説明

三相電力測定装置

【課題】ローパスフィルタを用いることなく三相交流に関連した各種項目の測定が行える三相電力測定装置を実現する。
【解決手段】三相の電圧と電流が入力されるA/D変換器1〜6と、電圧と電流を乗算する乗算部7〜9と、乗算部7〜9出力の電力加算部10と、電力加算部10出力が入力される電力ローパスフィルタ11と、A/D変換器1〜6出力を自乗する自乗部12〜14、19〜21と、自乗部12〜14出力の電圧加算部15と、電圧加算部15出力を平均演算する電圧平均部16と、電圧平均部16出力が入力される電圧ローパスフィルタ17と、電圧ローパスフィルタ17出力が入力される電圧平方根部18と、自乗部19〜21出力の電流加算部22と、電流加算部22出力を平均演算する電流平均部23と、電流平均部23出力が入力される電流ローパスフィルタ24と、電流ローパスフィルタ24の出力が入力される電流平方根部25、を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相電力測定装置に関し、詳しくは、測定の多機能化に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、特許文献1に記載されている従来の三相交流電力測定装置の一例を示すブロック図である。図6において、A/D変換器1にはR相の相電圧uRが入力されてA/D変換器2にはR相の相電流iRが入力され、A/D変換器3にはS相の相電圧uSが入力されてA/D変換器4にはS相の相電流iSが入力され、A/D変換器5にはT相の相電圧uTが入力されてA/D変換器6にはT相の相電流iTが入力される。ここで、R、S、Tは三相交流の各相を表し、uは電圧を表し、iは電流を表している。
【0003】
乗算部7にはA/D変換器1と2の出力が入力され、これらを乗算することによりR相の瞬時電力を演算する。乗算部8にはA/D変換器3と4の出力が入力され、これらを乗算することによりS相の瞬時電力を演算する。乗算部9にはA/D変換器5と6の出力が入力され、これらを乗算することによりT相の瞬時電力を演算する。
【0004】
加算部10には乗算部7、8、9の出力が入力されてこれらが加算され、三相の瞬時有効電力が出力される。
【0005】
ローパスフィルタ11には加算部10の出力が入力されて平滑され、三相の有効電力が出力される。
【0006】
特許文献1の記載によれば、このような構成において、三相電圧uR、uS、uTの振幅が等しくて位相が互いに120°ずれており、かつ、三相電流iR、iS、iTも振幅が等しくて位相が120°ずれている平衡三相状態では、ローパスフィルタ11がなくても加算部10の出力が有効電力となる。つまり、平衡三相では、ローパスフィルタ11をなくすことにより、ローパスフィルタ11による遅れがない状態で、三相交流の有効電力を測定することができる(段落0034)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−170097
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載されている図6に示す従来のブロック図の動作説明は、ローパスフィルタ11を必要としない平衡三相状態での三相4線結線における有効電力の測定のみである。
【0009】
しかし、三相電力測定装置として必要な測定機能は、前述のような三相4線結線における有効電力に限るものではなく、電圧/電流から求められる皮相電力、電圧/電流/有効電力から求められる力率、無効電力なども同時に測定することが求められる。
【0010】
また、三相3線結線測定も必要であり、さらに、R相、S相、T相の平均相電圧(実効値)や平均相電流(実効値)も測定できることが望ましい。
【0011】
本発明は、これらの課題を解決するものであり、その目的は、ローパスフィルタを用いることなく三相交流に関連した各種項目の測定が行える三相電力測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
三相の各相電圧uR、uS、uTと各相電流iR、iS、iTがそれぞれ入力される複数のA/D変換器と、
各相毎に電圧と電流を乗算して瞬時電力を算出する複数の乗算部と、
これら乗算部の出力を加算する電力加算部と、
この電力加算部の出力が入力される電力ローパスフィルタと、
前記A/D変換器の変換出力を自乗する複数の自乗部と、
これら自乗部で自乗された各相電圧uR、uS、uTを加算する電圧加算部と、
この電圧加算部の加算出力を平均演算する電圧平均部と、
この電圧平均部の平均出力が入力される電圧ローパスフィルタと、
この電圧ローパスフィルタの出力が入力される電圧平方根部と、
前記自乗部で自乗された各相電流iR、iS、iTを加算する電流加算部と、
この電流加算部の加算出力を平均演算する電流平均部と、
この電流平均部の平均出力が入力される電流ローパスフィルタと、
この電流ローパスフィルタの出力が入力される電流平方根部、
を設けたことを特徴とする三相電力測定装置である。
【0013】
請求項2記載の発明は、
三相の各相間電圧uRT、uST、uRSと各相電流iR、iS、iTがそれぞれ入力される複数のA/D変換器と、
2系統の相間電圧と電流を乗算して2系統の瞬時電力を算出する2系統の乗算部と、
これら2系統の乗算部の出力を加算する電力加算部と、
この電力加算部の出力が入力される電力ローパスフィルタと、
前記A/D変換器の変換出力を自乗する複数の自乗部と、
これら自乗部で自乗された各相間電圧uRT、uST、uRSを加算する相間電圧加算部と、
この相間電圧加算部の加算出力を平均演算する相間電圧平均部と、
この相間電圧平均部の平均出力が入力される相間電圧ローパスフィルタと、
この相間電圧ローパスフィルタの出力が入力される相間電圧平方根部と、
前記自乗部で自乗された各相電流iR、iS、iTを加算する電流加算部と、
この電流加算部の加算出力を平均演算する電流平均部と、
この電流平均部の平均出力が入力される電流ローパスフィルタと、
この電流ローパスフィルタの出力が入力される電流平方根部、
を設けたことを特徴とする三相電力測定装置である。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の三相電力測定装置において、
前記ローパスフィルタは、オン/オフ設定可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
これらの構成により、ローパスフィルタを用いることなく三相交流に関連した各種項目の測定が行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】図1の装置の動作波形例図である。
【図3】本発明の他の実施例を示すブロック図である。
【図4】図3の装置の動作波形例図である。
【図5】図3の装置の他の動作波形例図である。
【図6】従来の三相交流電力測定装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図6と共通する部分には同一の符号を付けている。図1において、相電圧uR、uS、uTが入力されるA/D変換器1、3、5にはそれぞれ自乗部12、13、14が接続され、相電流iR、iS、iTが入力されるA/D変換器2、4、6にはそれぞれ自乗部19、20、21が接続されている。
【0018】
各相電圧uR、uS、uTに関連した自乗部12、13、14の自乗出力は加算部15に入力されて加算され、加算部15の出力は平均部16に入力され「3」で除算されて平均化される。平均部16の出力は、オン/オフ可能に構成されたローパスフィルタ17を介して平方根部18に入力される。平方根部18は、(1)式で表されるような各相電圧uR、uS、uTの自乗和の1/3の平方根を求める演算を行い、平均相電圧(実効値)Uを算出する。
【0019】

【0020】
三相電圧uR、uS、uTの振幅が等しくて位相が互いに120°ずれている平衡三相状態では、ローパスフィルタ17がオフで遅れなしの状態であっても平方根部18の出力は図2の動作波形例図に示すように一定値となり、平均相電圧(実効値)Uとなる。
【0021】
ローパスフィルタ17は、オンのときにカットオフ周波数を任意の値に設定できるように構成されている。これにより、三相交流が平衡三相でないときに発生する平均部16の出力のふらつきを、ローパスフィルタ17をオンにすることで、ローパスフィルタ17に設定されているカットオフ周波数の特性に基づき平滑化できる。
【0022】
各相電流iR、iS、iTに関連した自乗部19、20、21の自乗出力は加算部22に入力されて加算され、加算部22の出力は平均部23に入力され「3」で除算されて平均化される。平均部23の出力は、オン/オフ可能に構成されたローパスフィルタ24を介して平方根部25に入力される。平方根部25は、(2)式で表されるような各相電流iR、iS、iTの自乗和の1/3の平方根を求める演算を行い、平均相電流(実効値)Iを算出する。
【0023】

【0024】
ローパスフィルタ24は、オンのときにカットオフ周波数を任意の値に設定できるように構成されている。これにより、三相交流が平衡三相でないときに発生する平均部23の出力のふらつきを、ローパスフィルタ24をオンにすることで、ローパスフィルタ24に設定されているカットオフ周波数の特性に基づき平滑化できる。
【0025】
図3は本発明の他の実施例を示すブロック図であり、三相3線結線時の有効電力、平均線間電圧(実効値)、平均相電流(実効値)を測定可能としたものであって、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図3において、A/D変換器1にはR相T相間の線間電圧uRTが入力され、A/D変換器3にはS相T相間の線間電圧uSTが入力され、A/D変換器5にはR相S相間の線間電圧uRSが入力されている。そして、図1で設けられていた乗算部9が削除され、加算部10には乗算部7と8の出力が入力されている。
【0026】
図3の加算部10の出力に着目すると、ブロンデルの定理に基づき、三相の瞬時電力が出力される。ローパスフィルタ11では三相の瞬時電力が平滑され、三相の有効電力Pが出力される。ローパスフィルタ11は、他のローパスフィルタ14、24と同様にオン/オフ設定可能にして、オンのときにカットオフ周波数を任意の値に設定できるように構成してもよい。
【0027】
これにより、各相電圧uR、uS、uTの振幅が等しくて位相が互いに120°ずれていて、各相電流iR、iS、iTも振幅が等しくて位相が互いに120°ずれている平衡三相状態の場合には、ローパスフィルタ11がオフであっても、図4の動作波形例図に示すように加算部10の出力が一定値となり、有効電力Pとなる。なお、この有効電力Pは、(3)式で表される。
【0028】

【0029】
平衡三相でないときには加算部10の出力にゆらぎが発生するが、ローパスフィルタ11をオンにして平滑化することにより、安定した測定値を得ることができる。
【0030】
また、三相3線結線の平均線間電圧(実効値)についても、RT間、ST間、RS間の3つの線間電圧を測定することにより、平衡三相の場合、ローパスフィルタ17がオフであっても、図5の動作波形例図に示すように遅れなしで平方根部18の出力が一定値となり、平均線間電圧(実効値)Uとなる。なお、この平均線間電圧(実効値)Uは、(4)式で表される。
【0031】

【0032】
平衡三相でないときには平方根部18の出力にゆらぎが発生するが、ローパスフィルタ17をオンにして平滑化することにより、安定した測定値を得ることができる。
【0033】
さらに、本発明により求めた電圧U、電流I、有効電力Pを用いることにより、以下に示す演算式に基づいて、皮相電力S、力率λ、無効電力Qも測定できる。
【0034】
皮相電力S=U×I (5)
力率=P/(U×I) (6)
【0035】

【0036】
以上説明したように、本発明によれば、ローパスフィルタを用いることなく三相交流電力に関連した各種項目の測定が行える三相電力測定装置が実現でき、三相交流を用いる現場での測定装置として好適である。
【符号の説明】
【0037】
1〜6 A/D変換器
7〜9 乗算部
10、15、22 加算部
11、17、24 ローパスフィルタ
12〜14、19〜21 自乗部
16、23 平均部
18、25 平方根部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相の各相電圧uR、uS、uTと各相電流iR、iS、iTがそれぞれ入力される複数のA/D変換器と、
各相毎に電圧と電流を乗算して瞬時電力を算出する複数の乗算部と、
これら乗算部の出力を加算する電力加算部と、
この電力加算部の出力が入力される電力ローパスフィルタと、
前記A/D変換器の変換出力を自乗する複数の自乗部と、
これら自乗部で自乗された各相電圧uR、uS、uTを加算する電圧加算部と、
この電圧加算部の加算出力を平均演算する電圧平均部と、
この電圧平均部の平均出力が入力される電圧ローパスフィルタと、
この電圧ローパスフィルタの出力が入力される電圧平方根部と、
前記自乗部で自乗された各相電流iR、iS、iTを加算する電流加算部と、
この電流加算部の加算出力を平均演算する電流平均部と、
この電流平均部の平均出力が入力される電流ローパスフィルタと、
この電流ローパスフィルタの出力が入力される電流平方根部、
を設けたことを特徴とする三相電力測定装置。
【請求項2】
三相の各相間電圧uRT、uST、uRSと各相電流iR、iS、iTがそれぞれ入力される複数のA/D変換器と、
2系統の相間電圧と電流を乗算して2系統の瞬時電力を算出する2系統の乗算部と、
これら2系統の乗算部の出力を加算する電力加算部と、
この電力加算部の出力が入力される電力ローパスフィルタと、
前記A/D変換器の変換出力を自乗する複数の自乗部と、
これら自乗部で自乗された各相間電圧uRT、uST、uRSを加算する相間電圧加算部と、
この相間電圧加算部の加算出力を平均演算する相間電圧平均部と、
この相間電圧平均部の平均出力が入力される相間電圧ローパスフィルタと、
この相間電圧ローパスフィルタの出力が入力される相間電圧平方根部と、
前記自乗部で自乗された各相電流iR、iS、iTを加算する電流加算部と、
この電流加算部の加算出力を平均演算する電流平均部と、
この電流平均部の平均出力が入力される電流ローパスフィルタと、
この電流ローパスフィルタの出力が入力される電流平方根部、
を設けたことを特徴とする三相電力測定装置。
【請求項3】
前記ローパスフィルタは、オン/オフ設定可能に構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の三相電力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−44676(P2013−44676A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183859(P2011−183859)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(596157780)横河メータ&インスツルメンツ株式会社 (43)
【上記1名の代理人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社