説明

レンズ移動枠

【課題】レンズ枠へのカムフォロワの取り付けに失敗しても、1つの部品も廃棄することなくやり直しできるズームレンズ用移動枠を提供する。
【解決手段】レンズ移動枠20の外周面20a上には、光軸を中心として6等分する6ヶ所に6個のカムフォロワ取付ボス31が形成される。6個のカムフォロワ取付ボス31のうち、光軸を中心として3等分する3ヶ所のカムフォロワ取付ボス31には取り付け穴32が設けられ、それぞれにカムフォロワ21が取り付けられる。残りの3個のカムフォロワ取付ボス31には予備の取り付け穴33が形成される。タッピングネジ24が取り付け穴32,33にネジ込まれたときにカムフォロワ21が光軸16に対して垂直に固定されるようにタッピングネジ24の圧着面24bが圧着される受け面34が取り付け穴32,33の周囲に形成され、受け面34の外側にリブ35が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ装置にカム筒によって移動可能に組込まれるレンズ移動枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラやプロジェクタに用いられるズームレンズ装置は、1本の中に複数のレンズ群が組込まれ、その相対位置を変化させて焦点距離を所望のズーム値に設定できるようになっている。それぞれのレンズ群は、少なくとも1枚のレンズとこのレンズを支持する円環状のレンズ枠とからなり、レンズ枠の外周には例えば3本のカムフォロワが設けられる。カムフォロワは、固定筒に設けられた直線カム溝と固定筒に対して相対回転するカム環に設けられた回転カム溝とに係合し、2つのカム溝の相対位置によって位置決めされ、それぞれのカム溝のカム面を摺動してレンズ枠を光軸方向に沿って移動させる。
【0003】
複数のレンズの組合せによるズームレンズ鏡胴は、カムフォロワのレンズ枠への取付精度あるいはレンズ枠間の寸法精度が非常に厳しく、取り付けた後で誤組み立てあるいは大きな誤差が発見された場合は、組み付けのし直しを余儀なくされることがある。しかし、組み付けのし直しは簡単ではなく、殆どの場合は、レンズ枠や筒部材などを新しく交換しなければならない。下記特許文献1には、前群レンズと後群レンズの間隔調整を行う構成として、後群レンズのレンズ枠に連結部材を設けるとともに後群レンズのレンズ枠と連結部材との間にスペーサを用い、スペーサを連結部材に接着して調整した間隔を固定する方法がしめされている。また、下記特許文献2には、カムフォロワの取付部をレンズ収納部と分離させたレンズ移動枠が記載されている。
【特許文献1】特開平10−319292号公報
【特許文献2】特開2006−023359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カムフォロワをレンズ枠に取り付けるときに僅かでも斜めに取り付けてしまうと、レンズ枠が傾いて鏡胴部に取り付けられてしまうので、そのレンズ枠を使用することはできない。斜めに取り付けられたカムフォロワをレンズ枠から外し、再度正しく取り付け直す必要があるが、カムフォロワはレンズ枠にタッピングネジ等を用いてネジ止めされるため、一度ネジ込んだ場所に再度ネジ込むとネジの下穴がバカになりカムフォロワがレンズ枠に正しく固定されない。あるいは正しく固定されたように見えても強固に固定されないので、使用すると直ぐにガタが生じて所定の光学精度を維持することができない。前記特許文献に示された方法のように、カムフォロワとレンズ枠の間に複数の部材を介した構成にして不具合となった部材を交換する方法は、構造が複雑であるのみならず、一度使用した部材を廃棄しなければならない。
【0005】
本発明は上記問題を解決するために、レンズ枠へのカムフォロワの取り付けに失敗しても、1つの部品も廃棄することなくやり直しできるズームレンズ用移動枠を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるレンズ移動枠は、レンズを保持するとともにカム筒に形成されたカム溝にそれぞれ係合する1以上のN個のカムフォロワが外周面に取り付けられ、前記カム筒の回転により光軸方向に移動されるレンズ移動枠において、前記3個のカムフォロワを前記外周面に取り付ける際に用いられるN個1組の取り付け穴が、外周方向にずらして2組以上設けられていることを特徴とする
【0007】
前記レンズ移動枠は、前記N個1組の取り付け穴が各組ごとにそれぞれ外周を等分割する位置に設けられる。前記カムフォロワは、前記レンズの光軸に対して垂直となるように前記取り付け穴に組み付けられる軸部材と、この軸部材に回転自在に支持され前記カム溝に係合するカムローラとから構成される。前記カム筒と同軸に設けられた固定筒に光軸と平行に延びたN本の直進ガイド溝が設けられ、前記直進ガイド溝に係合するガイドローラが前記軸部材のそれぞれに回転自在に支持される。前記軸部材は、前記取り付け穴をガイドとしてレンズ移動枠にねじ込まれるタッピングネジである。前記外周面に前記取り付け穴の周囲を囲むように光軸と平行な受け面が形成され、前記タッピングネジにはタッピングネジを前記取り付け穴に光軸と垂直にねじ込んだときに前記受け面に圧着する圧着面が形成されている。前記Nは3であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のレンズ移動枠は、レンズ枠に取り付けられる数のカムフォロワの整数倍の取り付け穴が設けられているので、1ヶ所のカムフォロワの取り付けに失敗しても、別の取り付け穴を使用すれば良く、省スペース、ローコストなズームレンズ用移動枠を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に示すように、ズームレンズ装置10は、フォーカシングを行う第1群レンズ11を備えた固定筒12と、固定筒12の内側に収められ図示しない駆動装置によって回転されるギヤー部13を備えたカム筒14によって構成される。第1群レンズ11が収められた第1レンズ枠15にはヘリコイドギヤー(図示せず)が形成され、固定筒12に形成されたヘリコイドギヤー(図示せず)と螺合し、第1レンズ枠15を回すことによってフォーカシングが行われる。固定筒12は、光軸16を中心として回転方向を3等分する3ヶ所に直進ガイド溝(以下、ガイド溝という。)17が形成される。カム筒14は、光軸16を中心として回転方向を3等分する3ヶ所に湾曲した回転カム溝(以下、カム溝という。)18が3本1組で設けられている。カム筒14の内側には、焦点距離の変倍を行う第2,3,4群レンズ(以下、変倍レンズと言う。)19(図3参照)を熱カシメによってそれぞれ保持するレンズ移動枠20が配置される。
【0010】
図2及び図3に示すように、レンズ移動枠20は、外周面20a上の光軸16を中心として3等分する3ヶ所に3個のカムフォロワ21が取り付けられる。カムフォロワ21は、前記ガイド溝17と係合するガイドローラ22と、前記カム溝18と係合するカムローラ23と、前記ガイドローラ22とカムローラ23を前記レンズ移動枠20に取り付けるタッピングネジ24とから構成され、前記タッピングネジ24は、ガイドローラ22とカムローラ23をレンズ移動枠20に回転自在に支持する軸部24aと、該軸部24aの圧着面24bに形成され前記外周面20aに設けられた取り付け穴32(図4参照)にネジ込まれるネジ部24cとを有する。
【0011】
図4に示すように、レンズ移動枠20は、前記変倍レンズ19を内包して保持するレンズスペース28を中央に有するとともに、外周面20a上を3等分する3ヶ所に3個のカムフォロワ取付ボス31が1組形成され、中央には前記タッピングネジ24のネジ部24cがネジ込まれる取り付け穴32が形成されている。前記取り付け穴32の周囲には、前記ネジ部24cが前記取り付け穴32にネジ込まれたときに前記軸部24aが前記光軸16と垂直となるように前記圧着面24bを固定する受け面34が形成され、受け面34の外側にリブ35が形成されている。前記取り付け穴32のそれぞれに前記軸部24aが前記光軸16と垂直となるように取り付けられることで、前記軸部24aに回転自在に支持される前記カムローラ23も光軸16と垂直に取り付けられ、前記レンズ移動枠20の円滑な移動が確保される。前記3個のカムフォロワ取付ボス31から同一の方向にそれぞれ60°回転した位置に予備の取り付け穴33を有するカムフォロワ取付ボス31が3個形成される。予備の取り付け穴33の中央には、受け面34が設けられている。
【0012】
図5に示すように、前記ズームレンズ装置10は、例えばプロジェクタ40に組込まれて用いられる。プロジェクタ40は、略直方体をした筐体41に、本発明によるレンズ移動枠20を採用したズームレンズ装置10、光源43、照明光学系44、全反射プリズム45及びデジタルマイクロミラーデバイス(以下、DMDという。)46が収容され、前記ズームレンズ装置10に設けられた前記カム筒14を回転させると前記カム溝18が前記カムフォロワ21を光軸16の方向に移動させ、ズームレンズ装置10の焦点距離が調節され、投写する画像の大きさを変えるようになっている。光源43から放射された光がカラーフィルタやインテグレータなどから構成された照明光学系44を透過して全反射プリズム45に入射し、DMD46に表示された画像をズームレンズ装置10によってスクリーン等に投映する。光源43には、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ等の高輝度放電ランプを用いるのが一般的である。上記構成における照明光学系44や全反射プリズム45、DMD46については周知技術であり説明は省略する。ズームレンズ装置10は前記筐体41の前板41aにネジによって前記固定筒12が固定され、前板41aと固定筒12との隙間は化粧リング47によって覆われる。
【0013】
次に、上記実施形態の作用について説明する。図1及び図3に示すように、前記ガイド溝17と前記カム溝18が重なったところに、レンズ移動枠20の外周面20a上に形成された3個の取り付け穴32の位置を合わせて、それぞれにカムフォロワ21を挿通させてカムフォロワ21を取り付け穴32が設けられたカムフォロワ取付ボス31に順に組み付ける。図4に示すように、前記軸部24aにガイドローラ22とカムローラ23を順に挿通させた後に前記ネジ部24cを前記取り付け穴32に挿し込んで、前記タッピングネジ24の圧着面24bが前記受け面34に圧着するまでネジ込む。これによって、前記タッピングネジ24は前記受け面34に垂直に取り付けられるので、光軸16に対しても垂直に取り付けられることになり、前記タッピングネジ24の軸部24aに回転自在に取り付けられた前記ガイドローラ22とカムローラ23も回転軸が光軸16に対して垂直になるように取り付けられ、前記ガイド溝17と前記カム溝18とにそれぞれ嵌合する。
【0014】
前記タッピングネジ24のネジ部24cを前記取り付け穴32にネジ込んで、前記タッピングネジ24の圧着面24bを前記受け面34に圧着させたとき、前記タッピングネジ24を前記受け面34に対して斜めに取り付けてしまった場合は、前記タッピングネジ24を逆回転させて、カムフォロワ21を前記レンズ移動枠20から取り外す。同じレンズ移動枠20に既に取り付けられたカムフォロワ21も全て取り外す。カムフォロワ21が取り外されたレンズ移動枠20を60°回転させて、予備の取り付け穴33を前記ガイド溝17と前記カム溝18が重なったところに合わせ、取り外した3個のカムフォロワ21を予備の取り付け穴33が設けられたカムフォロワ取付ボス31に取り付ける。レンズ移動枠20には前記変倍レンズ19が熱カシメされており、レンズ移動枠20を廃棄することは高価な変倍レンズ19をも廃棄することになるので無駄が多いが、そうした無駄なしに取り付けミスのフォローを行うことができる。
【0015】
前記実施形態は、レンズ移動枠20に取り付けられるカムフォロワ21を3個1組として説明したが、本発明は、3個1組に限るものではなく2個1組であっても4個1組であっても良い。またレンズ枠の外周を等間隔に分割する位置に設けた例で説明したが、必ずしも等間隔でなくても良い。
【0016】
前記実施形態は、レンズ移動枠20の外周面20a上に設けられた3個1組の取り付け穴32から同一の方向にそれぞれ60°回転した位置に予備の取り付け穴33が3個形成されるようにしたが、予備の取り付け穴33は、これに限るものではなく、取り付け穴32から同じ角度だけ回転移動した回転対称の位置に設けられるのであれば差し支えない。また、予備の取り付け穴33は、1組に限るものではなく2組でも良いし3組であっても良い。
【0017】
前記実施形態は、カムフォロワ21をガイドローラ22,カムローラ23とタッピングネジ24から構成したが、カムフォロワ21の構成はこれに限るものではなく、例えば、タッピングネジ24をネジ部材とスリーブから構成し、ネジ部材によってスリーブをレンズ移動枠に固定し、スリーブでガイドローラ22,カムローラ23を回転自在に支持するようにしても良い。あるいは、ガイドローラ22,カムローラ23のいずれか1つ又は両方を設けずに軸部24aを前記ガイド溝17、カム溝18に嵌合させる方法でも良い。また、タッピングネジ24の代わりにネジ部24cが圧入ピンとなった軸を用いる方法であっても良い。
【0018】
前記実施形態は、固定筒12に形成されたガイド溝17とカム筒14に形成されたカム溝18が重なったところに、カムフォロワ21を挿通させるようにしたが、レンズ移動枠20の直進ガイドと移動のためのカム溝とを別々に設けるようにしても良い。
【0019】
前記実施形態は、固定筒12の内側にカム筒14を配置したが、カム筒14が固定筒12の外側に配置された構成であっても本発明を採用することに問題はない。また、カム筒14を回転させる駆動装置は、前記筐体41に操作部材を設けて手動操作によってカム筒14を回転させるものでも、あるいはモータを内蔵させて電動機構によってカム筒14を回転させる構成のものでも良く、カム筒14を回転させることができれば、どのような方法であっても良い。
【0020】
前記実施形態は、本発明によるレンズ移動枠をズームレンズ装置の変倍レンズに採用した構成で説明したが、本発明は変倍レンズの移動枠に限るものではなく、フォーカスレンズ用の移動枠に採用しても差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明によるレンズ移動枠を備えたズームレンズ装置の概観図である。
【図2】カムフォロワを取り付けたレンズ移動枠の斜視図である。
【図3】図2の一部断面図である。
【図4】レンズ移動枠の斜視図である。
【図5】プロジェクタの斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
10 ズームレンズ装置
12 固定筒
14 カム筒
16 光軸
17 ガイド溝(直進ガイド溝)
18 カム溝(回転カム溝)
19 変倍レンズ(第2,3,4群レンズ)(請求項記載のレンズ)
20 レンズ移動枠
20a 外周面
21 カムフォロワ
22 ガイドローラ
23 カムローラ
24 タッピングネジ(軸部材)
24a 軸部
24b 圧着面
24c ネジ部
31 カムフォロワ取付ボス
32 取り付け穴
33 予備の取り付け穴
34 受け面
40 プロジェクタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを保持するとともにカム筒に形成されたカム溝にそれぞれ係合する1以上のN個のカムフォロワが外周面に取り付けられ、前記カム筒の回転により光軸方向に移動されるレンズ移動枠において、
前記N個のカムフォロワを前記外周面に取り付ける際に用いられるN個1組の取り付け穴が、外周方向にずらして2組以上設けられていることを特徴とするレンズ移動枠。
【請求項2】
前記N個1組の取り付け穴が、各組ごとにそれぞれ外周を等分割する位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載のレンズ移動枠。
【請求項3】
前記カムフォロワが、前記レンズの光軸に対して垂直となるように前記取り付け穴に組み付けられる軸部材と、この軸部材に回転自在に支持され前記カム溝に係合するカムローラとからなることを特徴とする請求項1又は2記載のレンズ移動枠。
【請求項4】
前記カム筒と同軸に設けられる固定筒に光軸と平行に延びたN本の直進ガイド溝が設けられ、前記直進ガイド溝に係合するガイドローラが前記軸部材のそれぞれに回転自在に支持されることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のレンズ移動枠。
【請求項5】
前記Nが3であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のレンズ移動枠。
【請求項6】
前記軸部材が、前記取り付け穴をガイドとしてレンズ移動枠にねじ込まれるタッピングネジであることを特徴とする請求項3乃至5いずれかに記載のレンズ移動枠。
【請求項7】
前記外周面に前記取り付け穴の周囲を囲むように光軸と平行な受け面が形成され、前記タッピングネジには、タッピングネジを前記取り付け穴に光軸と垂直にねじ込んだときに前記受け面に圧着する圧着面が形成されていることを特徴とする請求項6記載のレンズ移動枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−113212(P2010−113212A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286599(P2008−286599)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】