説明

リン酸化物

【課題】少量の添加で高い界面活性を示す、化粧品、塗料、印刷用インク等の乳化剤等として利用可能であり、また2鎖2親水基含有陰イオン界面活性剤の合成に有用な新規なリン酸化物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるリン酸化物。


但し、上記一般式(1)において、nは1から20の整数、Xが水酸基のとき、Yはリン酸基又はその塩、Xがリン酸基又はその塩のとき、Yは水酸基である隣接する置換基X、Yを有する炭素数10〜26のアルキル基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規リン酸化物に関し、詳細には、リン酸基に隣接する水酸基を分子中に含有するリン酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の1鎖1親水基含有界面活性剤2分子を共有結合で2分子連結させた、2鎖2親水基含有界面活性剤は、その優れた界面活性能のために低濃度の配合で済み、環境への負荷が軽減化され、皮膚刺激もほとんどないなどの特徴から、研究開発が進められてきている(特許文献1参照)。実際、2鎖2親水基含有界面活性剤は、その対応する”モノマー”に比べて皮膚安全性に優れること(非特許文献1参照)、2鎖2親水基含有界面活性剤として、親水基を含む連結部位に疎水基を導入して、2鎖2親水基を実現するなど分子設計に工夫をしたものも知られている(非特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3426493号
【非特許文献1】Kazuyuki Tsuboneら著、ジャーナル オブ サーファクタント アンド ディタージェント(Journal of Surfactant & Detergent,第6巻、1号、39−46頁、2003年)
【非特許文献2】Kazuyuki Tsuboneら著、ジャーナル オブ サーファクタント アンド ディタージェント(Journal of Surfactant & Detergent,第7巻、1号、47−52頁、2004年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、工業的実施を前提にしてこの2鎖2親水基含有界面活性剤の分子設計を考えるとき、2分子の連結や、疎水基、極性基の導入が必ずしも容易ではなく、分子設計が限定されたものにならざるを得ず、しかもその中で比較的高価な原材料の使用を余儀なくされることが多いために、その優れた性能にもかかわらず、いまだ実用に至っているものはほとんどないというのが実情である。また非特許文献2記載のものも、コストに問題を残し、根本的な解決には至っていない。かかる背景にあって本発明の目的は、安価な原材料のみを用いて容易に生産でき、2鎖2親水基含有陰イオン界面活性剤の合成に有用な、リン酸基に隣接する水酸基を分子疎水鎖に含有するリン酸化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、二重結合を1個有する炭素数10〜26の不飽和脂肪族アルコールのアルキルエーテル化物の、二重結合を開いた位置にリン酸基と水酸基とを隣接して導入したリン酸化物が、上記要求を満足することを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で示されるリン酸化合物を要旨とする。
【0007】
【化1】

【0008】
但し、上記一般式(1)において、nは1から20の整数、
【0009】
【化2】

【0010】
式(1)中の上記化2の基は、Xが水酸基のとき、Yはリン酸基又はその塩、Xがリン酸基又はその塩のとき、Yは水酸基である隣接する置換基X、Yを有する炭素数10〜26のアルキル基を示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリン酸化物の中和物は、顕著に高い界面活性を示し、例えば乳化剤として使用する場合、従来の1鎖1親水基含有陰イオン界面活性剤に比べて少量の添加で済む。また本発明のリン酸化物は、リン酸基に隣接する水酸基を持つので別の2鎖2親水基含有陰イオン界面活性剤の合成に有用である。また本発明の、エーテル結合を有するリン酸化物は安定であるため、本発明のリン酸化物を例えば、洗浄用途に使用した場合、使用中に分解する虞がなく、長期利用が可能であるばかりでなく、洗浄液からの回収再生による再利用も可能であるなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一般式(1)で表されるリン酸化物において、nは1から20の整数であるが、好ましくは4〜16の整数である。一般式(1)において、Xが水酸基のとき、Yはリン酸基又はその塩、Xがリン酸基又はその塩のとき、Yは水酸基となり、リン酸が塩の場合、塩となる対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオンなどの無機陽イオン又は有機アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0013】
本発明の一般式(1)で表されるリン酸化物は、二重結合を1個有する炭素数10〜26の不飽和脂肪族アルコールを、炭素数1〜20のハロゲン化アルキルと反応し、エーテル化して、得られた不飽和脂肪族アルコールのアルキルエーテル化物を酸化して、二重結合部分を開くことにより水酸基を導入して(ジヒドロキシアルキル)アルキルエーテルとし、これを有機溶媒中でポリリン酸と反応することにより、二重結合を開いた位置にリン酸基と水酸基とを隣接して導入して得られる。下記化3は、9−オクタデセノールのアルキルエーテル化物を酸化して得られる(9,10−ジヒドロキシオクタデシル)アルキルエーテルにトルエン等の有機溶媒中でポリリン酸を反応させて本発明のリン酸化物a)、b)を得る反応を示したものである。
【0014】
【化3】

【0015】
上記化3に示す本発明のリン酸化物は、9−オクタデセノールとハロゲン化アルキルを反応させて得られる9−オクタデセニルアルキルエーテルを、1〜5倍モル当量の過酸化水素と、1〜50倍モル当量のギ酸を用いて、5〜60℃にて8〜48時間攪拌し、酸化して得られる(9,10−ジヒドロキシオクタデシル)アルキルエーテルに、トルエン等の有機溶媒中で、1〜5倍モル当量のポリリン酸を10℃ないし100℃、好ましくは室温〜80℃で、1〜96時間程度攪拌し、その後、減圧下、溶媒を除去して得られ、オクタデシル基の9位にリン酸基又は水酸基を、10位に水酸基又はリン酸基を導入して得られる。さらにシリカゲルを固定相として、クロロホルム・メタノールの混合溶媒などを移動層とするカラムクロマトグラフィーによって精製することができる。また、所定量のアルカリを加えて中和して本発明のリン酸化物を得ることもできる。有機溶媒としては、例えばトルエン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン、ベンゼン等が挙げられる。
【0016】
上記の9−オクタデセニルアルキルエーテルを得るためのハロゲン化アルキルとしてのハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられ、アルキル鎖はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、エチルヘキシル、ドデシル、テトラデシル、へキサデシル、オクタデシル、エイコシル等を用いることにより、一般式(1)におけるnの異なる本発明のリン酸化物を得ることができる。また不飽和脂肪族アルコールとしては、炭素数18のオクタデセノールの代わりに、デセノール(C´10)、ドデセノール(C´12)、トリデセノール(C´13)、テトラデセノール(C´14)、ヘキサデセノール(C´16)、ドコセノール(C´22)、テトラコセノール(C´24)等が挙げられ、また、不飽和アルコールの幾何異性体であるシス体及びトランス体の両方とも用いることができ、これらを開環した場合、それぞれトレオ体及びエリトロ体となる(例示した式は、シス体からトレオ体となったものである。)。これらのアルキルエーテルを用いることにより、一般式(1)におけるR1、R2、nの異なる本発明のリン酸化物を得ることができる。
【実施例】
【0017】
次に実施例で詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
1)ジヒドロキシ化反応
2−ドデセニルオクチルエーテル(10.0g、0.034モル)、30%過酸化水素(4.01g、0.035モル)ギ酸(47.5g、1.01モル)を入れ、40℃にて、24時間攪拌を行った。その後洗浄し、溶媒除去を行った後、炭酸カリウム(2.34g、0.017モル)、エタノール100ミリリットルを加え、25℃、24時間攪拌を行い洗浄、溶媒除去、再結晶化を行い、(2,3−ジヒドロキシドデシル)オクチルエーテル(10.1g、0.031モル)を得た。
2)リン酸化反応
(2,3−ジヒドロキシドデシル)オクチルエーテル(5.0g、0.015モル)、ポリリン酸(15.2g、0.045モル)のトルエン溶液150ミリリットルを50℃で72時間攪拌し、その後、純水を100ミリリットル加えて3時間攪拌した。その後、静置してトルエン相を分取し、分取したトルエン相にエーテルを140ミリリットル加えて、水、2N塩酸により処理した。その後、静置してトルエン相を分取し、減圧下溶媒を留去して粘性物6.02gを得た。得られた粘性物質の元素分析値を表1に示す。元素分析値はC2043P(MW:410.53)の計算値と良く一致していた。
【0018】
【表1】

【0019】
また赤外吸収スペクトルで、1115.0cm−1にエーテルC−O伸縮振動、1205.1cm−1にP=O伸縮振動、1024.9cm−1にP−O−C伸縮振動に基づく吸収が認められた。元素分析値及び赤外吸収スペクトルより、得られた化合物は下記化4で示す構造のリン酸化物であることが認められた。
【0020】
【化4】

【0021】
実施例2
1)ジヒドロキシ化反応
9−オクタデセニルデシルエーテル(78.2g、0.191モル)、30%過酸化水素(22.8g、0.201モル)、ギ酸(89.9g、1.91モル)を入れ、40℃にて、24時間攪拌を行った。その後洗浄し、溶媒除去を行った後、炭酸カリウム(13.3g、0.096モル)、エタノール520ミリリットルを加え、25℃、24時間攪拌を行い洗浄、溶媒除去、再結晶化を行い、(9,10−ジヒドロキシオクタデシル)デシルエーテル(75.6g、0.171モル)を得た。
2)リン酸化反応
(9,10−ジヒドロキシオクタデシル)デシルエーテル(20.0g、0.045モル)、ポリリン酸(45.5g、0.136モル)のトルエン溶液440ミリリットルを50℃で72時間攪拌し、その後、純水を300ミリリットル加えて3時間攪拌した。その後、静置してトルエン相を分取し、分取したトルエン相にエーテルを400ミリリットル加えて、水、2N塩酸により処理した。その後、静置してトルエン相を分取し、減圧下溶媒を留去して粘性物23.14gを得た。得られた粘性物質の元素分析値を表2に示す。元素分析値はC2859P(MW:522.74)の計算値と良く一致していた。
【0022】
【表2】

【0023】
また赤外吸収スペクトルで、1114.8cm−1にエーテルC−O伸縮振動、1205.4cm−1にP=O伸縮振動、1024.1cm−1にP−O−C伸縮振動に基づく吸収が認められた。元素分析値及び赤外吸収スペクトルより、得られた化合物は下記化5で示す構造のリン酸化物であることが認められた。
【0024】
【化5】

【0025】
実施例3
1)ジヒドロキシ化反応
13−ドコセニルブチルエーテル(20.0g、0.053モル)、30%過酸化水素(6.25g、0.055モル)ギ酸(49.4g、1.051モル)を入れ、40℃にて、24時間攪拌を行った。その後洗浄し、溶媒除去を行った後、炭酸カリウム(3.65g、0.026モル)、エタノール140ミリリットルを加え、25℃、24時間攪拌を行い洗浄、溶媒除去、再結晶化を行い、(13,14−ジヒドロキシドコシル)ブチルエーテル(19.9g、0.048モル)を得た。
2)リン酸化反応
(13,14−ジヒドロキシドコシル)ブチルエーテル(10.0g、0.024モル)、ポリリン酸(24.3g、0.072モル)のトルエン溶液240ミリリットルを50℃で72時間攪拌し、その後、純水を160ミリリットル加えて3時間攪拌した。その後、静置してトルエン相を分取し、分取したトルエン相にエーテルを220ミリリットル加えて、水、2N塩酸により処理した。その後、静置してトルエン相を分取し、減圧下溶媒を留去して粘性物11.8gを得た。得られた粘性物質の元素分析値を表3に示す。元素分析値はC2655P(MW:494.69)の計算値と良く一致していた。
【0026】
【表3】

【0027】
また赤外吸収スペクトルで、1114.2cm−1にエーテルC−O伸縮振動、1205.9cm−1にP=O伸縮振動、1023.9cm−1にP−O−C伸縮振動に基づく吸収が認められた。元素分析値及び赤外吸収スペクトルより、得られた化合物は下記化4で示す構造のリン酸化物であることが認められた。
【0028】
【化6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるリン酸化物。
【化1】


但し、上記一般式(1)において、nは1から20の整数、
【化2】


式(1)中の上記化2の基は、Xが水酸基のとき、Yはリン酸基又はその塩、Xがリン酸基又はその塩のとき、Yは水酸基である隣接する置換基X、Yを有する炭素数10〜26のアルキル基を示す。

【公開番号】特開2010−37308(P2010−37308A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205080(P2008−205080)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】