説明

リン酸化NDRキナーゼ

【課題】細胞核セリン/スレオニンタンパク質キナーゼ(細胞核Dbf2関連キナーゼ)のリン酸化形態ならびにNdrキナーゼ活性のモジュレーターを同定するための分析および材料を提供。また、分子生物学、化学、薬理学およびスクリーニング技術を提供する。
【解決手段】ヒト由来の特定のアミノ酸配列に規定される細胞核Dbf2関連(Ndr)キナーゼ、該アミノ酸配列と50%以上の同一性を有するその相同体および該アミノ酸配列中の少なくとも5つの連続したアミノ酸配列を含むそのフラグメントからなる群から選択される単離されたポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞核セリン/スレオニン タンパク質キナーゼ(細胞核Dbf2関連キナーゼ(nuclear Dbf2−related kinase (Ndr))と呼称される)のリン酸化形態に関し、そしてNdrキナーゼ活性のモジュレーターを同定するための分析および材料を提供する。本発明は、分子生物学、化学、薬理学およびスクリーニング技術の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
可逆的タンパク質リン酸化は、代謝、増殖および分化を含む、真核生物における多くの基本的な細胞機能の協調的制御のための主要な作用機序である。特定の標的タンパク質のリン酸化状態およびその結果としての活性は、タンパク質キナーゼおよびタンパク質ホスファターゼの拮抗する作用により制御される。一般的に、いくつかの二重特異性(dual specificity)のキナーゼおよびホスファターゼが、既に記載されているが、これらの酵素は、セリン/スレオニン ホスホアクセプター(phosphoacceptor)か、またはチロシン ホスホアクセプターのどちらかに特異的である。多くのキナーゼ、ホスファターゼの発見、およびそれらが関与するシグナル伝達経路が進化の過程で高度に保存されていることの発見により、リン酸化カスケードの重要性が示されている。近年、細胞周期の制御におけるタンパク質リン酸化の役割に興味が集まっている;多くの細胞性プロトオンコジーンがセリン/スレオニン キナーゼ ファミリーのメンバーをエンコードしており、そして細胞周期制御ネットワークの主要な構成成分として機能するいくつかのセリン/スレオニン キナーゼが次第に明らかとなった。故に、これらの経路の完全な描写が、腫瘍形成および腫瘍進行を理解するために重要である。
【0003】
Ndrタンパク質キナーゼ(Punキナーゼとしても周知)は、身体のほとんどすべての細胞形で発現される細胞核セリン/スレオニン タンパク質キナーゼである(Millward, T.ら(1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 5022−5026)。WO96/19579には、Ndrキナーゼの同定、Ndrキナーゼのインビトロ自己リン酸化形態、Ndrキナーゼに特異的な抗体、Ndrキナーゼの作製および使用のための有用な方法、ならびにNdrキナーゼの他の関連する局面が記載されている。
【0004】
タンパク質キナーゼのNDRファミリーには、オーソロガス(orthologous)なタンパク質、例えばキイロショウジョウバエ由来のTricornered(trc)、線虫由来のSax-1、およびいくつかの密接に関連するキナーゼ、例えば哺乳動物、キイロショウジョウバエおよび線虫由来のWts/Latsキナーゼ、酵母由来のCbk1、Dbf2、Dbf20、分裂酵母由来のOrb6、担子菌酵母(U. maydis)由来のUkc1、および糸状菌(N. crassa)由来のCot-1が含まれる(Stegert, M.R. ら(2001) NATO ASI Series: Protein Modules in Cellular Signalling 318, 68−80に概説)。これらのキナーゼは、その触媒ドメイン内、ならびにその制御ドメイン内の保存領域にて40−60%のアミノ酸同一性を共有している。前記キナーゼのNdrサブファミリーは、細胞増殖、細胞分裂および細胞形態の調節に関与している。
【0005】
例えば、LATS(Wtsとも呼称)は元来、それを欠損した場合に、ショウジョウバエにおける異常増殖(overgrowth)表現型の原因となる遺伝子として発見され、それ故、腫瘍抑制遺伝子であると提案された(Justice, R. W.ら(1995) Genes Dev. 9, 534-546; Xu, T.ら(1995) Development 121, 1053−1063)。近年、哺乳動物のLATS相同体がクローニングされ、その腫瘍抑制機能が確認された。マウスにおけるLATS相同体のホモ接合体欠失は、軟部組織肉腫および卵巣間質細胞腫瘍の発達の原因となる(St. John, M. A.ら(1999) Nat. Genet. 21, 182−186)。
【0006】
Ndrキナーゼファミリーの他のメンバーは、細胞分裂に重要であることが実証されている。分裂酵母にて、Orb6は、細胞極性の形成に必要とされ、かつCdc2のインヒビターのような作用も示すようである(Verde, F. ら(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 7526−7531)。Orb6と同じく、アカパンカビ由来のCot−1もまた、極性のある細胞増殖に必要とされる(Yarden, O.ら(1992) EMBO J. 11, 2159−2166)。最後に、Dbf2は、出芽酵母の有糸分裂の終期におけるCdc28−サイクリン Bキナーゼ活性の下方制御に必要とされる経路の一部を成す(Jaspersen, S. L.ら(1998) Mol. Biol. Cell. 9, 2803−2817)。
【0007】
前記Ndrキナーゼ・サブファミリーは、細胞増殖制御に重要であることが明らかであるが、それぞれのキナーゼがどのように制御されているのかについては知られていない。Ndrキナーゼファミリーのいくつかのメンバーが、リンタンパク質として周知である(Toyn, J. H.およびJohnston, L. H. (1994) EMBO J. 13, 1103−1113; Taoら(1999) Nature Genetics 21, 177−181)。また、NDR1は、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)インヒビター・オカダ酸(OA)で細胞を処理することにより強力に活性化され、NDR1活性の制御におけるセリン残基および/またはスレオニン残基のリン酸化に関与することが示されている。前記活性化は、活性化断片(T−ループ)のSer281とカルボキシル末端部分に位置する疎水性モチーフのThr444の2つの制御残基のリン酸化を伴う(Millward, T.A.ら(1999) J. Biol. Chem. 274, 33847−33850; EP1097989、題名「Ndr phosphokinase」)。NDR1のインビトロにおける活性化はまた、NDR1自己リン酸化を増大する、EFハンド Ca2+結合タンパク質S100Bとの直接的な相互作用を介しても示される(Millward, T.A.ら(1998) EMBO J. 17, 5913−5922)。上記にもかかわらず、依然として、さらなるNdrキナーゼ シグナル伝達の説明および前記経路における成分の同定の必要がある。
【0008】
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【0009】
配列表の簡単な説明
配列番号:1は、ヒトNDR1のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。
配列番号:3は、ヒトNDR2のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。
配列番号:5は、ヒトMOB1のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。
配列番号:7は、マウスNDR1mRNAのヌクレオチド配列を示す。
配列番号:8は、マウスNDR2mRNAのヌクレオチド配列を示す。
配列番号:9は、ヒトNDR2mRNAのヌクレオチド配列を示す。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
本発明は、細胞核Dbf2関連(Ndr)ホスホキナーゼ、その機能的相同体またはそのフラグメントに関し、ここで前記ポリペプチドは、Ndrタンパク質キナーゼ1(配列番号:1)のアミノ酸Thr−74またはアミノ酸Thr−74に対応するアミノ酸にてリン酸化されているか、または該アミノ酸が、酸性アミノ酸残基により置換されている。前記ポリペプチドはさらに、Ser−281および/またはThr−444にてリン酸化されていてよい。前記相同体は典型的に、配列番号:1に示されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有する配列、および配列:−K−E−S/T−E−F/Y−で定義される少なくとも1つのペプチドを含む。
【0011】
さらに、本発明は、Ndrキナーゼまたはその機能的相同体に特異的に結合する抗体に関し、ここで前記ポリペプチドは、Ndrタンパク質キナーゼ1(配列番号:1)のアミノ酸Thr−74またはアミノ酸Thr−74に対応するアミノ酸にてリン酸化されており、そして前記抗体は、リン酸化アミノ酸を含むエピトープを認識する。前記抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであるか、もしくは一般的に遺伝子工学的に作製される。本発明にはまた、Ndrポリペプチドもしくはその相同体を検出または単離するための、または診断用もしくは治療用として、特に細胞増殖における異常を処置するための、本発明の抗体の使用も包含される。
【0012】
本発明はまた、細胞核Dbf2関連(Ndr)キナーゼ、その機能的相同体またはそのフラグメントからなる群から選択されるポリペプチドを、前記ポリペプチドを本発明の抗体と接触させ、混入物質を除去することにより単離する方法に関し、ここで前記ポリペプチドは、Ndrタンパク質キナーゼ1(配列番号:1)のThr−74またはアミノ酸Thr−74に対応するアミノ酸にてリン酸化されている。所望により、前記方法はさらに、ポリペプチドをエンコードする核酸と一緒にオカダ酸を含む細胞を処理し、細胞がポリペプチドを発現するのを可能とし、そして細胞から細胞抽出物を調製することを含む。
【0013】
他の局面にて、本発明は、Ndrキナーゼ活性のアゴニストまたはアンタゴニストの同定を目的とした本発明のポリペプチドの使用に関する。
さらなる局面にて、本発明は、医薬としての使用を目的とした本発明のポリペプチドに関する。
またさらなる局面にて、本発明は、細胞増殖における異常の処置のための医薬の製造を目的とした本発明のポリペプチドの使用に関する。
【0014】
他の局面にて、本発明は、本発明のポリペプチドと一緒にMOB1を含む複合体に関し、ここで所望により、1以上の前記タンパク質が、標識、例えば蛍光標識されていてもよい。
他の局面にて、本発明は、Ndrキナーゼ活性の、可能性のあるモジュレーターをスクリーニングする方法に関し、該方法は、a)本発明のポリペプチドと一緒に、可能性のあるモジュレーターをインキュベートする工程、およびb)前記モジュレーターと前記ポリペプチド間の相互作用を検出する工程を含む。
【0015】
本発明はまた、Ndrキナーゼ活性の、可能性のあるモジュレーターをスクリーニングする方法に関し、該方法は、a)本発明のポリペプチドと一緒に、可能性のあるモジュレーターをインキュベートする工程、およびb)Ndrタンパク質キナーゼ1のThr74またはアミノ酸Thr−74に対応するアミノ酸におけるポリペプチドのリン酸化の変化を検出する工程を含む。この態様にて、前記可能性のあるモジュレーターは、例えば、シグナル経路のキナーゼであり得る。
【0016】
本発明はまた、Ndrキナーゼ活性の、可能性のあるモジュレーターをスクリーニングするための方法を提供し、該方法は、a)本発明の複合体と一緒に、可能性のあるモジュレーターをインキュベートする工程、およびb)MOB1と前記Ndrポリペプチド間の結合の変化を検出する工程を含む。前記可能性のあるモジュレーターは、結合を減少しMOB1を放出し得る。もしくは、前記可能性のあるモジュレーターは、特に前記モジュレーターがMOB1フラグメントまたは誘導体である場合に、結合を増加するか、または安定化し得る。
【0017】
さらに、本発明は、本発明の前記ポリペプチドおよび/または抗体、ならびに取扱説明書を含むキットに関する。前記キットはさらに、MOB1を含み得、所望により、MOB1を認識する抗体を含んでいてよい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳しい説明
本発明者らは、2つの制御残基であるSer281およびThr444のリン酸化によるNDRの制御、およびS100ファミリーのEFハンド Ca2+結合タンパク質との直接的な相互作用によるその活性化を詳しく特徴付けている。結果として、本発明者らは、付加的制御的なNDR1のリン酸化部位、すなわちThr74を見出した。3つのアミノ酸残基すべてが、インビボにおけるNDR1活性に不可欠である;しかしながら、Ser281およびThr444と対照的に、Thr74は、NDR1活性自体を直接的に制御するよりもむしろ、制御タンパク質(例えば、S100B)への結合に関係する。これらの残基に付された番号は、WO96/19579に記載のようにヒトNdr1キナーゼ配列内のそれらの位置を示す(配列番号:1も参照)。さらに、本発明者らは、NDR1と同様な方法で制御され、そして保存されたリン酸化部位であるSer282およびThr442、ならびにThr75のリン酸化に依存するキナーゼ活性を示す、NDR2と呼ばれるヒトNdrタンパク質キナーゼの第二のイソ型を同定し、かつ特性化した。前記Ndr2の配列を配列番号:3に規定した。
【0019】
故に、その最も広義の局面にて、本発明は、単離されたポリペプチドに関し、ここで該ポリペプチドは、配列番号:1のアミノ酸配列に規定される細胞核Dbf2関連(Ndr)ホスホキナーゼ、その機能的相同体またはそのフラグメントであり、そしてここで該ポリペプチドは、Ndrタンパク質キナーゼ1のThr−74またはアミノ酸Thr−74に対応するアミノ酸にてリン酸化されている。
【0020】
相同体とは、それらが、ヒトNdr2(配列番号:3)で示されるNdrタンパク質キナーゼと起源(origin)または機能の相同性を共有することを当業者に決定させるために十分な類似性を共有するポリペプチドである。ただし、前記相同体がNdrタンパク質キナーゼ1のThr−74またはアミノ酸Thr−74に対応するアミノ酸、例えばhNdr2のThr−75または他の相同体の対応する位置(対応箇所)にあるセリン/スレオニン残基にてリン酸化されているか、またはこの特定のリン酸化部位が酸性アミノ酸残基で置換されている。本発明は、本方法にて改変された他の生物体由来のNdrのすべての種類の相同体、例えばショウジョウバエNdr(WO96/19579の配列番号:2に示される)を含み、それらは常套方法により単離され得る。Ndrの種相同体は、本明細書に記載のポリペプチド配列の誘導体であると考えられ得る。Ndrキナーゼの「機能的相同体」とは、Ndr生物学的活性が残っている限り、その内部もしくはアミノ末端、またはそのカルボキシ末端に生じる一つもしくは複数のアミノ酸付加、置換および/または欠失を含む、これらの相同性ポリペプチドの誘導体および類似体を包含する。すなわち、機能的相同体とは、任意のドメインを欠いていて良いか、またはもう1つのポリペプチドと結合して、例えば融合タンパク質の形状であって良い。本発明による変異体は、例えば酵素活性もしくは特異性、またはタンパク質結合に関して、まだ、記載した天然Ndrと同様に反応する。
【0021】
故に、機能的相同体には、ポリペプチドの機能的フラグメント、ならびにリン酸化Thr−74(または対応箇所)が残っている生物学的に活性なポリペプチド、リン酸化Thr−74を維持している相同体またはフラグメントが含まれる。Ndrのフラグメントには、そのポリペプチドのかなりの部分が除去されているNdrポリペプチド、またはその変異体(または相同体)が含まれる。Ndrフラグメントは、天然のNdrとは実質的に異なる活性を有しているか、または実際天然のNdr生物学的活性の1つを欠いていて良い。故に、Ndrフラグメントは、個々のNdrキナーゼドメイン、またはNdrキナーゼドメインの一部、ならびにS100B結合ドメインを包含していて良い。Ndrは、HanksとQuinnにより同定された12のタンパク質キナーゼ触媒サブドメインすべてを含む(Meth. Enzymol. (1991) 200, 38−62)。これらにより、サブドメインVIbおよびVIIIの存在は、Ndrがセリン/スレオニンキナーゼであることを示唆する。故に、本発明は、Ndrのキナーゼドメインの一部、とりわけセリン/スレオニンキナーゼドメインを含む相同体を含む。さらに、ヒトNdrのアミノ酸265−276(KRKAETWKRNRR)が、核局在化シグナルをコードすることが明らかとなった。従って、本発明はまた、核局在化シグナルを含み、そしてアミノ酸配列KRKAETWKRNRRを有するNdrのフラグメントを含む。
【0022】
ポリペプチドの生物学的活性を含むより小さいペプチドが、本発明に包含される。Thr−74部位(または対応箇所)を含むより小さいペプチドは、少なくとも5アミノ酸長であり、好ましくは天然のアミノ酸配列から選択される連続したアミノ酸を含む。好適なペプチドは、典型的に、それらの予定された使用に依存して6−15アミノ酸長であり、例えば、抗体の製造には8〜10アミノ酸長のペプチドが好適であり、そしてホスファターゼ基質としては6〜10または6〜15アミノ酸長のペプチドが好適である。
【0023】
本明細書にて使用した用語「Ndr生物学的活性」とは、Ndrキナーゼが基質をリン酸化する能力に限定されることなく、タンパク質またはペプチドの他の特性、例えば、Thr−74にてリン酸化されたNdrキナーゼまたはその等価体に特異的な抗体と結合する(すなわち、Ndrキナーゼのリン酸化状態と非リン酸化状態の間の識別)能力、もしくは例えばS100BまたはMOB1などのタンパク質を含むNdrキナーゼの基質またはモジュレーターに結合するその能力も含む。
【0024】
好適な場合にて、本明細書にて用いた相同性とは、配列の同一性を示す。故に、相同体とは、本明細書に記載のNdrタンパク質キナーゼと一定量の配列の同一性を有するポリペプチドでもある。配列の同一性とは、典型的に50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは75%以上、最も好ましくは90%以上である。ヒトおよびショウジョウバエのNdr配列は、68%の配列の同一性を有する。一方、Dbf2は、ヒトNdrと全体としてたった32%のアミノ酸の同一性を有し、そのことはDbf2がNdrと関連するが、2つは種相同体ではないことを示す。Ndrタンパク質キナーゼファミリーのメンバーのアミノ酸残基が同一ではない場合、その相同体は、興味のあるキナーゼドメイン(複数可)の構造的/機能的関係を変化させない、保存的置換または変異を含むことが好ましい。相同体のSer−281、Thr−444、Thr−74またはそれらに対応するリン酸化部位の置換は、好ましくは酸性アミノ酸残基、例えばグルタミン酸で行われる。ただし、リン酸化部位により生じる機能を除去すること、例えば、ネガティブ対照としてアラニンで置換することが望ましい場合を除く。好ましくは、Thr−74、Ser−281および/またはThr−444を含む相同体は、これらの部位にてリン酸化され得るが、Thr−74リン酸化部位のみを含む相同体が、例えば相互作用するタンパク質との結合活性に有用である。
【0025】
特に好適な相同体は、配列−K−E−S/T/N−E−F/Y−を含むものであり、ここで、Nは酸性アミノ酸であり、SおよびTは、ホスホセリン残基またはホスホスレオニン残基を示し、残りのアミノ酸は、その常用される一文字表記で記載されており、そして最も好適な相同体は、配列−K−E−S/T−E−F/Y−を含む。前記好適な相同体はさらに、配列−Arg−Xaa−Leu/Met−Ala−Xaa−P−Xaa−Val−Gly−Thr−Pro−Xaa−Tyr−Ile−Ala−Pro−Glu−または−Phe−Xaa−Xaa−Xaa−P−Xaa−Xaa−Xaa−Phe−のうち少なくとも1つを含んでいて良く、ここで、「/」は、いずれかから選択できるアミノ酸残基を示し、PおよびPはリン酸化されたアミノ酸または酸性アミノ酸残基、好ましくはホスホセリンおよびホスホスレオニンをそれぞれ示し、Xaaは任意のアミノ酸であってよく、そして残りのアミノ酸は、その常用される三文字表記で記載されている。より好適な態様にて、前記相同体は、−Arg/Gln−Arg−Gln/Val/Leu−Leu/Met−Ala−Phe/Tyr/His−P−Thr/Leu−Val−Gly−Thr−Pro−Asp/Asn−Tyr−Ile−Ala−Pro−Glu−または−Phe−Ile/Leu/Phe−Glu/Gly/Asn−Phe/Tyr−P−Phe/Tyr−Lys/Arg−Lys/Arg−Phe−のうち少なくとも1つを含み、ここで、「/」は、代替的なアミノ酸残基を示し、PおよびPはリン酸化されたアミノ酸または酸性アミノ酸残基、好ましくはホスホセリンおよびホスホスレオニンをそれぞれ示し、そして残りのアミノ酸は、その常用される三文字表記で記載されている。
【0026】
本発明のポリペプチドが、融合タンパク質の形態で発現される場合、その融合ポリペプチドは、直接的に結合されるか、またはスペーサーにより結合されていてよい。例えば、天然には存在しない場合には、特異的に認識され、化学的または酵素的に切断され得る領域を挿入することが可能である。選択的に切断する試薬または酵素の例は、CNBr、V8プロテアーゼ、トリプシン、スロンビン、ファクターX、ペプチダーゼyscaおよびペプチダーゼyscFである。前記融合ポリペプチドは、当業者に周知のように、「タグ」(例えば、HisタグまたはHAタグ)などの、タンパク質の単離に有用な配列を含んでいてよいか、またはマーカータンパク質、例えば蛍光タンパク質または酵素、例えば、ベータ−ガラクトシダーゼなどの無関係な配列と連結していてよい。組換え技術または化学的技術による融合タンパク質、変異体またはフラグメントの構築方法は、本技術分野にて周知である。
【0027】
本発明のさらなる局面にて、Thr−74(または対応箇所)にてリン酸化されたNdrキナーゼに特異的な抗体を提供する。上記のように、かかる抗体は、Ndrキナーゼのリン酸化形と非リン酸化形の差異を識別することができる。かかる抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、抗体フラグメント(Fc、Fv)であってよく、そして例えばマウス、ラット、ヤギ、ヒト、組換え体などを起源としてもよい。かかる抗体は、例えば、免疫染色、免疫沈降または免疫分離によるNdrの同定、検出または単離に有用であり得るか、またはインビボもしくはインビトロにおけるNdr活性の阻害に有用であり得る。
【0028】
Thr−74(または対応箇所)にてリン酸化されたNdrに特異的な抗体は、本技術分野にて周知の技術により調製され得る。ポリクローナル血清を調製するために、例えば、リン酸化されたThr−74を含むNdrキナーゼの抗原部分(所望により、アジュバントが存在するか、またはキーホールリンペットヘモシアニンなどの免疫活性化薬剤と結合させたもの)を、マウスまたはウサギなどの哺乳動物に注入し、そして抗体を、固相結合キナーゼまたはその抗原部分を用いた親和性精製によりそれから回収する。モノクローナル抗体を、同様の確立された方法により調製することが可能である。
【0029】
Ndrキナーゼのリン酸化は、Ndrを発現する細胞内で、オカダ酸で処理することにより誘導し得る。前記細胞は、自然にNdrキナーゼを発現し得るか、またはNdrキナーゼをコードする配列を含む発現ベクターを含み得る。故に、前記方法は、多様な宿主細胞での使用が可能である。細胞抽出物からNdrキナーゼを発現および単離する方法は、本技術分野にて周知である(例えば、WO96/19579を参照)。Thr−74(または対応箇所)にてリン酸化されているNdrに特異的な抗体は、例えば、本技術分野にて周知のような、混入物質から所望のタンパク質を単離するための親和性クロマトグラフィーまたは免疫沈降を使用した、Ndrキナーゼ、またはこの部位にてリン酸化されたその相同体の単離に特に有用である。
【0030】
前記ポリペプチド、とりわけその誘導体は、天然源から誘導されるよりもむしろ、合成法により得ることが可能である。故に、本明細書に含まれる情報を用いて、Ndrポリペプチドまたはペプチド類を、市販のタンパク質合成装置を用いて合成してよく、または商業用のペプチド合成サービスから得てもよい。合成されたNdrの誘導体は、改変されたアミノ酸残基の使用、またはポリペプチドへの異種基(homologous group)もしくは側鎖の付加を含む、所望の配列修飾を含んでいて良い。その後、前記ポリペプチドまたはペプチド類は、以下の実施例に記載したように、インビトロでリン酸化し得る。
【0031】
本発明者らは、NDRとhMOB1の相互作用も検討し、オカダ酸刺激に依存した方法でhMOB1がhNDRと相互作用することを発見した(実施例8参照)。hMOB1の過剰発現は、NDRキナーゼ活性も刺激する。NDRのN末端制御ドメイン内の保存残基の点変異は、NDRキナーゼ活性、ならびにMOB1結合を低下する。前記NDR−MOB相互作用は、MOB1のオカダ酸誘導変異による影響を受けるが、NDRのオカダ酸誘導リン酸化には、相互作用を必要としない。Ca2+キレート化剤であるBAPTA−AMでの細胞の処理は、NDR−MOB相互作用を低下させ、NDR−MOB相互作用におけるCa2+の役割を示唆する。
【0032】
故に、本発明のさらなる局面にて、Ndr、その機能的相同体またはフラグメント、およびMOB1(MPSワンバインダー1)を含む複合体を提供する。hMOB1の配列は、GI:11691898および以下の配列番号:5に記載されており、当業者に明らかなように、MOB1の相同体もまた、Ndrと結合し得る。MOB1相同体は、GI11691898または、配列番号:5もしくは6に記載のMOB1配列と一定量の配列同一性を有するポリペプチドである。配列の同一性とは、一般に50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは75%以上、最も好ましくは90%以上である。好ましくは、前記タンパク質はヒトタンパク質である。いくつかの態様にて、1以上のタンパク質を、検出を容易にするために標識し、例えば、蛍光標識を用いて標識する。故に、2つのタンパク質(例えば、Ndr1とMob1)間の相互作用を、結合した蛍光標識の量によるか、または蛍光消光により検出することができる。
【0033】
Ndrなどのキナーゼは、細胞内のシグナル伝達に関与することが知られている。この関与とは、シグナル伝達経路を調節する物質のためのキナーゼ標的を構成することである。一般に、シグナル伝達経路の調節は、特定の刺激に対する細胞の応答を変化させる。例えば、ホルモンの作用は、一般に遺伝子発現の調節因子である、ホルモン受容体から生物学的エフェクターへのシグナル伝達に関与するキナーゼを標的化することにより調節され得る。タンパク質のS100ファミリーとは、細胞中の主にカルシウムイオン結合タンパク質を示し、そして多くのカルシウムを介する作用に関与する。Ndrの活性は、とりわけS100Bにより制御される。
【0034】
本発明のポリペプチドは、Ndrキナーゼ活性のアゴニストまたはアンタゴニストの同定に有用であり、そして、例えば細胞増殖の異常の処置における医薬としての可能性を有する。好ましくは、本発明のスクリーニング方法は、細胞をNdrのアクチベータまたはインヒビターと接触させることを含む。モジュレーターとして総称されるアクチベータおよびインヒビターにはNdr模倣物が含まれ、Thr−74部位またはThr−74部位の近隣でNdrと相互作用し、それによりNdr活性におけるThr−74リン酸化の効果に影響を与える。言い換えれば、モジュレーターは、MOB1に作用することが可能であり、NdrのThr−74領域へのその結合を阻害または増強し得、それにより他の手段によるNdrの活性を活性化するか、または抑制することができる。
【0035】
故に、本発明の1つの局面にて、Ndrキナーゼ活性の、可能性のあるモジュレーターを同定する方法は、Ndrキナーゼまたはその機能的相同体を、可能性のあるモジュレーターと接触させること、そして、NdrキナーゼのThr−74またはNdrタンパク質キナーゼ1もしくはその機能的相同体のアミノ酸Thr−74に対応するアミノ酸のリン酸化における変化を検出することにより行われる。リン酸化の変化は、リン酸特異的抗体の使用により容易に検出され得る。Thr−74のリン酸化の減少は、Ndrキナーゼ活性を阻害する化合物であることを示す。
【0036】
別の態様にて、Ndrキナーゼ活性の、可能性のあるモジュレーターを同定する方法は、Thr−74(または対応箇所)にてリン酸化されたNdrもしくはその機能的相同体を、可能性のあるモジュレーターと接触させること、そして、前記モジュレーターとリン酸化されたNdrまたはその機能的相同体間の相互作用を検出することにより行われる。かかるモジュレーターとしては、限定するものではなく、アゴニスト、シグナル伝達経路のアンタゴニストおよび上流のメンバーが含まれ得る。
【0037】
さらなる態様にて、本発明は、MOB1およびNdr(またはその相同体もしくはフラグメント)のタンパク質複合体と一緒に、可能性のあるモジュレーターをインキュベートする工程、およびMOBとポリペプチド間の結合の変化を検出する工程を含む、Ndrキナーゼ活性の、可能性のあるモジュレーターをスクリーニングする方法を提供する。故に、モジュレーターは、2つのタンパク質間の結合を減少させ、MOB1を放出し、その場合はNDRキナーゼ活性が阻害される(モジュレーターが、全長MOB1よりもNDRにより高い親和性を有するMOB1の機能的フラグメントであることが前提であり、この場合には、MOB1の機能的フラグメントが、MOB1活性を模倣し得、そしてNdr活性を活性化し得る)。言い換えれば、モジュレーターは、2つのポリペプチド間の結合を増加することができ、故にNdr活性を活性化することが可能である。
【0038】
故に、本発明のNdrキナーゼ要素を、増殖制御の異常の処置における使用を目的とした推定治療薬剤を同定するためのスクリーニングシステムの設計に用いることができる。参照により本明細書に引用されるWO97/18303には、スクリーニング方法、キット、可能性のある治療薬およびその製造が記載されており、その教示は、本発明の材料および方法に適用され得る。
【0039】
結合実験に関して、本発明のポリペプチドは、例えば、マイクロタイター・プレートまたはビーズのような固形担体上に固定され得るか、または、1以上の識別可能なマーカー、例えばビオチン、または放射性基、蛍光性基もしくは化学発光性基を担持し得る。本発明の好適な態様にて、Ndr1または2は、Ndr活性の、可能性のあるモジュレーターをスクリーニングする方法にて使用される。
【0040】
インキュベーション条件は、分析に用いられる正確な方法、例えば、キナーゼ分析を使用するかまたはキナーゼとスクリーニングされた化合物間の相互作用の検出を使用するかにより変わる。転写活性検出システム、例えば酵母ツーハイブリッドシステムの場合、インキュベーション条件は、遺伝子転写に適当な条件であり、例えば通常の生細胞内の条件である。しかし、他の検出システムでは、異なるインキュベーション条件が必要とされる。例えば、相互作用の検出がクロマトグラフィー分析における相対的親和性に基づくもの、例えば親和性クロマトグラフィーとして周知のものである場合、条件は、結合を促進するように調整し、そしてその後、スクリーニングされた化合物が、もはやNdrに結合しない点を決定できるように、除々に変える。
【0041】
本発明のインキュベーションは、多くの手段により達成されるが、基本的な要件は、キナーゼまたはその相同体/フラグメントとスクリーニングされた化合物が互いに接触した状態になり得ることである。これは、ポリペプチドおよび前記化合物を混和することにより達成され得るか、またはインサイチュウでそれらを産すること、例えばそれらをエンコードする核酸を発現させることにより達成される。NdrまたはNdrフラグメントおよび/または前記化合物が、他のポリペプチドと融合した形態である場合、それらを例えばインサイチュウで発現させることができる。
【0042】
本発明のNdrまたはその相同体もしくはフラグメントを、例えばスクリーニングする化合物と一緒にインキュベートし、そして次に、Ndrに特異的な抗体またはMOB1に特異的な抗体でNdr複合体を「沈降する(pulling down)」ことにより、それと結合する化合物をスクリーニングするために用いることができる。免疫沈降または免疫親和性クロマトグラフィーに適当な抗体を、当業者に周知の常套方法により調製することが可能であり、そしてそれは本質的にモノクローナル、ポリクローナルまたは組換え体であってよい。Ndr化合物複合体を、親和性により単離した後、前記化合物を、常套技術によりNdr抗体から分離し、特性化することが可能である。
【0043】
本発明はさらに、スクリーニングシステムにおける、Thr−74(または対応箇所)にてリン酸化されたNdr、もしくはこの残基にて酸性アミノ酸を有するNdrの使用を含む。
【0044】
さらなる態様にて、本発明は、Ndr(またはMOB1)またはそのフラグメントと、直接的または間接的に相互作用する化合物を提供する。かかる化合物は、無機物または有機物であり得、例えば、細胞内シグナル伝達に関与する抗生物質またはタンパク質性化合物であり得る。
【0045】
本発明の化合物は、上述した技術を用いたスクリーニングにより同定され得、そして、確立された方法に従い天然源から抽出することにより調製され得るか、とりわけ低分子量の化合物の場合には、合成により調製され得る。タンパク質性化合物は、組換え発現系、例えばバキュロウイルス系または細菌系にて発現させることにより調製され得る。タンパク質性化合物は、治療に応用することが可能であるが、主にシグナル伝達経路の機能の探索に有用である。
【0046】
一方、低分子量化合物は、好ましくは、確立された方法に従って化学合成により調製される。それらは、主として治療薬として示唆される。一般に、低分子量化合物および有機化合物は、抗増殖剤として有用であり得る。
【0047】
故に、Thr−74(または対応箇所)にてリン酸化されたNdrキナーゼ、もしくはその機能的相同体は、特に細胞増殖の異常、例えばガン、免疫系の疾患または障害(例えば、免疫不全)および神経変性疾患の処置のための、医薬として有用であるか、または医薬の調製のために有用であり得る。
【0048】
かかる化合物のスクリーニングに有用なキットを調製可能であり、基本的にThr74(または対応箇所)にてリン酸化されたNdrまたはその機能的相同体と共に取扱説明書を含み、所望により、Ndrとスクリーニングされた化合物、MOB1またはその相同体の間の相互作用、およびMOB1と前記スクリーニングされた化合物の間の相互作用を検出する1つ以上の手段を含んでいてよい。故に、スクリーニングキットは、上記の検出システムの1つを含むことが好ましい。
【0049】
本発明のキットに使用するためのNdrは、例えば、溶液中、懸濁液中または凍結乾燥したタンパク質の形態で提供され得るか、もしくは発現系にてNdrまたはそのフラグメントの製造を可能とする核酸配列の形態で提供され得る。
【0050】
以下の実施例は、本発明の特定の局面を記載しており、当業者に対して本発明を例証し、本発明を説明するものである。実施例は、本発明の理解および実施に有用な特定の方法を単に提供する例としてであって、本発明を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0051】
実施例
方法
ランダムプライミング、サブクローニング、シークエンシング、制限酵素での切断、ゲル精製、ライゲーション、形質転換およびアニーリングなどの遺伝子工学における標準的な方法を、基本的にSambrookらの、Molecular Cloning: A laboratory manual, 2nd Edn. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY, 1989に記載のように実施する。
【0052】
細胞培養
COS−1細胞を、10%FCS、100U/mlペニシリンおよび100マイクログラム/mlストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地中にて維持した。細胞を、業者の取扱説明書に従いサブコンフルエント段階でFugene−6トランスフェクション試薬(Roche)にて形質転換した。いくつかの実験にて、トランスフェクションの24時間後に、細胞を0.1%N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(Alexis Corp.)中1マイクロM オカダ酸、0.1%ジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma)中50マイクロM BAPTA−AM(1,2−ビス(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸・テトラ(アセトキシ−メチル)エステル)、または0.1%DMSO(Alomone)中20マイクロMタプシガルギンで60分間処理した。
【0053】
プラスミド
HAでタグ標識したNDR1を有する哺乳動物発現ベクターを、以下のプライマー:
5’−CCCAAGCTTGCCACCATGGCTTACCCATACGATGTTCCAGATTACGCTTCGATGCAATGACGGCAG−3’(配列番号:10)および5’−CGGGATCCCTATTTTGCTGCTTTCATG−3’(配列番号:11)を用いてPCRにより構築し、そしてpCMV5のHindIII部位およびBamHI部位にサブクローニングした。pGEX−2T_NDR1プラスミドは、既に文献に記載されている(Millward et al., 1995, Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 92, 5022−5026)。キナーゼ不活性pCMV5_HA−NDR1プラスミドおよびpGEX−2T_NDR1プラスミド(K118A)、およびリン酸化部位アラニン変異体(T74A、S281AおよびT444A)を、QuickChange部位突然変異プロトコール(Stratagene)を用いて以下のプライマーで野生型ベクターから作製した:
5’−GGACATGTGTATGCAATGGCTATACTCCGTAAAGCAGATATGCTTGAAAAAGAGCAGG−3’(配列番号:12)および5’−GCATATCTGCTTTACGGAGTATAGCCATTGCATACACATGT
CCCGTATCTTTCTTCTGAACAAGC−3’(K118A;配列番号:13);5’−GCTCGGAAG−GAAGCAGAGTTTCTTCGTTTGAAGAGAACAAGACTTGG−3’(配列番号:14)および5’−CGAAGAAAC−TCTGCTTCCTTCCGAGC−ATGTGCTGATCTCCG−3’(T74A;配列番号:15);5’−CGTCAGCTAGCCTTC−GCTACAGTAGGCACTCCTGACTACATTGC−3’(配列番号:16)および5’−GGAGTGCCTACTGTAGCGA−AGGCTAGCTGACGTCTATTTCTTTTCC−3’(S281A;配列番号:17);および5’−GGTCTTCATCAATTAC−GCTTACAAGCGCTTTGAGGGCCTGACTGC−3’(配列番号:18)および5’−CCTCAAAGCGCTTGTAA−GCGTAATTGATGAAGACCCAGTCT−TTGTTC−3’(T444A;配列番号:19)。
pECE_S100Bプラスミドは既に文献に記載されている(Millward et al., 1998, EMBO J. 17, 5913−5922)。すべてのプラスミドの配列を、DNAシークエンシングにより確認した。
【0054】
抗体
抗Ser281Pおよび抗Thr444Pウサギポリクローナル抗血清を、Ser281P部位の合成ペプチドNRRQLAFS(PO)TVGTPD(配列番号:20)およびThr444P部位のKDWVFINYT(PO)YKRFEG(配列番号:21に対して作製した。前記ペプチドを、キーホールリンペットヘモシアニンと結合させた。ウサギへの注射および血の収集を、標準的な技術を用いて行った。抗S281P抗血清をさらなる精製なしに用い、一方、抗T444P抗体を、プロテインA−セファロース(Pharmacia)で精製し、その後抗原ペプチド結合CNBr−活性化セファロース(Pharmacia)で精製した。抗体を、0.1M グリシン、pH2.5で溶出した。12CA5 HA モノクローナル抗体ハイブリドーマ上清(HAに特異的な抗体)を、HA−NDR1変異体の免疫検出および免疫沈降に用いた。ウサギ抗NDR1_C末端ポリクローナル抗血清を、合成ペプチドTARGAIPSYMKAAK(NDR1、配列番号:2のaa452−465に対応する)結合キーホールリンペットヘモシアニンに対して作製した。ペプチド特異的抗体を、プロテインA−セファロース(Amersham Pharmacia Biotech)で精製し、次に免疫ペプチドを結合したAffi−gel 10(Bio−Rad)で精製した。抗体を、6M 尿素を含む50mM Tris−HCl、pH 7.4で溶出し、次にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して透析した。S100Bを認識するウサギポリクローナル抗血清を、組換えヒトS100Bに対して作製し、さらなる精製なしに用いた(Ilg et al.,1996, Int.J.Cancer 68, 325−332)。
【0055】
ヒトGST融合NDR1の細菌性発現
BL21−DE3−pRep4大腸菌株を、pGEX−2T_NDR1野生型または変異プラスミドで形質転換した。BL21−DE3はプロテアーゼ欠損大腸菌株であり、pRep4はLacIqリプレッサー担持プラスミドであり、共に市販されている。所望により、望ましい場合はGroESLを含む大腸菌株を使用してよく、それはキナーゼを安定化するシャペロンタンパク質を発現する。対数増殖期中期(mid-logarithmic phase)の細胞を、30℃で4時間、0.5mM イソプロピル ベータ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導した。細菌を、1mg/mlリソソームの存在下で加圧型細胞破壊装置(French press)を用いて溶解し、融合タンパク質を、前記装置の製造業者が記載のようにグルタチオン−アガロース(Amersham Pharmacia Biotech)で精製した。組換えタンパク質を、下記のようにキナーゼ活性について分析し、自己リン酸化を、SDS−PAGE分離後にチェレンコフ計測(Cerenkov counting)によるか、またはPhosphorImagerスクリーニングに暴露し、その後、ImageQuantソフトウェア(Molecular Dynamics)で分析することにより決定した。
【0056】
GST−NDR1キナーゼ分析
1マイクログラムの精製した組換えGST−NDR1野生型および変異体(さらなる処理なしにか、または1mM CaClおよび10mM ウシS100B(Sigma)の存在下または非存在下にて2時間自己リン酸化させる)を、20mM Tris−HCl、pH7.5、10mM MgCl、1mM DTT、100mM[ガンマ−32P]ATP(〜0.5mCi/マイクロリットル)、および1mM NDR1基質ペプチド(KKRNRRLSVA;配列番号:22)を含む20マイクロリットルの反応混合物中にて分析した。30℃で30分間インキュベーション後に、反応を50mM EDTAで停止し、そして反応混合物10マイクロリットルを、2cmの正方形のP81ホスホセルロース・ペーパー(Whatman)上にスポットとした。それらを、1% リン酸中で4×5分、次に3×20分間洗浄し、アセトンで1度洗浄し、その後、液体シンチレーションカウンター中にて測定した。NDR1活性の1単位を、1分間に1nmolペプチド基質のリン酸化を触媒する量として定義した。
【0057】
HA−NDR1キナーゼ分析
形質転換され、かつ処理されたCOS−1細胞を氷冷PBSで一度洗浄し、1mM NaVOおよび20mM ベータ−グリセロリン酸を含む1mlの氷冷PBS中にラバーポリスマン(rubber policeman)で収集し、その後、500マイクロリットルのIP緩衝液(20mM Tris−HCl、pH8.0、150mM NaCl、1% ノニデットP−40、10% グリセロール、1mM NaVO、20mM ベータ−グリセロリン酸、1マイクロモル マイクロシスチン−LR、50mM NaF、0.5mM PMSF、4マイクロモル ロイペプチン、1mM ベンズアミジン、および1錠/コンプレート・プロテアーゼ・インヒビター10ml IP(Roche))中に溶解した。溶解物を、20分間20000gで遠心し、そして上清の3等分のアリコート(200mg)を、60分間プロテインA−セファロース(Amersham Pharmacia Biotech)で事前にきれいにしておき、そして次に、4℃で3時間12CA5抗体と混合し、プロテインA−セファロースに事前に結合させた(2マイクロリットル ビーズに対して〜1マイクロg抗体)。その後、前記ビーズをIP緩衝液で2度洗浄し、10分間、1M NaClを含むIP緩衝液で1度洗浄し、再び10分間、IP緩衝液で1度洗浄し、そして最後に4マイクロモル ロイペプチンおよび1mM ベンズアミジンを含む20mM Tris−HCl、pH7.5で2度洗浄した。その後、ビーズを、20mM Tris−HCl、pH7.5、10mM MgCl、1mM DTT、100マイクロモル[ガンマ−32P]ATP(〜0.1マイクロCi/マイクロリットル)、1マイクロモル cAMP−依存性タンパク質キナーゼインヒビター・ペプチドPKI(Bachem)、4マイクロモル ロイペプチン、1mM ベンズアミジン、1マイクロモル ミクロシスチン−LR、および1mM NDR1基質ペプチド(KKRNRRLSVA)を含む30マイクロリットルの緩衝液中に再懸濁した。30℃でインキュベーションした60分後、15マイクロリットルの上清を除去し、そして基質ペプチドへのリン酸の取り込みを、上記GST−NDR1のように判定した。
【0058】
Ser281またはThr444でリン酸化されたNDR1の免疫検出
上記の100マイクログラムのCOS−1界面活性剤抽出物から免疫沈降した1マイクログラムのGST−NDR1またはHA−NDR1のどちらかを、10%SDS−PAGEで分離し、そして室温で2時間、または4℃で一晩、50マイクログラム/mlの競合的非リン酸化ペプチドまたは抗Thr444P精製抗体(1:500)の存在下に抗Ser281P抗血清(1:1000)で免疫ブロッティングした。両抗体を、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ−結合ロバ抗ウサギIg抗体(Amersham biosciences)で検出し、そしてECL(化学発光; Amersham Pharmacia Biotech)で現像した。
【0059】
ウエスタンブロッティング
GST−NDR1またはHA−NDR1を検出するため、試料を、10%SDS−PAGEにより分離し、そしてPVDF膜(Immobilon-P; Millipore)に転写した。膜を、5%スキムミルク粉末を含むTBST(50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、および0.05%Tween−20)中でブロッキングし、その後、抗NDR1_C末端(4マイクログラム/ml)または12CA5モノクローナル抗体上清(1:100)で2時間プロービングした。結合した抗体を、対応するホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ−結合二次抗体およびECLで検出した。免疫沈降したS100Bを検出するため、試料を18%SDS−PAGEで分離し、そしてPVDFに転写した。前記膜をTBST中5%BSAおよび1%FCSで2時間ブロッキングし、その後、同じ緩衝液(BSAおよびFCSを含むTBST)で1:1000に希釈した抗S100B抗血清でプロービングした。その後、結合した抗体をTBST中の対応するホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ−結合二次抗体およびECLで検出した。
【0060】
NDR1およびS100Bの共免疫沈降
細胞質性のCOS−1細胞抽出物を、低張緩衝液(10mM HEPES pH7.9、0.5mM CaCl、1.5mM MgCl、10mM KCl、1mM NaVO、20mM ベータ−グリセロリン酸、1マイクロモル マイクロシスチン−LR、50mM NaF、0.5mM PMSF、4マイクロモル ロイペプチン、1mM ベンズアミジン、および1錠剤/完全なプロテアーゼ・インヒビター10ml)中にて10分間、細胞を溶解することにより調製した。その後、細胞を、Dounceホモジナイザーを用いてホモジナイズした。3300gで15分間遠心後、細胞質抽出物を含む上清を取っておき、そしてペレット中に見られる単離された核をさらに高塩緩衝液(20mM HEPES、pH7.9、25% グリセロール、0.5mM CaCl、1.5mM MgCl、0.5M KCl、1mM NaVO、20mM ベータ−グリセロリン酸、1マイクロモル マイクロシスチン−LR、50mM NaF、0.5mM PMSF、4マイクロモル ロイペプチン、1mM ベンズアミジン、および1錠剤/コンプレート・プロテアーゼ・インヒビター10ml)中にて30分間溶解処理した。20000gで30分間遠心後、細胞質および核抽出物を、4:1の割合で合わせた。1mgのタンパク質抽出物を、60分間プロテインA−セファロースで事前にきれいにしておき、そして10ml プロテインA−セファロースに固定された5mlの抗S100B抗血清と一緒に、4℃で3時間インキュベートした。その後、前記ビーズを、緩衝液(20mM HEPES、pH7.9、25mM KCl、5% グリセロール、1mM MgCl、0.1mM CaCl、0.5mM PMSF、4マイクロモル ロイペプチン、1mM ベンズアミジン、1mM NaVO、20mM ベータ−グリセロリン酸、1マイクロモル マイクロシスチン−LR、および50mM NaF)中で4度洗浄した。免疫沈降物を、試料緩衝液中で沸騰し、そして上記のようにS100BまたはHA−NDR1に免疫ブロットした。
【0061】
質量分析
10マイクログラムの未処理GST−NDR1または自己リン酸化GST−NDR1(1mM CaClおよび10マイクロモル ウシS100Bホモ二量体の存在下か非存在下のどちらかにて30℃で2時間)を、10% SDS−PAGEにより分離し、クマシー・ブルーR−350(Sigma)で染色し、そしてさらなる処理のためにゲルから抽出した。次に、ゲル片をアセトニトリル中で3×8分洗浄し、そして25mM NHHCO中で2×12分洗浄した。その後、ゲル片を10mM DTT中57℃で1時間還元し、続いて55mM ヨードアセトアミド中室温で45分間アルキル化した。アセトニトリル/NHHCO中での洗浄を繰り返した後、ゲル結合GST−NDR1を、37℃で一晩、連続的に等級調製されたトリプシン(Promega)で切断した。その後、切断されたペプチドを、水:アセトニトリル:ギ酸(20:70:10)および水:メタノール:ギ酸(93:2:5)中における2度の15分間の超音波処理工程により抽出した。
【0062】
すべての実験を、NanoESI源(Protana、Odense、Denmark)を備えたAPI300三連四重極質量分析計(triple-quadrupole mass spectrometer)(PE-Sciex、Toronto、Canada)で行った。m/z−79の前駆体イオンスキャンに関して、試料をWilmとMann(1996, Anal.Chem. 68, 1−8)にしたがったオフライン・ナノエレクトロスプレーにより注入した。その装置を、ネガティブイオン・モードにて操作した;m/z−79の検出の感度を良くするため、少量のアンモニアを試料調製中に噴射用注射針に添加した。LC−MS配列分析に関して、リン酸化ペプチドをさらにAPI300質量分析器と連動した高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により分離した。Rheos4000クロマトグラフには、1×250mm Vydac C8カラム(Hesperia、Canada)が装備されている。HPLCカラムを95% 溶媒A(水中2% CHCN、0.05% トリフルオロ酢酸)、5% 溶媒B(水中80% CHCN、0.045% トリフルオロ酢酸)にて平衡化し、そして180マイクロリットル/分の流速で60分間にわたる溶媒Bの5から50%の直線勾配を展開した。カラム後、流出物を質量分析に用いるために少量ずつ(約5%)取り分けた。リン酸化ペプチドを、集めたHPLC画分にてチェレンコフ計測で検出した。さらなる配列調査のために、リン酸化ペプチド含有画分を乾燥し、数マイクロリットルの水:CHCN:ギ酸(49.5:49.5:1)中に再溶解し、ナノエレクトロスプレー源を用いて質量スペクトル分析器に徐々に注入し、そしてポジティブイオン・モードにて低エネルギー・タンデムMS装置により分析した。
【0063】
実施例1:Ndr1自己リン酸化部位のマッピング
NDR1を、EFハンドCa2+結合S100Bタンパク質とインキュベートすることにより、自己リン酸化およびNdr1キナーゼ活性の両方が増加した(Millward ら, 1995; Millwardら, 1998)。本実施例ではさらに、ナノスプレーESI−MS/MS分析法によりNDR1自己リン酸化部位を分析した。
【0064】
簡単には、10マイクログラムのGST−NDR1を未処理のままか、または1mM CaClおよび10mM ウシS100Bの非存在下または存在下にて2時間自己リン酸化した。SDS−PAGEによる分離後、GST−NDR1を切り出し、リン酸化ペプチドの質量スペクトル分析のためにトリプシン切断処理した。得られたトリプシンとペプチドの混合物を、三連四重極質量分析計に注入し、ネガティブイオン・モードにてm/z−79に関して前駆体イオンスキャンすることによりリン酸化ペプチドを分析した。この方法にて、衝突セル(collision cell)におけるフラグメント化後、m/z−79種を遊離し、リン酸化ペプチドの特徴であるネガティブ・フラグメントイオンPO3−特性を示す、前記混合物中の各ペプチドを検出した(Carr et al., 1996, Anal. Biochem. 239, 180−192; Wilm et al, 1996, Anal.Chem. 68, 527−533)。m/zがNDR1誘導リン酸化ペプチドであると考えられるリン酸化ペプチドを、便宜上P1〜P4と標識した。前記ペプチドのいくつか(例えば、P2およびP1)を、重荷電状態にて検出した。ペプチドP2は、P1と重複し芳香族性残基が末端であるため、トリプシン調製物の微量のキモトリプシン混入により生じたと推定される。多くの二重−荷電非リン酸化NDR1ペプチド(配列番号:2のアミノ酸378−391)を、m/z860として検出した。
【0065】
NDR1ポリペプチドの3つの領域から誘導されるリン酸化ペプチドP1−P4(それぞれ、配列番号:2のアミノ酸277−301、277−294、438−447および72−78)を、Ndr1完全長配列に関する番号付けにしたがい示したホスホアクセプター残基としてまとめた。
【表1】

【0066】
未処理GST−NDR1をm/z−79の前駆体イオンスキャンにより分析した場合、ペプチドP2およびP4に対応する弱いリン酸化シグナルのみを検出することができた。しかしながら、Ca2+/S100Bの非存在下または存在下のどちらかで自己リン酸化されたGST−NDR1試料では、多量のリン酸化ペプチドが明らかに増加した。ほとんどのこれらのシグナルの観察されたm/z値は、両方の試料にて、リン酸基(79.97Da)を遊離させる際に、期待されるトリプシン性(または、一例としてキモトリプシン性)NDR1脱リン酸化ペプチドを生じる4つのNDR1誘導リン酸化ペプチドP1−P4とした。
【0067】
これらのペプチドの同一性を確認するため、[ガンマ−32P]ATPでのGST−NDR1の自己リン酸化のLC−MS分析を行った。リン酸化ペプチドに富む放射活性画分を収集した後、試料をm/z−79前駆体イオンスキャン法を用いてESI質量測定器により分析した。標識されていないGST−NDR1の分析にて同じ種が発見され、その後、低エネルギー・タンデム質量(MS/MS)分析をポジティブイオン法にて行った。上記に一覧としたリン酸化ペプチドに対応するイオン種(リン酸化された残基を含む)が検出され、よってNDR1インビトロ自己リン酸化部位の同一性を確認した。
【0068】
前記4つのリン酸化ペプチドを、NDR1ポリペプチドの3つの領域から誘導した。最初の3つは、オカダ酸によりインビボにて活性化されたNDR1において先に同定された部位に対応する。P1およびP2は、活性断片のSer281を含むリン酸化ペプチドを示し、P3は、NDR1のカルボキシル末端領域に位置する疎水性モチーフ由来の残基Thr444を含むリン酸化ペプチドを示す(EP1097989、表題「Ndrホスホキナーゼ」を参照)。前記リン酸化ペプチドP4は、アミノ酸62−83を包含するS100結合領域として定義されているNDR1のN末端領域ではこれまで同定されていないリン酸化残基であるThr74を含む(Millward et al.,1998)。
【0069】
故に、本実施例は、インビトロにおける3つの残基のNDR1自己リン酸化を示す。その第一番のThr74は、NDR1のN末端S100B結合ドメインに位置する。第二番目、主な部位であるSer281(すべてのAGC群のキナーゼによく保存されている)は、NDR1の核局在化シグナルおよびキナーゼドメイン・インサートのすぐ後ろのキナーゼ触媒ドメインのサブドメインVIII中の活性断片(「T−ループ」としても知られる)の必須部分を構成する。第三の部位であるThr444もまた、AGCスーパーファミリー中に保存されており、疎水性アミノ酸残基に富む領域(故に、「疎水性モチーフ」と呼称する)内にてキナーゼ触媒ドメインの外側に位置する。
【0070】
実施例2:GST−リン酸化部位変異体における自己リン酸化割合およびキナーゼ活性の低下
インビトロでのNDR1の残基Thr74、Ser281、およびThr444における自己リン酸化を確認するため、ならびにNDR1の自己リン酸化誘導キナーゼ活性におけるこれらの残基の影響を評価するために、リン酸化部位残基をアラニンで置換するか、または触媒部位中のLys118をアラニンで置換して一連のGST−NDR1変異体を構築し、GST−NDR1キナーゼ不活性変異体を形成した。これらを、自己リン酸化およびキナーゼ活性について分析した。
【0071】
簡潔には、1マイクログラムの精製されたGST−NDR1(溶液中、〜0.5マイクロモル)野生型、キナーゼ不活性(K118A)、リン酸化残基Thr74、Ser281、およびThr444のアラニン変異体を、さらなる付加物なしにか、または1mM CaClおよび10マイクロモル ウシS100Bの存在下でインビトロにて2時間リン酸化した。タンパク質を、クマシー・ブルーR−350染色したSDS−PAGEゲルを用いてSDSゲル上で可視化し、そして[ガンマ−32P]ATP−標識タンパク質を、PhosphorImagerスクリーニング上に作成したゲルの自己リン酸化により可視化した。取り込まれた32Pの量を、チェレンコフ計測により定量した。
【表2】

【0072】
GST−NDR1変異体の特異的活性もまた、上記のようにしてペプチドキナーゼ分析により測定した。本目的のために、1マイクログラムの精製したGST−NDR1野生型およびアラニン変異体を、さらなる処理なしか、または1mM CaClおよび10mMウシS100Bの存在下または非存在下で2時間自己リン酸化させた。
【表3】

【0073】
野生型GST−NDR1は、インビトロで効率的に自己リン酸化されるようになり(0.4ピコモルATP/ピコモルGST−NDR1まで)、そのためS100Bホモ二量体の付加が、(Ser281およびThr444の両方における)自己リン酸化の約2倍の増加をもたらし、同時にキナーゼ活性の約5倍の増加をもたらした。キナーゼ不活性変異体が、検出可能な自己リン酸化を示さなかったため、NDR1キナーゼ活性が、観察される効果の主な原因であると考えられる。S281A変異体は、(S100Bの添加に関わりなく)劇的に低下した自己リン酸化割合を示し、故に、この残基が、インビトロにおけるNDR1の主な自己リン酸化部位であることを確認した。S281Aのキナーゼ活性は、同じく低下し、ほとんど検出不可能になった。
【0074】
T444A点変異はまた、S281Aと同程度ではないが、自己リン酸化割合およびキナーゼ活性両方の顕著な低下(約5倍)をもたらし、T444もまた、インビトロにおける自己リン酸化を受けやすいことを示した。理論に縛られることを望んでいないが、S281A変異との比較として顕著ではないT444Aの効果が、好ましくない、たった2つの離れた塩基性アミノ酸を有する疎水性ペプチド配列上流のこの残基により容易に説明され得る。
【0075】
最後に、T74A変異体は、Ca2+/S100Bの非存在下における自己リン酸化割合およびキナーゼ活性のごくわずかな低下のみを示した。LC−MSによる定量分析によれば、この部位のリン酸化は、全リン酸取り込みの5%未満を占める。しかしながら、Ca2+/S100Bの添加後、この点変異の影響はT444Aの影響に近づき、そして自己リン酸化割合およびキナーゼ活性におけるCa2+/S100Bの刺激効果が、他のGST−NDR1種と比較して大きく低下した。これらの結果は、Thr74が少ない自己リン酸化部位しか関係していないことを示し、そしてCa2+/S100Bの付加に対する低い反応性が、T74A変異体とS100Bの相互作用ができないことを最も反映しているようである。
【0076】
故に、変異分析は、Ndr1のSer281残基は、自己リン酸化されたNDR1中のリン酸取り込みの大部分に関与し、一方、Thr74およびThr444は、取り込まれたリン酸の少ない部分を占めることを示している。さらに、Ser281の変異は、NDR1自己リン酸化誘導キナーゼ活性の劇的な低下をもたらし、故に、この残基が、主なNDR1自己リン酸化部位であることが確認された。しかし、この結果は、Ser281およびThr444の両方が十分に活性なNDR1に必要であることを示唆し、NDR1の活性化におけるこれらの2つの残基間の相乗効果を示している。
【0077】
実施例3:Ca2+/S100Bは、Thr74リン酸化を経て、Ser281とThr444の両方におけるGST−NDR1の自己リン酸化を促進する
NDR1リン酸化状態におけるS100Bの効果を正確に定量するために、ウサギポリクローナル抗体を、Ser281またはThr444を含むリン酸エピトープに対して作製した。GST−NDR1変異体を、基本的には実施例2に記載のように処理し、そしてSer281またはThr444にてリン酸化されたNDR1を認識する抗NDR1_C末端抗血清またはポリクローナル抗体のどちらかで検出した。これらの抗体は、対応するリン酸の点変異体S281AもしくはT444A、またはキナーゼ不活性体を認識しないため、リン酸化NDR1に排他的に特異性を有する。
【0078】
これらの試薬を用いて、Ca2+/S100Bは、どちらの残基にも優先性を示すことなく、Ser281およびThr444両方におけるリン酸化を増大することを発見した(実施例2にて見られる自己リン酸化の全体的な増加に類似)。一方、S281A変異はThr444における自己リン酸化を完全になくし、T444A変異体は、Ser281におけるほぼ正常な自己リン酸化を示した。Thr444は、わずかな範囲でのみリン酸化されるが、これらのデータは、NDR1キナーゼ活性における活性化断片リン酸残基の影響が、疎水性モチーフ残基の影響よりも大きいこと、またはこれらの残基が、他のAGCファミリータンパク質キナーゼのほとんどで既知の連続的方法にてリン酸化されることを示している(Newton、A. C. (2001) Chem.Rev. 101, 2353−2364)。最後に、T74A点変異は、内因性NDR1自己リン酸化を活性化することなしに、Ser281およびThr444残基の両方のS100Bを介したリン酸化の増大をなくし、S100Bとの相互作用におけるこの残基の重要な役割をまた強調する。
【0079】
実施例4:インビボでSer281は、主な自己リン酸化残基であり、一方Thr444は、上流キナーゼにより標的化される
インビボでのNDR1のキナーゼ活性における個々のリン酸化部位の相対的な影響を判定するため、本発明者らは、3つの同定されたリン酸化部位に、HA標識したNDR1野生型、キナーゼ不活性体、そしてアラニン変異体を有する一連の哺乳動物発現ベクターを構築した。
野生型HA−NDR1か、またはその記載した変異体のどちらかを発現するCOS−1細胞を、1マイクロモル オカダ酸または溶媒のみで1時間処理した。その後、HAタグ標識したNDRキナーゼ変異体を、(100マイクログラムの界面活性剤抽出物から)12CA5モノクローナル抗体で免疫沈降し、そして上記のようなペプチドキナーゼ分析によりキナーゼ活性について分析した。
【表4】

【0080】
Ser281およびThr444である2つの確立されたインビボ調節リン酸化部位における点変異は、未処理COS−1細胞および1マイクロモル オカダ酸処理したCOS−1細胞の両方におけるNDR1キナーゼ活性の予期される低下をもたらした(S281A変異体に対して幾分優先的に)。しかしながら、GST−NDR1キナーゼ分析とは異なり、HA−NDR1キナーゼ活性の劇的な低下が、Thr74変異後に検出された。このことは、Thr74依存性のS100Bを介する自己リン酸化が、インビボにて重要な役割を果たし得ることを示す。
【0081】
この可能性を検討するため、形質転換したCOS−1細胞からの抽出物を、抗Ser281Pおよび抗Thr444P抗血清で分析した。形質転換したCOS−1細胞からのタンパク質抽出物(10マイクログラム)を、12CA5で免疫ブロットし、それぞれのHA−NDR1構築物が同様の発現レベルであることを確認した。リン酸化状態の分析に関し、(100マイクログラムのタンパク質抽出物から)12CA5で免疫沈降したHA−NDR1変異体を、P−S281またはP−T444に対するリン酸化特異的抗体で免疫ブロットすることにより分析した。
【0082】
前記Ser281残基は、インビボにて構成的にリン酸化されており(また、このリン酸化はさらに、1mM オカダ酸での処理後に増大された)、一方、Thr444部位は、オカダ酸での処理後にのみリン酸化された。前記Ser281のリン酸化は、キナーゼ不活性化K118A変異体が、この部位におけるリン酸化を示さないことから、全体的にNDR1の活性に依存する。この事実は、Ser281が、インビボでもまた自己リン酸化残基であることを示す。このことは、オルトリン酸塩代謝のインビボ標識により確認された。しかしながら、Thr444の変異は、Ser281のリン酸化を減じることなく、そのことは、NDR1自己リン酸化のためのこの残基の低い重要性をさらに示している。しかしながら、Thr444残基は、キナーゼ不活性化変異体K118AにおけるNDR1のキナーゼ活性をなくした後でもリン酸化され、上流キナーゼの標的として関与している。最後に、残基Thr74の変異は、Ser281およびThr444両方のリン酸化の著しい低下をもたらしており(オカダ酸処置の有無のどちらにおいても)、キナーゼ活性データと一致している。このことは、Thr74が、S100Bを介するNDR1の自己リン酸化のみでなく、NDR1に対する上流キナーゼの標的化にも関係することを示す。
【0083】
実施例5:Ser281とThr444の両方のリン酸化は、Ca2+依存的な方法にて起こる
Ca2+/S100Bが、インビボにおけるNDR1活性およびインビトロにおけるSer281およびThr444での効率的なNDR1自己リン酸化の両方に不可欠であり、かつS100B−NDR1相互作用が、完全にCa2+依存性であることが既知であるため(Millward et al., 1998)、本実施例では、NDR1の活性化、すなわち、Ser281またはThr444、もしくは両方のNDR1のリン酸化における内生Ca2+の役割を調査する。本目的のために、細胞に自由に取り込まれ、細胞質エステラーゼにより加水分解され、活性な膜透過性Ca2+キレート化剤であるBAPTAとして細胞内に捕捉される膜透過性物質であるBAPTA−AMで、COS−1細胞を形質転換する(TaylorとBroad,1998, Trends Pharmacol.Sci. 19, 370−375)。
【0084】
偽形質転換した(Mock-transfected)COS−1細胞またはHA−NDR1を発現するCOS−1細胞を、1mM OA、50マイクロモル BAPTA−AM、および20mM タプシガルギンまたは溶媒(0.1% DMFまたは0.1% DMSO)のみで1時間処理した。その後、(100マイクログラムタンパク質抽出物からの)12CA5免疫沈降物を、NDR1キナーゼ活性のペプチドキナーゼ分析を用いて分析した。
【表5】

【0085】
偽形質転換したCOS−1細胞およびHA−NDR1で形質転換したCOS−1細胞からのタンパク質抽出物(10マイクログラム)もまた、12CA5で免疫ブロットし、HA−NDR1構築物の同等の発現レベルを確認した。リン酸化状態の分析に関して、(100マイクログラムタンパク質抽出物から)12CA5で免疫沈降したHA−NDR1を、P−S281またはP−T444に対するリン酸化特異的抗体を用いた免疫ブロットにより分析した。
【0086】
50mM BAPTA−AMは、オカダ酸で刺激したNDR1活性をオカダ酸で刺激していない細胞のほぼ基本的活性レベルまで劇的に低下する。同様に、NDR1のリン酸化状態の調査により、Ser281およびThr444の両方のリン酸化が、ほぼ基底値まで低下したことを実証した。とりわけ、NDR1活性ならびにSer281およびThr444のリン酸化は両方とも、BAPTA−AMと20mM タプシガルギン(筋小胞体性小胞体Ca2+・ATPase(SERCA)ポンプの阻害により、すなわち、細胞内Ca2+貯蔵の遊離を介することにより細胞質Ca2+を上昇するセスキテルペン・ラクトンである)の共インキュベーションにより減少した(Treiman et al.,1998, Trends Pharmacol.Sci. 19, 131−135)。これらの結果は、観察されたBAPTA−AM効果のCa2+特異性を支持しており、上述のデータと合わせて、NDR1が、Ca2+に依存した、おそらくSer281のS100Bを介した自己リン酸化により、および未だ同定されていないThr444のCa2+依存性上流キナーゼによるリン酸化により制御されることが示された。
【0087】
まとめると、Ser281におけるNDR1の自己リン酸化、ならびにThr444における上流キナーゼによるリン酸化は両方とも、Ca2+依存性の過程である。Ca2+/S100Bの付加により、Ser281およびThr444にて増加したリン酸化が観察され、それはNDR活性の刺激を生じる結果となった。前記Ca2+キレート化剤であるBAPTA−AMは、Ser281およびThr444の両方におけるNDR1の活性およびリン酸化を抑制し、そして特に、これらの効果は、SERCA Ca2+ポンプインヒビター・タプシガルギンの付加により無くなった。理論に縛られることを望まないが、Ser281におけるNDR1の自己リン酸化のCa2+依存性は、自己リン酸化を効率的にするためにNDR1がCa2+/S100Bを必要とすることにより、容易に説明することができる。
【0088】
実施例6:Thr74は、HA−NDR1とCa2+/S100Bの結合に必要とされる
NDR1は、完全なNDR1のN末端ドメインに依存してインビボでS100Bを有する機能的複合体を形成する(Millward et al., 1998)。本実施例では、NDR1のリン酸化状態に依存する結合を実証する。COS−1細胞を、S100BおよびNDR1野生型またはアラニン変異体発現プラスミドで形質転換し、そしてNDR1−S100B相互作用を、NDR1とS100Bの共免疫沈降により観察した。
【0089】
COS−1細胞を、HA−NDR1野生型、キナーゼ不活性体(K118A)、およびリン酸化残基Thr74、Ser281、またはThr444のアラニン変異体、ならびにS100B、または示された対応する空ベクターで形質転換した。48時間後、非洗浄の細胞核および細胞質性細胞溶解物を調製し、集め、そしてHA−NDR1種の発現について分析した。1mgのタンパク質抽出物をさらに、抗S100B−セファロースで免疫沈降し、そしてS100B発現および抗S100B免疫沈降物とNDR1の結合について分析した。
【0090】
NDR1−S100B複合体の形成は、NDR1キナーゼ活性または調節残基Ser281およびThr444のリン酸化状態に依存的でなく、故に、構成的であると見なされる。しかしながら、Thr74(少ないインビトロ自己リン酸化部位)が、Ca2+/S100Bとの相互作用を起こすためにNDR1に必須であるように思われる。NDR1のN末端ドメインは、S100Bまたは他の可能性のある相互作用タンパク質の結合により軽減され得るキナーゼ触媒ドメインにおける自己阻害効果に影響を及ぼすようである。
【0091】
実施例7:NDR2タンパク質キナーゼの分子特性
本実施例は、NDR2タンパク質キナーゼの同定および分子特性を記載する。NDR1およびNDR2は、86%のアミノ酸の同一性を有する異性体形であり、ヒトおよびマウス間で高く保存されている。前記データは、NDR2がオカダ酸処理により強く活性化され、結果として、Ser−282およびThr−442におけるリン酸化を生じることを示す。NDR2はまた、EFハンド カルシウム結合S100Bタンパク質により制御されることが示される。インビトロにて、S100Bは、Ser−282およびT442におけるNDRタンパク質キナーゼの自己リン酸化を誘導する。
【0092】
NCBIデータベースのBLAST検索により、ヒトKIAA0965 mRNA(Genebank 受入番号AB023182クローンhj06174s1)を、ヒトNDR1タンパク質キナーゼと顕著な相同性を有する不完全cDNAとして同定した。完全なcDNAを、標準的なプロトコル(www.clontech.com, PT1156−1)に従い、Marathon−Readyヒト脳cDNAライブラリー(Clontech)のPCRスクリーニングにより単離した。マウスNdr1cDNAを、標準的なプロトコル(www.clontech.com, PT 1156−2)に従い、λZAPII(Stratagene)、3’mESTを有するマウスNdr2cDNA(genebank受入番号AA277870)中のいくつかのマウスcDNAライブラリーをスクリーニングし、タッチダウン法によりマウス脳ライブラリー由来の5’末端(Clontech)をサブクローニングすることによりクローニングした。すべてのクローンを、Sequenase(United Sates Biochemical)および慣習的な合成プライマーを用いて良好の両方鎖を完全にシークエンスし、ゲノムデータベース(Ensembl)と比較した。
【0093】
HA−エピトープ標識したhNdr1をコードする哺乳動物発現ベクターを、実施例1に記載する。HA−hNdr2の発現ベクターを、それぞれ標識していないcDNAとプライマー5’−CTTCCAAGCTTAGTCGACATGGCTTACCCATACGATGTTCCAGA−3’(配列番号:23)および5’−TTACGCTTCGGCAATGACGGCAGGGACTACAACAACC−3’(配列番号:24)ならびに5’−GGATCCTCTAGAGGTTATGGGTGAATGTTATCTTCATAACTTCC−3’(配列番号:25)でPfuポリメレース(Promega)を用いて増幅することにより構築し、その後PCR産物を、HindIIIおよびXbaIで切断し、pCMV5中にクローニングした。GST−Ndr2およびGFP−Ndr2を、Ndr2cDNAとプライマー5’−CGGGATCCGGTACCCATGGCAATGACGGCAGGGACTAC−3’(配列番号:26)および5’−CGGGATCCCTTCATTCATAACTTCCCAGC−3’(配列番号:27)でPfuポリメラーゼ(Promega)を用いて増幅することにより構築した。その後PCR産物を、BamHIで切断し、pGEX2T(Smith,D.B.およびJohnson,K.S. (1988) Single−step purification of polypeptides expressed in Escherichia coli as fusions with glutathione S−transferase Gene 67 (1), 31−40)およびpEGFP−C1(Clontech)中にクローニングした。その後、挿入の方向を、KpnI切断およびシークエンシングにより検査した。GFP−Ndr1を、Ndr1 cDNAとプライマー5’−AGCAGGATCCGGTACCATGGCAATGACAGGCTCAACACCTTGC−3’(配列番号:28)および5’−CGAGGATCCTGCTCCACATAGGATTCCGTGGCAAGAG−3’(配列番号:29)で増殖することにより構築し、そしてpEGFP−C1(Clontech)中にクローニングし、シークエンシングにより検査した。GFP−Ndr2を、基本的に同様の方法にて構築した。
【0094】
すべての他の方法(細菌性発現、キナーゼ分析、免疫検出および質量スペクトル分析を含む)を、基本的には上述の方法部分に記載したように実行した。
【0095】
NDRキナーゼ サブファミリーを調べるために、hNdr2、mNdr1およびmNdr2のcDNA配列および遺伝子配列を決定した。推定アミノ酸配列を比較し、hNDR1、キイロショウジョウバエNDR TRC、線虫NDR Sax−1および酵母CBK1の既知の配列に対して位置合わせした。ヒトおよびマウスNDR1配列は、99%の同一性を示し、NDR2配列は97%の同一性を示し、一方、NDR1およびNDR2は86%の同一性を示す。ヒトNdr2は、進化の過程において、キイロショウジョウバエ、線虫および酵母とそれぞれ68%、67%および47%の同一性を有する高い保存性を示す。ヒトおよびマウスNDR2は、464アミノ酸長であり、推定質量54.0kDaを有する。遺伝子マッピングにより、hNdr1およびmNdr1、ならびにhNdr2およびmNdr2が、オーソロガス領域に位置することが示される。hNdr1は、6p21にマッピングされ(Tripodis N. et al.)、hNdr2は12p12.3にマッピングされるが、一方、対応するマウス遺伝子は、17B1および6G2−G3にマッピングされる。さらにNdr2の偽遺伝子が、マウスゲノムの染色体1Dおよび8A1.2にて発見された。イントロン−エキソン境界は、すべてのヒトおよびマウス遺伝子に保存されている。ヒトおよびマウス遺伝子は、保存されたイントロン−エキソン境界を有する14エキソンを含む。エキソン1は、5’UTRを含む非コードエキソン;エキソン2は、開始コドンを含む;そして終止コドンは、エキソン14に位置する。
【0096】
NDR2とNDR1の配列の比較は、NDR2が、NDR1リン酸化部位であるSer−281およびThr−444に対応するSer−282およびThr−442を含むことを示し(Millward et al.)、そのことは、NDR2活性が、NDR1と同様に制御されることを示唆する。さらに調べるため、Ser−282またはThr−442のどちらかをアラニンにより置換されたNDR2変異体を作製した。さらに、インビトロにおけるリン酸化部位変異体T75Aは基本的に上記した通りであり、キナーゼ不活性化変異体K119Aは、Ndr2について作製した。これらの変異体のそれぞれのタンパク質キナーゼ活性を、オカダ酸(OA)または溶媒のみで処理した細胞にて測定した。HA−NDR2−WTは、OAにより強力に刺激された(〜10倍)。すべてのリン酸化部位変異体(S282A、T442AおよびT75A)は、基底活性を顕著に減少したが、未だ活性化されていた。K119A変異体は、基底活性を検出されない程度のレベルまで低下させ、OAによりいかなる活性化も示さなかった。
【0097】
NDR1のSer281およびThr442に対して作製したリン酸化部位特異的抗体を用いた、制御リン酸化部位変異体S282AおよびT442Aのウエスタンブロッティング分析は、NDR2wt(野生型)、ならびにT442A変異体およびT75A変異体のSer282のNDRのリン酸化を示し、そして、このリン酸化は、NDR2wtおよびT442AではOA処理後に増加するが、T75Aでは増加しない。キナーゼ不活性化K119A変異体は、S282でリン酸化されない。T442は、NDR2wt、ならびにS282A変異体、T75A変異体およびK119A変異体のOA処理にてリン酸化される。このことは、NDR1の対応する変異体について上記の通りであった。ウエスタンブロッティング分析により、wtおよび変異体が、同じレベルで発現されることを確認した。これらの結果により、活性ループのリン酸化部位282および制御疎水性モチーフのリン酸化部位T442の両方におけるリン酸化が、NDR2活性に必要であることが確認された。
【0098】
NDR1およびNDR2間の配列保存はまた、上記のNDR1のS100結合ドメインを包含する。故に、インビトロでのNDR2活性におけるCa2+/S100Bの影響を、時間および濃度に依存的な方法で測定した。Ca2+/S100Bは、4時間インキュベーション後、マススペクトル分析により測定してNDR2自己リン酸化の割合を〜2倍に増加させ、そして濃度依存的方法で特定のNDR活性を〜4倍まで刺激した。このことは、NDR2が、NDR1と同様の方法でCa2+/S100Bにより活性化されることを示す。Ca2+/S100Bの存在下および非存在下におけるGST−NDR2のインビトロでのインキュベーション後、前記タンパク質をトリプシンで切断し、生じた混合物を、−79前駆体スキャン中ESI−MS−MSにより分析し、断片化後の単一のリン酸基を遊離するすべてのペプチド種の質量変化率(m/z)を測定した。5NDR2誘導リン酸ペプチドの同一性を、両方の試料、GST−NDR2およびGST−NDR2/Ca2+/S100Bにて測定することができた。
【表6】

【0099】
これらのペプチドのうち3つは、Ser−282リン酸化部位を含む、活性化に対応する領域(またはNDR2のT−ループ)から誘導される。4番目のリン酸ペプチドは、制御リン酸化部位であるThr−442を含むNDR2ポリペプチドのカルボキシ末端領域に由来し、5番目のはS100B結合ドメイン内部位である、Thr−75に対応する。これらの結果は、NDR1と同様の方法にて、NDR2がS100Bタンパク質により制御されることを実証する。
【0100】
実施例8:ヒトNdrは、hMOB1(GI:11691898)と相互作用する
HAタグ標識したhNDRおよびmycタグ標識したhMOB1を、COS1細胞中に共トランスフェクションし、それをオカダ酸または溶媒のみで刺激した。細胞を溶解し、抽出物を調製後、HA−NDRを、免疫沈降し、共免疫沈降したmyc−hMOB1を検出するか、またはMyc−hMOB1を免疫沈降し、共免疫沈降したHA−NDRを検出した。myc−hMOB1とHA−NDR1の共免疫沈降、ならびにHA−NDRとmyc−hMOB1の共免疫沈降により、MOB1がNDR1と結合し得、そしてこの相互作用がOAによる細胞の刺激に依存することが明らかとなった。
【0101】
この相互作用がPP2A−インヒビターとNDRアクチベータであるOAによる刺激に依存するために、本発明者らは、前記相互作用がNDRキナーゼ活性に依存するかどうかを試験した。HA−NDR、wtおよび変異体、ならびにmyc−hMOB1を、COS−1細胞に共トランスフェクションし、前記細胞を溶解前にOAで処理した。HA−NDRを免疫沈降し、そして共免疫沈降したmyc−hMOB1を検出した。ATP結合部位にて触媒性リシンを変異されたキナーゼ不活性化変異体K118Aは、オカダ酸刺激後も未だhMOB1と相互作用し得る。さらに、NDRの2つの主要なインビボリン酸化部位である、活性断片中のセリン−281およびC末端制御ドメイン内の疎水性モチーフ部位であるスレオニン−444、ならびにN末端制御ドメインのスレオニン−74を、NDR−MOB相互作用におけるそれらの役割について試験した。OA刺激後も、変異体S281AおよびT444AはMOB1と相互作用するが、一方T74A変異体は、MOB1との相互作用が完全にないことを示した。
【0102】
内生NDRとhMOB1が相互作用するかどうかを試験するため、myc−hMOB1を、COS1細胞にトランスフェクションし、トランスフェクション16時間後OAまたは溶媒のみで処理し、その後溶解した。その後、Myc−hMOB1を、プロテインGセファロースと連結した9E10抗体で免疫沈降し(Evanら、Isolation of monoclonal antibody specific for human c−myc proto−oncogene product. Mol.cell. Biol. 5:3610−3616,1985)、対照として、プロテインGセファロースビーズのみで免疫沈降した。その後、共免疫沈降した内生NDRを、モノクローナル抗NDR抗体で検出した。内生NDRが、OA刺激依存的方法でmyc−mobと相互作用することが分かった。
【0103】
まとめると、これらの結果は、NDRが、キナーゼ活性ではなくオカダ酸刺激依存的方法でhMOB1と相互作用し、そして、NDRのN末端制御ドメイン内の残基T74が、この相互作用に重要な役割を果たすことを示す。
【0104】
実施例9:hMOB1は、NDRキナーゼ活性を刺激する
hMOB1が、NDR活性にて役割を果たすかどうかを試験するために、myc−hMOB1または空ベクターをCOS1細胞内にHA−NDR1と一緒に共トランスフェクションし、そしてOAで処理した。その後、12CA5免疫沈降物をHA−NDRキナーゼ活性についてペプチドキナーゼ分析を用いて分析した。その結果、OA刺激されたNDRキナーゼ活性の2〜3倍刺激が明らかとなり、NDR活性におけるhMOB1の役割を示す。GST−MOBおよびGSTをそれぞれ免疫沈降したHA−NDRに付加し、そしてキナーゼ反応を行った。前記反応物を、10%SDS−PAGEで分離し、そして、phosphoimagerを用いて放射活性を可視化した。GST−hMOB1のHA−NDRキナーゼ反応物への付加は、NDR自己リン酸化活性を刺激した。
【0105】
実施例10:NDRのN末端ドメインは、キナーゼ活性化に重要である
本実施例は、キナーゼ活性化におけるN末端ドメインの重要性を説明するものである。N末端の高度に保存されている残基のアラニンへの点変異は、OA刺激されたキナーゼ活性の強力な阻害を誘導する。アルギニン41、アルギニン44またはロイシン48のアラニンへの変異は、すべて、アミノ酸40〜55にまたがる予測される第1のアルファ−ヘリックスに位置し、アルファ−ヘリックスの同じ側に共に近接して位置しており、野生型の活性の20%以下にキナーゼ活性を低下する。予測される第2のアルファ−ヘリックス内の残基は、アミノ酸60〜80にまたがるNDRのS100B結合領域内に位置し、またキナーゼ活性の阻害を導く。リシン72、グルタミン酸73、スレオニン74、アルギニン78またはロイシン79のアラニンへの変異は、20%またはそれ以下にキナーゼ活性を低下する。アミノ酸1〜33にまたがり、そしてhNDR内の予測されるベータ−シートを含むN末端ドメインの第一の部分はまた、キナーゼ活性化に重要であることが明らかとなった。最初の30アミノ酸の欠失は、キナーゼ活性化を完全になくす。この領域における点変異は、同様にキナーゼ活性を強力に低下し、スレオニン16、グルタミン酸18およびグルタミン酸28の変異は野生型の約40%のキナーゼ活性に終わり、そしてリシン24およびチロシン31の変異は野生型の20%のキナーゼ活性に終わった。これらの結果は、キナーゼ機能におけるNDRファミリー活性ドメイン(NFAD)の高度に保存されている残基に関する重要な役割に関係があることを示す。
【0106】
実施例11:NDRファミリー活性化ドメインで(NFAD)は、NDR−MOB相互作用を必要とする
本実施例は、T74がNDRキナーゼ活性およびS100Bとの相互作用に重要であるのみならず、NDR−mob相互作用に必要であることを実証するものである。HA−NDR N末端点変異体およびmyc−mob1をCOS1細胞に共トランスフェクションし、それをOAで処理した後に溶解した。HA−NDR変異体を免疫沈降し、そして共免疫沈降したmyc−hMOB1を検出した。HAタグ標識したNDR変異体およびmyc−hMOB1の共トランスフェクション、およびその後のmyc−MOBとHA−NDRの共免疫沈降は、キナーゼ活性化に重要ないくつかの保存された残基が、同様に、NDR−MOB相互作用に必要であることを明らかにした。チロシン31、アルギニン41、スレオニン74またはアルギニン78のアラニンへの置換は、試験した条件下で、MOBとの相互作用に認容性がなく、一方、リシン24、アルギニン44およびロイシン79変異体は、低下した相互作用を示した。強力に低下したキナーゼ活性を有する変異体のうち3つのみが、MOB結合能における低下を有さなかった:アルギニン48、リシン72およびグルタミン酸73。これらをまとめると、前記結果は、NFADがNDR−hMOB1相互作用に重要であることを示している。
【0107】
実施例12:NDR−hMOB1相互作用は、オカダ酸が誘導するMOB1の変形に依存するが、一方、NDRにおけるオカダ酸が誘導するリン酸化は必要なかった
本実施例は、NDR−hMOB1相互作用のOA依存性が、NDRまたはhMOB1のOA誘導修飾に(または細胞のOA処置に)依存するかどうかの疑問を解決する。COS−1細胞を、HA−NDRおよびmyc−hMOB1で別々にトランスフェクトし、そしてOAで刺激するか、または刺激せずに溶解した。その後、溶解物(HA−NDR−または+OAとmyc−hMOB1−もしくは+OA)を集め、抗HA抗体で免疫沈降し、そしてmyc−mob1を検出した。OA処理した細胞のmyc−MOBを含む2つの組合せにて、myc−MOBは、HA−NDRがOA処理した細胞または刺激していない細胞に由来するかどうかに関わらず、HA−NDRと強く結合した。刺激していない細胞のMyc−mobは、刺激していない細胞および同様にOA刺激した細胞のHA−NDRと弱い相互作用を示すのみであった。故に、本発明者らは、NDRのOA誘導修飾がmobとの相互作用に必要ないが、一方、hMOB1 OA修飾が必要であることを結論付け得る。
【0108】
実施例13:Ca2+キレート化剤であるBAPTA−AMは、NDR−MOB相互作用を低下する
Ca2+キレート化剤であるBAPTA−AMでのCOS1細胞の処理は、OA誘導NDRキナーゼ活性化を低下した。本実施例にて、NDR−MOB相互作用におけるBAPTA−AMでのCOS1細胞の処理の効果を測定した。HA−NDRおよびmyc−MOB1を、COS1細胞に共トランスフェクションし、前記細胞をBAPTA−AMおよびOAもしくは溶媒のみで処理し、溶解した。HA−NDRを免疫沈降し、共免疫沈降したmyc−MOB1を検出した。HA−NDR免疫沈降物のキナーゼ活性を、ペプチドキナーゼ分析にて測定した。BAPTAのmyc hMOB1とHA−NDRの共免疫沈降およびOA処理した細胞は、BAPTA−AMがNDRキナーゼ活性の観察される低下に対応するNDR−MOB相互作用の低下を誘導することを明らかとした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号:2のアミノ酸配列に規定される細胞核Dbf2関連(Ndr)キナーゼ、(b)配列番号:2のアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するその相同体および(c)配列番号:2のアミノ酸配列中の少なくとも5つの連続したアミノ酸配列を含むそのフラグメントからなる群から選択される単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、特定のアミノ酸配列Lys−Glu−X−Glu−Phe/Thrを有しており、Xが、Ndrキナーゼ1(配列番号:2)のThr−74または該Thr−74に対応する位置に存在するアミノ酸であり、そして該Thr−74または該アミノ酸がリン酸化されているか、または該Thr−74または該アミノ酸が酸性アミノ酸残基で置換されており、ここで、該ポリペプチド中に存在すべき5つの連続したアミノ酸配列が、上記した特定のアミノ酸配列と同一である、ポリペプチド。

【公開番号】特開2010−279371(P2010−279371A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160462(P2010−160462)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【分割の表示】特願2004−554468(P2004−554468)の分割
【原出願日】平成15年11月25日(2003.11.25)
【出願人】(502407336)ノバルティス・フォルシュングスシュティフトゥング・ツヴァイクニーダーラッスング・フリードリッヒ・ミーシェー・インスティトゥート・フォー・バイオメディカル・リサーチ (19)
【氏名又は名称原語表記】Novartis Forschungsstiftung Zweigniederlassung Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research
【Fターム(参考)】