ワイヤハーネス成形用治具
【課題】ワイヤハーネスを三次元の立体形状に成形したあと、成形済みのワイヤハーネスをその形状のまま取り外すことができるようにするとともに、成形に際しての作業性が良好であるようにすること。
【解決手段】起立傾倒自在の支持部41と、該支持部41に形成されてワイヤハーネス11を保持する保持部51とを有するとともに、該保持部51には、支持部41に固定される固定部材52と、該固定部材52に枢着された回動部材53とが形成されて、ワイヤハーネス11を内側に通す懐部54と、該懐部54に対してワイヤハーネス11を出し入れする開口部55とを有するワイヤハーネス成形用治具31。上記回動部材53が回動することにより、上記懐部54に保持されたワイヤハーネス11を懐部54から外せるとともに、この状態で支持部41を倒せば、ワイヤハーネスを上に抜き取ることができる。
【解決手段】起立傾倒自在の支持部41と、該支持部41に形成されてワイヤハーネス11を保持する保持部51とを有するとともに、該保持部51には、支持部41に固定される固定部材52と、該固定部材52に枢着された回動部材53とが形成されて、ワイヤハーネス11を内側に通す懐部54と、該懐部54に対してワイヤハーネス11を出し入れする開口部55とを有するワイヤハーネス成形用治具31。上記回動部材53が回動することにより、上記懐部54に保持されたワイヤハーネス11を懐部54から外せるとともに、この状態で支持部41を倒せば、ワイヤハーネスを上に抜き取ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイヤハーネスを三次元の立体形状に成形するときに使用するようなワイヤハーネス成形用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に対するワイヤハーネスの組み付けは、ワイヤハーネスを三次元の立体形状にして行われる。
【0003】
ワイヤハーネスを三次元の立体形状にする場合には、二次元の平面的な形状に布線された電線に対してテーピング等の仕上げを行って電線を束ね、最後にこれを折り曲げて三次元の立体形状に形作る方法がとられていた。
【0004】
しかし、このようにして二次元の形状から三次元の形状に加工する方法では、曲げ位置や曲げ角度に精度が得られず、目的の形状にできないという問題があった。
【0005】
このため、三次元の立体形状に布線して、その形状のまま仕上げを行うという、下記特許文献1のような布線治具が提案されている。
【0006】
この布線治具は、組立図板上に取付けられる支柱部と、電線を受け入れるべくU字状に形成された電線保持部とを有する。そして、電線保持部は、その底に形成される弧状受け部が、ワイヤハーネスの屈曲部分の内周側に位置するように支柱部に対して固定される。
【0007】
つまり、布線に際してはワイヤハーネスの形状に合わせて多種多様の布線治具が必要となる。
【0008】
しかも、この布線治具は、屈曲部分の内周側に弧状受部が位置するように配設されるので、ワイヤハーネスを所望の形状に成形することはできても、その形状によっては、成形したワイヤハーネスを取り外すことが困難となる。成形したワイヤハーネスを取り外すにはワイヤハーネスを弧状受部の反対側に抜く必要があるが、抜く方向が全ての布線治具において一致しているわけではないからである(特許文献1の公報の図7参照)。
【0009】
抜く方向が異なるのにワイヤハーネスを無理に取り外そうとすれば、成形したワイヤハーネスに型崩れが起こる。
【0010】
型崩れを抑制するには、たとえば図9(a)に示したように、ワイヤハーネス101を下に凹むような形状に成形する場合に、布線治具102の電線保持部103を、そのU字状の底が横に向くようにすることが考えられる。
【0011】
しかし、この場合でも、その両側に位置する布線治具104,104の電線保持部105が縦向きであると、各布線治具102,104部分においてワイヤハーネス101を抜く方向が異なることに変わりはないので、成形した形状のままで取り外すことはできない。また、左右方向の一方が開放された形状であるので、布線作業時に一部の電線101aが電線保持部103から脱落したり、また、ワイヤハーネス101の屈曲部分の内周側を直線状の部分で受けることになるので、図9(b)に示したように布線後の配線が横に広がったりしやすく、後の仕上げ作業が困難となる問題点がある。
【0012】
【特許文献1】特開平8−249945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこでこの発明は、成形済みのワイヤハーネスをその形状のまま取り外すことができるようにするとともに、成形に際しての作業性が良好であるようにすることを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そのための手段は、起立傾倒自在の支持部と、該支持部に形成されてワイヤハーネスを保持する保持部とを有するとともに、該保持部には、ワイヤハーネスを内側に通す懐部と、該懐部に対してワイヤハーネスを出し入れする開口部が形成され、上記支持部および保持部のうちの少なくともいずれか一方には、上記開口部の位置を変更して懐部に保持されたワイヤハーネスを懐部から外す変位機構が設けられたワイヤハーネス成形用治具である。
【0015】
この構成によれば、ワイヤハーネスの成形に際しては、まず、支持部に形成された保持部の開口部から多数の電線を懐部に入れて布線を行い、続いてこの状態のままテーピング等の仕上げを行う。すると、三次元の立体形状をなすワイヤハーネスを成形できる。このあと、変位機構を利用して保持部を回動したり、支持部の長さ方向に沿って移動したりして、開口部の位置を変更し、ワイヤハーネスを懐部から外す。これにより保持部によるワイヤハーネスの拘束が解かれることになる。続いて、支持部を傾倒すれば、保持部がワイヤハーネスの上方空間から外れるので、ワイヤハーネスを上方に抜き取ることができる。保持部で保持していた部分に仕上げを行う場合には、上記支持部の傾倒後に行えば、作業のための空間を確保でき、作業が容易に行える。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、この発明によれば、成形したワイヤハーネスを、その形状のままワイヤハーネス成形用治具から取り外すことができる。このため、計画経路図を忠実に再現する形状に精度よく成形されたワイヤハーネスを得られる。
【0017】
また、ワイヤハーネスを取り外す時にワイヤハーネスの上方空間から外れる保持部は、布線作業時には、電線の左右等の周囲を囲む形状をなすものであってもよく、保持部をそのように形成した場合には、布線作業時の電線の脱落を防止することができるとともに、布線後のワイヤハーネスの断面形状が略円形になるように成形することもできる。この結果、テーピング等の仕上げ作業が容易になるとともに、形状保持能力も高くなるため、形状保持のためのプロテクタを用いる必要性をなくして、手間を省き、コストの低減を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、ワイヤハーネス11の成形時の状態を示す斜視図であり、この図に示すように電線11a…を束ねたワイヤハーネス11は、2種類のワイヤハーネス成形用治具21,31(以下、治具という。)により三次元の立体形状に成形される。
【0019】
2種類の治具のうち、一つの治具21(周知の治具)は、ワイヤハーネス11を所望の高さに受けるためのもので、周知の構造である。すなわち、治具盤12,13の上に立設される支柱部22と、該支柱部22の上端に形成されるU字状の電線保持部23を有する治具である。電線保持部23は、その湾曲部分が下になるように取付けられており、上方が開放された状態となっている。
【0020】
他の治具31(本願の治具)は、ワイヤハーネス11を上から押さえ込むようにして下に凹んだ形状に屈曲させたり、左右方向に屈曲させたり、斜めに方向転換させたりする部分で使用されるもので、次のように構成されている。
【0021】
すなわち、図2に示したように、起立傾倒自在の支持部41と、該支持部41の上端に形成されてワイヤハーネス11を保持する保持部51とを有する。図2は、治具31の側面図、図3は正面図、図4は平面図である。
【0022】
これらの図に示したように、支持部41は、その下端部が治具盤13に固定されるもので、図5に示したように、下側の固定脚部材42と、該固定脚部材42の上に枢着される傾倒部材43とを有する。
【0023】
固定脚部材42は、棒状に形成され、外周面には雄ねじ44が形成されている。また、上端部には、傾倒部材43を枢着する枢着溝45を有する。
【0024】
傾倒部材43は、固定脚部材42と同一の太さの棒状に形成され、その下端に、上記枢着溝45に挿入される枢着片46を有し、この枢着片46は軸部材47によって固定脚部材42に枢着されている。
【0025】
そして、この枢着部分の外周位置に、固定脚部材42と傾倒部材43との外周面上を摺動する筒状の摺動部材48が挿嵌される。この摺動部材48の長さは、枢着部分での屈曲を阻止し、傾倒部材43を固定脚部材42に対して真っ直ぐに保持することができる長さである。
【0026】
また、傾倒部材43の外周における上記摺動部材48の上側にはコイルばね49が保持され、摺動部材48が上記枢着部分での屈曲を阻止する位置から上方に移動するのを付勢力によって制限している。
【0027】
なお、上記雄ねじ44には、図2、図3に示したように治具盤13を貫通する孔部13aに対して固定するために座金付きナット32やナット33が螺合される。図中、34は座金である。
【0028】
上記保持部51は、支持部41の上端に一体形成される固定部材52と、該固定部材52に枢着された回動部材53とを有する。
【0029】
固定部材52は、略長方形板状をなし、支持部41の上端から斜め上に向けて延びるように形成されている。その角度は45度程度であるとよい。
【0030】
また、支持部41の周方向におけるその向きは、上記枢着片46との関係において、枢着片46の向きと異なるように設定される。つまり、図4に示したように、枢着片46の幅方向に対して適宜の角度をもつ向きに向けられている。その角度も45度程度であればよい。これにより、支持部41の傾倒部材43を倒したときに、保持部51を、保持部材51における固定部材52の長さ方向から外れた位置に移動させることができる。
【0031】
上記回動部材53は、略L字状に曲がった棒状をなし、その断面形状は円形に形成されている。図6が回動部材53の平面図であり、この図に示したように回動部材53は、固定部材52と直角をなす方向に延びる第1延設部53aと、該第1延設部53aと直角をなし、固定部材52と平行に延びる第2延設部53bとを有し、これらの間には、弧状の湾曲部53cを有する。回動部材53と固定部材52とに囲まれた部分がワイヤハーネス11を通す懐部54で、回動部材53の第2延設部53bの先端部分と固定部材52の対向部位との間が、懐部54に対してワイヤハーネス11を出し入れする開口部55である。
【0032】
このような形状の回動部材53における第1延設部53aの基部には、回動軸53dが形成され、この回動軸53dの端部には、固定部材52と重合する補助金具56がスプリングピン57を介して回動不可能な状態で固定されている。補助金具56と固定部材52との間には、補助金具56と回動部材53の回動に際して、回動部材53の第2延設部53bが固定部材52と平行になる2箇所で節度を持たせるべくボールプランジャ52aと凹部56aが設けられている。
【0033】
上記構成により、回動部材53は、その第2延設部53bが固定部材52と平行になって斜め上を向く姿勢と、該姿勢と180度向きを異にして斜め下を向く姿勢とになるように位置決めされることになる。
【0034】
上記回動部材53を回動する機構が、懐部54に保持されたワイヤハーネス11を懐部54から外す変位機構である。
【0035】
このように構成された治具31は、次のように使用される。
まず、計画経路図に基づいて各治具21,31をそれぞれ所定の向き、高さにして治具盤12,13上に配置する。この配置に際しては、複数枚の治具盤12,13を用い、これらの間に適宜間隔を開けて層構造にするとよい。また、治具31(本願の治具)を配置するときには、支持部41の傾倒部材43を真っ直ぐに保持するとともに、保持部51の回動部材53の向きを、その第2延設部53bが斜め下に向くように設定する(図2参照)。
【0036】
そして、各治具21,31の電線保持部23や保持部51の内側(懐部54)に対して多数本の電線11aを通し(図7参照)、所望の三次元の立体形状に布線する。この後、テーピングにより仕上げをして電線11aを束ねれば、計画経路図を忠実に再現したワイヤハーネス11が得られる。
【0037】
最後に、成形したワイヤハーネス11を各治具21,31から外す。このとき、治具21(周知の治具)の場合には電線保持部23の上方が開放されているので何ら手を加える必要はないが、治具31(本願の治具)の場合には、保持部51の回動部材53を180度回転し[図7(b)の仮想線参照]、開口部55の位置を移動させて懐部54からワイヤハーネス11を外す。回動部材53の回動は、回動部材53を持っても、補助金具56を持っても行える。
【0038】
つづいて、支持部41の摺動部材48を上方に移動して枢着部分を剥き出しにし、支持部41の傾倒部材43をワイヤハーネス11から離れる方向に倒す[図7(a)の仮想線参照]。すると、成形されたワイヤハーネス11の上方空間に治具31の保持部51が存在しない状態になる。
【0039】
このため、成形済みのワイヤハーネス11を上方に引き上げれば、成形された状態のままでワイヤハーネス11を各治具から取り外すことができる。この結果、形成されたワイヤハーネス11に何ら変形の力が加わることはなく、型崩れを防止できる。
【0040】
しかも、保持部51の回動部材53の回動に際しての姿勢は2つの位置に規制され得るので簡単であり、支持部41を倒す動作も摺動部材48を上に移動させるだけでよいので簡単であって、作業が迅速に行える。また、支持部41の傾倒部材43は一定方向に倒れるように規制された状態で治具盤13上に固定されているので、ワイヤハーネス11の成形のたびに支持部41の向きを決めなおす必要はない。これらの結果、同一形状のワイヤハーネスを次々に成形してゆくのに作業性がよい。
【0041】
また、上述のようにワイヤハーネス11は所望の形状に成形できるとともに、図6にも示した如く成形に際して多数本の電線11aを懐部54に取り囲むように収めることができる。このため、左右方向への電線11aの脱落をなくすことができるとともに、断面形状が略円形となるような電線11aの束を得ることもできる。
【0042】
この結果、テーピングに際して、改めて電線11aの並びを整える必要はなく、仕上げ作業が容易に、その上しっかりと行える。しかも、保持部51の回動部材53には湾曲部53cが形成されているので、ワイヤハーネス11の延びる方向を斜め上方に向ける場合であっても、その効果は得られる。
【0043】
さらに、上述のように仕上げ作業がテーピングによってしっかりと行えるので、必要な形状を保持するために一般に用いられているプロテクタ等の補助的な部材を必要としない堅固な成形ができる。これにより、作業の手間を省くとともに、コストの低減を図ることが可能となる。
【0044】
次に、他の例に係る治具31について説明する。なお、上記構成と同一または同等の部位については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0045】
図8に示した治具31は、成形したワイヤハーネス11を懐部54から外す変位機構が支持部41に設けられたものであって、その変位機構は、保持部51を支持部41の長さ方向に沿って移動するものである。
【0046】
すなわち、支持部41の傾倒部材43が筒状に形成され、該傾倒部材43内に、保持部51の下端から垂設された支持軸61が上下方向に摺動可能に収納されている。支持軸61の下端は、固定脚部材42と傾倒部材43の外周面上を摺動する摺動部材48に対して連結ピン62によって一体に結合される。そして、上記傾倒部材43には、摺動部材48を上方に向けて移動させたときに保持部51が上方へ移動するように、連結ピン62を摺動可能にする長孔63が形成されている。長孔63の長さは、保持部材51を上方に移動させたときに、斜め下に向いていた固定部材53の第2延設部53bの下端が、懐部54内に位置していたワイヤハーネス11よりも上に出るようにする長さである。
【0047】
この構成によれば、ワイヤハーネス11の成形後、摺動部材48を上に移動させれば、ワイヤハーネス11を保持部51の懐部54から外せるとともに、摺動部材48の移動により支持部41の枢着部分が剥き出しになるので、そのまま支持部41の傾倒部材43を倒すことができる。この結果、2つの動作を、一箇所を保持することによって連続して行えるので取り外し作業の円滑化を図ることができる。
【0048】
この発明の構成と、上記一形態の構成との対応において、
この発明の変位機構は、上記一形態の構成における回動軸53dと、支持軸61、連結ピン62および長孔63に対応するも、
この発明は上述の構成に限定されるものではなく、その他の様々な形態を採用することができる。
【0049】
たとえば、上述例においては変位機構が保持部の一部、すなわち回動部材53を回動するものである構成を示したが、保持部の全体を回動するように構成してもよい。
【0050】
また、固定部材52は、その長さ方向が鉛直上向きになるように形成されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ワイヤハーネスの成形時の斜視図。
【図2】ワイヤハーネス成形用治具の側面図。
【図3】ワイヤハーネス成形用治具の正面図。
【図4】ワイヤハーネス成形用治具の平面図。
【図5】ワイヤハーネス成形用治具の一部断面側面図。
【図6】保持部の平面図。
【図7】作用状態の説明図。
【図8】他の例に係るワイヤハーネス成形用治具の一部断面側面図。
【図9】従来技術の説明図。
【符号の説明】
【0052】
11…ワイヤハーネス
31…ワイヤハーネス成形用治具
41…支持部
51…保持部
52…固定部材
53…回動部材
53a…第1延設部
53b…第2延設部
53c…湾曲部
53d…回動軸
54…懐部
55…開口部
61…支持軸孔
62…連結ピン
63…長孔
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイヤハーネスを三次元の立体形状に成形するときに使用するようなワイヤハーネス成形用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に対するワイヤハーネスの組み付けは、ワイヤハーネスを三次元の立体形状にして行われる。
【0003】
ワイヤハーネスを三次元の立体形状にする場合には、二次元の平面的な形状に布線された電線に対してテーピング等の仕上げを行って電線を束ね、最後にこれを折り曲げて三次元の立体形状に形作る方法がとられていた。
【0004】
しかし、このようにして二次元の形状から三次元の形状に加工する方法では、曲げ位置や曲げ角度に精度が得られず、目的の形状にできないという問題があった。
【0005】
このため、三次元の立体形状に布線して、その形状のまま仕上げを行うという、下記特許文献1のような布線治具が提案されている。
【0006】
この布線治具は、組立図板上に取付けられる支柱部と、電線を受け入れるべくU字状に形成された電線保持部とを有する。そして、電線保持部は、その底に形成される弧状受け部が、ワイヤハーネスの屈曲部分の内周側に位置するように支柱部に対して固定される。
【0007】
つまり、布線に際してはワイヤハーネスの形状に合わせて多種多様の布線治具が必要となる。
【0008】
しかも、この布線治具は、屈曲部分の内周側に弧状受部が位置するように配設されるので、ワイヤハーネスを所望の形状に成形することはできても、その形状によっては、成形したワイヤハーネスを取り外すことが困難となる。成形したワイヤハーネスを取り外すにはワイヤハーネスを弧状受部の反対側に抜く必要があるが、抜く方向が全ての布線治具において一致しているわけではないからである(特許文献1の公報の図7参照)。
【0009】
抜く方向が異なるのにワイヤハーネスを無理に取り外そうとすれば、成形したワイヤハーネスに型崩れが起こる。
【0010】
型崩れを抑制するには、たとえば図9(a)に示したように、ワイヤハーネス101を下に凹むような形状に成形する場合に、布線治具102の電線保持部103を、そのU字状の底が横に向くようにすることが考えられる。
【0011】
しかし、この場合でも、その両側に位置する布線治具104,104の電線保持部105が縦向きであると、各布線治具102,104部分においてワイヤハーネス101を抜く方向が異なることに変わりはないので、成形した形状のままで取り外すことはできない。また、左右方向の一方が開放された形状であるので、布線作業時に一部の電線101aが電線保持部103から脱落したり、また、ワイヤハーネス101の屈曲部分の内周側を直線状の部分で受けることになるので、図9(b)に示したように布線後の配線が横に広がったりしやすく、後の仕上げ作業が困難となる問題点がある。
【0012】
【特許文献1】特開平8−249945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこでこの発明は、成形済みのワイヤハーネスをその形状のまま取り外すことができるようにするとともに、成形に際しての作業性が良好であるようにすることを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そのための手段は、起立傾倒自在の支持部と、該支持部に形成されてワイヤハーネスを保持する保持部とを有するとともに、該保持部には、ワイヤハーネスを内側に通す懐部と、該懐部に対してワイヤハーネスを出し入れする開口部が形成され、上記支持部および保持部のうちの少なくともいずれか一方には、上記開口部の位置を変更して懐部に保持されたワイヤハーネスを懐部から外す変位機構が設けられたワイヤハーネス成形用治具である。
【0015】
この構成によれば、ワイヤハーネスの成形に際しては、まず、支持部に形成された保持部の開口部から多数の電線を懐部に入れて布線を行い、続いてこの状態のままテーピング等の仕上げを行う。すると、三次元の立体形状をなすワイヤハーネスを成形できる。このあと、変位機構を利用して保持部を回動したり、支持部の長さ方向に沿って移動したりして、開口部の位置を変更し、ワイヤハーネスを懐部から外す。これにより保持部によるワイヤハーネスの拘束が解かれることになる。続いて、支持部を傾倒すれば、保持部がワイヤハーネスの上方空間から外れるので、ワイヤハーネスを上方に抜き取ることができる。保持部で保持していた部分に仕上げを行う場合には、上記支持部の傾倒後に行えば、作業のための空間を確保でき、作業が容易に行える。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、この発明によれば、成形したワイヤハーネスを、その形状のままワイヤハーネス成形用治具から取り外すことができる。このため、計画経路図を忠実に再現する形状に精度よく成形されたワイヤハーネスを得られる。
【0017】
また、ワイヤハーネスを取り外す時にワイヤハーネスの上方空間から外れる保持部は、布線作業時には、電線の左右等の周囲を囲む形状をなすものであってもよく、保持部をそのように形成した場合には、布線作業時の電線の脱落を防止することができるとともに、布線後のワイヤハーネスの断面形状が略円形になるように成形することもできる。この結果、テーピング等の仕上げ作業が容易になるとともに、形状保持能力も高くなるため、形状保持のためのプロテクタを用いる必要性をなくして、手間を省き、コストの低減を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、ワイヤハーネス11の成形時の状態を示す斜視図であり、この図に示すように電線11a…を束ねたワイヤハーネス11は、2種類のワイヤハーネス成形用治具21,31(以下、治具という。)により三次元の立体形状に成形される。
【0019】
2種類の治具のうち、一つの治具21(周知の治具)は、ワイヤハーネス11を所望の高さに受けるためのもので、周知の構造である。すなわち、治具盤12,13の上に立設される支柱部22と、該支柱部22の上端に形成されるU字状の電線保持部23を有する治具である。電線保持部23は、その湾曲部分が下になるように取付けられており、上方が開放された状態となっている。
【0020】
他の治具31(本願の治具)は、ワイヤハーネス11を上から押さえ込むようにして下に凹んだ形状に屈曲させたり、左右方向に屈曲させたり、斜めに方向転換させたりする部分で使用されるもので、次のように構成されている。
【0021】
すなわち、図2に示したように、起立傾倒自在の支持部41と、該支持部41の上端に形成されてワイヤハーネス11を保持する保持部51とを有する。図2は、治具31の側面図、図3は正面図、図4は平面図である。
【0022】
これらの図に示したように、支持部41は、その下端部が治具盤13に固定されるもので、図5に示したように、下側の固定脚部材42と、該固定脚部材42の上に枢着される傾倒部材43とを有する。
【0023】
固定脚部材42は、棒状に形成され、外周面には雄ねじ44が形成されている。また、上端部には、傾倒部材43を枢着する枢着溝45を有する。
【0024】
傾倒部材43は、固定脚部材42と同一の太さの棒状に形成され、その下端に、上記枢着溝45に挿入される枢着片46を有し、この枢着片46は軸部材47によって固定脚部材42に枢着されている。
【0025】
そして、この枢着部分の外周位置に、固定脚部材42と傾倒部材43との外周面上を摺動する筒状の摺動部材48が挿嵌される。この摺動部材48の長さは、枢着部分での屈曲を阻止し、傾倒部材43を固定脚部材42に対して真っ直ぐに保持することができる長さである。
【0026】
また、傾倒部材43の外周における上記摺動部材48の上側にはコイルばね49が保持され、摺動部材48が上記枢着部分での屈曲を阻止する位置から上方に移動するのを付勢力によって制限している。
【0027】
なお、上記雄ねじ44には、図2、図3に示したように治具盤13を貫通する孔部13aに対して固定するために座金付きナット32やナット33が螺合される。図中、34は座金である。
【0028】
上記保持部51は、支持部41の上端に一体形成される固定部材52と、該固定部材52に枢着された回動部材53とを有する。
【0029】
固定部材52は、略長方形板状をなし、支持部41の上端から斜め上に向けて延びるように形成されている。その角度は45度程度であるとよい。
【0030】
また、支持部41の周方向におけるその向きは、上記枢着片46との関係において、枢着片46の向きと異なるように設定される。つまり、図4に示したように、枢着片46の幅方向に対して適宜の角度をもつ向きに向けられている。その角度も45度程度であればよい。これにより、支持部41の傾倒部材43を倒したときに、保持部51を、保持部材51における固定部材52の長さ方向から外れた位置に移動させることができる。
【0031】
上記回動部材53は、略L字状に曲がった棒状をなし、その断面形状は円形に形成されている。図6が回動部材53の平面図であり、この図に示したように回動部材53は、固定部材52と直角をなす方向に延びる第1延設部53aと、該第1延設部53aと直角をなし、固定部材52と平行に延びる第2延設部53bとを有し、これらの間には、弧状の湾曲部53cを有する。回動部材53と固定部材52とに囲まれた部分がワイヤハーネス11を通す懐部54で、回動部材53の第2延設部53bの先端部分と固定部材52の対向部位との間が、懐部54に対してワイヤハーネス11を出し入れする開口部55である。
【0032】
このような形状の回動部材53における第1延設部53aの基部には、回動軸53dが形成され、この回動軸53dの端部には、固定部材52と重合する補助金具56がスプリングピン57を介して回動不可能な状態で固定されている。補助金具56と固定部材52との間には、補助金具56と回動部材53の回動に際して、回動部材53の第2延設部53bが固定部材52と平行になる2箇所で節度を持たせるべくボールプランジャ52aと凹部56aが設けられている。
【0033】
上記構成により、回動部材53は、その第2延設部53bが固定部材52と平行になって斜め上を向く姿勢と、該姿勢と180度向きを異にして斜め下を向く姿勢とになるように位置決めされることになる。
【0034】
上記回動部材53を回動する機構が、懐部54に保持されたワイヤハーネス11を懐部54から外す変位機構である。
【0035】
このように構成された治具31は、次のように使用される。
まず、計画経路図に基づいて各治具21,31をそれぞれ所定の向き、高さにして治具盤12,13上に配置する。この配置に際しては、複数枚の治具盤12,13を用い、これらの間に適宜間隔を開けて層構造にするとよい。また、治具31(本願の治具)を配置するときには、支持部41の傾倒部材43を真っ直ぐに保持するとともに、保持部51の回動部材53の向きを、その第2延設部53bが斜め下に向くように設定する(図2参照)。
【0036】
そして、各治具21,31の電線保持部23や保持部51の内側(懐部54)に対して多数本の電線11aを通し(図7参照)、所望の三次元の立体形状に布線する。この後、テーピングにより仕上げをして電線11aを束ねれば、計画経路図を忠実に再現したワイヤハーネス11が得られる。
【0037】
最後に、成形したワイヤハーネス11を各治具21,31から外す。このとき、治具21(周知の治具)の場合には電線保持部23の上方が開放されているので何ら手を加える必要はないが、治具31(本願の治具)の場合には、保持部51の回動部材53を180度回転し[図7(b)の仮想線参照]、開口部55の位置を移動させて懐部54からワイヤハーネス11を外す。回動部材53の回動は、回動部材53を持っても、補助金具56を持っても行える。
【0038】
つづいて、支持部41の摺動部材48を上方に移動して枢着部分を剥き出しにし、支持部41の傾倒部材43をワイヤハーネス11から離れる方向に倒す[図7(a)の仮想線参照]。すると、成形されたワイヤハーネス11の上方空間に治具31の保持部51が存在しない状態になる。
【0039】
このため、成形済みのワイヤハーネス11を上方に引き上げれば、成形された状態のままでワイヤハーネス11を各治具から取り外すことができる。この結果、形成されたワイヤハーネス11に何ら変形の力が加わることはなく、型崩れを防止できる。
【0040】
しかも、保持部51の回動部材53の回動に際しての姿勢は2つの位置に規制され得るので簡単であり、支持部41を倒す動作も摺動部材48を上に移動させるだけでよいので簡単であって、作業が迅速に行える。また、支持部41の傾倒部材43は一定方向に倒れるように規制された状態で治具盤13上に固定されているので、ワイヤハーネス11の成形のたびに支持部41の向きを決めなおす必要はない。これらの結果、同一形状のワイヤハーネスを次々に成形してゆくのに作業性がよい。
【0041】
また、上述のようにワイヤハーネス11は所望の形状に成形できるとともに、図6にも示した如く成形に際して多数本の電線11aを懐部54に取り囲むように収めることができる。このため、左右方向への電線11aの脱落をなくすことができるとともに、断面形状が略円形となるような電線11aの束を得ることもできる。
【0042】
この結果、テーピングに際して、改めて電線11aの並びを整える必要はなく、仕上げ作業が容易に、その上しっかりと行える。しかも、保持部51の回動部材53には湾曲部53cが形成されているので、ワイヤハーネス11の延びる方向を斜め上方に向ける場合であっても、その効果は得られる。
【0043】
さらに、上述のように仕上げ作業がテーピングによってしっかりと行えるので、必要な形状を保持するために一般に用いられているプロテクタ等の補助的な部材を必要としない堅固な成形ができる。これにより、作業の手間を省くとともに、コストの低減を図ることが可能となる。
【0044】
次に、他の例に係る治具31について説明する。なお、上記構成と同一または同等の部位については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0045】
図8に示した治具31は、成形したワイヤハーネス11を懐部54から外す変位機構が支持部41に設けられたものであって、その変位機構は、保持部51を支持部41の長さ方向に沿って移動するものである。
【0046】
すなわち、支持部41の傾倒部材43が筒状に形成され、該傾倒部材43内に、保持部51の下端から垂設された支持軸61が上下方向に摺動可能に収納されている。支持軸61の下端は、固定脚部材42と傾倒部材43の外周面上を摺動する摺動部材48に対して連結ピン62によって一体に結合される。そして、上記傾倒部材43には、摺動部材48を上方に向けて移動させたときに保持部51が上方へ移動するように、連結ピン62を摺動可能にする長孔63が形成されている。長孔63の長さは、保持部材51を上方に移動させたときに、斜め下に向いていた固定部材53の第2延設部53bの下端が、懐部54内に位置していたワイヤハーネス11よりも上に出るようにする長さである。
【0047】
この構成によれば、ワイヤハーネス11の成形後、摺動部材48を上に移動させれば、ワイヤハーネス11を保持部51の懐部54から外せるとともに、摺動部材48の移動により支持部41の枢着部分が剥き出しになるので、そのまま支持部41の傾倒部材43を倒すことができる。この結果、2つの動作を、一箇所を保持することによって連続して行えるので取り外し作業の円滑化を図ることができる。
【0048】
この発明の構成と、上記一形態の構成との対応において、
この発明の変位機構は、上記一形態の構成における回動軸53dと、支持軸61、連結ピン62および長孔63に対応するも、
この発明は上述の構成に限定されるものではなく、その他の様々な形態を採用することができる。
【0049】
たとえば、上述例においては変位機構が保持部の一部、すなわち回動部材53を回動するものである構成を示したが、保持部の全体を回動するように構成してもよい。
【0050】
また、固定部材52は、その長さ方向が鉛直上向きになるように形成されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ワイヤハーネスの成形時の斜視図。
【図2】ワイヤハーネス成形用治具の側面図。
【図3】ワイヤハーネス成形用治具の正面図。
【図4】ワイヤハーネス成形用治具の平面図。
【図5】ワイヤハーネス成形用治具の一部断面側面図。
【図6】保持部の平面図。
【図7】作用状態の説明図。
【図8】他の例に係るワイヤハーネス成形用治具の一部断面側面図。
【図9】従来技術の説明図。
【符号の説明】
【0052】
11…ワイヤハーネス
31…ワイヤハーネス成形用治具
41…支持部
51…保持部
52…固定部材
53…回動部材
53a…第1延設部
53b…第2延設部
53c…湾曲部
53d…回動軸
54…懐部
55…開口部
61…支持軸孔
62…連結ピン
63…長孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起立傾倒自在の支持部と、該支持部に形成されてワイヤハーネスを保持する保持部とを有するとともに、
該保持部には、ワイヤハーネスを内側に通す懐部と、該懐部に対してワイヤハーネスを出し入れする開口部が形成され、
上記支持部および保持部のうちの少なくともいずれか一方には、上記開口部の位置を変更して懐部に保持されたワイヤハーネスを懐部から外す変位機構が設けられた
ワイヤハーネス成形用治具。
【請求項2】
前記懐部が、弧状の湾曲部を有するものである
請求項1に記載のワイヤハーネス成形用治具。
【請求項3】
前記変位機構が、保持部を回動するものである
請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス成形用治具。
【請求項4】
前記保持部が、支持部に固定される固定部材と、該固定部材に枢着された回動部材とを有し、
該回動部材には、固定部材と直角をなす方向に延びる第1延設部と、該第1延設部と直角をなす方向に延びる第2延設部とを有する
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載のワイヤハーネス成形用治具。
【請求項5】
前記変位機構が、保持部を支持部の長さ方向に沿って移動するものである
請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス成形用治具。
【請求項1】
起立傾倒自在の支持部と、該支持部に形成されてワイヤハーネスを保持する保持部とを有するとともに、
該保持部には、ワイヤハーネスを内側に通す懐部と、該懐部に対してワイヤハーネスを出し入れする開口部が形成され、
上記支持部および保持部のうちの少なくともいずれか一方には、上記開口部の位置を変更して懐部に保持されたワイヤハーネスを懐部から外す変位機構が設けられた
ワイヤハーネス成形用治具。
【請求項2】
前記懐部が、弧状の湾曲部を有するものである
請求項1に記載のワイヤハーネス成形用治具。
【請求項3】
前記変位機構が、保持部を回動するものである
請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス成形用治具。
【請求項4】
前記保持部が、支持部に固定される固定部材と、該固定部材に枢着された回動部材とを有し、
該回動部材には、固定部材と直角をなす方向に延びる第1延設部と、該第1延設部と直角をなす方向に延びる第2延設部とを有する
請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載のワイヤハーネス成形用治具。
【請求項5】
前記変位機構が、保持部を支持部の長さ方向に沿って移動するものである
請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス成形用治具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2007−250246(P2007−250246A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68854(P2006−68854)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河オートモーティブパーツ株式会社 (571)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河オートモーティブパーツ株式会社 (571)
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