説明

一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤

【課題】JISーA1901:2003で規定される「小型チャンバー法試験」において揮発性有機物質(VOC)に該当しない成分を用いつつ、適切な作業性が付与することができると共に、接着性、床鳴り防止性を付与し得る低VOC型湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を提供する。
【解決手段】分子内に活性水素を2個以上有するポリオール化合物と、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物とを反応させることによって得られるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)と、JISーA1901:2003で規定される小型チャンバー法試験においてVOCに該当しない粘度調整剤(B)とを含有し、当該試験において試験7日後のTVOC放散量が150μ/m以下であり、且つ、放散速度が150μg/m2・h以下である一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に対し有害性が高いと考えられている揮発性有機化合物(Volatile
Organic Compounds、以下「VOC」と記載する)の発生が少ない一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤に関する。より詳細には、床暖房用途を含む床施工用途で使用する際に良好な塗布作業性、接着性、床拘束性、床鳴り防止性を有するとともに、VOCの発生が少ない一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅の気密度の向上と共に粘度調整に用いられる有機溶剤等が居住空間に放出されて残留し、居住者が健康を害するいわゆる「シックハウス」問題がクローズアップされている。
【0003】
住宅の床を施工する際には主に一液型の湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤が使用されており、近年ますますその需要は増加している。従来、床施工用に用いられるウレタン樹脂系接着剤は用途によって要望される粘度が異なるため、有機溶剤等で粘度調整を行い良好な作業性を得ていた。しかしながら、特に床は居住空間において大きな面積を占めるため、上述の問題から床施工用の建材及び接着剤には特に有機溶剤等の低減が強く要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−89504号公報
【特許文献2】特開2006−22298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2002年1月に厚生労働省より居住空間における揮発性有機化合物の総濃度(TVOC)の暫定目標値として400μg/mが示された。ここで、この数値は居住空間全体としての数値である。居住空間においては、種々の建材や接着剤等が床以外の部位(例えば壁や天井等)にも用いられている。このため、居住空間を構成する一要素である床施工用接着剤はこの数値を遙かに下回らないと上記の目標値はクリアーできない。
【0006】
このような問題を解決するために、粘度調整剤として非VOC成分を配合することが考えられる。しかし、単純に粘度調整剤として非VOC成分を配合した場合には、接着剤の性能に悪影響を及ぼすことがあった。すなわち、非VOC成分は接着剤の硬化後も皮膜内に残存するため硬化皮膜が可塑化されて柔らかくなり、その結果床材の拘束性が低下するという問題である。特に床暖房用途では床材の伸縮膨張が大きいためにこのような接着剤を用いると十分に床材を拘束できず、床材サネ部の目隙や突き上げといった不具合が発生することがあった。また、ウレタン樹脂系接着剤ではウレタンプレポリマーを合成する際に原料として用いられるポリオール化合物やイソシアネート化合物に老化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエン(以下「BHT」と記載する)が配合されており、これがVOC成分に該当するために低VOC化が困難であるという問題もあった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、床施工用途で使用する際に従来と同等以上の良好な塗布作業性、接着性、床拘束性、床鳴り防止性を有するとともに、VOCの放散量が極端に低い一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが上述のような問題を解決するために鋭意研究した結果、粘度調整剤として非VOC成分を用いながらも、従来の床施工用一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤と同等以上の性能を維持しつつ、VOC放散量が極端に低い接着剤が得られる手法を見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は次の第1〜5の発明から構成される。
【0009】
第1の発明は、分子内に活性水素を2個以上有するポリオール化合物(a1)と、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物(a2)とを反応させることによって得られるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)と、JIS A 1901:2003で規定される小型チャンバー法試験においてVOCに該当しない粘度調整剤(B)とを含有し、当該試験において試験7日後のTVOC放散量が150μ/m以下であり、且つ、放散速度が150μg/m2・h以下である一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤に関するものである。なお、本発明では、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)について単に「ウレタンプレポリマー(A)」と、JIS A 1901:2003で規定される小型チャンバー法試験においてVOCに該当しない粘度調整剤(B)を単に「粘度調整剤(B)」と表記することがある。
【0010】
第2の発明は、ウレタンプレポリマー(A)にジブチルヒドロキシトルエンが配合されていないことを特徴とする、第1の発明に係る一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤に関するものである。
【0011】
第3の発明は、粘度調整剤(B)が、アジピン酸のジアルキルエステル及び/又はセバシン酸のジアルキルエステルであることを特徴とする、第1又は第2の発明に係る一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤に関するものである。
【0012】
第4の発明は、さらに、添加剤としてクルードMDI(C)が含有されていることを特徴とする、第1〜第3のいずれかの発明に係る一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤に関するものである。
【0013】
第5の発明は、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、粘度調整剤(B)の配合量が8〜20質量部であり、且つ、クルードMDI(C)の配合量が2〜10質量部であることを特徴とする、第4の発明に係る一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤は、従来の床施工用一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤と同等以上の性能(作業性、接着性、床拘束性、床鳴り防止性)を持ちながら、VOC放散量が極端に低い接着剤であり、「シックハウス」問題にも充分対応できる極めて有用な接着剤である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施するための最良の形態を、詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0016】
[ウレタンプレポリマー(A)について]
本発明におけるウレタンプレポリマー(A)は、後述する分子内に活性水素を2個以上有するポリオール化合物(a1)と、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物(a2)とを反応させることによって得られる、分子内に活性なイソシアネート基を含有するウレタンプレポリマーである。
【0017】
ウレタンプレポリマーの合成方法は従来公知の方法でよい。例えば、撹拌機、コンデンサー、減圧脱水装置、窒素気流装置を備えた密閉式反応釜に、ポリオール類等の末端に活性水素を2個以上有する化合物を仕込み減圧脱水後、イソシアネート化合物を配合して窒素気流下で70〜100℃にて3〜8時間反応させて、ウレタンプレポリマーを含有するウレタン樹脂系組成物を得る。この際に、イソシアネート基(NCO)と活性水素基(OH)とのモル比が、NCO/OH=1.2以上で、ウレタンプレポリマー中のNCO質量%が、NCO質量%=1〜20%(最も好ましくは2〜15%)の範囲になるようにするのが好ましい。NCO質量%が高い場合は、接着強度も向上するが硬化途中の発泡が多くなり、硬化皮膜が脆くなる傾向が生じる。一方、NCO質量%が低い場合は、発泡は少なくなるがプレポリマーの粘度が高く接着剤の作業性確保が困難になる傾向が生じる。
【0018】
また、NCO/OHの比率が2.0を上回って高くなるほど、未反応のポリイソシアネート化合物が存在するので、これらの希釈効果によってウレタンプレポリマーの粘度は低くなる。また、所望の性能を得るために2種類以上のウレタンプレポリマーを混合して使用したり、ウレタンプレポリマーに後添加でポリイソシアネート化合物を配合したりしてもよい。
【0019】
[ポリオール化合物(a1)について]
分子内に活性水素を2個以上有するポリオール化合物(以下単に「ポリオール化合物(a1)」と表記することがある)としては、分子量100〜20,000程度の2官能以上のポリオール化合物等が使用され、それらは使用目的や性能によって使い分ければよい。ポリオール化合物(a1)としては、ポリエーテル型ポリオール、ポリエステル型ポリオール、ポリオレフィンポリオール等を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、モノオールを併用することを妨げない。
【0020】
ポリエーテル型ポリオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA等のジオール類、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン等のトリオール類、ソルビトール等、更にアンモニア、エチレンジアミン、尿素、モノメチルジエタノールアミン、モノエチルジエタノールアミン等のアミン類の1種又は2種以上の存在下、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等を開環重合して得られるランダム又はブロック共重合体等、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0021】
ポリエステル型ポリオールとしては、例えばマレイン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸等のジカルボン酸単独若しくは混合物と上記ジオール類単独若しくは混合物を重縮合して得られる重合体、ε−カプロラクトン、バレロラクトン等の開環重合物等、ヒマシ油等の活性水素を2個以上有する活性水素化合物等が挙げられる。
【0022】
ポリオレフィン型ポリオールとしては、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールやその水添物等が挙げられる。
【0023】
ポリオール化合物(a1)は、老化防止剤であるジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含有していないことが好ましい。BHTが配合されていないポリオール化合物としては、旭硝子株式会社「プレミノール5001F」(ポリエーテル型ポリオール/数平均分子量4000)等を用いることができる。
【0024】
[ポリイソシアネート化合物(a2)について]
分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物(以下単に「ポリイソシアネート化合物(a2)」と表記することがある)としては、例えば脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、芳香族ジイソシアネート化合物及びその他のポリイソシアネート化合物等が挙げられる。以下、それらの具体例を挙げる。
【0025】
脂肪族ジイソシアネート化合物:トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート等。
【0026】
脂環式ジイソシアネート化合物:1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート等。
【0027】
芳香脂肪族ジイソシアネート化合物:1,3−若しくは1,4−キシリレンジイソシアネート又はそれらの混合物、ω,ω′−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−若しくは1,4−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン又はそれらの混合物等。
【0028】
芳香族ジイソシアネート化合物:m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−トルイジンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート等。
【0029】
ジイソシアネート化合物を除くポリイソシアネート化合物としては、例えば脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、芳香族ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。以下、それらの具体例を挙げる。
【0030】
脂肪族ポリイソシアネート化合物:リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8−トリイソシアネートオクタン、1,6,11−トリイソシアネートウンデカン、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアネートヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアネート−5−イソシアネートメチルオクタン等。
【0031】
脂環式ポリイソシアネート化合物:1,3,5−トリイソシアネートシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアネートシクロヘキサン、3−イソシアネートメチル−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、2− (3−イソシアネートプロピル)−2,5−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2−(3−イソシアネートプロピル)−2,6−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、3−(3−イソシアネートプロピル)−2,5−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、5−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−3−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、6−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−3−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、5−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−2−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、6−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−2−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン等。
【0032】
芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物:1,3,5−トリイソシアネートメチルベンゼン等。
【0033】
芳香族ポリイソシアネート化合物:トリフェニルメタン−4,4′,4″−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、2,4,6−トリイソシアネートトルエン、4,4′−ジフェニルメタン−2,2′,5,5′−テトライソシアネート等。
【0034】
これらポリイソシアネート化合物の使用に際し、黄変性が問題になる場合には、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族のポリイソシアネート化合物を使用するのが好ましい。ポリイソシアネート化合物(a2)は、老化防止剤であるBHTを含有していないことが好ましい。BHTが配合されていないイソシアネート化合物としては、日本ポリウレタン工業株式会社製「MT−A965」(4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート)等を用いることができる。
【0035】
[粘度調整剤(B)について]
本発明における粘度調整剤(B)は、一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤組成物において、希釈作用によりその粘度を低下させる目的のために配合される常温で液状の物質乃至化合物であり、且つ、JIS A 1901:2003で規定される小型チャンバー法試験においてVOCに該当しないものである。
【0036】
ここで、JIS A 1901:2003で規定される「建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定試験−小型チャンバー法」について説明する。
【0037】
この試験の方法は、標準状態で(23±2℃)でステンレス板又は、ガラス板の上に接着剤を塗布し養生し、試験体とする。その際の条件は以下のとおりである。
接着剤塗布量:300±15g/m 塗布面積:80cm 養生時間:60±10分 養生環境:23±2℃
養生が終了した試験体をチャンバー容量が20Lの小型チャンバーに静置し、以下の条件で試験を開始する。
試験温度:28±1℃ 相対湿度:50±5% 換気回数:0.5±0.05回/h 試料負荷率:0.4m/m。この条件下で7日間養生後チャンバーからの空気を2回採取してVOC放散量、放散速度を求める。VOC及び、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物を捕集条件は以下の通りで行う。
VOCの場合 捕集管:TENAX−TA 空気捕集量:3.2L
ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物 捕集管:DNPHカートリッジ 空気捕集量:10L
捕集したVOCは捕集管を加熱脱着装置に取り付け、加熱によってVOCを脱離させ、質量分析計付きガスクロマトグラフを使用して測定する。
また、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物の場合はDNPHカートリッジ内のカルボニル化合物DNPH誘導体はアセトニトリルを用いて溶解させ脱離後、高速液体クロマトグラフを用いて測定する。
VOCの判定基準としてはガスクロマトグラフにおいて分析した、n−ヘキサンからn−ヘキサデカンまでの範囲で検出された物質をVOCとし、ピーク面積の総和を用いてトルエンに換算した値を求める。
【0038】
粘度調整剤(B)は、特にアジピン酸のジアルキルエステル及び/又はセバシン酸のジアルキルエステルであると、ウレタンプレポリマーに対して相溶性が良好であって、しかも、ウレタン樹脂系接着剤を適切な粘度に調整し得るため好ましい。ただし、アジピン酸のジアルキルエステルの場合にはアルキル基は炭素数8以上、セバシン酸のジアルキルエステルの場合にはアルキル基は炭素数4以上である。これらは単独で用いてももちろん良好な作業性が得られるが、両者を併用するとさらに良好な作業性を得ることが出来るため好ましい。粘度調整剤(B)の配合量は特に制限されないが、好ましくはウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して8〜20質量部程度用いられる。粘度調整剤(B)の配合量が少ないと作業性の付与が十分ではなく、配合量が多いと硬化皮膜が可塑化され床材の拘束力が得られにくくなる。
【0039】
アジピン酸のジアルキルエステルとしては、大八化学工業社製「DOA」(ビス(2−エチルヘキシル)アジペート)、大八化学工業社製「DINA」(ジイソノニルアジペート)等の市販品を用いることができる。また、セバシン酸のジアルキルエステルとしては、報国製油社製「DOS」(ジオクチルセバケート)、報国製油社製「DBS」(ジブチルセバケート)等の市販品を用いることができる。
【0040】
[クルードMDIについて]
本発明のウレタン樹脂系接着剤には、さらに添加剤としてクルードMDI(C)が含有されていることが好ましい。ここで、クルードMDIとは、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とポリフェニルメタンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)とのポリイソシアネート混合物である。クルードMDIは、常温で液状であるために塗布作業時には粘度調整剤(B)と相まって作業性を付与することができ、床材の施工後は空気中の湿気と反応して硬化することで、接着剤皮膜に凝集力を付与し、さらに接着性や床拘束性、床鳴り防止性能を付与することができる。クルードMDI(C)の配合量は特に制限されないが、好ましくはウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して2〜10質量部程度用いられる。クルードMDIの配合量が多くなると、硬化皮膜自体の凝集力が増す一方で、接着剤の硬化過程で空気中の湿気との反応による発泡が増す結果、トータルでの床拘束性には大きな向上が見られない。
【0041】
クルードMDI(C)としては、住化バイエルウレタン株式会社製「44V10」、「44V20」、「44V70」、「J243」等の市販品を用いることができる。
【0042】
本発明の湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤においては、粘度調整剤(B)とクルードMDI(C)とを併用することが特に好ましい。この場合、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、粘度調整剤(B)の配合量が8〜20質量部であり、且つ、クルードMDI(C)の配合量が2〜10質量部であるのがよい。
【0043】
[その他の成分について]
本発明に係るウレタン樹脂系接着剤は、ウレタンプレポリマー(A)と粘度調整剤(B)とを含有するものであるが、JIS A 1901:2003で規定される小型チャンバー法の試験においてVOCに該当しない成分であれば従来公知の他の任意成分が含有されていてもよい。このような成分としては、例えば、重質炭酸カルシウム、表面処理炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、珪砂、シリカ等の充填剤、酸化チタン、カーボンブラック、その他の染料或いは顔料等の着色剤、ケトン類、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等の希釈剤、粘接着付与剤、増粘剤、シランカップリング剤、顔料分散剤、消泡剤、チタンカップリング剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。なお、充填剤には、イソシアネート化合物と反応する水分を含有することがあるため、含水率が0.2%以下、好ましくは0.1%以下となるように、脱水処理を行ってから添加含有するのが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
2官能ポリプロピレングリコール(数平均分子量4000)600質量部と、3官能ポリプロピレングリコール(数平均分子量3000)200質量部と、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)214質量部とを、2Lのセパラブルフラスコに仕込み、90℃で3時間窒素気流下で反応させて、NCO質量%が5%のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得た。なお、この際のポリプロピレングリコールと4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートには、老化防止剤としてBHTが含有されているものを使用した。
上記で得られたウレタンプレポリマーを含有する反応生成物(ウレタン樹脂系組成物)100質量部、炭酸カルシウム(日東粉化社製「NS♯2300」)60質量部、表面処理炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製「シーレッツ200」)40質量部、脱水剤(日本曹達社製「PTSI」)0.4質量部、ジイソノニルアジペート(田岡化学社製「DINA」)10質量部を、2Lのプラネタリーミキサーに投入し、減圧下で40分間撹拌して、湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0046】
〔実施例2〕
実施例1のジイソノニルアジペート(田岡化学社製「DINA」)を8質量部に減じ、ジブチルセバケート(報国製油社製「DBS」)2質量部を加えた以外は、実施例1と同一の方法で湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0047】
〔実施例3〕
用いたポリプロピレングリコール2種と4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートとして、BHTが含有されていないものを使用した以外は、実施例1と同一の方法で湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0048】
〔実施例4〕
プラネタリーミキサーでの撹拌混合時に、さらにクルードMDI(住化バイエルウレタン社製「44V20」)2質量部を加えた以外は、実施例3と同一の方法で湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0049】
〔実施例5〕
プラネタリーミキサーでの撹拌混合時に、さらにクルードMDI 5質量部を加えた以外は、実施例3と同一の方法で湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0050】
〔実施例6〕
プラネタリーミキサーでの撹拌混合時に、さらにクルードMDI 10質量部を加えた以外は、実施例3と同一の方法で湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0051】
〔実施例7〕
実施例4においてジイソノニルアジペートを16質量部に増量した以外は、実施例4と同一の方法で湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0052】
〔比較例1〕
粘度調整剤としてジイソノニルアジペートに代えて、イソパラフィン系炭化水素(エクソンモービル社製「アイソパーH」)を10質量部とした以外は、実施例1と同一の方法で湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0053】
〔比較例2〕
プラネタリーミキサーでの撹拌混合時に、さらにクルードMDI(住化バイエルウレタン社製「44V20」)15質量部を加えた以外は、実施例3と同一の方法で湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0054】
〔比較例3〕
実施例4においてジイソノニルアジペートを24質量部に増量した以外は、実施例4と同一の方法で湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤を得た。
【0055】
実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤に関して、以下の方法で塗布作業性、接着性、圧縮強さ、割裂強さ、床鳴り性及び、VOC放散量の測定を行った。
【0056】
[塗布作業性]
作成したウレタン樹脂系接着剤を紙管式のジャンボカートリッジ(760ml)に充填し、5℃下に24時間放置した。その後、5℃雰囲気下で接着剤をカートリッジガンを用いて塗布し、その時のカートリッジガンの抵抗感を以下の4段階で評価した。評価が◎又は○であれば、実用上問題はないと判断できる。
◎:接着剤塗布時のカートリッジガンの抵抗感が非常に小さく、塗布作業性は非常に良
好といえる。
○:接着剤塗布時のカートリッジガンの抵抗感が小さく、塗布作業性は良好といえる。
△:接着剤塗布時のカートリッジガンの抵抗感がやや重く、塗布作業性は不十分である
といえる。
×:接着剤塗布時のカートリッジガンの抵抗感が非常に重く、塗布作業性は不良である
といえる。
【0057】
[接着強さ]
JIS A 5536に準じた方法で試験を行った。その際の評価は以下のとおりとした。評価が○であれば、実用上十分な接着強さが得られていると判断できる。
○:接着強さが1N/mm以上、又は、被着体の材料破壊。
×:接着強さが1N/mm以下、且つ、被着体の材料破壊が観られない。
【0058】
[圧縮せん断接着強さ]
25mm×30mm(厚さ10mm)のアサダ材にウレタン樹脂系接着剤を塗布し、接着面積625mmとなるように同様の大きさのアサダ材を接着し試験体とした(図1)。23℃相対湿度55%の環境下で7日間養生後、圧縮せん断試験を行った。その際の評価は以下のとおりとした。評価が◎又は○であれば、実用上十分な床拘束性を有すると判断できる。
◎:圧縮せん断接着強さが6.0N/mm以上である。この場合、床材の伸縮膨張を
押さえる床拘束性が得られる。
○:圧縮せん断接着強さが4.5N/mm以上である。この場合、床材の伸縮膨張は
ほぼ押さえられる床拘束性が得られる。
△:圧縮せん断接着強さが3.0N/mm以上である。この場合、床暖房用途以外で
は床材の伸縮膨張はほぼ押さえられる床拘束性が得られる。
×:圧縮せん断接着強さが3.0N/mm以下である。この場合、床材の伸縮膨張は
押さえられない。
【0059】
[割裂接着強さ]
25mm×50mm(厚さ5mm)のアサダ材と、25mm×40mm(厚さ10mm)のアサダ材とを予め「ボンド 木工用」(コニシ株式会社製)にて貼り合わせた。接着剤層の厚みが約0.3mmとなるようにスペーサーを設けた接着面(25mm×約35mm)に評価すべきウレタン樹脂系接着剤を塗布し、さらに25mm×50mm(厚さ5mm)のアサダ材を貼り合わせた(図2)。23℃、相対湿度55%の環境下で7日間養生後、割裂試験を行った。その際の評価は以下のとおりとした。評価が◎又は○であれば、実用上十分な硬化皮膜の凝集力を有すると判断できる。
◎:割裂接着強さが20N/mm以上
○:割裂接着強さが15N/mm以上
△:割裂接着強さが10N/mm以上
×:割裂接着強さが10N/mm以下
【0060】
[床鳴り性]
JIS A 5536に準じた方法で試験体を作成し、床鳴り性試験を行った。その際の評価は以下のとおりとした。評価が○であれば実用上問題は生じないと判断できる。
○:ネチャ音等のタック音がしない。
△:ネチャ音等のタック音が僅かにする。
×:ネチャ音等のタック音がする。
【0061】
[VOC放散量]
JIS A 1901:2003で規定される「建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定試験−小型チャンバー法」に準じて試験を行い、試験7日後のTVOC放散量と放散速度を測定した。その際の評価は以下のとおりとした。
◎:放散量 50μg/m以下、且つ、放散速度 50μg/m・h以下
○:放散量150μg/m以下、且つ、放散速度150μg/m・h以下
△:放散量400μg/m以下、且つ、放散速度400μg/m・h以下
×:放散量400μg/m以上、又は、放散速度400μg/m・h以上
【0062】
【表1】

【0063】
表に示す結果から明らかなように、本発明に係る湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤(実施例1〜7)は、従来の床施工用ウレタン樹脂系接着剤(比較例1)と同等以上の性能(作業性、接着性、床拘束性、床鳴り防止性)を有し、且つVOC放散量が極端に低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤は、従来の床施工用ウレタン樹脂系接着剤と同等以上の性能(作業性、接着性、床拘束性、床鳴り防止性)を有しながらも、VOC放散量が極端に低く、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実験における圧縮せん断接着強さの試験体形状を示す説明図である。
【図2】実験における割裂接着強さの試験体形状を示す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 : アサダ材
2 : 評価接着剤
3 : スペーサー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に活性水素を2個以上有するポリオール化合物(a1)と、分子内にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物(a2)とを反応させることによって得られるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)と、
JIS A 1901:2003で規定される小型チャンバー法試験において揮発性有機物質(VOC)に該当しない粘度調整剤(B)とを含有し、
当該試験において試験7日後のTVOC放散量が150μ/m以下であり、且つ、放散速度が150μg/m2・h以下である一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤。
【請求項2】
上記ウレタンプレポリマー(A)にジブチルヒドロキシトルエンが配合されていないことを特徴とする、請求項1に記載の一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤。
【請求項3】
上記粘度調整剤(B)が、アジピン酸のジアルキルエステル及び/又はセバシン酸のジアルキルエステルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤。
【請求項4】
さらに、添加剤としてクルードMDI(C)が含有されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤。
【請求項5】
上記ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、上記粘度調整剤(B)の配合量が8〜20質量部であり、且つ、クルードMDI(C)の配合量が2〜10質量部であることを特徴とする、請求項4に記載の一液湿気硬化型ウレタン樹脂系接着剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−32305(P2011−32305A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177160(P2009−177160)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】