説明

レーザー加工布帛と製法

【課題】収縮率の異なる糸条を用意する必要も、糸条の種類に応じた織編組織を設計する手間も、型版を用意する必要もなく、品質の安定したレーザー加工布帛を得る。
【解決手段】熱可塑性合成繊維11を主材とする多数の繊維に成る多繊糸条(13・14)を用いて構成された布帛16の表面にレーザー光線18を当てて、布帛内部の繊維間11b・11bを加熱融着させることなく、布帛表面に露出している多繊糸条の露出面12において隣接している繊維間11a・11aを融着させる。布帛表面に当てるレーザー光線照射装置の照射レンズ17に入射するレーザー光線のビーム径をDとし、照射レンズの焦点距離をfとし、レーザー光線の波長をλとして算定されるレーザー光線のビームスポット径dをd=1.27fλ/Dとし、布帛表面におけるレーザー光線の照射ビーム径径dn を関係式[(4D+d) /5≧dn ≧(D+4d)/5]に従って設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光線を照射して仕上げられるレーザー加工布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シボ模様を有するカーテン地を製造する場合、予め収縮率の異なる数種類の糸条を適当な織編組織に従って織編み込み、必要に応じて高温処理し、それら数種類の糸条を収縮させ、その収縮挙動の違いによってシボ模様を描出する方法が知られている。
熱可塑性繊維布帛に特殊な薬剤や金属粉末等を配合した糊剤を印捺し、赤外線を照射し、その薬剤や発熱する金属粉末を介して糊剤の印捺箇所を熱収縮させてシボ模様を描出する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
熱可塑性繊維布帛の表面にレーザー光線を当てて凹凸賦形加工することは知られている(例えば、特許文献2参照)。
レーザー光線照射装置は、レーザー光線を発振する発振器と、発振器から出射されるレーザー光線を集光して布帛の表面に当てる照射レンズと、発振器から出射されるレーザー光線を照射レンズに導く反射板と、布帛の表面に照射されるビームスポットを移動するスポット部位移動手段と、発振器からビームスポットまでのレーザー光線の光路の距離を演算する光路演算手段と、レーザー光線のビーム径を調整するビーム径調整手段と、光路に応じて照射レンズの焦点を調整する焦点調整手段を具備し、照射レンズから布帛の表面までの距離が変化しても、レーザー光線のビーム径や照射レンズの焦点が調整されてビームスポット径dが一定に保たれるようになっている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平04−308286号公報
【特許文献2】特開昭58−174676号公報
【特許文献3】特開2007−222902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シボ模様を有するカーテン地を製造する場合、予め、収縮率の異なる数種類の熱可塑性繊維糸条を織編組織に従って織編み込み、その収縮率の異なる数種類の熱可塑性繊維糸条を熱収縮させ、その熱収縮時の熱可塑性繊維の収縮挙動の違いによってカーテン地にシボ模様を描出する方法では、予め収縮率の異なる数種類の糸条を用意しておかなければならず、シボ立ち布帛の需要に即応することが出来ず、又、それらの糸条が収縮してシボが発生するために適切な織編組織を設計しなければならず、シボ模様のデザイン設計に制約があり、多様なシボ立ち布帛を得ることは困難である。
【0006】
熱可塑性繊維布帛に特殊な薬剤や金属粉末等を配合した糊剤を印捺して赤外線を照射する方法では、シボ立ち布帛の需要に即応することが出来るものの、シボ模様のデザインに応じた多くの彫刻ロールや捺染スクリーン等の印捺型版を必要とするのでコストアップになり、布帛の種類に応じて赤外線による発熱量や布帛の吸熱量を加減しなければならず、そのコントロールが非常に困難で、異常発熱や吸熱による布帛の物性低下は不可避であり、特に薄手の布帛では品質の安定したシボ立ち布帛は得難い。
【0007】
レーザー光線を照射する方法では、繊維布帛の照射部位が溶融して硬い溶融塊を形成して布帛の風合いを損ない、薄手の布帛では溶融孔が発生し、安定したシボ立ち布帛は得られない。
【0008】
そこで本発明は、予め収縮率の異なる数種類の糸条を用意しておく必要も、それらの収縮率の異なる数種類の糸条に応じた織編組織を設計する手間も工夫も必要とせず、彫刻ロールや捺染スクリーン等の印捺型版を用意する必要もなく、薄手の布帛でも品質の安定したレーザー加工布帛を得ることが出来、デザイン的に多様性に富んだシボ模様を自由に表現し、カーテンその他の室内装飾に適した加工布帛を、需要に応えて迅速且つ経済的に提供することを第1の目的とする。
【0009】
本発明の第2の目的は、熱可塑性繊維布帛の表面にレーザー光線を当てる凹凸賦形加工法(例えば、特許文献2参照)において、発振器からビームスポットまでの光路やビーム径が変化して布帛の表面とビームスポットの間に位置ズレが生じ、凹凸賦形にバラツキが生じることに着目し、その位置ズレやバラツキを積極的に利用し、布帛の表面をビームスポットから離れた位置に設定し、布帛内部の熱可塑性合成繊維を加熱することなく布帛表面に露出している熱可塑性合成繊維だけを加熱して改質し、新規なレーザー加工布帛を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るレーザー加工布帛は、(a) 多数の熱可塑性合成繊維11を主材とする多繊糸条(13・14)を用いて構成された布帛16の表裏何れか少なくとも片面に露出している多繊糸条(13・14)の露出面12において隣接している少なくとも一部の熱可塑性合成繊維間11a・11aが融着しており、(b) その多繊糸条の露出面12から離れた布帛内部における熱可塑性合成繊維間11b・11bが未融着の分離状態にあることを第1の特徴とする。
【0011】
本発明に係るレーザー加工布帛の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(c) 多繊糸条(13・14)が10本以上の熱可塑性合成繊維フィラメント11に成るマルチフィラメント糸であり、(d) その熱可塑性合成繊維フィラメント11の80℃における熱水収縮率が3%以上であり、(e) 布帛16の目付が20〜200g/m2 である点にある。
【0012】
本発明に係るレーザー加工布帛の製法は、(f) レーザー光線照射装置のレーザー光線を出射する照射レンズ17の中心線上において、照射レンズの焦点P0 から焦点距離fの5分の1以上で5分の4以下の扁心距離e(=0.2f〜0.8f)をもって離れた扁心位置Pn に、多数の熱可塑性合成繊維11を主材とする多繊糸条(13・14)によって構成された布帛16の表面を配置し、(g) その表面にレーザー光線を照射し、表面から離れた布帛内部における熱可塑性合成繊維間11b・11bを加熱融着されない分離状態に維持しつつ、その表面に露出している多繊糸条(13・14)の露出面12において隣接している少なくとも一部の熱可塑性合成繊維間11a・11aを加熱融着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
従来技術において、熱可塑性物質に熱を与え立体ひずみを生じさせる方法としては、赤外線ランプを用いることが知られているが、その場合、選択的に熱エネルギーを熱可塑性合成繊維に作用させるためには、予め特殊な薬剤や金属物質を布帛に付与しておかなければならず、又、その照射熱源である赤外線ランプとの距離が変化して熱エネルギーが異常に集中作用し、布帛の物性低下は不可避となる。
【0014】
しかし、本発明では、熱可塑性合成繊維11を主材とする多数の繊維に成る多繊糸条(13・14)を用いて構成された布帛16の表面にレーザー光線18を当て、その表面の熱可塑性合成繊維11aに熱エネルギーによる捩じりと収縮を発生させると共に、その布帛の表面に露出している多繊糸条の露出面12において隣接している熱可塑性合成繊維間11a・11aを融着させ、そのとき発生する捩じり挙動や収縮挙動による熱可塑性合成繊維の変化が固定セットされる。
【0015】
即ち、本発明では、レーザー光線照射装置のレーザー光線を出射する照射レンズ17の中心線上において、照射レンズの焦点P0 から焦点距離fの5分の1以上で5分の4以下の扁心距離e(=0.2f〜0.8f)をもって離れた扁心位置Pn に布帛16の表面が配置される。
【0016】
そうすると、ビームスポット径dと布帛上での照射ビーム径dn が一致せず、照射レンズの焦点P0 から布帛までの扁心距離eに応じてレーザー光線の熱エネルギーが布帛の広い範囲に分散して作用し、布帛上の極く狭い範囲である一点に集中作用しないので、レーザー光線の熱エネルギーを受けて軟化溶融する熱可塑性合成繊維11aは、その布帛を構成している多繊糸条の露出面12に介在する一部の熱可塑性合成繊維11aだけとなり、布帛内部の熱可塑性合成繊維11bはレーザー光線に加熱されずに分離した元の状態に維持され、レーザー加工において布帛16の強度低下を伴わない。
【0017】
本発明を熱水収縮率が3%以上の10本以上の熱可塑性合成繊維フィラメント11に成る目付が20〜200g/m2 の比較的薄手の布帛16に適用する場合、全ての繊維を軟化溶融させて多繊糸条全体(13・14)を収縮させるのではないが、布帛表面に露出して繊維11aが捩じり挙動や収縮挙動をするときは、その隣り合う繊維間11a・11aに位置ズレが起き、それが隣り合う繊維間11a・11aから更に隣り合う布帛内部の繊維間11b・11bへと次々と位置ズレが伝播し、全ての繊維相互間に保たれていた均衡が破れ、その多繊糸条全体に形崩れが起きて発生するものと思われるところ、そのレーザー光線の照射された広い範囲(15)に小皺が顕現してシボ立ち布帛が生成される。
【0018】
又、目付が200g/m2 を超える比較的厚手の布帛16では、露出面12の極く一部の熱可塑性合成繊維11aが軟化溶融するだけで、格別皺立つことがないとしても、その繊維高分子の結晶性や配向性、染色性等が変化して異色に発色するので、霜降ないし梨子地調地模様が描出され、又、所定の構図に従ってレーザー光線18を部分的に照射することによって所要の模様が布帛表面に描出される。
【0019】
そして、多繊糸条の露出面12で隣り合う繊維相互間11a・11aが融着すると、布帛表面に描出された模様が固定され、又、多繊糸条の露出面12が平坦になって光沢を帯び、それがレーザー光線の照射された広い範囲(15)に点在して全体が光沢を帯び、光沢のあるレーザー加工布帛が得られる。
【0020】
レーザー加工中にビームスポット、即ち、照射レンズから出射されるレーザー光線のビーム径d(ビームウェストd)が最小となる照射レンズの焦点P0 の位置を布帛の表面に一致させ続けるためには精密な照射部位移動手段や光路演算手段、ビーム径調整手段、焦点調整手段等の高価な手段を必要とするが、本発明ではビームスポットを布帛の表面に一致させるのではなく、ビームスポットから離れてレーザー光線が広く分散した扁心位置Pn に布帛16を配置するので、照射レンズ17から布帛16までの照射距離Lや布帛に作用する熱エネルギーにバラツキがあっても、そのバラツキはレーザー加工精度のバラツキとはならず、仮に、レーザー加工精度にバラツキが生じるとしても、レーザー加工によって改質される繊維11aが布帛表面の極く一部の繊維に限られ、布帛内部の繊維11bはレーザー光線に影響されないので、レーザー加工布帛の物性品質を不安定にすることはなく、レーザー光線のコントロールも容易で格別高価なレーザー光線照射装置を必要とせず、経済的且つ効率的に本発明を実施することが出来る。
【0021】
又、本発明では、ビームスポットから離れてレーザー光線が広く分散した扁心位置Pn に布帛16を配置して実施するので、シボ立ち布帛を得るために目付が20〜80g/m2 の極く薄手の布帛16を使用するときでも、レーザー光線の熱エネルギーが極く狭い範囲に集中作用して布帛に溶融孔が発生することはなく、却って、熱エネルギーのバラツキに起因する変化に富んだシボ立ち布帛が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に使用するレーザー光線照射装置は、照射レンズの焦点距離fを光学系の調整だけで変更させる機能をもつものでもよく、照射レンズの焦点距離fを光学系の調整だけで変更すると共に照射レンズ17と布帛16との照射距離Lを変化させることによって、布帛上での照射ビーム径dn を変え、レーザー光線の熱エネルギーが分散して布帛に作用する加熱部15の照射面積(範囲)を変化させるものであってもよい。
【0023】
照射レンズ17と布帛16との照射距離Lを変化させる場合、照射されるレーザー光線の布帛表面での照射ビーム径dn を、照射レンズに入射するレーザー光線のビーム径Dと照射レンズの焦点P0 におけるビームスポット径dとの関係が、dn > (D+4d)/5となるように設定する。そのように布帛表面での照射ビーム径dn を設定し、レーザー光線の熱エネルギーが分散して布帛に作用する照射面積が広くなるように照射レンズの焦点距離fを設定すると、布帛が立体状に歪んでいても、レーザー加工に必要な熱エネルギーを布帛に対して作用させることが出来る。
【0024】
特に、(4D+d)/5> dn とする場合には、露出面12の熱可塑性合成繊維間11a・11aが融着し易く、薄手の布帛ではシボの発生に必要な熱エネルギーを安定して作用させることが出来るが、それを越えてdn > (4D+d)/5となると、レーザー光線の熱エネルギーの照射密度そのものが小さくなってしまって、露出面12の熱可塑性合成繊維間11a・11aが融着し難く、薄手の布帛ではシボが発生し難くなる。
【0025】
一方、(D+4d)/5> dn となると、布帛に作用するレーザー光線の照射面積が狭く、レーザー光線の熱エネルギーの照射密度が大きく、レーザー光線の熱エネルギーが一点に集中作用し、レーザー加工精度がばらつき、布帛内部の繊維11bまでもが加熱されて加熱部15に溶融孔が発生し易くなる。
【0026】
従って、ビームスポット(照射レンズの焦点P0 )から照射レンズの焦点距離fの5分の1離れた最小扁心位置P1 (e=0.2f)から照射レンズの焦点距離fの5分の4離れた最大扁心位置P2 (e=0.8f)の間に布帛の加熱部15を設定する。
即ち、照射レンズに入射するレーザー光線のビーム径Dと、照射レンズの焦点距離fとレーザー光線の波長λとから算定されるレーザー光線のビームスポット径dとの関係式[(4D+d) /5 ≧dn ≧(D+4d)/5]を満たすように、布帛に照射されるレーザー光線の照射ビーム径dn を設定する。
【0027】
熱可塑性合成繊維を主材とする多繊糸条(13・14)は、紡績糸、マルチフィラメント、強撚糸の何れであってもよい。熱可塑性合成繊維11には、ナイロン、ビニロン、ポリプロピレン繊維、アルリル繊維、ポリエステル繊維等が使用される。多繊糸条(13・14)には、熱可塑性合成繊維11の熱収縮によるシボの発生の妨げにならない限りにおいて、絹、羊毛、木綿、麻、レーヨン等の非熱可塑性繊維を混用することが出来る。
【0028】
多繊糸条には10本以上のフィラメントに成るマルチフィラメント糸、即ち、単繊維繊度が総繊度の1/10以下のマルチフィラメント糸が使用されるが、その多繊糸条(13・14)を構成するフィラメント11の数が10本未満になると、露出面において隣接しているフィラメント(繊維)11aだけではなく、多繊糸条の露出面12から離れた布帛内部のフィラメント(繊維)11bまでもが融着して布帛の物性低下を招き易くなる。
特に、目付けが20g/m2 〜80g/m2 の極く薄手の布帛16ではレーザー光線の熱エネルギーが極く狭い範囲に集中作用して溶融孔が発生し、物性品質が安定したレーザー加工布帛は得難くなる。
一方、目付けが200g/m2 を超える比較的厚手の布帛では、露出面において隣接しているフィラメント(繊維)11aに捩じりや熱収縮が発生しただけでは、多繊糸条を構成している全てのフィラメント(繊維)間に保たれていた均衡は破れ難く、多繊糸条全体に形崩れが起きることはなく、シボが発生し難くなる。
従って、シボ模様が細かく綺麗に発生し、風合いと美観のバランスのとれた室内装飾に好適なシボ立ち布帛を得るために、布帛の目付けを40g/m2 〜200g/m2 にすることが望ましい。
【0029】
マルチフィラメント糸(13・14)の単繊維繊度は2〜5dtexとし、その総繊度を150〜250dtex前後とし、50〜100本のフィラメント11によってマルチフィラメント糸を構成するとよい。
その場合、織物では経緯の織密度を100本/10cm〜400本/10cmにし、マルチフィラメント糸を構成している50〜100本のフィラメント11の中の10%〜20%のフィラメント11aが露出面12においてレーザー光線の照射を受けて捩れ、熱収縮しつつ融着し合って露出面12にフィルム状に固着するようにする。
【0030】
汎用されるナイロン、ビニロン、ポリプロピレン繊維、アルリル繊維、ポリエステル繊維等の熱可塑性合成繊維は、少なからず熱収縮性を有し、熱収縮によって捩じれが発生するので、本発明に適用することが出来るが、熱収縮率が30%を超える場合には布帛が大きく歪み、凹凸が細かく均一なレーザー加工布帛は得難くなる。
従って、多繊糸条には、JIS−L−1013に規定の80℃における熱水収縮率が3%〜30%、好ましくは10%〜20%の熱可塑性合成繊維を使用する。
【実施例】
【0031】
[布帛の織成]
熱収縮率11.76%のポリエステルフィラメント11に成る80dtex/36fのポリエステルマルチフィラメント糸をS方向に1000回/m加撚して経糸13と緯糸14に用い、ドビー織機によって目付け152g/m2 の生機布帛16を織成する。
【0032】
[照射装置の調整]
レーザー光線照射装置には、レーザー光線のビーム径Dや照射レンズの焦点fの自動調整手段を具備し、照射レンズからビームスポットまでの光路の距離が変化してもビームスポット径dが一定に保たれ、レーザー光線の波長λが10.6μmのCO2 レーザービーム照射装置(coherent社製G−100)を使用し、出力条件を20w、レーザー光線の発振周波数を5kHz、照射レンズ17に入射するレーザー光線18のビーム径Dを30mm、布帛表面を走査するレーザー光線の照射箇所の移動速度を200mm/秒とし、照射レンズの焦点距離fを一旦760mmに設定し、照射レンズの焦点P0 (焦点位置)の高さが228mm高くなる支持台に戴設し、照射レンズ17と生機布帛16との照射距離Lを、照射レンズ17のビームスポット(P0 )から228mm(e=0.3f)離れた扁心位置Pn に設定して、布帛16に照射ビーム径dn が9mmのレーザー光線18を照射する。
【0033】
[レーザー光線照射]
布帛16には、デジタル画像によって10cmの長さの直線Gを格子状に繰り返し描出するように加熱部15を設定し、レーザー光線18を照射する。
【0034】
[照射結果]
レーザー光線を照射して布帛16の加熱部15が収縮し、格子状の加熱部15に囲まれる部分にシボ19が発生した。
レーザー加工中に、照射レンズ17と布帛16との照射距離Lが20mm前後変動したが、その変動に伴う布帛16の加熱部15における照射ビーム径dn は約9.8mmであり、その変動による品質のバラツキはレーザー加工布帛に認められなかった。
布帛16の加熱部15においては、図1に示すように、布帛表面に露出しているポリエステルマルチフィラメント糸(13・14)の露出面12において隣接しているフィラメント繊維間11a・11aが融着し、そのポリエステルマルチフィラメント糸(13・14)の露出面12が極薄のフィルム状になっていることが認められた。
ポリエステルマルチフィラメント糸(13・14)の露出面12から離れた布帛内部における繊維間11b・11bは融着しておらず、図1に示すように、個々の繊維に分離したままの状態であった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るレーザー加工布帛の拡大斜視図である。
【図2】本発明の実施例に使用のレーザー光線照射装置の要部とレーザー加工布帛の拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
11:熱可塑性合成繊維
12:露出面
13・14:多繊糸条(経糸・緯糸)
15:加熱部
16:布帛
17:照射レンズ
18:レーザー光線
19:シボ
D :照射レンズのビーム径
G :加熱部の直線
L :照射距離
0 :焦点
1 :最小扁心位置
2 :最大扁心位置
n :扁心位置
d :ビームスポット径
n :照射ビーム径
e :扁心距離
f :照射レンズの焦点距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の熱可塑性合成繊維(11)を主材とする多繊糸条(13・14)を用いて構成された布帛(16)の表裏何れか少なくとも片面に露出している多繊糸条(13・14)の露出面(12)において隣接している少なくとも一部の熱可塑性合成繊維間(11a・11a)が融着しており、
その多繊糸条の露出面(12)から離れた布帛内部における熱可塑性合成繊維間(11b・11b)が未融着の分離状態にあるレーザー加工布帛。
【請求項2】
多繊糸条(13・14)が10本以上の熱可塑性合成繊維フィラメント(11)に成るマルチフィラメント糸であり、
その熱可塑性合成繊維フィラメント(11)の80℃における熱水収縮率が3%以上であり、
布帛(16)の目付が20〜200g/m2 である前掲請求項1に記載のレーザー加工布帛。
【請求項3】
レーザー光線照射装置のレーザー光線を出射する照射レンズ(17)の中心線上において、照射レンズの焦点(P0 )から焦点距離fの5分の1以上で5分の4以下の扁心距離(e)をもって離れた扁心位置(Pn )に、多数の熱可塑性合成繊維(11)を主材とする多繊糸条(13・14)によって構成された布帛(16)の表面を配置し、
その表面にレーザー光線を照射し、表面から離れた布帛内部における熱可塑性合成繊維間(11b・11b)を加熱融着されない分離状態に維持しつつ、その表面に露出している多繊糸条(13・14)の露出面(12)において隣接している少なくとも一部の熱可塑性合成繊維間(11a・11a)を加熱融着させるレーザー加工布帛の製法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−91708(P2009−91708A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266167(P2007−266167)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】