説明

レンズ鏡筒及び撮像装置

【課題】沈胴長を長くすることなく、レンズ鏡筒の強度低下を防止することができる構造を有するレンズ鏡筒を提供する。
【解決手段】貫通カム穴1cとカム溝1a,1bとが形成された固定筒と、カム溝1a,1bと係合するカムピン2a,2bが形成された駆動筒2とを有し、沈胴状態からの光軸方向での繰出し動作により使用状態となり、使用状態からの繰込み動作により沈胴状態となる際にカムピン2a,2bがカム溝1a,1bをトレースするレンズ鏡筒である。カム溝1a,1bとカムピン2a,2bとの係合形態がカム溝1a,1bの駆動領域に応じて変わる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカメラに搭載されるレンズ鏡筒、及びレンズ鏡筒を備える撮像装置に関し、特に、撮影レンズを保持する沈胴式レンズ鏡筒の繰出しカム機構に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも二群以上のレンズ群を有し、各レンズ群を光軸方向に沿って移動させることによって撮影倍率を変化させる沈胴式のレンズ鏡筒を備える撮像装置(例えば、デジタルスチルカメラ)が普及している。近年、撮像装置を小型化、軽量化することを目的として、レンズ鏡筒に対しても薄肉化等による軽量化が進められている。しかし、沈胴式のレンズ鏡筒は貫通カム穴を有しているため、薄肉化等によってレンズ鏡筒の剛性が低下してしまうと、レンズ等によるレンズ鏡筒の自重やズーム駆動時の負荷によってレンズ鏡筒が倒れ、レンズ群の保持精度が低下して光学性能を低下させてしまう。
【0003】
そこで、同様の沈胴式のレンズ鏡筒において、バヨネットを用いることで、レンズ鏡筒の強度低下を防止し、レンズ群の保持精度や信頼性を向上させる構造が提案されて(特許文献1参照)。図5は、この従来技術に係るレンズ鏡筒の一部の構成要素を示す分解斜視図であり、固定筒101と、駆動筒102と、直進ガイド筒103とを示している。
【0004】
このレンズ鏡筒を構成する直進ガイド筒103は貫通カム穴103cを有しているため、直進ガイド筒103自体の強度は低下している。そこで、直進ガイド筒103の突起103a,103bを駆動筒102の回転ガイド溝102c,102bとそれぞれ係合させてバヨネットにすることで、直進ガイド筒103の強度低下をカバーしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4428770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術に係る構造では、回転ガイド溝102bと突起103bの幅の分だけレンズ鏡筒の沈胴長が長くなるため、カメラを小型化する点で不利である。
【0007】
本発明は、沈胴長を長くすることなく、レンズ鏡筒の強度低下を防止することができる構造を有するレンズ鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレンズ鏡筒は、貫通カム穴とカム溝とが形成された固定筒と、前記カム溝と係合するカムピンが形成された駆動筒とを有し、沈胴状態からの光軸方向での繰出し動作により使用状態となり、前記使用状態からの前記光軸方向での繰込み動作により前記沈胴状態となる際に前記カムピンが前記カム溝をトレースするレンズ鏡筒であって、前記固定筒には、1本の前記貫通カム穴と複数の前記カム溝を1組として複数組が周方向で位相を変えて形成されており、前記複数のカム溝のそれぞれを、前記カム溝が前記貫通カム穴と交わることによって正規の形状を有さない第1の領域と、前記複数のカム溝のそれぞれの中心線から前記光軸方向に垂線を引いた際に前記貫通カム穴と前記垂線とが交わる第2の領域と、同組内の他のカム溝が同位相において前記第2の領域であり、且つ、前記第1の領域でも前記第2の領域でもない第3の領域とに分けたときに、同位相において前記複数のカム溝のうち1つのカム溝では前記第1の領域又は前記第2の領域であり、他の少なくとも1つのカム溝では前記第3の領域である場合、前記第3の領域において前記カムピンが係合していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レンズ鏡筒の強度低下を防止することができるため、レンズ鏡筒の倒れを抑制し、光学性能を高い状態に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係るレンズ鏡筒の概略断面図である。
【図2】図1に示すレンズ鏡筒の一部の構成要素を示す分解斜視図である。
【図3】図1に示すレンズ鏡筒が有する固定筒の内周面の平面展開図と駆動筒の外周面の平面展開図である。
【図4】図1に示すレンズ鏡筒が有する固定筒におけるカム溝、貫通カム穴及び直進溝の関係を示す平面展開図である。
【図5】従来技術に係るレンズ鏡筒の一部の構成要素を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るレンズ鏡筒の断面図である。以下に説明する通り、このレンズ鏡筒は、沈胴状態からの繰出し動作により使用状態となり、使用状態からの繰込み動作により沈胴状態となる、所謂、ズームレンズ鏡筒である。図1には、繰出し時ズーム時)の状態が示されており、図の右側がこのレンズ鏡筒を備える撮像装置の本体側となっている。
【0013】
2つの固定筒1,4はネジ7によってCCDホルダ5に固定されており、固体撮像素子6はCCDホルダ5に保持されている。平歯ヘリコイド筒3は固定筒1,4に挟持されている。駆動筒2は6つのカムピン2a,2b(図3参照)及び3つの直進ピン2c(図3参照)を有している。カムピン2a,2bは固定筒1のカム溝1a,1b(図3参照)に係合し、直進ピン2cは固定筒1の貫通カム穴1c(図3参照)を通って平歯ヘリコイド筒3の直進溝に係合する。
【0014】
駆動筒2は3本のカム溝と2本の直進溝を有しており、3本のカム溝は第1の直進筒8が有する3つのカムピンと係合し、2本の直進溝はカム筒9が有する2つの直進キーと係合する。駆動筒2と直進ガイド板17とはバヨネットになっており、直進ガイド板17は、6つの直進キーと、2つの幅広の直進板と、2つの幅狭の直進板とを有している。6つの直進キーは固定筒1の6本の直進溝と係合し、2つの幅広の直進板は第1の直進筒8が有する2つの直進穴と係合し、2つの幅狭の直進板は直進ガイド筒10が有する2つの直進穴と係合する。
【0015】
第1の直進筒8とカム筒9とがヨネットになっている。また、カム筒9と直進ガイド筒10もバヨネットになっている。2群レンズ枠兼シャッタユニット11は2群レンズ12を保持しており、2群レンズ枠兼シャッタユニット11が有する3本のカムピンは、直進ガイド筒10が有する直進貫通穴を通ってカム筒9の有するカム溝に係合する。第2の直進筒13は6つのカムピンを有しており、これら6つのカムピンはカム筒9が有する6本のカム溝と係合する。第2の直進筒13は3本の直進溝を有しており、これら3本の直進溝は直進ガイド筒10が有する3つの直進キーと係合する。第2の直進筒13は1群レンズ枠14とキャップ16とを保持しており、1群レンズ枠14は1群レンズ15を保持している。
【0016】
図2は、図1に示すレンズ鏡筒の一部の構成要素を示す分解斜視図である。平歯ヘリコイド筒3は、固定筒1,4によって回転方向以外の動きが規制されており、不図示の駆動ギアにより動力が与えられることによって回転する。駆動筒2は、平歯ヘリコイド筒3により回転規制され、固定筒1のカムに沿って動く。直進ガイド板17は、駆動筒2とバヨネットになっており、固定筒1の直進溝により直進する。第1の直進筒8は、直進ガイド板17の直進板により回転規制され、駆動筒2のカムに沿って直進する。
【0017】
前述の通りにバヨネットになっているカム筒9と第1の直進筒8とは駆動筒2の直進溝により回線規制されており、同様にバヨネットになっている直進ガイド筒10はカム筒9とは直進ガイド板17の直進板により回転規制されている。2群レンズ枠兼シャッタユニット11は、直進ガイド筒10の直進貫通穴により回転規制されており、カム筒9のカムに沿って直進する。第2の直進筒13は、直進ガイド筒10の直進キーにより回転規制されており、カム筒9のカムに沿って直進する。
【0018】
図3は、図1に示すレンズ鏡筒が有する固定筒1の内周面の平面展開図(a)と駆動筒2の外周面の平面展開図(b)である。固定筒1の内周面には、切り欠きのある3本のカム溝1aと3本のカム溝1bの計6本のカム溝が形成されている。3本のカム溝1aは駆動筒2が有する3つのカムピン2aと係合し、3本のカム溝1bは駆動筒2が有する3つのカムピン2bと係合する。
【0019】
レンズ鏡筒が沈胴状態からの光軸方向での繰出し動作により使用状態となり、使用状態からの光軸方向での繰込み動作により沈胴状態となる際にカムピン2a,2bはそれぞれカム溝1a,1bをトレースする。その際、図4を参照して後に説明するように、カム溝1a,1bとカムピン2a,2bとの係合形態が、カム溝1a,1bの駆動領域に応じて変わる。
【0020】
駆動筒2が有する3つの直進ピン2cは、固定筒1に形成された3本の貫通カム穴1cを通って、平歯ヘリコイド筒3の3本の直進溝と係合する。固定筒1には直進溝1d,1eが合計で6本形成されており、これら6本の直進溝1d,1eは直進ガイド板17が有する6つの直進キーと係合する。
【0021】
図4は固定筒1におけるカム溝1a,1bと貫通カム穴1cと直進溝1d,1eの関係を示す平面展開図である。固定筒1の内周面には、1本の貫通カム穴1c、1本のカム溝1a及び1本のカム溝1bを1組として、周方向(光軸を中心とした回転方向)において位相を変えて3組が形成されている。
【0022】
ドット領域1wは、カム溝1aにおいて欠け(貫通カム穴1cとの交わり)があるために正規の形状を有しておらず、カム溝として機能しない領域(第1の領域)を示している。塗潰し領域1xは、カム溝1a,1bの中心線から固定筒1の光軸方向保持側(繰込み動作における繰り込み方向)に垂線を下ろした際に、貫通カム穴1cとその垂線が交わる領域(第2の領域)を示している。網掛領域1zは、ドット領域1w及び塗潰し領域1x以外の領域であって、同組内の他のカム溝が同位相において塗潰し領域1xである場合の領域(第3の領域)を示している。斜線領域1yは、カム溝1a,1bにおいて、同組内の他のカム溝が同位相においてドット領域1wでも塗潰し領域1xでもない領域(第4の領域)を示している。
【0023】
同位相のカム溝1a,1bとカムピン2a,2bの係合に関して、片方が網掛領域1zで片方が塗潰し領域1x又はドット領域1wの位相では、網掛領域1zでは係合するが、塗潰し領域1xでは係合しない。また、両方が塗潰し領域1xと両方が斜線領域1yの場合はそれぞれ、特に限定せず、少なくとも1組のカム溝とカムピンとが係合していればよい。このように本実施形態では、係合させたくないところでは嵌め合いにおいてガタを作って逃がし、係合させないようにする。
【0024】
なお、本実施形態では、直進溝1d,1eの溝の深さをカム溝1a,1bの溝の深さよりも浅く設定する。これにより、直進溝1d,1eとカム溝1a,1bとが交差する領域においても、カム溝1a,1bとカムピン2a,2bの係合が外れることはない。
【0025】
以上の構成によれば、貫通カム穴1cが固定筒1の光軸方向保持側とカム溝1a,1bの間にあり、重力や駆動時の負荷がカム溝1a,1bに掛かることより、貫通カム穴1cの変形を抑制することができる。これにより、レンズ鏡筒における撓みの発生や鏡筒倒れの発生を抑制することができる。また、上記構成によれば、周方向に位置を変えてカムを配置し、カムの切り替えにより剛性の高い位置でカムを使用するため、沈胴長を長くすることなく、レンズ鏡筒の強度低下を抑制することが可能となる。
【0026】
<第2実施形態>
第1実施形態において直進溝1d,1eの溝の深さがカム溝1a,1bの溝の深さよりも深い場合のように、貫通カム穴1c以外の穴や溝の形状の影響によりカム溝1a,1bとカムピン2a,2bを係合させるべき箇所で係合が外れてしまう場合が考えられる。この問題を回避するためには、カム溝1a,1bの少なくとも一方が、同位相において何ら影響を受けることなく、カムピンと係合する構造としなければならない。
【0027】
例えば、ある位相において、カム溝1aとカムピン2aの係合が貫通カム穴1cによって外れ、直進溝1eの深さがカム溝1bの深さよりも深いためにカム溝1bとカムピン2bとの係合が直進溝1eにより外れてしまう場合、カム溝1a,1bとカムピン2a,2bの全ての係合が外れてしまう。この状態では、カムとしての機能が発揮されず、レンズ鏡筒の強度も低下してしまう。この問題を回避するために、例えば、少なくともカム溝1bとカムピン2bとの係合が外れないように、1本の直進溝1eの位置を周方向において変えるという構成を採ればよい。
【0028】
勿論、直進溝1eに限定されず、カム溝1a,1b、貫通カム穴1cの位置を変えることで係合が外れるのを防ぐことも可能である。また、直進溝1d,1eや貫通カム穴1cに起因する係合外れに限定されることなく、図示しているその他の穴や溝による係合外れにおいても同様の対策を施せばよい。
【0029】
<その他の実施形態>
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。さらに、上述した各実施形態は本発明の一実施形態を示すものにすぎず、各実施形態を適宜組み合わせることも可能である。例えば、第1実施形態では、固定筒1に1本の貫通カム穴1c及び2本のカム溝1a,1bを1組として3組を形成したが、これに限られず、カム溝は3本以上であってもよく、3組以外の複数組を形成してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1,4 固定筒
2 駆動筒
1a,1b カム溝
1c 貫通カム穴
1d,1e 直進溝
1w 網掛け領域
1x 塗潰し領域
1y 斜線領域
1z 網掛領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通カム穴とカム溝とが形成された固定筒と、前記カム溝と係合するカムピンが形成された駆動筒とを有し、沈胴状態からの光軸方向での繰出し動作により使用状態となり、前記使用状態からの前記光軸方向での繰込み動作により前記沈胴状態となる際に前記カムピンが前記カム溝をトレースするレンズ鏡筒であって、
前記固定筒には、1本の前記貫通カム穴と複数の前記カム溝を1組として複数組が周方向で位相を変えて形成されており、
前記複数のカム溝のそれぞれを、前記カム溝が前記貫通カム穴と交わることによって正規の形状を有さない第1の領域と、前記複数のカム溝のそれぞれの中心線から前記光軸方向に垂線を引いた際に前記貫通カム穴と前記垂線とが交わる第2の領域と、同組内の他のカム溝が同位相において前記第2の領域であり、且つ、前記第1の領域でも前記第2の領域でもない第3の領域とに分けたときに、
同位相において前記複数のカム溝のうち1つのカム溝では前記第1の領域又は前記第2の領域であり、他の少なくとも1つのカム溝では前記第3の領域である場合、前記第3の領域において前記カムピンが係合していることを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項2】
前記複数のカム溝のそれぞれを、更に、同組内の他のカム溝が同位相において前記第1の領域でも前記第2の領域でもない第4の領域に分けたときに、
同位相において前記複数のカム溝が共に前記第2の領域又は前記第4の領域の場合、少なくとも前記第2の領域又は前記第4の領域において前記カムピンが係合することを特徴とする請求項1記載のレンズ鏡筒。
【請求項3】
前記固定筒の内周面に、前記カム溝と、前記貫通カム穴及び前記カム溝とは異なる溝又は穴が形成され、
前記複数のカム溝のうち1つのカム溝に対して前記異なる溝及び穴と交わることで一部が欠けた領域が生じた場合にも、前記欠けた領域と同位相において前記複数のカム溝のうちの他のカム溝は前記異なる溝及び穴と交わらないことを特徴とする請求項1又は2記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒を備えることを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−114149(P2013−114149A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261752(P2011−261752)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】