説明

レンズ系の偏芯調整方法

【課題】偏芯量が区々の成形レンズを有効に使いながら、相対偏芯を極小にできるレンズ系の偏芯調整方法を得る。
【解決手段】レンズ枠に形成する第一、第二の挿入孔に積極的に既知の量と方向の偏心を与え、この第一、第二の挿入孔に挿入する第一、第二の円形レンズは、その偏芯量に従って、予めグループ分けし、レンズ枠の第一挿入孔と第二挿入孔の既知の偏心量と方向に応じて、第一円形レンズのグループの中から特定の偏芯量のレンズを選択し、その偏芯の方向を定めて第一挿入孔に挿入し、第一挿入孔に挿入した第一円形レンズの偏芯量と方向に応じて、第二円形レンズのグループの中から特定の偏芯量のレンズを選択しかつその偏芯の方向を定めて第二挿入孔に挿入し、第一円形レンズとの相対偏芯を最小とするレンズ系の偏芯調整方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯電話に搭載するような小型カメラ用レンズ系の偏芯調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量産小型カメラのレンズには樹脂材料の成形レンズが一般に用いられている。成形レンズには、μmオーダの偏芯が発生することが避けられない。しかもその大きさはロット毎に同様の大きさとなることが多いが一定にはならない。レンズ枠に軸方向位置を異ならせて円形の第一挿入孔と第二挿入孔を形成し、これらの第一、第二の挿入孔に樹脂材料の成形品からなる第一、第二の円形レンズを挿入するレンズ支持構造では、第一、第二の円形レンズとして、偏芯量が同等のレンズを選択し、その偏芯位置を可及的に合致させることで、相対偏芯を小さくすることが行われてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、偏芯量が同等のレンズを選択することは、相手が見つからないレンズが多く生じることを意味し、歩留まりが悪い。また、レンズ枠の第一、第二の挿入孔にも偏芯が避けられないため、全体として高精度のレンズ系を得ることが困難であった。
【0004】
本発明は、偏芯量が区々の成形レンズを有効に使いながら、相対偏芯を極小にできるレンズ系の偏芯調整方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、レンズ枠に形成する第一、第二の挿入孔に積極的に既知の量と方向の偏心を与え、この第一、第二の挿入孔に挿入する第一、第二の円形レンズは、その偏芯量に従って、予めグループ分けし、これらレンズを特定のルールに従って選択して第一、第二の挿入孔内での位相を定めれば、より多くのレンズを使用できるとの着眼に至り、本発明に至ったものである。
【0006】
本発明は、レンズ枠に軸方向位置を異ならせて形成した円形の第一挿入孔と第二挿入孔;第一挿入孔に挿入する樹脂材料の成形品からなる第一円形レンズ;第二挿入孔に挿入する樹脂材料の成形品からなる第二円形レンズ;を備えたレンズ支持構造において、レンズ枠の第一挿入孔と第二挿入孔に予め既知の量と方向の偏心を与えるステップ;第一挿入孔に挿入する第一円形レンズ及び第二挿入孔に挿入する第二円形レンズをそれぞれ、その偏芯量に応じて予めグループ分けするステップ;レンズ枠の第一挿入孔と第二挿入孔の既知の偏心量と方向に応じて、第一円形レンズのグループの中から特定の偏芯量のレンズを選択し、その偏芯の方向を定めて第一挿入孔に挿入するステップ;第一挿入孔に挿入した第一円形レンズの偏芯量と方向に応じて、第二円形レンズのグループの中から特定の偏芯量のレンズを選択しかつその偏芯の方向を定めて第二挿入孔に挿入し、第一円形レンズとの相対偏芯を最小とするステップ;を有することを特徴としている。
【0007】
レンズ枠は、第一挿入孔と第二挿入孔の偏心量が異なる複数種類を用意することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の偏芯調整方法によれば、偏芯量の異なる多数の成形レンズを有効に使いながら、第一、第二のレンズの相対偏芯を最小にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1、図2は、本発明を携帯電話用カメラの合成樹脂の成形品からなるレンズ枠10と、このレンズ枠10に支持する樹脂材料の成形品からなる第一、第二の円形レンズL、Rに適用した実施形態を示している。レンズ枠10には、軸方向位置を異ならせて、円形の第一挿入孔11と第二挿入孔12が形成されている。この第一挿入孔11の中心11Xと第二挿入孔12の中心12Xは、図2に誇張して示すように、一致しておらず、上下方向に偏心X1が存在する(与えられている)。いま、この偏心X1の量を2μmとする。この偏心量は、レンズ枠10の成形の結果生じたものをグループ分けすることでも得られる。
【0010】
第一円形レンズLと第二円形レンズRはそれぞれ、成形終了後にそれぞれ(または成形ロット毎に)偏芯量が測定され、グループ分けされている。このグループ分けは、ここでは、第一円形レンズLについては、1μm偏芯レンズ(グループ)L-1、2μm偏芯レンズ(グループ)L-2、3μm偏芯レンズ(グループ)L-3、4μm偏芯レンズ(グループ)L-4、5μm偏芯レンズ(グループ)L-5の5つのグループとし、第二円形レンズRについては、1μm偏芯レンズ(グループ)R-1、2μm偏芯レンズ(グループ)R-2、3μm偏芯レンズ(グループ)R-3、4μm偏芯レンズ(グループ)R-4、5μm偏芯レンズ(グループ)R-5、6μm偏芯レンズ(グループ)R-6の6つのグループとする。レンズの偏芯(量)とは、外径中心に対する光学中心のずれ(量)である。
【0011】
図3は、成形の終了したレンズの収納トレイ20の一例を示している。トレイ20は、縦横に整列した円形収納凹部21を備えている。トレイ20は、第一円形レンズL、第二円形レンズRの偏芯量毎に用意されており、一つのトレイ20の各収納凹部21内には、偏芯量毎に区分けされたレンズL(R)(同一偏芯量のレンズ)が収納されている。また、レンズL(R)の周縁部には、成形用ゲートを除去した切欠部(直線部)xが存在している。本実施形態でいう第一円形レンズL、第二円形レンズRの「円形」は、このような切欠部(直線部)を有するレンズ(円形挿入孔に入れたとき、レンズの軸方向に対して垂直な方向の位置が決定される程度の円形レンズ)を含む概念である。
【0012】
図4は、第一挿入孔11に挿入する第一円形レンズLとして、1μm偏芯レンズL-1を選択した場合の第二円形レンズRの選択可能性を示している。1μm偏芯レンズL-1は、第一挿入孔11内において回転すると、その光学中心は点11Xを中心とする半径1μmの円L1の上を移動する。一方、第二挿入孔12に、1μm偏芯レンズR-1を挿入して回転させると、その光学中心は点12Xを中心とする半径1μmの円R1の上を移動する。よって、円L1とR1が交差する点L1-R1において、第一円形レンズLと第二円形レンズRの相対偏芯はなくなる(極小となる)。
【0013】
第二挿入孔12に、2μm偏芯レンズR-2を挿入して回転させると、その光学中心は点12Xを中心とする半径2μmの円R2の上を移動し、円L1とR2が交差する2つの点L1-R2において相対偏芯はなくなる。
【0014】
第二挿入孔12に3μm偏芯レンズR-3を挿入して回転させると、その光学中心は点12Xを中心とする半径3μmの円R3の上を移動し、円L1とR3が交差する点L1-R3において第一円形レンズLと第二円形レンズRの相対偏芯はなくなる。このように、図4の実施形態では、1種類の1μm偏芯レンズL-1に対して、3種類の1μm偏芯レンズR-1、2μm偏芯レンズR-2、3μm偏芯レンズR-3を組み合わせて相対偏芯をなくすことができる。
【0015】
図5(A)、(B)、(C)、(D)は、第一挿入孔11に挿入する第一円形レンズLとして、2μm偏芯レンズL-2、3μm偏芯レンズL-3、4μm偏芯レンズL-4及び5μm偏芯レンズL-5をそれぞれ選択した場合の第二円形レンズRの選択可能性を示している。L1、L2、L3、L4及びL5はそれぞれ、第一挿入孔11内で、これらのレンズL-2、L-3、L-4及びL-5を回転させたときその光学中心が描く円である。また、これらの図で、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7はそれぞれ、第二挿入孔12に1μm偏芯レンズR-1、2μm偏芯レンズR-2、3μm偏芯レンズR-3、4μm偏芯レンズR-4、5μm偏芯レンズR-5、6μm偏芯レンズR-6、及び7μm偏芯レンズR-7を挿入して回転させたときその光学中心が描く円である。これらの円の交点(黒丸)は、第一円形レンズLと第二の円形レンズRの相対偏芯がなくなる点である。
【0016】
これらの図から明らかなように、図5(A)の実施形態では、1種類の2μm偏芯レンズL-2に対して4種類の偏芯レンズR-1、R-2、R-3、R-4を組み合わせて相対偏芯をなくすことができる。同(B)の実施形態では、1種類の3μm偏芯レンズL-3に対して5種類の偏芯レンズR-1、R-2、R-3、R-4、R-5を組み合わせて相対偏芯をなくすことができる。同(C)の実施形態では、1種類の4μm偏芯レンズL-4に対して5種類の偏芯レンズR-2、R-3、R-4、R-5、R-6を組み合わせて相対偏芯をなくすことができる。同(D)の実施形態では、1種類の5μm偏芯レンズL-5に対して5種類の偏芯レンズR-3、R-4、R-5、R-6、R-7を組み合わせて相対偏芯をなくすことができる。
【0017】
以上の実施形態は、レンズ枠10の第一円形孔11の中心11Xと第二円形孔12の中心12Xとの偏心量が2μmの場合の実施形態であるが、この偏心量が異なるレンズ枠10を用意し、異なる偏芯量の第一、第二の円形レンズLとRを組み合わせて相対偏芯をなくすことができる。
【0018】
第一、第二の円形レンズLとRの第一、第二の円形孔11と12に対する回転位相は、両レンズを介して結像させる像の状態(光学収差)から定めることも可能であるが、実際には、レンズ枠10に第一、第二の円形孔11と12の偏心の量と方向を付し、第一、第二の円形レンズLとRに同様に偏芯の量と方向を付して、予め定めることができる。円形レンズの偏芯の方向は、例えば成形時のゲートを指標として付すことができる。
【0019】
以上の実施形態は、本発明を携帯電話用カメラのレンズ支持構造に適用したものであるが、本発明は他のレンズ系の支持構造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるレンズ系の偏芯調整方法の一実施形態を示す、レンズ枠の第一、第二の円形孔にそれぞれ第一、第二の円形レンズを挿入した状態を示す縦断面図である。
【図2】図1のレンズ枠の第一、第二の円形挿入孔の偏芯の様子を誇張して示す正面図である。
【図3】第一、第二の円形レンズの偏芯量に基づくグループ分けを説明する図である。
【図4】本発明によるレンズ系の偏芯調整方法の一実施形態の原理図である。
【図5】(A)、(B)、(C)、(D)は、異なる偏芯量のレンズを組み合わせた場合の偏芯調整方法の原理図である。
【符号の説明】
【0021】
10 レンズ枠
11 第一挿入孔
12 第二挿入孔
11X 12X 中心
L R 円形レンズ
L1〜L5 レンズの光学中心の描く円
R1〜R7 レンズの光学中心の描く円


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ枠に軸方向位置を異ならせて形成した円形の第一挿入孔と第二挿入孔;
第一挿入孔に挿入する樹脂材料の成形品からなる第一円形レンズ;
第二挿入孔に挿入する樹脂材料の成形品からなる第二円形レンズ;
を備えたレンズ支持構造において、
上記レンズ枠の第一挿入孔と第二挿入孔に予め既知の量と方向の偏心を与えるステップ;
第一挿入孔に挿入する第一円形レンズ及び第二挿入孔に挿入する第二円形レンズをそれぞれ、その偏芯量に応じて予めグループ分けするステップ;
上記レンズ枠の第一挿入孔と第二挿入孔の既知の偏心量と方向に応じて、第一円形レンズのグループの中から特定の偏芯量のレンズを選択し、その偏芯の方向を定めて第一挿入孔に挿入するステップ;
上記第一挿入孔に挿入した第一円形レンズの偏芯量と方向に応じて、第二円形レンズのグループの中から特定の偏芯量のレンズを選択しかつその偏芯の方向を定めて第二挿入孔に挿入し、第一円形レンズとの相対偏芯を最小とするステップ;
を有することを特徴とするレンズ系の偏芯調整方法。
【請求項2】
請求項1記載のレンズ系の偏芯調整方法において、レンズ枠は、第一挿入孔と第二挿入孔の偏心量が異なる複数種類が用意されているレンズ系の偏芯調整方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のレンズ系の偏芯調整方法によって偏芯調整したレンズ支持構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−58586(P2008−58586A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235248(P2006−235248)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】