説明

レーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造方法

【課題】厚膜のレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版を効率よく製造することを課題とする。
【解決手段】(1)反応性樹脂組成物を調製する工程、(2)反応性樹脂組成物を離型体上にキャスティングする工程、および(3)キャスティング膜を乾燥して離型体から剥離し、独立したシートを形成する工程、を少なくとも含むレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造方法。独立したシートを形成することで、両面乾燥が可能となり、反応性樹脂組成物から溶媒を乾燥させる時間を短縮することができ、フレキソ印刷版原版のような厚膜品を効率よく製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版原版の製造方法、特にレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に凹凸(レリーフ)を形成してフレキソ印刷版を形成する方法としては、原画フィルムを介して感光性樹脂組成物からなるフレキソ印刷版原版を紫外光で露光し、画像部分を選択的に硬化させて、現像液を用いて未硬化部を除去する方法、いわゆるアナログ製版が良く知られている。
【0003】
アナログ製版は、銀塩材料を用いた原画フィルムを必要とするため、原画フィルムの製造時間およびコストを要する。さらに、原画フィルムの現像に化学的な処理が必要で、かつ現像廃液の処理をも必要とすることから、環境衛生上の不利を伴う。そこで近年、レーザーでレリーフを彫刻する方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、感光性のフレキソ印刷版原版に紫外光を照射し、光硬化した原版を炭酸ガスレーザーで彫刻して印刷レリーフを形成する方法が提案されている。しかし、この手法の場合、光硬化により印刷版の必要な機械的強度を発現させるため、紫外光を遮断する物質、例えばカーボンブラックを添加することができない。
【0005】
例えば特許文献2および特許文献3では、彫刻感度を増す目的で、レーザー彫刻されるべきエラストマー層に赤外線を吸収する物質を添加することが提案されている。しかし、この種の物質、例えばカーボンブラックは紫外光吸収機能をも有するので、エラストマー層の全厚を紫外光で光硬化することは困難である。そこでエラストマー層に熱重合開始剤を添加し、この層を熱架橋することが提案されている。しかし実際に層を形成するにあたり、混練あるいは2軸スクリュー押出機では、その高い作業温度および/または高い剪断応力により製造途中で速すぎる熱架橋が起こりうるので、安定製造は困難である。
【0006】
また、フレキソ印刷版の厚さは通常0.5〜7mmと厚膜なので、平版のような0.1μm〜10μmの薄膜形成品に比べて、製造効率が著しく低いという課題がある。
【0007】
レーザー彫刻用のフレキソ印刷版原版の厚膜品を形成する方法がいくつか提案されている。
【0008】
特許文献4では、基板に架橋性樹脂組成物の溶液を流延して形成する方法が提案されているが、片面乾燥なので、溶媒の揮発が遅く、生産効率が悪いという課題がある。また、熱重合開始剤を含有する架橋性樹脂組成物の記載があるが、該組成物を熱安定的に製造することは困難であった。
【0009】
特許文献5では、無溶媒系で混練押し出しする方法が提案されているが、(1)担体樹脂が熱可塑性あるいは熱溶融温度の低いポリマーに限定される、(2)実質無溶媒なので、調製の混練時に高いシェアがかかり、反応性のある樹脂組成物を成形するには適さないという課題があった。
【0010】
特許文献6では、反応性樹脂組成物を2層に分けて分割設置し、経時で組成物、特に熱重合開始剤を物質移動させる方法が提案されているが、精度良く物質移動させることが困難で、安定生産には適さないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,259,311号明細書(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表平7−506780号公報(第5頁および第8頁)
【特許文献3】特表平7−505840号公報(第7頁、第11頁および第12頁)
【特許文献4】特開2006−2061号公報(第10頁、第16頁および第17頁)
【特許文献5】特開2008−229875号公報(第7頁〜第10頁)
【特許文献6】特表2004−522618号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
厚膜のレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版を効率よく製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)反応性樹脂組成物を調製する工程、(2)反応性樹脂組成物を離型体上にキャスティングする工程、(3)キャスティング膜を乾燥して離型体から剥離し、独立したシートを形成する工程、を少なくとも含むレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
乾燥効率が向上し、安価に厚膜のフレキソ版原版を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】工程(1)および工程(2)の概略図である。
【図2】工程(3)および工程(3’)の概略図である。
【図3】工程(4)の概略図である。
【図4】工程(5)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版は、少なくとも彫刻されるべき彫刻層を有する。必要に応じて、支持体を有してもよく、彫刻層表面に一時的支持体を有しても良い。また、支持体と彫刻層の間に接着層を有してもよく、彫刻層から一時的支持体を剥離するアシストの目的でスリップコート層を設けも良い。
【0017】
本発明は、レーザー彫刻用のフレキソ印刷版原版の機能層である彫刻層を如何に効率よく製造できるかを提案するものである。フレキソ印刷版の厚さは通常0.5mm〜7mmと厚く、フレキソ印刷版の大部分を占める層、本発明では彫刻層の厚さも0.4mm〜6mmと厚い。このような厚膜である彫刻層を製造する方法として、下記の形態を提案する。
【0018】
本発明の彫刻層を製造するに好適な形態によると、(1)反応性樹脂組成物を調製する工程、(2)反応性樹脂組成物を離型体上にキャスティングする工程、(3)キャスティング膜を乾燥して離型体から剥離し、独立したシートを形成する工程を含む。
【0019】
ここでいう反応性樹脂組成物とは、光、熱、電子線などの作用により重合反応、縮合反応、架橋反応が進行する組成物のことを言う。使用できる材料の反応性が広がることから、反応性樹脂組成物は溶媒を含有することが好ましい。また反応性樹脂組成物が溶媒を含有しないと、反応性樹脂組成物を混合するのに高温を要し、また反応物の濃度が高くなるため、反応性樹脂組成物を安定に製造するのが困難となる。反応性樹脂組成物中の溶媒の含有率は、反応性樹脂組成物の全重量に対して70重量%以下が好ましく、10重量%〜50重量%がさらに好ましい。溶媒の含有率を70重量%以下とすることで、溶媒の揮発時間を製造プロセスに適応できる程度に抑えることができる。溶媒の沸点は110℃以下が好ましく、80℃以下がさらに好ましい。溶媒の沸点を110℃以下とすることで、溶媒揮発速度が速くなり、製造コストが低下するからである。このような溶媒として、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンを挙げることができる。これら溶媒は、単独で用いても良いし、2種以上併用してもより。沸点が110℃より高い溶媒を含有しても良いが、溶媒の揮発効率を鑑みて、全溶媒の10重量%以下とすべきである。
【0020】
以下に、反応性樹脂組成物について詳細を述べる。
【0021】
彫刻層に求められる機能は、主にAインキ耐性、B耐刷性、Cレーザー彫刻性である。
【0022】
Aインキ耐性のある彫刻層を用いることで、フレキソ印刷中に彫刻層の物性が変化することなく、もしくは物性変化が少なく、ロングラン印刷が安定して行える。フレキソ印刷に一般に用いられるインキ(例えば、水性インキ、UVインキ、溶剤インキ)に対して彫刻層が膨潤しない、もしくは膨潤度が低いことが好ましい。所定のインキに30℃で24時間浸積処理した前後で、彫刻層の重量、厚み、硬度の変化率が−10%〜+10%であることが好ましい。硬度は、フレキソ版の硬度を測定するのに一般的に用いられているショアA硬度計で簡便に測定できる。
【0023】
彫刻層の膨潤度を抑えるには、インキと極性の異なる主成分ポリマーを用いることで達成できる。例えば、(i)水性インキ耐性のある彫刻層を得るには、水不溶性であるゴムを主成分ポリマーとすることで達成できる。このようなゴムとして、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、スチレンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴムのような合成ゴム、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体(SIS)のような熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。
【0024】
また、(ii)UVインキ耐性のある彫刻層を得るには、上記ゴムを用いても良いし、ポリアミドや部分鹸化ポリビニルアルコールの如き可溶性樹脂を用いることでも達成できる。UVインキは基本的に無溶媒であるので、ポリマー選定の幅は比較的広いが、UVインキに主成分として用いられるモノマーの種類が、インキメーカーやインキ品番により異なるので、上記主成分ポリマーのなかでもインキによっては耐性が不足することがある。なかでも、水溶性樹脂である部分鹸化ポリビニルアルコールは、その強い水素結合力により多くのモノマーに対して耐性を発現するので、UVインキ耐性用の主成分ポリマーとして好ましく用いることができる。部分鹸化ポリビニルアルコールは、水酸基の少なくとも一部が変性されているものも好適に使用できる。水酸基の少なくとも一部を(メタ)アクロイル基に変性したポリマーが特に好ましく用いられる。ポリマー成分に未反応の架橋性官能基を直接導入することで、後述するエチレン性不飽和モノマーとして多官能モノマーを多量に用いることなく、レリーフ層の強度を高めることができ、レリーフ層の柔軟性と強度とを両立することができるからである。
【0025】
彫刻層中の上記主成分ポリマーの含有量は、彫刻層の固形分全重量に対し15重量%〜80重量%が好ましく、30重量%〜65重量%がより好ましい。主成分ポリマーの含有量を15重量%以上とすることで、必要なインキ耐性を得ることができ、80重量%以下とすることで、他成分が不足することがなくフレキソ印刷版として使用するに足る柔軟性が得られるためである。
【0026】
彫刻層は上記の主成分以外のポリマーを含有してもよく、その場合の主成分ポリマーとの合計の含有量は、彫刻層の固形分全重量に対し30重量%〜80重量%が好ましく、40重量%〜70重量%がより好ましい。ポリマーの合計の含有量を30重量%以上とすることで原版のコールドフローを防止することが可能で、80重量%以下とすることで他の成分が不足することがなく、フレキソ印刷版として使用するに足る耐刷性が得られるためである。
【0027】
B耐刷性とは、印刷に耐えうる機械的強度のことを示し、耐刷性のあるフレキソ印刷版を用いることで、ロングラン印刷後も、レリーフ欠け、レリーフ崩れが発生せず、安定した刷り物を得る事ができる。
【0028】
彫刻層に耐刷性を付与するには、彫刻層に架橋構造を導入することで達成できる。その手段としては、彫刻層に(i)エチレン性不飽和モノマーおよび(ii)重合開始剤を添加し、光あるいは熱をトリガーとしてモノマーを重合させる方法を挙げることができる。(i)エチレン性不飽和モノマーは上述のポリマー成分と相溶性があり、かつ少なくとも1種以上の重合可能なエチレン性不飽和二重結合を含有するものである。好適なモノマーは、一般に大気圧下100℃以上の沸点を有し、重量平均分子量3000以下、好ましくは2000以下のものである。好適な構造のモノマーとして、単官能または多官能のアルコール、アミン、アミノアルコール、ヒドロキシエーテルまたはヒドロキシエステルと、(メタ)アクリル酸のエステルまたはアミドである。一例として、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。異なるモノマーの混合物を使用することもできる。
【0029】
彫刻層中のエチレン性不飽和モノマーの含有量は、彫刻層の固形分全重量に対し10重量%〜60重量%が好ましく、15重量%〜40重量%がより好ましい。エチレン性不飽和モノマーの含有量を10重量%以上とすることでフレキソ印刷版として使用するに足る耐刷性が得られ、60重量%以下とすることでフレキソ印刷版として使用するに足る柔軟性が得られるためである。
【0030】
(ii)重合開始剤は、エチレン性不飽和モノマーの架橋の開始剤として作用するが、ポリマーに架橋性官能基を導入した場合には、その架橋にも寄与する。このような重合開始剤としては、例えば紫外光のような活性光線を照射することによりラジカルを発生させる(a)光重合開始剤を用いるのが好ましいが、加熱することによりラジカルを発生する(b)熱重合開始剤を用いても良い。
【0031】
(a)光重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトンなどのアセトフェノン系化合物、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイドなどのベンゾフェノン系化合物、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンなどのチオキサントン系化合物、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)などのアミン系化合物や、ベンジルジメチルケタールなどベンジル系、カンファーキノン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノンなどが好ましく用いられる。これらを単独で、もしくは2種以上組み合わせて用いても良い。
【0032】
(b)熱重合開始剤としては、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化tert−ブチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、過酢酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルなどの過酸化物、2,2’−アゾビスプロパン、1,1’−アゾ(メチルエチル)ジアセテート、2,2’−アゾビスイソブチルアミド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物やベンゼンスルホニルアジド、1,4−ビス(ペンタメチレン)−2−テトラゼンなどが好ましく用いられる。これらを単独で、もしくは2種以上組み合わせて用いても良い。
【0033】
彫刻層中の重合開始剤の含有量は、彫刻層の固形分全重量に対し0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.1重量%〜3重量%がより好ましい。重合開始剤の含有量を0.01重量%以上とすることで彫刻層の架橋が速やかに行われ、10重量%以下とすることで他成分が不足することがなく、フレキソ印刷版として使用するに足る耐刷性が得られるためである。
【0034】
Cレーザー彫刻性とは、彫刻用のレーザーで彫刻されうる性能のことを言い、彫刻層にレーザーの波長領域の吸収剤を添加することなどにより達成できる。炭酸ガスレーザーの波長領域は11μm近傍にあり、ポリマーは概してこの波長領域に吸収を有するので、必ずしもレーザー吸収剤を添加する必要はない。これに対して、半導体レーザー、YAGレーザーやファイバーレーザーのような近赤外レーザーの発振波長は860〜1150mmであり、この波長領域に吸収を有するポリマーは少ないので、近赤外レーザーに対応したレーザー彫刻用材料を得るにはレーザー吸収剤を添加することが好ましい。
【0035】
このようなレーザー吸収剤として、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、スクアリリウム染料、ポリメチン染料、ニグロシン染料、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛のような金属粉などが挙げられる。
【0036】
その他必要に応じて、彫刻層は可塑剤、熱安定剤、光吸収剤、染料などの添加剤を含有しても良い。
【0037】
以下、反応性樹脂組成物を調製する工程(1)について図1を用いて説明する。反応性樹脂組成物は、ポリマー、エチレン性不飽和モノマーおよび重合開始剤、必要に応じて、レーザー吸収剤、可塑剤、熱安定剤等を溶媒に溶解させることによって製造できる。実際に彫刻層を形成する固形分である、溶媒以外の成分のうち、ポリマーの溶解速度が律速となりやすいので、最初にポリマーを溶媒で溶解した後に、その他の成分を添加、混合することが好ましい。また、反応性を有するエチレン性不飽和モノマーや重合開始剤は調製の最後の段階で添加、混合することが好ましい。反応性樹脂組成物を調製する際には、調製に要する時間を短縮する目的で、さらには溶解に必要な溶媒を減らし、後述の工程(3)での溶媒の揮発時間を短縮する目的で、加温条件で混合することが好ましい。
【0038】
ポリマー溶解時の温度は30℃〜150℃が好ましく、70℃〜130℃がさらに好ましい。ポリマー溶解温度を30℃以上とすることで、ポリマー溶解時間を短縮することができ、150℃以下とすることで溶解に必要な用役コストを抑制することができる。溶媒の沸点より高い温度でポリマー溶解を行う場合は、溶解を密封系の圧力容器で行うことで対応できる。またポリマー溶解は粉体爆発防止の観点から、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0039】
反応性を有するエチレン性不飽和モノマーや重合開始剤を添加した後の保管温度は、30℃〜90℃が好ましく、40℃〜90℃がさらに好ましい。保管温度を30℃以上とすることで、保温用に冷却チラーの用役コストを必要とせず、90℃以下とすることで、反応性樹脂組成物の反応進行が遅くなり、反応性樹脂組成物を安定に保管することができる。
【0040】
ポリマー溶解と添加物混合、反応性樹脂組成物の保管は、同一の反応容器で行っても良いし、別々の容器で行っても良い。
【0041】
反応性樹脂組成物は、保管温度における組成物の粘度上昇率が24時間で10%以内が好ましく、5%以内がさらに好ましい。反応性樹脂組成物の保管は、調製に用いた密封容器で行っても良いし、別容器で行っても良いが、反応性樹脂組成物中の溶媒揮発による組成変化を防ぐために、密封系であることが好ましい。また、本発明の反応性樹脂組成物は、溶媒の含有率から例えば50 poise以上の高粘度となる事が多く、容器から反応性樹脂組成物を送液するため加圧することがあるので、反応性樹脂組成物の保管は、耐圧容器であることがさらに好ましい。
【0042】
液調後、反応性樹脂組成物中の気泡を取り除く脱泡を行うことが好ましい。脱泡は、長時間整置することでも達成できるが、反応性樹脂組成物が高粘度の場合には整置時間が長くなる。よって、減圧により脱泡することが好ましい。減圧により気泡だけでなく、溶媒を少量揮発するので、若干の濃縮を行っても良い。濃縮量を管理することで、特定の組成比の反応性樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
次に工程(2)について図1を用いて説明する。本発明の工程(2)では、工程(1)で調製した反応性樹脂組成物を離型体(21)上にキャスティングして、ウェット膜(22)を形成する。このウェット膜(22)は乾燥手段(31)で溶媒を乾燥した後で彫刻層を形成するので、フレキソ印刷版原版の膜厚制御の観点から、膜厚精度のよいウェット膜をキャスティングする必要がある。そのため、反応性樹脂組成物は幅方向に組成物が均一に広がる様に設計された口金(14)を介して吐出する事が好ましい。このような口金(14)としてTダイ、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイ、スリットダイコーターが挙げられる。これらのなかでも、コートハンガーダイおよびフィッシュテールダイは、口金内の異常滞留が少ないので、反応性樹脂組成物を吐出する口金として特に好ましく用いられる。
【0044】
反応性樹脂組成物は温度管理の観点から、温度管理された送液ライン(12)で、保管容器(11)と口金(14)を繋ぐことが好ましい。送液ライン(12)とは、反応性樹脂組成物の容器(11)から口金(14)へ、反応性樹脂組成物を送液する配管をいう。このような送液ライン(12)として、二重管、リボンヒーターを巻き付けた単管を挙げることができる。熱効率および温度安定性の面で、二重管を用いることが好ましい。二重管の外側配管を、温度管理した熱媒、例えば温水で循環することで、内側配管を通る反応性樹脂組成物を一定温度に保温することができる。
【0045】
口金(14)へある所定量で一定に送液するには、(i)保管容器(11)から流体運送機(13)に反応性樹脂組成物を強制供給し、(ii)流体運送機(13)で一定量口金(14)へ送液することで達成できる。
【0046】
(i)保管容器(11)から流体運送機(13)に反応性樹脂組成物を強制供給する手段として、反応性樹脂組成物をアスピレーターなどで吸引する方法、反応性樹脂組成物の保管容器(11)を流体運送機(13)より高高度に配置し、重力で自然供給する方法、保管容器(11)を加圧して反応性樹脂組成物を圧送する方法を挙げることができる。
【0047】
(ii)流体運送機(13)としては、モーノポンプ、タービンポンプ、ボリュートポンプ、多段ポンプ、軸流ポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイアグラムポンプ、ギアポンプ、ナッシュポンプ、摩擦ポンプ、アシッドエッグ、噴出ポンプなどが挙げられ、送液量や液の粘度、配管内圧等によって適宜選択できる。
【0048】
また、流れ方向に均一な膜厚精度のウェット膜(22)を得るために、離型体(21)は速度制御された搬送手段、例えばコンベアベルト(23)によって一定速度で搬送することが好ましい。あるいは離型体(21)の位置を固定し、口金(14)を一定速度で離型体に沿ってその上を移動させてもよい。
【0049】
離型体(21)とは、キャスティング膜(22)から溶媒を揮発させた後、溶媒の一部を揮発させた後、あるいは溶媒を揮発させる前の時点で、キャスティング膜(22)と強固な密着をせず、キャスティング膜単体を剥離できる担体のことを言う。このような離型体(21)として、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、PETフィルム、PPフィルム等を挙げることができる。離型体(21)はその表面がこれら材料で覆われておればよく、例えばステンレススチール板上にシリコーン樹脂を塗布したものでも良い。また離型体は上記コンベアベルト(23)と一体化していても良いし、コンベアベルト(23)上に載せるだけでも良い。
【0050】
次に工程(3)および(3’)について図2を用いて説明する。本発明の工程(3)では、キャスティング膜(22)を乾燥して離型体(21)から剥離し、独立したシート(32)を形成する。ここでいう独立したシート(32)とは、反応性樹脂組成物のみでシート状に形成されたものを言い、25℃でのシート強度が6N/cm以上であることが好ましく、10N/cm以上が更に好ましい。シート強度を6N/cm以上とすることで、シートが切れることなく独立したシートを剥離することができる。シート強度の測定サンプルは、JIS K 6251 3号記載のダンベルを用いて、測定幅5.0mmの部分を有する形状にシートを打ち抜くことで作製する。ばね式はかりの上部を固定し、下部に測定サンプルを取り付け、およそ2〜4cm/秒の速度で測定サンプルを下方に引っ張り、シートが破断する際の目盛りA[単位:g]を読みとる。これを5回測定し、その平均値をAx[単位]とすると、そのシートのシート強度P[単位:N/cm]は、P=9.8*Ax/(1000*0.5)で算出できる。
【0051】
キャスティング膜を離型体(21)から剥離するには、キャスティング膜(22)を乾燥し、溶媒を揮発させることで達成できる。キャスティング膜状での乾燥は、乾燥時間が長いほど溶媒が揮発するので、シート強度が高くなり、独立したシートを形成しやすくなる。しかし、乾燥面は離型体(21)とは反対側の面のみで、溶媒の揮発効率が悪いので、剥離前の乾燥はシート強度が得られる程度に留めることが好ましい。この際の乾燥温度は使用している溶媒の沸点より低い温度であることが好ましい。溶媒の沸点以上の温度で乾燥すると、溶媒の突沸によりシート中に気泡が発生しやすいからである。
【0052】
工程(3)の後に、独立したシートから溶媒を揮発させる工程(3’)をさらに含むことが好ましい。独立したシート(32)は両面が覆われておらず、両面乾燥が可能となる。両面乾燥することで、フレキソ版に必要なドライ膜厚0.4mm〜6mmの厚膜品を効率よく製造することができる。この時の乾燥温度も、工程(3)と同様使用している溶媒の沸点より低い温度であることが好ましい。溶媒の沸点以上の温度で乾燥すると、溶媒の突沸によりシート中に気泡が発生しやすいからである。
【0053】
さらに必要に応じて、図3に示す(4)工程(3)で得られたシートすなわち彫刻層シート(32)と、接着層が塗布された支持体(42)とをラミネートしてシート/接着層/支持体の積層体(43)とする工程を含んでも良い。支持体とは寸法安定性を付与する目的や、柔軟な彫刻層に対し適度なこしの強さを与えて取扱い性を改善する目的で設置される。
【0054】
彫刻層シート(32)と接着層が塗布された支持体(42)とをラミネートするには、彫刻層シート(32)と接着層が塗布された支持体(42)とを直接圧着する方法、溶媒あるいは彫刻層シートを膨潤する能力のある薬液、彫刻層と親和性のあるモノマーでシートあるいは接着層を湿潤させた後に、両者を圧着する方法が挙げられる。圧着手段は、プレス機でプレスする方法、カレンダリングロール(41)でニップする方法が挙げられ、これら圧着は例えばプレス機やロールを適当な温度、例えば100℃に加熱した条件で行っても良い。
【0055】
本発明における支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定なものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET、PBT、PAN)やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。なかでも、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムやスチール基板が好ましく用いられる。支持体の厚さは一般的に50μm〜350μmが好ましく、75μm〜250μmがさらに好ましい。
【0056】
彫刻層シート(32)と支持体とは、お互いに接着性を有していないことが多いので、両層間の接着力を強化する目的で接着層を設けても良い。接着層は、彫刻層シート(32)と支持体の両者と親和性のある材料を設けることで、目的の性能を得ることができる。例えば、彫刻層シート(32)が部分鹸化ポリビニルアルコールを含有し、支持体がポリエステルフィルムである場合、部分鹸化ポリビニルアルコールとポリエステル樹脂を含む組成の接着層を設けることで、彫刻層シート(32)と支持体とを強固に接着することができる。接着層に用いる材料は、彫刻層シート(32)や支持体に用いられている材料と同一または同種のポリマーであることが好ましい。同種のポリマーとは、化合物の主骨格が同じであるが、分子量、純度、官能基量が異なるものの事を言う。つまり、彫刻層が重合度500、平均鹸化度82%の部分鹸化ポリビニルアルコールを含有する場合、接着層は同スペックの部分鹸化ポリビニルアルコールを含有してもよく、あるいは水酸基の一部をカルボン酸変性した部分鹸化ポリビニルアルコールを含有しても良いし、鹸化度の異なる、例えば鹸化度70%の部分鹸化ポリビニルアルコールを含有しても良い。
【0057】
接着層は1層でもよいし、2層以上の複層であってもよい。彫刻層シートの材料と支持体の極性、例えば溶解度パラメータ(SP値)が近ければ、それぞれの材料が混合しやすく1層の接着層を形成することができるが、例えば部分鹸化ポリビニルアルコール(SP値:12.6)とポリエステル樹脂(SP値:10.7)のように極性が大きく異なる場合、相溶性が悪く、両者を混合することは困難である。そのような場合には、相溶性改善のために、両者の中間の極性の材料(例えば、フェノール樹脂)を相溶化剤として添加することも可能であるが、接着層を2層にすることでも対応できる。彫刻層シート(32)側の第2接着層が彫刻層の材料である部分鹸化ポリビニルアルコールを含有し、支持体側の第1接着層が支持体と同種のポリエステル樹脂を含有し、第1接着層と第2接着層とを接着する材料を、両層あるいはどちらから一方の層に添加することで、目的の接着を得ることができる。両層を接着する材料とは、上述の中間極性の材料であっても良いし、モノマーの重合や、イソシアネートと水酸基の縮合のような化学反応を利用したものでもよい。
【0058】
ここで、接着力とは支持体/接着層間および接着層/彫刻層間の接着力の両者を意味する。支持体/接着層間の接着力は、支持体/接着層/彫刻層からなる積層体から接着層および彫刻層を400mm/分の速度で剥離する際、サンプル1cm幅当たりの剥離力が1.0N/cm以上または剥離不能であることが好ましく、3.0N/cm以上または剥離不能であることがより好ましい。接着層/彫刻層間の接着力は、接着層/彫刻層から接着層を400mm/分の速度で剥離する際、サンプル1cm幅当たりの剥離力が1.0N/cm以上または剥離不能であることが好ましく、3.0N/cm以上または剥離不能であることがより好ましい。
【0059】
さらに必要に応じて、図4に示す(5)彫刻層シート(32)と一時的支持体(52)とをラミネートする工程を含んでも良い。一時的支持体(52)は、彫刻層表面への傷・凹み防止の目的で、あるいは柔軟な彫刻層に対し適度なこしの強さを与えて取扱い性を改善する目的で設置される。彫刻層は、レーザー彫刻後にレリーフが造形される部分となり、そのレリーフ頂部表面はインキ着肉部として機能するためである。
【0060】
一時的支持体(52)は、薄すぎると傷・凹み防止の効果が得られず、厚すぎると取り扱いが不便になり、コスト高にもなる。よって、一時的支持体(52)の厚さは25μm〜500μmが好ましく、50μm〜200μmがより好ましい。
【0061】
一時的支持体(52)は、印刷版の保護フィルムとして公知の材質、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)のようなポリエステル系フィルム、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のようなポリオレフィン系フィルムを用いることができる。またフィルムの表面はプレーンでもよいし、マット化されていても良い。
【0062】
彫刻層上に一時的支持体(52)を設ける場合、一時的支持体(52)は剥離可能でなければならない。一時的支持体が剥離不可能もしくは困難な場合や、逆に彫刻層と一時的支持体(52)の接着が弱く剥がれやすい場合には、両層間に反応性樹脂組成物中と同一または同種のポリマーを含有する層を設けてもよい。反応性樹脂組成物中と同一または同種のポリマーを含む層を設けることで、反応性樹脂組成物から形成される彫刻層との接着性を得ることができる。また反応性樹脂組成物中と同一または同種のポリマーを含む層中のポリマーの含有量は、70重量%層以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。ポリマーの含有率を70重量%以上とすることで、粘着性のある低分子成分、例えばエチレン性不飽和モノマーの含有率が相対的に低くなるため、一時的支持体(52)との接着力が低下し、一時的支持体(52)を剥離しやすくなる。
【0063】
彫刻層(54)あるいは彫刻層シート(32)(および反応性樹脂組成物中と同一または同種のポリマーを含む層)/一時的支持体(52)の積層体から、一時的支持体(52)を200mm/分の速度で剥離する時、1cm当たりの剥離力が5〜200mN/cmであることが好ましく、10〜150mN/cmがさらに好ましい。5mN/cm以上であれば、作業中に一時的支持体(52)が剥離することなく作業でき、200mN/cm以下であれば無理なく一時的支持体(52)を剥離することができる。反応性樹脂組成物中と同一または同種のポリマーを含む層は、一時的支持体(52)を剥離後に彫刻層側に残存しても良いし、一時的支持体(52)ともに剥離されても良い。
【0064】
工程(5)のラミネートは、加熱したカレンダーロール(51)などで一時的支持体(52)と彫刻層シート(32)とを圧着する方法や、彫刻層シート(32)表面を少量の溶媒で含浸させた後に、一時的支持体(52)を密着させる方法によって行うことができる。あるいは、彫刻層シート(32)と一時的支持体(52)の間に、彫刻層シート(32)と同組成あるいは類似組成の組成物(53)を流延して挟み込みことでも、両者をラミネートできる。特に後者の方法では、挟み込んだ後にクリアランスを均一に制御したカレンダーロール(51)を通すことで、ラミネート後の厚みを均一にすることができるので好ましく用いられる。この際、必要に応じてカレンダーロール(51)を加熱しても良い。後者の方法の場合、彫刻層シート(32)と、彫刻層シートと同組成あるいは類似組成の組成物(53)は、経時で一体化し彫刻層(54)を形成する。それ以外の場合、彫刻層シート(32)が彫刻層(54)となる。
【0065】
さらに、(6)彫刻層を架橋する工程を含んでも良い。彫刻層(54)が光重合開始剤を含有する場合は、一時的支持体(52)を介して、あるいは一時的支持体(52)を剥離後、あるいは支持体を介して、紫外光のような活性光線を照射することで彫刻層を架橋することができる。彫刻層が熱重合開始剤を含有する場合には、レーザー彫刻用フレキソ印刷版原版を加熱することで、彫刻層(54)を架橋することができる。加熱手段としては、原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内に所定時間静置する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。
【0067】
<接着層を塗布した支持体1の作製>
“バイロン”31SS(不飽和ポリエステル樹脂のトルエン溶液、東洋紡績(株)製)260重量部および“PS−8A”(ベンゾインエチルエーテル、和光純薬工業(株)製)2重量部の混合物を70℃で2時間加熱後30℃に冷却し、エチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート:7重量部を加えて2時間混合した。さらに、“コロネート”3015E(多価イソシアネート樹脂の酢酸エチル溶液、日本ポリウレタン工業(株)製)25重量部および“EC−1368”(工業用接着剤、住友スリーエム(株)製)14重量部を添加し、第1接着層用の塗工液組成物を得た。
【0068】
“ゴーセノール”KH−17(鹸化度78.5%〜81.5%のポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)50重量部を“ソルミックス”H−11(アルコール混合物、日本アルコール(株)製)200重量部および水200重量部の混合溶媒で70℃で2時間溶解させた後、“ブレンマー”G(グリシジルメタクリレート、日本油脂(株)製)1.5重量部を添加して1時間混合し、さらに(ジメチルアミノエチルメタクリレート)/(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)/(メタクリル酸)共重合体(共重合比:67/32/1)3重量部、“イルガキュア”651(ベンジルジメチルケタール、チバ・ガイギー(株)製)5重量部、“エポキシエステル”70PA(プロピレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物、共栄社化学(株)製)21重量部およびエチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート20重量部を添加して90分間混合し、50℃に冷却後“メガファック”F−470(パーフルオロアルキル基含有オリゴマー、大日本インキ化学工業(株)製)0.1重量部添加して30分間混合して第2接着層用の塗工液組成物を得た。
【0069】
支持体として用いる厚さ188μmの“ルミラー”#188T60(ポリエステルフィルム、東レ(株)製)上に、第1接着層用の塗工液組成物を乾燥後膜厚が30μmとなるようバーコーターで塗布し、180℃のオーブン中に3分間入れて溶媒を除去後、その上に第2接着層用の塗工液組成物を乾燥膜厚が18μmとなるようバーコーター塗布し、160℃のオーブンで3分間乾燥させ、第2接着層/第1接着層/支持体の積層体である接着層を塗布した支持体1を得た。
【0070】
第1接着層は、主原料がポリエステル樹脂であり、支持体であるポリエステルフィルムと類似の組成であるため、支持体と良好な接着力を有する。第2接着層は主原料がポリビニルアルコールであるため、同じくポリビニルアルコールを主原料とする彫刻層に対して、良好な接着力を有する。第1接着層と第2接着層は、両層ともに(メタ)アクリレートモノマーを含有しており、両層の接着力は良好である。
【0071】
<スリップコート層を塗布した一時的支持体1の作製>
“ゴーセノール”AL−06(鹸化度91%〜94%のポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)4重量部を水55重量部、メタノール14重量部、n−プロパノール10重量部およびn−ブタノール10重量部の混合溶媒に溶解させ、スリップコート層用の塗工液組成物を得た。
【0072】
厚さ100μmのポリエステルフィルム“ルミラー”#100S10(東レ(株)製)上に、上記スリップコート層用の塗工液組成物をバーコーターを用いて乾燥膜厚が1.0μmになるように塗布し、100℃で25秒間乾燥し、スリップコート層/一時的支持体の積層体であるスリップコート層を塗布した一時的支持体1を得た。
【0073】
<親水性ポリアミド樹脂1の合成>
ε−カプロラクタム10重量部、N−(2−アミノエチル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩90重量部および水100重量部をステンレス製オートクレーブに入れ、内部の空気を窒素ガスで置換した後に180℃で1時間加熱し、次いで水分を除去し、相対粘度(ポリマー1gを抱水クロラール100mlに溶解し、25℃で測定した粘度)が2.50の親水性ポリアミド樹脂1を得た。
【0074】
<変性ポリビニルアルコール1の合成>
冷却管をつけたフラスコ中に、部分鹸化ポリビニルアルコール“ゴーセノール”KL−05”(鹸化度78.5%〜82.0%、日本合成化学工業(株)製)50重量部、無水コハク酸2重量部およびアセトン10重量部を入れ、60℃で6時間加熱した後、冷却管を外してアセトンを揮発させた。その後、100重量部のアセトンで未反応の無水コハク酸を溶出させる精製工程を2回行った後、60℃で減圧乾燥を5時間行い、水酸基にコハク酸がエステル結合した、変性ポリビニルアルコール1を得た。
【0075】
<実施例1>
<(1)反応性樹脂組成物を調製する工程>
彫刻層用の反応性樹脂組成物の調製に、容量25Lの小型圧力容器を用いた。該容器の耐圧は0.5MPa、材質はSUS304、攪拌翼として翼径0.32mのダブルヘリカルリボンを備え、その攪拌速度は0〜200rpmで可変である。また圧力容器上部に圧力計、ベント弁、窒素弁および減圧弁をコック付きで有し、覗き窓を有し、材料投入口はベルジャーとなっている。圧力容器下部には反応性樹脂組成物の抜き出し用の底栓弁、内温を測定する熱電対を有する。反応容器は二重構造となっており、外槽は熱媒による温度調整に、内槽は反応性樹脂組成物の調製に用いられる。熱媒として、スチーム(最大150℃に設定可能)、温水(最大95℃に設定可能)および15℃の冷却水を用いることができるように、配管設計されている。
【0076】
小型圧力容器のベント弁を解放し、材料投入口から、重合禁止剤として“Q−1300”(アンモニウム N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、和光純薬工業(株)製)を0.62g、エタノールを1.48kg、可塑剤としてジエチレングリコールを2.49kg投入後、攪拌翼を150rpmで回転させ、次いで親水性ポリアミド樹脂1を630g、変性ポリビニルアルコール1を5.90kgを添加後、10分間攪拌した。
【0077】
次いで、純水を1kg/分の速度で4.06kg添加した。この時、液温は25℃であった。
【0078】
その後、材料投入口をベルジャーでボルト・ナット締めし、ベント弁を閉めることで、圧力容器を密封系とした。粉体爆発防止の目的で、窒素弁を開けて0.25MPa加圧後(この時点で容器内圧力は0.35MPa)、ベント弁を解放して大気圧(この時点での容器内圧力は0.10MPa)に戻し、さらに窒素0.25MPa加圧、ベント弁解放を繰り返して、反応容器内を窒素置換した。窒素置換した後、ベント弁を再度閉めて、反応容器を密封系にした。この間も攪拌翼は150rpmで攪拌し続けた。
【0079】
熱媒のスチーム弁を開放し、スチーム圧0.2MPaに調整し、反応容器内の液温が105℃になるまで昇温し、その後スチーム圧を0.15MPaに調整した状態で30分間反応容器を加熱し、ポリマーをスチーム溶解した。この時点での反応容器内の液温は110℃、内圧は0.38MPaであった。
【0080】
その後、スチーム弁を閉じ、75℃の温水槽と連結した温水弁を開放し、温水ポンプで温水を反応容器外槽内で循環させ、熱媒をスチームから75℃温水に切り替え、この状態で90分間ポリマー溶解を行った。この時点の反応容器内温は75℃、内圧は0.16MPaであった。
【0081】
ベント弁を開放して容器内圧を大気圧(0.10MPa)に戻した後、材料投入口のベルジャーを外し、材料投入口から、“ブレンマー”G(グリシジルメタクリレート、日本油脂(株)製)を374g添加した。
【0082】
次いで材料投入口をベルジャーでボルト・ナット締めし、ベント弁を閉めることで、圧力容器を密封系に戻した。この状態で30分間攪拌し、“ブレンマー”Gのエポキシ基と変性ポリビニルアルコールのカルボキシル基の一部を付加反応させ、ポリマー側鎖をメタクリル基で変性させた。この時点の反応容器内温は75℃、内圧は0.10MPaであった。
【0083】
再度ベント弁を開放し、材料投入口のベルジャーを外し、材料投入口から、エチレン性不飽和モノマーとして“ブレンマー”GMR(グリシジルメタクリレートのメタクリル酸付加物、日本油脂(株)製)を623g、“エポキシエステル”70PA(プロピレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物、共栄社化学(株)製)を623g、“ブレンマーPE”200(平均分子量200のポリエチレングリコールのメタクリレート、日本油脂(株)製)を1.87kg、光重合開始剤として“イルガキュア”651(ベンジルジメチルケタール、チバ・ガイギー(株)製)を12.5gおよび“イルガキュア”184(α−ヒドロキシケトン、チバ・ガイギー(株)製)を187g添加した。
【0084】
次いで材料投入口をベルジャーでボルト・ナット締めし、ベント弁を閉めることで、圧力容器を密封系に戻した。この状態で30分間攪拌し、反応性樹脂組成物の混合を完了した。この時点の反応容器内温は75℃、内圧は0.10MPaであった。
【0085】
この後、攪拌翼の回転数を40rpmにし、減圧弁を徐々に開放し、減圧脱泡および濃縮を行った。減圧弁は、濃縮冷却管および濃縮液捕集管を介してアスピレーターと連結している。濃縮冷却管は二重管で、外管に15℃の冷却水を循環させている。
【0086】
アスピレーターを起動させた後、減圧弁を徐々に開放させ、反応性樹脂組成物の液面が反応容器の上部壁面にまで上昇しないように、真空度を調整しながら、脱泡を行った。圧力容器の内圧が0.05MPaの時点で脱泡がほぼ完了し、反応性樹脂組成物の液が沸騰しはじめたので、攪拌による気泡の巻き込みを防ぐため、攪拌翼の回転を停止させた。濃縮冷却管で冷却された溶媒の蒸気が濃縮液捕集管に蓄積され、330mL留出するまで濃縮を続け、その後減圧弁を閉じ、アスピレーターを停止させた。この時点での圧力容器の内圧は0.03MPa、反応性樹脂組成物の液温は65℃であった。留出された液を回収し、その重量を測定したところ265gであった。留出液の比重から、その内訳はエタノールと水の9:1混合液と推定される。
【0087】
次いで、ベント弁を開放して内圧を大気圧(0.10MPa)に戻した後、窒素で0.40MPaにまで加圧した。この後、圧力容器の熱媒に用いている温水の温度を75℃から70℃に変更して、この条件で反応性樹脂組成物を保管した。
【0088】
<反応性樹脂組成物の熱安定性の評価>
反応性樹脂組成物の熱安定性は、濃縮完了直後(2時間以内)および24時間保管後の粘度を測定し、その粘度変化で評価した。濃縮後1時間時点での粘度は8.0Pa・s、24時間保管後の粘度は7.8Pa・sと、粘度上昇がなく、良好な熱安定性を確認した。
【0089】
評価サンプル液の抜き出しは、反応容器下部の底栓弁を開放して、配管滞留分を考慮しておよそ500gを排出した後に、50g程度採取した。
【0090】
粘度測定は、粘度計rheomat115(コントラバス社製)を用い、評価液は内径(直径)30.5mmの円筒内に注ぎ、自動温度制御装置付き恒温槽(ユラボ社製)で70℃に保温した。ローターはローター径(直径)12mmのNo.3を用い、目盛り設定を10にして(剪断速度32.1[1/s])で測定した。測定は評価液注入後ローターを目盛り設定を5にして(剪断速度5.4[1/s])で回転させ、30分経過させて液温を安定させた後、目盛り設定を10(剪断速度を32.1[1/s])に設定して1分経過した時点での値を読みとり、粘度を算出した。
【0091】
<(2)反応性樹脂組成物を離型体上にキャスティングする工程>
<離型体1の作製>
4.9重量部のテトラ(n−プロポキシ)シランおよび0.1重量部のテトラ(n−ブトキシ)チタンをトルエン45重量部とキシレン50重量部に溶解させ、プライマー層の溶液を調製した。厚さ1mm、幅55cm、長さ65cmのSUS304の板をアセトン拭きした後、該SUS板上に、上記プライマー層の溶液を、乾燥膜厚0.5μm〜1.5μmとなるよう塗布し、30℃で2時間乾燥した。
【0092】
次いで、“PRX306 DISPERSION CLEAR”(離型剤用シリコーンゴム溶液、東レ・ダウコーニング(株)製)を上記塗布したプライマー層上に乾燥膜厚50μm〜90μmとなるように塗布、30℃で2時間、次いで80℃で2時間、さらに100℃で4時間乾燥し、離型体1を作製した。離型体の構造は、SUS304/プライマー層/シリコーンゴム層の3層構造であり、シリコーンゴム層側が離型体として働く。
【0093】
<口金からの反応性樹脂組成物の吐出>
反応性樹脂組成物を吐出する口金として、吐出幅45cmのコートハンガーダイを用いた。吐出口は下方向垂直に配置されており、吐出口のクリアランスは、全幅で400μm±20μmになるように調整した。反応性樹脂組成物の注入口は、コートハンガーダイ上部に設け、送液ラインとフレキホースで繋いだ。反応性樹脂組成物の保管容器である圧力容器からコートハンガーダイまでの送液系は順次、圧力容器の底栓弁、送液ライン、送液用のギアポンプ、送液ライン、フィルターユニット、送液ライン、フレキホース、コートハンガーダイの注入口で、直列に形成されている。またフィルター入り圧とフィルター出圧をモニターするため、フィルターユニットの入口と出口にそれぞれ圧力計を設けた。
【0094】
送液ライン、フィルターユニット、フレキホースおよびコートハンガーダイは、反応性樹脂組成物の保管温度と一定にするため、これと同一の熱媒、この場合は70℃の温水を通水できる構造を有している。送液ラインおよびフレキホースは二重管になっており、外管を熱媒が、内管を反応性樹脂組成物が通液する構造である。フィルターユニットのフィルターハウジングも同様である。フィルターユニットは、反応性樹脂組成物をブリードアウトするブリード口、エアを抜くエア弁を有し、フィルター本体、およびフィルターをセットするフィルターハウジングを有し、フィルター本体として、50μmカット性能を有する材質エポキシセルロール製のポールフィルター(日本ポール(株)製)を用いた。ギアポンプとして、1回転当たりの送液容量が7.2ccのものを用い、ギアポンプ内でのシェア発生による熱反応防止の目的で、ギアポンプのサイドクリアランスを20μm〜25μmに調整した。ギアポンプの回転数は0〜55rpmの範囲で可変であり、防爆モーターで駆動する。
【0095】
コートハンガーダイの下部にベルトコンベアを設け、速度制御されたベルトコンベア上に離型体1を載せ、コートハンガーダイから吐出される反応性樹脂組成物を離型体1上にキャスティングした。ギアポンプによる送液量を212cc/分、ベルトコンベアのライン速度を40cm/分に設定したので、吐出幅45cmのコートハンガーダイから吐出され、離型体上にキャスティングされたウェット膜厚は、計算上212cc/(40cm*45cm)=0.1178cm=1178μmとなる。
【0096】
<(3)キャスティング膜を乾燥して離型体から剥離し、独立したシートを形成する工程>
工程(2)で得たキャスティング膜を塗布した離型体を、65℃の熱風オーブン中で32分乾燥後、20℃相対湿度65%に管理された部屋に18分置いて冷却した。離型体からキャスティング膜を剥がし、独立したシートを形成することができた。
【0097】
<シート強度の測定>
上記得られたシートが、独立したシートであるか、すなわち剥離したシートが取扱い時にシート切れ発生することないかを評価するために、シート強度を測定した。
【0098】
上記シートをJIS K 6251 3号記載のダンベルを用いて、万力に挟み込んで締め付けることで、測定幅5.0mmの部分を有する形状にシートを打ち抜いて、測定サンプルを作製した。この時の測定幅5.0mm部分のシートの膜厚を測定したところ、960μmであった。
【0099】
三光計器社製のばね式はかり(最大1kg、最小目盛り10g)を用意し、ばね式はかりの上部を固定し、下部のフック部に上記測定サンプルをリビックテープNo.401(日東電工(株)製)で貼り付けた。およそ2〜4cm/秒の速度で測定サンプルを下方に引っ張り、シートが破断する際の目盛りを読み取ったところ、5回測定で950g〜1050gであり、その平均値からシート強度10N/cmを算出した。
【0100】
<独立したシートの残存溶媒率測定>
上記得られたシートの残存溶媒率を測定するために、30mL試験管内にシートを1g程度秤量し、精密天秤でシート重量を最小0.1mgオーダーまで測定した。その後、抽出液をホールピペットで10mL添加し、活栓で試験管に蓋をし、シールテープで活栓周辺をシールした。この密封試験管を70℃ウォーターバス中で8時間加熱し、抽出液中にシート中の残存溶媒を抽出させた。抽出液はn−ブタノール:995重量部、iso−ブタノール:5重量部の混合溶媒であり、水分除去の目的でモレキュラーシーブスを添加したものを用いた。iso−ブタノールを内部標準とし、水とエタノール添加量とピーク比について、予め検量線を測定した。
【0101】
抽出液からマイクロシリンダーで2.5μL抜き出し、これをガスクロマトグラフ分析装置1020 GC Plus/オートシステムXL(パーキン・エルマー社製)に注入し、残存水分率と残存エタノール率を測定した。残存溶媒率は、シートの秤量重量、検量線および検出ピーク比から算出した。上記シートの残存溶媒率は、残存水分率10%、残存エタノール率8.5%であった。
【0102】
<(3’)独立したシートから溶媒を揮発させる工程>
上記得られた独立したシートを57℃の熱風オーブン内に吊し、シートの両面乾燥を120分行った。該シートのシート強度を、ばね式はかりを三光計器社製のばね式はかり(最大2kg、最小目盛り20g)に変更したい以外は、上述と同様の方法で測定したところ、ばね式はかりの上限値である2.0kgでもシート切れが発生しなかった(シート強度は39N/cm以上)。この時の測定サンプルの厚みは880μmであった。該シートの残存溶媒率を測定したところ、残存水分率2.0%、残存エタノール率0.1%未満であった。
【0103】
<シート収縮率の測定>
工程(3)において、離型体からキャスティング膜を剥がす直前に、膜上に流れ方向および横断方向に40cm間隔のマーキングをした。その後、シートを離型体から剥がし、工程(3’)を経たシートで、上記マーキングの間隔を計測したところ、流れ方向、横断方向ともに37.5cmであった。このことから溶媒乾燥によりシートが6.25%収縮したことが分かった。
【0104】
<(4)シートと接着層が塗布された支持体とをラミネートする工程>
2本のロールをニップすることができるニップ式ラミネーターを用い、上記(3’)で得られたシートと、接着層が塗布された支持体1をラミネートした。ニップラミネーターの上ロールはゴムロールであり、圧空で上下させ、ニップおよびニップ開放することができる。下ロールは加熱することができる金属ロールであり、110℃に加熱した。また下ロールは駆動ロールであり、上下ロール間のクリアランスを押し込み側に調整することで、一度ニップすることにより、自動的にニップされた材料が自走される。本実施例では、上下ロール間のクリアランスをおおよそ400μmに調整したが、接着層を塗布した支持体1の総厚が235μm、(3’)で得られたシートの厚さが平均880μmなので、その合計厚さはおおよそ1115μmとなり、ニップされる押し込み厚さはおおよそ715μmとなる。
【0105】
接着層が塗布された支持体1は、支持体側が下ロールに接するよう、下ロールに沿って供給した。シートはエチレングリコールを片面塗布し、塗布面が支持体を供給する下ロール側に来るよう供給した。まずニップ開放状態で、下ロール上の接着層面にシート先端のエチレングリコール塗布面を仮貼り付けし、仮貼り付け面をニップロール間に配置させた後に、ニップを行い、ニップ圧により下ロールの駆動を得て、ニップ物を自動フィードさせた。得られたニップ物は、シートと支持体が強固に接着しており、シートを支持体から剥がすことは困難であった。
【0106】
<(5)シートと一時的支持体とをラミネートする工程>
シートと一時的支持体のラミネートには、2本の金属ロールを有するカレンダー式ラミネーターを用い、ラミネーターの前後には、シートを定速(本実施例では1.0m/分)で供給するための前コンベア、およびラミネート物を定速(本実施例では1.0m/分)で搬送するための後コンベアを設置した。ラミネーターの上ロールは加熱(本実施例では82℃)することのできるロールで、下ロールは圧空で上下動させることができる。また、金属ロール間のクリアランスが製品厚さを決定するので、金属ロールは上下ともに真円度の高いものを用い、ロール幅方向でクリアランスを精密に調整する。本実施例で用いた金属ロールの半径は12mmで、その半径ブレ精度は10μm以内である。またロールクリアランスは1360μm±5μmに調整した。
【0107】
前コンベア側から、アンダーフィルムとして厚さ100μm、幅500mmの“ルミラー”#100S10(ポリエステルフィルム、東レ(株)製)を巻きだし、前コンベア上に載せ、これをカレンダーロール間を通し、後コンベア上にまで通し、アンダーフィルムをラミネート物の運搬に使用した。
【0108】
一時的支持体としての厚さ100μm、幅500mmの“ルミラー”#100S10を、カレンダーロールの上ロール側に供給し、カレンダーロール間を通し、後コンベア上にまで通し、後コンベア上でアンダーフィルムにリビックテープで貼り付けた。アンダーフィルムは、コンベアの動力を、接着層が塗布された支持体に伝達するキャリアフィルムとして用い、該工程の後に取り外され、フレキソ印刷版原版の構成体とはならない。
【0109】
前コンベア上のアンダーフィルムに、工程(4)で得られたシートと支持体のラミネート物を、支持体がアンダーフィルム側に来るようにセロテープ(登録商標)で貼り付け、この上に工程(1)で調製した反応性樹脂組成物を適当量流延した。
【0110】
この後、アンダーフィルムおよび一時的支持体を後コンベアに手で押さえこんで、後コンベアの駆動をアンダーフィルムおよび一時的支持体に伝達させて、前コンベア側から後コンベア側に引張った。流延された反応性樹脂組成物はカレンダーロールを通過される際に、カレンダーロールのクリアランスを超える分量が、横断方向側の両端および、流れ方向の前コンベア側に自動的に掻き出される。カレンダーロールを通過した分はカレンダーロールのクリアランスによって制御された厚さのラミネート物ができあがる。
【0111】
得られたラミネート物の構成は順次、アンダーフィルム、支持体、接着層、(3’)で得たれたシート、流延された反応性樹脂組成物、およびスリップコート層が塗布された一時的支持体である。この中でアンダーフィルムと支持体は両者ともにポリエステルフィルム単体であり、接着していない。また、流延された反応性樹脂組成物は、経時で含まれる溶媒が(3’)で得られたシートに含浸し、(3’)で得られたシートと一体化し、彫刻層を形成する。
【0112】
ラミネート体を1日経時保管した後、ラミネート体の四方(シートおよび接着層支持体がなく、反応性樹脂組成物が多くを占める部分)を切断し、支持体/接着層/彫刻層/一時的支持体の積層体を得た。さらに四方の両サイドを2cm以上切り落として、版サイズ36cm×50cmの積層体とした。(3’)で得たシートと、流延された反応性樹脂組成物は同一組成であり、流延された反応性樹脂組成物中の溶媒が(3’)で得たシートに拡散移動することで一体化し、彫刻層となる。
【0113】
<(6)彫刻層を架橋する工程>
上記得られた積層体を、高輝度ケミカル灯“TLK−40W10R”(Phillips社製)を備えたバッチ式製版機“GPP500”(東レ(株)製)を用い、一時的支持体側から、UVAの積算光量2000mJ/cm相当の露光をして彫刻層を光架橋し、レーザー彫刻用フレキソ印刷版原版1を得た。
【0114】
<原版の版厚精度の評価>
レーザー彫刻用フレキソ印刷版原版1を2cm角にコマ切れにした後に、一時的支持体を剥離して、コマ切れサンプルの各々の厚さを測定したところ、版厚は1.13mm〜1.15mmでレンジ0.02mmと安定していた。
【0115】
<比較例1>
<(1)反応性樹脂組成物を調製する工程>は実施例1と同様に行い、<(2)反応性樹脂組成物を離型体上にキャスティングする工程>〜<(4)シートと接着層が塗布された支持体とをラミネートする工程>を、下記<反応性樹脂組成物を接着層が塗布された支持体上に直接キャスティングし、乾燥する工程>に変更した。
【0116】
<反応性樹脂組成物を接着層が塗布された支持体上に直接キャスティングし、乾燥する工程>
<口金からの反応性樹脂組成物の吐出>は、速度制御されたベルトコンベア上に、接着層が塗布された支持体1を、接着層が上面になるように載せ、コートハンガーダイから吐出される反応性樹脂組成物を、接着層が塗布された支持体1の上にキャスティングする以外は、全て実施例1と同様に行った。
【0117】
接着層が塗布された支持体1上にキャスティングされた反応性樹脂組成物を、65℃の熱風オーブン中で32分乾燥後、20℃相対湿度65%に管理された部屋に18分置いて冷却した。さらに57℃の熱風オーブンで120分乾燥を行った。
【0118】
実施例1との違いは、最後の57℃の熱風オーブンでの乾燥を、両面乾燥ではなく、片面が支持体で被覆された状態で片面乾燥を行ったこと、および乾燥工程中に反応性樹脂組成物による彫刻層と、接着層が塗布された支持体とを塗布接着させたことである。
【0119】
こうして得られた彫刻層/接着層/支持体の積層体は、彫刻層側に大幅なカールが生じていた。これは反応性樹脂組成物からなる彫刻層が溶媒の乾燥によってサイズ収縮、実施例1では6.25%収縮するのに対し、支持体が寸法安定で収縮0%であることから、上下層の収縮差により発生したのである。これに対し、実施例1では、独立したシートの状態で乾燥し、収縮したシートを、<(4)接着層が塗布された支持体とラミネート>したので、このようなカールは発生しなかった。
【0120】
<彫刻層の残存溶媒率測定>
このようにして得られた積層体から、彫刻層をサンプリングし、彫刻層の残存溶媒率を実施例1と同様の方法で測定したところ、残存水分率4.0%、残存エタノール率0.5%であった。両面乾燥を行った実施例1に比べて、片面乾燥の比較例1は乾燥効率が悪いことが分かる。
【0121】
<(6)彫刻層を架橋する工程>
上記得られた積層体を、高輝度ケミカル灯“TLK−40W10R”(Phillips社製)を備えたバッチ式製版機“GPP500”(東レ(株)製)を用い、一時的支持体側から、UVAの積算光量2000mJ/cm相当の露光をして彫刻層を光架橋し、レーザー彫刻用フレキソ印刷版原版2を得た。
【0122】
<原版の版厚精度の評価>
レーザー彫刻用フレキソ印刷版原版2を2cm角にコマ切れにして、コマ切れサンプルの各々の厚さを測定したところ、版厚は1.08mm〜1.15mmでレンジ0.07mmと版厚精度が悪かった。
【0123】
<比較例2>
比較例1において、<反応性樹脂組成物を接着層が塗布された支持体上に直接キャスティングし、乾燥する工程>と<(6)彫刻層を架橋する工程>との間に、実施例1に記載の<(5)シートと一時的支持体をラミネートする工程>を行い、レーザー彫刻フレキソ印刷版原版3を得た。
【0124】
<原版の版厚精度の評価>
レーザー彫刻用フレキソ印刷版原版3を2cm角にコマ切れにして、コマ切れサンプルの各々の厚さを測定したところ、版厚は1.12mm〜1.15mmでレンジ0.03mmと、実施例1に比べてやや版厚精度が悪化していた。これは彫刻層中の残存溶媒率が実施例1に比べて高く、膜厚精度に影響を与えたものと推定される。また実施例1と異なり、一時的支持体を剥離した後の原版3はカールが大きく、取扱いしにくいという問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、レーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造に利用できる。またレーザー彫刻用レタープレス印刷版、レーザー彫刻用凹版印刷版、レーザー彫刻用孔版印刷版の製造にも応用することができる。
【符号の説明】
【0126】
11:反応性樹脂組成物の保管容器
12:送液ライン
13:流体運送機
14:口金
21:離型体
22:キャスティング膜
23:コンベアベルト
31:乾燥手段
32:独立したシート(彫刻層シート)
41:ニップロール
42:接着層が塗布された支持体
43:シート/接着層/支持体の積層体
51:カレンダーロール
52:一時的支持体
53:流延された反応性樹脂組成物
54:彫刻層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)反応性樹脂組成物を調製する工程、
(2)反応性樹脂組成物を離型体上にキャスティングする工程、
(3)キャスティング膜を乾燥して離型体から剥離し、独立したシートを形成する工程、
を少なくとも含むレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造方法。
【請求項2】
(4)シートと接着層が塗布された支持体とをラミネートする工程を、さらに含む請求項1に記載のレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造方法。
【請求項3】
支持体上に塗布された接着層が、反応性樹脂組成物中と同一または同種のポリマーを含有することを特徴とする請求項2に記載のレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造方法。
【請求項4】
(5)シートと一時的支持体とをラミネートする工程を、さらに含む請求項1に記載のレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造方法。
【請求項5】
一時的支持体が予め、反応性樹脂組成物中と同一または同種のポリマーを含有する層を有することを特徴とする請求項4に記載のレーザー彫刻用フレキソ印刷版原版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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