説明

レリーフ形成層の製造方法、およびレリーフ印刷版原版

【課題】膜面状が良好で、しかも膜強度の高いレリーフ形成層の製造方法を提供し、該レリーフ形成層を具備した耐刷性が良好なレリーフ印刷版原版を提供する。
【解決手段】(a)バインダー樹脂、(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤、(c)熱重合開始剤、および(d)モノマーを含むレリーフ形成層用樹脂溶液を被塗布物上に塗布する塗布工程と、前記(b)溶剤を除去して乾燥する乾燥工程と を含み、前記(b)溶剤の沸点をA(℃)とし、前記乾燥工程の温度をB(℃)とし、前記(c)熱重合開始剤の10h半減期温度をC(℃)としたとき、下記式(I)、および式(II)をともに満足するレリーフ形成層の製造方法。
(I)・・・・ A > B+10
(II)・・・・ A > C

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レリーフ形成層の製造方法、およびそれを用いて得られたレリーフ印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
支持体表面積に積層された感光性樹脂層に凹凸を形成して印刷版を形成する方法としては、感光性組成物を用いて形成したレリーフ形成層に、原画フィルムを介して紫外光により露光し、画像部分を選択的に硬化させて、未硬化部を現像液により除去する方法、いわゆる「アナログ製版」がよく知られている。
【0003】
レリーフ印刷版は、凹凸を有するレリーフ層を有する凸版印刷版であり、このような凹凸を有するレリーフ層は、主成分として、例えば、合成ゴムのようなエラストマー性ポリマー、熱可塑性樹脂などの樹脂、或いは、樹脂と可塑剤との混合物を含有する感光性組成物を含有するレリーフ形成層をパターニングし、凹凸を形成することにより得られる。このようなレリーフ印刷版のうち、軟質なレリーフ層を有するものをフレキソ版と称することがある。
【0004】
レリーフ印刷版をアナログ製版により作製する場合、一般に銀塩材料を用いた原画フィルムを必要とするため、原画フィルムの製造時間及びコストを要する。更に、原画フィルムの現像に化学的な処理が必要で、かつ現像廃液の処理をも必要とすることから、更に簡易な版の作製方法、例えば、原画フィルムを用いない方法、現像処理を必要としない方法などが検討されている。
【0005】
近年は、原画フィルムを必要とせず、走査露光によりレリーフ形成層の製版を行う方法が検討されている。
原画フィルムを必要としない手法として、レリーフ形成層上に画像マスクを形成可能なレーザー感応式のマスク層要素を設けたレリーフ印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。これらの原版の製版方法によれば、画像データに基づいたレーザー照射によりマスク層要素から原画フィルムと同様の機能を有する画像マスクが形成されるため、「マスクCTP方式」と称されており、原画フィルムは必要ではないが、その後の製版処理は、画像マスクを介して紫外光で露光し、未硬化部を現像除去する工程であり、現像処理を必要とする点でなお改良の余地がある。
【0006】
現像工程を必要としない製版方法として、レリーフ形成層をレーザーにより直接彫刻し製版する、いわゆる「直彫りCTP方式」が多く提案されている。直彫りCTP方式は、文字通りレーザーで彫刻することにより、レリーフとなる凹凸を形成する方法で、原画フィルムを用いたレリーフ形成と異なり、自由にレリーフ形状を制御することができるという利点がある。このため、抜き文字の如き画像を形成する場合、その領域を他の領域よりも深く彫刻する、或いは、微細網点画像では、印圧に対する抵抗を考慮し、ショルダーをつけた彫刻をする、なども可能である。
しかしながら、所定の厚みを有するレリーフ形成層に印圧に耐える凹凸を有するレリーフを形成するには高エネルギーを要し、レーザー彫刻の速度が遅いため、マスクを介して画像形成するタイプに比較し、生産性が低いという問題がある。
【0007】
このため、レリーフ原版の感度を向上させることが試みられており、例えば、エラストマー発泡体を含むレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この技術では、レリーフ形成層に密度の低い発泡体を用いることで、彫刻感度の向上を図っているが、低密度の材料であるため印刷版としての強度が不足し、耐刷性が著しく損なわれるという問題がある。
【0008】
例えば、エラストマー発泡体を含むレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。この技術では、密度の低い発泡体を用いることで、彫刻感度の向上を図っているが、低密度の材料であるため印刷版としての強度が不足し、耐刷性が著しく損なわれるという問題がある。
例えば、炭化水素系の気体を封入したマイクロスフィアを含有するレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。この技術では、レーザーで発生する熱によりマイクロスフィア内の気体が膨張して、被彫刻材料を崩壊させるシステムにより、彫刻感度の向上を図っているが、気泡を含む材料系なので、印刷版としての強度は不足しやすいという問題がある。また、気体は固体に比べて熱で膨張しやすい性質があり、熱変形開始温度の高いマイクロスフィアを選択しても、外温の変化による体積変化はさけられないことから、厚み精度の安定性が要求される印刷版に、気泡を含む材料を用いることは適していない。
例えば、天井温度が600度K未満の高分子充填剤を含有するレーザー彫刻用樹脂凸版印刷版が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。この技術では、解重合温度の低い高分子充填剤を添加することで彫刻感度の向上を図っているが、このような高分子充填剤を用いると、印刷版原版の表面に凹凸がついてしまい、印刷品質に重大な影響を与えるといった問題を有する。
【0009】
以上のように、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に好適に用いうる樹脂組成物に関しては、種々の技術が提案されているが、レーザー彫刻に供した際の彫刻感度が高いレリーフ印刷版原版の製造方法については、未だ提供されていないのが現状である。
【特許文献1】特許第2773847号公報
【特許文献2】特開平9−171247号公報
【特許文献3】特開2002−357907号公報
【特許文献4】特開2000−318330号公報
【特許文献5】米国特許出願公開2003/180636号明細書
【特許文献6】特開2000−168253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、膜面状不良の発生が抑制され、しかも膜強度の高いレリーフ形成層を製造しうる、レリーフ形成層の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記本発明の製造方法により得られる、膜面状が良好で、しかも膜強度の高いレリーフ形成層を具備した、耐刷性が良好なレリーフ印刷版原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> (a)バインダー樹脂、(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤、(c)熱重合開始剤、および(d)モノマーを含むレリーフ形成層用樹脂溶液を被塗布物上に塗布する塗布工程と、
前記(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤を除去して乾燥する乾燥工程と を含み、
前記(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤の沸点をA(℃)とし、前記乾燥工程の温度をB(℃)とし、前記(c)熱重合開始剤の10h半減期温度をC(℃)としたとき、下記式(I)、および式(II)をともに満足するレリーフ形成層の製造方法。
(I)・・・・ A > B+10
(II)・・・・ A > C
【0012】
<2> 前記(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤の沸点が、101℃以上200℃以下であり、前記乾燥工程の温度が70℃以上150℃以下であり、且つ前記(c)熱重合開始剤の10h半減期温度が60℃以上120℃以下である<1>に記載のレリーフ形成層の製造方法。
【0013】
<3> 得られたレリーフ形成層の厚みが0.1mm以上5mm以下である<1>または<2>に記載のレリーフ形成層の製造方法。
<4> 前記(c)熱重合開始剤が過酸化物である<1>から<3>のいずれか1項に記載のレリーフ形成層の製造方法。
【0014】
<5> 前記(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、および1−メトキシ−2−プロパノールの群から選ばれる少なくとも一つの溶剤である<1>から<4>のいずれか1項に記載のレリーフ形成層の製造方法。
【0015】
<6> 前記乾燥工程の後に、さらに熱架橋工程を含む<1>から<5>のいずれか1項に記載のレリーフ形成層の製造方法。
<7> 前記熱架橋工程の温度をD(℃)としたとき、下記式(III)を満足する<6>に記載のレリーフ形成層の製造方法。
(III)・・・・ A > D+10
<8> <1>から<7>のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたレリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版。
【0016】
本発明では、比較的沸点の高い溶剤と、分解温度の低い熱重合開始剤とを用い、熱重合開始剤の分解温度を溶剤の沸点より低くし、且つ乾燥工程の温度を溶剤の沸点以下に制御して乾燥させることにより、乾燥後のレリーフ形成層の膜面状不良の発生が抑制される。また、乾燥後のレリーフ形成層の膜強度が大きく、乾燥工程でのハンドリング性に優れた性能を示すが、これは分解温度の比較的低い熱重合開始剤がレリーフ形成層中で均一に溶解されるとともに、塗布膜を乾燥する際に、乾燥温度が溶剤の沸点以下に制御されることで、溶剤の気化に起因して発生する塗膜表面の荒れが発生せず、欠陥の少ないレリーフ形成層を形成したことによる効果ではないかと推定される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、膜面状不良の発生が抑制され、膜強度の高いレリーフ形成層の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、膜面状不良の発生が抑制され、膜強度の高いレリーフ形成層を具備した耐刷性が良好なレリーフ印刷版原版を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のレリーフ形成層の製造方法、及びレリーフ印刷版原版について詳細に説明する。
本発明におけるレリーフ形成層とは、レリーフ形成に供される感光層であって、レーザー、による彫刻が可能な、樹脂組成物からなる層を指す。
また、このようなレリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版は、レーザー彫刻により、凸状レリーフを有する樹脂凸版(レタープレス版)、フレキソ版やスタンプだけではなく、凹版、孔版などの作製に応用できるが、その応用範囲がこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明のレリーフ形成層の製造方法によれば、膜面状不良の発生が抑制された、膜強度の高いレリーフ形成層が得られ、従って本発明の製造方法により得られたレリーフ形成層を有することで、耐刷性に優れたレーザー彫刻用印刷版原版が得られる。
また、本発明において「レリーフ印刷版原版」とは、レーザー形成層用樹脂溶液からなる架橋性を有するレリーフ形成層を備えるものであるが、レリーフ形成層は、熱により架橋構造が形成された状態のもの及び架橋構造が未だ形成されていないものの双方を指す。該レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層をレーザー彫刻することにより「レリーフ印刷版」が作製される。
【0020】
レリーフ形成層は、レリーフ形成層用樹脂溶液を、シート状あるいはスリーブ状に成形することで形成することができる。レリーフ形成層は、通常、後述する支持体上に設けられるが、製版、印刷用の装置に備えられたシリンダーなどの部材表面に直接、形成したり、そこに配置して固定化したりすることもできる。
以下、主としてレリーフ形成層をシート状にした場合を例に挙げて説明する。
【0021】
本発明は(a)バインダー樹脂、(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤(以下、「特定溶剤」とも称する。)、(c)熱重合開始剤、および(d)モノマーを含むレリーフ形成層用樹脂溶液を被塗布物上に塗布する塗布工程と、前記(b)特定溶剤を除去して乾燥する乾燥工程と を含み、
前記(b)特定溶剤の沸点をA(℃)とし、前記乾燥工程の温度をB(℃)とし、前記(c)熱重合開始剤の10h半減期温度をC(℃)としたとき、下記式(I)、および式(II)をともに満足するレリーフ形成層の製造方法である。
(I) A > B+10
(II) A > C
【0022】
まず、本発明のレリーフ形成層の製造方法を説明する。レリーフ形成層の形成は、特に限定されるものではない。
<塗布工程>
(a)バインダー樹脂、(b)特定溶剤、(c)熱重合開始剤、および(d)モノマーを含むレリーフ形成層用樹脂溶液を調製する。該調製は、各原料を混合撹拌することによって行われ、必要によって濾過される。
このレリーフ形成層用樹脂溶液を直接又は他の層を介して、後述する被塗布物上に回転塗布、スリット塗布、流延塗布、ロール塗布、バー塗布等の塗布方法により、レリーフ形成層が所定の膜厚になるように塗布する。
【0023】
<乾燥工程>
次いで、このレリーフ形成層用樹脂溶液を塗設された被塗布物は、乾燥する工程を経て、溶剤が除去され、レリーフ形成層が形成された被塗布物を得る。
この乾燥する工程は、通常はオーブン、乾燥炉等の熱風乾燥によるが、必要によって真空処理、高周波処理などを併用しても良い。
或いはレリーフ形成層用樹脂溶液を、被塗布物上に流延し、これをオーブン中で乾燥してレリーフ形成層用樹脂溶液から溶媒を除去する方法でもよい。
【0024】
本発明ではレリーフ形成層用樹脂溶液が溶剤を含むため、溶剤を除去する乾燥工程が必須である。乾燥工程は生産性の観点から0.2時間以上10時間以下であることが好ましく、より好ましくは0.5時間以上8時間以下、特に好ましくは1時間以上6時間以下である。
【0025】
式(I)は、溶剤の沸点が乾燥温度より10℃以上高いことを示しており、より好ましくは溶剤の沸点が乾燥温度より15℃以上高いことであり、特に好ましくは溶剤の沸点が乾燥温度より20℃以上高いことである。この条件を満たすと、溶剤の局所的な突沸が起きることがなく、良好な膜面状が得られ、好ましい。
【0026】
また、上記した式(II)は、溶剤の沸点が熱重合開始剤の10h半減期温度より高いことを示しており、より好ましくは溶剤の沸点が熱重合開始剤の10h半減期温度より10℃以上高いことであり、特に好ましくは溶剤の沸点が熱重合開始剤の10h半減期温度より20℃以上高いことである。この条件を満たすと、熱重合開始剤の重合開始能が充分となり、良質な膜を得るための乾燥時間が短くでき、生産性が向上し、好ましい。
【0027】
乾燥工程は溶媒の揮散という意味を有する。乾燥方法としては乾燥装置内にパスロールを配置し、パスロールにレリーフ層を塗設した支持体、またはウェブをラップさせて搬送しながら乾燥風吹出しスリットから吹付けられる熱風によって乾燥させる方法、支持体、またはウェブの上下面からノズルによりエアーを供給し支持体、またはウェブを浮上させながら乾燥させる方法、ロール内部に熱媒体を導通し加熱しそのロールと支持体、またはウェブの接触による熱伝導によりアルミニウム板を乾燥させる方法等がある。
【0028】
いずれの方法においても、均一に乾燥させるために、その加熱制御は、支持体、またはウェブの種類・レリーフ層組成物の種類、塗布量、溶剤の種類、走行速度等に応じて熱風あるいは熱媒体の流量、温度、流し方を適宜変えることにより行われる。また、2種類上の乾燥方法を組み合わせて用いても良い。
【0029】
本発明で乾燥工程の温度とは、乾燥風の温度のことを言う。
乾燥工程におけるレリーフ層表面到達温度は、安立計器株式会社製THERMO PRINTER AP−310型に表面温度測定センサー U−279E−00−DO−1を接続し、レリーフ層の表面温度を測定した値である。
【0030】
本発明で用いる(b)特定溶媒の沸点は101℃〜200℃であるので、上記した式(1)、式(2)を満足するように乾燥工程の温度は設定されるが、乾燥工程の温度としては、40〜180℃の温度範囲が好ましく、50〜150℃の温度範囲がより好ましい。
また本発明で用いる(c)熱重合開始剤の10h半減期温度は、60〜120℃の温度範囲のものが好ましく、70〜115℃の温度範囲のものがより好ましい態様である。
【0031】
<熱架橋工程>
このようにして得られた乾燥したレリーフ形成層が形成された被塗布物を、さらに加熱することにより、レリーフ形成層中に架橋構造を形成する熱架橋工程を用いることが好ましい。
本発明における「架橋」とは、(a)バインダー樹脂同士を連結する架橋反応を含む概念であり、また、(d)モノマー同士の重合反応や(a)バインダー樹脂と(d)モノマーとの反応によるレリーフ形成層の硬化反応をも含む概念である。
【0032】
レリーフ形成層を架橋することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。未架橋のレリーフ形成層をレーザー彫刻すると、レーザー照射部の周辺に伝播した余熱により、本来意図していない部分が溶融、変形しやすく、シャープなレリーフ層が得られない場合がある。また、素材の一般的な性質として、分子量が低分子なものほど固形ではなく液状になりやすくなる、すなわち、粘着性が強くなる傾向がある。レリーフ形成層を彫刻する際に発生する彫刻カスは、低分子の材料を多く用いるほど粘着性が強くなる傾向がある。低分子量の化合物である重合性化合物は架橋することで高分子化するため、発生する彫刻カスは粘着性が少なくなる傾向がある。
【0033】
架橋の方法としては、乾燥したレリーフ形成層を加熱により架橋する方法が挙げられる。
レリーフ形成層の架橋方法としは、レリーフ形成層を表面から内部まで均一に硬化(架橋)可能という観点で、熱による架橋が好ましいが、活性光線の照射による光硬化による架橋を併用してもよい。
加熱手段としては、印刷版原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
【0034】
熱による架橋を施す場合、熱架橋工程の温度をD(℃)としたとき、レリーフ形成層樹脂溶液の溶剤の沸点(A℃)との間に、下記式(III)を満足する条件であることが好ましい。
(III) A > D+10
より好ましくは、A>D+20であり、この条件を満足することによって、膜面状不良の発生が抑制され、製造プロセスで乾燥後の膜強度が強く、ハンドリング性に良好な膜が得られる。
【0035】
レリーフ形成層が(c)熱重合開始剤の他に、光重合開始剤を含有する場合には、熱架橋に加えて、光重合開始剤のトリガーとなる活性光線をレリーフ形成層に照射することで、レリーフ形成層を架橋することもできる。
活性光線の照射は、レリーフ形成層全面に行うのが一般的である。活性光線としては可視光、紫外光或いは電子線が挙げられるが、紫外光が最も一般的である。レリーフ形成層の支持体側を裏面とすれば、表面に活性光線を照射するだけでもよいが、支持体が活性光線を透過する透明なフィルムならば、更に裏面からも活性光線を照射することが好ましい。表面からの照射は、保護フィルムが存在する場合、これを設けたまま行ってもよいし、保護フィルムを剥離した後に行ってもよい。酸素の存在下では重合阻害が生じる恐れがあるので、レリーフ形成層に塩化ビニルシートを被せて真空引きした上で、活性光線の照射を行ってもよい。
【0036】
<被塗布物>
レリーフ形成層を付与する被塗布物としては、特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET、PBT、PAN)やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。被塗布物としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムやスチール基板が好ましく用いられる。被塗布物の形態は、レリーフ形成層がシート状であるかスリーブ状であるかによって決定される。スリーブ状とした場合の好ましい被塗布物については以下に詳述する。
【0037】
レリーフ形成層を被塗布物上に形成する場合、両者の間には、層間の接着力を強化する目的で接着層を設けてもよい。
接着層に使用しうる材料は、レリーフ形成層が架橋された後において接着力を強固にするものであればよく、レリーフ形成層が架橋される前も接着力が強固であることが好ましい。ここで、接着力とは被塗布物/接着層間及び接着層/レリーフ形成層間の接着力の両者を意味する。
【0038】
被塗布物/接着層間の接着力は、被塗布物/接着層/レリーフ形成層からなる積層体から接着層及びレリーフ形成層を400mm/分の速度で剥離する際、サンプル1cm幅当たりの剥離力が1.0N/cm以上又は剥離不能であることが好ましく、3.0N/cm以上又は剥離不能であることがより好ましい。
接着層/レリーフ形成層の接着力は、接着層/レリーフ形成層から接着層を400mm/分の速度で剥離する際、サンプル1cm幅当たりの剥離力が1.0N/cm以上又は剥離不能であることが好ましく、3.0N/cm以上又は剥離不能であることがより好ましい。
接着層に使用しうる材料(接着剤)としては、例えば、I.Skeist編、「Handbook of Adhesives」、第2版(1977)に記載のものを用いることができる。
【0039】
レリーフ形成層の厚さは、乾燥後の膜厚で、耐磨耗性やインキ転移性のような種々のフレキソ印刷適性を満たす観点からは、0.1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは0.2mm以上4mm以下、特に好ましくは0.3mm以上3mm以下である。
【0040】
次に、レリーフ形成層をスリーブ状に形成する場合について説明する。スリーブ状に成形する場合においても、公知の樹脂成型方法を適用することができる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機などの機械で樹脂をノゾルやダイスから押し出し、ブレードで厚みを合わせる、ロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法などを例示できる。その際、レリーフ形成層を構成する樹脂組成物の特性を損なわない程度の温度で加熱しながら、成形してもよい。また、必要に応じて圧延処理、研削処理などを施すこともできる。
レリーフ形成層をスリーブ状とする場合、当初からレリーフ形成層自体を円筒状に成形してもよく、また、まずシート状に成型したのち、円筒状支持体や版胴上に固定することで円筒状とすることもできる。円筒状支持体への固定方法には特に制限はなく、例えば、両面に接着層、粘着層などが形成された粘着テープによる固定、或いは、接着剤層を介する固定などを行うことができる。
【0041】
粘着テープとしては、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルムなどのフィルム基材の両面に、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーなどからなる接着剤層、粘着剤層を形成したテープ、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂の発泡体を基材とし、その両面に前記と同様の接着剤層、粘着剤層を形成したクッション性を有する粘着テープが挙げられ、市販の両面テープや両面粘着剤層を有するクッションテープなども適宜使用することができる。
また、被塗布物とレリーフ形成層とを接着剤層を介して固定化する場合の接着剤層は、公知の接着剤を用いて形成することができる。レリーフ形成層を円筒形被塗布物等に固定化する際に使用しうる接着剤としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、二トリルゴムなどのゴム系接着剤、シリル基を含有するポリウレタン樹脂やシリコーン樹脂などの空気中の湿気による硬化する接着剤等を挙げることができる。
【0042】
レリーフ形成層を円筒状に成型する場合、公知の方法にて、円筒状に成形し、これを円筒形被塗布物やシリンダー状の版胴上に固定化してもよく、円筒状被塗布物等の表面に直接レリーフ形成層を押し出し成形などで、成型し、スリーブ状としてもよい。生産性の観点からは、前者の方法をとることが好ましい。レリーフ形成層をスリーブ状とする場合でも、円筒状被塗布物等に固定化した後、必要に応じて架橋、硬化させることができ、さらに、所望により圧延処理、研削処理などを施すこともできる。
【0043】
レリーフ形成層をスリーブ状とする場合に用いる円筒状被塗布物としては、ニッケル、ステンレス、鉄、アルミなどの金属からなる金属スリーブ、樹脂で成形されたプラスチックスリーブ、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などを強化繊維とする繊維強化プラスチックからなるFRPスリーブ、高分子フィルムにより成形され、圧縮空気により形状が維持されるスリーブなどを用いることができる。
円筒状被塗布物の厚みは目的に応じて任意に選択されるが、一般的には、印刷時の圧力で破損しない強度であれば、厚み0.1mm以上であればよく、金属スリーブや硬質のプラスチックスリーブなどでは、5mm以上のものも使用でき、回転軸に固定化された中空ではない円筒形被塗布物も用いることができる。
伸縮性を有するレリーフ形成層を効果的に固定化するという観点からは、6バール程度の圧縮空気圧で円筒状被塗布物の内径が膨張でき、当該圧縮空気圧が開放された後に元の内径に戻るような特性を有する被塗布物が好ましい。このように圧縮空気などによりその径を容易に調整しうる構造を有する支持体を用いることで、スリーブ状のレリーフ形成層に内部から応力を与えることができ、レリーフ形成層の巻き締まり特性が機能し、印刷時の応力に対しても、レリーフ層を安定に円筒形被塗布物や版胴上に固定することができるため、好ましい。
【0044】
その後、必要に応じてレリーフ形成層の上に保護フィルムをラミネートしてもよい。ラミネートは、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムとレリーフ形成層を圧着することや、表面に少量の溶媒を含浸させたレリーフ形成層に保護フィルムを密着させることよって行うことができる。
保護フィルムを用いる場合には、先ず保護フィルム上にレリーフ形成層を積層し、次いで被塗布物をラミネートする方法を採ってもよい。
接着層を設ける場合は、接着層を塗布した被塗布物を用いることで対応できる。スリップコート層を設ける場合は、スリップコート層を塗布した保護フィルムを用いることで対応できる。
【0045】
<レリーフ形成層用樹脂溶液>
次に、本発明に用いるレリーフ形成層用樹脂溶液について説明する。
本発明のレリーフ形成層用樹脂溶液は、(a)バインダー樹脂、(b)沸点が101℃以上200以下の溶剤、(c)熱重合開始剤、および(d)モノマーを含有する。
以下、本発明に用いるレリーフ形成層用樹脂溶液については、単に、「本発明の樹脂溶液」とも称する。
【0046】
本発明に用いるレリーフ形成層用樹脂溶液は、レーザー彫刻に供した際の彫刻感度が高いことから、高速でレーザー彫刻を行うことができるので、彫刻時間についても短縮することができる。このような特徴を有する本発明に用いるレリーフ形成層用樹脂溶液は、レーザー彫刻が施される樹脂造形物の形成用途に、特に限定なく広範囲に適用することができる。例えば、本発明の樹脂溶液の適用態様として、具体的には、レーザー彫刻により画像形成を行う画像形成材料の画像形成層、凸状のレリーフ形成をレーザー彫刻により行う印刷版原版のレリーフ形成層、凹版、孔版、スタンプ、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明に用いるレリーフ形成層用樹脂溶液は、レーザー彫刻により画像形成を行う画像形成材料の画像形成層、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層に、特に好適に用いることができる。以下、レリーフ形成層用樹脂溶液の構成要素について説明する。
【0047】
<(a)バインダー樹脂>
本発明に用いるレリーフ形成層用樹脂溶液は、(b)バインダーポリマーを含有する。
バインダーポリマーは、レリーフ形成層用樹脂溶液に含有される高分子成分であり、一般的な高分子化合物を適宜選択し、1種又は2種以上を併用して用いることができる。特に、レリーフ形成層用樹脂溶液を印刷版原版に用いる際は、レーザー彫刻性、インキ受与性、彫刻カス分散性などの種々の性能を考慮して選択することが必要である。
【0048】
バインダーポリマーとしては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレアポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマー、アクリル樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどから選択して用いることができる。
【0049】
例えば、レーザー彫刻感度の観点からは、露光或いは加熱により熱分解する部分構造を含むポリマーが好ましい。このようなポリマーは、特開2008−163081号公報〔0038〕に記載されているものが好ましく挙げられる。また、例えば、柔軟で可撓性を有する膜形成が目的とされる場合には、軟質樹脂や熱可塑性エラストマーが選択される。特開2008−163081号公報〔0039〕〜〔0040〕に詳述されている。更に、レリーフ形成層用樹脂溶液の調製の容易性、得られたレリーフ印刷版における油性インクに対する耐性向上の観点から、親水性又は親アルコール性ポリマーを使用することが好ましい。親水性ポリマーとしては、特開2008−163081号公報〔0041〕に詳述されているものを使用することができる。
【0050】
また、ポリ乳酸などのヒドロキシルカルボン酸ユニットからなるポリエステルを好ましく用いることができる。このようなポリエステルとしては、具体的には、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、乳酸系ポリマー、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンコハク酸)、これらの誘導体又は混合物から成る群から選択されるものが好ましい。
【0051】
さらに、ヒドロキシエチレン単位を含むポリマーを好ましく用いることもできる。ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体が好ましく用いられる。
PVA誘導体の例として、ヒドロキシエチレン単位の水酸基の少なくとも一部をカルボキシル基等の酸基に変性した酸変性PVA、当該水酸基の一部を(メタ)アクリロイル基に変性した変性PVA、当該水酸基の少なくとも一部をアミノ基に変性した変性PVA、当該水酸基の少なくとも一部にエチレングリコールやプロピレングリコール及びこれらの複量体を導入した変性PVA、ポリビニルアルコールをアルデヒド類で処理することによって得られるポリビニルアセタール等が挙げられる。これらの中でも、特にポリビニルアセタールが好ましく用いられる。アセタール処理に用いるアルデヒド類としては、アセトアルデヒド 、ブチルアルデヒドは、取り扱いが容易であるため好ましく用いられる。特に、ポリビニルブチラールは好ましく用いられるPVA誘導体である。
【0052】
加えて、加熱や露光により硬化させ、強度を向上させる目的に使用する場合には、分子内に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーが好ましく用いられる。
このようなポリマーとして、主鎖に炭素−炭素不飽和結合を含むポリマーとしては、例えば、SB(ポリスチレン−ポリブタジエン)、SBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等が挙げられる。
【0053】
側鎖に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーとしては、前記の本発明で適用可能なバインダーポリマーの骨格に、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニルエーテル基のような炭素−炭素不飽和結合を側鎖に導入することで得られる。バインダー樹脂の側鎖に炭素−炭素不飽和結合を導入する方法は、重合性基に保護基を結合させてなる重合性基前駆体を有する構造単位をポリマーに共重合させ、保護基を脱離させて重合性基とする方法、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基などの反応性基を複数有する高分子化合物を作製し、これらの反応性基と反応する基及び炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を高分子反応させて導入する方法など、公知方法をとることができる。これらの方法によれば、高分子化合物中への不飽和結合、重合性基の導入量を制御することができる。
このように、レリーフ形成層用樹脂溶液の適用用途に応じた物性を考慮し、目的に応じたバインダーポリマーを選択し、当該バインダーポリマーの1種を、或いは、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
本発明におけるバインダー樹脂の重量平均分子量(GPC測定によるポリスチレン換算)は、0.5万〜50万が好ましい。重量平均分子量が0.5万以上であれば、単体樹脂としての形態保持性に優れ、50万以下であれば、水など溶媒に溶解しやすくレリーフ形成層用樹脂溶液を調製するのに好都合である。バインダー樹脂の重量平均分子量は、より好ましくは1万〜40万、特に好ましくは1.5万〜30万である。
【0055】
バインダー樹脂の総含有量は、レリーフ形成層用樹脂溶液の固形分全質量に対し、5質量%〜80質量%が好ましく、15質量%〜75質量%が好ましく、20質量%〜65質量%がより好ましい。
例えば、本発明のレリーフ形成層用樹脂溶液は、バインダー樹脂の含有量を15質量%以上とすることで、得られたレリーフ印刷版を印刷版として使用するに足る耐刷性が得られ、また、75質量%以下とすることで、他成分が不足することがなく、レリーフ印刷版をフレキソ印刷版とした際においても印刷版として使用するに足る柔軟性を得ることができる。
【0056】
<(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤>
本発明に使用する(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤の沸点は、好ましくは101℃以上200℃以下、より好ましくは110℃以上180℃以下、特に好ましくは120℃以上160℃以下である。溶剤の沸点が101℃以上だと突沸が起きにくく、良好な膜面状が得られやすい。逆に溶剤の沸点が200℃以下だと、乾燥時間がかかりすぎることがなく好ましい。
本発明に用いる(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤としては沸点が101℃以上200℃以下であれば任意に選択することができる。また沸点が101℃以上200℃以下の溶剤であれば、組み合わせて使用することもできる。
【0057】
溶剤の具体例を以下に示すが、( )は沸点である。
トルエン(:110.6℃)、o-キシレン(144℃)、m-キシレン(139℃)、p-キシレン(138℃)、イソブチルアルコール(107℃)、イソペンチルアルコール(130.5℃)、酢酸イソブチル(118℃)、酢酸ブチル(126.3℃)、メチルイソブチルケトン(116.2℃)、1,4−ジオキサン(101.1℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(120℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(124.5℃)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(145℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(146.0℃)、フェニルメチルエーテル(153.8℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(171.2℃)、乳酸エチル(155℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(162℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(171℃)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(176℃)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(179℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(188℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(189℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(194℃)、1−メトキシ−2−プロパノール(121℃)などが挙げられる。特に好ましくは、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、1−メトキシ−2−プロパノールである。
【0058】
<(c)熱重合開始剤>
本発明に使用する(c)熱重合開始剤の10h半減期温度C℃は好ましくは60℃以上120℃以下、より好ましくは70℃以上115℃以下、特に好ましくは80℃以上110℃以下である。熱重合開始剤の種類は式(II)の関係であれば、公知のものを制限なく使用することができる。熱重合開始剤の10h半減期温度C℃が60℃以上だと、調液時の安定性が良好であり好ましい。熱重合開始剤は10h半減期温度C℃が120℃以下だと、重合開始能が十分となり、良質な膜を得るための乾燥時間を短くでき、生産性がよく、好ましい。
【0059】
なお、本発明においては、(A)過酸化物の10h半減期温度は以下に記載の測定方法により測定した値を用いている。
ラジカルに対して不活性な溶媒(本発明においては、ベンゼンを使用)を使用して、0.1mol/L濃度の有機過酸化物溶液を調製し,窒素置換をおこなったガラス管中に密封する。これを所定温度にセットした恒温槽に浸し熱分解させる。なお、汎用の方法においては、この濃度を0.5mol/Lに調整して測定する方法もある。
一般的に希薄溶液中の有機過酸化物の分解は近似的に一次反応として取り扱うことができるので,分解過酸化物量x,分解速度定数k,時間t,過酸化物初期濃度aとすると、下記式の関係が成り立つ。
式(1) dx/dt=k(a−x)
式(2) ln{a/(a−x)}=kx
【0060】
半減期は,分解により過酸化物濃度が初期の半分に減ずるまでの時間なので,半減期をt1/2で示し、式(2)における「x」に「a/2」を代入すると下記式(3)が導き出される。
式(3) kt1/2=ln2
従って、ある一定温度で熱分解させ,時間tとln{a/(a−c)}の関係をプロットし、プロットにより得られた直線の傾きからkを求め,式(3)からその温度における半減期(t1/2)を求めることができる.
【0061】
一方,分解速度定数kは、下記式で示される。
式(4) k=Aexp(−ΔE/RT)
式(5) lnk=lnA−ΔE/RT
ここで、A:頻度因子(1/h)、ΔE:活性化エネルギー(J/mol)、R:気体定数(8.314J/mol・K)、T:絶対温度(K)で表されるので、数点の温度についてkを測定し、lnkと1/Tの関係をプロットして、プロットにより得られた直線の傾きから,活性化エネルギーを求めることができる.
また、lnkの代わりに,lnt1/2と1/Tの関係をプロットして得られた直線から、任意の温度における有機過酸化物の半減期、あるいは任意の半減期を得る分解温度が得られる。
【0062】
なお、過酸化物の10h半減期温度の数値としては、文献により得ることも可能であり、過酸化物の製造メーカーのカタログ等を参照することができる。具体的には、例えば、日油株式会社のカタログ値(http://www.nof.co.jp/upload_public/sogo/B0100.pdf)などを参照することも可能である。
【0063】
以下、好ましい熱重合開始剤の具体例に関し、熱のエネルギーによってラジカルを発生し、モノマーをはじめとする重合性化合物と重合反応を開始、促進させる化合物であるラジカル重合開始剤について詳述するが、本発明はこれらの記述により制限を受けるものではない。
【0064】
本発明において、好ましいラジカル重合開始剤としては、芳香族ケトン類、オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アゾ系化合物等が挙げられる。
本発明においては、感度とレリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した際にはレリーフエッジ形状を良好とするといった観点から、有機過酸化物及びアゾ系化合物がより好ましく、有機過酸化物が特に好ましい。有機過酸化物の中でも特に、ペルオキシル基(R−O−O−R)を有する化合物を熱重合開始剤として用いることが好ましい。
以下に、上記した熱重合開始剤の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、( )内は10h半減期温度である。
【0065】
有機過酸化物の具体例としては、パーロイルL(61.6℃)、パーオクタO(65.3℃)、パーロイルSA(65.9℃)、パーヘキサ25O(66.2℃)、パーヘキシルO(69.9℃)、ナイパーBMT(73.1℃)、ナイパーBW(73.6℃)、パーヘキサMC(83.2℃)、パーヘキサTMH(86.7℃)、パーヘキサHC(87.1℃)、パーヘキサC(90.7℃)、パーテトラA(94.7℃)、パーヘキシルI(95.0℃)、パーブチルMA(96.1℃)、パーブチル355(97.1℃)、パーブチルL(98.3℃)、パーブチルI(98.7℃)、パーブチルE(99.0℃)、パーヘキシルZ(99.4℃)、パーヘキサ25Z(99.7℃)、パーブチルA(101.9℃)、パーヘキサ22(103.1℃)、パーブチルZ(104.3℃)、パーヘキサV(104.5℃)、パーブチルP(119.2℃)、パークミルD(116.4℃)、パーヘキシルD(116.4℃)、パーヘキサ25B(117.9℃)、パーブチルC(119.5℃)(以上、日油株式会社製)等が挙げられる。
【0066】
さらに、トリゴノックス36−C75(60℃)、ラウロックス(61℃)、パーカドックスCH−50L(72℃)、カヤヘキサAD(118℃)、パーカドックス12−XL25(92℃)、トリゴノックス22−N70(93℃)、トリゴノックス22−70E(102℃)、トリゴノックスD−T50(64℃)、カヤエステルTMPO−70(70℃)、トリゴノックス121(74℃)、カヤエステル0(83℃)、カヤエステルHTP−65W(95℃)、カヤエステルAN(100℃)、トリゴノックス42(103℃)、トリゴノックスF−C50(105℃)、カヤブチルB(97℃)、カヤカルボンBIC−75(98℃)、トリゴノックス117(97℃)(以上、化薬アクゾ株式会社製)等が挙げられる。
【0067】
また、本発明に用いうる熱重合開始剤として好ましいアゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスプロピオニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等を挙げることができる。
【0068】
本発明における(c)熱重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。
熱重合開始剤は、レリーフ形成層用樹脂溶液の全固形分に対し、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜3質量%の割合で添加することができる。
【0069】
<(d)モノマー>
本発明においては、架橋されたレリーフ形成層を有することが好ましいため、レリーフ形成層用樹脂溶液が架橋構造を形成可能とする為に、(d)モノマーを含有することが好ましい。
ここで用いうる(d)モノマーは、エチレン性不飽和二重結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個有する化合物の中から任意に選択することができる。
【0070】
以下、(d)モノマーとして用いられる、エチレン性不飽和二重結合を分子内に1つ有する単官能重合性化合物、及び、同結合を分子内に2個以上有する多官能重合性化合物について説明する。
【0071】
エチレン性不飽和二重結合を分子内に有する重合性化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、さらに種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等の重合性化合物が挙げられる。
なお、前記(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを表し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド又はメタアクリルアミドを表す。
【0072】
単官能重合性化合物としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、エポキシアクリレート等のアクリル酸誘導体、メチルメタクリレート等のメタクリル誘導体、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のN−ビニル化合物類、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体が挙げられる。
【0073】
多官能重合性化合物としては、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラマレート、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド等の多価アルコール化合物又は多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物又はアミド化合物や、特開昭51−37193号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号の各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。更に、日本接着協会誌Vol.20、No.7、300〜308頁(1984年);山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年、大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁、(1989年、シーエムシー社);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品若しくは業界で公知のラジカル重合性又は架橋性のモノマー、オリゴマーを用いることができる。
【0074】
本発明に係るレリーフ形成層は、膜中に架橋構造を有することが好ましい態様であることから、多官能重合性化合物が好ましく使用される。これらの多官能重合性化合物の分子量は、200〜2,000であることが好ましい。
【0075】
本発明においては、(d)モノマーとして、彫刻感度向上の観点から、分子内に硫黄原子を有する重合性化合物を用いることが好ましい。
このように分子内に硫黄原子を有する重合性化合物としては、彫刻感度向上の観点から、特に、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有し、そのうち2つのエチレン性不飽和結合間を連結する部位に炭素−硫黄結合を有する重合性化合物(以下、適宜、「含硫黄多官能モノマー」と称する。)を用いることが好ましい。
【0076】
本発明における含硫黄多官能モノマー中の炭素−硫黄結合を含んだ官能基としては、スルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、スルホニル、スルホンアミド、チオカルボニル、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸、スルファミン酸、チオアミド、チオカルバメート、ジチオカルバメート、又はチオ尿素を含む官能基が挙げられる。
【0077】
また、含硫黄多官能モノマーの分子内に含まれる硫黄原子の数は1つ以上であれば特に制限は無く、目的に応じて、適宜選択することができるが、彫刻感度と塗布溶剤に対する溶解性のバランスの観点から、1個〜10個が好ましく、1個〜5個がより好ましく、1個〜2個が更に好ましい。
一方、分子内に含まれるエチレン性不飽和部位の数は2つ以上であれば特に制限は無く、目的に応じて、適宜選択することができるが、架橋膜の柔軟性の観点で、2個〜10個が好ましく、2個〜6個がより好ましく、2個〜4個が更に好ましい。
以下に好ましく用いられる含硫黄多官能モノマーの具体例を示す(Rは水素原子又はメチル基を表す)。
【0078】
【化1】

【0079】
【化2】

【0080】
【化3】

【0081】
【化4】

【0082】
本発明における含硫黄多官能モノマーは、硫黄原子含有ジカルボン酸とエポキシ基含有(メタ)アクリレートとの反応、硫黄原子含有ジオールとイソシアネート含有(メタ)アクリレートとの反応、ジチオールとイソシアネート含有(メタ)アクリレートとの反応、ジイソチオシアネートとヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとの反応、公知のエステル化反応などを用いて合成することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0083】
本発明における含硫黄多官能モノマーの分子量としては、形成される膜の柔軟性の観点から、好ましくは120〜3000であり、より好ましくは120〜1500である。
【0084】
また、本発明における含硫黄多官能モノマーは単独で用いてもよいが、分子内に硫黄原子を持たない多官能重合性化合物や単官能重合性化合物との混合物として用いてもよい。
彫刻感度の観点からは、含硫黄多官能モノマー単独で用いる、若しくは、含硫黄多官能モノマーと単官能エチレン性モノマーとの混合物として用いる態様が好ましく、より好ましくは、含硫黄多官能モノマーと単官能エチレン性モノマーとの混合物として用いる態様である。
【0085】
レリーフ形成層中の含硫黄多官能モノマーをはじめとする(d)モノマーの総含有量は、架橋膜の柔軟性や脆性の観点から、不揮発性成分に対して、10質量%〜60質量%が好ましく、15質量%〜45質量%の範囲がより好ましい。
なお、含硫黄多官能モノマーと他のモノマーとを併用する場合、全モノマー中の含硫黄多官能モノマーの量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
【0086】
<その他添加剤>
本発明に用いるレリーフ形成層用樹脂溶液は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤は、レリーフ形成層を柔軟化する作用を有するものであり、バインダー樹脂に対して相溶性のよいものである必要がある。
可塑剤としては、例えばジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート等や、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)好ましく用いられる。
【0087】
本発明に用いるレリーフ形成層用樹脂溶液は、感度向上のための添加剤として、ニトロセルロースや高熱伝導性物質、を加えることがより好ましい。ニトロセルロースは自己反応性化合物であるため、レーザー彫刻時、自身が発熱し、共存する親水性ポリマー等のバインダーポリマーの熱分解をアシストする。その結果、彫刻感度が向上すると推定される。
高熱伝導性物質は、熱伝達を補助する目的で添加され、熱伝導性物質としては、金属粒子等の無機化合物、導電性ポリマー等の有機化合物が挙げられる。金属粒子としては、粒径がマイクロメートルオーダーから数ナノメートルオーダーの、金微粒子、銀微粒子、銅微粒子が好ましい導電性ポリマーとしては、特に共役ポリマーが好ましく、具体的には、ポリアニリン、ポリチオフェンが挙げられる。
【0088】
また、共増感剤を用いることで、レリーフ形成層を光硬化させる際の感度を更に向上させることができる。
更に、レリーフ形成層用樹脂溶液の製造中或いは保存中において重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合禁止剤を添加することが望ましい。
レリーフ形成層の着色を目的として染料若しくは顔料等の着色剤を添加してもよい。これにより、画像部の視認性や、画像濃度測定機適性といった性質を向上させることができる。
更に、レリーフ形成層の硬化皮膜の物性を改良するために充填剤等の公知の添加剤を加えてもよい。
【0089】
<レリーフ印刷版及びその製造>
本発明のレリーフ印刷版原版によるレリーフ印刷版の作製態様としては、レリーフ形成層を架橋させ、次いでレーザー彫刻することによりレリーフ層を形成することでレリーフ印刷版を作製する態様であることが好ましい。レリーフ形成層を架橋することにより、印刷時におけるレリーフ層の摩耗を防ぐことができ、また、レーザー彫刻後にシャープな形状のレリーフ層を有するレリーフ印刷版を得ることができる。
【0090】
レリーフ印刷版の製造方法は、(1)本発明のレリーフ印刷版原版における未架橋のレリーフ形成層を加熱により架橋する前記した熱架橋工程、及び(2)架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程(以下、適宜「彫刻工程」と称する。)、を含むことを特徴とする。
以下、彫刻工程について説明する。
【0091】
<彫刻工程>
レリーフ印刷版の製造方法において、前記した熱架橋工程の後、架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する彫刻工程を行う。本発明のレリーフ印刷版の製造方法により、支持体上にレリーフ層を有するレリーフ印刷版を製造することができる。
【0092】
レリーフ印刷版の製造方法では、彫刻工程に次いで、更に、必要に応じて下記工程(1)〜工程(3)を含んでもよい。
工程(1): 彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスする工程(リンス工程)。
工程(2): 彫刻されたレリーフ層を乾燥する工程(乾燥工程)。
工程(3): 彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層を更に架橋する工程(後架橋工程)。
【0093】
彫刻工程では、前記熱架橋工程で架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、架橋されたレリーフ形成層に対して形成したい画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成する。好ましくは、形成したい画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、レリーフ形成層に対して走査照射する工程が挙げられる。
この彫刻工程には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、レリーフ形成層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、レリーフ形成層中の分子は分子切断或いはイオン化されて選択的な除去、すなわち彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く或いはショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度でレリーフ形成層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。このような彫刻工程に用いられる赤外レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー又は半導体レーザーが好ましい。特に、ファイバー付き半導体赤外線レーザーが好ましく用いられる。
【0094】
彫刻表面に彫刻カスが付着している場合は、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスして、彫刻カスを洗い流す工程(1)を追加してもよい。リンスの手段として、水道水で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式或いは搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスする工程(1)を行った場合、彫刻されたレリーフ形成層を乾燥してリンス液を揮発させる工程(2)を追加することが好ましい。
更に、必要に応じてレリーフ形成層を更に架橋させる工程(3)を追加してもよい。追加の架橋工程(3)を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
【0095】
以上のようにして、被塗布物上にレリーフ層を有するレリーフ印刷版が得られる。
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50°以上90°以下であることが好ましい。
レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。
【0096】
本発明の方法で製造されたレリーフ形成層を有するレリーフ印刷版は、凸版用印刷機による油性インキやUVインキでの印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機によるUVインキでの印刷も可能である。
【実施例】
【0097】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)
<レリーフ形成層用樹脂溶液の調製>
撹拌ヘラ及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、バインダー樹脂としてデンカブチラール#3000−2(ポリビニルブチラール、分子量9.0万、電気化学工業(株)製)49.65質量部、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート66質量部を入れ、撹拌しながら70℃で120分間加熱しバインダー樹脂を溶解した。ついで、モノマーとして下記に示す構造のM1を15質量部、ブレンマーLMA(メタクリル酸n-ドデシル:日油株式会社製)を33質量部、熱重合開始剤としてパーブチルZ(t−ブチルパーオキソベンゾエート:日油株式会社製)を1.6質量部、光熱変換剤として、旭#80(N‐220、旭カーボン社製のカーボンブラック)0.75質量部を添加して30分間撹拌して、流動性のあるレリーフ形成層用樹脂溶液を得た。
【0099】
【化5】


M1
【0100】
上記で得られたレリーフ形成層用樹脂溶液を0.2mm厚のPETフイルム上に流延し、100℃のオーブン中で1時間乾燥させて、レリーフ形成層を得た。得られたレリーフ形成層の厚さは0.9mmであった。
【0101】
(実施例2〜16、比較例1〜5)
溶剤、熱重合開始剤、乾燥温度を表1に記載の条件に変える以外は実施例1と同様にして実施例2〜16、比較例1〜5のレリーフ形成層を設けた支持体を得た。
得られたレリーフ形成層用樹脂溶液、およびレリーフ形成層を下記に示す評価方法に従って評価し、表1に結果をまとめた。
【0102】
(液安定性の測定方法)
レリーフ形成層用樹脂溶液を70℃で静置した際の、液粘度を測定し、変動幅が+10%になるまでの時間を測定した。8hr以上であれば実用上問題ないレベルである。
【0103】
(膜強度の測定方法)
熱架橋した後、PETフイルムから剥がしたレリーフ形成層(厚さ0.9mm)をJIS K 6251 3号に規定されるダンベルを用いて打ち抜き、バネばかり(max1000g)に打ち抜いたレリーフ形成層の片側先端を引っ掛け、もう一方の片側先端を手で引っ張り、レリーフ層が破断した時のバネばかりの荷重の値を次式により求めた。膜強度は6N/cm以上であれば、実用上問題ないレベルである。
(シート強度[N/cm])=(破断時の荷重[kg]×9.8[m/s])/0.5[cm]
【0104】
(膜面状の測定方法)
上記で得られたレリーフ形成層を温風式乾燥オーブンを用いて表1に示す熱架橋条件で熱架橋した後に、10cm×10cmに切り出し、マイクロメーターを用いて任意の箇所の膜厚を20箇所測定し、それをもとに標準偏差(σ)を算出した。標準偏差(σ)が30μm以下であれば、膜面状は実用上問題ないレベルである。
【0105】
【表1】

【0106】
表1から本発明の式(I)、および式(II)を共に満足する実施例1〜15は樹脂溶液の保存性に優れ、得られたレリーフ形成層の膜強度が高く、またレリーフ層の膜厚均一性が良好で、面状の優れたものであった。これに対し、比較例1、2、5はレリーフ層の膜厚が不均一で面状が劣り、比較例3、4は膜強度が弱いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)バインダー樹脂、(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤、(c)熱重合開始剤、および(d)モノマーを含むレリーフ形成層用樹脂溶液を被塗布物上に塗布する塗布工程と、
前記(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤を除去して乾燥する乾燥工程と を含み、
前記(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤の沸点をA(℃)とし、前記乾燥工程の温度をB(℃)とし、前記(c)熱重合開始剤の10h半減期温度をC(℃)としたとき、下記式(I)、および式(II)をともに満足するレリーフ形成層の製造方法。
(I)・・・・ A > B+10
(II)・・・・ A > C
【請求項2】
前記(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤の沸点が、101℃以上200℃以下であり、前記乾燥工程の温度が70℃以上150℃以下であり、且つ前記(c)熱重合開始剤の10h半減期温度が60℃以上120℃以下である請求項1に記載のレリーフ形成層の製造方法。
【請求項3】
得られたレリーフ形成層の厚みが0.1mm以上5mm以下である請求項1または請求項2に記載のレリーフ形成層の製造方法。
【請求項4】
前記(c)熱重合開始剤が過酸化物である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレリーフ形成層の製造方法。
【請求項5】
前記(b)沸点が101℃以上200℃以下の溶剤が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、および1−メトキシ−2−プロパノールの群から選ばれる少なくとも一つの溶剤である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレリーフ形成層の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程の後に、さらに熱架橋工程を含む請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレリーフ形成層の製造方法。
【請求項7】
前記熱架橋工程の温度をD(℃)としたとき、下記式(III)を満足する請求項6に記載のレリーフ形成層の製造方法。
(III)・・・・ A > D+10
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたレリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版。