説明

レンズ保持装置

【課題】レンズを鏡筒に固定する位置精度を向上できるレンズ保持装置を提供する。
【解決手段】このレンズ保持装置は、光軸Jの方向の一方の開口部14を有する鏡筒12と開口部14から鏡筒12内に圧入されたレンズ11を備え、鏡筒12はテーパ内周面16と保持面17と位置決め部18を有する。鏡筒12へのレンズ11の圧入は、一方の開口部14からテーパ内周面16の内径が大きくなる方向になされ、所定の位置において位置決め部18の当接面18Aにてレンズ11が止まると共に保持面17がレンズ11の外周面11Aに当接してレンズ11を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レンズを鏡筒に保持するレンズ保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ等における各種光学機器においては、レンズを精度よく固定する効率的な構造として鏡筒構造が用いられている。例えば、円形形状を有するレンズを固定する方法としては、レンズの直径にほぼ等しいか、もしくは、レンズの直径よりも小さい内径を有する鏡筒が用いられる。
【0003】
また、極めて高精度な組立てが要求される光学機器などに用いられるレンズの固定においては、図7に示すような構造が用いられる(特許文献1参照)。この従来例においては、鏡筒102の内壁部に光軸Kの方向に傾斜した傾斜部103を設け、レンズ101をレンズ外径よりも大きな開口部107から光軸方向に押し込んで行く(圧入)。そして、レンズ101を固定する位置でレンズ101の外周部105の傾斜面と鏡筒102の内壁部の傾斜部103とを係合させることによって、レンズ101を鏡筒102内に保持している。
【0004】
この保持構造においては、レンズ101を押し込む入り口である開口部107が反対側の開口部108よりも広くなっており、開口部107と108の中間のレンズ固定部104はレンズ外周部105と係合する。これにより、レンズ101が鏡筒102に対して動かなくなり、レンズ101を鏡筒102に容易に固定できる。
【0005】
しかしながら、上記従来例においては、レンズ101の外周部105および鏡筒102の内壁部102Aに対する極めて高精度な加工が必要となる。その理由は、もしも、レンズ101の外周部105と鏡筒102の固定部104のそれぞれが光軸方向に対して傾斜している角度に誤差が発生すると、レンズ101の鏡筒102内での固定位置が所定の位置から大きくずれてしまうことになるからである。
【0006】
また、上記従来例では、レンズ101を鏡筒102に組み付ける作業は容易であるものの、上記高精度な加工のためにコストが高くなり、加工作業が容易ではなく、全体的としての組立て作業は効率的ではない。
【0007】
また、レンズ101がガラス製である一方、鏡筒102が樹脂のような柔らかい材質で作製されている場合には、レンズ101を内壁部102Aの径の広い箇所から狭い箇所へ組み込んでいく過程において、レンズ101が鏡筒102の内壁部102Aと接する点において、鏡筒102の内壁部102Aが削られる危険性がある。鏡筒102の内壁部102Aが削られると、鏡筒102から発生する削りかす等の堆積によって、鏡筒102に対するレンズ101のチルトや偏心は予期せぬ影響を受け、所定の位置でのレンズ固定が望めなくなる。さらに、削りかすがレンズ面に付着するなどして光学性能の低下を引き起こす可能性もある。
【特許文献1】特開2002−250853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明の課題は、レンズを鏡筒に固定する位置精度を向上できるレンズ保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明のレンズ保持装置は、少なくとも光軸方向の一方に開口部を有する鏡筒と、上記一方の開口部から鏡筒内に圧入されて固定された少なくとも1つのレンズを備え、
上記鏡筒は、上記一方の開口部から光軸方向の他方に向かって内径が増大しているテーパ内周面と、上記テーパ内周面から光軸方向の他方に向かって延在していると共に上記レンズの外周面に当接して上記レンズを保持する保持面とを有し、さらに、上記保持面と交差する径方向内方に延在していると共に上記レンズの光軸方向の他方の面に径方向外側から当接して上記レンズの光軸方向の位置決めを行う当接面を含む位置決め部を備えることを特徴としている。
【0010】
この発明のレンズ保持装置によれば、鏡筒へのレンズの圧入は、一方の開口部からテーパ内周面の内径が大きくなる方向になされ、所定の位置において位置決め部の当接面にてレンズが止まると共に保持面がレンズの外周面に当接してレンズを保持する。よって、鏡筒内の所定位置にレンズを保持する保持状態を容易に確実に達成でき、かつ、レンズの位置決めをきわめて高精度にすることができる。
【0011】
また、鏡筒の光軸方向の一方の開口部からレンズを圧入する際に、鏡筒のテーパ内周面は光軸方向の他方に向かって拡径しているので、圧入時にレンズの外縁で鏡筒の内周面が削られるという危険性を抑えることができる。よって、鏡筒に対する安定したレンズ圧入とレンズ保持を実現可能となる。同時に、削りかす等の影響によるレンズのチルト発生や削りかす等がレンズ面に付着する可能性を抑制でき光学特性の悪化を防止できる。
【0012】
また、一実施形態のレンズ保持装置は、上記鏡筒内に圧入されて固定された複数のレンズを備え、さらに、光軸方向に隣り合う2つの上記レンズの間に配置されて上記2つのレンズ間の距離を規定するスペーサを備える。
【0013】
この実施形態のレンズ保持装置によれば、スペーサが光軸方向に隣り合う2つのレンズ間の距離を規定するから、複数のレンズが鏡筒内で正確に位置決めされたレンズ保持装置を実現できる。
【0014】
また、一実施形態のレンズ保持装置は、上記レンズは、上記鏡筒の光軸方向の一方の開口部から上記テーパ内周面に圧入され、上記保持面の弾性変形によって、上記鏡筒内に保持されている。
【0015】
この実施形態のレンズ保持装置によれば、レンズを鏡筒の保持面に保持した状態においても、鏡筒の弾性力によりレンズの固定を行うので、鏡筒の内径基準でレンズを固定することとなる。よって、鏡筒の弾性力が失われない範囲においては、レンズの外径寸法の偏差によらず、偏心を少なくしたレンズ保持が可能となる。
【0016】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記スペーサは、上記鏡筒と一体であるので、組立が容易である。
【0017】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記スペーサは、上記鏡筒と別体であるので、スペーサ交換によるレンズ間距離の変更が可能となる。
【0018】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記位置決め部は、上記鏡筒と一体であるので、位置決め部が鏡筒からずれたり外れたりする心配が無くなる。
【0019】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記位置決め部は、上記鏡筒と別体であると共に上記鏡筒に取り付けられているので、この位置決め部を鏡筒から取り外せば、レンズを保持面から光軸方向の他方に向かってさらに押し込むことでレンズを鏡筒の他方の開口部から容易に取り出すことが可能である。
【0020】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記光軸方向の一方の開口部の内周面は、面取り部を有するので、レンズの圧入が容易になる。
【0021】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記レンズは、ガラス製もしくは樹脂製であるので、ガラス製とした場合には、屈折率が高くで薄肉化を図れ、経年変化が少ないレンズとなり、樹脂製レンズとした場合には、軽く割れ難く加工が容易である。
【0022】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記鏡筒は、光軸と直交する面による断面において略円形状を示す内周面を有し、上記レンズは、光軸と直交する面による断面形状が略円形状である断面を有する。
【0023】
この実施形態によれば、略円形の鏡筒と略円形のレンズとを備え、全体として略円筒形状のレンズ保持装置となる。
【0024】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記鏡筒は、光軸と直交する面による断面において略楕円形状を示す内周面を有し、上記レンズは、光軸と直交する面による断面形状が略楕円形状である断面を有する。
【0025】
この実施形態によれば、略楕円形の鏡筒と略楕円形のレンズとを備え、全体として略楕円筒形状のレンズ保持装置となる。
【0026】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記鏡筒は、光軸と直交する面による断面において略四角形状を示す内周面を有し、上記レンズは、光軸と直交する面による断面形状が略四角形状である断面を有する。
【0027】
この実施形態によれば、略四角形の鏡筒と略四角形のレンズとを備え、全体として略四角柱形状のレンズ保持装置となる。
【0028】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記レンズの外径をD1(mm)とし、上記レンズを圧入する鏡筒の上記光軸方向の一方の開口部の内径をD2(mm)とし、上記レンズを保持していない状態での上記鏡筒の保持面の内径をD3(mm)とすると、
0.990D1<D2<0.995D3 … (1)
0.995D1<D3<D1 … (2)
上式(1)および(2)を満たしている。
【0029】
この実施形態によれば、鏡筒の一方の開口部の内径はレンズの外径の99%を超えているので、鏡筒の一方の開口部へレンズを圧入する際、この開口部がレンズの外径の1%よりも小さい寸法だけ弾性変形するだけでレンズの圧入が可能となる。また、鏡筒の一方の開口部の内径は鏡筒の保持面のレンズを保持していない状態での内径の99.5%未満であるので、鏡筒のテーパ内周面はレンズを保持していない状態において保持面から開口部に向かって先細の形状となる。さらに、レンズを保持していない状態での保持面の内径はレンズの外径の99.5%を超えていると共にレンズの外径の100%未満であるので、保持面はレンズを保持した状態では弾性変形によって径方向外側からレンズの外周面を保持することとなる。
【0030】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記鏡筒の保持面は、径方向外方へ窪んでいると共に光軸方向と周方向に所定寸法だけ延在している凹部を少なくとも1つ有する。
【0031】
この実施形態によれば、保持面の形状とレンズの外周面の形状とに差異があっても、上記凹部の存在により保持面とレンズ外周面との形状の差異を吸収し易くなる。
【0032】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記レンズは、面取り加工された縁部を有するので、開口部から鏡筒内へ圧入し易くなる。
【0033】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記レンズは、ヤング率がα(GPa)の材料で作製され、
上記鏡筒は、ヤング率がβ(GPa)の材料で作製され、
上記スペーサは、ヤング率がγ(GPa)の材料で作製されており、
上記ヤング率α、β、γは、
α>10β … (11)
β>2γ … (12)
上式(11)および(12)を満たしている。
【0034】
この実施形態のレンズ保持装置によれば、上記レンズの材質のヤング率が上記鏡筒の材質のヤング率の10倍を超えているので、鏡筒の適度な弾性力によって、レンズを保持できる。また、鏡筒の材質のヤング率がスペーサの材質のヤング率の2倍を超えているので、鏡筒がスペーサを押圧した場合に鏡筒よりもスペーサがより多く弾性変形することで、鏡筒の変形が抑制される。
【0035】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記鏡筒は、上記2つのレンズの間で弾性変形により径方向内方に隆起した内壁隆起部を有し、上記スペーサは、上記内壁隆起部に部分的に当接して弾性変形している変形部を有する。
【0036】
この実施形態のレンズ保持装置によれば、鏡筒の径方向に隆起していない内壁でスペーサを径方向内方に押圧してスペーサを内壁に保持する場合に比べて、スペーサの変形量を最小限に抑制しつつ、鏡筒に対してスペーサを弾性力で保持して位置決めできる。このスペーサの保持,位置決めによって、スペーサが鏡筒内で動かないようにして、スペーサの軸ズレやスペーサ自身のチルトを抑制することが可能である。よって、2枚以上のレンズを保持するレンズ保持装置において、レンズ間の距離を極めて高精度に設定でき、かつ、偏心,チルトを容易に防止できる。
【0037】
特に、スペーサをレンズ形状と合わせる加工を必要としないので、スペーサ形状がレンズ形状によって限定されなくなるので、広範なレンズ形状に対応することが可能である。
【0038】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記鏡筒は光軸と直交する面による断面において略円形状を示す内周面を有すると共に、上記スペーサは光軸と直交する面による断面において略円形状を示す内周面を有し、かつ、上記レンズは光軸と直交する面による断面形状が略円形状である断面を有し、
さらに、上記スペーサの外径をD11(mm)とし、上記レンズを保持していない状態での上記鏡筒の保持面の内径をD12(mm)とし、上記レンズの外径をD13(mm)とすると、
D12<D11<D13 … (13)
上式(13)を満たしている。
【0039】
この実施形態のレンズ保持装置によれば、スペーサの外径を、レンズを保持していない状態での上記鏡筒の保持面の内径よりも大きく、かつ、レンズの外径よりも小さくしたので、鏡筒の変形量を抑えつつレンズ間でスペーサを鏡筒の内壁で径方向内方に押圧して保持できる。
【0040】
また、一実施形態のレンズ保持装置の組立方法では、上記2つのレンズ間に上記スペーサを配置した状態で、上記2つのレンズと上記スペーサとを上記鏡筒内に圧入して、上記レンズ保持装置を組み立てる。
【0041】
この実施形態のレンズ保持装置の組立方法によれば、上記レンズ保持装置を迅速、容易に組み立てることができる。たとえば、スペーサの厚さが薄くて、スペーサを単独では鏡筒に圧入し難い場合でも、2つのレンズ間にスペーサを挟んだ状態で一括圧入して容易に組立可能となる。
【0042】
また、一実施形態のレンズ保持装置では、上記スペーサは、光軸を含む平面による断面形状が、略四角形状、略円形状、略楕円形状のうちのいずれかである。
【発明の効果】
【0043】
この発明のレンズ保持装置によれば、鏡筒へのレンズの圧入は、一方の開口部からテーパ内周面の内径が大きくなる方向になされ、所定の位置において位置決め部の当接面にてレンズが止まると共に保持面がレンズの外周面に当接してレンズを保持する。よって、鏡筒内の所定位置にレンズを保持する保持状態を容易に確実に達成でき、かつ、レンズの位置決めを高精度にすることができる。また、鏡筒の光軸方向の一方の開口部からレンズを圧入する際に、鏡筒のテーパ内周面は光軸方向の他方に向かって拡径しているので、圧入時にレンズの外縁で鏡筒の内周面が削られるという危険性を抑えることができる。よって、鏡筒に対する安定したレンズ圧入とレンズ保持を実現可能となる。同時に、削りかす等の影響によるレンズのチルト発生や削りかす等がレンズ面に付着する可能性を抑制でき光学特性の悪化を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0045】
(第1の実施の形態)
図1に、この発明の第1実施形態としてのレンズ保持装置の縦断面を示す。ここで、縦断面とは、光軸Jを含む平面による断面である。このレンズ保持装置では、鏡筒12内に1枚のレンズ11を保持している。
【0046】
図1に示すように、レンズ11は光軸方向の一方の凸レンズ面11Bと他方の凸レンズ面11Cを有する両凸レンズである。また、鏡筒12は、中空であり、光軸方向の一方の開口部14と光軸方向の他方の開口部15を有している。開口部15は開口部14よりも狭くなっている。また、鏡筒12は、開口部14から光軸方向の他方に向かって内径が増大しているテーパ内周面16と、テーパ内周面16から光軸方向の他方に向かって延在していると共にレンズ11の外周面11Aに径方向外側から当接してレンズ11を保持する保持面17とを有している。
【0047】
また、鏡筒12は、他方の開口部15を形成している位置決め部18を有している。位置決め部18は、鏡筒12の光軸方向の他端部をなし、保持面17と略直交する径方向内方へ延在している当接面18Aを有する。当接面18Aは、レンズ11の光軸方向の他方の凸レンズ面11Cに当接してレンズ11の光軸方向の位置決めを行う。
【0048】
この実施形態では、鏡筒12の内周面は略円筒形状である。また、レンズ11の外周面11Aも略円筒形状である。また、開口部14の内径はレンズ11の外径よりも所定寸法だけ小さくなっている。そして、鏡筒12の内壁をなす保持面17は、径方向内方への弾性復元力でもって、レンズ11の外周面11Aを径方向内方へ押圧してレンズ11の外周面11Aを保持している。
【0049】
なお、図2に示すように、レンズ11の凸レンズ面11Bの周縁と内周面16とが接する箇所に接着剤25を塗布し、鏡筒12へのレンズ11の保持状態をより強固にしてもよい。また、かしめなどにより鏡筒12へのレンズ11の保持状態をより強固にしてもよい。
【0050】
この実施形態では、レンズ11は、鏡筒12の開口部14からテーパ内周面16内へ圧入される。なお、レンズ11は樹脂レンズでもガラスレンズでもよい。また、レンズ11の外径D1(mm)は、鏡筒12の開口部14の内径D2(mm)よりも所定寸法だけ大きいが、開口部14の内径とレンズ11の外径との差(D1−D2)と鏡筒12の材質とを適当なものとすることで、レンズ11の圧入時に鏡筒12が削られる恐れをなくすることができる。すなわち、鏡筒12を塑性変形させることなく、レンズ11を鏡筒12内に挿入することができ、鏡筒12は弾性変形をするにとどめられる。なお、鏡筒12の材質の一例としては樹脂が挙げられるが金属製であってもよい。
【0051】
具体的一例として、レンズ11がガラスからなり、鏡筒12がポリカーボネート等の樹脂からなっていた場合、レンズ外径D1が4.0(mm)で、開口部14の内径D2が3.6〜3.8(mm)の場合、レンズ11は鏡筒12を削ることなく圧入することが可能である。これは、適切なレンズ材質と鏡筒材質の選定と、レンズ外径D1と鏡筒内径D2の差の設定とによるものである。
【0052】
レンズ11は、内径D2の開口部14から内径が広くなる鏡筒12のテーパ内周面16内を光軸方向に圧入されて、位置決め部18の当接面18Aに当接するまで挿入される。ここで、テーパ内周面16は、レンズ11が挿入される光軸方向の他方に向かって内径が増大しているので、従来の鏡筒のように内径が狭まる方向にレンズを押し込む場合とは異なり、レンズ11の凸レンズ面11Cの周縁(エッジ)が鏡筒12の内壁を強くこする危険性を低減できて、鏡筒12の内壁を削る危険性を低減することが可能である。これにより、削りかす等の発生によるレンズ11のチルトや偏心への影響やレンズ表面への汚れへの影響をなくすことが可能である。
【0053】
上記具体的一例においては、鏡筒12の位置決め部18の当接面18Aに隣接する保持面17の内径D3(mm)は、3.8〜4.0(mm)とすることが望ましく、この範囲においては、レンズ11は、鏡筒12の内壁を弾性変形させるにとどめ、弾性力によるレンズ保持が可能な状態である。
【0054】
また、この実施形態のレンズ保持装置において、レンズ11の外径をD1(mm)とし、レンズ11を圧入する鏡筒12の光軸Jの方向の一方の開口部14の内径をD2(mm)とし、レンズ11を保持していない状態での鏡筒12の保持面17の内径をD3(mm)としたときに、次式(1)、(2)を満足することが望ましい。
0.990D1<D2<0.995D3 … (1)
0.995D1<D3<D1 … (2)
【0055】
この式(1)、(2)を満足する場合は、鏡筒12の一方の開口部14の内径D2はレンズ11の外径D1の99%を超えているので、鏡筒12の一方の開口部14へレンズ11を圧入する際、この開口部14がレンズ11の外径D1の1%よりも小さい寸法だけ弾性変形するだけでレンズ11の圧入が可能となる。また、鏡筒12の一方の開口部14の内径D2は鏡筒12の保持面17のレンズ11を保持していない状態での内径D3の99.5%未満であるので、鏡筒12のテーパ内周面16はレンズ11を保持していない状態において保持面17から開口部14に向かって先細の形状となる。さらに、レンズ11を保持していない状態での保持面17の内径D3はレンズ11の外径D1の99.5%を超えていると共にレンズ11の外径D1の100%未満であるので、保持面17はレンズ11を保持した状態では弾性変形によって径方向外側からレンズ11の外周面11Aを保持することとなる。
【0056】
また、レンズ11の押し込み圧入をよりスムースに行うことができる鏡筒12の構造として、図3に示すように、鏡筒12の開口部14の内周面に面取り加工を施して面取り部36を形成してもよい。この面取り部36により、開口部14における鏡筒12の内径D2とレンズ11の外径D1との差を小さくでき、圧入時において必要な押し込み圧力を小さくでき、レンズ11をより容易に保持状態にまで押し入れることが可能となる。
【0057】
図3に示す開口部14の面取り部36の大きさや角度には特に制限はないが、入り口の開口部14において、鏡筒12の中心軸に対してレンズ11の光軸が重なるように、レンズ11を姿勢制御できる程度であることが望ましい。開口部14の面取り部36により、鏡筒12の開口部14の内径D2がほぼレンズ11の外径D1程度になることが適当である。鏡筒12の開口部14の内径D2がレンズ11の外径D1よりも小さすぎると面取り部36の効果が薄く、開口部14の内径D2がレンズ11の外径D1よりも大きすぎるとレンズ11が傾いた状態で鏡筒12に押し込まれ易くなり、チルト制御が困難になる。
【0058】
なお、この第1実施形態では、レンズ11を両凸レンズとして説明したが、この発明はレンズ11が如何ようなレンズ形状であっても適用でき、例えば、レンズが平凸レンズ、メニスカスレンズ、非球面レンズであってもかまわない。また、上記実施形態では、鏡筒12の内周面を円筒形状としたが、鏡筒12の内周面を楕円筒形状もしくは略四角筒形状としてもよい。また、上記実施形態では、レンズ11を円形としたが、楕円形もしくは略四角形状としてもよい。また、鏡筒12の保持面17に周方向に延在する周溝(図示せず)を形成してもよい。この場合には、保持面17の周溝でもってレンズ11の位置ずれを抑制できる。また、レンズ11の凸レンズ面11Bと凸レンズ面11Cの少なくとも一方の周縁部に面取り加工を施してもよい。この場合には、レンズ11を開口部14から鏡筒12内へ圧入し易くなる。
【0059】
(第2の実施の形態)
次に、図4に、この発明のレンズ保持装置の第2実施形態の縦断面を示す。この第2実施形態のレンズ保持装置が有する鏡筒42は、中空の円筒状であり、光軸方向の一方の開口部43と光軸Jの方向の他方の開口部44を有する。一方の開口部43は、レンズ41を鏡筒42に圧入する入り口となる。
【0060】
この第2実施形態では、鏡筒42の開口部44の内周面には、鏡筒42とは別体である環状の位置決め部45が取り付けられている。この第2実施形態は、鏡筒42とは別体の位置決め部45を有する点が、前述の第1実施形態と異なる。
【0061】
一方、この第2実施形態の鏡筒42が有する開口部43は、第1実施形態の鏡筒12の開口部14と同様の構成であり、この第2実施形態の鏡筒42が有するテーパ内周面46、保持面47は、第1実施形態のテーパ内周面16、保持面17と同様の構成である。また、この第2実施形態が有するレンズ41は、第1実施形態が有するレンズ11と同様の構成である。
【0062】
この第2実施形態では、鏡筒42とは別体の位置決め部45は、保持面47と略直交する径方向内方へ延在している当接面45Aを有する。当接面45Aは、レンズ41の光軸方向の他方の凸レンズ面41Cに当接してレンズ41の光軸方向の位置決めを行う。この第2実施形態では、位置決め部45は鏡筒42とは別体の部材であるので、位置決め部45の材質を鏡筒42の材質とは別のものとすることができる。そして、極めて高精度な加工を施した当接面45Aを有する位置決め部45を鏡筒42と独立に設置できることとなる。
【0063】
一般に、鏡筒はコストおよび作りやすさの点から成型加工による製造が主となる。また、この発明における鏡筒は、樹脂のような比較的弾性をもつ材質であることが望ましく、成型加工による製作が主となり得る。
【0064】
しかしながら、成型加工においては、鏡筒の内周面に位置決め部の当接面を形成する構造では、鏡筒の内周面の形状が複雑化することで製作コストが大きくなり、精度に対する要求も大きくなる。
【0065】
これに対し、この第2実施形態においては、当接面45Aを有する位置決め部45を鏡筒42とは別体の構造としたので、鏡筒42を単純な円筒状とすることができ、製作が容易になる。
【0066】
この第2実施形態においては、レンズ41を鏡筒42の一方の開口部43からテーパ内周面46を経て保持面47による保持位置に圧入する前段階として、当接面45Aを有する位置決め部45を鏡筒42の他方の開口部44の内周面に取り付ける。この第2実施形態においては、位置決め部45はリング形状の当接面45Aを有し、このリング形状の当接面45Aは、第1実施形態の位置決め部18の当接面18Aと同様の機能を有することが可能である。
【0067】
なお、位置決め部の形状はリング形状に限定されるものではなく、位置決めとしての役割を果たすものであれば、フィルム形状、線材形状、立方体形状、球形状といったような様々な形状とすることができる。
【0068】
この実施形態では、当接面45Aを有する位置決め部45を金属製としており、位置決め部45の厚みや形状は極めて高精度に加工されている。ただし、当接面45Aを有する位置決め部45は金属製に限らないことは勿論であり、樹脂、金属、ガラスなど材質を自由に選ぶことが可能であり、必要とされる精度や形状によって最適な材質を選択することができる。
【0069】
この実施形態では、当接面45Aを有する位置決め部45を、鏡筒42の他方の開口部44の内周面に配置し取り付けた後に、レンズ41を第1実施形態と同様にして、鏡筒42の開口部43からテーパ内周面46を経て保持面47に挿入,圧入する。これにより、この第2実施形態は、図4に示すようなレンズ41の保持状態を実現することが可能である。
【0070】
この第2実施形態においては、第1の実施形態と同様に、レンズ41を鏡筒42の弾性力でもって保持することができる上に、当接面45Aを有する位置決め部45の材質,形状を共に自由に選ぶことが可能になる。したがって、位置決め部45を、例えば、光学系における絞りとしての役割をもたせることが可能である。また、この第2実施形態では、シャッタ機能等を有する部材を当接面45Aを有する位置決め部45として利用することも可能である。また、位置決め部45の当接面45Aを、レンズ41のレンズ面41Cに密接するような複雑な曲面形状を有する当接面とすれば、レンズ41に対する位置決め機能を向上できる。
【0071】
また、この第2実施形態のように、当接面45Aを有する位置決め部45を鏡筒42と別体とした場合、当接面45Aを有する位置決め部45を鏡筒42の内壁の弾性力によって鏡筒42の内周側に保持した状態としてもよい。この場合、一方の開口部43から保持面47に圧入したレンズ41を、さらに他方の開口部44に向けて押し込むことで、当接面45Aを形成する位置決め部45およびレンズ41を鏡筒42から容易に取り外すことが可能となる。よって、レンズ41を再利用し易くすることが可能である。
【0072】
(第3の実施の形態)
次に、図5に、この発明のレンズ保持装置の第3実施形態の縦断面を示す。この第3実施形態のレンズ保持装置は、鏡筒53内に2枚のレンズ51,52を保持する構造である。この第3実施形態が有する鏡筒53は、中空の円筒状であり、光軸Jの方向の一方の開口部56と光軸方向の他方の開口部57を有する。一方の開口部56は、レンズ51,52を鏡筒53に圧入する入り口をなす。
【0073】
図1に示すように、第1のレンズ51は光軸方向の一方の凸レンズ面51Bと他方の凸レンズ面51Cを有する両凸レンズである。また、第2のレンズ52は光軸方向の一方の凸レンズ面52Bと光軸方向の他方のフラットなレンズ面52Cを有する片凸レンズである。また、鏡筒53の一方の開口部56は他方の開口部57よりも狭くなっている。また、鏡筒53は、適当な弾性力を有する材質からなり、開口部56から光軸方向の他方に向かって内径が増大しているテーパ内周面58と、テーパ内周面58から光軸方向の他方に向かって延在していると共にレンズ52,51の外周面52A,51Aに径方向外方から当接してレンズ52,51を保持する保持面60を有している。
【0074】
また、鏡筒53は、他方の開口部57を形成している位置決め部61を有している。位置決め部61は、鏡筒53の光軸方向の他端部をなし、保持面60とほぼ直交する径方向内方へ延在している当接面61Aを有する。当接面61Aは、第1のレンズ51の光軸方向の他方の凸レンズ面51Cに当接して第1のレンズ51の光軸方向の位置決めを行う。
【0075】
この第3実施形態では、鏡筒53の内周面は略円筒形状である。また、レンズ51,52の外周面51A,52Aも略円筒形状である。また、一方の開口部56の内径はレンズ51,52の外径よりも所定寸法だけ小さくなっている。そして、鏡筒53の内壁をなす保持面60は、径方向内方への弾性復元力でもって、レンズ51,52の外周面51A,52Aを径方向内方へ押圧してレンズ51,52の外周面51A,52Aを保持している。
【0076】
この第3実施形態では、第1のレンズ51と第2のレンズ52との間にリング状のスペーサ63を配置した。このリング状のスペーサ63は、上面63Aを第2のレンズ52の平坦なレンズ面52Cに当接する当接面とし、下面63Bを第1のレンズ51の凸レンズ面51Bに当接する当接面としている。このリング状のスペーサ63によって、光軸方向に隣り合う2つのレンズ51と52との間の距離を規定している。
【0077】
ここで、スペーサ63は、レンズ51,52間の間隔および第2のレンズ52の位置を決定するので、高精度な加工品であることが望ましいが、望まれる要求精度を達成できるならば材質は問わず、形状もリング状に限る必要はない。
【0078】
この第3実施形態のレンズ保持装置では、まず、第1レンズ51を、第1実施形態で説明したのと同様に、一方の開口部56からテーパ内周面58を経て凸レンズ面51Cが位置決め部61の当接面61Aに当接するまで圧入し、保持面60で外周面51Aを保持させる。ここで、鏡筒53は適度な弾性を有しており、第1のレンズ51の圧入によっても塑性変形は起こらない。そして、レンズ圧入を行う一方の開口部56からレンズの固定されている位置(つまり保持面60)までの間において、開口部56において鏡筒53の内径が最も狭くなっている。つまり、鏡筒53はテーパ内周面58を有することで、鏡筒53内を一方の開口部56から他方の開口部57に向かって進むにしたがって、鏡筒53の内径が大きくなるという状態を維持している。
【0079】
そして、第1のレンズ51が位置決め部61に当接し所定の位置にて保持面60で保持された後に、リング状のスペーサ63を一方の開口部56からテーパ内周面58を経て保持面60まで挿入し、下面63Bを第1のレンズ51の凸レンズ面51Bに当接させる。このスペーサ63の上面63Aは第2のレンズ52の光軸方向の位置を定める第2の当接面をなすと共に、第1のレンズ51と第2のレンズ52の間隔を規定する役目を果たす。
【0080】
次に、第2のレンズ52を一方の開口部56からテーパ内周面58を経てスペーサ63の上面63Aに当接するまで圧入し、外周面52Aを保持面60で保持させる。ここで、第2のレンズ52の外径はレンズの保持位置(保持面60)における鏡筒53の内径とほぼ同じか少し大きい程度であり、鏡筒53内を塑性変形させるような大きなレンズ径を有してはいない。
【0081】
上述のようにして、第2のレンズ52も第1のレンズ51と同様に、鏡筒53内に保持される。この第3実施形態においては、第1のレンズ51、第2のレンズ52共に鏡筒53の内径を基準として保持でき、鏡筒53の削り等による不確定なチルト発生要因がないことから、レンズ間の距離を極めて高精度に定めるように組立を行うことが可能になる。
【0082】
なお、この第3実施形態においても、第2実施形態のように、第1のレンズ51を位置決めする位置決め部61を鏡筒53とは別体の部材によって形成してもよい。
【0083】
(第4の実施の形態)
次に、図6を参照して、この発明のレンズ保持装置の第4実施形態について説明する。図6は、第4実施形態が有する鏡筒72の横断面図である。ここで、横断面図とは光軸Jの方向と直交する平面による断面図である。
【0084】
この第4実施形態は、第1実施形態の変形例に相当するものであり、鏡筒12に替えて鏡筒72を備える点だけが、前述の第1実施形態と異なる。この鏡筒72は、内周面72Aに周方向の3箇所に略扇状の凹部74を有している点だけが第1実施形態の鏡筒12と異なる。この略扇状の凹部74は光軸方向に所定寸法だけ延在している。なお、凹部74の個数は3つに限らないのは言うまでもなく1つでもよく4つ以上でもよい。また、凹部74の形状は扇形状に限らないのは勿論であり、多角形状や半円形でもよい。
【0085】
鏡筒72の凹部74が形成されていない領域の内周面73は保持面をなす。この保持面をなす内周面73は弾性復元力でもって円形のレンズ11の外周面11Aを径方向内方へ押圧してレンズ11の外周面11Aを保持している。ここで、鏡筒72は、鏡筒12と同様の位置決め部とその当接面を有し、この当接面によって、レンズ11は光軸方向の位置決めがなされていることは言うまでもない。
【0086】
この実施形態によれば、保持面をなす内周面73の形状とレンズ11の外周面11Aの形状とが一致していなくて差異が存在していても、凹部74の存在により保持面73とレンズ外周面11Aとの形状の差異を吸収し易くなる。例えば、レンズ外周面11Aが円形ではなくて多角形(例えば四角形)であっても、保持面73でレンズ外周面が保持されると共に凹部74内に収まるような形状であれば鏡筒72内に保持可能である。
【0087】
また、この第4実施形態では、鏡筒72とレンズ11とを接着剤で接着する場合に、凹部74を接着剤の液溜り部とすることができ、接着剤を塗布し易いという利点がある。また、図6に示す横断面において、鏡筒72の周方向の3箇所の内周面(保持面)73は、レンズ11の外周面11Aが当接するならば、横断面形状は円形形状である必要はなく、四角形のような多角形の形状を有していてもよい。
【0088】
尚、この第4実施形態のような内壁に凹部を有する鏡筒72の構造は、第2〜第3実施形態の鏡筒においても採用可能である。上述の如く、第1〜第4実施形態では、位置決め部の当接面でもって、レンズの位置決めをきわめて高精度に行うことができ、かつ、上記当接面の形状を変化させる場合にはレンズの位置決めのみならず、カメラ等のレンズ光学系で用いられる絞りとしての役割を位置決め部に持たせることも可能である。また、この発明におけるレンズおよび鏡筒の横断面形状については特に制限はなく、楕円、矩形、その他特殊形状であっても上述と同様の効果を有するレンズ保持装置を構成することが可能である。
【0089】
(第5の実施の形態)
次に、図8Aと図8Bを参照して、図5に示した第3実施形態のより好ましい変形例である第5実施形態を説明する。図8Bに示すように、この第5実施形態は、図5のリング状のスペーサ63に替えて、スペーサ63よりも外径が小さいリング状のスペーサ83を備えた点と、鏡筒53、第1レンズ51,第2レンズ52、スペーサ83の材質を次に述べるように限定した点とが、前述の第3実施形態と異なる。よって、この第5実施形態では、前述の第3実施形態と異なる点を主に説明する。
【0090】
この第5実施形態では、第1,第2レンズ51,52の材質をガラスとし、鏡筒53の材質をガラスファイバー強化ポリカーボネートとした。また、スペーサ83の材質をポリカーボネートとした。上記ガラスのヤング率αを90(GPa)とし、上記ガラスファイバー強化ポリカーボネートのヤング率βを90(GPa)とした。また、上記ポリカーボネートのヤング率γを2.5(GPa)とした。よって、上記ヤング率α、β、γは、次式(11)および(12)を満たしている。
α>10β … (11)
β>2γ … (12)
【0091】
また、この第5実施形態では、弾性変形していない状態でのスペーサ83の外径寸法D11(mm)を2.99(mm)とし、弾性変形していない状態での鏡筒53の保持面60の内径D12(mm)を2.97(mm)とした。また、弾性変形していない状態での第1,第2レンズ51,52の外径D13(mm)を3.00(mm)とした。よって、上記D11、D12、D13は、次式(13)を満たしている。
D12<D11<D13 … (13)
【0092】
この第5実施形態の第1,第2レンズ51,52、鏡筒53、スペーサ83の材質,寸法の条件を元にしたシミュレーション結果では、第1レンズ51を鏡筒53の保持面60Aに圧入することによって、第1レンズ51の外周面(コバ面)51Aと保持面60Aとが当接している領域において、鏡筒53の保持面60Aは上記圧入前の状態から約15μmだけ変位(拡径)するが、第1レンズ51の外周面51Aは1μm以下しか変位(縮径)しない。
【0093】
また、上記シミュレーション結果では、第2レンズ52を鏡筒53の保持面60Bに圧入することによって、第2レンズ52の外周面(コバ面)52Aと保持面60Bとが当接している領域において、鏡筒53の保持面60Bは上記圧入前の状態から約15μmだけ変位(拡径)するが、第2レンズ52の外周面52Aは1μm以下しか変位(縮径)しない。
【0094】
ここで、第1レンズ51,第2レンズ52および鏡筒53の保持面60A,60Bの上記変位は完全な弾性変形であり、上記材質,寸法の条件では、レンズ51,52の性能に影響しない範囲の変形でもって、レンズ51,52を鏡筒53に弾性力でもって固定できる。
【0095】
また、上記条件において、図8Aに示すように、鏡筒53に2枚のレンズ51,52を圧入した状態で、第1レンズ51の外周面51Aと第2レンズ52の外周面52Aとの間の光軸方向の間隔(コバ間隔)を約400μmとする。この場合、第1,第2レンズ51,52の外周面51A,52Aによって、鏡筒53の内壁の保持面60A,60Bが径方向外方に押され、保持面60Aと60Bの間の鏡筒53の内壁が径方向内方に隆起して内壁隆起部70が形成される。
【0096】
ここで、この第5実施形態では、図8Bに示すように、第1レンズ51と第2レンズ52との間にリング状のスペーサ83が配置され、このリング状のスペーサ83は、上面83Aを第2レンズ52の平坦なレンズ面52Cに当接する当接面としている。また、このリング状のスペーサ83は、下面83Bを第1レンズ51の凸レンズ面51Bに当接する当接面としている。このリング状のスペーサ83によって、光軸方向に隣り合う2つのレンズ51と52との間の距離を規定している。
【0097】
そして、このリング状のスペーサ83は、内壁隆起部70の頂部(変形の極大部)70Aの近くで内壁隆起部70に部分的に当接することで、弾性変形している変形部83Cが生じている。ここで、前述の材質,寸法条件により、スペーサ83のヤング率は鏡筒86のヤング率の約3分の1となり、弾性変形していない状態において、スペーサ83の外径寸法D11(2.99mm)が鏡筒53の保持面60の内径D12(2.97mm)よりも20μmだけ大きい条件となっている。これにより、この変形部83Cと内壁隆起部70とが当接している当接領域88において、非当接状態に比べてスペーサ83は最大で約15μmだけ変形し、鏡筒53の内壁隆起部70は約5μmだけ変形する。
【0098】
ここで、レンズ51,52により弾性変形した鏡筒53の内壁隆起部70は、図8Bに示すように、レンズ52を保持する保持面60Bに向って内径が増大しているので、スペーサ83の変形を最小限に抑えることが可能である。
【0099】
また、鏡筒53の内壁隆起部70がスペーサ83を径方向内方に押圧するが、鏡筒53の材質のヤング率βがスペーサ83の材質のヤング率γの2倍を超えているので、鏡筒53の内壁隆起部70よりもスペーサ83がより多く弾性変形することで、鏡筒53の変形を抑制できる。
【0100】
すなわち、この実施形態によれば、鏡筒53とスペーサ83の変形量を最小限に抑制しつつ、鏡筒53に対してスペーサ83を弾性力で保持して位置決めできる。このスペーサ83の保持,位置決めによって、スペーサ83が鏡筒53内で動かないようにして、スペーサ83の軸ズレやスペーサ83自身のチルトを抑制することが可能である。よって、この実施形態によれば、2枚のレンズ51,52を保持するレンズ保持装置において、レンズ51,52間の距離を極めて高精度に設定でき、かつ、偏心,チルトを容易に防止できる。
【0101】
なお、この第5実施形態を組み立てるに際して、上記2つのレンズ51,52間に上記スペーサ83を配置した状態で、図8Bに示すように、上記2つのレンズ51,52と上記スペーサ83とを上記鏡筒53内に圧入して、上記レンズ保持装置を組み立てる方法を採用することが好ましい。この組立方法によれば、上記レンズ保持装置を迅速、容易に組み立てることができる。たとえば、スペーサ83の厚さが薄くて、スペーサ83を単独では鏡筒53に圧入し難い場合でも、2つのレンズ51,52間にスペーサ83を挟んだ状態で一括圧入して容易に組立可能となる。
【0102】
なお、上記スペーサ83は、光軸を含む平面による断面形状を略四角形状としたが、略円形状もしくは略楕円形状としてもよい。また、第1,第2レンズ51,52、鏡筒53、スペーサ83は、上述のガラス、ガラスファイバー強化ポリカーボネート、ポリカーボネートに限らないのは勿論で、レンズ材料のヤング率α(GPa)、鏡筒材料のヤング率β(GPa)、スペーサ材料のヤング率γ(GPa)が、前述の式(11)、(12)を満たすような材料を選定すればよい。また、第1,第2レンズ51,52、鏡筒53の保持面60、スペーサ83は、上述の外径D13(mm)、内径D12(mm)、外径寸法D11(mm)に限らないのは勿論で、上述の式(13)を満たすような寸法に設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】この発明のレンズ保持装置の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】上記第1実施形態の変形例を示す断面図である。
【図3】上記第1実施形態のもう1つの変形例を示す断面図である。
【図4】この発明のレンズ保持装置の第2実施形態を示す断面図である。
【図5】この発明のレンズ保持装置の第3実施形態を示す断面図である。
【図6】この発明のレンズ保持装置の第4実施形態を示す断面図である。
【図7】従来のレンズ保持装置の断面図である。
【図8A】この発明のレンズ保持装置の第5実施形態を説明するための部分拡大断面図である。
【図8B】この発明のレンズ保持装置の第5実施形態の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0104】
11、41、51、52 レンズ
12、42、53、72 鏡筒
14、15、43、44、56、57 開口部
16、46、58 テーパ内周面
17、47、60 保持面
18、45、61 位置決め部
18A、45A、61A 当接面
25 接着剤
36 面取り部
63 リング状のスペーサ
72A 内周面
73 内周面
74 凹部
70 内壁隆起部
83 スペーサ
83A 上面
83B 下面
83C 変形部
88 当接領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも光軸方向の一方に開口部を有する鏡筒と、
上記一方の開口部から鏡筒内に圧入されて固定された少なくとも1つのレンズを備え、
上記鏡筒は、
上記一方の開口部から光軸方向の他方に向かって内径が増大しているテーパ内周面と、
上記テーパ内周面から光軸方向の他方に向かって延在していると共に上記レンズの外周面に径方向外側から当接して上記レンズを保持する保持面とを有し、
さらに、上記保持面と交差する径方向内方に延在していると共に上記レンズの光軸方向の他方の面に当接して上記レンズの光軸方向の位置決めを行う当接面を含む位置決め部を備えることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記鏡筒内に圧入されて固定された複数のレンズを備え、
さらに、光軸方向に隣り合う2つの上記レンズの間に配置されて上記2つのレンズ間の距離を規定するスペーサを備えることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項3】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記レンズは、上記鏡筒の光軸方向の一方の開口部から上記テーパ内周面に圧入され、上記保持面の弾性変形によって、上記鏡筒内に保持されていることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項4】
請求項2に記載のレンズ保持装置において、
上記スペーサは、上記鏡筒と一体であることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項5】
請求項2に記載のレンズ保持装置において、
上記スペーサは、上記鏡筒と別体であることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項6】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記位置決め部は、上記鏡筒と一体であることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項7】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記位置決め部は、上記鏡筒と別体であると共に上記鏡筒に取り付けられていることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項8】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記光軸方向の一方の開口部の内周面は、面取り部を有することを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項9】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記レンズは、ガラス製もしくは樹脂製であることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項10】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記鏡筒は、光軸と直交する面による断面において略円形状を示す内周面を有し、
上記レンズは、光軸と直交する面による断面形状が略円形状である断面を有することを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項11】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記鏡筒は、光軸と直交する面による断面において略楕円形状を示す内周面を有し、
上記レンズは、光軸と直交する面による断面形状が略楕円形状である断面を有することを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項12】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記鏡筒は、光軸と直交する面による断面において略四角形状を示す内周面を有し、
上記レンズは、光軸と直交する面による断面形状が略四角形状である断面を有することを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項13】
請求項10に記載のレンズ保持装置において、
上記レンズの外径をD1(mm)とし、上記レンズを圧入する鏡筒の上記光軸方向の一方の開口部の内径をD2(mm)とし、上記レンズを保持していない状態での上記鏡筒の保持面の内径をD3(mm)とすると、
0.990D1<D2<0.995D3 … (1)
0.995D1<D2<D1 … (2)
上式(1)および(2)を満たしていることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項14】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記鏡筒の保持面は、径方向外方へ窪んでいると共に光軸方向と周方向に所定寸法だけ延在している凹部を少なくとも1つ有することを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項15】
請求項1に記載のレンズ保持装置において、
上記レンズは、面取り加工された縁部を有することを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項16】
請求項2に記載のレンズ保持装置において、
上記レンズは、ヤング率がα(GPa)の材料で作製され、
上記鏡筒は、ヤング率がβ(GPa)の材料で作製され、
上記スペーサは、ヤング率がγ(GPa)の材料で作製されており、
上記ヤング率α、β、γは、
α>10β … (11)
β>2γ … (12)
上式(11)および(12)を満たしていることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項17】
請求項16に記載のレンズ保持装置において、
上記鏡筒は、上記2つのレンズの間で弾性変形により径方向内方に隆起した内壁隆起部を有し、
上記スペーサは、上記内壁隆起部に部分的に当接して弾性変形している変形部を有することを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項18】
請求項16に記載のレンズ保持装置において、
上記鏡筒は光軸と直交する面による断面において略円形状を示す内周面を有すると共に、上記スペーサは光軸と直交する面による断面において略円形状を示す内周面を有し、かつ、上記レンズは光軸と直交する面による断面形状が略円形状である断面を有し、
さらに、上記スペーサの外径をD11(mm)とし、上記レンズを保持していない状態での上記鏡筒の保持面の内径をD12(mm)とし、上記レンズの外径をD13(mm)とすると、
D12<D11<D13 … (13)
上式(13)を満たしていることを特徴とするレンズ保持装置。
【請求項19】
請求項16に記載のレンズ保持装置を組み立てる方法であって、
上記2つのレンズ間に上記スペーサを配置した状態で、上記2つのレンズと上記スペーサとを上記鏡筒内に圧入して、上記レンズ保持装置を組み立てるレンズ保持装置の組立方法。
【請求項20】
請求項16に記載のレンズ保持装置において、
上記スペーサは、
光軸を含む平面による断面形状が、略四角形状、略円形状、略楕円形状のうちのいずれかであることを特徴とするレンズ保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2007−188034(P2007−188034A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141850(P2006−141850)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】