性アミノ酸がアルギニンである請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
フェノタイプが存在するリポプロテイン(a)の抗原抗体反応を利用したラテックス免疫比濁測定法を用いた検出試薬であって、試薬中に抗原抗体反応時の反応溶液中の抗体量が0.16mg/mL以上となる分だけのリポプロテイン(a)に対する抗体、および試薬中に抗原抗体反応時の反応溶液中の塩基性アミノ酸量が15重量%以上となる分だけの塩基性アミノ酸を含む、各フェノタイプの種類による測定値の変動を回避し、生体試料中のリポプロテイン(a)を分子単位で測定した場合の測定値と高い相関を有する測定値を得られる、抗原抗体反応を利用したラテックス免疫比濁測定用検出試薬。
【請求項8】
添加する抗体量が抗原抗体反応時の反応溶液中において0.16mg/mL以上0.23mg/mL以下である請求項7記載のラテックス免疫比濁測定用検出試薬。
【請求項9】
添加する塩基性アミノ酸量が抗原抗体反応時の反応溶液において15重量%以上17重量%以下である請求項7または8に記載のラテックス免疫比濁測定用検出試薬。
【請求項10】
塩基性アミノ酸がアルギニンである請求項7から9のいずれか1項に記載のラテックス免疫比濁測定用検出試薬。

【国際公開番号】WO2004/088317
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504261(P2005−504261)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004606
【国際出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)