説明

リン脂質誘導体

【目的】 アミノ基などとの反応性に富むカルボキシル基を(ポリ)オキシアルキレン鎖の先端に有し、リポソームなどの膜形成成分として用いた場合、リポソーム表面でポリオキシアルキレン鎖の先端に機能性物質を容易に共有結合させることができる新規なリン脂質誘導体を得る。
【構成】 下式で表わされるリン脂質誘導体。
【化1】


〔R1、R2は炭素数3〜30の脂肪酸のアシル残基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nは1〜1000、mは1〜4、M1、M2はHまたはアルカリ金属〕

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規かつ有用なリン脂質誘導体に関する。さらに詳しくは医薬の運搬体、検査薬、診断薬、センサー、固定化触媒、バイオリアクター、バイオエレクトロニクス素子、マイクロカプセル代替品など、種々の機能性リポソームまたは脂肪乳剤等の小胞体の製造などに用いられるリン脂質誘導体に関する。
【0002】
【従来の技術】リポソームはリン脂質の二分子膜からなる小胞体であり、多分野での応用が試みられている。特に、医薬運搬体、診断・検出用のセンサーなどへの応用が注目されているが、リポソーム表面上または膜中に機能性物質を固定して各種機能をもたせること、およびリポソームの血中濃度を維持することなどが大きな課題となっている。
【0003】従来、リポソーム表面上または膜中への機能性物質の固定化に関しては、プルラン誘導体で被覆したリポソームの表面上の多糖上に置換したアミノエチルカルバミルメチル基にγ−マレイミドブチルオキシサクシニミジルを介して抗体フラグメントを結合させる方法(Biochem. Biophys. Acta., 898, 323(1987))、あるいはあらかじめリポソーム膜形成成分中に糖脂質を加えておき、リポソーム形成後過よう素酸酸化を行い、生じたアルデヒド基と抗体とを反応させて固定化する方法(J. Biol. Chem., 255, 10509(1980))などがある。
【0004】しかし、これらの従来法では、リポソーム調製後にリポソーム膜表面上での多段階の化学反応を行う必要があり、このため目的とする機能性物質の導入量が低く制限され、また反応による副生成物や不純物が混入し、リポソーム膜へのダメージが大きいなどの問題点がある。
【0005】一方、リポソームを生体内へ投与したとき、その多くは肝臓、脾臓などの網内系器官で捕捉されるため、十分な効果が得られないことが指摘されている(Cancer Res., 43, 5328(1983))。そこで、この網内系器官で捕捉されてしまう問題点や、あるいはリポソーム自身の崩壊性・凝集性など安定性の低さに関する問題点を改善する方法として、リポソームの表面にポリエチレングリコール鎖を導入することが試みられている(例えば、特開平1−249717号公報、FEBS letters, 268, 235(1990))。また、ポリエチレングリコールで修飾されたリポソームは、長期間にわたり血液中濃度を維持できることが明らかになっている(Biochem. Biophys. Acta., 1066, 29-36(1991))。しかし、このような方法により得られるポリエチレングリコール鎖の導入されたリポソームは機能性物質と反応しないので、リポソーム表面上に機能性物質を固定化することはできない。
【0006】また特表平5−508388号公報には、α−ステアリル−ω−プロピオン酸−ポリオキシエチレンに代表されるようなアニオン基を有するポリエチレングリコール誘導体からなるリポソーム製剤が開示されている。しかし、このポリエチレングリコール誘導体は、疎水部がモノアルキル基であるためリポソーム膜から脱離しやすく、このためこのようなポリエチレングリコール誘導体を膜形成成分として含むリポソームは長期間の安定性に劣るという問題点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、(ポリ)オキシアルキレン鎖の先端に、簡単にかつ効率よく種々の機能性物質を電気的にまたは共有結合により固定化することができる新規かつ有用なリン脂質誘導体を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、下記一般式〔1〕で表わされるリン脂質誘導体である。
【化2】


〔式中、R1およびR2は炭素数3〜30の脂肪酸のアシル残基を表わし、同一でも異なっていてもよい。R3は水素原子またはメチル基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。mは1または4の整数、M1およびM2は水素原子またはアルカリ金属原子を表わす。〕
【0009】本発明において、「(ポリ)オキシアルキレン」はnが1のオキシアルキレンまたはnが2以上のポリオキシアルキレンを意味する。また「(ポリ)アルキレン」も上記と同様にアルキレンまたはポリアルキレンを意味する。
【0010】一般式〔1〕においてR1またはR2で表わされる脂肪酸のアシル残基は、炭素数3〜30、好ましくは8〜20のアシル残基である。このようなアシル残基の具体的なものとしては、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ソロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、2−エチルヘキサン酸等の飽和脂肪酸のアシル残基;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、2,4−オクタデカジエン酸等の不飽和脂肪酸のアシル残基;イソステアリン酸等の分岐脂肪酸のアシル残基;リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸等のアルキル基中に水酸基を有する脂肪酸のアシル残基などがあげられる。
【0011】本発明のリン脂質誘導体をリポソームまたは脂肪乳剤などの製造に用いる場合は、R1またはR2で表わされる脂肪酸のアシル残基は、安定なリポソームまたは脂肪乳剤が形成できるという理由から、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、2,4−オクタデカジエン酸のアシル残基が好ましく、特にパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸のアシル残基が好ましい。R1とR2とは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0012】一般式〔1〕のAOで表わされるオキシアルキレン基は、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシ−1−エチルエチレン基、オキシ−1,2−ジメチルエチレン基、オキシテトラメチレン基などがあげられる。これらのオキシアルキレン基は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、オキセタン、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、テトラヒドロフランなどのアルキレンオキシドを付加重合させた基である。一般式〔1〕のnはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜1000、好ましくは10〜500、さらに好ましくは20〜300の正数である。
【0013】nが2以上の場合、オキシアルキレン基の種類は同一のものでも、異なるものでもよい。後者の場合、ランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。親水性を付与する場合、AOとしてはエチレンオキシドが単独で付加したものが好ましく、この場合、nが10以上のものが好ましい。また種類の異なるアルキレンオキシドが付加している場合、エチレンオキシドが20モル%以上、好ましくは50モル%以上付加しているのが望ましい。(ポリ)オキシアルキレン鎖に親油性を付与する場合はエチレンオキシド以外の付加モル数を多くする。
【0014】一般式〔1〕のmは1〜4の整数である。本発明のリン脂質誘導体をリポソームまたは脂肪乳剤などの製造に用いる場合、mは2または3が好ましい。一般式〔1〕のM1およびM2は水素原子またはナトリウムもしくはカリウム等のアルカリ金属原子であり、同一でも異なっていてもよい。
【0015】一般式〔1〕で表わされるリン脂質誘導体は、例えば次のような2段階の反応により、容易に製造することができる。第1段階目の反応では、ホスホリパーゼD酵素の存在下に、リン脂質またはそのアルカリ金属塩とポリアルキレングリコールとを反応させ、ホスファチジル=ポリアルキレングリコールを合成する。このとき使用するホスホリパーゼDとしては、市販品または「J.Biol.Chem.,242,477-484(1967)」に記載されている方法などにより抽出・精製したものであってもよい。またリン脂質またはそのアルカリ金属塩としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸およびこれらのアルカリ金属塩などが使用できる。ホスホリパーゼDの使用量は、特に限定されないが、リン脂質1gに対して5〜500単位とするのが好ましい。また、リン脂質とポリアルキレングリコールとの仕込モル比は、リン脂質1モルに対してポリアルキレングリコール2〜100モルとするのが好ましい。
【0016】反応は酢酸緩衝液、炭酸緩衝液等の水系溶媒、またはこれらの水系溶媒とクロロホルム、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等の有機溶媒との混合溶媒中で行うのが好ましい。反応温度は0〜80℃、好ましくは30〜40℃、反応時間は10分間〜170時間、好ましくは30分間〜24時間とするのが望ましい。このようにして得られたホスファチジル=ポリアルキレングリコールは、そのまま、または再沈殿、カラム処理、吸着剤処理、イオン交換、ゲル濾過、限外濾過、透析、薄層クロマトグラフィーなどの方法により単離・精製して、次の第2段階目の反応に供する。
【0017】第2段階目の反応では、第1段階目の反応で得られたホスファチジル=ポリアルキレングリコールに炭素数3〜6のジカルボン酸無水物を反応させ、目的とするリン脂質誘導体を合成する。ジカルボン酸無水物としては、無水コハク酸、無水グルタル酸などがあげられる。両者の仕込モル比は特に限定されないが、ホスファチジル=ポリアルキレングリコール1モルに対してジカルボン酸無水物0.5〜100モル、好ましくは1〜10モルとするのが望ましい。
【0018】反応は無溶媒で、またはクロロホルム、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル等の有機溶媒中で、ピリジン、トリエチルアミンなどの触媒の存在下に行うのが好ましい。反応温度は0〜150℃、好ましくは40〜100℃、反応時間は30分間〜48時間、好ましくは1〜24時間とするのが望ましい。反応終了後は、蒸留、再結晶、再沈澱、吸着剤処理、カラム処理、イオン交換、ゲル濾過、限外濾過、透析などの方法により単離・精製することができる。
【0019】ポリアルキレングリコールとしてポリエチレングリコール、ジカルボン酸無水物として無水コハク酸を用いた場合の反応式を次に示す。なお、式中R1、R2、M1、M2およびnは前記と同じもの、PL−PEGはホスファチジル=ポリエチレングリコールを示す。
【化3】


【0020】このようにして得られたリン脂質誘導体は、疎水性に富む2本の脂肪酸残基と、親水性に富むポリオキシアルキレン基とを有しているので、優れた界面活性能を有している。このため、本発明のリン脂質誘導体は、小胞体形成成分などとして使用することができる。ここで小胞体とは、小胞体形成成分の親水基が界面の水相に向って配向した構造を有する粒子を意味する。具体的なものとしては、二分子膜からなる閉鎖小胞であるリポソーム、植物油およびリン脂質などの混合物が乳化された脂肪乳剤、またはミセルなどがあげられる。
【0021】本発明のリン脂質誘導体は、末端に官能性としてカルボキシル基を有しているので、アミノ基、水酸基またはチオール基などの官能基、特に第1級アミノ基に対して高い反応性を有している。このため、このような官能基を有する機能性物質と容易に反応し、共有結合が形成される。またカルボキシル基がプラスの電荷を有する機能性物質と容易に電気的に結合する。従って、本発明のリン脂質誘導体を小胞体形成成分として用いることにより、小胞体に(ポリ)オキシアルキレン鎖を導入できるとともに、前記官能基を有する機能性物質またはプラスの電荷を有する機能性物質に対する反応性を付与することができ、反応性小胞体を製造することができる。
【0022】また本発明のリン脂質誘導体はR1およびR2の2本の脂肪酸アシル残基を有しているため、小胞体中、特にリポソーム膜中から脱離しにくい。このため本発明のリン脂質誘導体を小胞体形成成分として含む小胞体、特にリポソームは、1本の脂肪酸残基からなるノニオン系界面活性剤を膜形成成分として含むリポソームに比べて、優れた安定性を有するものとなる。
【0023】本発明のリン脂質誘導体を用いて反応性小胞体を製造する場合、リン脂質誘導体は一種単独で、または二種以上組合せて、あるいは小胞体を形成しうる他の小胞体形成成分、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、その他のリン脂質類、コレステロール、イントラリピッド(大塚製薬(株)、商標)、大豆油、サフラワー油などと混合して使用することができ、反応性リポソームをはじめ反応性脂肪乳剤、反応性ミセルなどの反応性小胞体を形成することができる。この場合、小胞体は公知の方法により製造することができる。
【0024】本発明のリン脂質誘導体を用いて得られた反応性小胞体は、一般式〔1〕で表わされる化合物中のカルボキシル基が小胞体の表面に存在するので、この基を官能基として利用して、水溶性の脱水縮合剤などを用いることにより種々の機能性物質を共有結合により導入することができる。また種々の機能性物質を電気的に固定化することもできる。
【0025】次に本発明のリン脂質誘導体を用いて製造したそれぞれの反応性小胞体について詳しく説明する。代表的な反応性小胞体である反応性リポソームは、本発明のリン脂質誘導体を膜形成成分(小胞体形成成分)として含有するものである。リン脂質誘導体の含有量は、リン脂質誘導体および他の膜形成成分の合計量に対して0.1〜50モル%、好ましくは0.5〜30モル%であるのが望ましい。0.1モル%未満では期待される効果が小さくなるため、一般的には使用されない。また50モル%を超えるとリポソームの安定性が低下するため一般的には使用されない。全膜形成成分中に占める本発明のリン脂質誘導体の割合を多くするほど、固定化する機能性物質の量をより多くすることができる。リン脂質誘導体は、一種単独で使用することもできるし、二種以上のものを組合せて使用することもできる。
【0026】リン脂質誘導体と混合して用いられる他の膜形成成分としては、従来からリポソームの膜形成成分として用いられているものが制限なく使用できる。具体的には、ジホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、大豆レシチン、卵黄レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール等のリン脂質および脂肪酸部に不飽和基を有する重合性リン脂質;スルホキシリボシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ラクトシルジグリセリド等の糖脂質類;コレステロール等の非極性脂質;その他には、非イオン性界面活性剤、ホスファチジルポリエチレングリコール、「Biochem. Biophys. Acta., 1066, 29-36(1991)」に記載されているホスファチジルエタノールアミンとポリエチレングリコールとの反応物、およびこれらの混合物などがあげられる。
【0027】反応性リポソームは、リン脂質誘導体およびレシチン、コレステロール、リン脂質等の他の膜形成成分を、有機溶媒等の適当な溶媒に溶解し、エクスツルージョン法、ボルテックスミキサー法、超音波法、界面活性剤除去法、逆層蒸発法、エタノール注入法、プレベシクル法、フレンチプレス法、W/O/Wエマルジョン法、アニーリング法、凍結融解法など、種々の公知の方法によりリポソーム化することにより製造することができる。また、これらの製造法を選択することにより、多重層リポソーム、小さな一枚膜リポソーム、大きな一枚膜リポソームなど、種々の大きさや形態を有する反応性リポソームを製造することができる。
【0028】このようにして得られた反応性リポソームは、リポソーム膜の内外表面に(ポリ)オキシアルキレンからなるスペーサーを介してカルボキシル基が結合しているので、アミノ基、水酸基、チオール基などの官能基、特に第1級アミノ基を有する機能性物質を効率よくかつ簡単に、リポソームの二分子膜上に(ポリ)オキシアルキレンからなるスペーサーを介して、アミド結合、エステル結合またはチオールエステル結合により化学的に固定化することができる。またカルボキシル基に、プラスの電荷を有する機能性物質を電気的に固定化することができる。
【0029】反応性リポソームに固定化できる機能性物質としては、例えば色素、染料、放射線ラベル化合物、蛍光化合物、化学発光化合物、電極感応性化合物等の標識物質;光応答性化合物、pH応答性化合物、熱応答性化合物等の外部刺激応答性化合物;酵素、抗体、その他のタンパク質、糖、脂質、糖タンパク質、糖脂質、ホルモン等の生理活性物質;医薬などであって、分子中にアミノ基、水酸基またはチオール基を有するもの、またはプラスの電荷を有するものなどがあげられる。これらの中では、アミノ基、特に第1級アミノ基を有する機能性物質が好ましい。
【0030】反応性リポソーム上への機能性物質の共有結合による固定化反応は、N−シクロヘキシル−N′−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド=メソ−p−トルエンスルホネート、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などの水溶性の脱水縮合剤の存在下、種々の緩衝液等の水系溶媒、またはこれらの水系溶媒とアセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセタミド、ジメチルスルホキシド、ピロリドン等の有機溶媒との混合溶媒中で、反応性リポソームと前記官能基を有する機能性物質とを−10〜+100℃、アミノ基との反応の場合は好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは0〜40℃、水酸基またはチオール基との反応の場合は好ましくは30〜80℃で、10分間〜300時間、好ましくは30分間〜24時間攪拌下に反応させる方法などにより、一段階で容易に行うことができる。これらの条件外では、リポソームの安定性が悪くなるため好ましくない。
【0031】リポソーム表面上でのアミノ基を有する機能性物質の固定化反応を模式的に示すと次のようになる。式中、AO、n、m、M2は前記と同じものを示す。
【化4】


【0032】機能性物質を電気的に固定化する場合は、種々の緩衝液等の水系溶媒中で、反応性リポソームにプラスの電荷を有する機能性物質を接触させることにより、一段階で容易に行うことができる。
【0033】反応性リポソームの内部には、一般のリポソームと同様に種々の物質を公知の方法により封入することが可能である。被封入物質としては、例えば色素、染料、放射線ラベル化合物、蛍光化合物、化学発光化合物等の標識物質;光応答性化合物、pH応答性化合物、熱応答性化合物、電極感応性化合物等の外部刺激応答性化合物;酵素、抗体、その他のタンパク質、糖、脂質、糖タンパク質、糖脂質、ホルモン等の生理活性物質;医薬;ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸等の水溶性高分子類などがあげられる。固定化反応または封入操作の終了後は、必要によりゲル濾過、限外濾過、透析、遠心分離、静置沈降分離等の方法により精製を行うことができる。
【0034】機能性物質を固定化したリポソームは、(ポリ)オキシアルキレン鎖の先端に機能性物質が固定化されているので、(ポリ)オキシアルキレン鎖に邪魔されることなく機能性物質の作用が十分に発揮される。また、(ポリ)オキシアルキレン鎖が導入されているので、従来からの(ポリ)オキシアルキレン鎖導入の効果、例えば長期間にわたる血液中濃度の維持、非免疫原性、リポソーム内部に封入した物質の漏れ防止などの効果も期待できる。このため反応性リポソームは、医薬の運搬体、検査薬、診断薬、センサー、固定化触媒、バイオリアクター、バイオエレクトロニクス素子、マイクロカプセル代替品など、種々の機能性リポソームとして利用できる。
【0035】なお、反応性リポソームを製造する際、他の膜形成成分として重合性リン脂質を配合することにより、重合性の反応性リポソームとすることができる。重合性のリン脂質としては、公知の重合性リン脂質を使用することができるが、例えば1,2−ジ(2,4−オクタデカジエノイル)−3−ホスファチジルコリンの他、野島庄七、砂本順三、井上圭三編集、1988年南江堂発行の「リポソーム」p313〜315に記載のものなどがあげられる。これらの中では、1,2−ジ(2,4−オクタデカジエノイル)−3−ホスファチジルコリンが好ましい。
【0036】重合性リポソームは、リポソーム調製後に、光重合開始剤の存在下または非存在下でUV、γ線、電子線などの光照射を行うことにより、あるいはレドックス開始剤系により、あるいはアゾ系開始剤または有機過酸化物などの存在下で加熱を行うことにより、容易に重合を行うことができる。このようにして得られた重合後のリポソームは、優れた安定性を有しているので、水溶液に分散させたままで、あるいは凍結乾燥等により粉末状に調製し、安定して使用することができる。
【0037】他の反応性小胞体としての反応性脂肪乳剤は、本発明のリン脂質誘導体と、大豆油、サフラワー油等の植物油と、大豆レシチン、卵黄レシチン等のリン脂質と、必要により添加される他の添加剤、例えばイントラリピッド(大塚製薬(株)製、商標)、乳化補助剤、安定化剤、等張化剤、脂溶性医薬、脂溶性生理活性物質などを含む油脂混合物が乳化されたものである。油脂混合物中に占めるリン脂質誘導体の含有量は、0.1〜50モル%、好ましくは0.5〜30モル%であるのが望ましい。
【0038】反応性脂肪乳剤は、公知の方法により製造することができる。例えば、本発明のリン脂質誘導体、植物油、他のリン脂質および必要により配合する添加剤を混合、加熱し、水を加えてホモミキサー等で粗乳化し、次にマントン−ガウリン型の加圧噴射式ホモジナイザー等で均質化する方法などにより製造することができる。
【0039】このようにして得られた反応性脂肪乳剤には、反応性リポソームの場合と同様にして、同様の機能性物質を容易に固定化することができる。このため反応性脂肪乳剤は、医薬の運般体、検査薬、診断薬、センサー、固定化触媒などとして利用できる。
【0040】上記以外の反応性小胞体である反応性ミセルは、本発明のリン脂質誘導体だけからなるものであっても、レシチン、コレステロール、リン脂質等の他の成分が含有されているものであってもよい。反応性ミセルも反応性脂肪乳剤と同様にして機能性物質を固定化することができ、同様の用途に利用できる。
【0041】
【発明の効果】本発明のリン脂質誘導体は新規かつ有用である。本発明のリン脂質誘導体を小胞体形成成分として用いることにより、小胞体に(ポリ)オキシアルキレン鎖を導入できるとともに、この(ポリ)オキシアルキレン鎖の先端に、簡単にかつ効率よく種々の機能性物質を共有結合により、または電気的に固定化することができ、しかも機能性物質の導入量を多くすることができる。この場合、小胞体は長期間の保存安定性に優れている。また本発明のリン脂質誘導体を小胞体形成成分として用いることにより、(ポリ)オキシアルキレン鎖導入の効果、例えば長期間にわたる血液中濃度の維持、非免疫原性、小胞体に内包した物質の漏れ防止などの効果も期得できる。
【0042】
【実施例】以下、実施例により、さらに詳細な説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1ジパルミトイルホスファチジルコリン0.5g(0.68mmol)およびポリエチレングリコール(Mw≒1000、n≒23)5g(5.0mmol)を溶解させたクロロホルム溶液40mlに、ホスホリパーゼD(旭化成(株)製)40単位を溶解させた1M酢酸緩衝液(pH5.6)20mlを加え、40℃で12時間攪拌して反応させた。次に、0.1N水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、有機層を減圧下で濃縮した。得られた反応混合物をシリカゲルカラム(20%メタノール/クロロホルム)を用いて分画し、濃縮した後、少量のクロロホルムに溶解させ、これをヘキサンに再沈殿することにより、ジパルミトイルホスファチジル=ポリエチレングリコールを得た(収率30%)。
【0043】次に、乾燥させたクロロホルム10ml中に、上記ジパルミトイルホスファチジル=ポリエチレングリコール100mg(0.57mmol)、無水コハク酸0.86mg(0.86mmol)および触媒量のピリジンを加え、60℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物をヘキサン中に再沈殿させ、さらに限外濾過(分画分子量500)したのち凍結乾燥し、目的の下記反応性リン脂質誘導体を得た(収率89%)。
【0044】
【化5】


【0045】精製物は、1H−NMRおよびIRスペクトルにより確認した。結果は次の通りである。
1H−NMR(270MHz,CDCl3、TMS、δ;ppm、J:Hz)
7.26(k;s、1H)
5.23(f;m、1H)
4.27(i;t、2H、J=4.6)
4.00(e、g;m、4H)
3.65(h;m、約90H)
2.64(j;m、4H)
2.31(d、d′;m、4H)
1.60(c、c′;m、4H)
1.29(b、b′;m、48H)
0.90(a、a′;m、6H)
IR;(KBr、cm-1
1728(エステル、C=O伸縮)
1598、1420(カルボン酸)
【0046】実施例2実施例1と同様にして、ただしポリアルキレングリコール誘導体として分子量約5000(n≒115)のものを用いて、目的の下記反応性リン脂質誘導体を得た。
【化6】


【0047】精製物は、1H−NMRおよびIRスペクトルにより確認した。結果は次の通りである。
1H−NMR(270MHz,CDCl3、TMS、δ;ppm、J:Hz)
7.26(k;s、1H)
5.23(f;m、1H)
4.27(i;t、2H、J=4.6)
4.00(e、g;m、4H)
3.65(h;m、約455H)
2.64(j;m、4H)
2.31(d、d′;m、4H)
1.60(c、c′;m、4H)
1.29(b、b′;m、48H)
0.90(a、a′;m、6H)
IR;(KBr、cm-1
1728(エステル、C=O伸縮)
1598、1420(カルボン酸)
【0048】実施例3実施例1と同様にして、ただしポリアルキレングリコール誘導体として(エチレングリコール)p/(プロピレングリコール)q/(エチレングリコール)rの三元ランダム共重合体(p≒20、q≒10、r≒20)を用いて、目的の下記反応性リン脂質誘導体を得た。
【化7】


【0049】精製物は、1H−NMRにより確認した。結果は次の通りである。
1H−NMR(270MHz,CDCl3、TMS、δ;ppm、J:Hz)
7.26(a;s、1H)
5.23(6;m、1H)
4.26(d;t、2H、J=4.6)
4.00(5、7;m、4H)
3.60(e、f、g、k;m、約190H)
2.64(b、c;m、4H)
2.31(4、4′;m、4H)
1.60(3、3′;m、4H)
1.26(2、2′;m、48H)
1.12(h;m、15H)
0.88(1、1′;t、6H、J=6.4)
IR;(KBr、cm-1
1730(エステル、C=O伸縮)
1599、1420(カルボン酸)
【0050】試験例1卵黄ホスファチジルコリン20mg(26μmol)、コレステロール3.9mg(10μmol)および実施例1で得られた化合物5mg(1.7μmol)をナス型フラスコに入れ、2mlのベンゼンで溶解させた後、凍結乾燥を行った。これに生理的食塩水1mlを加え、バス型超音波照射およびボルテックスミキサーによりリポソーム化して多重層リポソームを得た。さらにエクスツルーダーにより3.0→1.0→0.2μmのポリカーボネートメンブランを順次通過させ、大きな単層リポソームを得た。得られたリポソームの粒径をレーザー散乱粒度分布計(NICOMP社製、NICOMP370HPL、商標)を用い測定したところ平均粒径262nm(CV値19%)であった。上記リポソームを5℃で一か月静置した後、平均粒径を測定したところ、平均粒径191nm、CV値19%であり、安定性に優れていた。
【0051】比較試験例1試験例1と同様にして、ただし実施例1で得られた化合物の代わりに、α−ステアリル−ω−メトキシ−ポリオキシエチレン(平均付加モル数約10)を用いてリポソームを調製した。得られたリポソームの平均粒径は186nm(CV値23%)であった。このリポソームを5℃で一週間静置した後、平均粒径を測定したところ、平均粒径379nm、CV値61%であり、凝集が見られ、安定性が悪かった。
【0052】試験例2試験例1で得られたリポソーム溶液(固形分量0.25%)の500μlに、1mg/1mlの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩水溶液(pH5)500μlを加え、5℃で30分間攪拌した。さらに1mg/mlの西洋山葵ペルオキシダーゼ(以下HRPと略す)/0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)100μlを加え、5℃で24時間攪拌して、リポソームにHRPを固定化した。これをSephadex G−50を用いてゲル濾過を行い、含リポソーム分画を分取し、HRP固定化リポソームを得た。これに、HRPの基質である1,2−フェニレンジアミン溶液(10mmol/l)0.1mlを加え、30℃で10分間インキュベートし、さらに0.1N硫酸10μlを加えたところ、褐色の呈色が見られた。
【0053】比較試験例2卵黄ホスファチジルコリン20mg(26μmol)、およびコレステロール3.9mg(10μmol)のみにより、試験例1と同様の操作により、固形分量2.5%の多重層リポソームを得た。これを試験例2と同様にして、HRPを作用させた。ゲル濾過により精製後、1,2−フェニレンジアミン溶液(10mmol/l)0.1mlを加え、30℃で10分間インキュベートし、さらに0.1N硫酸10μlを加えたが、発色は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式〔1〕で表わされるリン脂質誘導体。
【化1】


〔式中、R1およびR2は炭素数3〜30の脂肪酸のアシル残基を表わし、同一でも異なっていてもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜1000の正数を表わす。nが2以上の場合、オキシアルキレン基は同一でも異なっていてもよく、またランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。mは1〜4の整数、M1およびM2は水素原子またはアルカリ金属原子を表わす。〕