説明

ワイヤハーネスの布線用治具

【課題】分岐数の増減に容易に対応でき、分岐形態に応じた電線受け部の突出角度の設定も簡単且つ正確に行えるようにする。
【解決手段】布線板に立設される基端部3の上部に、基端部3よりも小径となる中心ピン5を同軸で突設したシャフト2と、一端に中心ピン5が貫通可能な貫通孔8を、他端に上方へ突出する電線受けピン10を夫々有し、中心ピン5を貫通孔8に貫通させたセット状態で、他端が中心ピン5から放射状に突出する複数のベース7と、ベース7を中心ピン5に対して回り止めするナット13と、を備え、複数のベース7を上方から順番に中心ピン5にセットして夫々所定の方向へ突出させ、ナット13によって各ベース7を回り止めして所定の分岐形態を選択可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のワイヤハーネスの製造工程において、電線の布線の際に電線を分岐位置で保持するために用いる布線用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のワイヤハーネスの製造工程において、電線の布線板には、電線を分岐位置で保持するための布線用治具が立設されている。この布線用治具としては、布線板に立設される支軸の上部に、分岐数に応じて三つ叉や四つ叉となる電線受け部を放射状に設けたものが知られている。
このような布線用治具においては、分岐する電線の径によってワイヤハーネスの分岐中心と布線用治具との中心とが合わず、分岐した電線にだぶつきを生じさせたりする不具合があることから、特許文献1においては、支軸の上部で電線受け部の中心に、棒材からなる電線巻き付け部を設けて、分岐させる電線を電線巻き付け部に巻き付けて屈曲させるようにしている。また、特許文献2においては、支軸に対してU字状やL字状の電線受け部を別体に設けて、電線受け部における支軸との連結部に長円状の取付孔を形成して、分岐形態に合わせて電線受け部をスライドや回転させて対応可能としている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−42586号公報
【特許文献2】特開2000−67668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の布線用治具においては、分岐数が固定であるので、分岐数に合わせて異なるタイプの布線用治具を用意する必要があり、布線用治具に係る製造コストや管理の手間がかさむことになる。一方、特許文献2においては、支軸に取り付ける電線受け部を増減することで分岐数の増減に対応できるが、複数の電線受け部を一つのネジで一度に固定する構造であるため、一つの電線受け部の位置や角度を調節する際に他の電線受け部の位置等がずれを起こしやすく、位置や角度の調節がしづらい上、分岐中心と布線用治具の中心との精度が悪くなるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、分岐数の増減に容易に対応でき、分岐に応じた電線受け部の突出角度の設定も簡単且つ正確に行えて、分岐中心と布線用治具の中心とを精度よく一致させることができるワイヤハーネスの布線用治具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、布線板に立設される基端部の上部に、基端部よりも小径となる中心ピンを同軸で突設したシャフトと、一端に中心ピンが貫通可能な貫通孔を、他端に上方へ突出する電線受け部を夫々有し、中心ピンを貫通孔に貫通させたセット状態で、他端が中心ピンから放射状に突出する複数のベースと、ベースを前記中心ピンに対して回り止めする回り止め手段と、を備え、複数のベースを上方から順番に中心ピンにセットして夫々所定の方向へ突出させ、回り止め手段によって各ベースを回り止めして所定の分岐形態を選択可能としたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、回り止め手段を簡単に形成するために、回り止め手段を、最上位置にセットされたベースの上方から中心ピンに装着され、シャフトの基端部との間で複数のベースを上下方向で挟持する押圧部材としたことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2の構成において、回り止め手段の信頼性を高めるために、ベースの一端の上下面に、貫通孔を中心とした放射状に複数の歯を形成してなる噛み合い面を形成し、上下に隣接するベースの噛み合い面同士が互いに噛合可能としたことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、使い勝手をより良好とするために、電線受け部をベースへ着脱可能に設ける一方、ベースに、電線受け部の装着部をベースの突出方向に沿って複数形成して、装着部の選択により電線受け部の突出位置を変更可能としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、分岐数の増減に容易に対応でき、分岐形態に応じた電線受け部の突出角度の設定も簡単且つ正確に行えて、分岐中心と布線用治具の中心とを精度よく一致させることができる。特に、各ベースが夫々単独で突出角度を変更できるため、電線の径が変わっても容易に対応可能となり、使い勝手に優れる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、押圧部材を中心ピンに装着する簡単な構成で回り止め手段が形成可能となる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項2の効果に加えて、回り止めしたベースが偶発的に回転するおそれが少なくなり、回り止め手段の信頼性が高まる。また、噛み合い面を利用して電線受け部の突出角度の調整も容易に行える。
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れかの効果に加えて、電線の径や分岐形態に合わせて電線受け部の位置の調整が可能となり、使い勝手がより良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、布線用治具の一例を示す説明図で、布線用治具1は、シャフト2と、そのシャフトにセットされる複数のベース7,7・・と、ナット13とを有する。
シャフト2は、図示しない布線板上に固定される基端部3と、その基端部3より小径で、基端部3の上面に形成したネジ孔4へ同軸でねじ込み固定される中心ピン5とからなり、中心ピン5の下方部分に雄ネジ部6が形成されている。
【0009】
ベース7は、図2に示すように、平面視が長円状の板体で、一端には、シャフト2の中心ピン5が貫通する貫通孔8が形成され、他端及び中央には、装着部となる嵌入孔9,9が形成されて、何れかの嵌入孔9を選択して電線受け部となる電線受けピン10の下端を差し込むことで、電線受けピン10を上方へ向けて立設可能としている。
また、ベース7における貫通孔8側の端部の上下面には、貫通孔8を中心とした放射状に横断面山形の歯12,12・・を、周方向に所定角度(例えば5°間隔)をおいて複数形成して、回り止め手段となる噛み合い面11を形成している。
【0010】
以上の如く構成された布線用治具1においては、分岐数に合わせた数のベース7を用意して、夫々シャフト2にセットすることになる。例えば5分岐の場合は、5つのベース7,7・・を用意して、中心ピン5に夫々のベース7の貫通孔8を上方から順番に貫通させることで、上下方向に重ねてセットした後、各ベース7の電線受けピン10側の端部を把持して電線受けピン10が所定の突出角度となるように水平方向に回転させる。このとき上下に隣接するベース7,7間で噛み合い面11同士が干渉するが、各ベース7は固定されていないので、噛み合い歯11同士で互いに歯12を乗り越えてベース7の回転を許容する。
【0011】
各電線受けピン10の突出角度が決定すると、中心ピン5の雄ネジ部6に押圧部材としてのナット13を螺合させて最上位置のベース7に当接させてそのままねじ込む。すると、図3に示すように、中心ピン5に沿って重なった5つのベース7の端部が、シャフト2の基端部3とナット13との間で挟持される。特にこの状態では、各ベース7は上下に隣接する噛み合い歯11同士が噛合しているので、各ベース7は回転することなく強固に固定される。
ここで、各電線受けピン10の内側空間で上下のベース7間で生じる段差を解消したい場合は、中央で中心ピン5が貫通し、外縁が電線受けピン10よりも内側に位置する円盤14をセットすれば、円盤14がナット13上で水平に支持され、各電線受けピン10の内側空間の底面を面一にできる。
【0012】
よって、この布線用治具1を用いた場合は、図4に示すように、ワイヤハーネスWにおいて、分岐させる電線W1,W1・・を中心ピン5を巻くようにして夫々電線受けピン10,10間を通して分岐させるようにすれば、5分岐の場合でもワイヤハーネスWの分岐中心と布線用治具1の中心とを精度よく一致させることができ、分岐させた電線のばらつき等の不具合が生じなくなる。
なお、電線受けピン10の位置を変えたい場合は、中央の嵌入孔9を選択して電線受けピン10を嵌入させればよく、電線受けピン10が不要であればそのまま取り外しておくこともできる。また、電線受けピン10の突出角度を変更したい場合は、ナット13を緩めれば、上下方向の押圧と噛み合い面11同士の噛合とが解除されてベース7の回転が許容されるため、任意のベース7の回転操作で突出角度を調整した後、再びナット13をねじ込んで回り止めすればよい。
【0013】
このように、上記形態の布線用治具1によれば、布線板に立設される基端部3の上部に、基端部3よりも小径となる中心ピン5を同軸で突設したシャフト2と、一端に中心ピン5が貫通可能な貫通孔8を、他端に上方へ突出する電線受けピン10を夫々有し、中心ピン5を貫通孔8に貫通させたセット状態で、他端が中心ピン5から放射状に突出する複数のベース7と、ベース7を中心ピン5に対して回り止めするナット13と、を備え、複数のベース7を上方から順番に中心ピン5にセットして夫々所定の方向へ突出させ、ナット13によって各ベース7を回り止めして所定の分岐形態を選択可能としたことで、分岐数の増減に容易に対応でき、分岐形態に応じた電線受けピン10の突出角度の設定も簡単且つ正確に行えて、分岐中心と布線用治具1の中心とを精度よく一致させることができる。特に、各ベース7が夫々単独で突出角度を変更できるため、電線の径が変わっても容易に対応可能となり、使い勝手に優れる。
【0014】
また、ここでは、回り止め手段を、最上位置にセットされたベース7の上方から中心ピン5に装着され、シャフト2の基端部3との間で複数のベース7を上下方向で挟持するナット13としたことで、ナット13を中心ピン6にねじ込む簡単な構成で回り止め手段が形成可能となる。
さらに、ベース7の一端の上下面に、貫通孔8を中心とした放射状に複数の歯12を形成してなる噛み合い面11を形成し、上下に隣接するベース7の噛み合い面11同士が互いに噛合可能としたことで、回り止めしたベース7が偶発的に回転するおそれが少なくなり、回り止め手段の信頼性が高まる。また、噛み合い面11を利用して電線受けピン10の突出角度の調整も容易に行える。
そして、電線受けピン10をベース7へ着脱可能に設ける一方、ベース7に、電線受けピン10の嵌入孔9をベース7の突出方向に沿って複数形成して、嵌入孔9の選択により電線受けピン10の突出位置を変更可能としたことで、電線の径や分岐形態に合わせて電線受けピン10の位置の調整が可能となり、使い勝手がより良好となる。
【0015】
なお、上記形態では、ナットに加えてベースに設けた噛み合い面同士の噛合によってベースの回り止めを図っているが、ナットによる押圧のみでベースの固定が可能であれば、噛み合い面は省略してもよい。また、押圧部材はナットに限らず、中心ピンに装着してベースを基端部との間で挟持できれば、例えば中心ピンの側面を前後から挟持し、中心ピンに沿った任意の位置で固定可能な一対のクランプ部材等、他の構造も採用可能である。さらには、中心ピンのネジ部分を長くして、中心ピンのねじ込みによって中心ピンと基端部との間でベースを挟持固定するような構造も考えられる。すなわち、中心ピンを押圧部材に兼用する形態である。
【0016】
一方、ベースの数や、電線受けピンの装着部の数も上記形態に限らず、分岐数等に応じて適宜増減して差し支えないし、装着部も上記嵌入孔に代えて、電線受けピンの下端をねじ込み固定する雌ネジ孔等に変更できる。また、電線受け部としてはピン形状に限らず、帯板状等の他の形状も採用可能である。
その他、円盤は、電線受け部よりも周縁が外側となる大径に形成し、所定の分岐形態に応じて電線受け部が貫通する透孔を形成しておくような形態でも差し支えない。このようにすれば、円盤を利用して電線受け部の突出角度の設定が容易に行える。勿論円盤の省略も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】布線用治具の分解側面図である。
【図2】ベースの斜視図である。
【図3】布線用治具の説明図で、(A)が平面、(B)が上部分の側面を夫々示す。
【図4】ワイヤハーネスの布線状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0018】
1・・布線用治具、2・・シャフト、3・・基端部、5・・中心ピン、6・・雄ネジ部、7・・ベース、8・・貫通孔、9・・嵌入孔、10・・電線受けピン、11・・噛み合い面、12・・歯、13・・ナット、14・・円盤、W・・ワイヤハーネス、W1・・電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布線板に立設される基端部の上部に、前記基端部よりも小径となる中心ピンを同軸で突設したシャフトと、一端に前記中心ピンが貫通可能な貫通孔を、他端に上方へ突出する電線受け部を夫々有し、前記中心ピンを前記貫通孔に貫通させたセット状態で、前記他端が前記中心ピンから放射状に突出する複数のベースと、前記ベースを前記中心ピンに対して回り止めする回り止め手段と、を備え、
前記複数のベースを上方から順番に前記中心ピンにセットして夫々所定の方向へ突出させ、前記回り止め手段によって前記各ベースを回り止めして所定の分岐形態を選択可能としたことを特徴とするワイヤハーネスの布線用治具。
【請求項2】
前記回り止め手段を、最上位置にセットされた前記ベースの上方から前記中心ピンに装着され、前記シャフトの基端部との間で前記複数のベースを上下方向で挟持する押圧部材としたことを特徴とする請求項1に記載のワイヤハーネスの布線用治具。
【請求項3】
前記ベースの一端の上下面に、前記貫通孔を中心とした放射状に複数の歯を形成してなる噛み合い面を形成し、上下に隣接する前記ベースの噛み合い面同士が互いに噛合可能としたことを特徴とする請求項2に記載のワイヤハーネスの布線用治具。
【請求項4】
前記電線受け部を前記ベースへ着脱可能に設ける一方、前記ベースに、前記電線受け部の装着部を前記ベースの突出方向に沿って複数形成して、前記装着部の選択により前記電線受け部の突出位置を変更可能としたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のワイヤハーネスの布線用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−238483(P2009−238483A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81105(P2008−81105)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)