説明

一酸化炭素による胃潰瘍の予防

本発明は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)および/またはアルコールにより引き起こされる胃腸管系副作用を抑制するための、一酸化炭素(CO)の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、35 U.S.C. §119(e)のもとで2007年7月24日出願の米国仮出願第60/951,650号の利益を主張し、その全内容は、本明細書に参照として組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
アスピリンおよび他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、鎮痛剤、抗炎症薬および解熱剤として広く用いられている。これらの薬剤は一般に良好に耐容されるが、胃腸管への副作用を通常に有する。NSAIDユーザーの少なくとも2人に1人は、上腹部の疼痛(消化不良)に苦しみ、および/または腸管粘膜、特に、胃および十二指腸のびらんを有する。重篤で有害な胃腸管のイベントである出血、穿孔、または閉塞は、100人のNSAIDユーザーのうち約1名に起こる(概説として例えばLaine 1996;Wolfe, Lichtenstein et al. 1999;Hawkey 2000を参照のこと)。
【0003】
多くの努力のうちわずかのみが、NSAID誘発性の消化不良および/または有害イベントのリスクを低減することに成功している(概説としては、Rostom, Dube et al. 2002;Hooper, Brown et al. 2004を参照)。NSAIDの胃腸管毒性は、安定なプロスタグランディン誘導体ミソプロストール(Silverstein 1998)や、オメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害剤(Ekstrom, Carling et al. 1996)の同時投与、およびより低い程度においては、ラニチジン(Zantac)などのヒスタミンH2受容体アンタゴニストの同時投与によって低減することができる。ミソプロストールは酸の分泌を抑制し、粘液および絨毯酸塩の分泌を増強し、粘膜の血流を改善する。しかし、ミソプロストールはNSAID関連消化不良を低減せず、また複数の1日用量が必要であり、下痢などの副作用とそれに頻回に付随する腹部疼痛および痙攣を有する(Raskin, White et al. 1995))。プロトンポンプ阻害剤は、合併症のない胃潰瘍の病歴を有する患者においてNSAID潰瘍の発症率を低下するが、臨床的に重要な結果、すなわち死亡率、再出血または手術の必要性などには影響を与えない(Dorward, Sreedharan et al. 2006)。
【0004】
ある医師らは、ミソプロストールおよびプロトンポンプ阻害剤などの保護剤の同時投与は、NSAIDユーザーに過少利用されていると考えている(Goldstein 2004)。これについて考えられる理由は、付加される費用、追加の薬剤それ自体の副作用、およびミソプロストールの場合には頻繁な投与の必要性である。さらに、患者および多くの医師は、重篤な副作用の脅威を過小評価し勝ちであり、これはNSAIDが、大多数のNSAIDユーザーにおいてはかかる有害なイベントを引き起こさないからである。
【0005】
「NSAID問題」に対する理想的な解決策は、胃腸管副作用の少ないNSAIDである。かかる化合物を見つけ出すチャンスは、少ないように見える。その理由は、シクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害が有利な効果と不利な効果の両方に役割を果たしており、20世紀後半に開発された多くのNSAIDのいずれもが、胃腸管への毒性から離れられないように見えるためである。しかし、NSAIDの研究は、第2シクロオキシゲナーゼアイソフォーム(COX−2)の発見および、現在しばしばCOXIBと呼ばれる(Needleman and Isakson 1997; Flower 2003)選択的COX−2阻害剤の開発により目覚しく変化した。2つのCOXアイソフォームについての、健康および疾患での最初の研究は、NSAIDの有利な効果は、誘導性アイソフォームであるCOX−2の阻害により、一方胃腸管での副作用は、構成的に発現されるアイソフォームであるCOX−1の阻害によることが示唆された。この見解は、現在では過剰に単純化されたものであることが知られているが、COXIBは期待される特性を有した。これらは、疼痛および炎症を低減させることについて伝統的なNSAID同様に効果的であり、同時に動物およびヒトにおける胃腸管に対し、明らかにより毒性が少ない(McMurray and Hardy 2002; de Leval, Julemont et al. 2004)。COXIBは直ちに数十億ドルの薬剤となった。COXIBの炎症性疾患および他の原因による疼痛の処置のための使用に加えて、新しい効能が考えられ、特にアルツハイマー病(McGeer 2000)、素因を有する患者における結腸癌の予防(Prescott and Fitzpatrick 2000; Jacobs, Thun et al. 2007)、および病的血管新生に関連する状態(Jones, Wang et al. 1999))などである。
【0006】
COXIBにはCOX−1がないため、COXIBは血栓症を抑制せず、したがってアスピリンについて良好に確立された心臓保護効果は有さない。さらに、COXIBの臨床試験により、これらの新規なNSAIDは心臓保護的でないだけでなく、心血管イベントのリスクを増加させることが示された(Howard and Delafontaine 2004; Juni, Nartey et al. 2004)。この所見により、ロフェコキシブ(Vioxx)と他のCOXIBは市場から撤退した(Topol 2004)。現在、一般的に異なるNSAIDおよび特にCOXIBによる、有効効果と副作用の割合については、多くの不確実性が存在する(Rahme and Nedjar 2007; Rostom, Muir et al. 2007; Salinas, Rangasetty et al. 2007)。
【0007】
NSAIDの安全性を増加させる別の戦略は、酸化窒素(NO)放出部分をNSAIDに付加することである。COXIBがNSAIDの最終完成体ではないとの認識により、NO−NSAIDがさらに注目を集めた。動物実験において、これらの化合物についての有望な結果が得られた。NO−NSAIDは親NSAIDに比べて、より少ない胃腸管副作用と、同じかまたはさらに改善された有益な効果を有した(概説については、Bandarage and Janero 2001; Keeble and Moore 2002; Fiorucci and Antonelli 2006を参照)。予備臨床試験の結果は、初期の臨床試験で確認された。内視鏡検査により、NO−アスピリン(Fiorucci, Santucci et al. 2003)またはNO−ナプロキセン(Wilder-Smith, Jonzon et al. 2006)を摂取したボランティアまたは患者において、それぞれ等モル用量のアスピリンおよびナプロキセンを摂取した人と比べて、少ない胃十二指腸びらんと出血性病変が明らかにされた。これらの所見に基づき、NO−NSAIDの使用は、伝統的なNSAIDより有害性の少ないイベント(すなわち、出血または穿孔)をもたらすことが期待される。
【0008】
現在、NO−ナプロキセンおよびNO−アスピリンは、それぞれ変形性関節症患者および2型糖尿病患者の処置について、進行期臨床開発中である(Fiorucci and Antonelli 2006)。種々の臨床におけるNO−NSAID適用が、幾つかの特許でクレームされている(WO1995009831;US5700947;US5621000;US5861426;US6040341;US6242432 B1)。酵素処理後にNO−NSAIDから生成されたNOは、NSAID介在性の損傷に対して、胃粘膜を保護すると考えられる。NOは胃の微小循環中の血流を増加し、白血球の内皮細胞への付着を阻害し、内皮細胞および上皮細胞のアポトーシスを阻害し、および粘液分泌を増加する(Elliott and Wallace 1998)。
【0009】
NO−NSAID戦略には2つの潜在的な欠点がある。第1に、NO供与群は有機硝酸塩におけるものと同じであるため、NO−NSAIDでの処置は約8時間の不応期をもたらし、この間、内因性および外因性のNOが非効果的のまま残る;これは硝酸塩耐性と呼ばれる現象である(Miller and Megson 2007; Minamiyama, Takemura et al. 2007)。事実、NO−アスピリンとニトログリセリンの間の交差耐性が観察された(Grosser and Schroder 2000)。第2に、ニトログリセリンおよびニトロプルシドなどのNO供与薬剤から生成されたNOは、変異原性であることが知られている(Birnboim and Privora 2000)。NOの変異原性は、これら薬剤の心血管適用にはほとんど関係しないが、これは、NO−NSAIDの、関節炎および糖尿病などの慢性疾患の処置における長期の使用を除外する可能性がある。
【0010】
一酸化炭素(CO)は、NO同様に、重要な生物学的シグナリング分子である。ヒトの身体で生成された一酸化炭素の多くは、2つのアイソフォームで生じるヘムオキシゲナーゼによる、ヘムの酸化に由来する。1つのアイソフォーム(HO−2)は、血管系および脳などの特定組織において構成的に発現される;他のアイソフォーム(HO−1)は、広範囲の内因性および外因性の刺激により誘導される(概説は、Maines 1997を参照)。これらの酵素により産生されたCOは、血管拡張性、抗凝血性、抗炎症性および神経伝達機能を有する。動物実験において、低用量のCOの吸入は種々の病的状態に有益な効果を有し、これらの多くは、炎症および虚血再灌流疾患に関連する(Ryter and Otterbein 2004)。同様の有益な効果が、CORMとして知られているCO放出分子の投与により達成された(概説はMotterlini, Mann et al. 2003を参照)。内因性に産生されたCOおよび治療的に投与されたCOの効果の元にある、細胞および分子メカニズムはよく理解されておらず、その主な理由は、COおよび他のメディエーターが関与するシグナルの複雑なネットワークのため、および、細胞および組織におけるCOレベルを正確に測定することの困難さのためである。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、NSAIDの胃腸管副作用を予防するための、一酸化炭素(CO)の使用を開示する。
本発明の1側面により、COの使用がクレームされる。使用は、NSAIDまたはアルコール誘発性の胃腸管副作用、例えば胃潰瘍の処置のための医薬の製造における、COの使用である。1つの態様において、COは溶解ガスの形態であり、これは担体錯体中に捕捉されていてもいなくてもよい。他の重要な態様において、COは、例えばCORMなどのプロドラッグの形態である。重要な態様においては、CORMはCO含有有機金属錯体または有機化合物である。多数のCORMが本明細書に記載され、本発明の実践に好適である。
【0012】
本発明の他の態様により、方法が提供される。方法は、NSAIDまたはアルコール誘発性の胃腸管副作用、例えば胃潰瘍を抑制するための方法である。方法は、かかる抑制が必要な対象に有効量のCOを投与することを含む。1つの重要な態様において、対象は、炎症、疼痛、発熱、血栓塞栓症、動脈管開存症、バーター症候群、癌、病的血管新生に関連する状態、乾癬、アルツハイマー病、および/またはショックに対してNSAID療法を受けている。1つの重要な態様において、対象は、炎症に対してNSAID療法を受けている。1つの重要な態様において、対象は、疼痛に対してNSAID療法を受けている。1つの重要な態様において、対象は、炎症状態以外の状態に対してNSAID療法を受けている。
【0013】
本発明のこの側面の前述の任意の態様において、COは、ガスまたはCORMとして投与可能である。1つの重要な態様において、CORMはCO含有有機金属錯体である。1つの重要な態様において、CORMは有機化合物である。CORMは、任意の薬学的に許容し得る様式で製剤化することができる。1つの好ましい態様において、CORM(またはガス)は、例えば経口的に胃へなど、局所的に送達される。1つの態様において、CORMは、胃および/または十二指腸の粘膜表面に結合する担体と共に製剤化される。1つの態様において、CORMは、アルギン酸塩溶液中で送達される。
本発明のこの側面の前述の任意の態様において、方法は、対象にNSAIDを投与することをさらに含むことができる。NSAIDは、CORMまたはガスとは別に投与してよく、またはNSAIDは、CORMまたはガスと混合することもできる。1つの態様において、NSAIDは、好ましくは可消化リンカー(digestible linker)を介して、CORMに共有結合的に複合化されている。
【0014】
本発明の他の側面により、NSAIDまたはアルコール誘発性の胃腸管副作用、例えば胃潰瘍を抑制するための方法が提供される。方法は、NSAID療法を受けている対象に、NSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍を抑制する目的で、有効量のCOを摂取するよう指示することを含む。1つの重要な態様において、対象は、炎症、疼痛、発熱、血栓塞栓症、動脈管開存症、バーター症候群、癌、病的血管新生に関連する状態、乾癬、アルツハイマー病、および/またはショックに対してNSAID療法を受けている。1つの重要な態様において、対象は、炎症に対してNSAID療法を受けている。1つの重要な態様において、対象は、疼痛に対してNSAID療法を受けている。1つの重要な態様において、対象は、炎症状態以外の状態に対してNSAID療法を受けている。
【0015】
本発明のこの側面の前述の任意の態様において、患者に、COをガスとしてまたはCORMとして摂取するよう指示することができる。1つの態様において、CORMはCO含有有機金属錯体である。1つの態様において、CORMは有機化合物である。CORMは、任意の薬学的に許容し得る様式で製剤化することができる。1つの好ましい態様において、CORM(またはガス)は、例えば経口的に胃へなど、局所的に送達される。1つの態様において、CORMは、胃および/または十二指腸の粘膜表面に結合する担体と共に製剤化される。1つの態様において、CORMは、アルギン酸塩溶液中で送達される。
本発明のこの側面の前述の任意の態様において、方法は、対象にNSAIDを摂取するよう指示することをさらに含むことができる。NSAIDは、CORMまたはガスとは別に投与してよく、またはNSAIDは、CORMまたはガスと混合することもできる。1つの態様において、NSAIDは、好ましくは可消化リンカーを介して、CORMに共有結合的に複合化されている。
【0016】
本発明の他の側面により、対象を、NSAIDまたはアルコール誘発性の副作用、例えば胃潰瘍を抑制するために処置する方法が提供される。方法は、対象に対して、CORMを含むパッケージを提供すること、および、対象に対して、CORMがNSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍の抑制用であることを指示する表示を提供すること、を含む。1つの重要な態様において、対象は、炎症、疼痛、発熱、血栓塞栓症、動脈管開存症、バーター症候群、癌、病的血管新生に関連する状態、乾癬、アルツハイマー病、および/またはショックに対してNSAID療法を受けている。1つの重要な態様において、対象は、炎症に対してNSAID療法を受けている。1つの重要な態様において、対照は、疼痛に対してNSAID療法を受けている。1つの重要な態様において、対照は、炎症状態以外の状態に対してNSAID療法を受けている。
【0017】
本発明のこの側面の前述の任意の態様において、CORMは、CO含有有機金属錯体または有機化合物であることができる。CORMは、任意の薬学的に許容し得る様式で製剤化することができる。1つの好ましい態様において、CORMは、例えば経口的に胃へなど、局所的に送達されるように製剤化される。1つの態様において、CORMは、胃および/または十二指腸の粘膜表面に結合する担体と共に製剤化される。1つの態様において、CORMは、アルギン酸塩溶液中に製剤化される。
【0018】
本発明のこの側面の前述の任意の態様において、方法はさらに、対象にNSAIDを提供すること、および/または、患者にNSAIDを摂取するよう指示する表示を提供することができる。1つの重要な態様において、患者に、NSAIDが、炎症、疼痛、発熱、血栓塞栓症、動脈管開存症、バーター症候群、癌、病的血管新生に関連する状態、乾癬、アルツハイマー病、および/またはショックに対することを指示する表示を提供する。1つの態様において、表示は、NSAIDは炎症に対すること、または疼痛などの炎症状態以外の状態に対することを指示する。NSAIDは、CORMまたはガスとは別に投与してもよく、またはNSAIDは、CORMまたはガスと混合することもできる。1つの態様において、NSAIDは、好ましくは可消化リンカーを介して、CORMに共有結合的に複合化されている。
【0019】
本発明の他の側面により、医療処置用製品が提供される。製品は、CORMを含み、かつCORMがNSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍の抑制用であることを指示する表示を含む、パッケージである。1つの態様において、CORMはボトルに入っている。1つの態様において、表示はボトルのラベル上にある。
本発明のこの側面の前述の任意の態様において、CORMは、CO含有有機金属錯体または有機化合物であることができる。CORMは、任意の薬学的に許容し得る様式で製剤化することができる。1つの好ましい態様において、CORMは、例えば経口的に胃へなど、局所的に送達されるように製剤化される。1つの態様において、CORMは、胃および/または十二指腸の粘膜表面に結合する担体と共に製剤化される。1つの態様において、CORMは、アルギン酸塩溶液中に製剤化される。
【0020】
本発明のこの側面の前述の任意の態様において、パッケージは、NSAIDを、および任意に、患者に対してNSAIDを摂取するよう指示する表示を、さらに含むことができる。1つの重要な態様において、NSAIDは、炎症、疼痛、発熱、血栓塞栓症、動脈管開存症、バーター症候群、癌、病的血管新生に関連する状態、乾癬、アルツハイマー病、および/またはショックに対するものである。1つの態様において、表示は、NSAIDは炎症に対すること、または疼痛などの炎症状態以外の状態に対することを指示する。NSAIDは、CORMとは別の容器内にあってよく、またはNSAIDは、CORMと同一の容器で混合することもできる。1つの態様において、NSAIDは、好ましくは例えばエステル結合などの可消化リンカーを介して、CORMに共有結合的に複合化されている。
【0021】
いくつかの態様において、COは、CORMなどの経口的に投与されたプロドラッグから、胃腸管内で生成されることが理解される。プロドラッグは、適切な剤形によって、上部胃腸管などの胃腸管の種々の場所を標的とすることができる。プロドラッグはまた、胃および十二指腸の粘膜表面に結合する標的分子に結合することができる。
本発明の他の側面により、方法が提供される。方法は、NSAIDまたはアルコール誘発性の胃腸管副作用、例えば胃潰瘍を抑制するためのものである。方法は、かかる抑制が必要な対象に、内因性の一酸化炭素産生を、ヘムオキシゲナーゼ1の発現を誘発することにより増加させる剤の有効量を投与することを含む。1つの態様において、剤は、経口経路により、好ましくは上部胃腸管を標的として、投与される。剤は、該剤を上部胃腸管を標的とする別の剤と共に、または別の剤に付着させて、製剤化することができる。
【0022】
前述の任意の態様において、胃腸管副作用を誘発するNSAIDは、これを引き起こす任意のかかるNSAIDであることができる。重要なNSAIDを以下に挙げる。特に重要な態様において、NSAIDは、アスピリン、非選択的シクロオキシゲナーゼ阻害剤であって、限定することなく以下を含むもの:イブプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ジクロフェナク、エトドラク、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ニメスリド;または、選択的シクロオキシゲナーゼ2阻害剤であって、限定することなく以下を含むもの:セレコキシブ、ロフェコキシブ、およびバルデコキシブである。
前述の任意の態様において、胃腸管副作用は、消化不良、胃食道逆流、胃腸管出血、穿孔、および閉塞を含むが、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、胃潰瘍の重篤度の、スコア0〜3による評価を示す。各欄にそれぞれのスコアについて3つの独立した例を示す図である。
【図2】図2は、CORM(ALF186(式I))の全身投与は、経口投与より、インドメタシン誘発性潰瘍に対してラットを保護するのに有効性が低いことを示す図である。
【0024】
表1:CORM(ALF186)による、ラットにおけるエタノール誘発性潰瘍に対する保護。
表2:CORM(ALF186)による、ラットにおけるインドメタシン誘発性潰瘍に対する保護。
表3:CORM ALF186はラットにおけるインドメタシンの抗炎症効果を妨害しない。
表4:CORM(ALF186)の全身投与は、経口投与より、インドメタシン誘発性潰瘍に対してラットを保護するのに有効性が低い。
表5:CORM(ALF186)の全身投与は、経口投与より、インドメタシン誘発性潰瘍に対してラットを保護するのに有効性が低い。
【0025】
発明の詳細な説明
驚くべきことには、我々は、エタノールまたはNSAIDによる胃潰瘍の誘発は、COの投与により予防可能であることを見出した。
全ての種類のNSAIDは対象に胃潰瘍を引き起こし得る。NSAIDはよく知られており、以下を含む:サリチル酸誘導体(例えばサリチル酸、アセチルサリチル酸、サリチル酸グリコール、サリチル酸メチル、ジフルニサル、オルサラジン、サルサラート、およびスルファサラジン)、インドールおよびインデン酢酸(例えばインドメタシン、エトドラクおよびスリンダク)、フェナメート類(例えばエトフェナミク、メクロフェナミク、メフェナミク、フルフェナミク、ニフルミクおよびトルフェナミン酸)、ヘテロアリール酢酸(例えばアセメタシン、アルクロフェナク、アンフェナク、ブロムフェナク、クリダナク、ジクロフェナク、フェンクロロフェナク、フェンチアザク、フロフェナク、イブフェナク、イソキセパク、ケトロラク、オキシピナク、チオピナク、トルメチン、ジドメタシン、およびゾメピラク)、アリール酢酸およびプロピオン酸誘導体(例えばアルミノプロフェン、ベノキサプロフェン、ブクロキス酸、カルプロフェン、フェンブフェン、フェノプロフェン、フルプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドプロフェン、ケトプロフェン、ミロプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、ピルプロフェン、プラノプロフェン、スプロフェン、チアプロフェン酸、およびチオキサプロフェン)、エノール酸(例えばオキシカム誘導体アンピロキシカム、シンノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、ピロキシカム、スドキシカム、およびテノキシカム、およびピラゾロン誘導体アミノピリン、アンチピリン、アパゾン、ジピロン、オキシフェンブタゾン、およびフェニルブタゾン)、アルカノン(例えばナブメトン)、ニメスリド、プロカゾン、MX−1094、リコフェロン、3−アミノ−4−ヒドロキシブチル酸、ブロモサリゲニン、ブマジゾン、ジタゾール、エンフェナム酸、エトフェナメート、フェンドサール、フェプラジノール、フルフェナミン酸、ゲンチジン酸、グルカメタシン、メクロフェナミン酸、メフェナミン酸、メサラミン、ニフルミン酸、オルサラジン、オキサセプロール、S−アデノシルメチオニン、およびトルフェナミン酸。
【0026】
NSAIDはまた、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)阻害剤も含み、例えば以下である:セレコキシブ、シミコキシブ、デラコキシブ、エトリコキシブ、ルミラコキシブ、メロキシカム、オンコノキシブ、パレコキシブ、ロフェコキシブ、チルマコキシブ、バルデコキシブ、PAC−10549、GW−406381、LAS−34475、またはCS−502。多数の選択的COX−2阻害剤が、米国特許第5,474,995号;第5,521,213号;第5,536,752号;第5,550,142号;第5,552,422号;第5,604,253号;第5,604,260号;第5,639,780号;第5,677,318号;第5,691,374号;第5,698,584号;第5,710,140号;第5,733,909号;第5,789,413号;第5,817,700号;第5,849,943号;第5,861,419号;第5,922,742号;第5,925,631号に記載されている。追加のCOX−2阻害剤は、米国特許第5,643,933号にも記載されている。
上記のCOX−2阻害剤の多くは、選択的COX−2阻害剤のプロドラッグであり、活性な選択的COX−2阻害剤へのin vivoにおける転換により、その作用を示す。上で同定されたCOX−2阻害剤プロドラッグから形成された活性な選択的COX−2阻害剤は、1995年1月5日に公開のWO 95/00501、1995年7月13日に公開のWO 95/18799、および1995年12月12日発行の米国特許第5,474,995号にも詳細に記載されている。
【0027】
重要な態様において、COは、アスピリン、非選択的シクロオキシゲナーゼ阻害剤であるイブプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ジクロフェナク、エトドラク、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、および/またはニメスリド、または、選択的シクロオキシゲナーゼ2阻害剤であるセレコキシブ、ロフェコキシブ、および/またはバルデコキシブ、またはこれらの組合せによる治療を受けている対象において、胃潰瘍を抑制するために用いる。
本発明は、対象における、NSAID療法により引き起こされる胃腸管副作用の抑制が関与し、これには、限定することなく消化不良、胃食道逆流、胃腸管出血、穿孔、および閉塞を含む。1つの重要な態様において、胃腸管副作用は胃潰瘍である。
【0028】
本明細書において、対象はヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、およびげっ歯類を意味する。対象はNSAIDを、急性的に、長期に、または慢性的に摂取してよい。例えば、対象はNSAIDを、1日1回、または1日複数回、1、2、3、4、5、6、7日または8日以上にわたり摂取してよい。対象はNSAIDを、1日1回、または1日複数回、1、2、3、4、5、6、7、8週または9週以上にわたり摂取してよい。対象はNSAIDを、1日1回、または1日複数回、1、2、3、4、5、6月または7月以上にわたり摂取してよい。同様に、対象は、NSAIDをかかる期間に間歇的に、例えば1日おき、数日おき、または「必要に応じて」摂取してよい。本明細書において、「長期」とは、毎日1回または間歇的な使用を、1週間に少なくとも3回で、少なくとも1ヶ月続けることを意味し、「慢性的」とは、毎日1回または間歇的な使用を、1週間に少なくとも3回で、少なくとも6ヶ月続けることを意味する。
【0029】
NSAIDは、種々の状態に対して摂取して、種々の結果を達成することができる。例えばNSAIDは、その抗炎症特性により、炎症状態の処置のために処方され用いられる。本明細書において、炎症状態とは、移植の拒絶反応;関節の慢性炎症性疾患、例えば関節炎、関節リューマチ、若年性特発性関節炎、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、変形性関節症および骨再吸収の増加に関連する骨疾患;炎症性腸疾患、例えば回腸炎、潰瘍性大腸炎、バレット症候群、およびクローン病;炎症性肺疾患、例えばぜん息、成人呼吸逼症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、または慢性閉塞性気道疾患;眼の炎症性疾患、例えば角膜眼内炎、トラコーマ、オンコセルカ症、ブドウ膜炎、交感性眼炎、および眼内炎;歯肉の慢性炎症性疾患、例えば歯肉炎および歯周炎;結核;ハンセン病;
【0030】
腎臓の炎症性疾患、例えば尿毒症性合併症、糸球体腎炎、およびネフローゼ;肝臓の炎症性疾患、例えばウイルス性肝炎および自己免疫性肝炎;皮膚の炎症性疾患、例えば硬化性皮膚炎、乾癬、紅斑、湿疹、または接触性皮膚炎;中枢神経系の炎症性疾患、例えば脳卒中、神経系の脱髄疾患、多発性硬化症、AIDS関連神経変性およびアルツハイマー病、感染性髄膜炎、脳脊髄炎、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症およびウイルス性または自己免疫性脳炎;自己免疫疾患、例えば糖尿病、免疫複合体性血管炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE);心臓の炎症性疾患、例えば心筋症、虚血性心疾患、高コレステロール血症、およびアテローム性動脈硬化症;および種々の疾患、例えば子癇前症、慢性肝不全、脳および脊髄外傷、および癌から生じる炎症を意味する。本明細書に記載のようにして処置可能な炎症性疾患は、身体の全身性炎症もさらに含む。全身性炎症の例としては、グラム陽性菌またはグラム陰性菌ショック、敗血症、敗血症ショック、出血性またはアナフィラキシーショック、および全身炎症反応症候群が挙げられるが、これに限定されない。炎症性疾患の更なる例には、循環性ショック、出血ショックおよび心原性ショックを含む。
【0031】
NSAIDはまた、その抗炎症特性から独立したその鎮痛特性により、疼痛の処置に用いることができる。特にNSAIDは、神経障害性疼痛、急性疼痛、慢性疼痛、術後疼痛、急性および慢性腰痛、頭痛、頚部疼痛、群発性頭痛、月経(月経困難症)、腎臓結石(腎疝痛)、捻挫または緊張から生じる疼痛、ヘルペス神経痛、幻肢痛、中心性疼痛、歯痛、抵抗性疼痛(resistant pain)、内臓痛、手術痛、骨損傷痛、陣痛および出産の間の痛み、火傷の痛み、日焼けの痛み、分娩後疼痛、偏頭痛、狭心痛、泌尿生殖路関連痛、および/または侵害受容性疼痛の処置に用いることができる。
【0032】
NSAIDはまた、発熱、血栓塞栓症、動脈管開存症、バーター症候群、癌、病的血管新生に関連する状態、乾癬、アルツハイマー病、およびショックを処置するのに用いることができる。
COは、NSAID誘発性胃腸管副作用を抑制するために投与される。COの投与については、当分野に種々の方法が知られている。COは、例えばガスとして、液体中に溶解されたもしくは担体中に捕捉されたガスとして、または一酸化炭素放出分子プロドラッグ(CORM)として、投与してよい。
【0033】
ガスとして送達されるCOについては、WO 03000114 A3;US 2002/0155166 A1;WO 2004/043341 A2;US 2004/0052866 A1;WO/096977 A2;WO03/072024 A2;US 2003/0219496 A1;WO 03103585 A2およびUS 2005/0048133 A1に記載されている。
CORMによるCOの治療的送達は、WO 2005013691 A1;US 2003/068387A1;WO 2004/0445599;WO03066067A2;US 2004/067261A1およびUS Pat 7,011,854に記載されている。
担体タンパク質を含有するヘムによるCOの治療的送達は、WO9422482に記載されている。
【0034】
当分野で知られているように、NSAIDはCORMに共有結合的に複合化することができる。この例では、NSAIDは好ましくはリンカーによりCORMに付着しており、該リンカーは、化学結合または短い(C6〜12)有機分子、好ましくはイムルエント(immuluent)リンカーである。胃で消化される好適な化学結合としては、エステル結合およびアミド結合が挙げられる。したがって本発明は、例えばエステル結合により一緒に複合化された、上記のNSAIDおよびCORMの共有結合複合体(covalent conjugate)を意図する。
【0035】
CORMの特定の例としては、以下のクラスの1つからの化合物を含む:
クラス1−CO含有の有機金属錯体。かかる化合物は、生理学的に適合する支持体中に溶解することができる。
クラス2−少なくとも他の薬学的に重要な分子に結合した、CO含有有機金属錯体。例えば、前記薬学的に重要な分子は、担体または薬物(例えば抗炎症剤)である。さらに、CO含有有機金属錯体と少なくとも他の薬学的に重要な分子は、任意に適切なスペーサーにより結合されている。
クラス3−CO含有有機金属錯体から作られた超分子集合体であって、任意に、例えばシクロデキストリン宿主および/または他の適切な無機もしくは有機支持体中に封入されているもの。
【0036】
クラス4−例えば多座(polidentate)リガンドなとのリガンドを含む、CO含有無機錯体であって、可逆的CO担体として機能するNおよび/またはSドナーを含むもの。
クラス5−例えば多座リガンドなどのリガンドを含むCO含有無機錯体であって、可逆的CO担体として機能するNおよび/またはSドナーを含み、少なくとも別の薬学的に重要な分子に結合しているもの。例えば、薬学的に重要な分子は、担体または薬物(例えば抗炎症剤)である。さらに、CO含有有機金属錯体と少なくとも別の薬学的に重要な分子は、任意に適切なスペーサーにより結合されている。
【0037】
クラス6−COを、酵素過程または脱カルボニル化により放出する有機化合物。かかる化合物は、生理学的に適合可能な支持体に溶解できる。
クラス7−COを酵素過程または脱カルボニル化により放出する有機化合物、例えばジクロロメタンであって、シクロデキストリン宿主および/または他の適切な無機もしくは有機支持体中に任意に封入されているもの。
【0038】
クラス1−生理学的に適合可能な支持体中に溶解された、CO含有の有機金属錯体
このクラスの化合物は、生理学的媒体中へのその溶解性を、または膜および生体分子もしくは組織とのその適合性を改善するために設計された、単純な18個電子の有機金属カルボニル錯体またはその修飾物を含む。用いることのできる金属は、COリガンドを適切に結合する、生物学的に活性な第1列遷移金属(V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu)および第2列(Mo、Ru、Rh、Pd)および第3列元素(W、Re、Pt、Au)である。これらの化合物の多くは、シクロペンタジエニルリガンド(Cp)またはその誘導体(インデニル、CpR5など)を含み、ここではCpR(X)と略すが、これは上記の修飾を可能とし、金属中心に、対応するより高い反応性の制御と共にいくらかの立体保護を賦与する。ほとんどの錯体における金属の酸化状態は、生物学的条件下において通常見られるものと似ており、これによってCO放出後の代謝を促進する。
【0039】
以下に続いて挙げた例において、用語「擬似ハロゲン化物」とは、ハロゲン化物と等電性のモノアニオン性リガンドに与えられた一般名称であり、例えば、チオシアネート、シアネート、シアン化物、アジドなどである。用語「ヒドロカルビル鎖」とは、脂肪族CHおよび/または芳香族残基を含む炭化水素基の一般名称であり、例えば(CH、n=2、3など、または(CH、(C、CCHなどである。アルキルは、脂肪族炭化水素鎖の基に与えられた一般名称であり、例えばメチル、エチルなどである。アリールは、芳香環の基に与えられた一般名称であり、例えばフェニル、トリル、キシリルなどである。具体的な例は、米国特許第7,011,854号に示されている。例としては以下を含む:
【0040】
【化1】

【0041】
【化2】

【0042】
【化3】

【0043】
【化4】

【0044】
より高い生物学的適合性および溶解性に改善するために、いくつかの修飾が考えられる。1つの好ましい可能性は、カルボン酸、ペプチド、または糖誘導体を、シクロペンタジエニル部分に結合することである。例では、1つのMn錯体について示す;同様の誘導体を、他の金属を含む化合物、およびインデニルおよび他のCpR(X)誘導体について、作製することができる。
【化5】

【0045】
クラス1の化合物のさらなる態様は、以下を含む:
[Mo(CO)Y]Q
式中、Yは臭化物、塩化物またはヨウ化物であり;および
Qは、[NR1〜4であり、
この式中、R、R、R、およびRは互いに独立してアルキルである。
本明細書において、用語「アルキル」は、C〜C12飽和炭化水素鎖を意味し、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、またはn−ドデシルである。1つの態様において、アルキルはC〜CまたはC〜C飽和炭化水素鎖である。上記化合物の具体的な例は、WO 2007/073226に詳細に示されている。
【0046】
クラス1の化合物の他の態様は、以下を含む:
[Mo(CO)Y]Q
式中、Yは臭化物、塩化物またはヨウ化物であり;および
Qは、[NRであり、遊離であるか、または1つの環式ポリエーテル分子または1もしくは2以上の非環式ポリエーテル分子と錯体化しており、または、
Na、K、Mg2+、Ca2+またはZn2+であり、ここで各々は、遊離であるか、または1つの環式ポリエーテル分子または1もしくは2以上の非環式ポリエーテル分子と錯体化しており、
式中、各Rは独立してHまたはアルキルである。
【0047】
環式ポリエーテル分子はクラウンエーテルを含むが、これに限定されない。いくつかの態様において、環式ポリエーテルは、18−クラウン−6系または15−クラウン−5系のクラウンエーテルを含む。1または2以上の非環式ポリエーテルは、ポリエチレングリコール型のもの、および式RO(CHCHO)(式中、RおよびRは、各々独立してHまたはアルキルであり、nは1以上である)のものである。非環式ポリエーテル分子は、薬学的に許容し得るグリコール、またはモノ−もしくはジアルキルポリエチレングリコールの範囲にある。
【0048】
Qが遊離である場合、Qは、モリブデン錯体または静電力(イオン力)によるモリブデン錯体以外の任意の分子構造とは結合(associated)しない。Qが1つの環式ポリエーテル分子と錯体化する場合、または1もしくは2以上の非環式ポリエーテル分子と錯体化する場合、これらの錯体化カチオン性実体は、静電力結合により1または2以上のモリブデンアニオン錯体と結合する。Qが非環式ポリエーテルと錯体化する場合、イオン構造は、1つのモリブデン錯体または複数のモリブデン錯体と、非環式ポリエーテルとNRもしくは金属カチオンとの間に形成される錯体との間の相互作用から生じる。NRまたは金属カチオンは、可変数であるが確定した制御可能な数の、非共有結合の非環式ポリエーテル分子を有し、異なる同質異象または溶媒和物を生じさせる。1つの態様において、NRまたは金属カチオンは、12個までの非環式ポリエーテル分子を同時に非共有結合的に結合する。
【0049】
本明細書において、用語「アルキル」は、C〜C12飽和炭化水素鎖を意味し、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、またはn−ドデシルである。1つの態様において、アルキルはC〜CまたはC〜CまたはC〜C飽和炭化水素鎖である。
いくつかの態様においては、Qは1つの環式ポリエーテル分子と錯体化するか、1もしくは2以上の非環式ポリエーテル分子と錯体化する。いくつかの態様において、1つの環式ポリエーテル分子は、18−クラウン−6系または15−クラウン−5系のクラウンエーテルを含む。他の態様において、Qは、エチレングリコールまたはポリエチレングリコール型鎖の4〜12個の酸素原子からなる配位圏における、1または2以上の非環式ポリエーテルにより錯体化される。さらに他の態様において、Qは、6個、8個、または12個の非環式ポリエーテル分子により錯体化される。他の態様において、Qは、3個の非環式ジエーテルにより錯体化される。さらなる態様において、Qは、1、2、または3個のポリエーテル分子と共に錯体化される。
【0050】
いくつかの態様において、Qは、式RO(CHCHO)(式中、RおよびRは、各々独立してHまたはアルキルであり、nは1以上である)の、1つより多い非環式ポリエーテル分子と共に錯体化され、ポリエーテル分子は、薬学的に許容し得るポリエチレングリコール、またはモノ−もしくはジアルキルポリエチレングリコールの範囲にある。さらなる態様において、Qが式RO(CHCHO)の1より多いエーテルと錯体化する場合、ポリエーテル分子のRおよびRの各々は、独立してHまたはアルキルであり、したがって式RO(CHCHO)のポリエーテルの各々は異なっていてもよく、およびRまたはRの各々は、他のポリエーテル分子内のRまたはRと異なっていてもよい。
【0051】
さらなる態様において、特定の非環式エーテルは、モノグライム、ジグライム、トリグライム、PEG400、PEG1000、PEG2000、PEG3000およびPEG4000、およびメチルPEG4000を含むが、これに限定されない。
上記化合物の具体的な例は、WO 2007/073225に示されている。例は以下を含む:
【化6】

【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
クラス2−他の薬学的に重要な分子に結合したCO含有有機金属錯体。
このクラスの化合物は、両者が有益な効果を有する2つの生物学的に活性な分子の組合せから生じる、相乗効果を活用する。かかる薬物−薬物複合体の例は、米国特許第6,051,576号に記載されている。
概念図
【化9】

【0054】
上記のスペーサーは、次の仕様のもとで種々の官能基(functions)を含む:直線状の炭化水素鎖における「n」の値は整数であり、より具体的には1、2、3、4である:Xは芳香環における置換基についての一般記号であり、すなわち、アルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、ハロゲン原子、チオラートであり;「ぺプチド鎖」は、1〜4の範囲の天然アミノ酸の短鎖を示し;「糖」とは、適切な保護により保護または修飾された単糖類、二糖類、または多糖類を用いて、親油性の増加および/または薬物−薬物複合分子の化学的安定性を保証することを意味し、例えばエステル、アセタール、およびシリル誘導体などの保護基である。
【0055】
前の節で与えられたXの定義は、次のスキームに示す主要な例のいくつかのように、Xが直接金属に結合している場合には、カルボン酸塩およびアミノ酸に拡張可能である。
主要例:
【化10】

【0056】
【化11】

【0057】
【化12】

【0058】
【化13】

【0059】
化合物の第2グループは、金属に直接結合した生物活性分子、例えばアスピリン、ジホスホネートなどを含み、これらはいくつかの異なる様式で実現可能であり、これについては、例えばいくつかの鉄およびモリブデンシクロペンタジエニルカルボニルの場合について、以下に概略が示されている。用語「ヒドロカルビル鎖」は、脂肪族CHおよび/または芳香族残基を含む炭化水素基の一般名称であり、例えば(CH、n=2、3などまたは(CH、(C、CCH等である。
【0060】
【化14】

【0061】
【化15】

【0062】
クラス3:CO含有有機金属錯体から作られた、封入超分子集合体。
生体内への薬物の制御送達は重要な問題であり、特に、全身的または高い局所濃度にて存在する場合に望ましくない毒性作用を有する薬物の場合は重要である。COの放出は高濃度で毒性となり得るため、潜在的な問題である(上記参照)。ある用途に対しては、血液または特定の標的組織へのCOのゆっくりした放出が望ましい。毒性でない宿主分子内への封入は、生体内での活性薬物の持続放出を実現する1つの方法である。この戦略は、潜在的に毒性である薬物の、濃度および/または利用可能性の急激な増加から生じ得る、望ましくない効果を最小化する。
【0063】
シクロデキストリンは、多くの薬物および有機分子に対するよく知られた宿主であり、近年、有機金属分子を収容するよう適用され、生理学的障壁または膜を通過してのそれらの送達を増強した。この点に関して、シクロデキストリンは、親油性薬物の皮膚の障壁における送達を増加するのに有益であることが見出された[T. Loftsson, M. Masson, Int. J. Pharm. 2001, 225, 15]。シクロデキストリン媒介性の超分子配列は、有機金属分子を長時間保護し、その反応性をマスクし、それにより特定の剤に対するその選択性を増加させる。上記クラス1のもとで例示されている八面体単核カルボニル錯体、例えば[M(CO)0,+または[M(CO)X]0,+は小さく、β−またはγ−シクロデキストリンのキャビティ内に適合する。
上記クラス1のもとで例示されている他のカルボニル錯体の疎水性の環は、β−もしくはγ−シクロデキストリンまたは類似の構造内に適合し、ここでそのCO基が反応媒体に向き、有機リガンドがキャビティ内に埋め込まれた様式となる。結果としての反応性の低下は、治療的CO放出錯体の範囲を、カチオン性およびアニオン性のものにまで拡張することを可能とする。かかるチャージされた錯体はより反応性であり、保護されていない場合には、中性のものよりも早くCOを失う。
【0064】
リポソームおよび他の高分子ナノ粒子凝集体もまた、CO放出有機金属錯体の送達を標的化するための、有用な担体であり、シクロデキストリンとかかる凝集体を組み合わせた使用は、薬物放出の非常に期待できる可能性であると考えられている[D. Duchene, G. Ponchel, D. Wouessidjewe, Adv. Drug Delivery Rev. 1999, 36, 29]。
概念的例
【化16】

【0065】
いくつかの例は、次のような有機金属分子を含む:(C6−x)M(CO)(M=Cr、Mo、W);(CpR)M(CO)X(M=Cr、Mo、W);(CpR)M(CO)X(M=Fe、Ru);(CpR)M(CO)(M=Co、Rh)、この式中、RはH、アルキル、または他の小官能基、例えばメトキシド、ハロゲン化物、カルボン酸エステルなどである。
他の例としては、修飾シクロデキストリン中のMn(CO)Brおよび[Mn(CO)Br]NEtの封入体(encapsulate)、2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン(TRIMEBとしても知られている)が挙げられる。これらの封入体は、当分野で良好に確立された方法により調製される。例えば、ジクロロメタン中のMn(CO)Brおよび[Mn(CO)Br]NEtの溶液を、市販のヘプタキス−2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン(trimeb)の溶液に約3時間撹拌しつつ加える。産物は、溶媒を乾燥するまで蒸発させた後に得られる。包含物の化学量論は1:1であり、化合物は結晶化の水を保持し、これは化学的分析により定量が可能である(Mn(CO)Brについての参考文献は、Herrmann-Brauer (1997), Bromo(pentacarbonyl)manganese, Synthetic Methods of Organometallic and Inorganic Chemistry (ed. Herrmann, W. A. Stuttgart);[Mn(CO)Br]NEtについての参考文献は、Burgmayer, S. J. N. & L., T. J. (1985), Tetraethylammonium molybdenum pentacarbonyl bromide.Inorganic Chemistry 24, 2224-2230)。
【0066】
メソ多孔体は、良好に規定された孔径の空洞やチャネルを生成する原子の、無限の配列を有する、化学的に不活性な3次元分子である。これらの分子は、それらの孔内に有機または有機金属分子を収容するのに好適である。生体液の存在のもとで、孔の内壁と酸−塩基および/または極性相互作用を行う小さな分子は、含有された薬物をゆっくりと移動させ、活性成分の制御送達をもたらす。かかる凝集体は、M41S材料から上記系1で示したものなどの有機金属分子を用いて調製される。例としては、MCM−41(線形チューブ)およびMCM−48(空洞および孔)を含む。
【0067】
クラス4−可逆的CO担体として機能するNおよび/またはSドナーを含むリガンドを有する、CO含有無機錯体。
大環状リガンドを正8面体配位圏の赤道面上に有する古典的な無機錯体は、ヘモグロビンと同様の様式で、COを可逆的に結合することが知られている。COを結合する能力の向きを、COに対してトランスである大環状および付属(ancilliary)リガンドの両方の性質により「逆転させる」ことができる。同様の挙動が、ポルフィリン大環よりもはるかに単純なリガンドであって、ヘモグロビンおよび他のヘム含有タンパク質におけるCOアクセプター部位である前記リガンドを有する、他のFe(II)錯体についても報告されている。好適なCO送達薬物を開発するために、後者の種類の非ヘム錯体が、生物学的ヘム担体との干渉、ヘム代謝、およびヘムもしくはヘム様分子の潜在的毒性などを避けるために選択された。選択された錯体は、2座のNドナー(ジアミン、ジグリオキシム)または、アミノチオールもしくはシステインなどの、生物学的に重要な2座のN、Sドナーを有する。付属リガンドは、これも生物学的に重要なNドナーであり、例えばイミダゾール、ヒスチジンその他である。錯体は、水性媒体中に溶解する。
【0068】
次の例においては、ピリジンの用語は、CN環(ピリジン)の誘導体であって、アルキル(R)、アルコキシ(OR)、カルボキシ(C(O)OR)、ニトロ(NO)、ハロゲン(X)、C5炭素環(例えばCHN、ONCN)の1または2以上の位置に直接結合する置換基を有する、前記誘導体を指す。アミノ−チオールは、炭化水素骨格(例えばHNCHCHSH、1,2−C(NH)(OH))に結合するNH(アミノ)およびSH(チオール)官能基の両方を有する化合物を指す。同様の定義をアミノアルコールに適用でき、これにより、SH官能基を、OH(アルコール)官能基で置き換える。アミノ酸の用語は、模式的に示すように、NHおよびCOO官能基により2座の様式において配位結合された、天然の単一のアミノ酸を意味する。
【0069】
グリオキシムは、2座のNドナーであって、2個のN原子を結合する炭素鎖上にアルキルまたはアリール置換基を有するものを意味し、これはジアリールグリオキシムについての次の最初の例に示すとおりである。ジイミンは、ジグリオキシムのOH基がアルキルまたはアリール基により置き換えられている、類似の構造を示す。このリガンドのファミリーの拡張には、2,2’−ビピリジン、例えば2,2’−ジピリジルおよびフェナントロリンを含む。
【0070】
例:
【化17】

【0071】
クラス5−可逆的CO担体として機能するNおよび/またはSドナーを含むリガンドを有する、CO含有無機錯体であって、他の薬学的に重要な分子への結合により修飾されているもの。
上記のクラス2の化合物について概説されたアイディアに従って、クラス4として記載された新しいCO担体の種類であって、ただし、適切なスペーサーを介して生物学的に活性な他の分子にリガンドを結合することにより修飾されているものが調製された。
【0072】
例:
【化18】

【0073】
【化19】

【0074】
クラス6−酵素過程または脱カルボニル化のどちらかによりCOを放出する有機物質
脱カルボニル化は、有機化学における非常に一般的な種類の反応ではないという事実にも関わらず、いくつかの有機化合物は、その性質に応じて塩基、酸、またはラジカル開始剤のいずれかによる処置で、COを遊離することが知られている。これらの物質は次のグループに分類される:酸性条件化において、一般形態CHX’4−(n+y)(Xおよび/またはX’=F、Cl、Br、I)のポリハロメタン、トリクロロ酢酸およびその塩、その有機および無機エステルおよびスルフィン酸塩、トリアリールカルボン酸、ギ酸、シュウ酸、α−ヒドロキシ酸およびα−ケト酸、そのエステルおよび塩;酸性触媒のもとで、トリアルキルおよびトリアルコキシベンズアルデヒド;例えば過酸化物または光などのラジカル開始剤による脂肪族アルデヒド。ポリハロメタンについて、nおよびyの値は次のように変化する:n=0に対してy=1、2、3、4;n=1に対してy=1、2、3;n=2に対してy=1、2;n=3に対してy=1。上記の例において、用語「塩」は、所与のプロトン酸、すなわちカルボン酸塩と、主族元素イオン、すなわちNa、Kとの共役塩基のイオン性誘導体に適用される。アルキルは、脂肪族炭化水素鎖基に与えられた一般名称であり、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル等である。アルキル基は、分枝または直鎖であることができる。アリールは、芳香環基に与えられた一般名称であり、例えばフェニル、トリル、キシリル等である。アリール基は、典型的には約6個〜約10個の炭素原子を有する。エステルは、官能基−C(O)OR(式中R=アルキル、アリール)に与えられた一般名称である。
【0075】
初めの2つの分類はジクロロカルベンを生成し、これは、生理学的条件下でCOに代謝される。ジクロロメタンの場合、チトクロームP−450が、in vivoでの遊離化に役割を果たすことが示された。
第3グループの化合物は、酸性触媒のもとでCOを放出し、アリール置換パターンに感受性である。これはまた、第4のグループにもあてはまる可能性が高く、これには、トリアルキルおよびトリアリール置換アルデヒドを含む。アリール環の強く活性化された基は、COの遊離化を酸性条件下で生じさせる可能性が高い。より重要なことには、酸化物または光による誘発される、ラジカルが開始する脂肪族アルデヒドの分解は、非常にマイルドな条件下でCOを生成する。芳香環上の置換基(アルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ)の数である「n」の値は0〜5の間で変化し、好ましくは1、2または3である。
【0076】
例:
【化20】

【0077】
CORMアルデヒドの他の例は、
【化21】

を含み、
式中、R、RおよびRは互いに独立して、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、アルキルヘテロシクリル、置換アルキルヘテロシクリル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルキルアリール、置換アルキルアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、メルカプト、アルキルメルカプト、アリールオキシ、置換アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、置換ヘテロアリールオキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、F、Cl、Br、NO、およびシアノから選択され;または、R、RおよびRの2個または3個以上は、一緒になって置換または非置換の炭素環式または複素環式環構造を形成する。
【0078】
「アルキル」とは、20個までの炭素原子を有する、直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基を意味し、「置換アルキル」とは、以下から選択される1または2以上の置換基を有するアルキル基を意味する:アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、アリール、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、F、Cl、Br、NO、シアノ、スルホニル、スルフィニル、および当業者に知られている類似の置換基。「シクロアルキル」とは、1または2以上の環を含み、3〜12個の範囲の炭素原子を有する、飽和ヒドロカルビル基を意味し、「置換シクロアルキル」とは、上記の1または2以上の置換基をさらに有する、シクロアルキル基を意味する。「ヘテロシクリル」とは、1または2以上の環であって、1または2個以上のヘテロ原子(例えばN、OまたはS)を含む1または2以上の環を環構造の一部として含み、3〜12個の範囲の環原子を有する、環状基を意味し、「置換ヘテロシクリル」とは、上記の1または2以上の置換基をさらに有する、ヘテロシクリル基を意味する。「アルキルヘテロシクリル」とは、アルキル置換ヘテロシクリル基を意味し、「置換アルキルヘテロシクリル」とは、上記の1または2以上の置換基をさらに有する、アルキルヘテロシクリル基を意味する。
【0079】
「アルケニル」とは、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有し、および2〜20個の範囲の炭素原子を有する、直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基を意味し、および「置換アルケニル」とは、上記の1または2以上の置換基をさらに有する、アルケニル基を意味する。「アリール」とは、6個から約14個までの範囲の炭素原子を有する芳香族基を意味し、および「置換アリール」とは、上記の1または2以上の置換基をさらに有する、アリール基を意味する。「ヘテロアリール」とは、1または2個以上のヘテロ原子(例えばN、OまたはS)を環構造の一部として含み、および5個から約13個までの範囲の炭素原子を有する、芳香族基を意味し、および「置換ヘテロアリール」とは、上記の1または2以上の置換基をさらに有する、ヘテロアリール基を意味する。「アルキルアリール」とは、アルキル置換アリール基を意味し、および「置換アルキルアリール」とは、上記の1または2以上の置換基をさらに有する、アルキルアリール基を意味する。
【0080】
「ヒドロキシ」とは、基OHを意味する。「アルコキシ」とは、基−ORを意味し、式中、Rは上記定義のアルキル基である。「アミノ」とは、基NHを意味する。「アルキルアミノ」とは、基−NHRまたは−NRR’を意味し、式中RおよびR’は、独立して上記定義のアルキルまたはシクロアルキル基から選択される。「メルカプト」とは、基SHを意味する。「アルキルメルカプト」とは、基S−Rを意味し、式中、Rは上記定義のアルキルまたはシクロアルキル基を表わす。「アリールオキシ」とは、基−OArを意味し、式中、Arは上記定義のアリール基であり、および「置換アリールオキシ」とは、上記の1または2以上の置換基をさらに有する、アリールオキシ基を意味する。「ヘテロアリールオキシ」とは、基−OHtを意味し、式中、Htは上記定義のヘテロアリール基であり、および「置換ヘテロアリールオキシ」とは、上記の1または2以上の置換基をさらに有する、ヘテロアリールオキシ基を意味する。「アルコキシカルボニル」とは、基−C(O)−ORを意味し、式中、Rは上記定義のアルキル基である。
【0081】
「アシル」とは、基−C(O)−Rを意味し、式中、Rは、上記定義のH、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、または置換ヘテロアリールである。「アシルオキシ」とは、基−O−C(O)−Rを意味し、式中、Rは、上記定義のH、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、または置換ヘテロアリールである。「アシルアミノ」とは、基−NR’C(O)Rを意味し、式中、RおよびR’は、各々独立して、上記定義のH、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリールから選択される。「アルキルスルホニル」とは、基−S(O)Rを意味し、式中、Rは、上記定義のアルキルまたはシクロアルキル基を表わす。「アルキルスルフィニル」とは、基−S(O)Rを意味し、式中、Rは、上記定義のアルキルまたはシクロアルキル基を表わす。
【0082】
CORMアルデヒドの非限定的な例には、以下が含まれる:
【化22】

【0083】
【化23】

【0084】
アルデヒドの脱カルボニル化について知られている最も一般的な反応は、厳しい条件、例えば強い酸性または塩基性条件、高温と共に、紫外線、ラジカル開始剤、および/または金属触媒の存在(Jerry March, Advanced Organic Chemistry, Reactions, Mechanisms and Structure, John Wiley & Sons, 4th Ed., 1992)などを必要とする。しかし、高度に分枝状のアルデヒドは、紫外線による照射の場合には室温で脱カルボニル化されることが観察された(Berman et al., J. Am. Chem. Soc., 85:4010-4013 (1963); Conant et al., J. Am. Chem. Soc. 51:1246-1255 (1929))。第三級アルデヒドからの一酸化炭素の損失は、第三級ラジカルを導き、これは、超共役による共鳴安定化のために、第一級または第二級ラジカルよりも安定である。超共役は、隣接する空の(または部分的に充填された)p−軌道またはπ−軌道とのσ−結合(通常、C−HまたはC−C)における、電子の相互作用から生じる安定化を含み、これは系の安定性を高める拡張された分子軌道を与える。したがって、脱カルボニル化は、第一級または第二級アルデヒドに比べて第三級アルデヒドにおいて好都合である。
【0085】
任意の特定の理論に束縛されることなく、以下の式1は、第三級アルデヒドの脱カルボニル化に対して提唱された活性酸素種によるメカニズムを示し(トリメチルアセトアルデヒド(化合物1)による例)、一酸化炭素および安定化第三級ラジカルを生成する:
【化24】

【0086】
したがって、ある態様において、アルデヒドは第三級アルデヒドである。かかる態様において、アルデヒドは上記式IIで表される化合物であって、式中、R、RおよびRは互いに独立して、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、アルキルヘテロシクリル、置換アルキルヘテロシクリル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルキルアリール、置換アルキルアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、メルカプト、アルキルメルカプト、アリールオキシ、置換アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、置換ヘテロアリールオキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、F、Cl、Br、NO、およびシアノから選択され;または、R、RおよびRの2個または3個以上は、一緒になって置換または非置換の炭素環式または複素環式環構造を形成する。
【0087】
いくつかの場合において、例えば、治療用アルデヒドのin vivo安定性、バイオアベイラビリティ、または薬学動態的特性を改善するために、アルデヒドを誘導体の形態またはその保護形態において投与する。誘導体は、in vivoで遊離または未修飾のアルデヒドの給源として作用し、および/またはin vivoでCOそれ自体を放出する。ある態様において、プロドラッグとして作用するアルデヒド誘導体が生成され、これは薬理学的に不活性な化学的実体であり、動物中で化学的に変換または代謝されると、薬理学的に活性な物質に変換される。プロドラッグからの治療的に有効な分子(すなわちアルデヒド)の発生は、体内の作用部位に到達する前、その間、またはその後に起こる(Bundgaard et al., Int. J. Pharm. 13:89-98 (1983))。プロドラッグからのアルデヒドの放出は、一般に、身体系における化学的または酵素的不安定性(lability)を、またはその両方を介して生じる。
【0088】
化学的に不安定なアルデヒドプロドラッグの例は、限定することなく、以下を含む:生理学的媒体中に平衡状態で存在する非環状鎖化合物、例えばマンニッヒ塩基誘導体、イミン、オキシム、アミジン、ヒドラゾンおよびセミカルバゾン(WO 2006/012215; Herrmann et al., Chem. Commun. 2965-2967 (2006); Deaton et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 16:978-983 (2006))、および例えば1,3−X,N−複素環(X=O、S、NR)などの環状鎖互変異性プロドラッグであって(Valters et al., Adv. Heterocycl. Chem 64:251-321 (1995); Valters et al., Adv. Heterocycl. Chem. 66:1-71 (1996))、二官能性化合物とアルデヒドとの反応から調製されるもの。これら誘導体の環状鎖平衡から、開形態は加水分解を受けて生活性分子を生じる。両方の場合において、これらの系の平衡に関与する種の割合は、置換基の立体的および電子的特性に強く影響される。
【0089】
代替的戦略は、酵素過程により薬理学的に活性な化合物に変換されるプロドラッグを生成することである(Bernard Testa & Joachim M. Mayer, Hydrolysis in Drug and Prodrug Metabolism, Chemistry, Biochemistry and Enzymology WILEY-VCH, 2003)。数種類の化学群があり、例えば、エステル、アミド、硫酸塩およびリン酸塩であり、これらはそれぞれ、エステラーゼ、アミナーゼ、スルファターゼ、およびホスファターゼにより容易に切断される。薬理学的に活性なアルデヒドは、アシルオキシアルキルエステル、N−アシルオキシアルキル誘導体、N−マンニッヒ塩基誘導体、N−ヒドロキシメチル誘導体等を含む種々の化合物上で、エステラーゼおよびアミダーゼの反応によって放出される。いくつかの場合において、プロドラッグがアルデヒド生成酵素について劣等な基質である場合には加水分解を促進するために、担体を電子求引性または電子供与性基で修飾する。
【0090】
当業者に認識されているように、有機アルデヒドは、アルデヒドを化学的に保護する種々の反応を受ける。非限定的例により、種々の態様において、有機アルデヒドを、対応する次の物質に変換することにより保護する:アセタール、ヘミアセタール、アミノカルビノール、アミナール、イミン、エナミノン、イミデート、アミジン、イミニウム塩、亜硫酸水素ナトリウム付加物、ヘミメルカプタール、ジチオアセタール、1,3−ジオキセパン、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキサラン、1,3−ジオキセタン、α−ヒドロキシ−1,3−ジオキセパン、α−ヒドロキシ−1,3−ジオキサン、α−ヒドロキシ−1,3−ジオキサラン、α−ケト−1,3−ジオキセパン、α−ケト−1,3−ジオキサン、α−ケト−1,3−ジオキサラン、α−ケト−1,3−ジオキセタン、大環状エステル/イミン、大環状エステル/ヘミアセタール、オキサゾリジン、テトラヒドロ−1,3−オキサジン、オキサゾリジノン、テトラヒドロ−オキサジノン、1,3,4−オキサジアジン、チアゾリジン、テトラヒドロ−1,3−チアジン、チアゾリジノン、テトラヒドロ−1,3−チアジノン、イミダゾリジン、ヘキサヒドロ−1,3−ピリミジン、イミダゾリジノン、テトラヒドロ−1,3−ピリミジノン、オキシム、ヒドラゾン、カルバゾン、チオカルバゾン、セミカルバゾン、セミチオカルバゾン、アシルオキシアルキルエステル誘導体、O−アシルオキシアルキル誘導体、N−アシルオキシアルキル誘導体、N−マンニッヒ塩基誘導体、またはN−ヒドロキシメチル誘導体。次の式2〜12における例示のスキームはまた、どれだけのかかるプロドラッグが、活性アルデヒドをin vivoで(例えば、加水分解または酵素加水分解により)放出するかを示す。
【0091】
ある態様において、保護有機アルデヒドはイミンである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばDeaton et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 16: 978-983 (2006)、またはWO2006/012215に記載の方法により、式2に示すように有機アルデヒドとアミンとの反応によって得ることを認識する。
【化25】

この式中、R、RおよびRは独立して、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、アルキルヘテロシクリル、置換アルキルヘテロシクリル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルキルアリール、置換アルキルアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、メルカプト、アルキルメルカプト、アリールオキシ、置換アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、置換ヘテロアリールオキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、F、Cl、Br、NO、およびシアノから選択され;または、R、RおよびRの2個または3個以上は、一緒になって置換または非置換の炭素環式または複素環式環構造を形成し;および
【0092】
R’は、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリールおよび置換ヘテロアリールから選択される。
他の態様において、保護有機アルデヒドはイミニウム塩である。当業者は、かかる誘導体を種々の方法により、例えばPaukstelis et al., J. Org. Chem. 28:3021-3024 (1963)に記載の方法により、式3に示すように有機アルデヒドと二級アミン塩との反応によって得られることを認識する。
【化26】

この式中、R、R、RおよびR’の各々は、式2について上で定義されたとおりであり;
R”は、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリールおよび置換ヘテロアリールから選択され;
およびXは、任意の好適な薬学的に許容し得る対アニオンを表し、例えば塩化物、臭化物、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、または任意の他の非毒性の生理学的に適合可能なアニオンである。
【0093】
他の態様において、保護有機アルデヒドはヒドラゾンである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えば米国特許第6,518,269号および4,983,755号に開示された方法により、式4に示すように有機アルデヒドとヒドラジンとの反応によって調製されることを認識する。
【化27】

この式中、R、R、RおよびR’の各々は、式2について上で定義されたとおりである。
さらに他の態様において、保護有機アルデヒドはカルバゾンである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばHerrmann et al., Chem. Commun. 2965-2967 (2006)に記載された方法により、式5に示すように有機アルデヒドとヒドラジド(またはアシルヒドラジン)との反応によって得られることを認識する。
【化28】

この式中、R、R、RおよびR’の各々は、式2について上で定義されたとおりである。
【0094】
他の態様において、保護有機アルデヒドはセミカルバゾンまたはチオセミカルバゾンである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばDeaton et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 16:978-983 (2006)に記載された方法により、または米国特許第6,458,843号に開示された方法により、例えば式6におけるように有機アルデヒドとセミカルバジンまたはチオセミカルバジンとの反応によって得られることを認識する。
【化29】

この式中、R、R、R、R’およびR”の各々は、式2および3について上で定義されたとおりである。
【0095】
さらに他の態様において、保護有機アルデヒドはオキシムである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばReymond et al., Org. Biomol. Chem. 2:1471-1475 (2004)または米国特許出願第2006/0058513号に記載された方法により、式7に示すように有機アルデヒドとオキソアミンとの反応によって得られることを認識する。
【化30】

この式中、R、R、RおよびR’の各々は、式2について上で定義されたとおりである。
【0096】
他の態様において、保護有機アルデヒドはアセタールまたはヘミアセタールである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えば、式8に示すようにアルデヒドと1または2以上のアルコールとの反応によって調製できることを認識する。
【化31】

この式中、R、R、RおよびR’の各々は、式2について上で定義されたとおりである。
【0097】
さらに他の態様において、保護有機アルデヒドはα−ヒドロキシ−1,3−ジオキセパン(またはα−ヒドロキシ−1,3−ジオキサンまたはα−ヒドロキシ−1,3−ジオキサラン)である。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばWO03/082850に開示された方法により、式9に示すようにヒドロキシ置換有機アルデヒドと他のアルデヒドとの反応によって得られることを認識する。
【化32】

この式中、R、RおよびRの各々は、式2について上で定義されたとおりであり;RおよびRの各々は独立して、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、アルキルヘテロシクリル、置換アルキルヘテロシクリル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルキルアリール、置換アルキルアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、メルカプト、アルキルメルカプト、アリールオキシ、置換アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、置換ヘテロアリールオキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、F、Cl、Br、NO、およびシアノから選択され;または、RおよびRは、一緒になって置換または非置換の炭素環式または複素環式環構造を形成し;およびnは1、2または3である。
【0098】
式9に示す反応は、化合物が一緒に(1:1)室温まで冷却された時に自然に起きる、エネルギー的に有利な環化(二量化)である。加熱されると(例えば生理学的温度に)、これらは再度分離する。化合物4は、室温に冷却すると二量体を形成する化合物の例である。
さらに他の態様において、保護有機アルデヒドはα−ケト−1,3−ジオキセパン(またはα−ケト−1,3−ジオキサン、α−ケト−1,3−ジオキサランまたはα−ケト−1,3−ジオキセタン)である。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばXu et al., Tet. Lett., 46:3815-3818 (2005)またはKrall et al., Tetrahedron 61:137-143 (2005)に記載された方法により、式10に示すように、有機アルデヒドとヒドロキシ酸との反応により、保護アルデヒドを形成して得られることを認識する。
【化33】

この式中、R、RおよびRの各々は、式2について上で定義されたとおりであり;およびnは0、1、2、または3である。
【0099】
他の態様において、保護有機アルデヒドは大環状エステル/イミンである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えば米国特許第6,251,927号に記載された方法により、式11に示すように、ヒドロキシ置換有機アルデヒドと式HOOC−(CH−NHの化合物との反応により、保護アルデヒドを形成して得られることを認識する。
【化34】

この式中、RおよびRは、式2について上で定義されたとおりであり;nは0、1または2であり;およびmは1または2である。
【0100】
式11で形成された化合物の加水分解は、イミンを介した化学的加水分解により、またはエステル基を介した酵素加水分解により生じる。
他の態様において、保護有機アルデヒドは大環状エステル/ヘミアセタールである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えば米国特許第6,251,927号に記載された方法により、式12に示すように、ヒドロキシ置換有機アルデヒドと式HOOC−(CH−OHの構造を有するヒドロキシ酸との反応により、保護アルデヒドを形成して得られることを認識する。
【化35】

この式中、R、R、mおよびnは、式11について上で定義されたとおりである。
【0101】
式12で形成された化合物の加水分解は、ケタールを介した化学的加水分解により、またはエステル基を介した酵素加水分解により生じる。
さらに他の態様において、保護有機アルデヒドはチアゾリジンまたはテトラヒドロ−1,3−チアジンである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばJellum et al., Anal. Biochem. 31:339-347 (1969)、Nagasawa et al., J. Biochem. Mol. Tox. 16:235-244 (2002)、Roberts et al., Chem. Res. Toxicol. 11:1274-82 (1998)または米国特許第5,385,922号に記載された方法を用いて得られることを認識する。本明細書に記載のようにして用いることが意図される、あるチアゾリジンおよびテトラヒドロ−1,3−チアジンは、式III:
【化36】

により表され、この式中、R、R、RおよびRの各々は独立して、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、アルキルヘテロシクリル、置換アルキルヘテロシクリル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルキルアリール、置換アルキルアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、アルキルアミノ、メルカプト、アルキルメルカプト、アリールオキシ、置換アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、置換ヘテロアリールオキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、F、Cl、Br、NO、およびシアノから選択され;または、R、RおよびRの1個または2個以上は、一緒になって置換または非置換の炭素環式または複素環式環構造を形成し;
【0102】
Aは、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルキルアリール、置換アルキルアリール、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、アシルアミノ、アルキルスルホニルおよびアルキルスルフィニルから選択され;およびnは1または2である。
他の態様において、保護有機アルデヒドはオキサゾリジンまたはテトラヒドロ−1,3−オキサジンである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばBundgaard et al., Int. J. Pharma. Chem. 10:165-175 (1982)、Selambarom et al., Tetrahedron 58:9559-9556 (2002)または米国特許第7,018,978号に記載された方法を用いて得られることを認識する。本明細書に記載のようにして用いることが意図される、あるオキサゾリジンおよびテトラヒドロ−1,3−オキサジンは、式IV:
【化37】

により表され、この式中、R、R、R、RおよびAおよびnの各々は、式IIIについて上に記載されたとおりである。
【0103】
さらに他の態様において、保護有機アルデヒドはイミダゾリジンまたは1,3−ヘキサヒドロ−ピリミジンである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばLambert, J. Org. Chem. 52:68-71 (1987)またはFueloep, J. Org. Chem. 67:4734-4741 (2002)に記載された方法を用いて得られることを認識する。本明細書に記載のようにして用いることが意図される、あるイミダゾリジンおよび1,3−ヘキサヒドロ−ピリミジンは、式V:
【化38】

により表され、この式中、R、R、R、R、n、およびAの各々は(それぞれの場合に独立して選択され)、式IIIについて上に記載されたとおりである。
【0104】
さらに他の態様において、保護有機アルデヒドはイミダゾリジノンである。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばBundgaard et al., Int. J. Pharma. Chem. 23:163-173 (1985)に記載された方法を用いて得られることを認識する。本明細書に記載のようにして用いることが意図される、あるイミダゾリジノンは、式VI:
【化39】

により表され、この式中、R、R、RおよびAの各々は(それぞれの場合に独立して選択され)、式IIIについて上に記載されたとおりである。
【0105】
他の態様において、保護有機アルデヒドはアシルオキシアルキルエステルまたはO−アシルオキシアルキル誘導体である。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばNudelman et al., Eur J. Med. J. Chem. 36: 63-74 (2001)、Nudelman et al., J. Med. Chem. 48:1042-1054 (2005)またはスウェーデン特許第SE9301115号に記載された方法を用いて得られることを認識する。本明細書に記載のようにして用いることが意図される、あるアシルオキシアルキルエステルは、式VII:
【化40】

により表され、この式中、R、R、およびRの各々は、式IIIについて上に定義されたとおりであり、およびR’およびR”の各々は独立して、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリールおよび置換ヘテロアリールから選択される。ある態様において、代謝加水分解によりin vivoで活性なアルデヒドを放出することに加えて、アシルオキシアルキルエステル誘導体はまた、酪酸も放出する。酪酸プロドラッグは、水溶性の増加および細胞膜に渡る透過性の増加を提供することが報告されている(Nudelman et al., Eur J. Med. J. Chem. 36: 63-74 (2001))。
【0106】
他の態様において、保護有機アルデヒドはN−アシルオキシアルキル誘導体である。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばBundgaard et al., Int. J. Pharm. 22:454-456 (1984)およびBundgaard et al., Int. J. Pharm. 13:89-98 (1983)に記載された方法を用いて得られることを認識する。本明細書に記載のようにして用いることが意図される、あるN−アシルオキシアルキル誘導体は、式VIII:
【化41】

により表され、この式中、R、R、R、R’およびR”の各々は、式IIIおよびVについて上に記載されたとおりであり;R”’は、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリールおよび置換ヘテロアリールから選択される。
【0107】
他の態様において、保護有機アルデヒドはN−アシルオキシアルキル誘導体の塩である。当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばBodor et al., J. Med. Chem. 23:469-474 (1980)または米国特許第3,998,815号に記載された方法を用いて得られることを認識する。本明細書に記載のようにして用いることが意図される、あるN−アシルオキシアルキル誘導体は、式IX:
【化42】

により表され、この式中、R、R、R、R’、R”およびR”’の各々は、式VIについて上に定義されたとおりであり;
【0108】
R””は、H、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アルケニル、置換アルケニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリールおよび置換ヘテロアリールから選択され;および
Xは、式3について上に記載したように、好適な薬学的に許容し得る対アニオンを表す。
さらに他の態様において、保護有機アルデヒドは5−オキサゾリジノンである。
【0109】
当業者は、かかる誘導体は種々の方法で、例えばBundgaard et al., Int. J. Pharma. Chem. 46:159-167 (1988)またはIshai-Ben, J. Am. Chem. Soc. 79:5736-38 (1957)に記載された方法を用いて得られることを認識する。本明細書に記載のようにして用いることが意図される、ある5−オキサゾリジノンは、式X:
【化43】

により表され、この式中、R、R、R、およびAの各々は、式IIIについて上に記載されたとおりである。
【0110】
クラス7−COを酵素過程または脱カルボニル化により放出する封入有機化合物
この系は、クラス6で記載されたものと同一の分子を含むが、ただしそれらを、宿主(ホスト)−ゲスト超分子、リポソーム、シクロデキストリン、およびナノカプセル封入凝集物を作製することができる他の高分子材料などの中に封入したものである。
COのその他の給源は以下を含む:トリカルボニルジクロロルテニウム(II)二量体、CORM−2(Sigma)およびトリカルボニルクロロ(グリシネート)ルテニウム(II)、CORM−3(Johnson, T. R. et al. Dalton Trans, 1500-8 (2007))。
【0111】
COは、単独で、医薬組成物中で、または他の治療法と組み合わせて投与してよい。COおよび他の治療剤(単数または複数)は、同時にまたは順番に投与してよい。他の治療剤を同時に投与する場合、それらは同じ製剤において、または別の製剤において投与することができるが、しかし同時に投与される。他の治療剤とCOの投与が時間的に離れている場合は、他の治療剤は、互いにまたCOと、順番に投与してよい。これら化合物の投与間の時間における分離は、分単位またはそれより長くてよい。
【0112】
製剤:
本発明の実践に有用な組成物は、薬学的に許容し得る担体と共に医薬組成物として、非経口投与または経腸投与、または局所もしくは局在性投与のために製剤化することができる。例えば、本発明の実践に有用な組成物は、経口製剤として固体または液体形態で、または静脈内、筋肉内、皮下、経皮、または局所製剤として、投与することができる。局所送達用の経口製剤が好ましい。
【0113】
組成物は一般に、薬学的に許容し得る担体と共に投与される。本明細書において用いる場合、用語「薬学的に許容し得る担体」とは、1または2種以上の、適合性の固体、もしくは半固体もしくは液体の増量剤、希釈剤、またはカプセル封入物質であって、ヒトまたは他の哺乳類、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、もしくはヤギなどへの投与に好適な物質を意味する。用語「担体」とは、有機または無機の天然または合成成分であって、その活性成分が組み合わさって用途を促進するものを表す。担体は、本発明の調製物と、および相互に、所望の薬学的有効性または安定性を実質的に損なう相互作用が生じない様式で、混合することができる。経口、皮下、静脈内、筋肉内等の製剤に好適な担体は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Paに見出すことができる。
【0114】
経口投与のために薬学的に許容し得る担体は、カプセル、錠剤、ピル、散剤、トローチ、および顆粒を含む。固体剤形の場合、担体は、スクロース、ラクトースまたはデンプンなどの不活性希釈剤を少なくとも1種含むことができる。かかる担体はまた、通常の実践におけるのと同様に、希釈剤以外の追加の物質、例えばステアリン酸マンガンなどの潤滑剤も含むことができる。カプセル、錠剤、トローチおよびピルの場合、担体はまた、緩衝剤も含むことができる。錠剤、ピル、および顆粒などの担体は、錠剤、ピル、または顆粒の表面上のコーティングと共に調製することができ、これにより、胃腸管での医薬組成物の放出の時期および/または位置を制御する。いくつかの態様において、担体はまた、活性組成物を胃腸管の特定領域に標的化し、また、当分野で知られているように、活性成分を特定の領域に保持することもできる。代替的に、被覆された化合物は、錠剤、ピル、または顆粒に押圧することができる。薬学的に許容し得る担体は、経口投与用の液体剤形、例えば乳濁液、液体、懸濁液、シロップ、エリキシル剤であって、水などの当分野で一般に用いられている不活性希釈剤を含有するものを含む。かかる不活性希釈剤に加えて、組成物はまた、アジュバントを含むことができ、例えば湿潤剤、乳化剤、および懸濁剤、および甘味剤、香味剤などである。
【0115】
本発明の医薬調製物は、粒子として提供してもよい。本明細書において、粒子とは、ナノ粒子または微小粒子(またはいくつかの例ではそれより大きい粒子)であって、本明細書に記載の末梢オピオイドアンタゴニストまたは他の治療剤(単数または複数)によって、その全体またはその一部が構成されているものである。粒子は、限定することなく腸溶コーティングを含むコーティングにより囲まれたコアの中に、治療剤(単数または複数)を含むことができる。治療剤(単数または複数)はまた、粒子全体に分散されていてもよい。治療剤(単数または複数)はまた、粒子内に吸着されていてもよい。粒子は任意次数の放出動態力学のものであってよく、0次放出、1次放出、2次放出、遅延放出、持続放出、即時放出、およびこれらの任意の組合せを含む。粒子は、治療剤(単数または複数)に加えて、薬学および医学の分野で日常的に用いられている任意の材料を含むことができ、これには、侵食可能な、非侵食の、生分解性の、もしくは非生分解性の材料またはこれらの組合せを含むが、これに限定されない。粒子は、溶液中の、または半固体状態のアンタゴニストを含むマイクロカプセルであってよい。粒子は、実質的に任意の形状であってよい。
【0116】
非生分解性および生分解性の両方の高分子材料を、治療剤(単数または複数)を送達するための粒子の製造において用いることができる。かかるポリマーは、天然または合成ポリマーであってよい。ポリマーは、放出が望まれる時間に基づいて選択される。特に興味ある生体接着ポリマーとしては、H.S. Sawhney, C.P. Pathak and J.A. Hubell in Macromolecules, (1993) 26:581-587に記載の生侵食可能なヒドロゲルを含み、この教示は本明細書に組み込まれる。これらは以下を含む:ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリアンヒドリド、ポリアクリル酸、アルギン酸塩、チトサン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、およびポリ(オクタデシルアクリレート)。
【0117】
静脈内投与用の薬学的に許容し得る担体としては、薬学的に許容し得る塩または糖を含有する溶液が挙げられる。筋肉内または皮下注射用の薬学的に許容し得る担体としては、塩、油または糖が挙げられる。
酸性形態で用いる場合、本発明の化合物は、酸の薬学的に許容し得る塩の形態において用いることができる。溶媒、水、緩衝液、アルカノイル、シクロデキストリンおよびアラルカノールなどの担体を用いることができる。他の助剤、非毒性剤も含んでよく、例えば、ポリエチレングリコールまたは湿潤剤である。
【0118】
本発明に記載の薬学的に許容し得る担体および化合物は、患者への投与のための単位剤形に製剤化される。単位用量における、活性成分(すなわち本発明の化合物)の用量レベルは、投与の所望の方法に従って治療効果を達成する有効な活性成分の量を得るために、変化させることができる。したがって、選択された用量レベルは、活性成分の性質、投与経路、および処置の所望の期間に主に依存する。必要に応じて、単位用量は、活性成分に対する毎日の必要量が1用量であってもよく、または1日当たり例えば2〜4回などの投与のために、複数用量に分割することができる。
【0119】
好ましくは、化合物は経口投与する。好ましい用量レベルは、代表的な化合物について動物において決定される。本発明において記載される全てのCORM化合物は、身体への投与後にCOを発生する。COは胃腸管副作用のある部位において選択的に発生されるが、発生されたCOのいくらかは、赤血球中のヘモグロビンに結合する。したがって、用量設定試験は、最初は、血液中のカルボキシヘモグロビン(COHb)レベルの測定により導入される。血液中のCOHbレベルの測定方法はよく知られており、診断研究所において定期的に用いられている。健康なヒトの正常COHbレベルは、健康な非喫煙者で約0.5%から喫煙者での9%までである。本発明に記載の化合物の好ましい用量レベルは、COHbレベルの重大な上昇が観察されないレベルである。しかし、いくつかの用途においては、10%までの一時的なCOHbレベルの上昇も耐容することができる。このCOHbレベルは、任意の症状と関連するものではない。
【0120】
代表的な例として、クラス1〜4の化合物は、CO含有化合物の性質およびそのモルCO含量に依存して、5〜25mmol/日の範囲の用量において投与される。CO含有化合物の同一範囲の用量が、クラス3化合物にも適用される。クラス2および5のアスピリン複合体(conjugate)については、用量は低い120mg/日から1日10gまで変化することができ、好ましい値は成人に対して1g/日である。これらは、CO担体分子断片の性質に依存した指標となる値であり、アスピリンの用量の通常範囲に適合する。ポリハロメタンおよびクラス6の類似の化合物、例えばジクロロメタンについては、用量範囲はos当たり0.01〜10mmol/kgであり、好ましい用量レベルは0.1mmol/kgである。活性成分の同じ用量範囲が、クラス7の化合物にも適用される。
【0121】
一般に、用量は所望の薬物レベルを、局所的または全身的に達成するために適切に調節される。対象における応答がかかる用量では不十分な場合は、より高い用量(または、別のより局所的な送達経路による効果的な高い用量)を、患者の耐容が許容するまでの範囲で用いることができる。
本発明の医薬調製物は、それのみで、またはカクテル中にNSAIDと共に、または共有結合複合体として用いられる場合、治療有効量で投与される。治療有効量とは、ヒト対象などの対象を処置するのに有効な薬物(単数または複数)のレベルを確立する量である。有効量とは、その用量のみで、または複数用量で、NSAIDまたはアルコールにより引き起こされた胃腸管副作用の、および好ましくは胃潰瘍として知られている副作用の発症を遅延させる、その進行を完全に抑制または弱める、または発症もしくは進行を止めるのに必要な量である。これは、当業者に知られた日常の診断方法によりモニタリング可能である。対象に対して投与された場合、有効量は、当然ながら、エンドポイントとして選択された特定の副作用;状態の重篤度;個々の患者の、年齢、身体的条件、サイズおよび重量を含むパラメータ;同時に行う処置;処置の頻度;および投与方法などに依存する。これらの要因は当業者によく知られており、日常の実験の範囲で対処することができる。
【0122】
COは、NSAID療法と併せて投与される。これはすなわち、COがNSAID療法と十分近い時期に投与されて、NSAID療法により引き起こされる胃腸管副作用を抑制することを意味する。典型的には、COはNSAIDと同時に、またはNSAID療法と同じ日に投与される。COはNSAID療法の前に、またはこれに続いて、例えばNSAID療法の1〜2日前または1〜2日後に、投与してよいことが理解される。
【0123】
本発明の他の側面により、医療用製品が提供される。医療用製品はCORMを含有するバイアル、および任意に、NSAIDを含有するバイアルを含む。医療用製品はまた、CORMがNSAID療法の胃腸管副作用を抑制するためであることを示す表示も含む。表示は、CORMを含有するバイアル上に添付されたラベル、またはCORMを含有するバイアルを含むパッケージ内のラベルであってよい。
本明細書で引用された任意の特許または刊行された出願の開示の全体は、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0124】
本発明は、COの、NSAIDによる障害に対して胃粘膜を保護する能力を開示する。COのこの保護効果の発見は、NSAIDによる胃潰瘍誘発を防ぐ、新しいCOに基づく治療法を形成する。保護効果は、溶解または捕捉したCOを負荷した液体または固体製剤の経口適用により、またはCOを胃で放出するCORMの経口投与により、達成することができる。以下の例は、CORM(ALF186(式I))の経口投与が、ラットにおいてCOHbレベルを上昇させることを実証する。COを放出しない、ALF186の不活性形態は、インドメタシンによる潰瘍誘発を予防できず、ALF186のインドメタシンによる潰瘍誘発を予防する能力は、ALF186から放出されるCOに媒介されることを示唆する。
【0125】
COおよびCORMについての特許および文献の従来技術は、COまたはCORMの、炎症に関連する疾患および/または虚血/再かん流障害の処置または予防のための使用を記載している。胃腸管疾患のCO関連療法についての適応症には、炎症性腸疾患(Hegazi, Rao et al. 2005)および術後イレウス(Moore, Otterbein et al. 2003)が含まれる。NSAID誘発性胃疾患は炎症性疾患ではないため、以前にはこの適応症に対して、COの使用は考えられていなかった。インドメタシン誘発性の出血病変に対して、COが胃粘膜を保護する理由は明らかではない。COは抗凝集、抗アポトーシスおよび血管弛緩性の効果を有し、これらの全ては、インドメタシン誘発性潰瘍に対して胃を保護するその能力に寄与する可能性がある。
【0126】
ALF186を、ALF186の保護的用量の経口投与後に観察されたものと同程度に高いピーク値にCOHbレベルを増加させる用量で、腹腔内適用した後には、わずかな保護しか見られなかった。この所見は、COを全身性の経路を介して(すなわち、CO吸入後)腸に送達する量は少ないとの既知の事実(Vreman, Wong et al. 2005)と関連する可能性がある。治療的に有効であるためには、COは、局所的に、胃の内腔から胃壁に投与するのが好ましい。ALF186の経口適用には、COの血液への「溢流」と、おそらく、COによる平滑筋細胞の弛緩の結果としての、胃のぜん動運動の阻害とが付随する。臨床適用に最適に有用であるために、COは胃壁の治療標的(特に上皮細胞および内皮細胞)に対し、胃の拡張や安全レベル(〜5%COHb)を超えたCOHbの上昇などの副作用を生じることなく、送達することができる。
【0127】
ALF186よりもゆっくりCOを放出するCORM、または胃液の低いpH値においてCOを選択的に放出するCORMの使用は、有利である可能性がある。CORM−A1として知られている、pH感受性化合物が、文献(Motterlini, Sawle et al. 2004)および特許(WO2005013691 A1)に記載されている。代替的に、COを放出しないが、細胞内標的にCOを与えるCORMについて、胃の標的化戦略を開発することができる。COの多くの有利な効果は、少なくとも部分的にHO−1の誘発、したがって、内因性CO産出により媒介される。したがって、胃の標的化戦略はHO−1誘発剤にも適用でき、これらの多くは植物抽出物に見出される。HO−1誘発剤の臨床使用は、多数の適応症について特許に開示されているが(US60663334;WO9609038)、HO−1の誘発は、NSAID誘発性潰瘍の予防に対しては以前に考えられていなかった。CORMまたはHO−1誘発剤とNSAIDとの同時投与は、本発明の適用である。
【0128】
他の適用は、CO放出部分が可消化スペーサーを介してNSAIDに結合している、CORM−NSAID複合体の確立および使用である。CORM−NSAID複合体は、親NSAIDよりも胃腸管副作用が少ないことが期待できる。CORMから放出されたCOは抗炎症効果を有するため、CORM−NSAID複合体もまた、炎症疾患の処置において、親NSAIDと同程度、またはそれ以上に有効であることが期待できる。事実、本発明を導いた実験において用いたCORMである、ALF186は、ラットにおいてカラゲナン誘発性の足の浮腫を低減させるのに、インドメタシンと同程度に有効であった。したがって、いくつかのCORMは、胃腸管副作用を引き起こさない点でNSAIDより優れた抗炎症薬として、有用である可能性がある。しかし、疼痛および炎症の最適な低減には、CORMとNSAIDを組み合わせた使用が必要であるかもしれない。最後に、CORM−アスピリン複合体の毎日の投与は、胃腸管での有害なイベントのリスクを増加させることなく、心臓保護に用いられる可能性がある。CORM−アスピリン複合体の代謝産物であるCOは、アスピリンによる胃腸潰瘍の誘発を抑制するのみでなく、アスピリンの心臓保護効果を、その抗凝集および抗炎症効果により、補完することができる。
【0129】
実施例
以下の例は、CORMの使用を含む:
【化44】

ALF186は、W. Beck, W. petri, J. Meder, J. Organomet. Chem., 191, 73 (1980)のオリジナルの文献の記載に従って調製した。
【0130】
例1:潰瘍は、ラットまたはマウスにおいて、エタノールまたはインドメタシンなどのNSAIDの経口または皮下適用により、容易に誘発できる。ラットにおいて、潰瘍は、インドメタシンによる処置の数時間後に、胃粘膜表面上の黒い条痕(streak)として容易に認識できる。潰瘍の重篤度のおよその推定として、病変部をグレード0、1、2および3で点数付けることができる(図1)。黒い条痕として見える出血性病変は、上皮および内皮細胞の死によって引き起こされ、これが粘膜表面での出血性潰瘍および血液の凝固をもたらしたものである。COの胃潰瘍誘発に対する効果を試験するために、モリブデン含有CORMであるALF186(式I)を用いた。この化合物は、水性媒体中に溶解すると、自然にCOを放出する。雄のSprague DawleyラットをALF186の経口経路(200mg/kg)および腹腔内経路(50mg/kg)により処置し、10分後に1mlのエタノールを与えた。ALF186による処置は、エタノールにより誘発される胃潰瘍をほぼ完全に予防した(表1)。
【0131】
表1:ラットにおけるエタノール誘発性潰瘍に対する、CORM(ALF186)による保護
【表1】

別の実験で、ラットをALF186および、iALF186と呼ばれるALF186の不活性形態で処置した。不活性化合物iALF186は、全てのCOを、室温における12時間の水中でのインキュベーションの間に放出した。インドメタシン誘発性の病変に対する保護は、ALF186で処置したラットで観察されたが、iALF186で処置したラットでは観察されなかった。
【0132】
例2:18時間水のみで食物は与えなかった雄のSprague Dawleyラットに、インドメタシンを30または80mg/kgの用量で皮下的に注入した。半数の動物には、ALF186(300mg/kg)を経口経路でインドメタシン投与の5分前に与えた。4.5時間後、これらの動物をCO2吸入により犠牲にした。結果は、ALF186による処置は、30または80mg/kgのインドメタシンにより誘発された出血性病変を完全に予防したことを示す(表2)。
【0133】
表2:ラットにおけるインドメタシン誘発性潰瘍に対する、CORM(ALF186)による保護
【表2】

追加の実験により、ALF186をインドメタシンの直前、またはインドメタシンの3時間前に投与した場合には、保護は観察されたが、インドメタシンの18時間前に投与した場合には観察されなかった。潰瘍に対する保護には、30%を超えるCOHbレベルが付随した。
【0134】
例3:ALF186がインドメタシンの抗炎症効果を妨害するかどうかを試験するために、雄のSprague Dawleyラットを18時間、水のみで食物は与えず、次に、水(ALF186に用いるビヒクル)、インドメタシン(30mg/kg、皮下)、ALF186(300mg/kg、経口)、または両方で(すなわちALF186とインドメタシン)で処置した。半時間後、全てのラットの右足に、カラゲナンの皮内注射により局所的炎症を誘発させた。ALF186による処置は、前に観察されたように、インドメタシンによる潰瘍誘発を予防するだけでなく、足の浮腫を、インドメタシンと同様に効果的に低減した(表3)。
【0135】
表3:CORMであるALF186は、ラットにおいてインドメタシンの抗炎症効果を妨害しない。
【表3】

この所見は、COのよく知られた抗炎症効果と整合する。両薬剤の組合せはそれぞれの薬剤単独と同程度に有効であったため、ALF186がインドメタシンの作用に影響する可能性は除外できないが、ただしその可能性は低い。
【0136】
例4:腹腔内経路によるALF186の全身適用が、インドメタシン誘発性潰瘍に対して任意の保護効果を有するかどうかを試験するために、雄のSprague Dawleyラットを、水のみで食物は与えず、次にインドメタシン+水またはインドメタシン+ALF186で、これらを経口経路(100mg/kg)または腹腔内経路(45または15mg/kg)で処置した。これら用量の選択は、前の実験により、腹腔内の用量45mg/kgでのALF186と、経口経路の用量100mg/kgでのALF186により、同レベルのCOHbが生成されることが示されたためである。100mg/kgでのALF186の経口投与は、インドメタシン誘発性の潰瘍を完全に予防したが、45mg/kgまたは15mg/kgの用量でのALF186の腹腔内投与は、潰瘍の発生率および重篤度に全く効果がなかった(表4)。
【0137】
表4:CORM(ALF186)の全身投与は、ラットにおけるインドメタシン誘発性の潰瘍の保護において、経口投与より有効性が低い
【表4】

続く試験において、ALF186を、単回用量を経口経路で、単回用量を腹腔内で、または3回連続用量を腹腔内投与で与えた。ALF186の腹腔内への3回の注射は、ALF186の経口適用と同程度にCOHbレベルを上昇させた。潰瘍に対する保護は、経口経路によるALF186で処置したラットでは完全であったが、ALF186の単回または複数の腹腔内用量を投与したラットにおいては、図1に示した粗ステージ0〜3の評点が示すように、明確な保護は見られなかった。しかし、病変部の長さの測定に基づく、より正確な潰瘍指標の評点方法が用いられた場合には、ALF186の3回連続腹腔内注射を受けたラットにおいて、部分的な保護が観察された(図2)。
【0138】
例5:雄のSprague Dawleyラットを、水のみで食物は与えず、次に、ALF(100mg/kg、経口)、水(ALF186のビヒクル)の経口投与により処置した。CORMによる処置の5分後に、全ラットにインドメタシンを皮下注射(80mg/kg)した。インドメタシン誘発性潰瘍に対する完全な保護が、ALF186の経口投与で処置したラットにおいて観察された。腹腔内処置したラットにおいては、部分的な保護が観察された。
【0139】
表5:CORM(ALF186)の全身投与は、インドメタシン誘発性潰瘍に対してラットを保護するのに、経口投与より有効性が低い
【表5】

前述の結果は、オリーブ油をビヒクルとしたCORMを含む他のCORMによっても、同様の実験で確認される。
【0140】
参考文献
引用された特許および参考文献のリスト:
【表6】

【0141】
【表7】

【0142】
【表8】

【0143】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
NSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍を抑制するための、かかる抑制が必要な対象に有効量のCOを投与することを含む、方法。
【請求項2】
対象が、炎症状態以外の状態に対してNSAID療法を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象が、炎症、疼痛、発熱、血栓塞栓症、動脈管開存症、バーター症候群、癌、病的血管新生に関連する状態、乾癬、アルツハイマー病、および/またはショックに対してNSAID療法を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
COをガスとして投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
COをCORMとして投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
CORMが、CO含有有機金属錯体である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
CORMが、有機化合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
CORMが、アルギン酸塩溶液である薬学的に許容し得る担体中に製剤化されている、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
NSAIDを対象に投与することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
NSAIDがCORMと混合されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
NSAIDが、可消化リンカーを介してCORMに共有結合的に複合化されている、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
CORMが、胃および/または十二指腸の粘膜表面に結合する担体と共に製剤化されている、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
COが経口投与される、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
NSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍を抑制する処置方法であって、NSAID療法を受けている対象に、NSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍を抑制する目的で、有効量のCOを摂取するよう指示することを含む、前記方法。
【請求項15】
対象が、炎症状態以外の状態に対してNSAID療法を受けている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
対象が、炎症、疼痛、発熱、血栓塞栓症、動脈管開存症、バーター症候群、癌、病的血管新生に関連する状態、乾癬、アルツハイマー病、および/またはショックに対してNSAID療法を受けている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
対象に、ガス形態の有効量のCOを摂取するように指示する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
対象に、CORM形態の有効量のCOを摂取するように指示する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
CORMが、CO含有有機金属錯体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
CORMが、有機化合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
CORMが、アルギン酸塩溶液である薬学的に許容し得る担体中に製剤化されている、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
NSAIDを摂取するよう対象に指示することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
患者に、CORMと混合されたNSAIDを摂取するように指示する、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
患者に、可消化リンカーを介してCORMに共有結合的に複合化されたNSAIDを摂取するように指示する、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
患者に、胃および/または十二指腸の粘膜表面に結合する担体と共に製剤化されたCORMを摂取するように指示する、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
患者にCOを経口摂取するよう指示する、請求項14〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
対象を、NSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍を抑制するために処置する方法であって、
該対象に対して、CORMを含むパッケージを提供すること、および
該対象に対して、CORMがNSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍の抑制用であることを指示する表示を提供すること、を含む、前記方法。
【請求項28】
CORMが、CO含有有機金属錯体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
CORMが、有機化合物である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
表示が、CORMを含むバイアル上にある、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
表示が、CORMを含むパッケージに付随している、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
対象にNSAIDを提供することをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
対象に対して、NSAIDが、炎症、疼痛、発熱、血栓塞栓症、動脈管開存症、バーター症候群、癌、病的血管新生に関連する状態、乾癬、アルツハイマー病、および/またはショックに対するものであることを指示する表示を提供する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
対象に、NSAIDが、炎症状態以外の状態に対するものであることを指示する表示を提供する、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
CORMと、CORMがNSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍の抑制用であることを指示する表示とを含むパッケージを含む、医療処置用製品。
【請求項36】
CORMがボトルに入っている、請求項35に記載の製品。
【請求項37】
表示がボトルのラベル上にある、請求項36に記載の製品。
【請求項38】
CORMが、CO含有有機金属錯体である、請求項35に記載の製品。
【請求項39】
CORMが、有機化合物である、請求項35に記載の製品。
【請求項40】
パッケージが、NSAIDをさらに含む、請求項35に記載の製品。
【請求項41】
CORMの、NSAIDまたはアルコール誘発性の胃潰瘍の処置用の医薬の製造における使用。
【請求項42】
CORMが、CO含有有機金属錯体である、請求項41に記載の使用。
【請求項43】
CORMが、有機化合物である、請求項41に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−534236(P2010−534236A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517503(P2010−517503)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際出願番号】PCT/IB2008/001945
【国際公開番号】WO2009/013612
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(509296270)アルファーマ−インベスティガシオ エ デセンボルビメント デ プロデュトス ファルマセウティコス エレデア. (2)
【氏名又は名称原語表記】ALFAMA − INVESTIGACAO E DESENVOLVIMENTO DE PRODUTOS FARMACEUTICOS LDA.
【住所又は居所原語表記】Taguspark − Nucleo Central 267, 2740−122 Porto Salvo Portugal
【Fターム(参考)】