説明

三次元細胞構造体の作製方法

【課題】本発明は、均一な直径を有する高密度な三次元細胞構造体を簡便な方法で提供する。
【解決手段】上記の課題を解決する本発明は、生存率が70%以上の細胞集団を密度勾配遠心法により濃縮、分離する工程(A)と、工程(A)で得られた細胞集団を有効底面積が0.01〜0.1mmの小領域を有する支持体に播種する工程(B)と、工程(B)で播種された細胞を培養する工程(C)とを含む、三次元細胞構造体の作製方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞の培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
組織から単離した細胞を試験、検査に用いる手法は、バイオテクノロジー関連分野では欠かせない方法となっている。疾病、病態の診断、新薬の探索および薬効の判定、あるいは動物検査、植物検査、環境汚染物質の試験などに幅広く用いられている。単離した細胞は、直ちに試験に用いられる場合もあるが、多くは細胞培養の方法により培養 皿や試験管のなかで培養が行われている。この培養系のなかで種々の検査が行われる。
【0003】
これらのアッセイは、通常均一な培養系を設定し、評価する薬物等の量、濃度などを変えてその効果を見るものである。その際に用いられる細胞は、生体から分離した初代細胞、また、セルバンクや細胞販売企業から入手される。この細胞は、種々の培地及び培養器内に播種された後、検査が行われる。
【0004】
薬物の検査などに使用される培養法としては、非特許文献1に示した、コラーゲンをコートした細胞培養容器を用いて培養する方法、コラーゲンとマトリゲルを用いてサンドイッチ状に培養する単層培養方法が知られている。
【0005】
この様に、広く利用されている細胞培養技術ではあるが、従来の細胞培養法(単層培養法)には、細胞が生体内で有している特異的な機能を長期間維持することができないという問題点があった。
【0006】
これらの問題点を解決するための培養方法として、三次元培養法が、近年、非常に注目を集めている。三次元培養によって得られた三次元細胞構造体は、単層培養法と比較して、細胞の特異的な機能を長期間維持でき、かつ、生体内と類似した構造体を作ることができる。このような特性を活かし、薬物等の検査への利用を目的に、三次元細胞構造体形状の三次元細胞構造体に関する研究開発が活発に行われている。例えば、特許文献1には均一な直径を有する三次元細胞構造体の作製方法が提案されている。また、特許文献2には均一な直径を有する三次元細胞構造体を培養する方法が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−226293公報
【特許文献2】特開平05−227006号公報
【非特許文献1】抽出ヒト組織・細胞を用いた非臨床研究 株式会社エス・アール・シー出版 pp261−279
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の方法によっても次のような課題があり、解決が望まれていた。
特許文献1に記載された方法は、実質細胞と、さらに1種類以上の細胞を用いて共培養し、三次元細胞構造体を得る方法であるが、培養に際し2種類以上の細胞を準備する必要があることから、多くの手間を要するだけでなく、肝細胞以外の細胞による薬物等の検査への影響が懸念される。
【0009】
特許文献2に記載された方法は、高粘度の培養液を使用し、回転培養法、還流培養法及び、浮遊培養法で培養する方法である。そのため、高粘度の培養液を使用するため、培地交換時の操作性に劣る、さらに、特殊な装置が必要になるという欠点があり、万人が用いることは困難である、
【0010】
したがって、本発明は、これら欠点を解消する簡便な方法で、均一な大きさを有する三次元細胞構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる細胞培養方法は、(A)生存率が70%以上の細胞集団を密度勾配遠心法により濃縮、分離する工程から得られた細胞集団を、(B)有効底面積が0.01〜0.1mmの小領域を有する支持体に播種し、(C)培養する工程である。前記工程(B)において、密度勾配遠心法は遠心力が100×g以下であるのが好ましい。
【0012】
本発明の工程(C)は、
(i);細胞を接着させるために培養する工程と、
(ii);非接着性細胞を除去する工程と、
(iii);三次元細胞構造体を形成させるために培養する工程とからなっていても良い。
ここで、「細胞を接着させるために培養する工程(i)」の時間は、細胞を接着させることができればよく、用いられる細胞に応じて選択することができ、その時間は限定されるものではない。
【0013】
本発明の工程(B)においては、細胞の播種密度が1×10個から1×10個/cmであるのが好ましい。また、前記小領域の表面の全体又は一部が、有機膜又は無機膜を備えたものであるのが好ましい。
【0014】
さらに、本発明における前記細胞集団は、ヒト肝実質細胞であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、均一な大きさを有する高密度な三次元細胞構造体を簡便な方法で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、以降の図における各部材の材料、サイズや比率は、一例であり、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明で培養する細胞集団は、三次元細胞構造体を形成するものであれば特に制限はないが、有用性の観点から、実質細胞であるのが好ましく、特に肝細胞であるのが好ましく、さらにはヒトの肝実質細胞であるのが好ましい。
【0018】
生存率が70%以上の細胞集団の由来は、生体から分離した初代細胞でもよく、生体から分離した後に凍結したものを融解して得られた初代細胞でもよく、これらを継代した培養細胞でもよく、市販されている株化細胞を継代した培養細胞でもよいが、生体外から分離された直後から、細胞の機能は低下または変化することが知られているため、より生体内に近い機能を有する三次元細胞構造体を得るには、生体から分離した直後の初代細胞または生体から分離した後凍結したものを融解して得られた初代細胞の方が好ましく、生体から分離した直後の初代細胞がより好ましい。
【0019】
本発明に用いられる細胞の生存率は70%以下の細胞集団の場合、生存している細胞であっても、表面の膜タンパクなど損傷を受け、細胞播種後の細胞接着性に劣ることから少なくとも70%以上必要であり、密度勾配遠心法による前処理による細胞回収効率の観点から、80%以上がより好ましい。初期の細胞集団の生存率が70%以下のときは、70%以上の生存率に精製した後に本発明に供すればよい。細胞を精製する方法としては、細胞の比重を利用して分離する方法、または、例えば細胞を標識しマイクロビーズやセルソータなどを用いて分離する方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
工程(B)における密度勾配遠心法に用いられる溶液は、例えば、Percoll(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)(PercollはGEヘルスケアバイオサイエンス社の登録商標)、Iodixanol溶液(Axis−Shield社製)などが市販されているがこれらに限定されるものではない。
また、工程(B)において密度勾配遠心法は、細胞が受けるダメージの観点から遠心力が100×g以下で行うことが好ましく、50×g以下で行うことがより好ましい。遠心力の下限値は特に制限はないが、処理時間の観点から20×g以上で行うことが好ましい。
【0021】
ここで、工程(C)における(i)細胞を接着させるために培養する工程について説明する。この工程は、播種した細胞が接着すればよく、30分以下の場合、未接着の細胞が(ii)の工程で除かれてしまい、細胞数が減少する。24時間以上の場合、細胞の内部液が培地中に漏出するため、正常な細胞の細胞死を招く恐れがあることから、30分以上24時間以内が好ましく、1時間から8時間がより好ましい。
【0022】
用いられる培地は、血清を含む血清を含んだ培地や、栄養分を添加した無血清培地等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の(A)、(B)、(C)の各工程で用いる培地は、全て同じ種類の培地を用いてもよく、例えば(A)では無血清培地、(B)では血清入りの培地、(C)では無血清培地、といった、各工程で異なる培地を組合せてもよく、または、(A)では無血清培地、(B)、(C)では無血清培地のように組合せてもよく、培地の組合せはこれらに限定されるものではない。
【0024】
次いで、小領域の形状について図1、2を用いて説明する。図1は、小領域を有する支持体の構成を示す平面図であり、図2は図1のX−X’断面図である。図1に示すように、小領域を有する支持体は、マイクロ容器11、側壁12、開口部13を備える。小領域を有する支持体の10の培養面には、複数の側壁12が網目状に形成されており、この側壁12に四方を囲われた空間がマイクロ容器11となる。また、各マイクロ容器11の四辺に形成された側壁12の各辺の中央部に、開口部13が形成されている。
【0025】
図1において、マイクロ容器11の底部の幅a、マイクロ容器11を区画するための側壁12の幅b、高さc、隣接するマイクロ容器11が互いに連通するための開口部13の幅dを示した。本発明における底部面積とは、マイクロ容器開口水平面(側壁12上面と同一面)に垂直方向に上方から容器底へ平行光を照射した際の投影面積のことをいう。例えば、マイクロ容器の底がU字形状である場合、その開口面に垂直方向な上方より底に入射した平行光が投影する形状が底部面積となる。投影底部の長径及び短径とは、円及び楕円の場合、その重心を通る長軸及び短軸と円周との交点の各軸上の距離を長径及び短径といい、多角形の場合、その多角形の面積との差が最小となり各頂点を通る外挿円又は外挿楕円の長径および短径をいい、各頂点を通る外挿円又は外挿楕円を描けない場合は、最も多くの頂点を通る近似円又は楕円の長径および短径をいう
【0026】
支持体の小領域の底面積及び高さは、所望する三次元細胞構造体の直径に応じて種々の大きさを選択することが可能であるが、細胞間相互作用観点から細胞少なくとも、1小領域当たり最小2個〜最大10個、三次元細胞構造体の大きさで50μm〜150μmの直径の範囲が好ましい。そのため、小領域の直径または一辺は、70μm〜300μmの範囲で小領域の高さは、20μm〜50μmが好ましい。
【0027】
マイクロ容器11の水平面と側壁12とがなす角度は、細胞が乗り上げない角度でなければならないため、側面の上部から50%以上の部分は80〜90°が好ましく、特に、85°〜90°であることが好ましい。
【0028】
図3において、隣接するマイクロ容器11を互いに連通するための開口部13の幅dは、培養細胞が最初に播種されたマイクロ容器11から隣接するマイクロ容器11に移動できない程度であればよい。1個の細胞の直径が10〜20μmであることから、この直径より小さい5〜15μmであることが好ましい。なお、開口部13は必須ではなく、図3及び図4に示すように、マイクロ容器11の四辺が側壁12により完全に囲まれていてもよい。ここで、図3は、本実施の形態に係る小領域を有する支持体の構成を示す平面図であり、図4は図1のY−Y’断面図である。
【0029】
小領域を有する支持体の作製方法は、モールドを用いた転写成形、3次元光造形、精密機械切削、ウェットエッチング、ドライエッチング、レーザー加工、放電加工等が挙げられるが、精度、コストの面から、モールドを用いた転写成型が好ましい。
【0030】
モールドを用いる転写成形方法の具体例としては、金属構造体を型として樹脂成形で小領域を形成する方法が挙げられる。この方法は金属構造体の形状を高い転写率で樹脂に小領域を再現することが可能であり、また汎用の樹脂材料を使用することにより材料コストを低くできるので好ましい。このような金属構造体の型を用いる方法は、低コストであり、高い寸法精度を満足できる点で優れている。
【0031】
上記金属構造体の製造方法としては、例えば、フォトリソグラフィによって作製されたレジストパターンや3次元光造形によって作製された樹脂パターンへのメッキ処理、精密機械切削、ウェットエッチング、ドライエッチング、レーザー加工、放電加工等が挙げられる。用途、要求される加工精度、コスト等から、フォトリソグラフィによって作製されたレジストパターンへのメッキ処理が好ましい。
【0032】
上記で得られた金属構造体を型として用いて樹脂へ小領域を成形する方法として例えば、射出成形、プレス成形、モノマーキャスト成形、溶剤キャスト成形、ホットエンボス成形、押出成形によるロール転写等の方法を挙げることができる。生産性及び型転写性の観点から射出成形を採用することが好ましい。
【0033】
小領域を有する支持体を構成する材料としては、コスト面から合成樹脂のほうが好ましく、培養時の細胞形態観察の面から、透過性の高い合成樹脂が好ましい。このような合成樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、シクロオレフィン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のエステル系樹脂、ポリジメチルシロキサン等のシリコン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられるが、コスト、透明性の面から、アクリル系樹脂またはスチレン系樹脂がより好ましい。
【0034】
小領域を有する支持体の表面は、細胞親和性の観点から、改質やコーティング処理がなされている方が好ましい。これらに用いられる物質としては、ガラスなどの無機物質、ポリ−L−リシンやポリエチレングリコール(PEG)などの合成物質、コラーゲンやフィブロネクチンといった細胞外マトリクス等が挙げられるが、コスト、操作性の観点から、ポリ−L−リシンやPEGなどの合成物質がより好ましい。より好ましくは、合成樹脂の場合、細胞親和性物質を均一にコートするために、ガラスなどにより表面を親水化した方がよく、コート物質としては、コストの観点から、ポリ−L−リシンやPEGなどの親水性の合成物質が良い。
【実施例】
【0035】
本発明者らは、鋭意研究した結果、(A)生存率が70%以上の細胞集団を密度勾配遠心法により濃縮、分離する工程から得られた細胞集団を(B)有効底面積が0.01〜0.1mmの小領域を有する支持体に播種する工程と、(C)培養する工程を含む、三次元細胞構造体の作製方法を提供するに至った。以下に本発明の実施例を示す。
【0036】
<小領域を有する支持体の作製>
図3に示す凹凸パターン形状であって、a=200μm、b=20μm、c=50μm
のパターンをフォトリソグラフィにより作製し、Ni電解メッキを行い、対応する凹凸形状を有する金型を得た。その金型を用い、ホットエンボス成形によりポリスチレン上に凹凸パターン形状の転写を行い、前記寸法の樹脂基材を作製した。その樹脂基材表面へ真空蒸着により二酸化ケイ素膜を100nm形成させ、γ線滅菌を行い、小領域を有する支持体を得た。この支持体を24ウェルプレート(FALCON社製)の各ウェルに、培養表面を上にしてセットした。0.01%のポリ−L−リシン(SIGMA社製)を300μLづつ添加した後、4℃で24時間インキュベートする。24時間後、リン酸緩衝液(GIBCO社製)で3回洗浄した。
【0037】
<細胞数及び生存率の測定>
トリパンブルー(GIBCO社製)を用いて死細胞を染色し、総細胞数(死細胞数と生細胞数)および死細胞の数を計数して、総細胞数に占める生細胞数の割合を生存率とした。生細胞数の数を細胞数とした。
【0038】
<細胞の採取>
6週例、オスのウィスターラットから、2段階コラゲナーゼ灌流法により肝細胞を分離した。具体的には次のようにして行なった。ウィスターラットは麻酔下で開腹し、門脈よりカニューレを入れ、37度に加温した前還流液(0.01M HEPES(DOJINDO社製)、0.5mM EGTA(DOJINDO社製)、ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO社製)、1g/L グルコース(和光純薬社製)を含むカリウム及びカルシウム不含リン酸緩衝液)を、25mL/分の流速で流しはじめると同時に、肝動脈を切断した。前還流液150mLを流す。次に、37度に加温したコラゲナーゼ溶液(0.5g/L コラゲナーゼ(和光純薬社製)、0.05g/L トリプシンインヒビター(GIBCO社製)、0.01M HEPES(DOJINDO社製)、ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO社製)を含むカルシウム含有リン酸緩衝液)を30mL/分で50mL流した後、30mL/分で100mL流す。ラットから肝臓を切除し、10mLのDMEM(GIBCO社製)を入れた直径10cmのシャーレに入れた後、メスで肝臓を細かく切断した後、ガーゼで濾過した後、濾液と90mLのDMEMを45μmの金属製メッシュで濾過した。濾液を50mLの遠心チューブ(FALCON社製)2本に分注し、30×gで90秒間遠心処理をした。上澄みを廃棄し、再度DMEM溶液をそれぞれ40mL加え、攪拌した後、30×gで90秒間遠心処理をした。上澄みを廃棄し、DMEM/F12溶液をいれて、0.1×10個/mLの濃度の細胞懸濁液を作製した。このときの生存率は90±5%であった。
【0039】
<細胞培養>
培地は、播種培地(10%FBS、2mM L−グルタミン、10mM ニコチンアミド、50μM 2−メルカプトエタノール(SIGMA社製)、0.1μM デキサメタゾン(SIGMA社製)、26mM アスコルビン酸(SIGMA社製)、5mM HEPES(DOJINDO社製)、0.1μM インスリン(和光純薬社製)を含むDMEM/F12(SIGMA社製)溶液)と、維持培地(20ng/mL EGF(SIGMA社製)を含む播種培地)を使用した。細胞を含む播種培地を、それぞれのウェルに300μLづつ入れ、37度、二酸化炭素濃度が5%に制御されたインキュベータ内に入れ4時間インキュベートした後、非接着細胞を播種培地と共に吸い取り、新たに、維持培地をそれぞれ300μL入れ、37度、二酸化炭素濃度が5%に制御されたインキュベータ内に入れ5日間培養した。培地は2日に1回行い、5日間培養した。
【0040】
<観察>
透過型倒立顕微鏡(オリンパス社製)で、支持体の培養表面の全体を観察し、(a)50〜100μmの直径をもつ三次元細胞構造体と(b)50μm未満、150μm以上の直径をもつ三次元細胞構造体の数を測定した。1mmの三次元細胞構造体の個数を三次元細胞構造体密度とした。
【0041】
[実施例] 密度勾配遠心法による処理群
DMEM/F12溶液をいれて、細胞懸濁液を25mL、90%Percollを含むHBSS溶液(90% Percoll(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)、5.33mM KCl(和光純薬社製)、0.441mM KHPO(和光純薬社製)、4.17mM NaHCO(和光純薬社製)、137.9mM NaCl(和光純薬社製)、0.338mM NaHPO(和光純薬社製)、5.56mM D−Glucose(和光純薬社製)、0.0266mM フェノールレッド(和光純薬社製))24mLを混合し密度勾配遠心法用の溶液を作製した。得られた密度勾配遠心法用の溶液に対し転倒混和を5回行なった後、50×gで10分間遠心処理をし、上澄みを廃棄した(密度勾配遠心操作)。次に、DMEM/F12溶液を30mL加え、攪拌した後、50×gで1分間遠心処理をし、上澄みを廃棄した(洗浄操作)。この洗浄操作を合計2回行い、播種培地を用いて細胞数が、4×10個になるようにした後、培養を行なった。
【0042】
[比較例] 密度勾配遠心未処理群
細胞懸濁液10mLを50mLの遠心チューブに入れた後、50×gで1分間遠心処理をした後、上澄みを廃棄し(洗浄操作)、播種培地で、4×10個/mLになるように調製した後培養した。このときの生存率は90±5%であった。
【0043】
表1に実施例と比較例の5日後三次元細胞構造体の密度を示した。実施例は比較例の約2倍の密度を示した。また、実施例では、三次元細胞構造体のほとんどが、直径50〜100μmの三次元細胞構造体であった。一方、比較例では、直径50μm未満、100μm以上の三次元細胞構造体が多く存在しておりその密度は、実施例の約2倍であった。
【0044】
【表1】

【0045】
図5に実施例と比較例の三次元細胞構造体密度の経時変化を示した。実施例では、培養2日後から三次元細胞構造体の形成が確認されたが、比較例では、ほとんど観察されなかった。一方、比較例では、2日後ではほとんど三次元細胞構造体が形成されていなかった。3日後〜5日後にかけて実施例は比較例の2倍以上の三次元細胞構造体密度となった。
【0046】
図6に実施例と比較例の3日後及び5日後の形態写真を示した。三次元細胞構造体を矢印で示した。実施例では、培養3日後にきれいな球状の三次元細胞構造体が確認され、5日目には、ほとんどの小領域できれいな球状の三次元細胞構造体が確認できた。比較例では、3日後及びに三次元細胞構造体が確認されるものの、三次元細胞構造体形状のものは、実施例より格段に少なかった。
【0047】
三次元細胞構造体の密度が、2倍以上であるため、比較例で約2cmの底面積を有する24ウェルで試験を実施した場合、実施例では、その約半分の面積である1cmの底面積を有する48ウェルでの試験が可能となる。すなわち、試験可能なサンプル数が2倍となり、本発明は、薬物試験の効率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例に係る小領域を有する支持体の構成を示す平面図である。
【図2】実施例に係る小領域を有する支持体を示す断面図である。
【図3】実施例に係る小領域を有する支持体を示す平面図である。
【図4】実施例に係る小領域を有する支持体を示す断面図である。
【図5】実施例と比較例に係る三次元細胞構造体密度を示す図である。
【図6】実施例と比較例に係る三次元細胞構造体の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 肝細胞培養容器
11 マイクロ容器
12 側壁
13 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A);生存率が70%以上の細胞集団を密度勾配遠心法により濃縮、分離する工程と、
(B);工程(A)で得られた細胞集団を有効底面積が0.01〜0.1mmの小領域を有する支持体に播種する工程と、
(C);工程(B)で播種された細胞を培養する工程と
を含む、三次元細胞構造体の作製方法。
【請求項2】
前記工程(A)における密度勾配遠心法の遠心力が、100×g以下である請求項1に記載の三次元細胞構造体の作製方法。
【請求項3】
前記(C)の培養工程が、
(i);細胞を接着させるために培養する工程と、
(ii);非接着性細胞を除去する工程と、
(iii);三次元細胞構造体を形成させるために培養する工程と
からなる請求項1に記載の三次元細胞構造体の作製方法。
【請求項4】
前記工程(B)において、細胞の播種密度が1×10個から1×10個/cmである請求項1に記載の三次元細胞構造体の作製方法。
【請求項5】
前記工程(B)における前記小領域の表面の全体又は一部が、有機膜又は無機膜を備えたものである請求項1に記載の三次元細胞構造体の作製方法。
【請求項6】
前記細胞集団が実質細胞である請求項1〜5のいずれか1項に記載の三次元細胞構造体の作製方法。
【請求項7】
前記実質細胞が肝細胞である請求項6に記載の三次元細胞構造体の作製方法。
【請求項8】
前記肝細胞がヒト、サル、チンパンジー、ラット、マウス、ハムスター、ウシ、ブタ、ヒツジ若しくはこれらのキメラ動物である請求項7に記載の三次元細胞構造体の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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