説明

一酸化炭素吸着剤およびその製造方法

【課題】 高性能の一酸化炭素吸着剤を提供すること、および、このような高性能の一酸化炭素吸着剤を、容易に、かつ環境への負荷を少なく製造する方法を提供する。
【解決手段】 粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕することにより得られる混合微細粒からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素吸着剤およびその製造方法に関し、特に、一酸化炭素を含むガス混合物から一酸化炭素を選択的に吸着分離する活性炭担持銅吸着剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性ガスである一酸化炭素は、エネルギー源として用いられている。また、メタノールや酢酸製造などの化学工業原料として広く用いられ、近年では、ジメチルエーテルやいわゆるGTLといった合成燃料の原料としても注目されている。
【0003】
このような一酸化炭素は、石炭や天然ガス、バイオマス等の有機化合物のガス化によって生じるばかりでなく、例えば製鉄業において、転炉ガスの約40%を占める一酸化炭素を吸着分離することによって製造されるものである。
【0004】
一般に、一酸化炭素の製造には、一酸化炭素を多く含む混合ガスをPSA法(圧力スイング法:Pressure Swing Adsorption)により高純度に精製する方法が採用されている。上述したような製鉄業の転炉ガス等から一酸化炭素を分離する場合にもPSA法が用いられている。
【0005】
このPSA法に用いられる吸着剤として、例えば、特許文献1には、ゼオライトの一種であるモルデナイトを用いる方法が開示されている。モルデナイトは天然にも産出する廉価なゼオライトであって、一酸化炭素を吸着する性質を有する。したがって、一酸化炭素濃度の高い混合ガスから、吸着条件を最適化することにより十分な純度の一酸化炭素を得ることができるが、一酸化炭素に対する選択吸着能力が十分ではないため、吸着特性が類似している窒素の濃度が高い場合には、高濃度の一酸化炭素を得ることは困難である。
【0006】
【特許文献1】特開昭59−22625号公報
【0007】
また、前記PSA法に用いられる吸着剤として、塩化銅(I)と精製水とを混合した後、活性炭を加えて前記塩化銅(I)を前記活性炭に分散させることにより形成された一酸化炭素吸着剤も知られている。しかしながら塩化銅(I)の水に対する溶解度は0.006%と低く、前記塩化銅(I)を前記活性炭に十分に分散させることができないという問題があった。
【0008】
そこで、特許文献2には、塩化銅(I)と塩酸を混合して、塩酸錯体を形成し溶解せしめた後、活性炭を加えて前記塩化銅(I)を前記活性炭に分散させることにより形成された一酸化炭素吸着剤が開示されている。
【0009】
【特許文献2】特開昭58−156517号公報
【0010】
しかしながら、良く知られているように、塩酸は腐食性が強く、高価な材質を使用した製造設備が必要となる。また、特許文献2に記載された技術では、塩化銅(I)と混合させた塩酸は、減圧加熱により蒸発させることとなるが、凝縮した塩酸を含んだ水の廃水処理費用などのコストが高くなるばかりでなく、環境への負担も大きいという問題点がある。
【0011】
このように、活性炭に一価の銅を担持する場合の問題点は、前記一価の銅を水に溶解させるために塩酸を用いる必要があることである。この理由は、一価の銅を活性炭に高度に分散させるためであって、一価の銅を十分に分散することができるのであれば、必ずしも溶解させる必要はなく、塩酸を用いる必要は生じないことになる。
【0012】
そこで、特許文献3には、Y型ゼオライトを塩化銅(II)でイオン交換し、これを一価の銅に還元した吸着剤が開示されている。Y型ゼオライトは高価なものではなく、また、塩化銅(II)は水に可溶性であることから材料的な問題は少ない。しかしながらイオン交換を3回繰り返し、かつ、最後に一価の銅に還元する操作が必要で、複雑な製造方法であるばかりでなく、イオン交換後の廃液処理にも大きな問題がある。
【0013】
【特許文献3】特開昭61−17413号公報
【0014】
また、特許文献4には、ハロゲン化銅粉末と炭化物粉末とバインダーとを混合させ、これらの混合物を顆粒状に成形して形成された吸着剤が開示されている。この技術においては、前記2種の粉末を単純に混合させたものであり、銅を炭化物に十分に分散させるには不十分なものである。
【0015】
【特許文献4】特開平3−53014号公報
【0016】
特許文献5には、吸着剤を担持体の表面に被覆する方法として、機械的な攪拌により、吸着剤を担持体が粉砕されない程度の力で衝突させる技術が開示されている。
【0017】
【特許文献5】特開平11−262662号公報
【0018】
しかしながら、特許文献5に記載されたような技術は、担持体が粉砕されない程度の力で、前記吸着剤と担持体とを機械的に攪拌するものであり、吸着剤を担持体に高度に分散させるには未だ不十分なものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、高性能の一酸化炭素吸着剤を提供すること、および、このような高性能の一酸化炭素吸着剤を、容易に、かつ環境への負荷を少なく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕することにより得られる混合微細粒からなることを特徴とする一酸化炭素吸着剤。
【0021】
(2)前記混合微細粒の平均粒径は10μm以下である上記(1)に記載の一酸化炭素吸着剤。
【0022】
(3)前記混合微細粒の平均粒径は5μm以下である上記(1)または(2)に記載の一酸化炭素吸着剤。
【0023】
(4)前記混合微細粒に占める前記銅化合物の混合割合は、1〜20質量%である上記(1)、(2)または(3)に記載の一酸化炭素吸着剤。
【0024】
(5)前記一酸化炭素吸着剤は、100kPaと5kPa間の圧力変化における一酸化炭素吸着量の差が15mg/g以上である上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の一酸化炭素吸着剤。
【0025】
(6)前記一酸化炭素吸着剤は、100kPaの圧力下にて、一酸化炭素吸着量の、窒素吸着量に対する比が2.0以上である上記(1)〜(5)のいずれか1に記載の一酸化炭素吸着剤。
【0026】
(7)粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を、固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕する粉砕工程を具えることを特徴とする一酸化炭素吸着剤の製造方法。
【0027】
(8)前記粉砕工程は、前記活性炭と一価の銅化合物とが平均粒径にして10μm以下になるまで行う上記(7)に記載の一酸化炭素吸着剤の製造方法。
【0028】
(9)前記粉砕工程は、ビーズミルを用いて行う上記(7)または(8)に記載の一酸化炭素吸着剤の製造方法。
【0029】
(10)前記粉砕工程は、前記混合粒に水を加えて行う上記(7)、(8)または(9)に記載の一酸化炭素吸着剤の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一酸化炭素吸着剤は、粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕することにより得られる混合微細粒からなることにより、選択的に一酸化炭素を吸着する高い能力を有することができる。
【0031】
また、本発明の一酸化炭素吸着剤の製造方法は、粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を、固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕する粉砕工程を具えることにより、複雑な工程を必要とすることなく、選択的に一酸化炭素を吸着する高い能力を有する一酸化炭素吸着剤を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明の一酸化炭素吸着剤の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の一酸化炭素吸着剤の製造方法は、粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を、固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕する粉砕工程を具える。
【0033】
前記活性炭には特に制限はなく、一般に、ヤシ殻や石炭、木質を原料とする活性炭が市販され、賦活方法に関しても水蒸気賦活、塩化亜鉛等の薬剤賦活により製造される活性炭が市販され、いずれも本発明の活性炭として使用可能である。特に、ガスの吸着に有効な2nm以下のミクロ孔が高度に発達しているヤシ殻を原料とする活性炭を用いるのが好ましい。
【0034】
また、前記一価の銅化合物にも特に制限はなく、毒性が無く、取扱上が安全で、廉価な塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅などのハロゲン化第一銅や酸化銅を用いることができる。特に、生産量も多く、廉価で、入手が容易な塩化第一銅を用いるのが好適である。これら以外に、シアン化第一銅やチオシアン化第一銅、リン化第一銅等も挙げられるが、毒劇物であるか、または毒劇物を発生する可能性があるため、安全上の問題から推奨されるものではない。また、有機酸の第一銅塩なども本発明の一価の銅化合物として挙げられるが、いずれも高価であるため、実用的ではない。
【0035】
前記活性炭および前記一価の銅化合物はいずれも、一酸化炭素を分離する原料ガスの組成や不純物、価格、吸着剤の性能などを考慮して決定すればよい。
【0036】
前記粉砕工程は、所定の微粉砕装置を用いて行うのが好ましい。この微粉砕装置には特に制限はなく、前記混合粒を機械的に微粉砕できるものであればよい。また、例えば水を用いない乾式で行うこともできるが、短時間で大量に細かい粒度まで微粉砕を行うためには、水を用いる湿式の方が好ましい。さらに、前記混合粒を機械的に容易に微粉砕するためには、図1に示すように、ビーズと呼ばれる球体2を具えるベッセル3の回転体4を有する回転軸5をモータ8により高速回転させることにより、原料供給ポンプ6から送られた前記混合粒7を微粉砕することができるビーズミルと呼ばれる微粉砕装置1を用いるのがより好ましい。この場合、ビーズ直径Dは0.05〜1.0mm、回転数は500〜20,000rpmであるのが好ましい。
【0037】
また、前記粉砕工程における温度の制限は無く、室温付近で行えばよい。前記温度を上げることにより、塩化第一銅がわずかに水に溶解して分散されやすくなるが、液を分離した際に、銅イオンが排水中に多く含まれるようになるため、環境への負荷が増大し、排水処理費用の増大に結びつくおそれがある。また、前記微粉砕装置にとっても、100℃を超える高温で処理することは好ましいものではない。したがって、前記温度は、100℃以下、好ましくは5〜70℃の範囲が推奨される。
【0038】
前記粉砕工程は、前記活性炭と一価の銅化合物とが平均粒径にして10μm以下になるまで行うのが好ましく、5μm以下になるまで行うのがより好適である。一価の銅化合物を活性炭上に効果的に微細に分散させるためである。
【0039】
本発明は、上述したような製造方法により、一酸化炭素を選択的に吸着分離する一酸化炭素吸着剤を製造することができる。
本発明の一酸化炭素吸着剤は、粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕することにより得られる混合微細粒からなる。
【0040】
前記混合微細粒の平均粒径は10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのがより好適である。一価の銅化合物を活性炭上に効果的に微細に分散させるためである。
【0041】
前記混合微細粒に占める前記銅化合物の混合割合は、1〜20質量%であるのが好ましい。前記銅化合物の混合割合が1質量%未満だと、銅化合物を混合する効果を有効に得ることができず、また、前記混合割合が20質量%を超えると、微粉砕された銅化合物同士の再凝集が顕著になるおそれがあるためである。
【0042】
また、前記一酸化炭素吸着剤は、100kPaと5kPa間の圧力変化における一酸化炭素吸着量の差が15mg/g以上であるのが好ましい。前記差が15mg/g未満だと、一酸化炭素を十分に吸着することができないためである。
【0043】
さらに、前記一酸化炭素吸着剤は、100kPaの圧力下にて、一酸化炭素吸着量の、窒素吸着量に対する比が2.0以上であるのが好ましい。前記比が2.0未満だと、選択的に一酸化炭素を十分に吸着することができないためである。
【0044】
なお、上述したところは単なる一例として示したものであって、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
活性炭(粒状白鷺G2X、日本エンバイロケミカル製)を粉砕して平均粒径21μmとし、この活性炭696gに塩化第一銅の粉末を54.2g加えてかき混ぜた。この混合物に水を5kg加え、ビーズ径:0.3mm、スリット幅:0.1mm、回転数2000rpmのビーズミルにてメカノケミカル法による微粉砕を行った。微粉砕後の固体の平均粒径は4.5μmとなった。水をろ過して分離後、80℃の乾燥器で一晩乾燥させることにより本発明に従う一酸化炭素吸着剤Aを得た。
【0046】
(比較例1)
塩化第一銅5.4gを100gの純水に投入し、適量の塩酸を加えて溶解した。これに実施例1と同じ活性炭(粒状白鷺G2X、日本エンバイロケミカル製)を75g加えた。1時間真空脱気後、加熱して水分および塩酸を蒸発させ、これを80℃の乾燥器で一晩乾燥させることにより一酸化炭素吸着剤Bを得た。
【0047】
(性能評価)
こうして得られた一酸化炭素分離用吸着剤の性能を評価した。図2に一酸化炭素に対する吸着等温線を示し、図3に窒素に対する吸着等温線を示す。なお、図2、3の横軸は初期圧力P=101kPaで割ったときの圧力比で示す。一酸化炭素吸着剤Aの100kPa(P/P=0.99)における一酸化炭素の吸着量は29.7mg/gであり、100kPaにおける一酸化炭素の吸着量が26.6mg/gである一酸化炭素吸着剤Bよりも12%多く吸着していることがわかる。また、一酸化炭素吸着剤Aの100kPaにおける窒素の吸着量は6.1mg/gで、一酸化炭素吸着剤Bの100kPaにおける窒素の吸着量が6.4mg/gであるから、一酸化炭素吸着剤Aのこの圧力における一酸化炭素の窒素に対する吸着量比は4.9であり、一酸化炭素吸着剤Bのこの圧力における一酸化炭素の窒素に対する吸着量比は4.2であった。また、一酸化炭素吸着剤Aの100kPaと5kPaにおける一酸化炭素の吸着量の差は20.8mg/gであるのに対し、一酸化炭素吸着剤Bの100kPaと5kPaにおける一酸化炭素の吸着量の差は17.7mg/gであり、本発明に従う一酸化炭素吸着剤Aは、一酸化炭素吸着剤Bよりも、吸着・脱着を繰り返すPSA法においても、一酸化炭素を分離する高い能力を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕することにより得られる混合微細粒からなることにより、選択的に一酸化炭素を吸着する高い能力を有することができる一酸化炭素吸着剤を提供することができる。
【0049】
また、本発明は、粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を、固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕する粉砕工程を具えることにより、複雑な工程を必要とすることなく、選択的に一酸化炭素を吸着する高い能力を有する一酸化炭素吸着剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に従う微粉砕装置を示す。
【図2】一酸化炭素に対する吸着等温線を示すグラフである。
【図3】窒素に対する吸着等温線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 微粉砕装置
2 球体
3 ベッセル
4 回転体
5 回転軸
6 原料供給ポンプ
7 混合粒
8 モータ
9 混合微細粒
D ビーズ径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕することにより得られる混合微細粒からなることを特徴とする一酸化炭素吸着剤。
【請求項2】
前記混合微細粒の平均粒径は10μm以下である請求項1に記載の一酸化炭素吸着剤。
【請求項3】
前記混合微細粒の平均粒径は5μm以下である請求項1または2に記載の一酸化炭素吸着剤。
【請求項4】
前記混合微細粒に占める前記銅化合物の混合割合は、1〜20質量%である請求項1、2または3に記載の一酸化炭素吸着剤。
【請求項5】
前記一酸化炭素吸着剤は、100kPaと5kPa間の圧力変化における一酸化炭素吸着量の差が15mg/g以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の一酸化炭素吸着剤。
【請求項6】
前記一酸化炭素吸着剤は、100kPaの圧力下にて、一酸化炭素吸着量の、窒素吸着量に対する比が2.0以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の一酸化炭素吸着剤。
【請求項7】
粒状の活性炭と粒状の一価の銅化合物とを含む混合粒を、固体のままメカノケミカル法を用いて共粉砕する粉砕工程を具えることを特徴とする一酸化炭素吸着剤の製造方法。
【請求項8】
前記粉砕工程は、前記活性炭と一価の銅化合物とが平均粒径にして10μm以下になるまで行う請求項7に記載の一酸化炭素吸着剤の製造方法。
【請求項9】
前記粉砕工程は、ビーズミルを用いて行う請求項7または8に記載の一酸化炭素吸着剤の製造方法。
【請求項10】
前記粉砕工程は、前記混合粒に水を加えて行う請求項7、8または9に記載の一酸化炭素吸着剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−220040(P2009−220040A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68213(P2008−68213)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】