説明

一酸化窒素ガスの製造方法および製造装置

【課題】一酸化窒素ガスを経済的に製造でき、且つ、廃棄物を低減できる工業的に優れた方法と装置を提供する。
【解決手段】亜硝酸化合物を酸と反応させることで亜硝酸を経て一酸化窒素ガスを生成する。その亜硝酸を経る一酸化窒素ガスの生成時に生成される硝酸または二酸化窒素を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで一酸化窒素ガスを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体デバイスの原料に用いられる工業用ガス、医療用ガス等として重要な地位を占める一酸化窒素(NO)ガスの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素ガスの製法として、以下の反応式(1)で表されるように、硝酸(HNO3 )を二酸化硫黄(SO2 )で還元する方法が知られている(特許文献1参照)。
2HNO3 + 3SO2 +2H2 O → 2NO+3H2 SO4 (1)
【0003】
また、以下の反応式(2)で表されるように、硫酸第一鉄(FeSO4 )を硫酸(H2 SO4 )等により酸性条件とした下で亜硝酸ナトリウム(NaNO2 )と反応させることで、一酸化窒素ガスを得る方法も知られている(非特許文献1参照)。
2NaNO 2 + 2FeSO4 +2H2 SO4 → 2NO+Fe2 ( SO4 ) 3 +Na2 SO4 (2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−175804号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Inorg. Syn.,2,126 (1946)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反応式(1)で示される方法においては、1.5モルの二酸化硫黄から1モルの一酸化窒素しか得ることができない。換言すれば、分子量64の二酸化硫黄96gより分子量30の一酸化窒素が30gしか得られないことを示している。また、反応式(1)の反応基質である硝酸(HNO3 )は、亜硝酸(HNO2 )よりも酸化度が高い化合物であり、工業的な製造過程において酸化度を高めるために亜硝酸を製造する場合よりも工程が加えられている。すなわち、反応式(1)で示される方法は経済的には優れたものではないという問題がある。
【0007】
反応式(2)で示される方法においては、一酸化窒素を1モル(30g)得るときに硫酸第二鉄が0.5モル(5水塩として200g)生じ、その硫酸第二鉄を廃棄物として処理するための費用が嵩むという問題がある。
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決できる一酸化窒素ガスの製造方法と製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による一酸化窒素ガスの製造方法においては、亜硝酸化合物を酸と反応させることで亜硝酸を経て一酸化窒素ガスを生成し、その亜硝酸を経る一酸化窒素ガスの生成時に生成される硝酸または二酸化窒素を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで、一酸化窒素ガスを生成する。
【0009】
本発明による一酸化窒素ガスの製造方法として2つの態様がある。
本発明方法にかかる第1の態様においては、亜硝酸化合物を酸と反応させることで硝酸を含む反応副生成物と一酸化窒素ガスとを生成する第1段階の工程と、前記反応副生成物に含まれる硝酸を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで一酸化窒素ガスを生成する第2段階の工程とを備えるのが好ましい。
この場合、第1段階の工程においては、亜硝酸化合物に酸を作用させることで、例えば以下の反応式(3)と反応式(4)で表される連続した反応が生じる。反応式(3)は、亜硝酸化合物として亜硝酸ナトリウムを用い、酸として硫酸を用いた場合を例示している。
3NaNO 2 +1.5H2 SO4 →3HNO2 + 1.5Na2 SO4 (3)
3HNO2 →2NO + HNO3 + H2 O (4)
反応式(4)で表される亜硝酸の自己酸化還元反応は酸性条件下で進行し、pH値が5以下で進行させるのが好ましい。
反応式(3)と反応式(4)を足し合わせると、第1段階の工程は以下の反応式(5)により表され、この反応により硝酸を含む反応副生成物と一酸化窒素ガスとが得られる。
3NaNO 2 +1.5H2 SO4 →2NO + HNO3 + H2 O + 1.5Na2 SO4 (5)
【0010】
第2段階の工程においては、前記反応副生成物に含まれる硝酸を、二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで、例えば以下の反応式(6)で表されるように一酸化窒素ガスが得られる。反応式(6)は、硝酸を二酸化硫黄と反応させた場合を例示し、この場合の反応は反応式(1)で表される反応と等しくなる。この硝酸の還元反応によって一酸化窒素ガスが得られる。
HNO 3 + 1.5SO2 + H2 O → NO +1.5H2 SO4 (6)
第1段階の工程における反応式(5)と第2段階の工程における反応式(6)を足し合わせると、反応全体は以下の反応式(7)により表される。
3NaNO 2 + 1.5SO2 → 3NO+ 1.5Na2 SO4 (7)
反応式(7)から明らかなように、1.5モルの二酸化硫黄から3モルの一酸化窒素を得ることができ、従来の反応式(1)で表される反応と比較すると、1モル当たりの二酸化硫黄から得られる一酸化窒素ガスは3倍になる。すなわち、一定量の二酸化硫黄あたりの一酸化窒素ガスの発生量が多くなるので、得られる一定量の一酸化窒素ガスあたりの廃棄物の量を相対的に低減することができる。しかも、従来のような酸化数の高い硝酸ではなく酸化数の低い亜硝酸を用いて一酸化窒素ガスの発生量を多くできるので、経済的に優れたものである。
【0011】
第1段階の工程で亜硝酸化合物に作用させる酸は硫酸に限定されず、亜硝酸化合物との反応により亜硝酸を生成し、生成された亜硝酸の酸性条件下における自己酸化還元反応により一酸化窒素ガスを生成できる酸であればよく、例えば塩酸や硝酸を用いてもよい。また、第1段階の工程で用いられる亜硝酸化合物は亜硝酸ナトリウムに限定されず、例えば亜硝酸カリウムを用いることができる。
また、第2段階の工程において、二酸化硫黄に代えて、または二酸化硫黄と共に用いられる亜硫酸化合物は特に限定されず、例えば亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3 )および/又は亜硫酸ナトリウム(Na2 SO3 )を用いることができる。
【0012】
第1段階の工程における反応と第2段階の工程における反応を個別の反応器において生じさせる場合、本発明の一酸化窒素ガスの製造方法を実施するための装置は、亜硝酸化合物と酸とが導入される第1反応器と、二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方が導入される第2反応器と、亜硝酸化合物を酸と反応させることで生成される一酸化窒素ガスを、前記第1反応器から流出させるための第1流出路と、亜硝酸化合物を酸と反応させることで生成される硝酸を含む反応副生成物を、前記第1反応器から前記第2反応器へ送るための送り装置と、前記反応副生成物に含まれる硝酸を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで生成される一酸化窒素ガスを、前記第2反応器から流出させるための第2流出路とを備えるのが好ましい。
【0013】
本発明方法にかかる第2の態様においては、二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方の存在下に亜硝酸化合物を酸と反応させることで二酸化窒素を含む反応副生成物と共に一酸化窒素ガスを生成すると共に、前記反応副生成物に含まれる二酸化窒素を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで一酸化窒素ガスを生成するのが好ましい。
この場合、例えば以下の反応式(8)〜(11)で表される酸性条件下における一連の素反応が生じる。ここでは、二酸化硫黄の存在下に亜硝酸ナトリウムと硫酸を反応させた場合を例示している。
2NaNO 2 + H2 SO4 →2HNO2 +Na2 SO4 (8)
2HNO2 → NO +NO2 + H2 O (9)
NO2 +SO2 → NO +SO3 (10)
SO3 + H2 O → H2 SO4 (11)
以下の反応式(12)は、反応式(8)〜(11)の素反応式を合計して得られる全反応式である。
2NaNO 2 +SO2 → 2NO+Na2 SO4 (12)
この反応式は上記の反応式(7)と同じものである。よって、第1の態様と同様に得られる一定量の一酸化窒素ガスあたりの廃棄物の量を相対的に低減することができ、しかも、経済的に優れたものである。さらに、反応途中に硝酸を経ることなく温和な条件で一酸化窒素を高純度で得ることができる。
この場合も、亜硝酸化合物に作用させる酸は硫酸に限定されず、亜硝酸化合物との反応により亜硝酸を生成し、生成された亜硝酸の酸性条件下における自己酸化還元反応により一酸化窒素ガスを生成できる酸であればよく、例えば塩酸や硝酸を用いてもよい。また、亜硝酸化合物は亜硝酸ナトリウムに限定されず、例えば亜硝酸カリウムを用いることができる。また、二酸化硫黄に代えて、または二酸化硫黄と共に用いられる亜硫酸化合物は特に限定されず、例えば亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3 )および/又は亜硫酸ナトリウム(Na2 SO3 )を用いることができる。
この場合、本発明の一酸化窒素ガスの製造方法を実施するための装置は、亜硝酸化合物と、酸と、二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方とが導入される反応器と、亜硝酸化合物を酸と反応させることで生成される一酸化窒素ガスと、亜硝酸化合物を酸と反応させることで生成される反応副生成物に含まれる二酸化窒素を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで生成される一酸化窒素ガスとを、前記反応器から流出させるための流出路とを備えるのが好ましい。
【0014】
本発明方法において、一酸化窒素ガスに含まれる二酸化窒素ガスを亜硫酸化合物の水溶液により還元することで一酸化窒素ガスを生成するガス洗浄器を備えるのが好ましい。これにより生成される一酸化窒素ガスの純度を向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一酸化窒素ガスを経済的に製造でき、且つ、廃棄物を低減できる工業的に優れた方法と装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る一酸化窒素ガスの製造装置の構成説明図
【図2】本発明の第2実施形態に係る一酸化窒素ガスの製造装置の構成説明図
【図3】本発明の第3実施形態に係る一酸化窒素ガスの製造装置の構成説明図
【図4】本発明の第4実施形態に係る一酸化窒素ガスの製造装置の構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を、実施形態を示すことにより具体的に説明するが、本発明にかかる第1の態様に関するものが第1〜第3実施形態であり、本発明にかかる第2の態様に関するものが第4実施形態である。
図1に示す第1実施形態の一酸化窒素ガスの製造装置1は、第1反応器2と第2反応器3を備える。両反応器2、3はそれぞれ充填塔により構成される。各充填塔に充填される充填物は特に限定されず、例えばラシヒリングを用いことができる。反応器2、3それぞれに、反応温度を制御するための加熱装置4、5が設けられている。加熱装置4、5それぞれは、例えば加熱温度制御可能なヒーターにより構成され、反応器2、3の外周を覆うジャケットに内蔵される。第1反応器2の下部に一体化される第1貯留部6と、第2反応器3の下部に一体化される第2貯留部7が設けられている。第1反応器2から落下する反応副生成物は第1貯留部6に貯留され、第2反応器3から落下する反応副生成物は第2貯留部7に貯留される。各貯留部6、7に、反応副生成物の温度を制御する加熱装置12a、12bが設けられ、第2段階の工程における反応温度の低下が防止される。
【0018】
第1反応器2へ亜硝酸化合物を連続的に導入するための導入路8が設けられている。導入路8の一端は亜硝酸化合物の供給源9に接続され、他端は第1反応器2の上方に配置される。本実施形態では亜硝酸化合物として亜硝酸ナトリウム水溶液が供給される。これにより、導入路8を介して亜硝酸ナトリウム水溶液が第1反応器2に上方から流量制御弁等の流量制御器(図示省略)を介して設定された流量で導入される。
【0019】
第1反応器2へ酸を連続的に導入するための導入路10が設けられている。導入路10の一端は酸の供給源11に接続され、他端は第1反応器2の上方に配置される。本実施形態では酸として硫酸水溶液が供給される。導入路10を介して硫酸水溶液が第1反応器2に上方から流量制御弁等の流量制御器(図示省略)を介して設定された流量で導入される。
【0020】
第1反応器2を構成する充填塔において、導入路8から導入された亜硝酸化合物に導入路10から導入された酸を作用させることで生じる反応により、硝酸を含む反応副生成物と一酸化窒素ガスとが生成される。これが第1段階の工程における反応であり、本実施形態では上記反応式(5)で表される。この反応により生成された一酸化窒素ガスを第1反応器2から流出させるため、第1反応器2の上端開口に連なる第1流出路13が設けられている。
【0021】
導入路10から導入される酸水溶液の濃度は特に限定されないが、濃度が薄くなり過ぎると反応のための必要量が増えるために容積効率が低下し、また、生成された一酸化窒素がガスとして流出されることなく反応液に溶ける比率が大きくなる。例えば硫酸水溶液を用いる場合、その濃度は5重量%〜100重量%が好ましく、50重量%〜100重量%であるのがより好ましい。
【0022】
第1段階の工程における反応温度が低くなると、反応速度が遅くなり、また、生成された一酸化窒素がガスとして流出されることなく反応液に溶ける比率が大きくなる。一方、その反応温度が高くなると、副生成された硝酸から二酸化窒素ガスが発生し、一酸化窒素ガスに混入する。そのため、第1段階の工程における反応温度は0℃〜100℃が好ましく、より好ましくは10℃〜80℃である。なお、一酸化窒素ガスに混入された二酸化窒素ガスを亜硫酸化合物の水溶液により還元することで、一酸化窒素ガスを生成してもよい。そのため、例えば亜硫酸化合物の水溶液によりガス洗浄を行うガス洗浄器40を、図において鎖線で示すように第1流出路13に配置するのが好ましい。これにより、一酸化窒素ガスに二酸化窒素ガスが混入しても、混入された二酸化窒素ガスを還元して一酸化窒素ガスを生成でき、一酸化窒素ガスの純度を向上できる。そのガス洗浄に用いた亜硫酸化合物の水溶液を、第2段階の工程における硝酸の還元反応に利用してもよい。
【0023】
第1段階の工程における反応副生成物は、第1反応器2の下端開口から下方に落下することで第1貯留部6に貯留される。本実施形態の反応副生成物は硝酸と硫酸ナトリウムと水である。第1貯留部6の内部と第2反応器3の上方とを連絡する連絡路20aが設けられている。連絡路20aに配置されるポンプ20bにより、第1貯留部6に貯留された反応副生成物が第2反応器3に設定された流量で連続的に導入される。すなわち、連絡路20aとポンプ20bは、反応副生成物を第1反応器2から第2反応器3へ反応液として送るための送り装置20を構成する。
【0024】
第2反応器3へ二酸化硫黄を連続的に導入するための導入路30が設けられている。導入路30の一端は二酸化硫黄(亜硫酸ガス)の供給源31に接続され、他端は第2反応器3の下方に配置される。導入路30を介して二酸化硫黄が第2反応器3に流量制御弁等の流量制御器(図示省略)を介して設定された流量で導入される。
【0025】
第2反応器3を構成する充填塔において、連絡路20aから導入された反応副生成物に含まれる硝酸を、導入路30から導入された二酸化硫黄と反応させることで、一酸化窒素ガスが生成される。これが第2段階の工程における反応であり、本実施形態では上記反応式(6)で表される。この生成された一酸化窒素ガスを第2反応器3から流出させるため、第2反応器3の上端開口に連なる第2流出路32が設けられている。第2段階の工程における反応副生成物は、第2反応器3の下端開口から下方に落下することで第2貯留部7に貯留される。本実施形態の第2段階の工程における反応副生成物は硫酸であり、反応に供されなかった第1段階の工程における反応副生成物の硫酸ナトリウムおよび水と共に第2貯留部7に貯留される。
【0026】
図1に示す第1実施形態の反応方式においては、第2段階の工程における反応温度が低くなると反応速度が遅くなる。一方、その反応温度が高くなると、生成された一酸化窒素ガスに混入する水蒸気の量が増加し、その除去に大きなエネルギーが必要とされる。そのため、第2段階の工程における反応温度は30℃〜120℃が好ましく、より好ましくは40℃〜110℃である。
【0027】
導入路8からの亜硝酸化合物の導入流量、導入路10からの酸の導入流量、連絡路20aを介する反応副生成物の送り流量、導入路30からの二酸化硫黄の導入流量は、一酸化窒素ガスの所望の生成速度に応じて実験的に定めればよい。
【0028】
図2は、本発明の第2実施形態に係る一酸化窒素ガスの製造装置101を示す。以下、第1実施形態との相違点を説明し、同一部分は同一符号で示して説明は省略する。まず、第1反応器102と第2反応器103はそれぞれ反応槽により構成され、反応副生成物の貯留専用の貯留部は設けられていない。両反応器102、103の内部に配置される攪拌羽根102a、103aがモータ102b、103bにより駆動されることで、反応液が攪拌される。第1反応器102に導入路8から亜硝酸化合物が導入され、導入路10から酸が導入されることで生じる第1段階の工程における反応により、第1流出路13から生成された一酸化窒素ガスが流出される。第1反応器102内で生成された反応副生成物は送り装置20により第2反応器103に反応液として送られる。第2反応器103に導入路30から二酸化硫黄を導入することで生じる第2段階の工程における反応により、第2流出路32から生成された一酸化窒素ガスが流出され、第2反応器103に第2段階の工程における反応副生成物が反応に供されなかった第1段階の工程における反応副生成物と共に貯留される。他は第1実施形態と同様とされる。
【0029】
図3は、本発明の第3実施形態に係る一酸化窒素ガスの製造装置201を示す。以下、第1実施形態との相違点を説明し、同一部分は同一符号で示して説明は省略する。まず、製造装置201を構成する第1反応器202aと第2反応器202bは一体化されている。すなわち、充填塔により構成される第1反応器202aの下部に、反応槽により構成される第2反応器202bが一体化されている。第1反応器202aにおける反応温度を制御するための第1加熱装置204と、第2反応器202bにおける反応温度を制御するための第2加熱装置205が設けられている。送り装置は設けられていない。亜硝酸化合物を連続的に導入するための導入路8と、酸を連続的に導入するための導入路10の各他端が、第1反応器202aの上方に配置されている。二酸化硫黄を連続的に導入するための導入路30の他端が、第2反応器202bの内部に配置される。第1反応器202aにおいて、導入路8から導入された亜硝酸化合物に導入路10から導入された酸を作用させることで生じる反応により、硝酸を含む反応副生成物と一酸化窒素ガスとが生成される。その生成された反応副生成物は第1反応器202aから落下することで、第2反応器202bに反応液として貯留される。第2反応器202bにおいて、反応副生成物に含まれる硝酸を、導入路30から導入された二酸化硫黄と反応させることで、一酸化窒素ガスが生成される。両反応により生成された一酸化窒素ガスを流出させるため、第1反応器202aの上端開口に連なる流出路206が設けられている。第2反応器202bに、反応に供されなかった第1段階の工程における反応副生成物と第2段階の工程における反応副生成物が反応液として貯留される。第2反応器202bに貯留される反応液の外部への取り出し口202cが設けられている。他は第1実施形態と同様とされる。
【0030】
図4は、第2の態様による一酸化窒素ガスの製法で、本発明の第4実施形態に係る一酸化窒素ガスの製造装置301を示す。以下、第1実施形態との相違点を説明し、同一部分は同一符号で示して説明は省略する。まず、製造装置301は別個独立の2つの反応器ではなく、反応槽により構成される単一の反応器302を備え、反応温度を制御するための加熱装置304も単一とされ、反応副生成物の貯留専用の貯留部および送り装置は設けられていない。反応器302の内部に配置される攪拌羽根302aがモータ302bにより駆動されることで、反応液が攪拌される。反応器302に、亜硝酸化合物を連続的に導入するための導入路8、二酸化硫黄を連続的に導入するための導入路30、および亜硫酸化合物を連続的に導入するための導入路30′が設けられ、各導入路8、30、30′の他端は反応器302の内部に配置される。導入路30′の一端は亜硫酸化合物の供給源31′に接続される。本実施形態では、亜硫酸化合物として亜硫酸水素ナトリウム水溶液が供給される。反応器302には予め設定された量の酸が仕込まれ、本実施形態では硫酸水溶液が仕込まれる。
酸が仕込まれた反応器302に、導入路8を介して亜硝酸ナトリウム水溶液が、導入路30を介して二酸化硫黄が、導入路30′を介して亜硫酸水素ナトリウム水溶液が、導入路11を介して硫酸水溶液が、それぞれ導入可能とされている。すなわち、反応器302において反応液が酸性に保たれ、常に反応液が二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方を含んでいる状態を保ちながら、亜硝酸化合物が反応器302に仕込まれる。これにより、二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方の存在下に亜硝酸化合物が酸とが反応することで二酸化窒素を含む反応副生成物と共に一酸化窒素ガスが生成されると共に、その反応副生成物に含まれる二酸化窒素が亜硫酸化合物と反応することで一酸化窒素ガスが生成される。
本実施形態の反応は第1〜第3実施形態における反応とは反応形態が異なり、低い温度でも一酸化窒素ガスを発生させることができる。例えば二酸化硫黄の存在下に亜硝酸ナトリウムと硫酸を反応させた場合、本実施形態の素反応は上記反応式(8)〜(11)により表される。また、亜硫酸水素ナトリウムの存在下に亜硝酸ナトリウムと硫酸を反応させた場合、反応温度は0℃〜100℃であることが好ましく、0℃〜80℃であることがより好ましい。反応温度が0℃より低いと反応速度が遅くなり、反応温度が高いと一酸化窒素に伴われる水分の量が増加するおそれがある。このように本発明の第1の態様よりも反応温度を低くできるのは、反応式(8)〜(11)に示すように反応中間体に硝酸を経ないためである。
反応により生成された一酸化窒素ガスを反応器302から流出させるため、反応器302の上部に設けられた流出路306が設けられている。反応器302内で一酸化窒素ガスに還元されなかった二酸化窒素ガスを、亜硫酸化合物の水溶液により還元することで一酸化窒素ガスを生成するガス洗浄器40を、流出路306に設けてもよい。反応器302に、反応に供されなかった反応副生成物が貯留される。反応器302に貯留される反応液の外部への取り出し口302cが設けられている。他は第1実施形態と同様とされる。
【実施例1】
【0031】
上記第1実施形態の製造装置1を用いて以下の実験を行った。
第1反応器2と第2反応器3はそれぞれ、内径6cm、高さ30cmのガラス製カラムに、直径6mm、長さ6mm、厚さ0.4mmの磁性ラシヒリングを充填した充填塔により構成した。第1貯留部6と第2貯留部7は、それぞれガラス製で容積を2リットルとした。
導入路8を介して濃度50重量%の亜硝酸ナトリウム水溶液を、流量1000g/時間(7.25モル/時間)で滴下させることで第1反応器2へ導入した。また、導入路10を介して濃度70重量%の硫酸水溶液を、流量1000g/時間(7.14モル/時間)で滴下させることで第1反応器2へ導入した。加熱装置4により第1反応器2を外部から40℃で加熱した。これにより、亜硝酸ナトリウムに硫酸を作用させることで生じる反応により、反応副生成物と一酸化窒素ガスとを生成した。生成された一酸化窒素ガスを第1流出路13から流出させて回収した。硝酸を含む反応副生成物を、第1貯留部6において加熱装置12により約40℃に保った。
第1貯留部6に貯留した反応副生成物を、反応液として第2反応器3に導入した。送り装置20による反応副生成物の第2反応器3への導入流量は、第1貯留部6に貯留される反応副生成物が約1リットルに保持されるように、約2000g/時間とした。また、導入路30を介して二酸化硫黄(亜硫酸ガス)を、流量224g/時間(3.50モル/時間)で第2反応器3に導入した。加熱装置5により第2反応器3を外部から80℃で加熱した。これにより、第2反応器3を構成する充填塔において、流れ落ちる反応副生成物に含まれる硝酸を上昇する二酸化硫黄と反応させることで、一酸化窒素ガスを生成した。生成された一酸化窒素ガスを第2流出路32から流出させて回収した。
製造装置1の連続運転の開始後5時間経過時点から1時間の間に生成された一酸化窒素ガスの量は、無水、標準状態に換算して第1反応器2からは105.3リットル、第2反応器3からは53.2リットルの合計158.5リットル(212g、7.08モル)であり、亜硝酸ナトリウムを基準として収率97.7%であった。
【実施例2】
【0032】
上記第3実施形態の製造装置201を用いて以下の実験を行った。
第1反応器202aは、内径6cm、高さ30cmのガラス製カラムに、直径6mm、長さ6mm、厚さ0.4mmの磁性ラシヒリングを充填した充填塔により構成し、第2反応器202bは容量2リットルのガラス製反応槽により構成した。
導入路8を介して濃度50重量%の亜硝酸ナトリウム水溶液を、流量1000g/時間(7.25モル/時間)で滴下させることで第1反応器202aへ導入した。また、導入路10を介して濃度70重量%の硫酸水溶液を、流量1000g/時間(7.14モル/時間)で滴下させることで第1反応器202aへ導入した。さらに、導入路30を介して二酸化硫黄(亜硫酸ガス)を、流量224g/時間(3.50モル/時間)で第2反応器202bに導入した。第1加熱装置204により第1反応器202aを外部から80℃で加熱し、第1加熱装置205により第2反応器202bを外部から80℃で加熱した。これにより、第1反応器202aにおいて亜硝酸ナトリウムに硫酸を作用させることで生じる反応により、反応副生成物と一酸化窒素ガスとを生成し、第2反応器202bにおいて反応副生成物に含まれる硝酸を二酸化硫黄と反応させることで、一酸化窒素ガスを生成した。生成された一酸化窒素ガスを流出路206から流出させて回収した。なお、第2反応器202bに貯留される反応液を、約1リットルを超えないように運転中に取り出し口202cから外部に取り出すようにした。
製造装置201の連続運転の開始後1時間経過時点から1時間の間に生成された一酸化窒素ガスの量は、無水、標準状態に換算して147.8リットル(198g、6.60モル)であり、亜硝酸ナトリウムを基準として収率91.0%であった。
【実施例3】
【0033】
上記第4実施形態の製造装置301を用いて以下の実験を行った。
反応器302は容量2リットルのガラス製反応槽により構成した。
反応器302に予め濃度50重量%の硫酸水溶液1000gを仕込み、液温を30℃とした。
次に、導入路8を介して濃度30重量%の亜硝酸ナトリウム水溶液を流量1000g/時間(7.25モル/時間)で、導入路30′を介して濃度30重量%の亜硫酸水素ナトリウム水溶液を流量1320g/時間(3.80モル/時間)で、さらに導入路11を介して濃度50重量%の硫酸水溶液を流量1400g/時間で、それぞれ反応器302へ導入した。導入と同時に反応が起こり一酸化窒素ガスが発生した。生成された一酸化窒素ガスを流出路306から流出させて回収した。なお、反応器302においては攪拌羽根302aにより反応液を攪拌した。また、反応器302に貯留される反応液を、約1リットルを超えないように運転中に取り出し口302cから外部に取り出すようにした。
反応器302における反応の開始後5時間経過時点から1時間の間に生成された一酸化窒素ガスの量は、無水、標準状態に換算して153.3リットル(205g、6.84モル)であり、亜硝酸ナトリウムを基準として収率94.4%であった。
【0034】
上記各実施例によれば、収率良く一酸化窒素ガスを生成できることを確認できる。
【0035】
本発明は上記実施形態や実施例に限定されない。
例えば、上記実施形態では亜硝酸化合物として亜硝酸ナトリウムを用いたが、酸との反応により硝酸および二酸化窒素の中の少なくとも一方を含む反応副生成物と一酸化窒素ガスとを生成できる亜硝酸化合物であれば特に限定されず、例えば、亜硝酸ナトリウムに代えて、あるいは亜硝酸ナトリウムと共に、亜硝酸カリウムを用いてもよい。
【0036】
上記実施形態では酸として硫酸を用いたが、亜硝酸化合物との反応により亜硝酸を経て一酸化窒素ガスを生成できる酸であれば特に限定されず、例えば塩酸や硝酸を用いてもよい。
【0037】
第1〜第3実施形態では反応器に亜硝酸化合物と酸を同時に導入して反応させたが、反応器に亜硝酸化合物を導入した後に酸を導入して反応させてもよい。また、液相の酸を貯留した反応器に固相の亜硝酸化合物を導入してもよいし、固相の亜硝酸化合物を収納した反応器に液相の酸を導入してもよいが、反応を制御する見地から亜硝酸化合物の水溶液を用いるのが好ましい。
【0038】
第1〜第3実施形態では第1段階の工程において二酸化硫黄により硝酸を還元したが、二酸化硫黄に代えて亜硫酸化合を用いて、または二酸化硫黄と亜硫酸化合物の両方を用いて硝酸を還元してもよく、そのため第1〜第3実施形態の第2反応器3、103、202bに、鎖線で示すように亜硫酸化合物の導入路30′を設けてもよい。
【0039】
上記実施形態では亜硫酸化合物として亜硫酸水素ナトリウムを用いたが、硝酸を還元できれば特に限定されず、例えば、亜硫酸水素ナトリウムに代えて、あるいは亜硫酸水素ナトリウムと共に、亜硫酸ナトリウムを用いてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1、101、201、301…一酸化窒素ガスの製造装置、2、102…第1反応器、3、103…第2反応器、13…第1流出路、20…送り装置、32…第2流出路、206、306…流出路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸化合物を酸と反応させることで亜硝酸を経て一酸化窒素ガスを生成し、
その亜硝酸を経る一酸化窒素ガスの生成時に生成される硝酸または二酸化窒素を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで、一酸化窒素ガスを生成する一酸化窒素ガスの製造方法。
【請求項2】
亜硝酸化合物を酸と反応させることで硝酸を含む反応副生成物と一酸化窒素ガスとを生成する第1段階の工程と、
前記反応副生成物に含まれる硝酸を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで一酸化窒素ガスを生成する第2段階の工程とを備える請求項1に記載の一酸化窒素ガスの製造方法。
【請求項3】
二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方の存在下に亜硝酸化合物を酸と反応させることで二酸化窒素を含む反応副生成物と共に一酸化窒素ガスを生成すると共に、前記反応副生成物に含まれる二酸化窒素を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで一酸化窒素ガスを生成する請求項1に記載の一酸化窒素ガスの製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法を実施するための一酸化窒素ガスの製造装置であって、
亜硝酸化合物と酸とが導入される第1反応器と、
二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方が導入される第2反応器と、
亜硝酸化合物を酸と反応させることで生成される一酸化窒素ガスを、前記第1反応器から流出させるための第1流出路と、
亜硝酸化合物を酸と反応させることで生成される硝酸を含む反応副生成物を、前記第1反応器から前記第2反応器へ送るための送り装置と、
前記反応副生成物に含まれる硝酸を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで生成される一酸化窒素ガスを、前記第2反応器から流出させるための第2流出路とを備える一酸化窒素ガスの製造装置。
【請求項5】
請求項3に記載の方法を実施するための一酸化窒素ガスの製造装置であって、
亜硝酸化合物と、酸と、二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方とが導入される反応器と、
亜硝酸化合物を酸と反応させることで生成される一酸化窒素ガスと、亜硝酸化合物を酸と反応させることで生成される反応副生成物に含まれる二酸化窒素を二酸化硫黄および亜硫酸化合物の中の少なくとも一方と反応させることで生成される一酸化窒素ガスとを、前記反応器から流出させるための流出路とを備える一酸化窒素ガスの製造装置。
【請求項6】
一酸化窒素ガスに含まれる二酸化窒素ガスを亜硫酸化合物の水溶液により還元することで一酸化窒素ガスを生成するガス洗浄器を備える請求項4または5に記載の一酸化窒素ガスの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−57497(P2011−57497A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207912(P2009−207912)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)