リラクサー強誘電体固溶体単結晶、デバイス及びデバイスの使用方法
リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、(1−x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、及び(1−x)Pb(In1/2Nb1/2)O3・xPbTiO3のいずれかで表される鉛系複合ペロブスカイト化合物からなる。組成比xは0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さい。リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、キュリー温度未満において、高誘電率でかつ光の透過を阻止する第1の状態と低誘電率でかつ光の透過を許容する第2の状態の間を変移可能である。第1の状態のときにリラクサー強誘電体固溶体単結晶に閾値以上の大きさの電界を印加すると、リラクサー強誘電体固溶体単結晶は第2の状態に変移する。第2の状態のときにリラクサー強誘電体固溶体単結晶をキュリー温度以上に加熱すると、リラクサー強誘電体固溶体単結晶は第1の状態に変移する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光メカトロニクス分野において有用であって例えば携帯電話などの情報機器(IT機器)への応用が可能なリラクサー強誘電体に関する。本発明はまた、そうしたリラクサー強誘電体を用いた光デバイス及び誘電体デバイスなどのデバイス、並びにそうしたデバイスの使用方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リラクサー強誘電体は、高誘電率であって尚かつ誘電率の温度依存性や電界依存性が小さいためにコンデンサー材料として用いられている。或いは、その優れた電気機械結合係数を活かすべく、圧電・電歪材料として使用されている。またリラクサー強誘電体の優れた圧電特性は、例えば超音波変換器等にも利用されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2001−509312号公報
【発明の開示】
【0003】
本発明は、本発明者らが新たに見出したリラクサー強誘電体固溶体単結晶の光特性及び誘電特性に基づくものであり、本発明の目的は、特異な光特性及び誘電特性を有するリラクサー強誘電体固溶体単結晶を提供することにある。また本発明の別の目的は、そうしたリラクサー強誘電体固溶体単結晶を用いたデバイス及びそれの使用方法を提供することにある。
【0004】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様では、キュリー温度未満において、高誘電率でかつ光の透過を阻止する第1の状態と低誘電率でかつ光の透過を許容する第2の状態の間を変移可能であり、第1の状態のときに閾値以上の大きさの電界を印加すると第2の状態に変移するリラクサー強誘電体固溶体単結晶が提供される。
【0005】
上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、第2の状態のときにキュリー温度以上に加熱すると第1の状態に変移することが好ましい。なぜなら、第1の状態と第2の状態の間を可逆的に変移可能なリラクサー強誘電体固溶体単結晶が提供されるからである。
【0006】
上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、鉛系複合ペロブスカイト化合物からなることが好ましい。鉛系複合ペロブスカイト化合物は、(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、(1−x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、及び(1−x)Pb(In1/2Nb1/2)O3・xPbTiO3のいずれで表される化合物であってもよい。上記組成式中のxは、鉛系複合ペロブスカイト化合物中のPbTiO3の組成比を示す。以下の説明においては、(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3をPMN−PTと略称し、(1−x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3をPZN−PTと略称し、(1−x)Pb(In1/2Nb1/2)O3・xPbTiO3をPIN−PTと略称する。PMN−PT、PZN−PT及びPIN−PTは、組成比xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さい範囲において、電界印加により第1の状態と第2の状態の間を変移可能である。
【0007】
以下、組成比xの違いによる鉛系複合ペロブスカイト化合物の特性の変化をPMN−PTにより説明するが、PZN−PT及びPIN−PTの場合も同様である。図2は、組成比xが互いに異なる厚さ約100μmのPMN−PT(001)板における比誘電率の温度依存性を示すグラフである。比誘電率の測定は、PMN−PT(001)板の両面にそれぞれ設けた電極を通じて10kHz、100kHz又は1MHzの周波数の交流電界をPMN−PT(001)板に印加して行った。印加電界の強度は、測定対象の板の厚みに応じて変えたが、最大で10V/cmとした。
【0008】
図2に示すように、印加電界の周波数が高いほど比誘電率は小さい。また図2からは、組成比xが0.1又は0.2のときには比誘電率が比較的大きいことも分かる。誘電率(ε)を真空の誘電率(ε0)で除したものが比誘電率(εr)である(すなわちεr=ε/ε0)ので、誘電率の大きい物質は一般に、比誘電率も大きい。図2で着目すべきは、x=0.1のときには25℃から100℃の間で比誘電率が10000を超えることである。また、x=0.2のときには、100℃においては比誘電率が10000を超えるピークを示すのに対し、50℃において比誘電率が約5000とピークの半分以下であることも着目すべき点である。
【0009】
図3(a)及び図3(b)はPMN−PT固溶体単結晶の状態図を示し、そのうち図3(b)は図3(a)の一部を拡大して示す。図3(a)及び図3(b)において、横軸はPMN−PT中のPbTiO3(PT)の組成比xであり、縦軸は温度である。図3(a)に示すように、PMN−PT固溶体単結晶は、組成比及び温度に応じて、立方晶相、正方晶相、及び疑似立方晶/菱面体晶相のいずれかを示す。図3(a)及び図3(b)においては、正方晶相及び疑似立方晶/菱面体晶相と立方晶相との間の境界を境界線αで示し、疑似立方晶/菱面体晶相と正方晶相との間の境界を境界線MPB(モルフォトロピック相境界)で示す。組成比が一定の場合、ある温度を境に正方晶相又は疑似立方晶/菱面体晶相から立方晶相へ、あるいは立方晶相から正方晶相又は疑似立方晶/菱面体晶相へ結晶相の変化が起こる。この結晶相の変化が起こる温度がキュリー温度である。
【0010】
立方晶相のPMN−PT固溶体単結晶は、光遮断性を有する。すなわち、PMN−PT固溶体単結晶の温度がキュリー温度以上のときには組成比xに関わらずPMN−PT固溶体単結晶は光の透過を阻止する。一方、PMN−PT固溶体単結晶の温度がキュリー温度未満の場合には、組成比xが0.2以上であれば、電界が印加されなくても、PMN−PT固溶体単結晶は少なくとも部分的に光の透過を許容する。
【0011】
疑似立方晶/菱面体晶相のPMN−PT固溶体単結晶は、組成比xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいときに電界に対してヒステリシスを示す。そして、組成比xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいPMN−PT固溶体単結晶は、高誘電率でかつ光の透過を阻止する第1の状態と低誘電率でかつ光の透過を許容する第2の状態との間を変移可能である。また、組成比xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいPMN−PT固溶体単結晶はメモリ効果を有する。メモリ効果とは、キュリー温度未満においてPMN−PT固溶体単結晶に対し閾値以上の大きさの電界を一旦印加すると、その後に印加電界の大きさを増加又は減少させたとしてもPMN−PT固溶体単結晶が第2の状態から第1の状態に変移しないことをいう。
【0012】
図3(b)に示すように、組成比xが0.1以下の場合にはキュリー温度は40℃以下と室温又は室温に近くなる。PMN−PT固溶体単結晶は、キュリー温度以上に加熱されると光の透過を阻止する立方晶相に変わる。そのため、キュリー温度が室温又は室温に近い場合には、たとえ閾値以上の大きさの電界を印加することによりPMN−PT固溶体単結晶を低誘電率でかつ光の透過を許容する状態に変移させたとしても、室温又は室温に近い温度で光の透過を許容する第1状態に戻ってしまうため、メモリ効果が妨げられることとなる。よって、より好適にメモリ効果が発揮されるためには、組成比xは0.1よりも大きいことが好ましい。すなわち、より好適にメモリ効果が発揮されるためには、キュリー温度が40℃よりも大きくなるように組成比xを設定することが好ましい。
【0013】
上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶を構成する鉛系複合ペロブスカイト化合物は、疑似立方晶/菱面体晶相(001)板であることが好ましい。疑似立方晶/菱面体晶相(001)板においては、オブリークフィールド(oblique field)と呼ばれるエンジニアドドメイン構造により、電界印加によるドメインウォールの移動を抑制可能である。これにより、リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、特異な光特性及び誘電特性を示すだけでなく、疑似立方晶/菱面体晶相(001)板の高い電気機械結合係数及び良好な機械的歪み特性に基づき、良好なアクチュエータ特性も示す。
【0014】
本発明の別の態様では、上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶を用いたデバイスが提供される。該デバイスにおいては、リラクサー強誘電体固溶体単結晶の少なくとも光特性が利用されることが好ましく、光特性の変化に伴って現れるリラクサー強誘電体固溶体単結晶の誘電特性の変化が光特性とともに利用されてもよい。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶を含むデバイスの使用方法が提供される。該方法は、デバイス中のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を第1の状態から第2の状態に変移させるべく、リラクサー強誘電体固溶体単結晶に閾値以上の大きさの電界を印加する工程と、デバイス中のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を第2の状態から第1の状態に変移させるべく、リラクサー強誘電体固溶体単結晶をキュリー温度以上に加熱する工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る光デバイスの側面図である。
【図2】組成比xが0〜0.9であるPMN−PT(001)板における比誘電率の温度依存性を示すグラフである。
【図3】(a)及び(b)は、PMN−PT固溶体単結晶の状態図である。
【図4】(a)〜(c)は、電界が印加されていない状態の実施例1及び比較例1,2の光デバイスのデバイス本体を撮影した偏光顕微鏡写真である。
【図5】(a)〜(c)は、比較例3の光デバイスのデバイス本体を撮影した偏光顕微鏡写真である。
【図6】比較例3,4の光デバイスにおけるε(E)/ε(0)の電界依存性を示すグラフである。
【図7】(a)〜(d)は、0kV/cmから8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながら撮影したデバイス本体の偏光顕微鏡である。
【図8】実施例1の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである。
【図9】(a)、(b)は、8.2kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながら撮影したデバイス本体の偏光顕微鏡写真である。
【図10】(a)〜(d)は、0kV/cmから−8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながら撮影したデバイス本体の偏光顕微鏡写真である。
【図11】(a)〜(c)は、電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスのデバイス本体を撮影した偏光顕微鏡写真である。
【図12】(a)は実施例1における比誘電率の温度依存性を示すグラフであり、(b)は実施例1における誘電正接の温度依存性を示すグラフである。
【図13】実施例1における分極−電界履歴曲線図である。
【図14】(a)〜(c)は、キュリー温度以上にまで加熱した後の印加電界がゼロのときの実施例1の光デバイスのデバイス本体を撮影した偏光顕微鏡写真である。
【図15】キュリー温度以上にまで加熱した後の実施例1の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである
【図16】実施例2の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである。
【図17】(a)〜(d)は、0kV/cmから11.7kV/cmにまで一方向に変化した後に11.7kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例2の光デバイスに印加しながら撮影したデバイス本体の偏光顕微鏡である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0018】
図1に示す本実施形態に係る光デバイス10は、デバイス本体20と、一対の透明電極30,40を備える。デバイス本体20は、PMN−PT(001)板から薄板状に形成されている。PMN−PT(001)板の(001)は、結晶面の指数を表す。透明電極30,40は、デバイス本体20の上面及び下面の上にそれぞれ設けられている。透明電極30,40は金からなり、スパッタリングや蒸着等の物理的成膜法にて形成されている。
【0019】
上記光デバイス10の光特性の観察は、偏光顕微鏡による観察を通じて行なった。より具体的には、図1に示すように、一対のガラス台110を上面に有する透明ガラス板100を用意し、両ガラス台110にまたがるようにして光デバイス10をガラス板100上に載置した。そして、透明ガラス板100の下方から光デバイス10に向かって光源200からの偏光を投射しながら、直交ニコル下で偏光顕微鏡により光デバイス10を観察した。なお、図1中の<001>は晶帯軸の指数である。
【0020】
透明電極30,40は図示しないリード線及び可変抵抗を介して図示しない直流電源に接続されており、両透明電極30,40間には異なる値の電圧を印加可能である。前記リード線には図示しない切換回路が設けられている。切換回路の切り換えによって両透明電極30,40間には正極性又は逆極性の電圧を印加可能である。また、両透明電極30,40は、デバイス本体20(PMN−PT)の誘電率を測定するための電極としても機能し、光デバイス10がPMN−PTの光特性だけを利用するデバイスとしてではなく、光特性の変化に伴って現れるPMN−PTの誘電特性の変化も光特性とともに利用するデバイスとして電子回路的に使用される際には、コンデンサ出力端子としても利用される。
【0021】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、以下の観察及び測定は、特に断らない限り、いずれも室温(25℃)で行った。
【0022】
PMN−PT(001)板から形成した厚さ122μmのデバイス本体を用いて実施例1,2及び比較例1〜4の光デバイスを作成した。ただし、PMN−PT中のPbTiO3の組成比xは、実施例1においては0.15、実施例2においては0.13、比較例1においては0.2、比較例2においては0.28、比較例3においては0.1、比較例4においては0.06である。
【0023】
図8は、0kV/cmから8.2kV/cmにまで一方向に変化した後に8.2kV/cmから−8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながらデバイス本体(PMN−PT)の比誘電率を測定した結果を示す。なお、電界の印加を開始する前のデバイス本体中のPMN−PTは、高誘電率でかつ光の透過を阻止する状態であった。
【0024】
図4(a)〜(c)は、電界が印加されていない状態の実施例1及び比較例1,2の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図4(a)は、実施例1の光デバイス10における観察結果であり、全体にわたって光の透過が阻止されている様子を示している。図4(b)は、比較例1の光デバイスにおける観察結果であり、部分的に光の透過が許容されている様子を示している。図4(c)は、比較例2の光デバイスにおける観察結果であり、全体にわたって光の透過が許容されている様子を示している。
【0025】
図11(a)〜(c)は、図4(a)と同様、電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。ただし、図11(a)は、ステイジの回転角度が0°のときの観察結果であり、図11(b)は、回転角度が22.5°のときの観察結果であり、図11(c)は、回転角度が45°のときの観察結果である。図11(a)〜(c)に示すように、いずれの回転角度においても消光位又は対角位を示すことなく暗視野像が観察されており、この結果から、電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスでは、PMN−PTが光の透過を阻止する状態にあることが分かる。
【0026】
図11(a)〜(c)に示す結果からは、電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスではPMN−PTのドメイン配列が無秩序であるか或いはドメインサイズが小さく、そのために光の透過が許容されないことが考えられる。電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスでは、図8に示すように、PMN−PTの比誘電率は9500前後(9000〜10000)と高い値を示す。またこのときのPMN−PTの比誘電率及び誘電正接の温度依存性は、図12(a),(b)に示すように、リラクサー特有のVogel-Fulcherタイプの誘電分散を示す。比誘電率及び誘電正接の温度依存性は、直流電源ではなく交流電源を用いてPMN−PTに電界を印加しながらLCRメータにより測定した。印加電界の強度は10V/cmであり、周波数は1kHZ、10kHz、100kHz又は1MHzである。
【0027】
上述及び後述の偏光顕微鏡での観察においては、540nmを中心に400〜600nmの波長範囲を有するハロゲン光源が用いられる。偏光顕微鏡による観察結果を示す図面において、Aは検光子、Pは偏光子を示す。また、電界を印加しながら偏光顕微鏡により観察した結果を示す図面には電界の印加方向を表す記号も併せて示す。直交ニコル下では、検光子Aと偏光子Pは、互いの間に試料を置いた状態で、互いに直交させて用いられる。もし試料が光学的に等方であれば偏光顕微鏡による観察結果は暗視野となり、光学的に異方であれば観察結果は明視野となる。強誘電体の試料は一般に異方体であるが、偏光子Pを分極方向に合わせると観察結果は暗視野になる。この現象は消光と呼ばれる。実施例1の光デバイスのPMN−PTの結晶相は室温(25℃)では菱面体晶相であり、菱面体晶相のPMN−PT(001)板の分極方向は<110>方向に一致する。従って、x軸から45°傾いた位置では暗視野となり、x軸から60°又は30°傾いた位置では明視野となる。最も明るくなる位置は対角位と呼ばれ、菱面体晶相(001)板では対角位はx軸又はy軸に現れる。
【0028】
なお、後述の図9及び図10に示す観察結果を得るときには、正方晶相のPMN−PTの観察に適するように、検光子A及び偏光子Pが基準位置から60°傾いて配置される。正方晶相のPMN−PT(001)板においては、消光位がx軸又はy軸に現れ、x軸とy軸の中間位置で明視野像が観察される。PMN−PT中のPbTiO3の組成比がある程度高いときには、図3(a)に示すように、PMN−PTの結晶相は常温において菱面体晶相ではなく正方晶相である。又、非常に強い電界を印加したときには、PMN−PTの結晶相が菱面体晶相から正方晶相に変化する。
【0029】
図5(a)〜(c)は、比較例3の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図5(a)は、電界が印加されていない状態における観察結果であり、全体にわたって光の透過が阻止されている様子を示している。図5(b)は、23kV/cmの電界が印加された状態における対角位での観察結果であり、明視野像が観察された。図5(c)は、23kV/cmの電界が印加された状態における消光位での観察結果であり、暗視野像が観察された。
【0030】
図6は、比較例3,4の光デバイスにおける後述する誘電率の変化の電界依存性を示すグラフである。誘電率の変化はε(E)/ε(0)で表され、ε(E)をε(0)で除することにより求められる。ε(0)は、室温(25℃)下で周波数1MHz及び強度10V/cmの交流電界を印加した状態において測定されるPMN−PTの誘電率である。ε(E)は、室温(25℃)下で直流電界Eを印加した状態に置いて測定されるPMN−PTの誘電率である。図6において、横軸は、PMN−PTに印加される直流電界Eの強度を示し、縦軸はε(E)/ε(0)を示す。図6に示すように、比較例3,4ともε(E)/ε(0)は印加電界の強度に応じて比較的なだらかに変化する。
【0031】
図5(a)〜(c)及び図6に示す結果から、比較例3の光デバイスのPMN−PTは、電界が印加されていない状態では光の透過を阻止するが、23kV/cmの電界が印加された状態では光の透過を許容することが分かる。しかしながら、比較例3,4の光デバイスのPMN−PTはともに電界に対するヒステリシスを示さない。
【0032】
図7(a)〜(d)は、0kV/cmから8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながらデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図7(a)は、電界が印加されていない状態における観察結果である。図7(b)は、1.6kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図7(c)は、4.9kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図7(d)は、8.2kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。
【0033】
閾値(実施例1では2kV/cm)以上の大きさの電界が印加されると、図7(c),(d)に示すように、デバイス本体中のPMN−PTは光の透過を阻止する状態から光の透過を許容する状態に変移する。それと同時に、図8に示すように、PMN−PTの比誘電率は6000前後(5000〜7000)にまでおよそ半減する。印加電界がさらに正に大きくなっても、光の透過が許容され続けると同時に、比誘電率は漸減しながら低く保たれる。
【0034】
図13は、実施例1の光デバイスのPMN−PTにおける分極−電界履歴曲線を示す。分極−電界履歴曲線は公知のソーヤータワー回路を用いて周波数50Hzの交流電界のもとで測定した。図13から分かるように、低誘電率でかつ光の透過を許容する状態はメモリ効果により記憶される。すなわち、印加電界の大きさを増加又は減少させたとしても、低誘電率でかつ光の透過を許容する状態は維持される。
【0035】
図9(a),(b)は、8.2kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながらデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図9(a)は、8.2kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図9(b)は、電界が印加されていない状態における観察結果である。このように8.2kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を印加した場合には、図8に示すように、誘電率が低く保たれると同時に、図9(a),(b)に示すように光の透過も許容され続ける。
【0036】
図10(a)〜(d)は、0kV/cmから−8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながらデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図10(a)は、電界が印加されていない状態における観察結果である。図10(b)は、−0.8kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図10(c)は、−4.9kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図10(d)は、−8.2kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。
【0037】
このように0kV/cmから−8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を印加した場合には、電界が所定の誘電異常閾値(実施例1では−0.8kV/cm)を超えるときに誘電異常が発生して分極反転が起こる。それに伴い、PMN−PTのドメイン構造には変化が生じる。電界が−0.8kV/cmのときの誘電異常は、図8のグラフで観察可能である。印加電界がさらに負に大きくなっても、光の透過が許容され続けると同時に、誘電率は漸減しながら低く保たれる。
【0038】
上記したように、印加電界の大きさを増加又は減少させたとしても、低誘電率でかつ光の透過を許容する状態は維持される。低誘電率でかつ光の透過を許容する状態から高誘電率でかつ光の透過を阻止する最初の状態にPMN−PTが変移するためには、デバイス本体をキュリー温度以上に加熱することが必要である。
【0039】
図14(a)〜(c)は、キュリー温度以上にまで加熱した後の印加電界がゼロのときの実施例1の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図14(a)は消光位での観察結果であり、図14(b)はステイジの回転角度が22.5°のときの観察結果であり、図14(c)は回転角度が45°のときの観察結果である。図14(a)〜(c)に示すように、いずれの回転角度においても暗視野像が観察されており、この結果から、キュリー温度以上にまで加熱した後のPMN−PTが光の透過を阻止する状態にあることが分かる。
【0040】
図15は、キュリー温度以上にまで加熱した後の実施例1の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである。図15において、△は、ゼロを始点に正方向に電界を変化させながら計測される点を示す。□は、引き続き正から負に向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。×は、引き続き負から正に向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。○は、さらに引き続き正からゼロに向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。図15に示すように、キュリー温度以上にまで加熱された後のPMN−PTの比誘電率は10000前後(9000〜12000)と高い値を示す。しかし、閾値以上の大きさの電界が印加されると比誘電率は大きく減少し、5000前後(4000〜7000)にまでおよそ半減する。また、閾値以上の大きさの電界が一旦印加された後は、正から負又は負から正にいくら電界を変化させたとしても、比誘電率は低いまま維持される。
【0041】
図16は、実施例2の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである。図16において、△は、ゼロを始点に正方向に電界を変化させながら計測される点を示す。□は、引き続き正から負に向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。×は、引き続き負から正に向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。○は、さらに引き続き正からゼロに向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。図16に示すように、キュリー温度以上にまで加熱された後のPMN−PTの比誘電率は10000前後(9000〜12000)と高い値を示す。しかし、閾値以上の大きさの電界が印加されると比誘電率は大きく減少し、5000前後(3000〜7000)にまでおよそ半減する。実施例2の光デバイスにおいても、実施例1の光デバイスと同様、閾値以上の大きさの電界が一旦印加された後は、正から負又は負から正にいくら電界を変化させたとしても、誘電率は低いまま維持される。
【0042】
電界が印加されていない状態の実施例2の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した。図示はしないが、電界が印加されていない状態の実施例2の光デバイスでは、PMN−PTが光の透過を阻止する状態であることが確認された。
【0043】
図17(a)〜(d)は、0kV/cmから11.7kV/cmにまで一方向に変化した後に11.7kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例2の光デバイスに印加しながらデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図17(a)は、電界が印加されていない状態における観察結果である。図17(b)は、7.0kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図17(c)は、11.7kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図17(d)は、11.7kV/cmの電界が一旦印加された後の電界が印加されていない状態における観察結果である。
【0044】
閾値(実施例2では3kV/cm)以上の大きさの電界が印加されると、図17(b)〜(d)に示すように、デバイス本体中のPMN−PTは光の透過を阻止する状態から光の透過を許容する状態に変移する。それと同時にPMN−PTは、図16に示すように、低い比誘電率(誘電率)を示す。印加電界がさらに正に大きくなっても、光の透過が許容され続けると同時に、誘電率は漸減しながら低く保たれる。
【0045】
11.7kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例2の光デバイスに印加した場合には、図16に示すように、比誘電率がおよそ7000と低く保たれる。それと同時に、図17(d)に示すように、光の透過も許容され続ける。
【0046】
高誘電率でかつ光の透過を阻止する状態から低誘電率でかつ光の透過を許容する状態へとPMN−PTが変移する閾値は、実施例1では2kV/cm、実施例2では3kV/cmと異なる。一般に、PMN−PT中のPbTiO3の組成比が小さくなるにつれて閾値は大きくなる。
【0047】
前記実施形態を次のように変更してもよい。
【0048】
光デバイス10を光メモリとして具体化してもよい。この場合、光メモリは、光の透過を許容する状態と光の透過を阻止する状態の二進信号として情報を記憶する。デバイス本体20は光の透過を許容する状態のときには低誘電率を示し、光の透過を阻止する状態のときには高誘電率を示す。従って、誘電率の違いを電圧の変化として検出することにより、記憶した内容を簡単に読み出すことができる。
【0049】
従来、光を使用して情報を記憶させる技術としては、光磁気ディスクがある。光磁気ディスクでは、媒体の特定部分にレーザ光を照射することにより、照射された特定部分をキュリー温度以上に加熱し、該特定部分の保持力が弱くなったところで、外部磁界を付与することにより、上向き或いは下向きに磁化させ、磁化した部分に情報を二進信号として記憶する。このように、光磁気ディスクの場合は、特定部分にレーザ光を照射してキュリー温度以上に上昇させたうえで、磁界を上向き又は下向きに区別して印加させる必要がある。それに対して、光デバイス10を光メモリとして具体化した場合には、キュリー温度以上に加熱するか否かによって、特定部分を光の透過を許容する状態(オン)及び光の透過を阻止する状態(オフ)のいずれかにすることができる。
【0050】
光デバイス10を光バルブとして具体化してもよい。この場合、光バルブは、光の透過を許容する状態と光の透過を阻止する状態との間を切り替わることによって、光の出入りを調節する。デバイス本体20は光の透過を許容する状態のときには低誘電率を示し、光の透過を阻止する状態のときには高誘電率を示す。従って、誘電率の違いを電圧の変化として検出することにより、光バルブの動作を検出することが可能である。
【0051】
光デバイス10のデバイス本体20は、PMN−PTの代わりに、PZN−PT又はPIN−PTから形成されてもよい。
【0052】
光デバイス10は、PMN−PTの光特性及び誘電特性に加えてPMN−PTの圧電特性も利用したアクチュエータとして利用されてもよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光メカトロニクス分野において有用であって例えば携帯電話などの情報機器(IT機器)への応用が可能なリラクサー強誘電体に関する。本発明はまた、そうしたリラクサー強誘電体を用いた光デバイス及び誘電体デバイスなどのデバイス、並びにそうしたデバイスの使用方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リラクサー強誘電体は、高誘電率であって尚かつ誘電率の温度依存性や電界依存性が小さいためにコンデンサー材料として用いられている。或いは、その優れた電気機械結合係数を活かすべく、圧電・電歪材料として使用されている。またリラクサー強誘電体の優れた圧電特性は、例えば超音波変換器等にも利用されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2001−509312号公報
【発明の開示】
【0003】
本発明は、本発明者らが新たに見出したリラクサー強誘電体固溶体単結晶の光特性及び誘電特性に基づくものであり、本発明の目的は、特異な光特性及び誘電特性を有するリラクサー強誘電体固溶体単結晶を提供することにある。また本発明の別の目的は、そうしたリラクサー強誘電体固溶体単結晶を用いたデバイス及びそれの使用方法を提供することにある。
【0004】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様では、キュリー温度未満において、高誘電率でかつ光の透過を阻止する第1の状態と低誘電率でかつ光の透過を許容する第2の状態の間を変移可能であり、第1の状態のときに閾値以上の大きさの電界を印加すると第2の状態に変移するリラクサー強誘電体固溶体単結晶が提供される。
【0005】
上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、第2の状態のときにキュリー温度以上に加熱すると第1の状態に変移することが好ましい。なぜなら、第1の状態と第2の状態の間を可逆的に変移可能なリラクサー強誘電体固溶体単結晶が提供されるからである。
【0006】
上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、鉛系複合ペロブスカイト化合物からなることが好ましい。鉛系複合ペロブスカイト化合物は、(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、(1−x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、及び(1−x)Pb(In1/2Nb1/2)O3・xPbTiO3のいずれで表される化合物であってもよい。上記組成式中のxは、鉛系複合ペロブスカイト化合物中のPbTiO3の組成比を示す。以下の説明においては、(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3をPMN−PTと略称し、(1−x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3をPZN−PTと略称し、(1−x)Pb(In1/2Nb1/2)O3・xPbTiO3をPIN−PTと略称する。PMN−PT、PZN−PT及びPIN−PTは、組成比xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さい範囲において、電界印加により第1の状態と第2の状態の間を変移可能である。
【0007】
以下、組成比xの違いによる鉛系複合ペロブスカイト化合物の特性の変化をPMN−PTにより説明するが、PZN−PT及びPIN−PTの場合も同様である。図2は、組成比xが互いに異なる厚さ約100μmのPMN−PT(001)板における比誘電率の温度依存性を示すグラフである。比誘電率の測定は、PMN−PT(001)板の両面にそれぞれ設けた電極を通じて10kHz、100kHz又は1MHzの周波数の交流電界をPMN−PT(001)板に印加して行った。印加電界の強度は、測定対象の板の厚みに応じて変えたが、最大で10V/cmとした。
【0008】
図2に示すように、印加電界の周波数が高いほど比誘電率は小さい。また図2からは、組成比xが0.1又は0.2のときには比誘電率が比較的大きいことも分かる。誘電率(ε)を真空の誘電率(ε0)で除したものが比誘電率(εr)である(すなわちεr=ε/ε0)ので、誘電率の大きい物質は一般に、比誘電率も大きい。図2で着目すべきは、x=0.1のときには25℃から100℃の間で比誘電率が10000を超えることである。また、x=0.2のときには、100℃においては比誘電率が10000を超えるピークを示すのに対し、50℃において比誘電率が約5000とピークの半分以下であることも着目すべき点である。
【0009】
図3(a)及び図3(b)はPMN−PT固溶体単結晶の状態図を示し、そのうち図3(b)は図3(a)の一部を拡大して示す。図3(a)及び図3(b)において、横軸はPMN−PT中のPbTiO3(PT)の組成比xであり、縦軸は温度である。図3(a)に示すように、PMN−PT固溶体単結晶は、組成比及び温度に応じて、立方晶相、正方晶相、及び疑似立方晶/菱面体晶相のいずれかを示す。図3(a)及び図3(b)においては、正方晶相及び疑似立方晶/菱面体晶相と立方晶相との間の境界を境界線αで示し、疑似立方晶/菱面体晶相と正方晶相との間の境界を境界線MPB(モルフォトロピック相境界)で示す。組成比が一定の場合、ある温度を境に正方晶相又は疑似立方晶/菱面体晶相から立方晶相へ、あるいは立方晶相から正方晶相又は疑似立方晶/菱面体晶相へ結晶相の変化が起こる。この結晶相の変化が起こる温度がキュリー温度である。
【0010】
立方晶相のPMN−PT固溶体単結晶は、光遮断性を有する。すなわち、PMN−PT固溶体単結晶の温度がキュリー温度以上のときには組成比xに関わらずPMN−PT固溶体単結晶は光の透過を阻止する。一方、PMN−PT固溶体単結晶の温度がキュリー温度未満の場合には、組成比xが0.2以上であれば、電界が印加されなくても、PMN−PT固溶体単結晶は少なくとも部分的に光の透過を許容する。
【0011】
疑似立方晶/菱面体晶相のPMN−PT固溶体単結晶は、組成比xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいときに電界に対してヒステリシスを示す。そして、組成比xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいPMN−PT固溶体単結晶は、高誘電率でかつ光の透過を阻止する第1の状態と低誘電率でかつ光の透過を許容する第2の状態との間を変移可能である。また、組成比xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいPMN−PT固溶体単結晶はメモリ効果を有する。メモリ効果とは、キュリー温度未満においてPMN−PT固溶体単結晶に対し閾値以上の大きさの電界を一旦印加すると、その後に印加電界の大きさを増加又は減少させたとしてもPMN−PT固溶体単結晶が第2の状態から第1の状態に変移しないことをいう。
【0012】
図3(b)に示すように、組成比xが0.1以下の場合にはキュリー温度は40℃以下と室温又は室温に近くなる。PMN−PT固溶体単結晶は、キュリー温度以上に加熱されると光の透過を阻止する立方晶相に変わる。そのため、キュリー温度が室温又は室温に近い場合には、たとえ閾値以上の大きさの電界を印加することによりPMN−PT固溶体単結晶を低誘電率でかつ光の透過を許容する状態に変移させたとしても、室温又は室温に近い温度で光の透過を許容する第1状態に戻ってしまうため、メモリ効果が妨げられることとなる。よって、より好適にメモリ効果が発揮されるためには、組成比xは0.1よりも大きいことが好ましい。すなわち、より好適にメモリ効果が発揮されるためには、キュリー温度が40℃よりも大きくなるように組成比xを設定することが好ましい。
【0013】
上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶を構成する鉛系複合ペロブスカイト化合物は、疑似立方晶/菱面体晶相(001)板であることが好ましい。疑似立方晶/菱面体晶相(001)板においては、オブリークフィールド(oblique field)と呼ばれるエンジニアドドメイン構造により、電界印加によるドメインウォールの移動を抑制可能である。これにより、リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、特異な光特性及び誘電特性を示すだけでなく、疑似立方晶/菱面体晶相(001)板の高い電気機械結合係数及び良好な機械的歪み特性に基づき、良好なアクチュエータ特性も示す。
【0014】
本発明の別の態様では、上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶を用いたデバイスが提供される。該デバイスにおいては、リラクサー強誘電体固溶体単結晶の少なくとも光特性が利用されることが好ましく、光特性の変化に伴って現れるリラクサー強誘電体固溶体単結晶の誘電特性の変化が光特性とともに利用されてもよい。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、上記リラクサー強誘電体固溶体単結晶を含むデバイスの使用方法が提供される。該方法は、デバイス中のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を第1の状態から第2の状態に変移させるべく、リラクサー強誘電体固溶体単結晶に閾値以上の大きさの電界を印加する工程と、デバイス中のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を第2の状態から第1の状態に変移させるべく、リラクサー強誘電体固溶体単結晶をキュリー温度以上に加熱する工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る光デバイスの側面図である。
【図2】組成比xが0〜0.9であるPMN−PT(001)板における比誘電率の温度依存性を示すグラフである。
【図3】(a)及び(b)は、PMN−PT固溶体単結晶の状態図である。
【図4】(a)〜(c)は、電界が印加されていない状態の実施例1及び比較例1,2の光デバイスのデバイス本体を撮影した偏光顕微鏡写真である。
【図5】(a)〜(c)は、比較例3の光デバイスのデバイス本体を撮影した偏光顕微鏡写真である。
【図6】比較例3,4の光デバイスにおけるε(E)/ε(0)の電界依存性を示すグラフである。
【図7】(a)〜(d)は、0kV/cmから8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながら撮影したデバイス本体の偏光顕微鏡である。
【図8】実施例1の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである。
【図9】(a)、(b)は、8.2kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながら撮影したデバイス本体の偏光顕微鏡写真である。
【図10】(a)〜(d)は、0kV/cmから−8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながら撮影したデバイス本体の偏光顕微鏡写真である。
【図11】(a)〜(c)は、電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスのデバイス本体を撮影した偏光顕微鏡写真である。
【図12】(a)は実施例1における比誘電率の温度依存性を示すグラフであり、(b)は実施例1における誘電正接の温度依存性を示すグラフである。
【図13】実施例1における分極−電界履歴曲線図である。
【図14】(a)〜(c)は、キュリー温度以上にまで加熱した後の印加電界がゼロのときの実施例1の光デバイスのデバイス本体を撮影した偏光顕微鏡写真である。
【図15】キュリー温度以上にまで加熱した後の実施例1の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである
【図16】実施例2の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである。
【図17】(a)〜(d)は、0kV/cmから11.7kV/cmにまで一方向に変化した後に11.7kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例2の光デバイスに印加しながら撮影したデバイス本体の偏光顕微鏡である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0018】
図1に示す本実施形態に係る光デバイス10は、デバイス本体20と、一対の透明電極30,40を備える。デバイス本体20は、PMN−PT(001)板から薄板状に形成されている。PMN−PT(001)板の(001)は、結晶面の指数を表す。透明電極30,40は、デバイス本体20の上面及び下面の上にそれぞれ設けられている。透明電極30,40は金からなり、スパッタリングや蒸着等の物理的成膜法にて形成されている。
【0019】
上記光デバイス10の光特性の観察は、偏光顕微鏡による観察を通じて行なった。より具体的には、図1に示すように、一対のガラス台110を上面に有する透明ガラス板100を用意し、両ガラス台110にまたがるようにして光デバイス10をガラス板100上に載置した。そして、透明ガラス板100の下方から光デバイス10に向かって光源200からの偏光を投射しながら、直交ニコル下で偏光顕微鏡により光デバイス10を観察した。なお、図1中の<001>は晶帯軸の指数である。
【0020】
透明電極30,40は図示しないリード線及び可変抵抗を介して図示しない直流電源に接続されており、両透明電極30,40間には異なる値の電圧を印加可能である。前記リード線には図示しない切換回路が設けられている。切換回路の切り換えによって両透明電極30,40間には正極性又は逆極性の電圧を印加可能である。また、両透明電極30,40は、デバイス本体20(PMN−PT)の誘電率を測定するための電極としても機能し、光デバイス10がPMN−PTの光特性だけを利用するデバイスとしてではなく、光特性の変化に伴って現れるPMN−PTの誘電特性の変化も光特性とともに利用するデバイスとして電子回路的に使用される際には、コンデンサ出力端子としても利用される。
【0021】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、以下の観察及び測定は、特に断らない限り、いずれも室温(25℃)で行った。
【0022】
PMN−PT(001)板から形成した厚さ122μmのデバイス本体を用いて実施例1,2及び比較例1〜4の光デバイスを作成した。ただし、PMN−PT中のPbTiO3の組成比xは、実施例1においては0.15、実施例2においては0.13、比較例1においては0.2、比較例2においては0.28、比較例3においては0.1、比較例4においては0.06である。
【0023】
図8は、0kV/cmから8.2kV/cmにまで一方向に変化した後に8.2kV/cmから−8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながらデバイス本体(PMN−PT)の比誘電率を測定した結果を示す。なお、電界の印加を開始する前のデバイス本体中のPMN−PTは、高誘電率でかつ光の透過を阻止する状態であった。
【0024】
図4(a)〜(c)は、電界が印加されていない状態の実施例1及び比較例1,2の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図4(a)は、実施例1の光デバイス10における観察結果であり、全体にわたって光の透過が阻止されている様子を示している。図4(b)は、比較例1の光デバイスにおける観察結果であり、部分的に光の透過が許容されている様子を示している。図4(c)は、比較例2の光デバイスにおける観察結果であり、全体にわたって光の透過が許容されている様子を示している。
【0025】
図11(a)〜(c)は、図4(a)と同様、電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。ただし、図11(a)は、ステイジの回転角度が0°のときの観察結果であり、図11(b)は、回転角度が22.5°のときの観察結果であり、図11(c)は、回転角度が45°のときの観察結果である。図11(a)〜(c)に示すように、いずれの回転角度においても消光位又は対角位を示すことなく暗視野像が観察されており、この結果から、電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスでは、PMN−PTが光の透過を阻止する状態にあることが分かる。
【0026】
図11(a)〜(c)に示す結果からは、電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスではPMN−PTのドメイン配列が無秩序であるか或いはドメインサイズが小さく、そのために光の透過が許容されないことが考えられる。電界が印加されていない状態の実施例1の光デバイスでは、図8に示すように、PMN−PTの比誘電率は9500前後(9000〜10000)と高い値を示す。またこのときのPMN−PTの比誘電率及び誘電正接の温度依存性は、図12(a),(b)に示すように、リラクサー特有のVogel-Fulcherタイプの誘電分散を示す。比誘電率及び誘電正接の温度依存性は、直流電源ではなく交流電源を用いてPMN−PTに電界を印加しながらLCRメータにより測定した。印加電界の強度は10V/cmであり、周波数は1kHZ、10kHz、100kHz又は1MHzである。
【0027】
上述及び後述の偏光顕微鏡での観察においては、540nmを中心に400〜600nmの波長範囲を有するハロゲン光源が用いられる。偏光顕微鏡による観察結果を示す図面において、Aは検光子、Pは偏光子を示す。また、電界を印加しながら偏光顕微鏡により観察した結果を示す図面には電界の印加方向を表す記号も併せて示す。直交ニコル下では、検光子Aと偏光子Pは、互いの間に試料を置いた状態で、互いに直交させて用いられる。もし試料が光学的に等方であれば偏光顕微鏡による観察結果は暗視野となり、光学的に異方であれば観察結果は明視野となる。強誘電体の試料は一般に異方体であるが、偏光子Pを分極方向に合わせると観察結果は暗視野になる。この現象は消光と呼ばれる。実施例1の光デバイスのPMN−PTの結晶相は室温(25℃)では菱面体晶相であり、菱面体晶相のPMN−PT(001)板の分極方向は<110>方向に一致する。従って、x軸から45°傾いた位置では暗視野となり、x軸から60°又は30°傾いた位置では明視野となる。最も明るくなる位置は対角位と呼ばれ、菱面体晶相(001)板では対角位はx軸又はy軸に現れる。
【0028】
なお、後述の図9及び図10に示す観察結果を得るときには、正方晶相のPMN−PTの観察に適するように、検光子A及び偏光子Pが基準位置から60°傾いて配置される。正方晶相のPMN−PT(001)板においては、消光位がx軸又はy軸に現れ、x軸とy軸の中間位置で明視野像が観察される。PMN−PT中のPbTiO3の組成比がある程度高いときには、図3(a)に示すように、PMN−PTの結晶相は常温において菱面体晶相ではなく正方晶相である。又、非常に強い電界を印加したときには、PMN−PTの結晶相が菱面体晶相から正方晶相に変化する。
【0029】
図5(a)〜(c)は、比較例3の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図5(a)は、電界が印加されていない状態における観察結果であり、全体にわたって光の透過が阻止されている様子を示している。図5(b)は、23kV/cmの電界が印加された状態における対角位での観察結果であり、明視野像が観察された。図5(c)は、23kV/cmの電界が印加された状態における消光位での観察結果であり、暗視野像が観察された。
【0030】
図6は、比較例3,4の光デバイスにおける後述する誘電率の変化の電界依存性を示すグラフである。誘電率の変化はε(E)/ε(0)で表され、ε(E)をε(0)で除することにより求められる。ε(0)は、室温(25℃)下で周波数1MHz及び強度10V/cmの交流電界を印加した状態において測定されるPMN−PTの誘電率である。ε(E)は、室温(25℃)下で直流電界Eを印加した状態に置いて測定されるPMN−PTの誘電率である。図6において、横軸は、PMN−PTに印加される直流電界Eの強度を示し、縦軸はε(E)/ε(0)を示す。図6に示すように、比較例3,4ともε(E)/ε(0)は印加電界の強度に応じて比較的なだらかに変化する。
【0031】
図5(a)〜(c)及び図6に示す結果から、比較例3の光デバイスのPMN−PTは、電界が印加されていない状態では光の透過を阻止するが、23kV/cmの電界が印加された状態では光の透過を許容することが分かる。しかしながら、比較例3,4の光デバイスのPMN−PTはともに電界に対するヒステリシスを示さない。
【0032】
図7(a)〜(d)は、0kV/cmから8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながらデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図7(a)は、電界が印加されていない状態における観察結果である。図7(b)は、1.6kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図7(c)は、4.9kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図7(d)は、8.2kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。
【0033】
閾値(実施例1では2kV/cm)以上の大きさの電界が印加されると、図7(c),(d)に示すように、デバイス本体中のPMN−PTは光の透過を阻止する状態から光の透過を許容する状態に変移する。それと同時に、図8に示すように、PMN−PTの比誘電率は6000前後(5000〜7000)にまでおよそ半減する。印加電界がさらに正に大きくなっても、光の透過が許容され続けると同時に、比誘電率は漸減しながら低く保たれる。
【0034】
図13は、実施例1の光デバイスのPMN−PTにおける分極−電界履歴曲線を示す。分極−電界履歴曲線は公知のソーヤータワー回路を用いて周波数50Hzの交流電界のもとで測定した。図13から分かるように、低誘電率でかつ光の透過を許容する状態はメモリ効果により記憶される。すなわち、印加電界の大きさを増加又は減少させたとしても、低誘電率でかつ光の透過を許容する状態は維持される。
【0035】
図9(a),(b)は、8.2kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながらデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図9(a)は、8.2kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図9(b)は、電界が印加されていない状態における観察結果である。このように8.2kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を印加した場合には、図8に示すように、誘電率が低く保たれると同時に、図9(a),(b)に示すように光の透過も許容され続ける。
【0036】
図10(a)〜(d)は、0kV/cmから−8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例1の光デバイスに印加しながらデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図10(a)は、電界が印加されていない状態における観察結果である。図10(b)は、−0.8kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図10(c)は、−4.9kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図10(d)は、−8.2kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。
【0037】
このように0kV/cmから−8.2kV/cmにまで一方向に変化する電界を印加した場合には、電界が所定の誘電異常閾値(実施例1では−0.8kV/cm)を超えるときに誘電異常が発生して分極反転が起こる。それに伴い、PMN−PTのドメイン構造には変化が生じる。電界が−0.8kV/cmのときの誘電異常は、図8のグラフで観察可能である。印加電界がさらに負に大きくなっても、光の透過が許容され続けると同時に、誘電率は漸減しながら低く保たれる。
【0038】
上記したように、印加電界の大きさを増加又は減少させたとしても、低誘電率でかつ光の透過を許容する状態は維持される。低誘電率でかつ光の透過を許容する状態から高誘電率でかつ光の透過を阻止する最初の状態にPMN−PTが変移するためには、デバイス本体をキュリー温度以上に加熱することが必要である。
【0039】
図14(a)〜(c)は、キュリー温度以上にまで加熱した後の印加電界がゼロのときの実施例1の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図14(a)は消光位での観察結果であり、図14(b)はステイジの回転角度が22.5°のときの観察結果であり、図14(c)は回転角度が45°のときの観察結果である。図14(a)〜(c)に示すように、いずれの回転角度においても暗視野像が観察されており、この結果から、キュリー温度以上にまで加熱した後のPMN−PTが光の透過を阻止する状態にあることが分かる。
【0040】
図15は、キュリー温度以上にまで加熱した後の実施例1の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである。図15において、△は、ゼロを始点に正方向に電界を変化させながら計測される点を示す。□は、引き続き正から負に向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。×は、引き続き負から正に向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。○は、さらに引き続き正からゼロに向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。図15に示すように、キュリー温度以上にまで加熱された後のPMN−PTの比誘電率は10000前後(9000〜12000)と高い値を示す。しかし、閾値以上の大きさの電界が印加されると比誘電率は大きく減少し、5000前後(4000〜7000)にまでおよそ半減する。また、閾値以上の大きさの電界が一旦印加された後は、正から負又は負から正にいくら電界を変化させたとしても、比誘電率は低いまま維持される。
【0041】
図16は、実施例2の光デバイスにおける比誘電率の電界依存性を示すグラフである。図16において、△は、ゼロを始点に正方向に電界を変化させながら計測される点を示す。□は、引き続き正から負に向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。×は、引き続き負から正に向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。○は、さらに引き続き正からゼロに向かって電界を一方向に変化させながら計測される点を示す。図16に示すように、キュリー温度以上にまで加熱された後のPMN−PTの比誘電率は10000前後(9000〜12000)と高い値を示す。しかし、閾値以上の大きさの電界が印加されると比誘電率は大きく減少し、5000前後(3000〜7000)にまでおよそ半減する。実施例2の光デバイスにおいても、実施例1の光デバイスと同様、閾値以上の大きさの電界が一旦印加された後は、正から負又は負から正にいくら電界を変化させたとしても、誘電率は低いまま維持される。
【0042】
電界が印加されていない状態の実施例2の光デバイスのデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した。図示はしないが、電界が印加されていない状態の実施例2の光デバイスでは、PMN−PTが光の透過を阻止する状態であることが確認された。
【0043】
図17(a)〜(d)は、0kV/cmから11.7kV/cmにまで一方向に変化した後に11.7kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例2の光デバイスに印加しながらデバイス本体を直交ニコル下で偏光顕微鏡を用いて観察した結果を示す。図17(a)は、電界が印加されていない状態における観察結果である。図17(b)は、7.0kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図17(c)は、11.7kV/cmの電界が印加された状態における観察結果である。図17(d)は、11.7kV/cmの電界が一旦印加された後の電界が印加されていない状態における観察結果である。
【0044】
閾値(実施例2では3kV/cm)以上の大きさの電界が印加されると、図17(b)〜(d)に示すように、デバイス本体中のPMN−PTは光の透過を阻止する状態から光の透過を許容する状態に変移する。それと同時にPMN−PTは、図16に示すように、低い比誘電率(誘電率)を示す。印加電界がさらに正に大きくなっても、光の透過が許容され続けると同時に、誘電率は漸減しながら低く保たれる。
【0045】
11.7kV/cmから0kV/cmにまで一方向に変化する電界を実施例2の光デバイスに印加した場合には、図16に示すように、比誘電率がおよそ7000と低く保たれる。それと同時に、図17(d)に示すように、光の透過も許容され続ける。
【0046】
高誘電率でかつ光の透過を阻止する状態から低誘電率でかつ光の透過を許容する状態へとPMN−PTが変移する閾値は、実施例1では2kV/cm、実施例2では3kV/cmと異なる。一般に、PMN−PT中のPbTiO3の組成比が小さくなるにつれて閾値は大きくなる。
【0047】
前記実施形態を次のように変更してもよい。
【0048】
光デバイス10を光メモリとして具体化してもよい。この場合、光メモリは、光の透過を許容する状態と光の透過を阻止する状態の二進信号として情報を記憶する。デバイス本体20は光の透過を許容する状態のときには低誘電率を示し、光の透過を阻止する状態のときには高誘電率を示す。従って、誘電率の違いを電圧の変化として検出することにより、記憶した内容を簡単に読み出すことができる。
【0049】
従来、光を使用して情報を記憶させる技術としては、光磁気ディスクがある。光磁気ディスクでは、媒体の特定部分にレーザ光を照射することにより、照射された特定部分をキュリー温度以上に加熱し、該特定部分の保持力が弱くなったところで、外部磁界を付与することにより、上向き或いは下向きに磁化させ、磁化した部分に情報を二進信号として記憶する。このように、光磁気ディスクの場合は、特定部分にレーザ光を照射してキュリー温度以上に上昇させたうえで、磁界を上向き又は下向きに区別して印加させる必要がある。それに対して、光デバイス10を光メモリとして具体化した場合には、キュリー温度以上に加熱するか否かによって、特定部分を光の透過を許容する状態(オン)及び光の透過を阻止する状態(オフ)のいずれかにすることができる。
【0050】
光デバイス10を光バルブとして具体化してもよい。この場合、光バルブは、光の透過を許容する状態と光の透過を阻止する状態との間を切り替わることによって、光の出入りを調節する。デバイス本体20は光の透過を許容する状態のときには低誘電率を示し、光の透過を阻止する状態のときには高誘電率を示す。従って、誘電率の違いを電圧の変化として検出することにより、光バルブの動作を検出することが可能である。
【0051】
光デバイス10のデバイス本体20は、PMN−PTの代わりに、PZN−PT又はPIN−PTから形成されてもよい。
【0052】
光デバイス10は、PMN−PTの光特性及び誘電特性に加えてPMN−PTの圧電特性も利用したアクチュエータとして利用されてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュリー温度未満において、高誘電率でかつ光の透過を阻止する第1の状態と低誘電率でかつ光の透過を許容する第2の状態の間を変移可能であり、第1の状態のときに閾値以上の大きさの電界を印加すると第2の状態に変移することを特徴とするリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項2】
第2の状態のときにキュリー温度以上に加熱すると第1の状態に変移することを特徴とする請求項1に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項3】
第1の状態のときの比誘電率は9000以上であり、第2の状態のときの比誘電率は7000以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項4】
第1の状態から第2の状態に変移したときに比誘電率がおよそ半減することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項5】
鉛系複合ペロブスカイト化合物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項6】
前記鉛系複合ペロブスカイト化合物は、(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、(1−x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、及び(1−x)Pb(In1/2Nb1/2)O3・xPbTiO3のいずれかで表されることを特徴とする請求項5に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項7】
xは0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいことを特徴とする請求項6に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項8】
前記鉛系複合ペロブスカイト化合物は、疑似立方晶/菱面体晶相(001)板であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項9】
(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、(1−x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、及び(1−x)Pb(In1/2Nb1/2)O3・xPbTiO3のいずれかで表される鉛系複合ペロブスカイト化合物からなり、xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいことを特徴とするリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項10】
前記鉛系複合ペロブスカイト化合物は、疑似立方晶/菱面体晶相(001)板であることを特徴とする請求項9に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を用いたデバイス。
【請求項12】
前記デバイスはリラクサー強誘電体固溶体単結晶の少なくとも光特性を利用する光デバイスである請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記光デバイスは光メモリ又は光バルブである請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスにおいては光特性の変化に伴って現れるリラクサー強誘電体固溶体単結晶の誘電特性の変化も光特性とともに利用される請求項12又は13に記載のデバイス。
【請求項15】
リラクサー強誘電体固溶体単結晶を含むデバイスの使用方法であって、前記リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、キュリー温度未満において、高誘電率でかつ光の透過を阻止する第1の状態と低誘電率でかつ光の透過を許容する第2の状態の間を変移可能であり、前記リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、第1の状態のときに閾値以上の大きさの電界を印加すると第2の状態に変移し、かつ、第2の状態のときにキュリー温度以上に加熱すると第1の状態に変移し、
デバイス中のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を第1の状態から第2の状態に変移させるべく、リラクサー強誘電体固溶体単結晶に閾値以上の大きさの電界を印加する工程と、
デバイス中のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を第2の状態から第1の状態に変移させるべく、リラクサー強誘電体固溶体単結晶をキュリー温度以上に加熱する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項1】
キュリー温度未満において、高誘電率でかつ光の透過を阻止する第1の状態と低誘電率でかつ光の透過を許容する第2の状態の間を変移可能であり、第1の状態のときに閾値以上の大きさの電界を印加すると第2の状態に変移することを特徴とするリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項2】
第2の状態のときにキュリー温度以上に加熱すると第1の状態に変移することを特徴とする請求項1に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項3】
第1の状態のときの比誘電率は9000以上であり、第2の状態のときの比誘電率は7000以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項4】
第1の状態から第2の状態に変移したときに比誘電率がおよそ半減することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項5】
鉛系複合ペロブスカイト化合物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項6】
前記鉛系複合ペロブスカイト化合物は、(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、(1−x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、及び(1−x)Pb(In1/2Nb1/2)O3・xPbTiO3のいずれかで表されることを特徴とする請求項5に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項7】
xは0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいことを特徴とする請求項6に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項8】
前記鉛系複合ペロブスカイト化合物は、疑似立方晶/菱面体晶相(001)板であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項9】
(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、(1−x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3・xPbTiO3、及び(1−x)Pb(In1/2Nb1/2)O3・xPbTiO3のいずれかで表される鉛系複合ペロブスカイト化合物からなり、xが0.1よりも大きくかつ0.2よりも小さいことを特徴とするリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項10】
前記鉛系複合ペロブスカイト化合物は、疑似立方晶/菱面体晶相(001)板であることを特徴とする請求項9に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を用いたデバイス。
【請求項12】
前記デバイスはリラクサー強誘電体固溶体単結晶の少なくとも光特性を利用する光デバイスである請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記光デバイスは光メモリ又は光バルブである請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスにおいては光特性の変化に伴って現れるリラクサー強誘電体固溶体単結晶の誘電特性の変化も光特性とともに利用される請求項12又は13に記載のデバイス。
【請求項15】
リラクサー強誘電体固溶体単結晶を含むデバイスの使用方法であって、前記リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、キュリー温度未満において、高誘電率でかつ光の透過を阻止する第1の状態と低誘電率でかつ光の透過を許容する第2の状態の間を変移可能であり、前記リラクサー強誘電体固溶体単結晶は、第1の状態のときに閾値以上の大きさの電界を印加すると第2の状態に変移し、かつ、第2の状態のときにキュリー温度以上に加熱すると第1の状態に変移し、
デバイス中のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を第1の状態から第2の状態に変移させるべく、リラクサー強誘電体固溶体単結晶に閾値以上の大きさの電界を印加する工程と、
デバイス中のリラクサー強誘電体固溶体単結晶を第2の状態から第1の状態に変移させるべく、リラクサー強誘電体固溶体単結晶をキュリー温度以上に加熱する工程とを含むことを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【国際公開番号】WO2005/073788
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517538(P2005−517538)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001275
【国際出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2005/001275
【国際出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】
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