説明

レンズ用光照射装置

【課題】表面の曲率半径が比較的小さいレンズに対してもレンズ中央部と周辺部とにおける照射光量の差を少なくし、より均一な条件で光照射を行うことを目的とする。
【解決手段】光源11と、この光源11に対向して配置され、レンズ基板30を載置するレンズ載置台25と、光源11とレンズ載置台25の間に配置され、光源11から出射される光のうち、レンズ載置台25に載置されたレンズ基板30の周辺部に到達する光量を、レンズ基板30の中央部に到達する光量より大とする透過光量調整部21と、を備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用プラスチックレンズ等の各種レンズに対して、主に塗膜形成用を目的として紫外線等の光照射を行うレンズ用光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フォトクロミック染料を応用したプラスチック製フォトクロミックレンズ(調光レンズともいう)が眼鏡用として市販されている。このフォトクロミックレンズは、明るい屋外で発色して高濃度のカラーレンズと同様な防眩効果を有し、室内に移ると高い透過率を回復する機能をもつ。
【0003】
このフォトクロミックレンズとしては、フォトクロミック色素を含むフォトクロミック膜をレンズ基板上に設ける構成のレンズが広く用いられている。フォトクロミック膜については、優れた光応答性(反応速度及び発色濃度)、発色時の色調、及び、レンズ基板やハードコート層との密着性に優れたフォトクロミックレンズを得るための材料構成やその製造方法が種々検討されている。
【0004】
このようなフォトクロミック膜用のコーティング剤には光重合性のものがある。光重合性のコーティング剤を用いてフォトクロミック膜を形成するには、レンズ基材の表面にコーティング剤を塗布して塗膜を形成した後に紫外線等の光を照射してこの塗膜を硬化させる。特に眼鏡用プラスチックレンズ等の、複雑な曲面を有する光学面に対してこのようなコーティング液を用いて均一な膜を塗布して硬化する方法やその装置については、様々な提案がなされている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2003/099550号
【特許文献2】特開2004−290857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レンズの光学的設計方法の多様化や機械的加工技術の向上に伴い、レンズ表面自体が様々な曲面、曲率を有するようになっているため、レンズ上の位置により紫外線等の光を照射する条件が一定ではなくなってしまうという問題が生じている。例えば、表面のカーブが強く、すなわち曲率半径の小さいレンズについては、周辺部分へ十分な光照射を行うことができない場合がある。特に上述したフォトクロミック膜の硬化を行う場合、フォトクロミック膜の材料によってはその膜厚を10μm以上、30〜50μm程度と比較的厚く成膜するときは、レンズ周辺部において膜が硬化しないまま工程が終了してしまうという問題が発生する恐れがある。
【0007】
そこでレンズ周辺部に十分な光照射を行うために、光の照射強度そのものを上げるということも考えられる。しかしながらこの場合は、レンズ中央部に必要以上のエネルギーを照射してしまうこととなる。したがってレンズ中央部と周辺部で硬化膜の性能が異なってしまう可能性があり、製品としての条件を満たすことが難しいという問題がある。
【0008】
上述の課題に鑑みて、本発明は、このようなレンズ基板の形状の違いによる照射条件の差を抑えることが可能なレンズ用光照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑みて、本発明によるレンズ用光照射装置は、光源と、この光源に対向して配置され、レンズ基板を載置するレンズ載置台と、光源とレンズ載置台の間に配置され、光源から出射される光のうち、レンズ載置台に載置されたレンズ基板の周辺部に到達する光量を、レンズ基板の中央部に到達する光量より大とする透過光量調整部と、を備える構成とする。
【0010】
このように、本発明のレンズ用光照射装置は、光源とレンズ載置台との間に、レンズ基板に照射する光量をレンズの中央部より周辺部に対し大きくなるよう、いわば部分的に透過光量を調節する透過光量調整部を設けるものである。このため、例えば比較的曲率半径の小さいレンズに対して光照射を行う場合においても、レンズの周辺部に照射する光量を中央部と比べて大きくするので、照射光量の差を少なくすることができる。
【0011】
なお、本発明のレンズ用光照射装置に用いる光源としては、可視光域のみならず紫外線等の他の波長帯域の光を出射する光源も含み、光源の種類としては、レンズの製造過程や検査過程等において照射される種々の光を出射するものを含む。
【0012】
また、本発明においてレンズ基板の中央部とは、レンズ基板の厚み方向の中央部ではなく、平面円形の場合はその中心近傍を指し、光照射側表面の光軸近傍の領域を意味する。またレンズ基板の周辺部とは、レンズ基板の光照射側表面の外周側の領域を示す。
【0013】
更に、本発明のレンズ用光照射装置において、透過光量調整部としては、光透過性基板に部分的に透過光量を低減する加工が施された加工部が形成されて成り、この加工部が、その中央部から外側にかけて、透過光量が段階的に、又は徐々に大となるように、反射率及び透過率が調整されて成る構成とすることが好ましい。
【0014】
このように光透過性基板に部分的に透過光量を調整する加工、例えば透過光量を低減する加工が施された加工部を有する透過光量調整部を用いることで、この透過光量調整部を光源とレンズ載置台との間に配置するのみで、容易にレンズ基板への部分的な透過光量の調節を行うことができる。またその透過光量の調節は、光透過性基板に透過光量を調節する加工を施すことで、その範囲や、透過光量の変化の度合い等について調整が容易となる。
【0015】
また、この透過光量調整部として用いる光透過性基板に形成する加工部は、粗面化加工又は研磨加工されて成ることが好ましい。粗面化加工としては、サンドブラスト法等各種ブラスト法、ドライエッチング法、ウェットエッチング法等が挙げられる。ブラスト法としては、サンドブラスト法の他、金属やガラス等の粒子を用いたブラスト法も利用可能である。吹き付ける粒子の材料により硬度の調整が可能であり、またその粒径や、吹き付ける圧力、処理時間等を適宜選定することによって、表面加工後の粗度の制御が可能である。したがって、処理後の加工部における透過率や反射率を容易に制御することができる。またドライエッチングやウェットエッチングによる場合もエッチング種の選定、エッチング条件や処理時間等を調整することで、容易に加工後の透過率や反射率を制御することができる。
【0016】
また、研磨加工する場合においても、砥粒の粒径や硬度、また砥粒が固定された研磨布紙や研磨シートを用いる場合はその粒度を目的とする粗度に合わせて選定すると共に、加工時の条件や処理時間を適宜選定することによって、同様に加工後の透過率や反射率を容易に制御することが可能である。
【0017】
更に、本発明のレンズ用光照射装置において透過光量調整部として、レンズ基板の中央部に向かう光の少なくとも一部を遮光する遮光部を用いてもよい。このような遮光部としては金属、セラミック、或いは非光透過性の樹脂等より成る平面円形等の遮光板を好ましく用いることができる。部材の選定が容易であり、光源からレンズ基板までの間の配置位置や、平面形状・大きさを適宜選定することで、効果的にレンズ基板表面に到達する光量を調節することが可能である。
【0018】
また、遮光部としては、遮光性の基板に複数の孔部が貫通されて、これら孔部の面積又は密度の少なくともいずれかが変化することでいわゆる開口率が調整されて、透過光量の調節がなされる構成としてもよい。このような遮光部としては、金属等より成る薄板に円形等の孔部を多数貫通形成して成るいわゆるパンチングメタル等を好ましく用いることができる。
【0019】
更に、この透過光量調整部として用いる光透過性基板に形成する加工部は、レンズ基板の中央部に向かうほど透過率が低くなるような膜を形成してもよい。レンズ基板の中央部から膜の厚さを連続的に薄くなるように変えたり、レンズ基板の中央部から外周に向けて徐々に開口部の面積の比率が大きくなるように、膜に平面円形状や多角形状、或いはランダムな形状等の孔部を設けたりすることで、入射光量を制御することができる。このような膜を形成するコーティング組成物としては、クロムやアルミなど反射性能を持つ金属を含んだものが好ましく用いることができる。
【0020】
また、このような膜は成膜方法にも特に限定は無く、蒸着法、浸漬法、スピーンコート法などを用いることができるが、膜厚を制御しながら成膜するという観点から蒸着法を好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のレンズ用光照射装置によれば、レンズ基板に対して到達する光量を部分的に調整することによって、レンズ基板の形状の違いによる照射条件の差を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るレンズ用光照射装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るレンズ用光照射装置の透過光量調整部の一例の平面構成図である。
【図3】線状の光源を用いる場合のレンズ基板上での照度分布についての説明図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るレンズ用光照射装置に用いる透過光量調整部の第1の変形例を示す平面構成図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るレンズ用光照射装置に用いる透過光量調整部の第2の変形例を示す図であり、Aはその平面構成図、Bはその側面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るレンズ用光照射装置に用いる透過光量調整部の第3の変形例を示す平面構成図である。
【図7】A〜Cは図5に示す透過光量調整部の各加工部の側面構成図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るレンズ用光照射装置の概略構成図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るレンズ用光照射装置の透過光量調整部として用いる遮光部の一例を示す図であり、Aはその平面構成図、Bはその側面図である。
【図10】遮光部の位置及び径に対するレンズの各位置における相対照度を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係るレンズ用光照射装置の透過光量調整部として用いる遮光部の変形例の平面構成図である。
【図12】A〜Cは図10に示す遮光部の各部の平面構成図である。
【図13】曲率半径の小さいレンズに対して光照射を行う場合の模式的説明図である。
【図14】レンズの曲率(ベースカーブ)に対するレンズ上の各位置における照射光の光路長を示す図である。
【図15】レンズの曲率(ベースカーブ)に対するレンズ上の各位置における透過率(波長405nm)を示す図である。
【図16】光照射前後におけるフォトクロミック膜の厚さに対する透過率(波長405nm)を示す図である。
【図17】フォトクロミック膜に照射する光の積算光量に対するビッカース硬度を示す図である。
【図18】フォトクロミック膜に照射する光の積算光量に対する色変化時間を示す図である。
【図19】フォトクロミック膜に照射する光の積算光量に対する密着性の照度依存と時間依存とを比較して示す図である。
【図20】図18に示す各値の照射条件を示す図である。
【図21】レンズ凸面側におけるフォトクロミック膜に照射する光の積算光量に対する色変化時間の照度依存と時間依存とを比較して示す図である。
【図22】レンズ凹面側におけるフォトクロミック膜に照射する光の積算光量に対する色変化時間の照度依存と時間依存とを比較して示す図である。
【図23】フォトクロミック膜に照射する光の積算光量に対する色差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下実施の形態とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(透過光量調整部として光透過性基板に粗面化又は研磨による加工部を設ける例)
(1−1)装置構成例
(1−2)透過光量調整部の変形例
2.第2の実施の形態(透過光量調整部として遮光部を設ける例)
(2−1)装置構成例
(2−2)遮光部の変形例
3.光重合性フォトクロミック膜硬化処理への適用例
(3−1)実施例及び比較例
【0024】
1.第1の実施の形態(透過光量調整部として光透過性基板に粗面化又は研磨による加工部を設ける例)
(1−1)装置構成例
図1は、本発明の一実施形態としての、眼鏡レンズ等の塗膜硬化用に用いるレンズ用光照射装置100の概略構成図である。図1に示すように、このレンズ用光照射装置100は、例えば中心波長405nmの波長帯域の紫外光を出射する光源11を備える光源部10とレンズ載置台25を有するレンズ容器20とを備え、レンズ容器20の上部に光透過性基板より成る透過光量調整部21が配置される。レンズ容器20と光源部10との間には、光源11からレンズ載置台25に載置保持するレンズ基板30に至る光路上を密閉する筐体26が配置され、この筐体26により、外部から塵埃等の混入を阻止する構成とすることが好ましい。
【0025】
光源部10に設ける光源11としては種類を問わず、ハロゲンランプや紫外線ランプ等、目的に合わせて種々の光源を用い得る。光源部10や筐体26には、図示しないが例えば内部を低圧に保持するための排気管や、例えば光源11の過熱を抑える目的で冷却ガス導入用等の配管が接続されていてもよい。
【0026】
レンズ容器20と透過光量調整部21との接続部や、透過光量調整部21と筐体26との接続部は、適切な密封性が得られる構造であればよく、その接続態様は問わない。例えば透過光量調整部21としてガラス板や樹脂基板等を用いる場合、レンズ容器20と接続する部分の表面を鏡面状とし、レンズ容器20の端部にOリング等のシール材を配置して透過光量調整部21の表面に密着させることによって密閉する構造としてもよい。また筐体26との接続部においても同様である。筐体26及びレンズ容器20を個別に設ける場合、レンズ基板30の交換の際に透過光量調整部21も取り外し可能となり、レンズ基板30の曲率や塗膜の材料、膜厚等に合わせて透過光量調整部21を交換、又は取り外すことができる。
【0027】
また、透過光量調整部21の配置位置はレンズ容器20や筐体26の内部に保持する構成としてもよく、この場合も透過光量調整部21を取り外し可能な状態で保持することが好ましい。更に、レンズ容器20と筐体26とを一体化してもよく、この場合はレンズ載置台25の上部に透過光量調整部21を取り外し可能に保持する構成としてもよい。
【0028】
またレンズ容器20と、筐体26及び光源部10とはそれぞれ相対的に移動可能な構成であってもよく、例えばレンズ塗膜装置と光照射装置とを一体化した本出願人の出願による特開2005−246465号公報に記載されたコーティング装置における各種の駆動機構を備えていてもよい。図1に示す例では1つのレンズ容器20に1つのレンズ基板30を載置した例を示すが、上記公報に記載されている装置のように、レンズ容器20を並置して2つのレンズ基板30に対して一度に光照射を行う構造としてもよい。更に、レンズ載置台25上のレンズ基板30の保持態様は単にレンズ基板30を載置するのみでもよく、或いはレンズ基板30を固定保持し、光照射時にレンズ基板30を回転させる機構を備えていてもよい。また、レンズ基板30をレンズ容器20からコーティング装置等の外部の処理装置に移動可能とする移動機構を設けるなど、その他種々の機構部を付加してもよい。
【0029】
図2は、透過光量調整部21の一例の平面構成図である。図2に示すように、ガラス又は光透過性樹脂等より成る透過光量調整部21aの所定の位置、例えば中央に、平面円形状の加工部21bが設けられる。この加工部21bは、上述したようにサンドブラスト法等の各種ブラスト法、ドライエッチング法、ウェットエッチング法等により形成可能である。ブラスト法による場合、吹き付ける粒子の材料(硬度)や粒径、吹き付け圧力、処理時間等を適宜選定して加工後の表面粗度を制御する。またドライエッチングやウェットエッチングによる場合もエッチング種、エッチング条件や処理時間等により表面粗度を調整する。このように表面粗度を調整することにより、加工部における透過率や反射率を変化させ、部分的に所望の透過光量が得られる構成とすることができる。
【0030】
なお、加工部21bは、その中央部から外側に向かって徐々に、又は段階的に透過光量が大きくなるようにその表面粗度を設定する。具体的にはサンドブラスト等のブラスト法によって表面処理をする際に、対象とするレンズ基板の大きさに合わせて、円形状やリング状のマスクを用いて、異なる条件でブラスト処理を行う。例えば中央部では処理後の表面粗度が最大となるように粒子の大きさ、圧力、処理時間の少なくともいずれかを比較的大とする。そしてレンズ中央部から外側の周辺部に向かうにつれて、粒子の大きさ、圧力、処理時間の少なくともいずれかを小さくし、処理後の表面粗度が徐々に、或いは段階的に小さくなるようにする。これにより、中央部から外側にかけて徐々に、或いは段階的に透過率が大となる領域が形成される。
【0031】
また、加工部21bは研磨により形成することも可能である。この場合は、砥粒の種類や研磨布紙、研磨シートの粒度、更に研磨圧力及び研磨時間を調整することで、同様に処理後の表面粗度をレンズ中央部から外側に徐々に小さくするように加工することができる。
【0032】
加工部21bの分布や形状は、照射するレンズ基板30の形状や塗膜の厚さ等の条件により適宜選定すればよい。また加工部21bはレンズ基板30の外径以上の領域に形成する必要はなく、加工部21bの直径をレンズ基板30の直径より小さくし、レンズ基板30の周辺部の直上では加工部21bが設けられない構成としてもよい。
【0033】
このように、透過光量調整部21aの表面に中央部から外側に向かって徐々に、又は段階的に透過率が大きくなる加工部21bを形成し、この透過光量調整部21aを介して光源11からレンズ載置台25上のレンズ基板30に紫外線等の光を照射することで、レンズ基板30の中央部と周辺部とにおいて基板に到達する光量の差を小さくし、照射条件を調整することが可能となる。
【0034】
このように加工部の粗面化をサンドブラストによって行う場合、そのメッシュ番号を変えて異なる表面粗度の加工部を形成し、照度130mW/cmの条件で、表面粗度の異なる加工部透過後の照度を測定したところ、メッシュ番号に対して透過後の照度は比例関係があり、このようにサンドブラスト時の粒度を変えて加工部を形成することで照射光量を調整できることを確認した。
【0035】
このような透過光量調整部21を用いて光量を調整する様子を、図1において光量の大小を太さで模式的に示す矢印L1〜L2、L10〜L12により説明する。図1中光量L0〜L2は光源11から透過光量調整部21まで、光量L10〜L12は透過光量調整部21を通過後における光量を模式的に示している。例えば光源11が直管型ランプ等の長手状とされる場合、長手方向の中央部での光量L0が、両端部の光量L1及びL2に比べやや大きくなる。光が透過光量調整部21を通過すると、レンズ基板30の中央部に照射される光量L10は比較的小さくなり、レンズ基板30の周辺部に照射される光量L11,L12はそれぞれ略光量L1,L2に等しい。このため、曲率半径が比較的小さいレンズにおいて例えば塗膜を比較的厚くする場合においても、レンズ基板30の中央部と周辺部とにおける照射光量を調整し、照射条件の差を抑えることが可能となる。なお、フォトクロミック膜に対し光重合を行う場合の照射条件の適用例については後述する。
【0036】
(1−2)透過光量調整部の変形例
次に、透過光量調整部の変形例について図3〜図6を参照して説明する。図3は、図1に示す光源11として、直管型ランプ等の線状の光源を用いる場合の、光源11側から見たレンズ基板30の位置関係を示す説明図である。このように線状の光源11を用いる場合、その長手方向と、これとは直交する方向で強度分布が異なる。このため、レンズ基板30上では、中央部のP0と、周辺部の点P1〜P4とにおいて光量が異なるだけでなく、周辺部においても光源11の直下に位置する点P1及びP3よりも、光源11の直下から外れた位置となる点P2及びP4とでの光量が小さくなり、照射光量にばらつきが生じることとなる。
【0037】
このような照度の差を解消するための一手法として、例えば図1に示すレンズ用光照射装置100のレンズ載置台25に、回転機構を設けることが考えられる。しかしながらレンズ基板30を回転させてもなお光量の差が生じて、光照射によって例えば塗膜硬化の条件が異なってしまう場合には、この光量のばらつきを抑えるパターンの透過光量調整部を用いることが好ましい。
【0038】
図4は、このような場合に好ましく利用可能な第1の変形例として示す透過光量調整部22の平面構成図である。この場合、ガラス基板や光透過性樹脂等より成る光透過性基板22aに、円形パターンの両端が一方向に延長したパターンで、内側から外側にかけて徐々に透過率が小から大へ変化する加工部22bを設ける例である。加工部22bは、図2に示す例と同様に、粗面化加工や研磨加工、又はエッチング加工によって形成できる。加工部22bの外形は図4に示す例に限定されるものではなく、その他楕円状や菱形に近い形状等、利用する光源11の種類や、照射対象であるレンズ基板30の形状、大きさによって適宜形状を選択することが好ましい。またフォトクロミック膜等の光硬化性塗膜に照射する場合には、その材料における照度に対する硬化条件に応じて加工部22bの透過分布形状を選定することが好ましい。なお、各加工部22bの加工条件や表面粗度の分布等は図2に示す例と同様とし得るので説明を省略する。
【0039】
このような透過光量調整部22を用いることで、線状の光源11により曲率半径の比較的小さいレンズ基板30に照射する場合でも、レンズ基板に対しその中央部と周辺部とにおける照射条件を調整すると共に、周辺部のうち光源11の直下の位置と直下から外れた位置とにおける照射条件を調整し、レンズ基板30全面における照射光量の分布の均一化を図ることが可能となる。
【0040】
また、線状の光源11を用いる場合は、複数のレンズ基板30を光源11の長手方向に並置することで効率よく照射処理を行うことができる。この場合は、透過光量調整部22として、光透過性基板22a上に複数個の加工部22bを形成するとか、より横長のパターンの加工部を設けることで、同様にレンズ基板30上における照射条件を調整することが可能となる。
【0041】
図5は、透過光量調整部23として、予め粗面化、研磨又はエッチング等によって所定の表面粗度に形成された磨りガラス(曇りガラス)を、直径の異なる円形状に加工した加工部23a〜23cを重ねて用いる例で、図5Aは上側から見た平面図、図5Bは側面図である。各加工部23a〜23cはそれぞれ加工部23aの直径をφA1、加工部23bの直径をφB2、加工部23cの直径をφC3とすると、φA1>φB2>φC3とする。この場合、図示しないが加工部を設けない光透過性基板を別途用意して、その上に加工部23a、23b、23cをこの順に載置して用いる。図1に示すレンズ用光照射装置100において用いる場合、光源11とレンズ基板30との間に、透過光量調整部21に換えてこれら加工部23a〜23cを載置した光透過性基板を配置すればよい。一例として大きさの数値を挙げると、例えばレンズ基板30の直径が65〜75mmの場合、加工部23aの直径を60mm、加工部23bの直径を40mm、加工部23cの直径を20mmとし得る。また、各加工部23a〜23cの表面粗度は加工部23aから加工部23cにかけて徐々に大としてもよく、同一としてもよい。このように加工部23a〜23cを重ねることで、レンズ基板の中央部への透過光量に対して周辺部への透過光量を大とし、曲率半径の小さいレンズ基板に光照射を行う場合においても、照射条件を中央部と周辺部とで調整することが可能となる。
【0042】
図6は、透過光量調整部24として、同様に表面が粗面化されたリング状で径の異なる加工部24a及び24bと、円形の加工部24cとを組み合わせて用いる例である。図7A〜Cはそれぞれ加工部24a、24b及び24cの平面図を示す。加工部24aの外径をφa1、内径をφa2、加工部24bの外径をφb1、内径をφb2、加工部24cの直径をφcとすると、φa1>φa2≒φb1、φb1>φb2≒φcとする。そして加工部24cを加工部24b内に、また加工部24bを加工部24a内に組み込んだ状態で透過光量調整部24として用いることができる。またこの場合も光透過性基板(図示せず)上にこの透過光量調整部24を載置し、図1に示す透過光量調整部21に換えて光源11とレンズ基板30との間に配置し、光照射を行うことで、同様にレンズ基板の中央部よりも周辺部に到達する光の光量を大とすることができる。したがって、比較的曲率半径の小さいレンズ基板に対して中央部と周辺部とにおける照射条件を調整して、照射光量の分布の均一化を図ることが可能である。
【0043】
なお、図2、図4〜7に示す例では、加工部21bや22b、透過光量調整部23a〜23c、24a〜24cを、光透過性基板上21a(22a)に1箇所設ける例を示すが、これに限定されるものではなく、上述したように例えば直管型ランプなどの線状の光源11を用いる場合などにおいて、レンズ基板30を複数配置して同時に光照射を行う構成とする場合は、これらの加工部21b、・・・等を複数箇所設けてもよい。
【0044】
また、図4〜7に示す例では、加工部22b、透過光量調整部23a〜23c、24a〜24cにおいて、透過率の異なる領域(光が透過後に透過光量の異なる領域)として3種とする例を示しているが、これに限定されるものではない。透過率の異なる領域は1種以上でよく、2種以上とすることが好ましい。
【0045】
2.第2の実施の形態(透過光量調整部として遮光部を設ける例)
(2−1)装置構成例
次に、本発明の第2の実施の形態に係るレンズ用光照射装置として、透過光量調整部に遮光部を設ける例を図8を参照して説明する。図8はこの遮光部を含む透過光量調整部62を備えるレンズ用光照射装置200の概略構成図である。このレンズ用光照射装置200は、図1に示す例と同様に、眼鏡レンズ等の塗膜硬化用に好適に用いられる構成であり、光源51を備える光源部50と、レンズ載置台65を含むレンズ容器60、光源部50とレンズ容器60との間の筐体66、更に筐体66とレンズ容器60との間に光透過性基板61とを備える。光源部50、光源51、レンズ容器60、レンズ載置台65、筐体66、光透過性基板61(図1に示す例における透過光量調整部21の光透過性基板21aに対応)は、図1に示す例と同様の構成(形状、配置、接続態様)とし得るので説明を省略する。また、他の処理装置への移動機構やレンズ載置台65の回転機構等、図示しない駆動機構を付加することが可能であることも図1に示す例と同様である。
【0046】
そしてこのレンズ用光照射装置200には、光源51とレンズ載置台65上に載置したレンズ基板30との間に、遮光部より成る透過光量調整部62を配置する。透過光量調整部62の配置位置は、図8に示すように光源51とレンズ基板30との間に配置してもよく、破線S1で示すように光透過性基板61の直上や、破線S2で示すように光源51の直下に配置してもよい。いずれの場合も、レンズ載置台65に載置するレンズ基板30の中央部(光軸)に対応する位置に透過光量調整部62の遮光部の中央位置(平面円形とする場合はその中心位置)を合わせて配置する。
【0047】
図9Aは、この透過光量調整部62として設ける遮光部63の一例の平面図、図9Bはその側面図である。遮光部63の材料としては遮光機能をもち、紫外線等の光照射に対し変形、劣化しない材料であればよく、例えば鋼、ステンレス、アルミニウム等の金属薄板を用いることができる。または、使用する光の波長帯域で透過率の調整が可能な材料であれば樹脂や無機材料等より構成することも可能である。また遮光部63の大きさは、レンズ基板30の大きさや、レンズ基板30からの距離、また光源51からの距離により適宜選定すればよい。数値を例示すると、レンズ基板30の直径が65〜75mmであり、遮光部63の配置位置を光源51とレンズ基板30との中間位置に配置する場合、例えば直径φAを20〜60mm程度まで10mmずつ変化させた遮光部63を用意することで、レンズ基板30の曲率半径や塗膜の厚さに応じて適宜透過光量の調整が可能である。
【0048】
図8に透過光量を調整する様子を示す。図8においては、光量を矢印L20a、L20b、L21、L22、L30〜32の太さにより模式的に示す。光源51が長手状の場合、その両端からの光量L21及びL22はほぼ均一であり、中央部の光は遮光部より成る透過光量調整部62により遮光されるが、周囲からの光が回折等によって周り込み、レンズ基板30の中央部へ向かう。これにより、レンズ基板30の周辺部では比較的大きい光量光L31及びL32が照射され、中央部ではやや小さい光量L30が照射される。レンズ基板30の曲率半径が小さい場合でも、中央部と周辺部における照射条件を調整して、照射光量の分布の均一化を図ることができる。
【0049】
一例として、直径の異なる遮光部を用意し、レンズ基板上の各位置において相対照度が変化する様子を測定した。この結果を図10に示す。図10において、記号◆はφ40mmの遮光版を光源であるUVランプ(波長405nm)の直下に配置した場合、記号■はφ20mmの遮光部をレンズ基板直上に配置した場合、記号▲は遮光部を設けない場合を示す。遮光部の直径、配置位置によって大きく照射強度の分布が変化することが分かり、つまり遮光部の直径と配置位置を調整することで、レンズ基板中央部と周辺部への照射条件を調整することが可能であるといえる。
【0050】
(2−2)遮光部の変形例
次に、図11を参照して透過光量調整部として用いる遮光部の変形例について説明する。この例では、遮光性の金属板に多数の円形等の孔部が形成されたいわゆるパンチングメタルより成る遮光部63を透過光量調整部として用いる場合を示す。遮光部64の材料としてはアルミニウム、ステンレス、鋼等の薄板を利用できる。そして図11にその平面図を示すように、2つのリング状の遮光部64a及び64b、円形の遮光部64cを組み合わせて1つの遮光部64として用いる。図12A〜Cにこれら各遮光部64a〜64cの平面図を示す。ここで各遮光部64a〜64cに設ける孔部の直径をそれぞれφA11、φB12、φC13、孔部の中心間距離をd1〜d3とすると、φA11>φB12>φC13、d1>d2>d3とする。孔部の面積や密度の数値例を示すと、遮光部64aの孔部直径をφA11=5mm、孔部間距離をd1=6mm、遮光部64bの孔部直径をφB12=3mm、孔部間距離をd2=4.5mm、遮光部64cの孔部直径をφC13=2mm、孔部間距離をd3=3.5mmとし、各孔部の配列方向は、60°を成す2方向とし、各方向に等間隔に配置する構成とすると、開孔率は遮光部64aが62.9%、遮光部64bが40.3%、遮光部64cが29.6%となる。そして、レンズ基板30の直径が65〜75mmである場合、遮光部64aの外径を60mm、遮光部64aの内径及び遮光部64bの外径を40mm、遮光部64cの外径を20mmとして組み合わせることで、透過光量が中央部から外側にかけて段階的に大となる透過光量調整部62として用いることができる。孔部の直径の大きさと孔部の中心間距離を組み合わせることで、様々な開孔率の遮光部を作製することができる。当然、孔部の直径が大きいほど開孔率は高くなり、同じ直径の孔部で比較した場合は孔部の中心間距離が短い方が開孔率は高くなることが分かる。このような遮光部より成る透過光量調整部62を1つ、又は複数用いることで、曲率半径の比較的小さいレンズ基板30に対しても、その中央部と周辺部とにおける照射条件を調整し、照射光量の分布の均一化を図ることが可能となる。
【0051】
3.光重合性フォトクロミック膜硬化処理への適用例
次に、上述した第1及び第2の実施の形態に係るレンズ用光照射装置100及び200を用いて、光重合性のフォトクロミック膜を硬化する例について照射条件を検討した結果を説明する。
【0052】
まず、光重合性フォトクロミック膜を形成する際のレンズ基板の周辺部における密着性不良等の不具合の原因として考えられる事項を検討した。この原因としては下記の5項目が挙げられる。
<1>曲率半径が小さいレンズ基板に光照射する場合、上部から照射される光は、レンズ基板中央部では反射せずに内部に入射されるが、周辺部では斜め入射となり、全反射臨界角を超えるカーブの領域では光を反射してしまう。
<2>周辺部は中央部に比べて光源からの距離が遠くなり、照度が相対的に弱くなる。
<3><2>と関連して、光源の直下から外れた位置での照度は、光源から遠くなるため相対的に弱くなる。
<4>フォトクロミック膜の膜厚は一定でも、曲率半径が小さいレンズ基板では、光の進行方向の厚さが中央部と周辺部とでは異なる。
<5>周辺部はレンズ基板にカーブがあるため斜め入射となり、レンズ表面面積に対して照射量が少なくなる。
【0053】
上記項目のうち<1>については、曲率半径が小さいレンズ基板の一例として、BC(ベースカーブ)13、屈折率1.53、レンズ径50mm、レンズ基板周辺部の傾斜角度(レンズ基板を水平な台に載置したときの、光軸に沿う断面における周辺部外周端の接線の水平面に対する傾斜角度を指す。以下この角度を「外周部角度」と呼ぶ。)が35.4°のレンズ基板について入射角度計算を行ったところ、照度低下量は10%以内であることがわかった。したがって、周辺部において斜め入射となることによる影響度は少ないと考えられる。
【0054】
また、上記項目のうち<2>について、レンズ基板の周辺部において光源からの距離が中央部よりも長くなることの対策として、全体の照度を10%上げて照射してアクリル系のフォトクロミック膜を用いて重合を行った。しかしながら周辺部の密着性について十分な改善はできなかった。照度をこれ以上大きくするとフォトクロミック膜の重合後の特性に影響があるため、光源の照度を一律に上げる方法では、周辺部の密着性低下の問題は改善できないといえる。
【0055】
このため、上記項目の<2>〜<5>に挙げた照度の差と光路長の違いによる問題を改善する手法として、透過光量を部分的に調整する方法が有効であることを確認した。本発明によるレンズ用光照射装置は、この透過光量を部分的に調整する方法を実現するものである。まず、レンズ基板の中央部と周辺部との光路長の違いについて、その様子を模式的に示す図13を参照して説明する。
【0056】
図13は、凸状曲面を有するプラスチック等のレンズ基板300上に、均一な膜厚で光重合性のフォトクロミックコーティングより成る硬化膜301が形成されている場合の中央部と周辺部の断面図である。光源から出射される光が中央部で矢印L40で示すように、また周辺部で矢印L41で示すように同一方向に照射されるとする。周辺部では、膜内の光の進行方向に沿って中央部と同じ膜厚t0分に加え、レンズ基板300までの距離の差分dが膜厚の差分として追加される。この膜厚の差分dは、レンズ基板300の曲率半径が小さく、またレンズ径が大きくなって外周部角度が大きくなるほど増加する。このため、レンズ基板300の中央部付近で最適な硬化条件にて照射を行うと、周辺部で未硬化部分が発生するものと考えられる。
【0057】
また、図13においては光源からの光が中央部と周辺部とで同一方向に入射するという前提であるが、光源の種類や位置、光源と硬化膜との距離によっては光が斜めに照射される。照射条件の対称性を考慮すると、中央部においてはレンズ基板300に対し垂直に(法線方向に)光が入射されることが好ましいが、この場合周辺部においては斜めに入射されることとなり、光の入射方向延長上での膜厚の差分は、図13に示す例よりも大きくなる。
【0058】
一例として、眼鏡用のレンズ基板(屈折率1.53、レンズ径70mm)におけるBCを変化させた場合の、レンズ基板に対し垂直に光が入射する場合のレンズ基板上の位置に対する硬化膜内の光路長を計算により求めた。この結果を図14に示す。この場合、レンズ基板の外周部角度は、BC=1で2.1°、BC=2で5.8°、BC=3で9.6°、BC=4で13.3°、BC=5で17.2°、BC=6で21.1°、BC=7で25.6°、BC=8で29.4°、BC=9で34.6°、BC=11で44.0°、BC=13で54.1°となる。レンズ基板がBC11の場合で中央部との差が15μmを超え、BC13の場合は25μmを超える光路長差が生じていることが分かる。
【0059】
この光路長差(すなわち膜厚の差)に対する透過率の変化について、一例としてアクリル系の光重合性フォトクロミック膜に対し波長405nmの光の透過率を計算により求めた。その結果を図15に示す。この結果から、周辺部における透過率はBC9で0.6%近く、BC11で0.5%未満、BC13で0.3%未満まで低下することが分かる。
【0060】
図16は、フォトクロミック膜の膜厚に対して、波長405nmの光の透過率を測定したものである。図16中記号○は0秒(すなわち照射前)、記号×は900s照射した時点での透過率を示す。この結果、照射時間900sが経過した後も、膜厚が厚くなる程透過率が減少する傾向は変わらず、膜厚に対して透過光量が減衰していることが分かる。
【0061】
次に、硬化処理後の密着性と色変化特性について検討した。この例においては、BC7、屈折率1.59、加入度数3.00の眼鏡用のプラスチックレンズ基板を用いて、フォトクロミック膜としてアクリル系の材料を用いた。
【0062】
図17は、積算光量に対するビッカース硬度の違いを示す図である。図17中において記号◆はレンズ基板の中央部、■はレンズ基板の周辺部における結果を示す。また、破線はビッカース硬度目標値のレベルを示し、このレベル以上の硬度が得られれば硬化処理後の密着性が安定となる。
【0063】
また、同様に積算光量に対する色変化時間の変化についても測定した。この結果を図18に示す。この例でも、記号◆はレンズ基板の中央部、■はレンズ基板の周辺部における結果を示す。硬化が十分である場合、フォトクロミック膜に光を照射した場合の色変化は900sでほぼ飽和するように設定される。このため、硬化の目安として、色の変化量100%に対して50%の色変化が認められた時間を、色変化時間の目安として測定した。破線は硬化が十分である膜における色変化50%となる基準時間のレベルを示す。この基準レベル以上の時間を超える場合は密着性が十分であると考えられる。
【0064】
これら図17及び図18の結果から、レンズ基板の周辺部において中央部と同様の硬度を得る条件は、約1.4倍の照度(積算光量)とする照射条件が必要であることが分かる。
【0065】
なお、積算光量を大きくするには、照度を増加するのみではなく時間を長くする方法が考えられる。しかしながら、本発明者等は、照射時間を長くしても効果が得られないことを確認した。図19は、照度と時間の条件を変え、積算光量を変化させて光重合を行ったフォトクロミック膜のレンズ基板外周部における密着性の度合いを測定したものである。レンズ基板及びフォトクロミック膜は、図17及び図18の測定において用いたものと同一とした。また密着性は、目標値を100として百分率にて示した。照度条件としては、波長405nmのUVランプ光源を用いて、その最大出力2.4kWに対して入力値を8段階のレベルとした場合の2,5,6,8レベルに変化することで、距離300mmの位置に配置したレンズ基板上での照度を132.2mW/cmから264.2mW/cmまで変化させた。時間については、照度を一定(132.2mW/cm)として照射時間を180sから270sまで3段階に変化させて測定した。なお、図19において、記号◆は照度依存、■は時間依存の条件での密着性の結果を示す。また、図19に示す各点の照射条件を図20に示す。図19の結果から、密着性については、同じ積算光量に対して時間より照度を上げる方が改善され、すなわち時間より照度依存性が高いことが分かる。
【0066】
更に、フォトクロミック膜の表面側とレンズ基板側とにおける硬度の違いについても確認した。レンズ基板及びフォトクロミック膜は図17及び図18において用いたものと同一とした。この例では、フォトクロミック膜内側の硬度の指標として、前述の図18で示す色変化時間を用いた。そして、レンズ基板の凸面側から光を照射した場合の色変化時間と、これとは反対側の凹面側から光を照射した場合の色変化時間を、それぞれ積算光量に対して照射依存と時間依存とについて調べた。この結果を図21及び図22に示す。図21においてはレンズ凸面側、図22においてはレンズ凹面側の結果であり、各図において記号◆は照度依存、●又は■は時間依存の結果を示す。これら図21及び図22の結果から、硬度についても、同じ積算光量に対して時間より照度を上げる方が改善され、時間より照度依存性が高いことが分かる。
【0067】
このように、密着性及び硬度の両方について照度依存性が高いことから、本発明のレンズ用光照射装置を用いて、部分的に照度を調整してレンズ基板中央部と外周部とにおける照射条件を均一化する方法が、フォトクロミック膜の膜質改善に有効であることが分かる。また、時間依存性が低いことから、照射時間の延長は不要であり、成膜工程にかかるタクトタイムを増加することなく、密着性改善を図ることができるといえる。
【0068】
ところで、フォトクロミック膜は一般に照度を上げることで、発色時の色差は増加傾向を示す。そこで積算光量を増加させた場合に、色差がどの程度変化するかを確認した。この結果を図23に示す。この例においては、アクリル系のフォトクロミック膜に対して波長405nmの光を照射した場合を示す。図23の結果から、照度を変えて積算光量を19000mJから36000mJ程度と2倍近くまで増加させても、発色時の色差ΔEabは1以内であることが分かった。1つのレンズ基板内の色差としては許容範囲となる結果が得られた。
【0069】
以上の結果から、一定の光照射条件においてもレンズ基板の中心部から周辺部にかけて、徐々にまたは段階的に照度を調整して照射することによって、色差やタクトタイムの増加を抑え、確実にフォトクロミック膜の密着性、硬度の改善を図ることができることが分かる。
【0070】
なお、上述したフォトクロミック膜の評価例においては、直管型のUVランプを光源として用いており、中央部と外周部における硬化条件の違いについては、光源の長手方向(図3における点P0と、点P1及びP2とにおける比較)の評価を行った結果である。光源が線状の場合、前述の<3>においても説明したように長手方向と、これとは直交する方向とでレンズ基板の周辺部同士の照射条件が異なる。この場合も、例えば図4に示す透過光量調整部22を用いるなどの手法により、周辺部における照射条件を調整することで照度の均一化を測り、同様に周辺部におけるフォトクロミック膜の密着性、硬度の改善を図ることが可能である。
【0071】
(3−2)実施例及び比較例
次に、曲率半径の異なる2種類の眼鏡用プラスチックレンズをレンズ基板として用意し、それぞれにフォトクロミック膜材料をコーティングし、光重合を行って密着性について確認した。レンズ基板材料は、屈折率1.53、BC13.00、φ65mm(曲率半径R=43.178mm、外周部角度約49°)の単焦点レンズ構成のレンズ基板1と、屈折率1.59、BC7.25、加入度数3.00、φ75mm(近用部における外周部角度約48°)の累進屈折力レンズ構成のレンズ基板2とを用意した。
【0072】
フォトクロミック膜のコーティング材料としては、アクリル系原料を用い、膜厚を40μmとして成膜した。
【0073】
コーティング装置及び光照射装置としては、本出願人の出願による特開2005−246265号公報に記載の装置を使用し、実施例においては、レンズ容器の上面に載置する光透過性基板に、透過光量調整部を設けて光照射を行った。光源は、波長405nmの紫外光を出射するUVランプを用いた。
【0074】
透過光量調整部としては、前述の図2に示す構成の加工部21bを光透過性基板21a上に2個形成したものを用いた。実施例1においては、パイレックス(登録商標)(コーニング社製)より成る光透過性基板22aに、中央部から外側にかけて、#400から、#800、#1000の粒度のサンドブラストによる粗面化を行って境目の無い状態で粗度の異なる加工部22b、22cを形成した透過光量調整部22を用いた。実施例2においては、同様の材料の光透過性基板22aに、#400、#800、#1000の粒度のサンドブラストによる粗面化をφ20、φ40、φ60の範囲で段階的に行って加工部22b、22cを形成した透過光量調整部22を用いた。比較例においては、光透過性基板を光源とレンズ基板との間に設置しない状態で照射を行った。
【0075】
これら実施例1、2及び比較例による試験を各レンズ基板1及び2に対してそれぞれ行ったところ、実施例1及び2によるレンズ基板1及び2では硬化後のフォトクロミック膜の剥がれは見られなかったが、比較例によるレンズ基板1及び2では、周辺部にフォトクロミック膜の剥離が見られた。
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、レンズ基板の中央と周辺部とにおいて、光照射の際の照度を調整することにより、フォトクロミック膜形成時のレンズ周辺部における密着性の問題を改善することができる。
【0077】
なお、本発明によるレンズ用光照射装置は、フォトクロミック膜に対する光重合の際にのみ適用されるものではなく、その他、レンズ基板の曲率半径が小さく、また光重合を行う膜の厚さが比較的厚い場合に好適に用いることができる。レンズ基板の曲率半径の目安としては、眼鏡レンズの場合レンズ径が70mmとするとBC9以上、好ましくはBC11以上の場合、外周部角度で示すと34°以上、好ましくは44°以上の場合に好適である。また、レンズ基板の中央部と周辺部との光路差が大きく、照射条件に影響するのは膜厚が比較的厚い場合であり、重合する膜の厚さが10μm以上である場合に、本発明を好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0078】
10,50.光源部、11、51.光源、21,22,23,62,63,64.透過光量調整部、21a,22a,61.光透過性基板、21b,22b,23a〜23c,24a〜24c.加工部、25,65.レンズ容器、26,66.筐体、30,300.レンズ基板、100,200.レンズ用光照射装置、301.フォトクロミック膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源に対向して配置され、レンズ基板を載置するレンズ載置台と、
前記光源と前記レンズ載置台の間に配置され、前記光源から出射される光のうち、前記レンズ載置台に載置されたレンズ基板の周辺部に到達する光量を、前記レンズ基板の中央部に到達する光量より大とする透過光量調整部と、を備える
レンズ用光照射装置。
【請求項2】
前記透過光量調整部は、光透過性基板に部分的に透過光量を調整する加工が施された加工部が形成されて成り、
前記加工部は、該加工部の中央部から外側にかけて、前記透過光量が段階的に、又は徐々に大となるように、反射率及び透過率が調整されて成る請求項1に記載のレンズ用光照射装置。
【請求項3】
前記加工部は、表面が粗面化加工又は研磨加工されて成る請求項2に記載のレンズ用光照射装置。
【請求項4】
前記透過光量調整部は、前記レンズ基板の中央部に向かう光の少なくとも一部を遮光する遮光部である請求項1に記載のレンズ用光照射装置。
【請求項5】
前記透過光量調整部は、遮光性の基板に複数の孔部が貫通されて、前記孔部の面積又は密度の少なくともいずれかが変化することで前記透過光量の調節がなされる請求項4に記載のレンズ用光照射装置。


【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−209408(P2011−209408A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75111(P2010−75111)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】