説明

レンズ駆動装置

【課題】簡素な構造で高い耐衝撃構造を有し、部品精度の影響を受けづらく、低コストであり、量産性を有するレンズ駆動装置を提供すること。
【解決手段】ケース11と、ケース11に収容されレンズ12を保持するレンズホルダ13と、ケース11に収容され前記レンズホルダ13を宙吊り状態に保持し通電時には前記レンズ12の光軸方向に沿って前後方向に往復移動させ、かつ無通電時には位置決めの自己保持機能を有しない駆動手段14と、を備えたレンズ駆動装置10において、レンズホルダ13には外面より一体に突出するボス部15を有し、ケース11には前記ボス部15に対して光軸方向に対峙して凹部16を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ駆動装置に関し、特にレンズホルダの耐衝撃強度を保障するレンズ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルスチルカメラやカメラ付携帯電話に組み込まれるレンズ鏡筒装置として、落下時の衝撃力吸収機能を有するレンズ鏡筒装置が提案されている(特許文献1参照)。このレンズ鏡筒装置は、撮像レンズ群を保持する可動レンズ鏡筒と、可動レンズ鏡筒が軸方向に移動可能に挿入される固定レンズ鏡筒とを有してなる。このレンズ鏡筒装置は、固定レンズ鏡筒内に収容されたコイルばねが可動レンズ鏡筒を軸方向前方に付勢し、可動レンズ鏡筒の後端のテーパ状外周面と、固定レンズ鏡筒の前端のテーパ状内周面とが当接して脱出防止する構造になっていて、可動レンズ鏡筒を引っ込める軸方向の衝撃力および軸方向に垂直な方向の衝撃力の両方に対してコイルばねが耐衝撃性を保障し、レンズ鏡筒の破損を防止するようになっている。
【0003】
一方、ケース内に、レンズを保持するレンズホルダと、レンズホルダをレンズの光軸方向に移動自在に保持し、非駆動時自己保持機能を有しない駆動手段(高分子アクチュエータ又はボイスコイルモータ)により、レンズホルダを移動させるレンズ駆動装置が提案されている。
【0004】
高分子アクチュエータ或いはボイスコイルモータ等の駆動手段は、無通電時に自己保持機能を有しないので、外部から衝撃があると駆動手段の変位以上にレンズホルダが移動してしまい、レンズホルダ、駆動手段及びケース内面に傷が付く虞がある。そこで、この種のレンズ駆動装置について耐衝撃構造の採用が検討された。
【0005】
【特許文献1】特開2006−64930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記構成のような、無通電時に自己保持機能を有しない駆動手段を用いたレンズ駆動装置においては、駆動手段の駆動力が弱く、レンズホルダをレンズ光軸方向に移動自在に保持して移動させる必要があるため、特許文献1に記載されている、コイルばねを用いて可動レンズ鏡筒を付勢する耐衝撃構造は採り入れることはできない。この種のレンズ駆動装置においては、変形度合いに応じて弾発力が比例するコイルばねの付勢力を受ける状態の耐衝撃構造は、位置決め制御も難しくなり不適である。
【0007】
本発明は、上記の事情にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、簡素な構造で高い耐衝撃構造を有し、部品精度の影響を受けづらく、低コストであり、量産性を有するレンズ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレンズ駆動装置は、ケースと、前記ケースに収容されレンズを保持するレンズホルダと、前記ケースに収容され前記レンズホルダをレンズ光軸方向に移動自在に保持し、非駆動時に自己保持機能を有しない駆動手段と、を備えたレンズ駆動装置において、レンズホルダと、前記ケースのいずれか一方には、突出するボス部を設け、他方には、前記ボス部に対峙して前記レンズ光軸方向に凹部を設けたことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、駆動手段が無通電状態のとき、レンズホルダに外部から衝撃力等が加わり、レンズホルダが大きく移動するときにボス部と凹部とが干渉しレンズホルダの移動を抑制しレンズホルダの耐衝撃強度を保障し得る。
【0010】
上記構成のボス部は、光軸方向と直角な方向に突出する円柱形状であり、凹部はV溝状に形成されていることが好ましい。このように構成すると、ボス部とV溝状の凹部とは、レンズホルダが駆動手段による通常動作範囲を超えた移動時に凹部のV溝状の二面が円柱形状のボス部を両側二線接触状態に受承し、受承位置を常に一定になし得る。
【0011】
上記構成のボス部と凹部は、駆動手段によるレンズホルダの通常動作時には非接触の配置関係となるように備えられていることが好ましい。このように構成すると、通常動作時にはボス部と凹部とが干渉しない。そして、通常動作範囲を超えた移動時にボス部と凹部とが干渉し耐衝撃性を発揮し得る。
【0012】
上記構成のボス部と凹部は、レンズホルダの周方向に複数対に備えられていることが好ましい。このように構成すると、衝撃力の作用する方向が異なっても通常動作範囲を超えた移動時にボス部と凹部とが干渉し耐衝撃性を発揮し得る。
【0013】
上記構成の駆動手段は、高分子アクチュエータであることが好ましい。このように構成すると、レンズホルダの移動と保持を同時に行うことができるため、駆動手段の構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレンズ駆動装置によれば、レンズホルダとケースのいずれか一方に備えたボス部と他方に備えた凹部とからなる簡素な衝撃力授受構造を備えているので、非駆動時に位置決めのための自己保持機能を有しない駆動手段について、駆動手段の非駆動時に大きな衝撃力が加わったときに、衝撃力授受構造により衝撃力を授受し、高い耐衝撃強度を有し、部品精度の影響を受けづらく、低コストになり、量産性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態のレンズ駆動装置について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0016】
〔第1の実施形態〕
図1は、例えば、デジタルカメラやカメラ付携帯電話等に組み込まれるレンズ駆動装置10の分解斜視図を示す。レンズ駆動装置10は、撮像素子用基板2と、撮像素子3と、4つのガイド軸18と、ケース本体11a及び蓋11bにより構成されるケース11と、レンズホルダ13と、高分子アクチュエータ本体14aを一対の電極14b,14cで挟んで構成される駆動手段14とを含んで構成される。
【0017】
図5、図6に示すように、ケース本体11aは、上部が開口され底面部に入光窓を有する概略四角筒形に成形されている。ケース本体11aと蓋11bは、ケース本体11aの上端に突設されたダボ20を介して嵌合位置決めされボルト等(不図示)により締め付け固定される。レンズホルダ13は、ケース11内に収容されレンズ12を保持し、駆動手段14は、レンズホルダ13をレンズ12の光軸方向に往復移動させる。レンズホルダ13にはボス部15が備えられ、ケース本体11a内にはボス部15に対応して凹部16が備えられ、ボス部15と凹部16とが非常時にレンズホルダ13へ加わる過度な衝撃力をケース11で受けるように構成されている。以下、さらに詳述する。
【0018】
駆動手段14として、この実施形態では、図7に示すような、周縁輪郭が隅丸な四角形である高分子アクチュエータが採用されている。高分子アクチュエータの構成・機能について、図8を参照して簡単に説明する。図8に示す高分子アクチュエータ14は、図7に示すものと外周の輪郭が異なるが、本質的相違はない。高分子アクチュエータ14は、中心に円をくり抜き更に8つのスリットを放射状に入れて円環状配置に8つの扇状半島部を有する板状の高分子アクチュエータ本体14aの外周部を、一対のリング状電極14b、14cで挟んで固定保持されており、リング状電極14b、14c間に制御電圧を印加すると、高分子アクチュエータ本体14aの中央側端部が一方側に反り返り、電圧の印加方向を逆転すると他方側に反り返る構成である。図2に示すように、駆動手段14は、ケース本体11aの上端の段差部に収容され、蓋11bによって固定されている。
【0019】
レンズホルダ13は、例えば図6に示す外観を呈する。詳述すると、レンズホルダ13は、円筒部13aと、円筒部13aの上部に括れ部13bとを有する。円筒部13aは、一側に第1の軸ガイド17a、他側にフォーク形状の第2の軸ガイド17b、及び第1の軸ガイド17aの近傍にボス部15を、それぞれ一体に備えている。
【0020】
ケース本体11a内には、底面部より4本のガイド軸18が立設されていて(図1参照)、2本のガイド軸18が、ケース本体11a内に収容されたレンズホルダ13に備えた第1の軸ガイド17aと第2の軸ガイド17bに係入案内されている(図7参照)。これにより、レンズホルダ13がレンズ12の光軸方向に移動自在にケース本体11a内に収容されている。
【0021】
駆動手段14は、上述した高分子アクチュエータからなる駆動手段14の8枚の板状の高分子アクチュエータ本体14aの内端がレンズホルダ13の括れ部13bに入り込むように組み立てられている。これにより、駆動手段14は、制御電圧を印加され高分子アクチュエータ本体14aの往復の反り返りを行うことによりレンズホルダ13を光軸方向に移動させることができる。
【0022】
図2に示すように、レンズホルダ13には、ボス部15が突設されている。ボス部15は、レンズホルダ13の外面よりレンズ光軸X方向直角な方向(レンズホルダ13の中心線)と直角な方向に一体に突出する円柱形状に形成されている。ボス部15に対応して、ケース本体11a内に凹部16が形成されている(図5参照)。凹部16は、ボス部15のレンズ光軸X方向に対峙してV溝状に形成されている。ボス部15と凹部16は、駆動手段14によるレンズホルダ13の円滑な移動を保障するために、駆動手段14によるレンズホルダ13の通常動作時には非接触の配置関係となるように備えられている。すなわち、駆動手段14の通常動作時にはボス部15と凹部16とが干渉しないように構成されている。
【0023】
続いて、ボス部15と凹部16を備えたことによるレンズ駆動装置10の機能について説明する。
図2は、駆動手段14がレンズホルダ13を保持し、レンズホルダ13をレンズ光軸X方向最前方位置へ移動し、レンズ12の焦点距離を最大倍率の至近距離に合わせた状態を示す。このとき、駆動手段14は通常動作範囲内で反り返り変形を行い、ボス部15は凹部16から大きく離れる。
図3は、駆動手段14がレンズホルダ13を保持し、レンズ12の焦点距離が無限大となるように、レンズホルダ13をケース11内のレンズ光軸X方向最奥に位置させた状態を示す。このとき、駆動手段14は通常動作範囲内で反り返り変形を行い、ボス部15と凹部16とは近接状態になり、接触しない。
上記の駆動手段14の駆動状態、あるいは、駆動手段14が非駆動状態で反り返りを生じていない状態のときに、落下などによりレンズ駆動装置10に大きな衝撃が加わり、レンズホルダ13が通常の動作範囲内の最奥位置よりも更に通常動作範囲外へ瞬間的に移動させられる大きな力が作用する場合、図4に示すように、ボス部15が凹部16に当接し、駆動手段14の通常動作範囲を超えた反り返り変形を該駆動手段14が破壊に至らない範囲内の変形に抑制する。そして、円柱形状のボス部15は、V溝状に形成されている凹部16に両側二線接触状態に受承されるので、衝撃のベクトルが斜め方向となり、衝撃力が緩和されてレンズホルダ13及びレンズ12の損傷を回避すると共に、ボス部15と凹部16との間に調心作用が働き、受承位置が常に一定になる。
【0024】
(その他の実施形態)
以上、本発明に係る実施形態について図面を参照し説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限度で種々の設計変更や工程の変更が可能であり、そのような変更を技術的範囲に含むものである。
【0025】
上記実施形態では、駆動手段14として、高分子アクチュエータを用いたが、これに替えて、ボイスコイルを採用することができる。ボイスコイルを採用する場合には、レンズホルダ13は、括れ部13bを有する必要はない。駆動手段14は、レンズホルダ13をレンズの光軸方向に移動自在に保持し、非駆動時に位置決めできないタイプのアクチュエータを広く含む。
【0026】
上記実施形態では、ボス部15と凹部16とを一対備えたが、設けるスペースが取れるならば、レンズホルダ13の周方向に複数対に備えることが一層好ましい。また、複数のボス部15に対してレンズ光軸X方向に複数の凹部16を備えてもよい。さらに、ボス部15を挟んで、レンズ光軸方向に2個の対峙する凹部16を備えてもよい。
【0027】
上記実施形態では、ボス部15を円柱形に、また凹部16をV溝状に形成したが、この組み合わせに限定されるものではない。
【0028】
上記実施例では、レンズホルダ13にボス部15、ケース11に凹部16を設けたが、レンズホルダ13に凹部16,ケース11にボス部15を設けてもよい。また、凹部は、ケース11、あるいはレンズホルダ13の一部をくり抜いて形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレンズ駆動装置の分解斜視図である。
【図2】図1のレンズ駆動装置の通常状態の縦断正面図である。
【図3】図1のレンズ駆動装置の他の通常状態の縦断正面図である。
【図4】図1のレンズ駆動装置が過度な衝撃を受けた状態の縦断正面図である。
【図5】図1の駆動装置のケースの斜視図である。
【図6】図1の駆動装置のレンズホルダの斜視図である。
【図7】図1の駆動装置の要部の組み立て状態を示す斜視図である。
【図8】図1の駆動装置の駆動手段として使用する高分子アクチュエータに係り、(a)は無通電・無変形状態の斜視図、(b)は通電・反り返り変形状態の斜視図、(c)は断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 レンズ駆動装置
11 ケース
12 レンズ
13 レンズホルダ
14 駆動手段
15 ボス部
16 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、前記ケースに収容されレンズを保持するレンズホルダと、前記ケースに収容され前記レンズホルダをレンズ光軸方向に移動自在に保持し、非駆動時に自己保持機能を有しない駆動手段と、を備えたレンズ駆動装置において、
前記レンズホルダと、前記ケースのいずれか一方には、突出するボス部を設け、他方には、前記ボス部に対峙して前記レンズ光軸方向に凹部を設けたことを特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項2】
前記ボス部は、前記レンズ光軸方向と直角な方向に突出する円柱形状であり、前記凹部はV溝状に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のレンズ駆動装置。
【請求項3】
前記ボス部は、レンズホルダと一体に形成されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載のレンズ駆動装置。
【請求項4】
前記ボス部と前記凹部は、前記駆動手段による前記レンズホルダの通常動作時には非接触の配置関係となるように備えられている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ駆動装置。
【請求項5】
前記ボス部と前記凹部は、前記レンズホルダの周方向に複数対に備えられている、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載のレンズ駆動装置。
【請求項6】
前記駆動手段が、高分子アクチュエータである、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1に記載のレンズ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−54713(P2010−54713A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218394(P2008−218394)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【Fターム(参考)】