説明

レンズ鏡筒の防滴バヨネット構造

【課題】相対回転する2つの円筒部材の一方に、一対の溝形成フランジによって円周溝を形成するとともに、他方にこの円周溝に嵌まるバヨネット爪を形成し、一対の溝形成フランジとバヨネット爪に、特定の回転角度位置において、バヨネット爪を円周溝内に導く切欠を形成したレンズ鏡筒において、防滴構造を備えながら円滑な相対回動動作ができるレンズ鏡筒を得る。
【解決手段】
円周溝及び一対の溝形成フランジを有する側の円筒部材に、シールリングの内周端部と外周端部のいずれか一方を固定し、シールリングの内周端部と外周端部の他方からなる弾性環状リップを、バヨネット爪が一対の溝形成フランジのうち切欠を持たない溝形成フランジに当接するように、バヨネット爪を有する側の円筒部材に弾接させたレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ鏡筒の防滴バヨネット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ鏡筒には、2つの円筒部材をバヨネット結合させて、特定回転角度だけ相対回転可能とする機構が多く採用されている。具体例を挙げると、2つの円筒部材の一方はカメラボディに固定される固定鏡筒であり、他方は、この固定鏡筒に回転可能に支持されるフォーカスリングやズームリングである。バヨネット構造は、2つの円筒部材の一方には、一対の溝形成フランジによって円周溝を形成するとともに、他方にこの円周溝に嵌まるバヨネット爪を形成し、一対の溝形成フランジとバヨネット爪に、特定の回転角度位置において、バヨネット爪を円周溝内に導く切欠を形成して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-119075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなバヨネット結合された2つの円筒部材を持つレンズ鏡筒においては、バヨネット爪と溝形成フランジの切欠が相互に干渉して滑らかな回転を阻害することが生じる可能性がある。一方、このようなバヨネット構造を持つレンズ鏡筒において、防滴構造を実現する際、そのシールリング(シール部材)は、バヨネット構造とは無関係に設けられており、両者を構成上関連付けるという着眼は存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、防滴のために用いるシールリングを、バヨネット爪と溝形成フランジの切欠の相互干渉を防ぐための付勢部材として同時に用いれば、構成が簡単な防滴バヨネット構造が得られるとの着眼に基づいて完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明によるレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造は、相対回転する第1及び第2の円筒部材を有し、第1の円筒部材に、一対の溝形成フランジによって円周溝を形成するとともに、第2の円筒部材にこの円周溝に嵌まるバヨネット爪を形成し、一対の溝形成フランジのいずれか一方に、特定の回転角度位置において、バヨネット爪を円周溝内に導く切欠を形成したレンズ鏡筒において、上記第1の円筒部材に、シールリングの内周端部と外周端部のいずれか一方を固定し、上記シールリングの内周端部と外周端部の他方からなる弾性環状リップを、上記バヨネット爪が上記一対の溝形成フランジのうち上記切欠を持たない溝形成フランジに当接するように、上記第2の円筒部材に弾接させたことを特徴としている。
【0007】
本発明は、2つの円筒部材の内外関係を問わずに適用することができるが、その一態様では、一対の溝形成フランジと円周溝を有する第1の円筒部材を、バヨネット爪を有する第2の円筒部材の内側に位置させることができる。
【0008】
この内外関係では、第1の円筒部材の外周面に、シールリングの内周端部を固定し、第2の円筒部材の軸線直交端面に、シールリングの弾性環状リップを弾接させることができる。
【0009】
あるいは、第1の円筒部材の軸線直交面に、シールリングの内周端部を固定し、第2の円筒部材の端面に、シールリングの弾性環状リップを弾接させる構成としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、相対回転する2つの円筒部材の一方(第1の円筒部材)に、一対の溝形成フランジによって円周溝を形成するとともに、他方(第2の円筒部材)にこの円周溝に嵌まるバヨネット爪を形成し、一対の溝形成フランジの一方に、特定の回転角度位置において、バヨネット爪を円周溝内に導く切欠を形成したレンズ鏡筒において、円周溝及び一対の溝形成フランジを有する側の円筒部材に、シールリングの内周端部と外周端部のいずれか一方を固定し、シールリングの内周端部と外周端部の他方からなる弾性環状リップを、バヨネット爪が一対の溝形成フランジのうち切欠を持たない溝形成フランジに当接するように、バヨネット爪を有する側の円筒部材に弾接させたものであって、防滴のために用いるシールリングを、バヨネット爪と溝形成フランジの切欠の相互干渉を防ぐための付勢部材として同時に用いたので、構成が簡単な防滴バヨネット構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造の一実施形態を示す上半断面図である。
【図2】図1、図4のII-II線に沿う断面図であって、(A)、(B)はそれぞれ相対回転する2つの円筒部材の異なる相対回転位置を示している。
【図3】部材間隔を誇張して示す図1、図4のIII部拡大断面図である。
【図4】本発明によるレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造の別の実施形態を示す上半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1ないし図3は、本発明によるレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造の一実施形態を示している。本実施形態は、共通の軸線Oを持つ第1の円筒部材10と第2の円筒部材20とを有するレンズ鏡筒に本発明を適用したものである。以下、内側に位置する第1の円筒部材10を内側円筒部材、外側に位置する第2の円筒部材20を外側円筒部材と呼ぶ。内側円筒部材10は例えばカメラボディに固定される固定鏡筒に一体結合された円筒部材であり、この内側円筒部材10には、その外周に軸線Oと直交する互いに平行な一対の(第1、第2の)溝形成フランジ(外方フランジ)11と12、及びこの一対の溝形成フランジ11と12の間に位置する円周溝13が形成されている。図1、図3の右方の溝形成フランジ12の外径は、溝形成フランジ11の外径より小さい。また、図1、図3の右方の溝形成フランジ12の高さは、溝形成フランジ11の高さより小さくなっているが、両フランジ11、12の高さは限定されない。外側円筒部材20は、内側円筒部材10に一定角度の相対回転を自在に支持されるもので、例えばフォーカスリングまたはズームリングに一体結合された円筒部材である。この外側円筒部材20には、その内周に、軸線Oと直交するバヨネット爪(内方フランジ)21が形成されている。バヨネット爪21の軸方向の幅wは、図3に誇張して示すように、円周溝13の軸方向の幅W(一対の溝形成フランジ11と12の間隔)より若干小さい。内側円筒部材10は、円周溝を有する筒状部材であり、外側円筒部材20はバヨネット爪を有する筒状部材である。
【0013】
バヨネット爪21は、図示例では、円周方向に間隔をおいて形成した不等幅の3個のバヨネット爪21A、21B、21Cからなっている。別言すると、このバヨネット爪21A、21B、21Cは、内方フランジ21に周方向に所定間隔をおいて切欠22を形成することで形成されている。一方、内側円筒部材10の一方の溝形成フランジ12には、バヨネット爪21A、21B、21Cを円周溝13に嵌めるための円周方向に間隔をおいて形成した、不等幅の切欠14A、14B、14Cが形成されている。溝形成フランジ11には切欠は形成されておらず、円周溝13側の軸線直交面は平滑面である。
【0014】
バヨネット爪21A、21B、21Cは、内側円筒部材10と外側円筒部材20の特定回転位相で切欠14A、14B、14Cに嵌まる。バヨネット爪21A、21B、21Cの位置を切欠14A、14B、14Cの位置に合致させて、円周溝13に嵌めた後、内側円筒部材10と外側円筒部材20を相対回転させると、バヨネット爪21A、21B、21Cと一対の溝形成フランジ11と12の軸線方向の係合により、内側円筒部材10と外側円筒部材20の軸線方向の相対移動は規制され、回転のみが可能となる。バヨネット爪21と円周溝13との嵌合部分には、円滑な相対回動を可能にするためグリースが塗布されている。しかし、この内側円筒部材10と外側円筒部材20の相対回転に際し、バヨネット爪21A、21B、21C(切欠22)のエッジが切欠14A、14B、14Cのエッジと干渉して、円滑な回転を妨げるおそれがある。
【0015】
本実施形態は、このバヨネット爪21A、21B、21C(切欠22)のエッジと切欠14A、14B、14Cのエッジとの干渉現象の防止と、バヨネット爪21と円周溝13のバヨネット部分の防滴構造とを単一のシールリング30で行うものである。ゴム、合成樹脂等の弾性材料からなるシールリング30は、軸線Oを中心とする回転対称形状を有するもので、内側円筒部材10の外周面に溝形成フランジ12に隣接させて形成した環状溝15に嵌まる筒状固定部(内周端部)31と、この筒状固定部31から径方向外方に延びて外側円筒部材20の軸線と直交する端面23に当接する弾性環状リップ(弾性縁、外周端部)32を有している。弾性環状リップ32は、軸線直交端面23に当接して、外側円筒部材20を図1の左方、つまりバヨネット爪21が溝形成フランジ11に当接する方向に移動付勢する。外側円筒部材20が左方に押されると、図3に誇張して示すように、内側円筒部材10の溝形成フランジ12と、外側円筒部材20のバヨネット爪21との間には、クリアランスcが生じる。このため、内側円筒部材10と外側円筒部材20を相対回転させても、外側円筒部材20のバヨネット爪21A、21B、21C(切欠22)のエッジと内側円筒部材10の切欠14A、14B、14Cのエッジとの干渉が生じることがない。
【0016】
加えて、本実施形態によると、内側円筒部材1と外側円筒部材20の間の隙間をシールするシールリング30によって、バヨネット爪21と円周溝13のバヨネット部分に対する防滴構造が実現される。シールリング30による防滴構造は、図1(図3)の左方から右方への雨水の浸入防止機能を利用する態様と、同右方から左方への雨水の浸入防止機構を利用する態様が可能であり、そのいずれを利用するかは、周辺構造によって定める。また、バヨネット爪21と円周溝13との嵌合部分に塗布されたグリースは回転操作性を向上させるだけでなく、防滴効果も高める作用がある。
【0017】
図4は、本発明によるレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造の別の実施形態を示している。この実施形態は、内側円筒部材10の軸線直交面に環状溝16を形成し、シールリング30の内周端部には、この環状溝16に嵌まる軸線直交固定リップ33を形成し、シールリング30の外周端部には、外側円筒部材20の軸線直交端面23に弾接する弾性環状リップ32を形成した実施形態である。
【0018】
以上の実施形態では、内側円筒部材10側に溝形成フランジ(外方フランジ)11、12と円周溝13を形成し、外側円筒部材20側に内方バヨネット爪(内方フランジ)21を形成したが、この関係は逆にすることも可能である。すなわち、外側円筒部材20側に一対の内方溝形成フランジ(内方フランジ)と円周溝を形成し、内側円筒部材10側に円周溝に嵌まる外方バヨネット爪(外方フランジ)を形成してもよい。また、シールリング30は、図示例では、内側端部を内側円筒部材10に固定し、外側端を外側円筒部材20に弾接させたが、外側端部を外側円筒部材20に固定し内側端部を内側円筒部材10の一部に弾接させてもよい。
【符号の説明】
【0019】
O 軸線
10 内側円筒部材
11 12 溝形成フランジ
13 円周溝
14 14A、14B 14C 切欠
20 外側円筒部材
21 21A 21B 21C バヨネット爪
22 切欠
23 軸線直交端面
30 シールリング
31 筒状固定部(内周端部)
32 弾性環状リップ(外周端部)
33 軸線直交固定リップ(内周端部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転する第1及び第2の円筒部材を有し、第1の円筒部材に、一対の溝形成フランジによって円周溝を形成するとともに、第2の円筒部材にこの円周溝に嵌まるバヨネット爪を形成し、一対の溝形成フランジのいずれか一方に、特定の回転角度位置において、バヨネット爪を円周溝内に導く切欠を形成したレンズ鏡筒において、
上記第1の円筒部材に、シールリングの内周端部と外周端部のいずれか一方を固定し、
上記シールリングの内周端部と外周端部の他方からなる弾性環状リップを、上記バヨネット爪が上記一対の溝形成フランジのうち上記切欠を持たない溝形成フランジに当接するように、上記第2の円筒部材に弾接させたことを特徴とするレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造。
【請求項2】
請求項1記載のレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造において、上記第1の円筒部材は、上記第2の円筒部材の内側に位置しているレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造。
【請求項3】
請求項2記載のレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造において、上記第1の円筒部材の外周面に、上記シールリングの内周端部が固定され、上記第2の円筒部材の軸線直交端面に、上記シールリングの弾性環状リップが弾接しているレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造。
【請求項4】
請求項2記載のレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造において、上記第1の円筒部材の軸線直交面に、上記シールリングの内周端部が固定され、上記第2の円筒部材の端面に、上記シールリングの弾性環状リップが弾接しているレンズ鏡筒の防滴バヨネット構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−39384(P2011−39384A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188406(P2009−188406)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】