説明

ロボットシステム

【課題】ウィービングしながら溶接を行う場合でも、溶接品質が低下するのを抑制することが可能なロボットシステムを提供する。
【解決手段】このロボットシステム100は、ロボット1と、ロボット1により移動され、溶接線に対して溶接を行う溶接トーチ2と、溶接トーチ2により溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する基本座標系に基づいてウィービングしながら溶接を行うようにロボット1を制御するロボット制御装置3とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステムに関し、特に、ウィービング動作を行うロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウィービング動作を行うロボットシステムが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、溶接トーチによりウィービングしながら溶接を行う多関節産業用ロボット(ロボットシステム)が開示されている。この多関節産業用ロボットは、溶接トーチの根元部側に位置する駆動原点を回動中心として溶接トーチを振り子状に移動させることによってウィービングしながら溶接を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−71286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の多関節産業用ロボット(ロボットシステム)では、ウィービングしながら溶接を行う場合に溶接トーチが振り子状に移動されるので、溶接トーチ先端とワークとの距離がウィービングの中央部と端部とで異なる。よって、ウィービングの振幅(円動作の半径)が大きくなると溶接線付近と溶接線周辺とで溶接強度にばらつきが生じ、結果として溶接品質の低下を招く恐れがある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ウィービングしながら溶接を行う場合でも、溶接品質が低下するのを抑制することが可能なロボットシステム、および、ウィービングしながら加工または処理を行う場合でも、加工品質または処理品質が低下するのを抑制することが可能なロボットシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるロボットシステムは、ロボットと、ロボットにより移動され、溶接線に対して溶接を行う溶接トーチと、溶接トーチにより、溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する基本座標系に基づいてウィービングしながら溶接を行うようにロボットを制御する制御部とを備えている。
【0008】
この発明の第1の局面によるロボットシステムでは、上記のように、溶接トーチにより、溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する基本座標系に基づいてウィービングしながら溶接を行うようにロボットを制御する制御部を設けることによって、基本座標系に基づいて水平方向にウィービングを行うことができるので、ウィービングしながら溶接を行う場合に、溶接強度にばらつきが生じるのを抑制することができる。これにより、ウィービングしながら溶接を行う場合でも、溶接品質が低下するのを抑制することができる。
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の第2の局面におけるロボットシステムは、ロボットと、ロボットにより移動され、作業線に対して加工または処理を行うエンドエフェクタと、エンドエフェクタにより作業線に基づく基準線を含む水平面を構成する基本座標系に基づいてウィービングしながら加工または処理を行うようにロボットを制御する制御部とを備えている。ここで作業線とは、溶接を行う場合の溶接線に相当するものであり、加工または処理を行う前に予め教示される。
【0010】
この発明の第2の局面によるロボットシステムでは、上記のように、エンドエフェクタにより作業線に基づく基準線を含む水平面を構成する基本座標系に基づいてウィービングしながら加工または処理を行うようにロボットを制御する制御部を設けることによって、基本座標系に基づいて水平方向にウィービングを行うことができるので、ウィービングしながら加工または処理を行う場合に、加工結果または処理結果にばらつきが生じるのを抑制することができる。これにより、ウィービングしながら加工または処理を行う場合でも、加工品質または処理品質が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態によるロボットシステムの全体構成を説明するための概略図である。
【図2】本発明の一実施形態によるロボットシステムのウィービング動作を説明するための概略図である。
【図3】本発明の一実施形態によるロボットシステムにおいて円形状ウィービングを行う際の準備手順を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態によるロボットシステムにおいて楕円形状ウィービングを行う際の準備手順を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態によるロボットシステムにおいて溶接線を教示する際の準備手順を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施形態によるロボットシステムのウィービングを伴う溶接時の処理について説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態によるロボットシステムにおけるウィービング軌道上の通過点について説明するための図である。
【図8】本発明の一実施形態によるロボットシステムにおいて基本座標系を徐々に回動させる処理について説明するための図である。
【図9】本発明の比較例において基本座標系を急激に回動させた場合について説明するための図である。
【図10】本発明の一実施形態によるロボットシステムにおいて仮想線に基づいて基本座標系を設定する処理について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1および図2を参照して、本発明の一実施形態によるロボットシステム100の構成について説明する。
【0014】
本実施形態によるロボットシステム100は、アーク溶接を行う機能を有している。ロボットシステム100は、溶接線に対してウィービングしながら行う溶接処理(ウィービングを伴う溶接処理)と、ウィービングを伴わないで溶接線に対して行う溶接処理(ウィービングを伴わない溶接処理)とをユーザが選択可能に構成されている。また、ロボットシステム100は、図1に示すように、ロボット1と、ロボット1の先端部に取り付けられた溶接トーチ2と、ロボット1を制御するロボット制御装置3とを備えている。なお、溶接トーチ2は、本発明の「エンドエフェクタ」の一例であり、ロボット制御装置3は、本発明の「制御部」の一例である。
【0015】
ロボット1は、6つの関節部を有する6軸(旋回ベース11から手先部16へ向かって順にS軸、L軸、U軸、R軸、B軸およびT軸と呼称する)の垂直多関節型ロボットである。ロボット1は、旋回ベース11と、アーム支持部12と、下腕部13と、上腕部14と、手首部15と、手先部16とを備えている。
【0016】
旋回ベース11は、下面が設置面(床面や走行台車の設置面など)に固定され、上面側でアーム支持部12を水平面内で回動可能に支持している。旋回ベース11とアーム支持部12とは、減速機17aを介して連結され、図示しないモータによってアーム支持部12を旋回ベース11に対して水平面内で相対的に回動(旋回)させるように構成されている。このように、旋回ベース11とアーム支持部12との間でS軸(旋回軸)の関節部が構成されている。
【0017】
アーム支持部12は、旋回ベース11上に設置され、下腕部13および上腕部14を含むロボット1のアーム全体を支持するように構成されている。アーム支持部12は、上方に延びるように設けられた下腕取付部121で減速機17bを介して下腕部13を回動可能に支持している。また、下腕取付部121と下腕部13とは、水平方向に対向するようにして水平方向に延びる回動軸(L軸)周りに相対回動可能に連結されている。そして、下腕部13は、減速機17bに接続された図示しないモータによって、下腕取付部121(アーム支持部12)に対して垂直面内で前傾または後傾するように旋回駆動されるように構成されている。このように、アーム支持部12と下腕部13との間でL軸(下腕軸)の関節部が構成されている。
【0018】
下腕部13は、下端部でアーム支持部12によって前後方向に旋回可能に支持されている一方、上端部で上腕部14を旋回可能に支持するように構成されている。下腕部13は、上端部で上腕部14の第1上腕部141と水平方向に対向するようにして、減速機17cを介して連結されている。そして、上腕部14は、減速機17cに接続された図示しないモータによって、下腕部13に対して垂直面内で上下方向に旋回駆動されるように構成されている。このように、下腕部13と上腕部14との間でU軸(上腕軸)の関節部が構成されている。
【0019】
また、上腕部14は、一端(根本部)側の第1上腕部141で下腕部13によって上下方向に旋回可能に支持されている一方、他端(先端部)側の第2上腕部142で手首部15を支持するように構成されている。第1上腕部141は、減速機17dを介して第2上腕部142に連結されており、第2上腕部142を連結軸(R軸)周りに回動可能に支持するように構成されている。そして、第2上腕部142は、減速機17dに接続された図示しないモータによって回動駆動されるように構成されている。このように、第1上腕部141と第2上腕部142との間で、第2上腕部142から先端側の手首部15および手先部16を回動させるR軸(手首回動軸)の関節部が構成されている。
【0020】
手首部15は、上腕部14(第2上腕部142)の先端に回動可能に支持されている。手首部15は、減速機17eと、減速機17eに接続された図示しないモータとを内蔵している。そして、手首部15は、減速機17eに接続された上記モータによって、上腕部14(第2上腕部142)に対して連結軸(B軸)周りに回動可能なように構成されている。このように、第2上腕部142と手首部15との間で、手首部15を回動させるB軸(手首曲げ軸)の関節部が構成されている。
【0021】
手先部16は、手首部15の先端に設けられ、手首部15と手先部16との連結方向に延びる回動軸(T軸)周りに回動可能なように手首部15に支持されている。手先部16は、減速機17fを介して手首部15と連結されている。そして、手先部16は、減速機17fに接続された図示しないモータによって、手首部15に対して回動軸(T軸)周りに回動されるように構成されている。このように、手首部15と手先部16との間で、手先部16を回動させるT軸(手先回動軸)の関節部が構成されている。
【0022】
溶接トーチ2は、溶接線に対してアーク溶接を行うために設けられている。溶接トーチ2は、図1および図2に示すように、ロボット1の手先部16の先端部に取り付けられており、ロボット1により移動されるように構成されている。溶接トーチ2の先端部は、ロボット1により溶接トーチ2を移動させる際の制御点Cとなっている。
【0023】
ロボット制御装置3は、図1に示すように、ロボット指令ケーブル10を介してロボット1に通信可能に接続され、所定の指令クロック周期毎にロボット1の各軸のモータに対して動作指令を出力してロボット1の動作を制御する。また、ロボット制御装置3は、ロボット1の動作を教示するための図示しないペンダントに通信可能に接続されている。また、ロボット制御装置3は、後述のように、水平面(大地に平行な平面)を構成する基本座標系に基づいてウィービングしながら溶接するようにロボット1の動作を制御するように構成されている。なお、図1では本実施形態の説明に必要な部分のみ描いている。すなわち、ペンダントの他にも溶接電源やワイヤ、送給装置は省略している。また溶接トーチ2についても模式的に描いている。
【0024】
次に、図3を参照して、溶接を行う前の準備手順について説明する。
【0025】
まず、図示しないペンダントを用いてロボット1を移動させながらロボット制御装置3にロボット1の動作を教示する。また、ペンダントを用いて溶接を行う区間を設定する。また、ウィービングを伴う溶接処理またはウィービングを伴わない溶接処理のいずれか一方を選択して設定する。また、溶接情報(溶接速度やウィービング動作に関する情報)を設定する。具体的には、ウィービングを伴う溶接処理を選択した場合には、ウィービングの形態やウィービング動作の周波数、ウィービング動作の振幅などを設定する。本実施形態では、ウィービングの形態として、単振動ウィービングや円形状ウィービング、楕円形状ウィービングなどがある。また、円形状ウィービングが選択された場合には、図3に示すように、鉛直方向から見て溶接線の延びる方向に延びるX1軸と、水平面内でX1軸に直交する方向に延びるY軸とが構成する水平面(大地に平行な平面)上の半径Rを設定する。また、楕円形状ウィービングが選択された場合には、図4に示すように、X1軸の半径(縦径A)とY軸の半径(横径B)とを設定する。
【0026】
また、ペンダントを用いてロボット1を移動させながら、図5に示すように、ワーク領域200において、溶接線の始点Wsと溶接線の終点Weとをロボット制御装置3に教示する。これにより溶接線が教示される。ウィービングを伴う溶接処理が選択された場合には、この溶接線に対してウィービングしながら溶接が行われ、ウィービングを伴わない溶接処理が選択された場合には、溶接線上に溶接が行われる。
【0027】
次に、図3〜図7を参照して、本実施形態のロボットシステム100のロボット制御装置3によるウィービングを伴う溶接時の処理について説明する。ここでは、ウィービングの形態として、円形状ウィービングまたは楕円形状ウィービングが選択された場合について説明する。
【0028】
図6のステップS1において、ロボット制御装置3は、指令クロック毎の溶接線上の移動目標点Wkの位置を取得する。具体的には、ロボット制御装置3は、教示された溶接線の軌跡情報、溶接速度および指令クロック周期に基づいて、指令クロック毎の溶接線上の移動目標点Wkの位置を取得する。移動目標点Wkは、溶接トーチ2による溶接の進行に伴って指令クロック毎に溶接線に沿って順次移動される。また、溶接線の軌跡情報は、軌跡の大きさ(長さ)や方向などの情報を含む溶接線の形態に関する情報である。
【0029】
次に、ロボット制御装置3は、ステップS2において、水平方向に延びる投影ベクトルX1を取得する。その取得の手順について説明する。まず、ロボット制御装置3は、図5に示すように、指令クロック毎の移動目標点Wkに基づいて、移動目標点Wkが移動する方向に延びる移動ベクトルXを取得する。移動ベクトルXは、教示された溶接線に沿って延びるベクトルである。そして、ロボット制御装置3は、移動ベクトルXが水平面に投影された投影ベクトルX1を取得する。すなわち、投影ベクトルX1は、鉛直方向から見て溶接線の延びる方向に延びる基準線のベクトルである。そして、ロボット制御装置3は、ステップS3において、基本座標系を設定する。具体的には、ロボット制御装置3は、鉛直ベクトル(大地に対して垂直方向に延びるベクトル)Zと、投影ベクトルX1とに基づいて、これらに対して直交するベクトルYを取得する。すなわち、ベクトルYは、水平方向に延びるベクトルであり、鉛直ベクトルZと投影ベクトルX1との外積(Z×X1)により得られる。投影ベクトルX1およびベクトルYにより構成される平面は、水平面であり、移動目標点Wkが溶接線に沿って移動するのに伴って溶接線に沿って順次移動される。また、ロボット制御装置3は、移動目標点Wkを原点として、投影ベクトルX1、ベクトルYおよび鉛直ベクトルZの3軸からなる座標系を移動目標点Wkにおける基本座標系として設定する。なお、投影ベクトルX1およびベクトルYは、ぞれぞれ、円形状ウィービングの半径R(楕円形状ウィービングの縦径Aおよび横径B)を設定する際の図3(図4)に示したX1軸およびY軸に対応する。
【0030】
そして、ロボット制御装置3は、ステップS4において、ウィービング動作に関する情報および移動目標点Wkに基づいて、指令クロック毎の制御点Cの位置に対応する通過点T(k)の位置を取得する。ここでkは0以上の整数である。円形状ウィービングを行う場合には、ロボット制御装置3は、図7に示すように、溶接線の始点Wsを第1点目の通過点T(0)として取得する。そして、仮に移動目標点Wkが移動していない(基本座標系が移動していない)と考えた場合、第2点目以降の通過点T(k)は、通過点T(0)から投影ベクトルX1上を順次たどり、予め設定された半径Rの円周上に到達すると、それ以降の通過点T(k)は、移動目標点Wkを中心とする半径Rの円周上を順次たどる。2周期目以降においては、通過点T(k)は、半径Rの円周上を順次たどる。
【0031】
次に、移動目標点Wkを中心とする半径Rの円周上をたどる通過点T(k)の基本座標系上での位置を取得する式を以下の式(1)および式(2)に示す。
【0032】
T(k)=R×cosθ・・・・・(1)
T(k)=R×sinθ・・・・・(2)
上記式(1)および式(2)において、XT(k)は、通過点T(j)以降のk回目の指令クロックにおける通過点T(k)の位置のX座標、YT(k)は、通過点T(j)以降のk回目の指令クロックにおける通過点T(k)の位置のY座標、Rは、X1軸およびY軸により構成される水平面における円形状ウィービングの半径、θは、通過点T(j)以降のk回目の指令クロックにおける通過点T(k)の投影ベクトルX1に対する回転角をそれぞれ表す。
【0033】
次に、楕円形状ウィービングを行う場合の通過点T(k)の位置を取得する式を以下の式(3)および式(4)に示す。
【0034】
T(k)=A×cosθ・・・・・(3)
T(k)=B×sinθ・・・・・(4)
上記式(3)および式(4)において、XT(k)は、通過点T(j)以降のk回目の指令クロックにおける通過点T(k)の位置のX座標、YT(k)は、通過点T(j)以降のk回目の指令クロックにおける通過点T(k)の位置のY座標、Aは、X1軸およびY軸により構成される水平面における楕円形状ウィービングの縦径(X1軸の半径)、Bは、X1軸およびY軸により構成される水平面における楕円形状ウィービングの横径(Y軸の半径)、θは、通過点T(j)以降のk回目の指令クロックにおける通過点T(k)の投影ベクトルX1に対する回転角をそれぞれ表す。
【0035】
実際には、移動目標点Wkは、溶接線に沿って順次移動されるので、それに伴って基本座標系が移動して通過点T(k)が描く円形状(楕円形状)の軌道も順次X方向にずれる。
【0036】
その後、ロボット制御装置3は、ステップS5において、設定した基本座標系に基づいて、溶接トーチ2によりX1軸およびY軸により構成される水平面(移動目標点Wkを含む水平面)上の通過点T(k)の軌道に沿って略円形状または略楕円形状にウィービングしながら溶接するようにロボット1を制御する。すなわち、ロボット制御装置3は、溶接トーチ2の制御点CがX1軸およびY軸により構成される水平面を構成する基本座標系に基づいて通過点T(k)の軌道に沿ってウィービング動作するようにロボット1を制御する。この際、ロボット制御装置3は、ロボット1の6つの関節部の駆動を制御することによって、溶接トーチ2の姿勢(水平面に対する傾斜角度)を変動させることなく、基本座標系に基づいて移動(ウィービング)させる。これにより、教示された溶接線が水平方向に延びる(水平面内に位置する)場合であっても、水平面に対して傾斜している場合であても、ロボット制御装置3により、溶接トーチ2の制御点Cが溶接線に沿って鉛直方向に順次移動される水平面(X1軸およびY軸により構成される水平面)を構成する基本座標系に対して水平方向にウィービングしながら移動される。
【0037】
次に、図8を参照して、鉛直方向(Z方向)から見て互いに異なる方向に延びる第1溶接線および第2溶接線が接続されている場合において、第1溶接線に対するウィービング動作から第2溶接線に対するウィービング動作に移行する際のロボット制御装置3による処理について説明する。ここでは、鉛直方向から見て、第1溶接線および第2溶接線が互いにα度傾斜している場合について説明する。すなわち、第1溶接線に対する基本座標系のX1軸(投影ベクトルX1)と第2溶接線に対する基本座標系のX1軸(投影ベクトルX1)とのなす角度がα度である。
【0038】
ロボット制御装置3は、図8に示すように、第1溶接線および第2溶接線の接続点の前後において、溶接トーチ2による溶接の進行に伴って基本座標系を徐々にα度分回動させる制御を行う。具体的には、ロボット制御装置3は、接続点の前後の複数のウィービング動作周期にわたって徐々に基本座標系を回動させα度に達するようにする。たとえば、接続点のウィービング動作5周期手前から接続点の後のウィービング動作5周期目にわたって基本座標系を回動させる場合には、この区間(接続点の前後の計10周期にわたる区間)において、各ウィービング動作周期で等角度(α/10度)ずつ基本座標系を回動させる。これにより、第1溶接線および第2溶接線の接続点の前後において、第1溶接線に対する基本座標系から第2溶接線に対する基本座標系に徐々に切り替えることが可能である。また、3つ以上の溶接線が接続されることにより2つ以上の接続点が存在する場合でも、ロボット制御装置3は、各接続点の前後において、上記と同様の処理を行う。なお、接続点の前後において基本座標系を回動させる区間(ウィービング動作の周期数)は、ユーザが任意に設定可能である。
【0039】
一方、本実施形態とは異なり、第1溶接線および第2溶接線の接続点において、基本座標系を急激にα度回動させる場合には、図9に示すように、第1溶接線に対するウィービング動作の最後の通過点T(k−1)と、第2溶接線に対するウィービング動作の最初の通過点T(k)との距離が大きくなるので、ウィービング動作時に溶接トーチ2の制御点Cの急激な速度変動が生じる。このため、第1溶接線および第2溶接線の接続点近傍の溶接品質が低下する。
【0040】
次に、図10を参照して、教示された溶接線とは異なる仮想線に基づいて基本座標系を設定する際のロボット制御装置3による処理について説明する。通常、ロボット制御装置3は、上記のように、教示された溶接線に沿って延びる移動ベクトルXに基づいて投影ベクトルX1を取得して基本座標系を設定する。しかしながら、このような溶接線に基づく基本座標系の設定では、溶接線の長さが短い場合には所望の溶接線に対する教示した溶接線の精度が確認しにくい。そのため移動ベクトルXが実際の溶接線との間にずれを生じて所望の方向に基本座標系を設定できず教示精度が低くなる場合がある。また協調ウィービングを行う際に協調動作精度が低い場合などにも、所望の方向に基本座標系を設定することができない場合がある。このような場合に、教示された溶接線とは異なる仮想線を設定し、この仮想線に基づいて基本座標系を設定する。なお、協調ウィービングとは、溶接トーチ2の移動に加えて、溶接線が設定されたワーク領域200(図5参照)も移動させながら行うウィービングである。協調ウィービングを行う際には、ワーク領域を移動させる機構(ロボットなど)と溶接トーチを移動させるロボットとの位置関係を予め求めておく必要がある。「協調動作精度が低い」とは、この位置関係が精度よく同定されていないことを指す。
【0041】
仮想線に基づいて基本座標系を設定する際には、図10に示すように、ユーザは図示しないペンダントを用いて通常の教示点とは異なる仮想点としてWiを教示する。仮想点Wiが教示されると、ロボット制御装置3は、教示された溶接線とは異なる仮想線(溶接線の始点Wsから仮想点Wiに延びる線)に沿って延びる仮想ベクトルを移動ベクトルXとして設定する。そして、ロボット制御装置3は、仮想線に沿って延びる移動ベクトルXが水平面に投影された投影ベクトルX1を取得する。それ以降は、通常の基本座標系を設定する場合と同様に、ロボット制御装置3は、鉛直ベクトルZと投影ベクトルX1とに基づいてベクトルYを取得して基本座標系を設定する。たとえば、仮想点Wiを溶接線の始点Wsから見て溶接線の終点Weより遠い場所に設定することで基本座標系をより高精度で設定することができる。
【0042】
本実施形態では、上記のように、溶接トーチ2により溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する基本座標系に基づいてウィービングしながら溶接を行うようにロボット1を制御するロボット制御装置3を設けることによって、基本座標系に基づいて水平方向にウィービングを行うことができるので、ウィービングしながら溶接を行う場合に、溶接強度にばらつきが生じるのを抑制することができる。これにより、ウィービングしながら溶接を行う場合でも、溶接品質が低下するのを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、上記のように、溶接線の移動ベクトルXが水平面に投影された投影ベクトルX1を取得するとともに、投影ベクトルX1を含む水平面を構成する互いに直交する2軸(投影ベクトルX1およびベクトルY)を有する基本座標系を取得し、基本座標系に基づいてウィービングしながら溶接する制御を行うようにロボット制御装置3を構成する。このように構成すれば、溶接線が水平面に対して傾斜している場合でも、移動ベクトルXが水平面に投影された投影ベクトルX1が取得されるので、取得された投影ベクトルX1に基づいて、水平面を構成する基本座標系を容易に取得することができる。
【0044】
また、本実施形態では、上記のように、溶接線からずれた位置に位置する仮想点Wiに基づく仮想ベクトル(溶接線の始点Wsから仮想点Wiに向かって延びるベクトル)を移動ベクトルXとして基本座標系を取得するようにロボット制御装置3を構成する。このように構成すれば、溶接線の長さが短くて教示精度が低くなる場合や協調ウィービングを行う際に協調動作精度が低い場合など、所望の方向に基本座標系を設定することができない場合でも、仮想点Wiを教示することにより移動ベクトルXの方向を任意に変更することができるので、所望の方向で基本座標系を設定することができる。
【0045】
また、本実施形態では、上記のように、第1溶接線および第2溶接線の接続点の前後において、基本座標系を溶接トーチ2による溶接の進行に伴って徐々にα度回動させる制御を行うようにロボット制御装置3を構成する。このように構成すれば、図9の比較例に示すように、接続点において基本座標系を急激に回動させる場合とは異なり、溶接トーチ2の制御点Cの急激な速度変動が生じるのを抑制することができるので、複数の溶接線が互いに傾斜して接続されている場合でも、接続点近傍の溶接品質が低下するのを抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態では、上記のように、溶接トーチ2により溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する基本座標系に基づいて円形状ウィービングまたは楕円形状ウィービングしながら溶接することを可能に構成する。このように構成すれば、円形状ウィービングまたは楕円形状ウィービングを行うことにより、単振動ウィービングに比べて油分が攪拌され易くなるので、その分溶接品質の向上を図ることができる。
【0047】
また、本実施形態では、上記のように、溶接線上の移動目標点Wkを中心として円形状ウィービングまたは楕円形状ウィービングしながら溶接線に対して溶接する制御を行うようにロボット制御装置3を構成する。このように構成すれば、溶接線を中心軸とする所望の溶接幅で溶接を行うことができる。
【0048】
また、本実施形態では、上記のように、溶接トーチ2が溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する基本座標系に基づいてウィービングするように、垂直多関節型ロボットからなるロボット1の各関節の駆動制御を行うようにロボット制御装置3を構成する。このように構成すれば、垂直多関節型ロボットの複数の関節のそれぞれの駆動量を調整して、容易に、水平方向にウィービング動作を行うことができる。
【0049】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0050】
たとえば、上記実施形態では、本発明のロボットの一例として、垂直多関節型ロボットを示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、溶接トーチ(エンドエフェクタ)を移動可能であれば、垂直多関節型ロボット以外のロボットであってもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、本発明のエンドエフェクタの一例として、溶接トーチを示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、溶射や塗装、研磨など溶接以外の作業を行うエンドエフェクタであってもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、ウィービングを伴う溶接時の処理を、円形状ウィービングまたは楕円形状ウィービングが選択された場合について説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、溶接線に対して直線状に単振動を繰り返す単振動ウィービングや、溶接線に対して三角状にウィービングを行う三角波ウィービング、溶接線に対してL字形状にウィービングを行うL型波ウィービングなど、円形状ウィービングおよび楕円形状ウィービング以外のウィービング形態であっても、上記実施形態と同様に、X1軸およびY軸により構成される水平面(移動目標点Wkを含む水平面)を構成する基本座標系に基づいてウィービングを行ってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、説明の便宜上、制御部としてのロボット制御装置の処理動作を処理フローに沿って順番に処理を行うフロー駆動型のフローチャートを用いて説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部の処理動作を、イベント単位で処理を実行するイベント駆動型(イベントドリブン型)の処理により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 ロボット
2 溶接トーチ(エンドエフェクタ)
3 ロボット制御装置(制御部)
100 ロボットシステム
Wi 仮想点
Wk 移動目標点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットと、
前記ロボットにより移動され、溶接線に対して溶接を行う溶接トーチと、
前記溶接トーチにより前記溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する基本座標系に基づいてウィービングしながら溶接を行うように前記ロボットを制御する制御部とを備える、ロボットシステム。
【請求項2】
前記制御部は、前記基本座標系に基づいてウィービングしながら前記溶接線に沿って順次溶接する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記溶接線の移動ベクトルが水平面に投影された投影ベクトルを取得するとともに、前記投影ベクトルを前記基準線のベクトルとし、前記投影ベクトルを含む水平面を構成する互いに直交する2軸を有する前記基本座標系を取得し、前記基本座標系に基づいてウィービングしながら溶接する制御を行うように構成されている、請求項2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記制御部は、前記溶接線が水平面に対して傾斜しているか否かに関わらず、前記投影ベクトルを含む水平面を構成する基本座標系に基づいてウィービングしながら溶接する制御を行うように構成されている、請求項3に記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記制御部は、前記溶接線からずれた位置に位置する仮想点に基づく仮想ベクトルを前記溶接線の移動ベクトルとして前記基本座標系を取得するように構成されている、請求項3または4に記載のロボットシステム。
【請求項6】
前記溶接線は、第1溶接線と、前記第1溶接線に対して鉛直方向から見て所定角度傾斜して前記第1溶接線に接続された第2溶接線とを含み、
前記制御部は、前記第1溶接線および前記第2溶接線の接続点の前後において、前記基本座標系を前記溶接トーチによる溶接の進行に伴って徐々に前記所定角度分回動させる制御を行うように構成されている、請求項3〜5のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【請求項7】
前記制御部は、前記溶接トーチにより前記溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する前記基本座標系に基づいて略円形状または略楕円形状にウィービングしながら溶接する制御を行うように構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【請求項8】
前記制御部は、前記溶接トーチにより前記溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する前記基本座標系に基づいて、前記溶接線上の点を中心として略円形状または略楕円形状にウィービングしながら溶接する制御を行うように構成されている、請求項7に記載のロボットシステム。
【請求項9】
前記ロボットは、多関節ロボットを含み、
前記制御部は、前記溶接トーチが前記溶接線に基づく基準線を含む水平面を構成する前記基本座標系に基づいてウィービングするように、前記多関節ロボットの各関節の駆動制御を行うように構成されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【請求項10】
ロボットと、
前記ロボットにより移動され、作業線に対して加工または処理を行うエンドエフェクタと、
前記エンドエフェクタにより前記作業線に基づく基準線を含む水平面を構成する前記基本座標系に基づいてウィービングしながら加工または処理を行うように前記ロボットを制御する制御部とを備える、ロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−240102(P2012−240102A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114642(P2011−114642)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】