説明

ロボット・シーム溶接方法および装置

【課題】比較的簡単な構成で、ロボットと溶接機の作動を正確に制御でき、かつ湾曲した溶接部位の割れなどを確実に防止することのできるロボット・シーム溶接方法と装置の提供。
【解決手段】ロボット・シーム溶接方法は、多関節ロボット1に被溶接物5を把持し、この被溶接物を定置の電極輪7a,7bで挟む。さらに、これら電極輪を回転させるとともに、予め教示された被溶接物の溶接線L上の位置をロボット1に周期的に指令して被溶接物5をこの溶接線に沿って移動させながら、電極輪7a,7bに溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行う。ロボット1と電極輪7a,7bは、同期して作動するように制御される。また、周期的に算出する指令位置A1,A2,B1,B2に基づいて被溶接物5上の各電極輪の移動距離dA,dBを求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節ロボットを用いるシーム溶接(以下、ロボット・シーム溶接)方法と装置に係り、特に、3次元状に湾曲した溶接部分を持つ被溶接物(以下、ワーク)に適したロボット・シーム溶接方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シーム溶接は、回転する一対の電極輪でワークを挟んで加圧し、ワークを電極輪の回転に合わせて移動させつつ、電極輪間に溶接電流を連続的に通電して溶接を行う。このようなシーム溶接は、気密性を要する容器類の接合に適していて、例えば自動車の燃料タンクの製造に用いられる。
【0003】
自動車の燃料タンクなどのシーム溶接を自動化したものとしては、シーム溶接機にロボットを併設したロボット・シーム溶接装置が主流になってきている。そのような装置は、ロボットがワーク(燃料タンクなど)を把持し、シーム溶接機が具備した一対の電極輪でワークのフランジを挟持し、ロボットの制御装置が教示された動作プログラムを再生してロボットを動かすことで、ワークのフランジを電極輪間に連続して送り込んで溶接する。
【0004】
上述した形式のロボット・シーム溶接装置は、多関節ロボットの駆動用の制御系と電極輪の駆動用の制御系が独立している。そのため、双方の動作を同期させるには、制御系間の伝達遅れ等の影響により、高速かつ精密な制御が難しいといった問題がある。
【0005】
また、このようなロボット・シーム溶接装置は、3次元状に湾曲したワークを溶接する際に問題が生ずる。
例えば、図4に示すようなワーク15の湾曲した溶接部位では、ワークの板厚Wにより、ワーク15の上側と下側の長さが異なっている。この湾曲部位を溶接する場合、上下の電極輪17a,17bを同一速度で回転させると、ワーク15に対して電極輪が動かされる移動速度と電極輪の回転速度とに差が生じ、その速度差のためにワーク表面に引張力が働いて、溶接点に割れなどが生じる。
この問題を解消するために、上下の電極輪はそれぞれ異なる速度で制御することが望ましい。
【0006】
これらの問題に対処するために、ロボットを用いる構成ではないが、1台の数値制御装置によって電極輪の制御とワーク送り機構の制御とを行い、また、上下電極輪をそれぞれ異なる速度で駆動して3次元の溶接軌跡を倣い溶接するシーム溶接機が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
この提案は、電極輪の回転制御をプログラミングにより行うものであるが、ロボットを用いる場合には、ワークのコーナー部分などでロボットが自動的に加減速する為に、電極輪の回転制御を加えたプログラムを作成するには多大な工数を要する。
【特許文献1】特開平10−99972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、比較的簡単な構成で、ロボットと溶接機の正確な作動制御を可能にするとともに、湾曲した溶接部における割れなどを防止することのできるロボット・シーム溶接方法と装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるロボット・シーム溶接方法は、多関節ロボットに把持した被溶接物を定置した一対の電極輪で挟み、これら電極輪を回転させるとともに、予め教示された被溶接物の溶接線上の位置をロボットに周期的に指令して被溶接物をこの溶接線に沿って移動させながら電極輪に溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行う。この方法は、多関節ロボットと電極輪を同期して作動させるとともに、周期的に算出するロボットへの指令位置に基づいて被溶接物上の各電極輪の移動距離を求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させることを特徴とする。
【0009】
上記方法を実施するための、本発明によるロボット・シーム溶接装置は、被溶接物を把持する多関節ロボットと、定置した一対の円形の電極輪と、これらロボットと電極輪の作動を制御する制御ユニットとを含む。制御ユニットは、予め教示された被溶接物の溶接線を記憶し、電極輪で被溶接物を挟み、これら電極輪を回転させるとともに、記憶した溶接線上の位置をロボットに周期的に指令して被溶接物をこの溶接線に沿って移動させながら電極輪に溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行う。この装置は、制御ユニットが、ロボットと電極輪を同期して作動させ、周期的に算出する指令位置に基づいて被溶接物上の各電極輪の移動距離を求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させることを特徴とする。
【0010】
上記溶接線は被溶接物の一方の表面上に設定し、被溶接物の他方の表面における電極輪の接触位置を、この溶接線から被溶接物の厚みだけ離れた位置として求めることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記した本発明の方法と装置は、ロボットと電極輪を同期して作動させるものである。そのため、双方を高速かつ正確に制御することができる。また、被溶接物上の各電極輪の移動距離を周期的に求めて、この距離に応じた速度で電極輪を回転させるものである。そのため、3次元状に湾曲した溶接部位においてそれぞれの電極輪の移動距離に差のある場合でも、各電極輪の回転速度を移動距離に応じて違えて、従来のような引張力をなくし、溶接割れなどの欠陥を防ぐことができる。
このような処理は、ロボットに教示した移動経路の再生から得られる指令値を利用して行うことができるので、本発明は、従来のシステムを大きく変更することなく簡単な構成で、従って比較的安価に、かつ確実に溶接品質を向上させ得る効果がある。
【実施例】
【0012】
続いて、添付図面に示す実施例に基づいて本発明を説明する。
図1は、本発明の実施例によるロボット・シーム溶接装置を示す。この装置は、多関節ロボット1と、これに併設した定置式のシーム溶接機6と、これらロボットおよび溶接機の運転を制御する制御ユニット8とを有する。
なお、図1では制御ユニット8をロボットと溶接機の外に付けるように表示しているが、制御ユニットはロボット本体に内蔵するロボット制御装置としてもよい。
【0013】
多関節ロボット1は、その先端に、ワーク5を把持するためのワーク把持装置2を備えている。ワーク把持装置2は、一方の外側端部をロボット先端に取り付けたC型フレーム3と、このC型フレームの内側両端部にそれぞれ対向して取り付けた、回転機構を持つワーク把持部材4a,4bから成る。ワーク把持部材4aと4bは、シリンダ機構等(図示なし)によって互いに近づき或いは遠ざかるように可動となっており、ワーク5を挟んで閉ざすことによってワーク5を把持する。
【0014】
シーム溶接機6は、対向して配置した一対の円形の上部電極輪7aおよび下部電極輪7bを有し、これら電極輪は、それぞれ別個の電気モータにより、減速機およびドライブシャフトを介して回転駆動される。電極輪7a,7bを駆動するモータは、制御ユニット8によって制御される。
また、上部電極輪7aは、エアシリンダ機構などの加圧装置(図示なし)により下部電極輪7bに対して押し付け得るように移動可能に構成され、この動作によりワークを電極輪7a,7b間に挟持する。
【0015】
次に、本実施例の装置におけるシーム溶接作業について説明する。
この作業に先立って、制御ユニット8に、溶接するフランジ面を電極輪7a,7bにあてて動かす溶接軌跡をワーク5が移動するようにロボット1を教示して作成した動作プログラムを記憶させる。このとき、図2に示すように、ワーク溶接線L(図示例ではワーク5のフランジ下面上に設定)の接線方向に対して電極輪7a,7bの回転中心を結んだ直線a−a′〜c−c′が常に直交するようにワーク5の移動軌跡を設定して、ロボット1を教示する。この動作プログラムには、ロボットを動作させるための位置情報を含んだ数値データ、溶接開始および終了のタイミングを制御するデータ、溶接速度、溶接条件等が含まれる。さらに、予め溶接を行うワーク1のフランジの板厚Wを制御ユニット8に記憶させておく。
【0016】
溶接作業は、制御ユニット8が記憶した動作プログラムを再生することによって行われる。
ワーク5をワーク把持装置2で狭持させ、制御ユニット8に作業開始指令を入力すると、多関節ロボット1は動作プログラムに基づいて移動し、ワーク5をシーム溶接機6の電極輪7a,7bへ搬送し、開放状態にある電極輪7a,7bの間にワーク5のフランジ面を挿入する。次いで、前述した加圧機構の駆動の下に、電極輪7aが電極輪7bへ向けて押し付けられ、溶接に適した加圧力により加圧動作を行ってワーク5のフランジ面を挟持し、電極輪7a、7bが溶接作業の開始位置につく。
【0017】
この狭持動作が完了すると、制御ユニット8は、シーム溶接機6に溶接信号および溶接条件信号を出力し、同時に、多関節ロボット1が所定の溶接速度で移動を開始し、また電極輪7a,7bの回転も開始する。こうして、ワーク5のフランジ面のシーム溶接が行われ、制御ユニット8は、多関節ロボット1が溶接終了位置まで移動すると、溶接信号を止め、多関節ロボットおよび電極輪を停止させる。その後、電極輪7aを開いて、溶接の終了したワーク5を電極輪7a,7bの間から取り出して、作業が完了する。
【0018】
上述した動作プログラムの再生の間、制御ユニット8は、一定周期毎にロボット1への指令位置を計算してロボットのサーボ制御装置に指令し、サーボ指令装置がロボット1を駆動する。
この一定周期の処理ごとに、制御ユニット8は、ロボットへの指令位置に基づいて、定置側の電極輪7bとワーク5のフランジ下面との接触位置B2(図3)を、ロボット1のアーム先端に設定された座標系上の位置として算出して記憶する。さらに、予め記憶したワーク5の板厚Wに基づいて、この接触位置B2から電極輪7a,7bの回転中心を結んだ直線上で板厚Wだけ離れた位置A2をB2と同様に算出して、加圧側の電極輪7aの接触位置として記憶する。
【0019】
このとき、予め加圧時に電極輪同士が接触する位置上に、電極輪同士の回転中心を結んだ直線に一つの座標軸を一致させた第1の座標系、例えばZ軸を一致させた第1の座標系を定義し、電極輪同士が接触する位置とロボットとの物理的な位置関係を設定しておく。第1の座標系をZ軸を一致させたものとした場合、位置B2は第1の座標系において(0,0,0)として表現され、位置A2は(0,0,W)として表現される。この座標位置を前述のアーム先端に設定した第2の座標系上に投影することで、アーム先端に設定した座標系上の位置として位置B2および位置A2を求めることができる。
【0020】
制御ユニット8は同時に、前回の周期で記憶した電極輪7bとワークのフランジ下面との接触位置位置B1と今回算出した位置B2との距離dB、そして、前回の周期で記憶した電極輪7aとワークのフランジ上面との接触位置A1と今回算出した位置A2との距離dAを求める。
これらの距離dA,dBが電極輪7a,7bの外面円周上の移動量、すなわちワーク5のフランジ面上の移動量となる。
【0021】
制御ユニット8は、計算した移動量dA,dBに見合う回転量を算出し、電極輪7a,7bの回転指令として駆動モータに指令する。以上の処理が、溶接開始から終了までのロボットの作動中に繰返して行われる。
こうして、3次元状に湾曲したワーク部分を溶接する場合であっても、各電極輪7a,7bはワーク5上の移動距離に見合った回転で駆動され、前述したような引張力を生ずることなく、割れなどの無い良好なシーム溶接を行うことができる。
【0022】
以上、本発明を図示の実施例に基づいて説明したが、本発明はこの特定の形態のみに限定されず、添付した特許請求の範囲に記載する定義内で、説明した形態に種々の変更を施すことができ、或いは本発明は別の形態を採り得るものである。
例えば、電極輪の摩耗に備えて、摩耗量を検知して制御ユニット8に取り込むようにしてもよい。このような構成により、電極輪の摩耗量がわかるために、電極輪の現在の回転半径とワーク上の移動量に基づいて、摩耗に見合った回転指令を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例によるロボット・シーム溶接装置を概略的に示す図。
【図2】図1の装置のロボットに教示する溶接軌跡を説明するための概略図。
【図3】図1の装置の制御ユニットによる電極輪の回転制御を説明するための略図。
【図4】従来のロボット・シーム溶接装置による問題を説明するための略図。
【符号の説明】
【0024】
1 多関節ロボット
2 ワーク把持装置
5 被溶接物(ワーク)
6 シーム溶接機
7a,7b 電極輪
8 制御ユニット
A1,A2,B1,B2 接触位置
dA,dB 移動距離
L 溶接線
W 被溶接物の厚み


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節ロボットに把持した被溶接物を定置した一対の電極輪で挟み、これら電極輪を回転させるとともに、予め教示された被溶接物の溶接線上の位置をロボットに周期的に指令して被溶接物をこの溶接線に沿って移動させながら電極輪に溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行うロボット・シーム溶接方法において、
多関節ロボットと電極輪を同期して作動させるとともに、周期的に算出するロボットへの指令位置に基づいて被溶接物上の各電極輪の移動距離を求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させることを特徴とするロボット・シーム溶接方法。
【請求項2】
請求項1による方法において、前記溶接線は被溶接物の一方の表面上に設定し、被溶接物の他方の表面における電極輪の接触位置を、この溶接線から被溶接物の厚みだけ離れた位置として求める、ロボット・シーム溶接方法。
【請求項3】
被溶接物を把持する多関節ロボットと、定置した一対の円形の電極輪と、これらロボットと電極輪の作動を制御する制御ユニットとを含み、この制御ユニットは、予め教示された被溶接物の溶接線を記憶し、電極輪で被溶接物を挟み、これら電極輪を回転させるとともに、記憶した溶接線上の位置をロボットに周期的に指令して被溶接物をこの溶接線に沿って移動させながら電極輪に溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行うロボット・シーム溶接装置において、
前記制御ユニットは、前記ロボットと電極輪の作動を同期させて制御し、周期的に算出する指令位置に基づいて被溶接物上の各電極輪の移動距離を求め、この移動距離に見合う速度で当該電極輪を回転させることを特徴とする、ロボット・シーム溶接装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−82088(P2006−82088A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266276(P2004−266276)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)