説明

レンズ鏡筒および光学機器

【課題】カム溝の長さに対する制約を緩和する。
【解決手段】レンズ鏡筒であって、光学部材を保持する保持枠と、光学部材の光軸を回転中心として保持枠に対して相対回転する筒部材とを備え、保持枠および筒部材の一方が光軸を回転中心とした回転駆動力を受けた場合に、保持枠を筒部材に対して光軸の方向に相対移動させるレンズ鏡筒であって、保持枠および筒部材の一方は、光軸と平行な方向に沿って配された複数の係合部を有し、保持枠および筒部材の他方は、複数の係合部に係合する複数の係合溝を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒および光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
内部のレンズを移動して合焦する内焦式レンズ鏡筒がある(特許文献1参照)。
[特許文献1] 実開平02−036809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
レンズを駆動するカム溝の長さはカム溝を形成する筒部材の周長に制約される。よって、カム溝を長くするとカム溝の本数を削減しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第一態様として、光学部材を保持する保持枠と、光学部材の光軸を回転中心として保持枠に対して相対回転する筒部材とを備え、保持枠および筒部材の一方が光軸を回転中心とした回転駆動力を受けた場合に、保持枠を筒部材に対して光軸の方向に相対移動させるレンズ鏡筒であって、保持枠および筒部材の一方は、光軸と平行な方向に沿って配された複数の係合部を有し、保持枠および筒部材の他方は、複数の係合部に係合する複数の係合溝を有するレンズ鏡筒が提供される。
【0005】
本発明の第二態様として、上記レンズ鏡筒を備えた光学機器が提供される。
【0006】
上記発明の概要は、この発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】一眼レフカメラ100の模式的断面図である。
【図2】レンズ鏡筒200の断面図である。
【図3】内筒後部254の分解斜視図である。
【図4】内筒後部254に対する駆動系の分解斜視図である。
【図5】ズーム操作環208の分解斜視図である。
【図6】カム筒部材270の展開図である。
【図7】カム筒部材270の斜視図である。
【図8】内筒前部234の分解斜視図である。
【図9】カム環260の展開図である。
【図10】合焦操作環206の分解斜視図である。
【図11】固定筒202を取り付けた駆動部207の斜視図である。
【図12】駆動部207とカム筒部材270の位置関係を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。下記の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。下記の実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、光学機器の一種である一眼レフカメラ100の模式的断面図である。一眼レフカメラ100は、互いに結合されたレンズ鏡筒200およびカメラボディ300を備える。
【0010】
なお、説明を簡潔にする目的で、以降の説明においては、カメラボディ300に装着したレンズ鏡筒200に対して物体側を、一眼レフカメラ100の前側または先側と記載する。また、レンズ鏡筒200に対して物体から遠い側を、一眼レフカメラ100における後側または背面側と記載する。
【0011】
レンズ鏡筒200は、固定筒202と、固定筒202の内部に形成された光学系とを有する。固定筒202は、レンズ側マウント部204を後端に有し、カメラボディ300の前面に配されたボディ側マウント部360に結合される。
【0012】
レンズ側マウント部204およびボディ側マウント部360の結合は、予め定められた操作により解除できる。よって、カメラボディ300には、同じ規格のレンズ側マウント部204を有する他のレンズ鏡筒200を装着できる。
【0013】
固定筒202の内側には、物体側から順に光軸Xに沿って配された第一レンズ群210、第二レンズ群220、第三レンズ群230、第四レンズ群240および第五レンズ群250が光学系を形成する。第一レンズ群210、第二レンズ群220、第三レンズ群230、第四レンズ群240および第五レンズ群250は、それぞれ、個別のレンズ保持枠212、222、232、242、252に保持される。
【0014】
固定筒202の外側には、物体側から順に、ズーム操作環208、前カバー201、合焦操作環206および後カバー203が配される。前カバー201および後カバー203は、固定筒202に対して固定される。ズーム操作環208および合焦操作環206は、光軸Xを回転中心として、固定筒202に対して個別に回転させることができる。
【0015】
ズーム操作環208を回転させた場合は、第一レンズ群210、第二レンズ群220、第三レンズ群230、第四レンズ群240および第五レンズ群250が光軸X方向に移動して、レンズ鏡筒200の光学系が変倍する。合焦操作環206を回転させた場合は、第一レンズ群210、第二レンズ群220、第三レンズ群230、第四レンズ群240および第五レンズ群250の一部が光軸X方向に移動して、レンズ鏡筒200の光学系を合焦させることができる。
【0016】
カメラボディ300は、レンズ側マウント部204に結合されるボディ側マウント部360の後方にミラーユニット370を備える。ミラーユニット370には、レンズ鏡筒200を通じて像光が入射する。
【0017】
ミラーユニット370は、メインミラー371およびサブミラー374を有する。メインミラー371は、メインミラー回動軸373により軸支されたメインミラー保持枠372に支持される。
【0018】
サブミラー374は、サブミラー回動軸376によりメインミラー保持枠372から軸支されたサブミラー保持枠375に支持される。よって、サブミラー保持枠375は、メインミラー保持枠372に対して回動する。また、メインミラー保持枠372が回動した場合、サブミラー保持枠375もメインミラー保持枠372と共に変位する。
【0019】
メインミラー保持枠372の前端が降下した場合、メインミラー371は、レンズ鏡筒200から入射した入射光束を斜めに横切る観察位置に停止する。メインミラー保持枠372が上昇した場合、メインミラー371は略水平になり、入射光束を避けた撮影位置に停止する。
【0020】
カメラボディ300において、ミラーユニット370の上方にはピント板352が、ミラーユニット370の下方には合焦光学系380が、それぞれ配される。ピント板352の更に上方にはペンタプリズム354が配され、ペンタプリズム354の後方にはファインダ光学系356が配される。ファインダ光学系356の後端は、ファインダ350としてカメラボディ300の背面に露出する。
【0021】
メインミラー371が観察位置にある場合、レンズ鏡筒200を通じて入射した入射光束の多くはメインミラー371に反射されてピント板352に導かれる。ピント板352は、撮像素子330の撮像面と共役な位置に配されて、レンズ鏡筒200の光学系が形成した像を可視化する。ピント板352に形成された像は、ペンタプリズム354およびファインダ光学系356を通じてファインダ350から観察される。
【0022】
ペンタプリズム354を通してファインダ350から観察される像は、正立正像として観察される。これにより、一眼レフカメラ100のユーザは、一眼レフカメラ100による撮影範囲を決定できる。
【0023】
また、ピント板352二入射した入射光束の一部は、ファインダ光学系356の近傍に配された測光センサ390に入射する。測光センサ390は、受光した光束から被写体輝度を検出して制御部322に参照させる。これにより、制御部322は、撮影する場合の露出条件を算出する。
【0024】
更に、メインミラー371は、入射光束の一部を透過するハーフミラー領域を有する。よって、観察位置にあるメインミラー371に入射した入射光束の一部は、ハーフミラー領域を透過してサブミラー374に入射する。サブミラー374は、ハーフミラー領域から入射した入射光束の一部を、合焦光学系380に向かって反射する。
【0025】
合焦光学系380は、入射した入射光束の一部を焦点検出センサ382に導く。これにより、制御部322は、レンズ鏡筒200の光学系を合焦させる場合に移動するレンズの目標位置を決定する。
【0026】
カメラボディ300において、ミラーユニット370の後方には、シャッタユニット310、光学フィルタ332、撮像素子330、ボディ基板320および背面表示部340が順次配される。液晶表示板等により形成される背面表示部340は、カメラボディ300の背面に現れる。ボディ基板320には、制御部322、画像処理部324等の電子回路が実装される。
【0027】
上記のような一眼レフカメラ100においてレリーズボタンが半押しされると、焦点検出センサ382および測光センサ390が有効になり、被写体像を適切な撮影条件で撮影できる状態になる。次いで、レリーズボタンが全押しされると、メインミラー371およびサブミラー374が退避位置に移動して、シャッタユニット310が開く。これにより、レンズ鏡筒200から入射した入射光束は、光学フィルタ332を通過して、撮像素子330に撮影される。
【0028】
図2は、レンズ鏡筒200を単独で示す図である。図中、上半分は縮胴状態を、下半分は伸胴状態を示す。図1と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0029】
レンズ鏡筒200において、第一レンズ群210を保持するレンズ保持枠212は、外筒214から支持される。外筒214は、固定筒202に対して光軸Xと平行な方向に進退して、レンズ鏡筒200の全長を変化させる。
【0030】
なお、外筒214の外側には、外筒214に対して進退するカバー筒216が、外筒214と同軸に配される。カバー筒216は、後端付近の外周面にカムピン211を有する。カムピン211は、ズーム操作環208の回転により駆動され、外筒214に連れ従って、光軸X方向に進退する。
【0031】
これにより、外筒214が前方に移動した場合に固定筒202と外筒214との間に形成される間隙が、カバー筒216により覆われる。よって、固定筒202と外筒214の間隙から塵芥等がレンズ鏡筒200の内部に進入することが防止される。
【0032】
レンズ鏡筒200において、第二レンズ群220を保持するレンズ保持枠222は、一対のガイドバー224に支持される。また、一対のガイドバー224は、レンズ保持枠222を、光軸X方向に移動可能に支持する。
【0033】
第二レンズ群220を保持するレンズ保持枠222は、外周面から外側に突出するカムピン221を有する。カムピン221の先端は、固定筒202の外側に配されたカム環260のカム溝に係合する。よって、カム環260が光軸Xを回転中心として回転した場合、第二レンズ群220は、ガイドバー224に沿って光軸X方向に移動する。
【0034】
なお、一対のガイドバー224の後端は、内筒後部254の前端に形成されたガイドバー保持部253に保持される。一対のガイドバー224の前端は、内筒前部234の前端面に取り付けられたガイドバー保持部226により固定される。
【0035】
よって、第二レンズ群220を保持したレンズ保持枠222がガイドバー224に沿って移動する場合、第二レンズ群220は、内筒前部234に対して相対移動することになる。また、内筒前部234が固定筒202に対して光軸X方向に相対移動する場合、第二レンズ群220は、内筒前部234と共に、固定筒202に対して光軸X方向に相対移動する。
【0036】
レンズ鏡筒200において、第三レンズ群230を保持するレンズ保持枠232は、内筒後部254の前端付近に固定される。また、第五レンズ群250を保持するレンズ保持枠252は、同じ内筒後部254の後端付近に固定される。更に、内筒後部254は、一対のガイドバー244を内側に保持する。
【0037】
一対のガイドバー244の前端は、内筒後部254の前端に形成されたガイドバー保持部253にそれぞれ支持される。一対のガイドバー244の後端は、内筒後部254の後端面に取り付けられたガイドバー保持部256により固定される。
【0038】
更に、内筒後部254は、外周面に複数のカムピン231、233を有する。カムピン231、233は、固定筒202の内側に配されたカム筒部材270のカム溝と係合する。よって、カム筒部材270が駆動力を受けて光軸Xを回転中心として回転した場合には、カムピン231、233に駆動力が伝達され、内筒後部254は光軸Xと平行な方向に移動する。
【0039】
これにより、内筒後部254に支持された第三レンズ群230、一対のガイドバー244および第五レンズ群250も、内筒後部254と共に移動する。更に、内筒後部254と一体的に連結された内筒前部234も、内筒後部254と共に光軸X方向に移動する。このように、第三レンズ群230および第五レンズ群250は、内筒後部254により互いに連結されるので、第三レンズ群230および第五レンズ群250の間隔が変化することはない。
【0040】
なお、ズーム操作環208の内面には、固定筒202の内側まで延在する連動爪209が固定される。連動爪209は、ズーム操作環208が回転した場合に、ズーム操作環208と共に回転して、回転駆動力をカム筒部材270に伝達する。よって、ズーム操作環208が回転した場合は、カム筒部材270も回転する。
【0041】
また、カム筒部材270は、固定筒202の内側に配され、カムピン231、233と係合するカム溝の他に、周面から径方向外側に突出したカムピン271を有する。カムピン271の先端は、固定筒202に形成されたカム溝を貫通して、固定筒202の外側に配されたカム環260のカム溝に係合する。これにより、カム環260が光軸Xを回転中心として回転した場合、カム筒部材270自体も固定筒202に対して光軸X方向に進退する。
【0042】
レンズ鏡筒200において、第四レンズ群240を保持したレンズ保持枠242は、一対のガイドバー244により、光軸X方向に移動可能に支持される。よって、内筒後部254が光軸X方向に移動した場合は、第四レンズ群240も光軸X方向に移動する。また、レンズ保持枠242が駆動力を受けた場合、第四レンズ群240は、第三レンズ群230および第五レンズ群250に対して、ガイドバー244に沿って、光軸X方向に相対的に移動する。
【0043】
なお、レンズ鏡筒200において、第四レンズ群240は手振れ補正レンズを含む。手振れ補正レンズは、光軸Xに対して交差する方向に変位して、光学系の光軸Xのぶれを補償する。
【0044】
また、レンズ鏡筒200は、固定筒202に対して固定された駆動部207を有する。駆動部207は、レンズ鏡筒200がオートフォーカス動作を実行する場合に、合焦操作環206を回転駆動する。
【0045】
上記のようなレンズ鏡筒200において、合焦操作環206が操作された場合、または、カメラボディ300の制御部322の指示により駆動部207が動作した場合は、例えば第四レンズ群240が光軸X方向に移動して光学系を合焦させる。また、ズーム操作環208が操作された場合は、全てのレンズ群が光軸方向に移動して光学系の倍率を変化させる。
【0046】
図3は、内筒後部254の分解斜視図である。図1および図2と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0047】
内筒後部254は、全体として略円筒形をなし、前端近傍に内側に向かって突出して形成されたガイドバー保持部253を有する。内筒後部254の内部には、第三レンズ群230を保持したレンズ保持枠232と、第四レンズ群を保持したレンズ保持枠242と、一対のガイドバー244とが収容される。
【0048】
内筒後部254の後端は、ガイドバー保持部256により封止される。これにより、一対のガイドバー244は、内筒後部254の内側に、光軸Xと平行に固定される。一対のガイドバー244は、第四レンズ群240を保持するレンズ保持枠242に挿通される。これにより、レンズ保持枠242は、内筒後部254の内部に、光軸X方向に移動可能に支持される。
【0049】
また、ガイドバー保持部256の後面には、第五レンズ群250を保持したレンズ保持枠252が取り付けられる。これにより、第三レンズ群230を保持したレンズ保持枠232と、第五レンズ群250を保持したレンズ保持枠252とは、互いに一体的に連結される。
【0050】
内筒後部254の周面には、光軸X方向に配列された一対のカムピン231、233と、これらカムピン231、233とは、内筒後部254の周方向にずれた1本のカムピン235とを有する。周方向にずれたカムピン235は、一対のカムピン231、233と、光軸Xに対して対称な位置に配される。都合3本のカムピン231、233、235は、いずれも内筒後部254の径方向外側に向かって突出する。
【0051】
また、第四レンズ群240を保持して内筒後部254に収容されたレンズ保持枠242の外周面にも1本のカムピン241が配される。カムピン241は、内筒後部254の周面に設けられた貫通穴258を貫通して、内筒後部254の外側に突出する。よって、内筒後部254の外側からカムピン241に駆動力を伝えることにより、レンズ保持枠242を内筒後部254の外側から光軸X方向に移動させることができる。
【0052】
図4は、内筒後部254に対する駆動系の分解斜視図である。図1から図3までと共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0053】
内筒後部254は、カム筒部材270の内側に挿入され、更に、カム筒部材270は、固定筒202の内側に挿入される。レンズ鏡筒200において、これら内筒後部254、カム筒部材270および固定筒202は、光軸Xに対して同軸に配される。
【0054】
カム筒部材270は、全体として円筒状の形状を有し、複数のカム溝272、274、276、278と、一本のキー溝279と、一対のカムピン271とを有する。ただし、カム筒部材270の後端に一部には、切欠き部277が形成される。
【0055】
カム溝272、274、276、278の各々は、光軸Xに対して傾斜した形状を有し、カム筒部材270の周面に形成される。キー溝279は、光軸Xと平行に、直線状に形成される。カムピン271は、カム筒部材270の周面上の対称な位置に配され、径方向外側に向かって突出する。
【0056】
固定筒202の周面には、一対のカム溝273が設けられる。カム溝273は、光軸Xに対して傾斜した形状を有する。また、固定筒202の内面には、一対のリード溝239が設けられる。リード溝239は、光軸Xと平行な直線状の形状を有する。
【0057】
上記の内筒後部254、カム筒部材270および固定筒202を組み立てて形成した駆動系においては、内筒後部254のカムピン231、233、235が、カム筒部材270のカム溝272、274、276と、固定筒202のリード溝239との双方に係合する。これにより、カムピン231、233、235は、固定筒202の周方向への移動を規制される。
【0058】
これに対して、カム筒部材270は、キー溝279に回転駆動力を受けた場合、光軸Xを回転中心として固定筒202に対して相対回転する。なお、カム筒部材270のカムピン271は、固定筒202のカム溝273に対して係合する。よって、カム筒部材270が固定筒202に対して回転した場合、カム筒部材270は、カム溝273から駆動力を受けて光軸X方向に移動する。
【0059】
図5は、ズーム操作環208の分解斜視図である。ズーム操作環208は、環状部品281、282、283と、連動爪209とを有する。
【0060】
光軸X方向について両端に位置する一対の環状部品281、283は、強度を有する硬質な材料により形成され、互いに結合されることにより1個の円筒状の部材を形成する。光軸X方向について中央に位置する環状部品は、エラストマ等の弾性材料により形成され、操作する場合の滑り止めとして、硬質な環状部品281、283の外側に密着して装着される。
【0061】
更に、ズーム操作環208は、環状部品281に対してねじ止めされた連動爪209を有する。連動爪209は、環状部品281、282、283の内側に向かって突出する。このような形状により、ズーム操作環208が操作された場合に生じる回転駆動力が、カム筒部材270のキー溝279に伝達される。
【0062】
図6は、カム筒部材270の展開図である。図1から図5までと共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0063】
カム筒部材270は、互いに同じ形状を有する3本のカム溝272、274、276と、独自の形状を有する1本のカム溝278と、直線状のキー溝279とを有する。形状が同じ3本のうちの2本のカム溝272、274は、光軸X方向と平行な方向にずれた位置に配される。ただし、これら2本のカム溝272、274は、カム筒部材270の周方向については、同じ位置にある。
【0064】
形状が同じ3本のうちの他の1本のカム溝276は、光軸X方向については、カム溝272と同じ位置にある。しかしながら、カム筒部材270の周方向については、カム溝272、274とずれた位置にある。図示の例では、カム溝276は、光軸Xに対してカム溝272と対称な位置にある。
【0065】
形状が異なる4本目のカム溝は、カム筒部材270の周方向について、カム溝272、274と同じ位置にある。よって、カム筒部材270を周方向の領域に二分した場合、3本のカム溝272、274、278が配された領域と、単一のカム溝276を配された領域とに分かれる。単一のカム溝276を配された領域は広く空いているので、大きな切欠き277を設けることができる。
【0066】
なお、カム筒部材270は、図中水平方向の回転駆動力をキー溝279に受けて回転する。回転するカム筒部材270に対する負荷は、カム溝272、274、276、278に係合するカムピン231、233、235、241と、カム筒部材270自体のカムピン271において生じる。よって、キー溝279は、光軸X方向の位置が、カム溝272、274、276、278と重なる位置に配することが好ましい。
【0067】
また、カム溝272、274、276、278においてカムピン231、233、235、241に接触する接触面の光軸Xに対する傾斜は、それぞれのカム溝272、274、276、278の位置に応じて異なる。図示の例においてカム溝274に着目すると、図中々央に近い部分における接触面の光軸Xに対する傾きθは、図中左端に近い部分における接触面の光軸Xに対する傾きθよりも小さい。
【0068】
上記接触面の光軸Xに対する傾きが小さい場合は、カム筒部材270の一定の回転量に対してカムピン231、233、235の光軸X方向の移動量が大きくなる。このため、カム筒部材270に対して生じる負荷を大きくなる。よって、回転駆動力を受けるキー溝279は、接触面の光軸Xに対する傾きがより小さな部分と、光軸X方向の位置が重なるように配置することが好ましい。
【0069】
図7は、カム筒部材270がカムピン231、233、235、241と係合した様子を示す斜視図である。図1から図6までと共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0070】
レンズ鏡筒200においては、内筒後部254の外周にカム筒部材270が配される。この状態では、カム溝272、274、278に、カムピン231、233、241がそれぞれ係合する。
【0071】
ここで、図4を参照して既に説明した通り、内筒後部254のカムピン231、233は、固定筒202のリード溝239に係合して回転を規制されている。よって、カム筒部材270が固定筒202に対して回転した場合、内筒後部254は、固定筒202に対して回転することなく、光軸X方向に並進移動する。
【0072】
また、カム筒部材270の他のカム溝278には、内筒後部254に収容された第四レンズ群240のカムピン241が係合する。よって、カム筒部材270は、第三レンズ群230、第四レンズ群240および第五レンズ群250を同時に駆動する。
【0073】
なお、レンズ鏡筒200においては、内筒後部254の前側に、内筒前部234が連結される。連結された内筒前部234は、光軸X方向について、カム筒部材270の前方に突出する。
【0074】
上記のように、レンズ鏡筒200においては、カム筒部材270と内筒後部254とを、カムピン231、233、235およびカム溝272、274、276により3箇所で係合させている。これにより、個々のカムピン231、233、235およびカム溝272、274、276にかかる機械的負荷を軽減できる。
【0075】
また、レンズ鏡筒200においては、カムピン231、233、235およびカム溝272、274、276が、周方向および光軸方向に離れた3箇所で駆動力を伝達する構造を有する。これにより、駆動力に起因する内筒後部254およびレンズ保持枠232、252の光軸Xに対する傾きを抑制し、レンズ鏡筒200の光学性能の劣化を防止できる。
【0076】
なお、上記の例では、回転駆動力により回転するカム溝272、274、276が、カムピン231、233、235を有する内筒後部254を移動させる組み合わせとしたが、上記の構造は、駆動力を受けたカムピン231、233、235が、カム溝272、274、276を有する部材を移動させる構造に変形することもできる。例えば、内筒後部254の周面にカム溝272、274、276を設け、カム筒部材270として用いている筒部材にカムピン231、233、235を設けても、上記の例と同じ機能を有するレンズ鏡筒200を形成できる。
【0077】
また、上記の例では、3本のカムピン231、233、235と3本のカム溝272、274、276とを係合させる構造としたが、それぞれを4本以上設ける構造とすることもできる。この場合、光軸X方向に3本以上のカムピンおよびカム溝を配置してもよい。更に、光軸X方向に配列された2本のカムピン231、233とカム溝272、274と、周方向に異なる位置に配置されたカムピン235およびカム溝276を省略することもできる。
【0078】
更に、上記の例では、光軸X方向に配列した一対のカムピン231、235および一対のカム溝272、274に対して、他のカムピン235および他のカム溝276を、光軸Xに対して対称に配置した。しかしながら、他のカムピン235および他のカム溝276の位置は、正確に対称な位置でなくても、一対のカムピン231、235および一対のカム溝272、274に対して、周方向に異なる位置に配置されていれば、内筒後部254の光軸Xに対するぶれを抑制できる。
【0079】
図8は、内筒前部234の分解斜視図である。なお、内筒前部234の後方に、カム環260および固定筒202を併せて示す。図1から図6までと共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0080】
内筒前部234は、全体として略円筒形をなし、前側端面に、ガイドバー224の前端を保持するガイドバー保持部226を取り付けられる。ガイドバー224の後端は、内筒後部254の前端に形成されたガイドバー保持部253に保持される。これにより、一対のガイドバー244は、内筒後部254の内側に光軸Xと平行に固定される。
【0081】
内筒前部234の内部において、一対のガイドバー224は、第二レンズ群220を保持するレンズ保持枠222に挿通される。これにより、レンズ保持枠222は、内筒後部254の内部で、光軸X方向に移動可能に支持される。
【0082】
第二レンズ群220を保持するレンズ保持枠222の外周には、一対のカムピン221が配される。カムピン221は、内筒前部234に、光軸X方向に沿って形成された貫通穴236を通じて、内筒前部234の外側に突出する。
【0083】
カム環260は、固定筒202の外周側に取り付けられる。カム環260は、内面から表面まで貫通して形成された一対のカム溝262と、内面に形成された一対のカム溝264とを有する。カム環260の前端側に配されたカム溝262は、固定筒202のカム溝273と係合しつつ、カム溝273から突出したカム筒部材270のカムピン271と係合する。
【0084】
カム環260における他の一対のカム溝264は、第二レンズ群220を保持するレンズ保持枠222のカムピン221と係合する。また、カム環260は、外周面後端近傍にカムピン261を有する。カムピン261は、合焦駆動系に駆動された場合に、カム環260に回転駆動力を伝達する。これにより、カム環260は、レンズ鏡筒200が合焦する場合に、第二レンズ群220を光軸X方向に移動させる。
【0085】
図9は、カム環260の展開図である。図1から図8までと共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0086】
カム環260は、同じ形状を有する一対のカム溝262と、やはり同じ形状を有する一対のカム溝264とを有する。図8を参照して既に説明した通り、カム溝262は、カム環260の内外を貫通して形成される。これに対して、他の一対のカム溝264は、カム環260の内面にのみ形成される。これにより、図示のようにカム環260の半周を超える長さを有する一対のカム溝264を設けつつ、カム環260の機械的強度を維持することができる。
【0087】
図10は、合焦駆動系の分解斜視図であり、前カバー201および後カバー203を併せて示す。図1から図9までと共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0088】
合焦操作環206は、固定筒202に対して固定された前カバー201および後カバー203の間で、固定筒202に対して、光軸Xを回転中心として回転可能に設けられる。合焦操作環206は、駆動部207の輪列と噛み合う歯車205を内面に有する。
【0089】
これにより、レンズ鏡筒200の合焦駆動系は、ユーザが合焦操作環206を回転させることにより生じる回転駆動力と、駆動部207のアクチュエータが生じる駆動力とを両方受けることができる。よって、オートフォーカスモードの場合は、カメラボディ300の制御部322が発生した指令により動作するアクチュエータが駆動力を発生する。また、マニュアルフォーカスモードの場合は、ユーザによる合焦操作環206の回転が、駆動力として伝達される。
【0090】
図11は、固定筒202を取り付けた駆動部207の斜視図である。図1から図10までと共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0091】
駆動部207は、カメラボディ300の制御部322から指令を受けるので、電気的な接続を維持する目的で、カメラボディ300に対する相対位置が変化することのない固定筒202に対して固定される。これに対して、駆動部207に対して固定筒202の内側に配されるカム筒部材270は固定筒202に対して回転する。
【0092】
よって、駆動部207は、カム筒部材270と接触しない位置に配される。しかしながら、駆動部207をカム筒部材よりも、レンズ鏡筒200の径方向外側に配置した場合、駆動部207によりレンズ鏡筒200の外径が拡大する。
【0093】
図12は、レンズ鏡筒200における駆動部207とカム筒部材270の位置関係を示す斜視図である。図1から図11までと共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0094】
レンズ鏡筒200においては、カム筒部材270の後端の一部に切欠き部277が設けられている。よって、駆動部207を切欠き部277の内側に配置することにより、固定された駆動部207と回転するカム筒部材270との干渉を防止できる。これにより、レンズ鏡筒200の径拡大を防止できる。
【0095】
ここまで、一眼レフカメラ100のレンズ鏡筒200を例にあげて説明した。しかしながら、レンズ鏡筒200とカメラボディ300とが一体に形成されたカメラにも上記の構造を組み込むことができる。また、メインミラー371を備えていない、ライブビュー専用のミラーレスカメラのレンズ鏡筒200においても同様の構造を形成できる。更に、複数のレンズ等の光学部材を光軸X方向に移動させる機能を含む望遠鏡(単眼鏡、双眼鏡)、測量器、顕微鏡等の他の光学機器においても、上記の構造を適用できる。
【0096】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0097】
100 一眼レフカメラ、200 レンズ鏡筒、201 前カバー、202 固定筒、203 後カバー、204 レンズ側マウント部、205 歯車、206 合焦操作環、207 駆動部、208 ズーム操作環、209 連動爪、210 第一レンズ群、212、222、232、242、252 レンズ保持枠、214 外筒、216 カバー筒、220 第二レンズ群、239 リード溝、211、221、231、233、235、241、261、271 カムピン、224、244 ガイドバー、226、253、256 ガイドバー保持部、230 第三レンズ群、234 内筒前部、236、258 貫通穴、240 第四レンズ群、250 第五レンズ群、254 内筒後部、260 カム環、270 カム筒部材、262、264、272、273、274、276、278 カム溝、277 切欠き部、279 キー溝、281、282、283 環状部品、300 カメラボディ、310 シャッタユニット、320 ボディ基板、322 制御部、324 画像処理部、330 撮像素子、332 光学フィルタ、340 背面表示部、350 ファインダ、352 ピント板、354 ペンタプリズム、356 ファインダ光学系、360 ボディ側マウント部、370 ミラーユニット、371 メインミラー、372 メインミラー保持枠、373 メインミラー回動軸、374 サブミラー、375 サブミラー保持枠、376 サブミラー回動軸、380 合焦光学系、382 焦点検出センサ、390 測光センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部材を保持する保持枠と、
前記光学部材の光軸を回転中心として前記保持枠に対して相対回転する筒部材と
を備え、前記保持枠および前記筒部材の一方が前記光軸を回転中心とした回転駆動力を受けた場合に、前記保持枠を前記筒部材に対して前記光軸の方向に相対移動させるレンズ鏡筒であって、
前記保持枠および前記筒部材の一方は、前記光軸と平行な方向に沿って配された複数の係合部を有し、
前記保持枠および前記筒部材の他方は、前記複数の係合部に係合する複数の係合溝を有する
レンズ鏡筒。
【請求項2】
前記保持枠および前記筒部材の前記一方は、前記光学部材の周方向について、前記光軸に対して対称な位置に配された他の係合部を更に有し、
前記保持枠および前記筒部材の前記他方は、前記他の係合部に係合する他の係合溝を更に有する請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項3】
前記複数の係合溝および前記他の係合溝は略同形状である請求項2に記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
前記保持枠および前記筒部材の一方は、前記光軸と平行な方向に延在して、前記光軸と平行な方向について前記複数の係合溝と重なる位置において前記回転駆動力を受けるキー溝を更に有する請求項1から請求項請求項3までのいずれか一項に記載のレンズ鏡筒。
【請求項5】
前記複数の係合部に対する前記複数の係合溝の接触面は、
前記相対回転の一定の回転量に対して、前記複数の係合部の前記相対移動の移動量がより大きい第一接触部と、
前記相対回転の前記一定の回転量に対して、前記複数の係合部の前記相対移動の移動量がより小さい第二接触部と
を含み、
前記キー溝は、前記光軸と平行な方向について前記第一接触部と重なる位置で前記回転駆動力を受ける請求項4に記載のレンズ鏡筒。
【請求項6】
前記筒部材は、前記光学部材の径方向について前記筒部材の外側から内側まで延在する他の部材との干渉を避ける切欠き部を更に有する請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のレンズ鏡筒。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のレンズ鏡筒を備えた光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−92549(P2013−92549A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232652(P2011−232652)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】