説明

レーザー彫刻用凸版印刷原版及びそれから得られる凸版印刷版

【課題】 レーザー彫刻性能と印刷性能に優れた印刷原版を製造できるレーザー彫刻用印刷原版の原料となる樹脂組成物及びそれから得られる印刷版を提供する。
【解決手段】 少なくとも塩基性第3級窒素原子含有共重合ポリアミド、光重合性不飽和化合物、光重合開始剤を含む感光性樹脂凸版組成物から得られる感光性樹脂組成層を紫外線照射によって硬化させた後にレーザー光照射により画像形成して印刷版を形成するレーザー彫刻用凸版印刷原版において、塩基性第3級窒素原子含有共重合ポリアミド中の光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化された塩基性第3級窒素原子量が1000g中に0.30〜1.20モル含有することを特徴とするレーザー彫刻用凸版印刷原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光照射により画像形成して印刷版を形成するレーザー彫刻用凸版印刷原版およびそれを用いて得られる凸版印刷版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種包装材やシール、ラベル印刷、他、多種の印刷に使用される凸版印刷版は、従来、感光性樹脂からなる印刷原版を像に従って露光して露光部の樹脂を架橋させ、次いで非露光部の未架橋樹脂を洗浄除去することにより製造されていたが、近年、印刷版製造の効率改善のため、レーザーを使って直接印刷原版上にレリーフ画像を形成するレーザー彫刻による印刷版が普及しつつある。レーザー彫刻による印刷版の製造工程では、レーザー光線を像に従って印刷原版に照射して照射部分の像形成材料を分解することにより版表面に凹凸が形成される。
【0003】
レーザー彫刻用の印刷原版としては、フレキソ版への技術応用が進んでおり、レーザー彫刻可能なフレキソ版原版、あるいはレーザー彫刻によって得られたフレキソ版が特許文献1及び2に開示されている。それらの文献には、バインダーとしてエラストマー性のゴムにモノマーを混合してフレキソ印刷原版を製造し、熱架橋又は光架橋により硬化させた後にレーザー彫刻を行い、フレキソ印刷版を得ている。しかし、これらは水性インキやエステルインキに適性のあるフレキソ印刷版であり、油性インキが主に用いられる樹脂凸版用途には適するものではない。
一方、凸版印刷に用いるレーザー彫刻用印刷原版としては、ポリビニルアルコール又は変成ポリビニルアルコールやポリマー末端に光重合性基を導入したポリエーテルアミドなどの可溶性高分子に光重合性化合物及び光重合開始剤を配合した感光性樹脂組成物からなるものが特許文献3〜5に開示されている。
【0004】
凸版印刷用感光性樹脂組成物としては耐磨耗性の面からポリアミドを可溶性高分子化合物として好ましく用いられているが、公知のポリアミドを可溶性高分子化合物とする感光性樹脂組成物をレーザー彫刻用印刷原版に用いた場合にはレーザー彫刻性と印刷性能との両者を満足できる印刷原版が得られていなかった。レーザー彫刻時の問題点としては、(1)レーザー彫刻によって発生した熱によって境界部分の樹脂(レリーフ)が熱変形を起
こしてエッジに丸みを帯びることや(2)レーザー照射により生じた樹脂カスがレーザー照射中の吸引やレーザー照射後の洗浄でも除去されずに版に付着したまま残りやすいことがあり、印刷不良を起こしやすくしていた。
具体的には、優れた水現像性とネガフィルムに対する再現性を有する塩基性第3級窒素原子含有した可溶性高分子化合物を用いた凸版印刷用感光性樹脂としては、アンモニウム塩型塩基性第3級窒素原子含有ポリアミド(特許文献6)があり、現像型の印刷原版として優れた特性を有している。しかし、レーザー彫刻用感光性樹脂原版としてはレーザー彫刻によって発生した熱によって縁部樹脂(レリーフ)が熱変形を起こしてエッジに丸みを
帯びるためにレーザー彫刻再現性に著しく劣り、又、樹脂カスが付着するためにレーザー彫刻用感光性樹脂原版として使用することはできなかった。
上記樹脂カス付着の課題に対しては、シリカ微粉末などの無色透明の充填剤を配合する方法(特許文献7参照)により印刷原版の機械的特性を向上させ、結果として粘着性や微細部の溶融を減少させる技術が提案されている。しかしながら、シリカ微粉末などの充填剤を配合する方法は、印刷原版の粘着性を十分に低下させるためには多量の充填剤が必要となり、印刷原版の成型性や版物性を著しく損なうという問題があった。
このように、従来技術の凸版印刷用感光性樹脂組成物や充填剤を添加する方法ではレーザー彫刻性と印刷性能との両者を満足する優れた凸版印刷用レーザー彫刻用原版が待ち望まれていた。
【特許文献1】特許第2846954号公報
【特許文献2】特開平11−338139号公報
【特許文献3】特開平11−170718号公報
【特許文献4】特開2006−002061号公報
【特許文献5】特開2001−328365号公報
【特許文献6】特開昭53−36555号公報
【特許文献7】特表2004−533343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、レーザー彫刻性と印刷性能との両者を満足できるレーザー彫刻用印刷原版を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、塩基性第3級窒素原子を含有するポリアミドにおいて、塩基性第3級窒素原子を光重合性基含有非プロトン性4級化剤で4級化することで特に従来技術では得られなかったレーザー彫刻時に発生する縁部樹脂(レリーフ)の熱変形によってエッジが丸くなる問題点を大幅に解決し、レーザー彫刻性能と印刷性を両立させることで本発明を完成させた。即ち、本発明は(1)少なくとも共重合ポリアミド、光重合性不飽和化合物、光重合開始剤を含む感光性樹脂凸版組成物から得られる感光性樹脂組成層を紫外線照射によって硬化させた後にレーザー光照射により画像形成して印刷版を形成するレーザー彫刻用凸版印刷原版において、該共重合ポリアミドが塩基性第3級窒素原子を含有し、且つ光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化された塩基性第3級窒素原子量を1000g中に0.30〜1.20モル含有する塩基性第3級窒素原子含有共重合ポリアミドであることを特徴とするレーザー彫刻用凸版印刷原版、(2)共重合ポリアミドに用いる塩基性第3級窒素原子を含有する共重合単位がピペラジン環を有するジアミンを構成成分とし、且つ全ポリアミド中に25質量%〜75質量%含有する(1)のレーザー彫刻用凸版印刷原版、(3)塩基性第3級窒素原子を4級化する光重合性基含有非プロトン性4級化剤がグリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレートである(1)又は(2)のレーザー彫刻用凸版印刷原版、(4)共重合ポリアミド中の光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化された塩基性第3級窒素原子量が1000g中に0.70〜1.20モル含有する(1)〜(3)のいずれかのレーザー彫刻用凸版印刷原版、(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のレーザー彫刻可能な印刷原版をレーザー彫刻によって凸版印刷版を製造する印刷版の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の凸版印刷用レーザー彫刻用印刷原版を用いることにより、レーザー彫刻性能が大幅に向上することで、従来技術では得られなかった印刷性能が大幅に向上したレーザー彫刻用印刷原版を提供することが可能となるので産業界に寄与すること大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳述する。
本発明において、共重合ポリアミドとは、ポリアミドの構成単位として主鎖又は側鎖に塩基性第3級窒素原子を含有する構成単位とそれ以外のポリアミド構成単位とを共重合したポリアミドである。
主鎖又は側鎖に塩基性第3級窒素原子を含有する構成単位としては主鎖又は側鎖に塩基性第3級窒素原子を含有ジアミン又はジカルボン酸を構成成分として用いるものであり、主鎖又は側鎖に塩基性第3級窒素原子を有するジアミンを用いるのが好ましい。
【0009】
具体的なジアミンの例としては、N,N’−ビス(アミノメチル)ピペラジン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)メチルピペラジン、N−(アミノメチル)−N’−(2−アミノエチル)ピペラジン、N,N’−ビス(3−アミノペンチル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−(アミノプロピル)ピペラジン、N−(ω−アミノヘキシル)ピペラジン、N−(3−アミノシクロヘキシル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)−3−メチルピペラジン、N−(2−アミノエチル)−2,5−ジメチルピペラジン、N−(2−アミノプロピル)
−3−メチルピペラジン、N−(3−アミノプロピル)−2,5 −ジメチルピペラジンなどのピペラジン環を有するジアミンが挙げられる。
【0010】
ピペラジン環を有するジアミン以外のジアミンとしては、N,N−ジ(2−アミノエチル)アミン、N,N−ジ(3−アミノプロピル)アミン、N,N−ジ(2−アミノエチル)メチルアミン、N,N−ジ(3−アミノプロピル)エチルアミン、N,N−ジ(3−アミノプロピル)イソプロピルアミン、N,N−ジ(3−アミノプロピル)シクロヘキシルアミン、N,N−ジ(4−アミノ−n−ブチル)アミン、N−メチル−N−(2−アミノエチル)−1,3 −プロパンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ(3−アミノプロピル)テトラメチレンジアミン、N,N’−ジイソブチル−N,N’−ジ−(3−アミノプロピル)ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジシクロヘキシル−N,N’−ジ−(3−アミノプロピル)ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジシクロヘキシル−N,N’−ビス(2−カルボキシプロピル)ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジ−(3−アミノプロピル)−2,2,4 −トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)−2−メチル−2−(N,N−ジメチルアミノメチル)プロパン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)−2−メチル−2−(N,N−ジエチルアミノメチル)プロパン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)−2−エチル−2−(N,N−ジメチルアミノメチル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノプロポキシ)−2−(N,N−ジメチルアミノメチル)プロパンなどが挙げられる。
【0011】
上記ジアミンの中でも、N,N’−ビス(アミノエチル)−ピペラジン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジンのピペラジン環を有するジアミンが重合性及び物性面より優れるために好ましい。
【0012】
本発明に用いる共重合ポリアミド中の塩基性第3級窒素原子を含有する構成単位以外の共重合構成単位としては公知のジアミンとジカルボン酸、あるいはω−アミノ酸、ラクタムまたはこれらの誘導体等から公知の方法によって得られる可溶性ポリアミドである。可溶性ポリアミドの具体例としては、たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66/610、ナイロン6/66/612等の各種ナイロン、メタキシレンジアミンとアジピン酸から得られるポリアミド、1,3−ジアミノジシクロヘキシルメタンとアジピン酸から得られる共重合ナイロン、ジアミノジシクロヘキシルメタン共重合ナイロンなどが挙げられるが、その中でもナイロン6、ナイロン66や1,3−ジアミノジシクロヘキシルメタンとアジピン酸との共重合ナイロンが物性面と成形性より好ましい。共重合構成単位は一つでも良いが、得られる可溶性ポリアミドの融点を最適な温度に設定するために二つの構成単位によりコントロールすることが好ましい。
【0013】
本発明に用いる共重合ポリアミドは、光重合性基含有非プロトン性4級化剤で4級化した塩基性第3級窒素原子含有量を塩基性第3級窒素原子含有共重合ポリアミド1000g中に0.30〜1.2モル含有することが好ましく、さらに好ましくは0.70〜1.2モル含有である。光重合性基含有非プロトン性4級化剤で4級化した塩基性第3級窒素原子含有量が共重合ポリアミド1000g中に0.30モル未満ではレーザー彫刻時に発生した熱によって境界部分の樹脂(レリーフ)が熱変形を防
ぐ効果が小さいために好ましくなない。又、1.2モルを超えた場合には、感光性樹脂の硬度が硬くなりすぎるために印刷版として好ましく、さらには架橋による硬化収縮のための考えられるインカール(内側へのカール)が大きくなるので好ましくない。
【0014】
本発明において、ポリアミド分子中の光重合性基含有非プロトン性4級化剤で4級化した塩基性第3級窒素原子含有量を塩基性第3級窒素原子含有共重合ポリアミド1000g中に0.30〜1.2モルに含有する方法としては、共重合ポリアミド中の塩基性第3級窒素原子含有単位の共重合比率によって塩基性第3級窒素原子量を決め、さらに導入した塩基性第3級窒素原子量に対する4級化率によって設定することが可能である。
又、本発明において、ポリアミド中の塩基性第3級窒素原子含有共重合単位の比率としては、全ポリアミド中に25質量%〜75質量%含有することが好ましく、感光性組成物1000g中に基性第3級窒素原子含有量を最適範囲に含有させることが可能となる。
本発明に用いる共重合ポリアミドは、分子鎖中に非プロトン4級化剤によって光重合性基を導入して共重合ポリアミドをも光重合で架橋させ、共重合ポリアミドを含む架橋ネットワーク構造作ることで、共重合ポリアミド成分が熱変形を起こしにくくなると考えられる。その結果、本発明は従来には得られなかった優れたレーザー彫刻性能を満足することを可能にするものである。
一方、ポリアミド中に光重合性基を全く導入しない場合やプロトン性4級化剤で4級化した場合には、レーザー彫刻時に発生した熱によって境界部分の樹脂(レリーフ)が熱変形を起こす。熱変形を防止するためには、光重合性化合物の含有比率を高くすることが考えられるが、樹脂硬度が高くなりすぎるために印刷性の低下が起こり、レーザー彫刻性と印刷性との両者を満足できるものではない。又、シート状成型品の固形化するまでの時間が長くなり、生産性が低下する問題が起こる。
【0015】
本発明に用いるポリアミド分子中の塩基性第3級窒素原子を4級化する光重合性基含有非プロトン性4級化剤は重合性基を有し、且つ非プロトン性4級化剤によって4級化するものである。塩基性第3級窒素原子に対して非プロトン性4級化剤で4級化する方法としてはエポキシ基による反応が好ましい。具体的な化合物としては市販の化合物が使用可能であるが、グリシジルメタクリレートやグリシジルアクリレートが特に好ましい。
本発明において、塩基性第3級窒素原子を非プロトン性4級化剤で4級化することが重要であり、メタクリル酸等のプロトン性4級化剤で4級化する方法では、レーザー彫刻時に発生した熱によって境界部分の樹脂(レリーフ)が熱変形を起こしてエッジに丸みを帯び、良好なレリーフ
形状が得られるものではない。
【0016】
本発明の感光性樹脂凸版組成物が優れた印刷版の印刷性能とレーザー彫刻性能を達成するためには、架橋成分として光重合性基を有する化合物として光重合性基含有非プロトン性4級化剤で4級化した塩基性第3級窒素原子以外に光重合性不飽和化合物を配合し、光重合性不飽和化合物によって感光性樹脂組成物全体を架橋させることが必要である。
本発明に用いる光重合性不飽和化合物としては、公知の光重合性不飽和化合物を用いることができる。好適に用いられる光重合性不飽和化合物としては、公知の二価又は三価アルコールのグリシジルエーテルとメタアクリル酸およびアクリル酸との開環付加反応生成物であり、前記多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、フタル酸のエチレンオキサイド付加物、グリセリン、ビスフェノールA、トリメルロールプロパンやビスフェノールFのジグリシジルエーテルアクリル酸付加物などが挙げられるが、またこれらの化合物を2種類以上混合して使用することも出来る。なお、本発明においてはグリセリンジメタクリレート、ジエチレングリーコールジエポキシメタクリレート、トリメルロールプロパントリエポキシアクリレート、トリメルロールプロパントリエポキシメタクリレートが特に好ましい。
【0017】
さらに本発明は、光重合性不飽和化合物として光重合性基を1個含有する光重合性不飽和化合物を併用することができる。具体的な例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、N,N’−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、脂肪族カルボン酸(無水物)類と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応によって得られるモノエステルカルボン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド−n−ブチルエーテル、ジアセトアクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、アンモニウム(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとモノアルコールとの開環付加反応物、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の1個の不飽和結合を有する化合物などが挙げられる。上記具体的な例の中でもグリシジル(メタ)アクリレートとモノアルコールとの開環付加反応物が好ましい。
本発明は、光重合性基を1個含有する光重合性不飽和化合物を併用することが可能であり、配合することで物性として伸度が向上し、耐刷性が向上させることが可能である。
【0018】
本発明は光重合性不飽和基の含有量が重要である。本発明は、非プロトン性4級化剤で4級化した塩基性第3級窒素原子含有量を一定量にコントロールすると共に感光性樹脂組成物全体として含有する光重合性不飽和基の含有量も一定量の範囲にコントロールする必要がある。
つまり、本発明は、レーザー彫刻性能を満足するために非プロトン性4級化剤で4級化した塩基性第3級窒素原子含有量を特定範囲にコントロールし、さらに印刷版の印刷性のために感光性樹脂組成物全体として含有する光重合性不飽和基の含有量を特定範囲にコントロールすることによって、優れたレーザー彫刻性能と印刷性能の両者を満足するものである。
本発明の好ましい光重合性不飽和基の含有量として、感光性樹脂凸版組成物1000g
中に2.10〜3.10モル含有させるものであり、さらに好ましくは2.70〜3.
00モル含有させることである。感光性樹脂凸版組成物1000g 中の光重合性不飽和
基の含有量が、2.20モル以下ではレーザー彫刻性能が悪く、又3.00モルを超えると印刷版として硬くなりすぎてインキ乗りが低下するので好ましくない。
光重合性不飽和基の含有量を感光性樹脂凸版組成物1000g 中に2.10〜3.1
0モル含有させる方法としては、光重合性化合物の配合量を増減させること又は光重合性基間の距離(分子量)を変えることで同じ感光性樹脂組成物への配合量でありながら感光性樹脂組成物中の光重合性基の量を増減させることは可能である。
【0019】
本発明に使用する光重合開始剤としては公知のものが使用可能であり、具体的には、例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アンスラキノン類、チオキサントン類などが使用できる。好適な具体例としては、ベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、アンスラキノン、2−クロロアンスラキノン、チオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。これらは感光性樹脂組成物中に0.05〜5質量%含有させるのが好ましい。0.05質量%より少ないと光重合開始能力に支障をきたし、5質量%より多いと印刷用レリーフを作成する場合の生版の厚み方向の光硬化性が低下し、画像の欠けが起こりやすくなる。
【0020】
また必要により公知の熱重合禁止剤を添加してもよい。熱重合禁止剤は、感光性樹脂凸版組成物の調合、製造、成形加工時などの加熱による予定外の熱重合、あるいは該組成物の保存中の暗反応を防止するために添加する。このような化合物の例としては、ハイドロキノン、モノ−tert−ブチルハイドロキノン、2,5 −ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルなどのハイドロキノン類、ベンゾキノン、2,5 −ジフェニル−p−ベンゾキノンなどのベンゾキノン類、フェノール類、カテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのカテコール類、芳香族アミン化合物類、ビクリン酸類、フェノチアジン、α−ナフトキノン類、アンスラキノン類、ニトロ化合物類、イオウ化合物類などが挙げられる。熱重合禁止剤の使用量は全組成物中、0.001 〜2 質量%、特に好ましくは0.005 〜1質量%である。これらの化合物は2種以上併用してもよい。
【0021】
本発明の光硬化とは凸版印刷用感光性樹脂組成物をシート状に成形・固形化した後に、このシート状成形物を表面より高さ5cmの距離から8mW/cmの紫外線露光機(光
源:フィリップス社製10R)により表裏10分露光し、架橋硬化させるものである。
【0022】
本発明の感光性樹脂組成物は、印刷用レリーフ版を得る場合の溶融成形法の他、例えは、熱プレス、注型、或いは、溶融押出し、溶液キャストなど公知の任意の方法により目的の製品に応じた所望の形状物に成形できる。
【0023】
印刷用レリーフ版を得る場合はシート状に成形した成形物(生版)を公知の接着剤を介して、或いは、介さずに支持体に積層して使用することができる。支持体としてはスチール、アルミニウム、ガラス、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチックフィルム、金属蒸着したフィルムなど任意のものが使用できる。シート状成形物(生版)を支持体上に接着層を積層した積層体にして供給する場合にはシート状成形物(生版)に接して保護層がさらに積層される。保護層はフイルム状のプラスチック、例えば、ポリエチレンテレフタレートの125μm厚みのフイルムに粘着性のない透明で現像液に分散又は溶解する高分子を1〜3μmの厚みで塗布したものが用いられる。この薄い高分子の皮膜を有する保護層をシート状成形物(生版)に接することによって、シート状成形物(生版)の表面粘着性が強い場合であっても次の露光操作時に行う保護層の剥離を容易に行うことができる。
【0024】
このような組成物からなる層単独、もしくはこの層と支持体とからなる感光性樹脂凸版用原版は、感光性樹脂層に透明画像部を有するネガフィルムまたはポジフィルムを密着して重ね合せ、その上方から活性光線を照射して露光をおこなうと、露光部のみが不溶化ならびに硬化する。活性光線は通常300〜450nmの波長を中心とする高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、ケミカルランプなどの光源を用いる。
【0025】
次いで、適当な溶剤、特に本発明では中性の水により非露光部分を溶解除去することによって、鮮明な画像部を有する凸版を得る。このためには、スプレー式現像装置、ブラシ式現像装置などを用いる。
【実施例】
【0026】
かくして得られた印刷原版は、レーザー彫刻装置の版装着ドラムの表面に取り付けられ、像に従ったレーザー照射により照射部分の原版が分解されて凹部分を形成し、印刷版が製造される。
【0027】
実施例1
ε−カプロラクタム45.0質量部(縮合後45.0質量部)、N,N‘−ビス(γ−アミノプロピル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩55.8質量部(縮合後50.0質量部)と1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンとアジピン酸のナイロン塩2.9質量部(縮合後2.5質量部)とを溶融重縮合して共重合ポリアミドを得た。
次に得られたポリアミド50.0部とグリシジルメタクリレート5.1質量部をメタノール200.0部および水10部に攪拌付き加熱反応釜中65℃で4時間溶解・反応を行い、共重合ポリアミド中の塩基性第3級窒素原子と光重合性基含有非プロトン性4級化剤であるグリシジルメタクリレートとの4級化反応を行った。その後にトリメチロールプロパントリエポキシアクリレート36.9部、可塑剤としてN−エチルトルエンスルホン酸アミド7質量部、ハイドロキノンモノエチルエーテル0.1部、ベンジルジメチルケタール1.0部を加え、感光性樹脂組成物溶液を得た。この溶液をテフロン(登録商標)コートしたシャーレに流延し、暗室にてメタノールを除去後、更に一昼夜40℃で減圧乾燥し厚み800μmの感光性組成物のシートを得た。
【0028】
次に、得られた組成物シートを厚さ250μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にポリエステル系接着層をコーティングしたフィルムと、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムで挟み、ヒートプレス機で100℃、100kg/cm2の圧力で加圧することにより、厚さ1.05mmのシート状成形物を得た。
【0029】
得られたシート状成形物について生産性の評価を行った。得られたシート状成形物を、30℃の条件で保管して作業性に問題ない程度に固形化する時間で評価した。評価判定は以下の通りとした。
○:24時間以内に固形化
△:25〜48時間で固形化
×:48時間を越えた時間で固形化
【0030】
次に、このシート状成形物を紫外線露光機(光源:フィリップス社製10R)により表面より高さ5cmの距離から8mW/cmの紫外線露光機(光源:フィリップス社製1
0R)により表裏10分露光し、架橋硬化させた後、厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がし、レーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0031】
実施例2〜5
表1の通りに共重合ポリアミド組成比率を変更し、実施例1と同様にして実施例2〜5の評価を行った。共重合ポリアミド中の塩基性第3級窒素原子含有単位含有比率を変更することで光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化された塩基性第3級窒素原子のモル数が共重合ポリアミド1000g中に0.30モル以上含有する組成物、シート状成形物及びレーザー彫刻用原版を得た。
なお、表1の共重合ポリアミド組成比率は重縮合した後の組成質量比率であり、実施例1と同様に縮合した後の組成質量比率に合わせて原料仕込み質量を補正すれば表1の組成
比率に合わせることができる。
【0032】
実施例6〜7
表1の通りに実施例1の光重合性化合物を変更し、実施例1と同様にして実施例6〜7のレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0033】
実施例8〜10
実施例8では実施例1において光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化された塩基性第3級窒素原子のモル数を1.5倍とし、実施例9では実施例1のグリシジルメタクリレートをグリシジルアクリレートに変更して実施例1と同様にしてレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
実施例10では実施例1において塩基性第3級窒素原子含有ジアミンをBAPPからAEPに変更し、実施例1と同様にしてレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0034】
実施例11〜13
実施例11では共重合ポリアミド成分として6ナイロンを6−6ナイロンに変更し、実施例1と同様にして評価を行った。実施例12では、塩基性第3級窒素原子含有構成単位含有率を実施例1の半分である25質量%として実施例1と同じグリシジルメタクリレート(光重合性基含有非プロトン性4級化剤)の配合量としたものである。実施例1と同様にレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
実施例13は実施例1で用いた塩基性第3級窒素原子含有ジアミンのN,N'−ビス(3
−アミノプロピル)ピペラジンをN,N−ジ(3−アミノプロピル)イソプロピルアミン
へ変更したものである。実施例1と同様にしてレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0035】
比較例1及び比較例4
比較例1及び比較例4は塩基性第3級窒素原子を全く含有しない共重合ポリアミドを共重合ポリアミド成分として用いたものであり、実施例1と同様に評価してレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0036】
比較例2及び比較例3
実施例1において、グリシジルメタクリレート(光重合性基含有非プロトン性4級化剤)をメタクリル酸(プロトン性4級化剤)に変更して評価を行った。実施例1と同様に評価してレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0037】
比較例5〜6
比較例5は光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化された塩基性第3級窒素原子のモル数が共重合ポリアミド1000g中に0.30モル未満であり、光重合性化合物の配合で感光性樹脂組成物中の光重合性基含有量が0.30モル少ないものであり、又、比較例6は感光性樹脂組成物1000g中の光重合性基含有量が1.20モルを超えたものである。得られた感光性樹脂組成物を用いて実施例1と同様に評価してレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
【0038】
次にレーザー彫刻性能評価について説明する。
レーザー彫刻装置はLuescher Flexo社製の300W炭酸ガスレーザーを搭載したFlexPose!directを用いた。本装置の仕様はレーザー波長10.6μm、ビーム直径30μm、版装着ドラム直径は300mm、加工速度は1.5時間/0.5m2であった。レーザー彫刻の条件は、以下のとおりである。なお、(1)〜(3)は装置固有の条件である。(4)〜(7)は任意に条件設定が可能であり、それぞれの条件は本装置の標準条件を採用した。
(1)解像度:2540dpi
(2)レーザーピッチ:10μm
(3)ドラム回転数:982cm/秒
(4)トップパワー:9%
(5)ボトムパワー:100%
(6)ショルダー幅:0.30mm
(7)評価画像:150lpi、0〜100%まで1%刻みの網点、直径100μ〜600μの独立点について画像形成し、評価した。
【0039】
得られた印刷版について以下の評価項目を調査した。
(1)印刷版表面への樹脂カスの付着具合
10倍の拡大ルーペを使用して、印刷表面への樹脂カスの付着具合を目視により検査し、◎:ほとんど付着なし、○:少し付着有り、△:かなり付着有り、×:付着激しい、の4段階で示した。
(2)レリーフ縁部エッジの丸み
超深度カラー3D形状測定顕微鏡(キーエンス社製VK−9510)を使用して、直径200μの独立点を拡大し、頂部レリーフの縁部エッジ丸みの判定を行った。縁部エッジに丸みが発生すると印刷物が不明瞭となるために、丸みが発生しないことが必要である。
◎:エッジがシャープで丸み全く発生なし。
○:僅かにエッジに丸みが発生。
△:エッジに少し丸みが発生し。
×:エッジに激しい丸みが発生し、エッジが不鮮明。
(3)150lpi最小網点再現性
10倍の拡大ルーペを使用して、150lpi最小網点再現性を測定した。
(4) 印刷性レタープレス印刷機としてシール印刷用輪転印刷機を用いてUVインキで1000部の印刷を実施し、ハイライト印刷性及びベタインキ乗りを判定した。
〔ハイライト印刷性〕
○:150lpiの3%ハイライトでムラなく鮮明に印刷できる。
△:150lpiの3%ハイライトでわずかに濃度ムラが有る。
×:150lpiの3%ハイライトで濃度ムラが有る。
〔ベタ部インキ乗り〕
○:ベタ部のインキ乗りにムラがなく印刷できる。
△:ベタ部のインキ乗りにわずかに濃度ムラが有る。
×:ベタ部のインキ乗りに濃度ムラが有る。
評価結果を以下の表1及び表2に示す。
【0040】
【表1】

【表2】

【0041】
表1の評価結果の実施例1〜5より、光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化された塩基性第3級窒素原子のモル数が共重合ポリアミド1000g中に0.30〜1.20モルを含有する組成物及びそれから得られたレーザー彫刻用原版がレーザー彫刻性及び印刷性に優れたレーザー彫刻用原版であることが分かり、特に0.70〜1.20モルを含有することでさらに優れたレーザー彫刻性が得られることが分かる。
実施例6〜7では光重合性化合物を変更したが、いずれもレーザー彫刻性及び印刷性に優れたレーザー彫刻用原版であった。又、実施例11では共重合ポリアミド成分として6ナイロンを6−6ナイロンに変更し、実施例12では塩基性第3級窒素原子含有構成単位含有率を変更しているが、いずれも、レーザー彫刻性及び印刷性に優れたレーザー彫刻用原版であった。
さらに、実施例13では塩基性第3級窒素原子含有ジアミンをN,N'−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンをN,N−ジ(3−アミノプロピル)イソプロピルアミンに変更
し、実施例1と同様にして実施例6〜7の評価を行ったが、N,N'−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンにはやや劣るもののレーザー彫刻性及び印刷性に優れたレーザー彫刻用原版であった。
一方、比較例1〜4では光重合性基含有非プロトン性4級化剤で4級化された塩基性第3級窒素原子を含まない共重合ポリアミドを用いたが、いずれもレーザー彫刻性及び印刷性の両者を満足できるものではなかった。
以上の結果から、本発明の樹脂組成物を使用すればレーザー彫刻性に優れ、しかも印刷性に優れた凸版用印刷版を製造することができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の樹脂組成物は、印刷版作製の際のレーザー照射時の版表面への樹脂カス付着が少なく且つレリーフエッジの丸み発生が殆どないので、レーザー彫刻性と印刷性能との両者を満足できるレーザー彫刻用印刷原版を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも共重合ポリアミド、光重合性不飽和化合物、光重合開始剤を含む感光性樹脂凸版組成物から得られる感光性樹脂組成層を紫外線照射によって硬化させた後にレーザー光照射により画像形成して印刷版を形成するレーザー彫刻用凸版印刷原版において、該共重合ポリアミドが塩基性第3級窒素原子を含有し、且つ光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化された塩基性第3級窒素原子量を1000g中に0.30〜1.20モル含有する塩基性第3級窒素原子含有共重合ポリアミドであることを特徴とするレーザー彫刻用凸版印刷原版。
【請求項2】
共重合ポリアミドに用いる塩基性第3級窒素原子を含有する共重合単位がピペラジン環を有するジアミンを構成成分とし、且つ全ポリアミド中に25質量%〜75質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のレーザー彫刻用凸版印刷原版。
【請求項3】
塩基性第3級窒素原子を4級化する光重合性基含有非プロトン性4級化剤がグリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレートであることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー彫刻用凸版印刷原版。
【請求項4】
共重合ポリアミド中の光重合性基含有非プロトン性4級化剤によって4級化された塩基性第3級窒素原子量が1000g中に0.70〜1.20モル含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーザー彫刻用凸版印刷原版
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のレーザー彫刻可能な印刷原版をレーザー彫刻によって凸版印刷版を製造する印刷版の製造方法。