説明

ロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材

【課題】ケイ酸塩水溶液の分離を抑制し、ケイ酸塩水溶液とイソシアネート成分との相溶性に優れ、硬化物からの有機化合物の溶出を抑制し、環境汚染(特に水質汚染)を抑制でき、さらに、硬化物に高い強度を付与するとともに、長期耐久性にも優れるロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供する。
【解決手段】ケイ酸塩水溶液を含む(A)成分と、イソシアネート化合物を含む(B)成分とからなり、前記(A)成分が、(A1)ケイ酸ナトリウム水溶液、および、(A2)トリアルカノールアミンおよびアルキルジアルカノールアミンからなる群から選ばれるアミンポリオールを含有し、前記(B)成分が、(B1)イソシアネート化合物、および、(B2)炭素数8〜12の脂肪族アルコールと多塩基酸からなるエステル化合物を含有する定着材用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材に関する。さらに詳しくは、トンネル構造物を保護するためのロックボルト工法に用いる、長期耐久性に優れたロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル掘削作業においては、AGF工法、注入式フォアポーリング工法、フェースボルト工法などの掘削時の安全性をより高めるための各種補助工法と掘削後のトンネルの変形等を抑制するためのロックボルト工法の2種類の工法が採用されている。
【0003】
AGF工法や注入式フォアポーリング工法は、掘削時の端部崩落を防止するために前方上部の土質を安定化する工法であり、掘削から覆工コンクリート打設までの安全性を確保するものである。また、フェースボルト工法は、掘削断面である鏡面およびその前方の土質を安定化する工法であり、一定区間の掘削完了から次回掘削開始までの安全性を確保するものである。これらの補助工法は、掘削作業に対する安全性向上を目的としたものである。
【0004】
一方、ロックボルト工法は、トンネル掘削後の周辺地山の安定化を行う工法であり、ボルトを定着材で地山に固定することにより、その後に打設される覆工コンクリートとともに地震等による地盤変動からトンネル構造物を保護することを目的に行われるものである。したがって、ロックボルトを周辺地山に定着させるための定着材には、トンネル構造物の使用時における安全性を確保するための高い強度と長期耐久性が要求されており、前記掘削時の各種補助工法に用いられる地山固結材とは大きく異なるものである。
【0005】
このようなロックボルト定着材としては、従来、高い強度を有するモルタルなどの無機系材料が使用されてきた。しかしながら、これらの無機系材料は、強度発現までに要する時間が長いことから作業効率が十分ではなく、また、漏水や湧水が発生する場合には材料が水中に流出してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、これらの問題を解決するために、アルカリケイ酸塩水溶液とイソシアネート化合物からなる有機−無機複合材料が定着材として使用されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、アルカリケイ酸塩水溶液、3級アミン触媒およびグリセリンを含む水ガラス成分と、ジフェニルメタンジイソシアネートを含むイソシアネート成分とを定着材用組成物として用いることにより、短時間で硬化および強度発現できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−285155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの定着材用組成物は水ガラス成分とイソシアネート成分との相溶性が悪く、均一な硬化物が得られにくいことからクラックなどが生じやすく、長期耐久性に問題がある。また、グリセリンの配合量が比較的多いために硬化物中に未反応のグリセリンが残存しやすいことから、水中にこれらが溶出することによる水質汚染が懸念される。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ケイ酸塩水溶液の分離を抑制し、ケイ酸塩水溶液とイソシアネート成分との相溶性に優れ、硬化物からの有機化合物の溶出を抑制し、環境汚染(特に水質汚染)を抑制でき、さらに、硬化物に高い強度を付与するとともに、長期耐久性にも優れるロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のロックボルト定着材用組成物は、トンネル掘削後の周辺地山に打設するロックボルト定着材用組成物であって、
前記定着材用組成物が、ケイ酸塩水溶液を含む(A)成分と、イソシアネート化合物を含む(B)成分とからなり、
前記(A)成分が、
(A1)ケイ酸ナトリウム水溶液、および、
(A2)トリアルカノールアミンおよびアルキルジアルカノールアミンからなる群から選ばれるアミンポリオール
を含有し、
前記(B)成分が、
(B1)イソシアネート化合物、および、
(B2)炭素数8〜12の脂肪族アルコールと多塩基酸からなるエステル化合物
を含有することを特徴とするロックボルト定着材用組成物である。
【0012】
前記(A2)成分が、(A)成分中に0.1〜5重量%含有されてなることが好ましい。
【0013】
前記(B1)成分が、
ポリイソシアネート化合物(B11)と、
エチレンオキサイドユニットを5〜50重量%含有するポリエーテルポリオール(B12)とを反応させてなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーであることが好ましい。
【0014】
また、本発明のロックボルト定着材は、ロックボルト定着材用組成物を硬化させて得られるロックボルト定着材である。
【0015】
ロックボルト定着材用組成物が、ケイ酸塩水溶液を含む(A)成分と、イソシアネート化合物を含む(B)成分とからなり、(A)成分100重量部に対して、(B)成分が30〜120重量部配合されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材によれば、ケイ酸塩水溶液の分離を抑制し、ケイ酸塩水溶液とイソシアネート成分との相溶性に優れ、硬化物からの有機化合物の溶出を抑制し、環境汚染(特に水質汚染)を抑制でき、さらに、硬化物に高い強度を付与するとともに、長期耐久性にも優れるロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のロックボルト定着材用組成物は、トンネル掘削後の周辺地山に打設するロックボルト定着材用組成物であって、前記定着材用組成物が、ケイ酸塩水溶液を含む(A)成分と、イソシアネート化合物を含む(B)成分とからなり、前記(A)成分が、(A1)ケイ酸ナトリウム水溶液、および、(A2)トリアルカノールアミンおよびアルキルジアルカノールアミンからなる群から選ばれるアミンポリオールを含有し、前記(B)成分が、(B1)イソシアネート化合物、および、(B2)炭素数8〜12の脂肪族アルコールと多塩基酸からなるエステル化合物を含有することを特徴とする。
【0018】
前記ケイ酸塩水溶液を含む(A)成分は、(A1)ケイ酸ナトリウム水溶液、および、(A2)トリアルカノールアミンおよびアルキルジアルカノールアミンからなる群から選ばれるアミンポリオールを含有する。
【0019】
ケイ酸ナトリウム水溶液(A1)としては、通常市販されているケイ酸ナトリウムの水溶液を主成分として用いることができる。このケイ酸ナトリウムは一般式:Na2O・xSiO2・nH2Oで表わされる。ここでxは、SiO2(二酸化ケイ素) とNa2O(酸化ナトリウム)とのモル比を表し、本発明においては2〜3、好ましくは2.2〜2.8である。xが2より小さいと、発泡硬化反応における無水ケイ酸ゲル化反応の割合が減少するため、2成分混合時の硬化性が悪くなり、3をこえると、ケイ酸ナトリウム水溶液の粘度が高くなるため、後述の(B)成分との混合性および使用時の作業性が低下する。
【0020】
ケイ酸ナトリウム水溶液(A1)の固形分濃度は、35〜50重量%、好ましくは40〜45重量%である。ケイ酸ナトリウム水溶液の固形分が高過ぎる場合は、水で希釈して調整することもできる。固形分濃度が35重量%未満では、(A)成分と(B)成分とを混合した場合の混合液中における水分の含有量が多くなるため、2成分の相溶性が低下する傾向があり、50重量%をこえると(A)成分の粘度が高くなり過ぎるため(B)成分との混合性および使用時の作業性が低下する傾向がある。
【0021】
トリアルカノールアミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリイソブタノールアミンなどが挙げられる。これらのうち、汎用性、経済性の点から、トリエタノールアミンが好ましい。
【0022】
アルキルジアルカノールアミンとしては、例えば、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、プロピルジエタノールアミン、イソプロピルジエタノールアミンなどのアルキルジエタノールアミン化合物、メチルジプロパノールアミン、エチルジプロパノールアミン、プロピルジプロパノールアミン、イソプロピルジプロパノールアミンなどのアルキルジプロパノールアミン化合物、メチルジイソプロパノールアミン、エチルジイソプロパノールアミン、プロピルジイソプロパノールアミン、イソプロピルジイソプロパノールアミンなどのアルキルジイソプロパノールアミン化合物、メチルジブタノールアミン、エチルジブタノールアミン、プロピルジブタノールアミン、イソプロピルジブタノールアミンなどのアルキルジブタノールアミン化合物などが挙げられる。これらのうち、(A)成分の安定化効果に優れる点から、アルキルジエタノールアミン化合物が好ましい。
【0023】
(A2)を配合することにより、(A)成分の安定性が向上するとともに、(B1)イソシアネート化合物と水との反応により発生する二酸化炭素による硬化物の発泡および亀裂を抑制し、硬化物に十分な強度を付与することができる。
【0024】
(A2)の配合量は、(A)成分中に0.1〜5.0重量%であることが好ましく、0.1〜2.0重量%であることがより好ましい。(A2)の配合量が0.1重量%未満の場合、(A)成分の安定化効果が不充分となり、かつ、二酸化炭素による硬化物の発泡、亀裂を充分に抑制できないという問題があり、5.0重量%を超えて添加してもそれ以上の効果が得られない。
【0025】
本発明のロックボルト定着材には、適宜アミン触媒(A3)を配合することもできる。アミン触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジプロピレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ヘキサメチルトリプロピレンテトラミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、テトラメチルイミノビスプロピルアミン、N,N,N−トリス−(3−ジメチルアミノプロピル)アミン、N−メチル−N,N−ビス(3−ジメチルアミノプロピル)アミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチルモルホリン、ジモルホリノジエチルエーテル、N,N’−ジメチルピペラジン、N,N’,N’−トリメチルアミノエチルピペラジン、N−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、ジメチルアミノプロピルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、ビス−(ジメチルアミノエチル)エーテル、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N’,N’−トリス(3−ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ−S−トリアジンなどの分子内に水酸基を有しないアミン化合物、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−ヒドロキシエチルピペラジン、トリメチルヒドロキシエチルビスアミノエチルエーテル、トリメチルアミノプロピルエタノールアミン、ビス−3−ジメチルアミノプロピル)イソプロパノールアミン、テトラメチル−2−ヒドロキシエチルジエチレントリアミンなどの分子内に水酸基を1つ有するアミン化合物が挙げられる。
【0026】
(A3)の配合量は、必要とされる硬化速度により適宜調整できるが、(A)成分中に0.1〜2.0重量%であることが好ましい。
【0027】
前記(B)成分は、(B1)イソシアネート化合物、および、(B2)炭素数8〜12の脂肪族アルコールと多塩基酸からなるエステル化合物を含有する。
【0028】
(B1)イソシアネート化合物としては、たとえば、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびその異性体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、クルードトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、トリメチレンキシリレンジイソシアネートなどのポリイソシアネートの単独または混合物があげられる。
【0029】
また、(B1)イソシアネート化合物とポリオール化合物とを、NCO基とOH基との当量比(NCO基/OH基)が1.5〜300、好ましくは2.0〜100の範囲となるように、公知の方法で反応させて得られるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーも使用できる。このようなポリオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール化合物、 グリセリン、トリメチロールプロパンなどのトリオール化合物、ペンタエリスリトール、ソルビトール、蔗糖などの他のポリオール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、およびこれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどアルキレンオキサイドを付加してなるポリエーテルポリオールが挙げられる。これらのうち、ケイ酸ナトリウム(A1)との相溶性に優れ、2成分混合液が硬化前に水が接触したときの排水汚染をより抑制できることから、エチレンオキサイドユニットを5〜50重量%含有するポリエーテルポリオールが好ましい。
【0030】
これらのうち、安全衛生面および経済性の点から、取扱い環境温度下での揮発性が極めて小さく、引火点が200℃以上であり、液状でしかも経済性の伴った構成のものであるポリメリックMDI、および、これを用いたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーが好ましく、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーがより好ましい。
【0031】
(B1)の配合量は、(B)成分中に50〜95重量%である。上記範囲内とすることにより、(B1)イソシアネート化合物中のイソシアネート基と(A1)ケイ酸ナトリウム水溶液中の水とが反応して形成される尿素結合により硬化物に十分な強度を付与することができるようになる。
【0032】
(B2)を配合することにより、(A)成分と(B)成分の相溶性を向上することができるとともに、(B1)イソシアネート化合物と水との反応により発生する二酸化炭素による硬化物の発泡を抑制し、硬化物に十分な強度を付与することができる。
【0033】
多塩基酸としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸などの2塩基酸、トリメリット酸などの3塩基酸、ピロメリット酸などの4塩基酸が挙げられる。(B)成分をより低粘度にできることから、2塩基酸が好ましい。また、環境影響の観点から水質汚染をより低減できるアジピン酸がより好ましい。
【0034】
脂肪族アルコールの炭素数を8〜12とすることにより、硬化物を水中に浸漬したときの有機化合物の溶出量を低減することができる。炭素数8〜12の脂肪族アルコールとしては、オクチルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、デシルアルコール、イソデシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコールなどが挙げられる。
【0035】
(B2)の配合量は、(B)成分中に1〜50重量%であることが好ましく、3〜30重量%であることがより好ましい。上記範囲内とすることにより、(B)成分の低粘度化ができるとともに、良好な硬化性と強度を付与することができる。
【0036】
次に、本発明のロックボルト定着材について説明する。本発明のロックボルト定着材は、前記ロックボルト定着材用組成物を硬化させて得られるロックボルト定着材である。
【0037】
ロックボルト定着材用組成物における(A)成分と(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して(B)成分30〜120重量部であることが好ましく、50〜90重量部であることがより好ましい。上記範囲より少ないと硬化不良が起こりやすく、上記範囲より多いと硬化時に発生する二酸化炭素量が多くなるためにロックボルト定着材の発泡倍率が高くなったり、ロックボルト定着材に亀裂を生じたりしやすくなり、十分な強度が得られにくくなるおそれがある。
【0038】
(A)成分と(B)成分の混合開始から硬化までの時間は、(A)成分と(B)成分の液温20℃で混合したときに30〜180秒であることが好ましい。上記範囲より短いとロックボルト先端まで十分に充填できない恐れがあり、上記範囲より長いと作業効率の低下が起こりやすくなる。
【0039】
本発明のロックボルト定着材は、十分な強度と耐久性を得る観点から、JIS K 7220(硬質発泡プラスチックの圧縮試験方法)に準じて測定した50%圧縮強度が20MPa以上、好ましくは30MPa以上であることが好ましい。
【0040】
本発明のロックボルト定着材は、十分な耐久性を得る観点から、JIS K 7221(硬質発泡プラスチックの曲げ試験方法)に準じて測定した曲げ強度が5MPa以上、好ましくは10MPa以上であることが好ましい。
【0041】
本発明のロックボルト定着材の強度をより向上させる観点からは、ロックボルト定着材の発泡倍率は低いことが好ましい。具体的には、(A)成分と(B)成分の液温20℃で混合した場合の発泡倍率が、1〜3倍であることが好ましく、1〜2倍であることがより好ましく、1〜1.5倍であることがさらに好ましく、1〜1.3倍であることが最も好ましい。
【0042】
本発明のロックボルト定着材は、水質汚染を抑制する観点から、液温20℃の水中に7日間浸漬した後の水中に含まれる有機物量は、JIS K 0102(工業排水試験法)に準じて測定した過マンガン酸カリウム消費量として10mg/L以下であることが好ましい。
【0043】
以下、実施例により、本発明のエアゾール組成物をより詳細に説明するが、本発明は、なんらこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(A)成分について、下記原料を表1に示す配合割合で配合することにより、A−I〜A−IXを調製した。
ケイ酸ナトリウム1:SiO2/Na2O比2.2(モル比)、固形分41重量%
ケイ酸ナトリウム2:SiO2/Na2O比2.5(モル比)、固形分40重量%
ケイ酸ナトリウム3:SiO2/Na2O比2.9(モル比)、固形分38重量%
アミンポリオール1:トリエタノールアミン
アミンポリオール2:N−メチルジエタノールアミン
ポリオール1:グリセリン
アミン触媒1:トリエチレンジアミン
アミン触媒2:N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン
【0045】
【表1】

【0046】
(粘度測定)
液温25℃に調整し、JIS K 7301に準じて測定した。結果を表1に示す。
【0047】
(分散性)
容量200mLのポリカップに、表1に示す組み合わせで、20℃に温度調節した(A)成分150gを計量し、ミキサーで1000rpmの回転速度で10分間混合・撹拌し5分間静置させたときの外観を目視にて確認し、(A)成分が均一のものを「良好」、成分の分離が見られ不均一のものを「不良」とした。結果を表1に示す。
【0048】
表1に示されるように、アミンポリオール1〜3に代えて、ポリオール1(グリセリン)を用いた場合、分散性が不良となることが判った。
【0049】
(B)成分について、下記原料を表2に示す配合割合で配合することによりB−I〜B−IXを調製した。
【0050】
【表2】

*1:PP−1:ポリメリックMDI(商品名:コロネート1106、日本ポリウレタン社製)75重量部と、グリセリンにプロピレンオキサイド70重量%とエチレンオキサイド30重量%をブロック付加重合させて得られたポリエーテルポリオール(数平均分子量1500)15重量部とを、80℃で3時間反応させることにより、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーPP−1(NCO含有量25重量%)を得た。
*2:PP−2:ポリメリックMDI(商品名:フォームライトNE5000B、BASFイノアックポリウレタン社製)75重量部と、グリセリンにプロピレンオキサイド68重量%とエチレンオキサイド32重量%をブロック付加重合させて得られたポリエーテルポリオール(数平均分子量1500)15重量部とを、80℃で3時間反応させることにより、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーPP−2(NCO含有量25重量%)を得た。
*3:PP−3:ポリメリックMDI(商品名:コスモネートM−50、三井化学社製)80重量部と、プロピレングリコールにプロピレンオキサイド75重量%とエチレンオキサイド25重量%をブロック付加重合させて得られたポリエーテルポリオール(数平均分子量1000)20重量部とを、80℃で3時間反応させることにより、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーPP−3(NCO含有量26重量%)を得た。
エステル化合物1:ジイソノニルアジペート
エステル化合物2:ジオクチルアジペート
エステル化合物3:ジイソデシルアジペート
PC:プロピレンカーボネート
DBA:ジブチルアジペート
【0051】
(粘度測定)
液温25℃に調整し、JIS K 7301に準じて測定した。結果を表2に示す。
【0052】
(引火点)
引火点は、クリーブランド開放式に準じて測定した。結果を表2に示す。引火点が200℃以上のものは、消防法危険物第4類第4石油類に該当し、200℃未満70℃以上のものは消防法危険物第4類第3石油類に該当する。表2に示されるように、B−VIIIおよびB−IXでは、引火点が200℃以下と低く、引火性が高いことが判る。
【0053】
<実施例1〜12および比較例1〜5>
容量300mLのポリカップに、表3および表4に示す組み合わせおよび配合比(重量比)で、20℃に温度調節した(A)成分および(B)成分を計量し、ミキサーで500rpmの回転速度で10秒間混合・撹拌し、硬化させることによりロックボルト定着材を得た。このときの性状について以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
(混合液の相溶性)
A液、B液を前記の方法にて混合した液を目視にて確認し、混合液が均一のものを「良好」、混合液が不均一のものを「不良」とした。
【0057】
(硬化時間)
前記の方法にて混合した混合液が反応硬化した時間を、ストップウォッチにて計測した。
【0058】
(発泡倍率)
前記の方法にて混合した直後の混合液の液面高さと硬化後のロックボルト定着材の高さを測定し、発泡倍率を求めた。
【0059】
(有機物溶出量)
前記の方法にて混合した混合液をφ5×10cmの円柱状型枠内にすばやく注入し、20℃雰囲気下で24時間静置後、型枠から取り出すことにより供試体を作製した。この供試体を10Lの蒸留水に浸漬し、20℃で7日間静置した後の試料水に含まれる有機物量を、JIS K 0102(工業排水試験法)に準じて過マンガン酸カリウム消費量として測定した。
【0060】
(圧縮強度)
JIS K 7220(硬質発泡プラスチックの圧縮試験方法)に準じて、得られたロックボルト定着材の圧縮強度を測定した。
【0061】
(曲げ強度)
JIS K 7221(硬質発泡プラスチックの曲げ試験方法)に準じて、得られたロックボルト定着材の曲げ強度を測定した。
【0062】
表3および表4に示されるように、アミンポリオールを含まない比較例1では、(A)成分と(B)成分の相溶性が不良となり、均一なロックボルト定着材が得られないことが判った。また、ロックボルト定着材が発泡しやすくなり、充分な強度が得られないことが判った。アミンポリオールに代えてグリセリンを用いた比較例2では、(A)成分と(B)成分の相溶性が不良となり、均一なロックボルト定着材が得られないことが判った。また、ロックボルト定着材が発泡しやすくなり、十分な強度が得られないことが判った。さらに、有機物溶出量が高くなることも判った。グリセリンを比較例2よりも大量に用いた比較例3では、(A)成分と(B)成分の相溶性が不良となり、均一なロックボルト定着材が得られないことが判った。また、比較例1および2と比べてさらにロックボルト定着材が発泡しやすくなり、十分な強度が得られないことが判った。さらに、比較例1および2と比べてさらに有機物溶出量が多くなることが判った。本発明のエステル化合物1〜3に代えてプロピレンカーボネートを用いた比較例4では、比較例1および2と比べてさらにロックボルト定着材が非常に発泡しやすくなり、十分な強度が得られないことが判った。また、比較例1および2と比べてさらに有機物溶出量が多くなることが判った。本発明のエステル化合物1〜3に比べて炭素数が少ないジブチルアジペートを用いた比較例5では、比較例1および2と比べてさらにロックボルト定着材が発泡しやすくなり、十分な強度が得られないことが判った。また、比較例1および2と比べてさらに有機物溶出量が多くなることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削後の周辺地山に打設するロックボルト定着材用組成物であって、
前記定着材用組成物が、ケイ酸塩水溶液を含む(A)成分と、イソシアネート化合物を含む(B)成分とからなり、
前記(A)成分が、
(A1)ケイ酸ナトリウム水溶液、および、
(A2)トリアルカノールアミンおよびアルキルジアルカノールアミンからなる群から選ばれるアミンポリオール
を含有し、
前記(B)成分が、
(B1)イソシアネート化合物、および、
(B2)炭素数8〜12の脂肪族アルコールと多塩基酸からなるエステル化合物
を含有することを特徴とするロックボルト定着材用組成物。
【請求項2】
前記(A2)成分が、(A)成分中に0.1〜5重量%含有されてなる請求項1記載のロックボルト定着材用組成物。
【請求項3】
前記(B1)成分が、
ポリイソシアネート化合物(B11)と、
エチレンオキサイドユニットを5〜50重量%含有するポリエーテルポリオール(B12)とを反応させてなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーである請求項1または2記載のロックボルト定着材用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のロックボルト定着材用組成物を硬化させて得られるロックボルト定着材。
【請求項5】
前記ロックボルト定着材用組成物が、ケイ酸塩水溶液を含む(A)成分と、イソシアネート化合物を含む(B)成分とからなり、
(A)成分100重量部に対して、(B)成分が30〜120重量部配合されてなることを特徴とする請求項4記載のロックボルト定着材。