説明

ワンウェイクラッチ

【課題】 潤滑油の粘度が上昇する低温時においても十分な噛合い性を確保でき、空転時のドラグ低減および内輪とトルク伝達部材との摺動摩耗を防止できるワンウェイクラッチを提供する。
【解決手段】 外輪と、外輪と相対回転自在の内輪と、外輪及び内輪の間でトルクを伝達するトルク伝達部材とからなるワンウェイクラッチにおいて、
内輪の外周軌道面にほぼ周方向に沿った複数の溝を設けたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に使用されるスプラグタイプ及びローラタイプのワンウェイクラッチに関する。より詳細には、内輪の外周面に周方向の溝を形成したワンウェイクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ワンウェイクラッチは、外輪と、外輪と相対回転自在の内輪と、外輪及び内輪の間でトルクを伝達するトルク伝達部材とからなっている。内外輪の相対回転に伴って、トルク伝達部材が例えば内輪の外周面に噛合い、内外輪間でトルクを伝達する。この出願の発明に関連する先行技術文献情報は、現在までのところ見つかっておりません。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のワンウェイクラッチでは、低温状態(例えば−20℃から−40℃以下)で潤滑油の粘度が高くなると、空転から噛合い時に移行するとき、正常に噛合わず連続的に滑りを生じワンウェイクラッチの噛合い機能が損なわれる不具合が発生することがあった。
【0004】
これらの問題を克服するためには、トルク伝達部材としてのスプラグもしくはローラに対して噛合い方向の荷重を加えているスプリング力を増大し、噛合い面の面圧を高くして油膜を切断し易くすることも考えられるが、スプリング力の増大は、ワンウェイクラッチの空転時の引き摺りトルクの増大をもたらし、自動車などに使用された場合における燃費の低下の原因となる。
【0005】
従って、本発明の目的は、潤滑油の粘度が上昇する低温時においても十分な噛合い性を確保でき、空転時のドラグ低減および内輪とトルク伝達部材との摺動摩耗を防止できるワンウェイクラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のワンウェイクラッチは、
外輪と、前記外輪と相対回転自在の内輪と、前記外輪及び内輪の間でトルクを伝達するトルク伝達部材とからなるワンウェイクラッチにおいて、
前記内輪の外周軌道面にほぼ周方向に沿った複数の溝を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
内輪の外周軌道面にほぼ周方向に沿った複数の溝を設けたため、潤滑油の粘度が上昇する低温時においても十分な噛合い性を確保できる。これは、内輪の溝により、スプラグまたはローラと内輪間の油膜の排除がスムースに行われるためである。また、空転時のドラグ低減および内輪とスプラグまたはローラとの摺動摩耗防止にも効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ワンウェイクラッチの内輪の外周軌道面にほぼ周方向に沿った複数の溝を設け、それにより潤滑油の粘度が上昇する低温時においても十分な噛合い性を確保できる。
【実施例】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。尚、図面において同一部分は同一符号にて示してある。また、実施例は本発明を例示として説明するものであり、本発明を限定するものではないことは言うまでもない。
【0010】
図1は、本発明の実施例を示すワンウェイクラッチ10の径方向の部分断面図である。ワンウェイクラッチ10は、内周軌道面1aを備えた外輪1と、外輪1と相対回転自在に配置され、外周軌道面2aを備えた内輪2と、外輪1と内輪2との間でトルクを伝達するトルク伝達部材としてのスプラグ3とからなっている。
【0011】
スプラグ3は、外輪1と内輪2との間に配置された外側保持器4と内側保持器5に保持されている。また、外側保持器4と内側保持器5との間にはリボンスプリング6が設けられ、内輪2の外周軌道面2aに噛合うための起き上がりモーメントをスプラグ3に与えている。外側保持器4の一部には、径方向外方にオフセットされたTバーが形成され、外輪1に接触し、所定の引きずりトルクを与えている。
【0012】
図2は、図1に示すワンウェイクラッチ10の内輪2の斜視図である。内輪2は、スプラグ3が摩擦係合する外周軌道面2aと不図示の回転部材が嵌合する内周面2bとを備えている。内輪2の外周軌道面2aには、ほぼ周方向に沿った複数の溝8が形成されている。
【0013】
溝8は、外周軌道面2aの周方向、すなわち円周方向に連続する1本の円溝として設けられている。複数の溝8は、互いに0.05〜0.5mmの軸方向ピッチで形成されると共に、それぞれの深さが0.05〜0.5mm、幅が0.05〜0.5mmの範囲である。
【0014】
図2では、溝8は軸方向に対してほぼ直角に、かつ互いに平行に形成されているが、非平行に形成することもできる。また、軸方向に対して傾斜して設けることもできる。更に、円周方向に連続せず、所定の間隔をあけた溝として形成することもできる。軸方向に並んだ複数の溝として形成する代わりに、連続した1本の螺旋状溝として形成することもできる。
【0015】
図3は、溝8の拡大部分断面図である。溝8は、例えば切削加工により内輪2の外周軌道面2aに形成される。溝8と溝8の間にはエッジ部9が設けられる。図4は、押圧治具により溝8のエッジ部9を平坦にする工程を示す断面図である。押圧治具、すなわち成形ローラ13による転造加工をエッジ部9に施すことにより、エッジ部9を塑性変形させ、エッジ部9をほぼ平坦または円弧状のランドに成形する。これによりエッジ部9は滑らかな表面となる。
【0016】
以上、トルク伝達部材としてスプラグを用いたスプラグ型のワンウェイクラッチについて実施例を説明してきたが、本発明はその他のタイプのワンウェイクラッチ、例えば、トルク伝達部材としてローラを用いたローラ型のワンウェイクラッチにも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例を示すワンウェイクラッチの径方向の部分断面図である。
【図2】図1に示すワンウェイクラッチの内輪の斜視図である。
【図3】溝の拡大部分断面図である。
【図4】押圧治具により溝のエッジ部を平坦にする工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1・・・外輪
2・・・内輪
2a・・・外周軌道面
3・・・スプラグ(トルク伝達部材)
8・・・溝
9・・・エッジ
10・・・ワンウェイクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、前記外輪と相対回転自在の内輪と、前記外輪及び内輪の間でトルクを伝達するトルク伝達部材とからなるワンウェイクラッチにおいて、
前記内輪の外周軌道面にほぼ周方向に沿った複数の溝を設けたことを特徴とするワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記溝は、0.05〜0.5mmの軸方向ピッチで形成されると共に、各溝の深さが0.05〜0.5mm、幅が0.05〜0.5mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のワンウェイクラッチ。
【請求項3】
ワンウェイクラッチ用内輪の製造方法であって、
切削加工によって前記内輪の外周面に周方向の複数の溝を成形する工程と、
押圧ローラを用いた塑性加工により表面を滑らかに成形する工程と、
を含むことを特徴とするワンウェイクラッチ用内輪の製造方法。
【請求項4】
前記溝は、0.05〜0.5mmの軸方向ピッチで形成されると共に、各溝の深さが0.05〜0.5mm、幅が0.05〜0.5mmの範囲であることを特徴とする請求項3に記載のワンウェイクラッチ用内輪の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−40369(P2007−40369A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224054(P2005−224054)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)