説明

上水道における浄水方式

【目的】上水道処理システムにおける浄水プロセスを膜分離により行う場合、膜に破損が生じても透過水質の低下並びに二次汚染による透過速度の低下を充分に抑制できる上水道における浄水方式を提供する。
【構成】原水を分離膜で濾過して浄水を生成する方法において、予備分を含めた複数台の膜分離装置を並列に接続し、正常時においては、予備分を除いた膜分離装置を、各膜分離装置ごとの透過水の水質を検出しつつ運転し、各膜分離装置の透過水を集合のうえ殺菌剤添加ステ−ションを経て浄水池に供給し、上記運転中の何れかの膜分離装置に膜破損が生じたときには、その膜分離装置の透過水の水質変化により当該膜破損を検知し、当該膜損傷を生じた膜分離装置の運転を停止すると共に上記予備の膜分離装置を運転し、上記殺菌剤添加ステ−ションでの殺菌剤添加量を一時的に増加する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は上水道処理システムにおける浄水プロセスを膜分離により行う浄水方式に関するものである。
【0002】
【従来の技術】伝統的な上水道処理システムにおいては、河川水、湖沼水または地下水等の原水に凝集剤を添加し、原水中の微細な汚濁物質を凝集させてフロックを形成し、このフロックを沈殿池で沈殿分離し、その上澄み水を砂濾過層で浄化し、最終的に塩素を添加して殺菌処理を行い、配水している。
【0003】しかしながら、近年、河川水等の上水道の原水が、生活排水、工業排水、農業排水等で汚染され、夏期での藻類等の発生によるカビ臭や、水中の有機物と殺菌用塩素とが反応して生成する有機塩素化合物のトリハロメタン等(発ガン性物質と云われている)が、社会的問題として大きくクロ−ズアップされている。そのほか、広大な敷地を必要とする、原水水質が季節や天候の影響を受け、安定な上水供給のために多大の労力を必要とする等の不具合もある。
【0004】そこで、上水道処理システムにおける浄水プロセスを膜分離により行うことが提案されている。この膜分離によれば、細菌類までも除去でき、殺菌用塩素の添加量が少量で済むので、トリハロメタンの生成を軽減できる。また、敷地面積も少なくて済み、更に、原水水質に影響されずに安定した水質の上水を供給できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本発明者等の実験結果によれば、膜分離装置を使用して河川水等の原水を浄化する場合、膜の破損が全膜面面積のごく僅か(数千分の1程度)であっても、透過水中の細菌類数が多くなって多量に薬剤を添加する必要があり、また透過側での細菌類の繁殖による膜汚染(二次汚染)のために透過水量の顕著な低下が避けられない。
【0006】即ち、中空糸膜1500本、膜面積7.5m2の中空糸膜型モジュ−ルを、全濾過方式で運転し、かつ、30分に一回の頻度で膜洗浄(透過水を使用しての逆洗と空気洗浄との併用)して、濁度10〜30度の河川水を濾過する実験を、健全モジュ−ルと、上記中空糸膜1500本中の1本を破断したモジュ−ルとのそれぞれについて行い、透過水中の細菌数を零にするのに必要な塩素添加量を測定したところ、図1の(イ)の通りであり(健全モジュ−ルでの必要量を1としたときの、損傷モジュ−ルでの必要量)、また透過水量(初期透過水量との比)を測定したところ、図1の(ロ)の通りであった。
【0007】この実験結果から明らかなように、上水道処理システムにおける浄水プロセスを膜分離により行う場合、ごく僅かの原水リ−クでも、殺菌用塩素添加量の低減によるトリハロメタンの生成軽減、安定した上水供給等の効果を充分に発揮できず、浄水プロセスに単に分離膜を使用するだけでは、上記した伝統的な上水道処理システムの不利を排除できない。
【0008】本発明の目的は、上水道処理システムにおける浄水プロセスを膜分離により行う場合、膜に破損が生じても透過水質の低下並びに二次汚染による透過速度の低下を充分に抑制できる上水道における浄水方式を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の上水道における浄水方式は、河川水、湖沼水または地下水等を原水とし、該原水を分離膜で濾過して浄水を生成する方法において、予備分を含めた複数台の膜分離装置を並列に接続し、正常時においては、予備分を除いた膜分離装置を、各膜分離装置ごとの透過水の水質を検出しつつ運転し、各膜分離装置の透過水を集合のうえ殺菌剤添加ステ−ションを経て浄水池に供給し、上記運転中の何れかの膜分離装置に膜破損が生じたときには、その膜分離装置の透過水の水質変化により当該膜破損を検知し、当該膜損傷を生じた膜分離装置の運転を停止すると共に上記予備の膜分離装置を運転し、上記殺菌剤添加ステ−ションでの殺菌剤添加量を一時的に増加することを特徴とする構成であり、透過水の水質の検出には、濁度計を使用するか、透過水を濾過して測定する懸濁物質濃度、ファウリングインデックスまたはプラッギングインデックスを使用することができる。また、透過水貯槽を設け、膜洗浄を貯槽内透過水を使用しての逆洗により行い、何れかの膜分離装置の膜損傷後、当該膜分離装置の運転が停止されるまでの間、当該膜分離装置の透過側から液が流入された透過水貯槽内から貯水を排出し、健全な透過水と置換することができる。
【0010】
【作用】膜破損が生じた膜分離装置を、各分離装置ごとの透過水の水質検出により迅速に検知でき、この検知による破損膜分離装置の運転停止と予備の膜分離装置の運転開始とで、実質上、正常な状態に回復でき、膜破損が生じた膜分離装置での原水の素通りを短時間にとどめ得る。従って、殺菌剤添加量の増量が少なくても済む。
【0011】また、逆洗用の洗浄水(貯槽内透過水)を細菌類を実質上含まない健全な水質に保証できるので、所謂、膜逆洗に伴う二次汚染の畏れなく、透過水量をよく保証できる。
【0012】
【実施例】以下、図面により本発明の実施例を説明する。図2は本発明において使用する浄水設備を示している。図2において、1,…は予備分も含めて並列に接続した膜分離装置であり、各膜分離装置においては、独立して運転できるように、独自の原水供給配管11、原水加圧ポンプ、透過水取出し配管等を有し、全濾過またはクロスフロ−濾過で運転される。2は原水供給主管である。3,…は各膜分離装置の透過水取出し配管に設けた高感度水質モニタ−、4,…は透過水分岐管41を介して接続した透過水貯槽である。
【0013】この透過水貯槽4においては、ポンプまたは加圧空気により、槽内透過水を各膜分離装置の透過側に圧送して膜を逆洗する場合に使用され、42は各透過水貯槽4に設けた逆洗用配管を示している。43は各透過水貯槽4に設けた排水管である。
【0014】5は透過水合流管、6は合流管に設けた水質モニタ−、7は薬剤添加ステ−ション、8は浄水池、9は上水の配水ラインである。
【0015】上記において、一台の膜分離装置1に対して一個の透過水貯槽4を設けているが、一個の透過水貯槽を数台の膜分離装置に対して共用することも可能である。
【0016】上記の高感度水質モニタ−3,6には、光散乱等を利用する濁度計、または、透過水を分流し、これをフィルタ−で濾過して懸濁物質濃度、ファウリングインデックスまたはプラッギングインデックス等を自動的に計測する計器を使用することができる。
【0017】本発明により原水を浄化するには、河川水、湖沼水または地下水等の原水を直接または必要に応じ凝集剤を添加したうえで原水供給主管2より供給し、膜分離装置1,…を予備分を除いて各膜分離装置1のポンプ12の駆動により運転し、各膜分離装置1においてそのポンプ12による膜間差圧のもとで原水を濾過し、各膜分離装置1の透過水をその水質を水質モニタ−3で検出しつつ合流管5で合流させ、この合流透過水を薬剤添加ステ−ション7にて薬剤を添加しつつ浄水池8に輸送していく。
【0018】この場合、各膜分離装置1からの透過水の一部を各透過水貯槽4に貯え、この貯槽内透過水を適時、加圧ポンプまたは加圧空気により各膜分離装置1の透過側に圧送して膜を洗浄し、必要に応じ、空気洗浄も併用し、その後、その透過水貯槽4に透過水を補給しておく。
【0019】上記並列膜分離装置の何れかの膜分離装置の膜が破損すると、当該膜分離装置の透過水の水質が低下し、その水質低下を水質モニタ−3で検知し、この検知により当該膜破損を生じた膜分離装置の運転を直ちに停止すると共に予備の膜分離装置の運転を開始し、この間、薬剤添加ステ−ション7での薬剤添加量を一時的に増加する。この場合、膜破損を生じた膜分離装置の運転停止並びに予備の膜分離装置の運転開始は、水質モニタ−3との連携で自動的に行われ、また、薬剤添加量の増加量は合流管5での水質モニタ−6の検出値に応じて自動的に設定され、水質モニタ−6の検出値が平常値に達すると、その薬剤添加量も平常量に戻される。
【0020】なお、予備膜分離装置の運転開始により薬剤添加量を平常量に戻すようにしてもよい。また、膜破損を生じた膜分離装置の透過水が流入した透過水貯槽内を排水し、健全な透過水に置換しておく。(なお、一台の透過水貯槽を数台の膜分離装置に共用する場合、当該貯槽が健全な透過水と置換中であるときにその数台の何れかの膜分離装置の逆洗が必要とされるときは、適宜他の透過水貯槽が使用される)
【0021】本発明の浄水方式においては、膜分離(膜の孔径は0.2μm以下である)を使用しているから、原水中の細菌類を透過水からほぼ完全に除去でき、透過水中の細菌数をごく僅かに抑え得、薬剤添加ステ−ションでの薬剤(塩素)の平常添加量を少量にとどめ得る。
【0022】また、一の膜分離装置の膜が破損した場合でも、多数台の並列膜分離装置を使用しており、この一台の膜分離装置が分担する処理水量が、全処理水量の一部(並列運転台数をn台とすれば、1/n)であるから、一の膜分離装置の膜破損による原水リ−ク量をごく僅かにとどめ得、しかも、リ−ク発生後、その原水リ−クを生じた膜分離装置を迅速に停止すると共に予備の膜分離装置を速やかに始動しているから、原水浄化能力を低下させることなく、その原水のリ−ク継続時間を短時間に抑えることができる。従って、原水のリ−ク総量を充分に少なくでき、薬剤の増加添加量を少量にでき、透過水中に有機物が存在しても、反応する塩素の量が少ないために、トリハロメタン等の生成をごく僅かにとどめることができる。
【0023】そして、各膜分離装置を定期的に逆洗し、しかも、透過水貯槽内が膜分離装置の膜破損により細菌類で汚損されると、その貯槽内を健全な透過水で置換し、この健全な透過水で逆洗を行っているから、二次汚染も排除でき、従って、膜分離装置の透過流量を初期流量に対しよく保持でき、効率よく濾過できる。
【0024】
【発明の効果】本発明の上水道における浄水方式は、上述した通りの構成であり、並列接続の膜分離装置群の一の膜分離装置の透過水に水質異常が生じると、直ちにその膜分離装置の運転を停止すると共に予備の膜分離装置の運転を開始できるから、原水リ−ク量をごく僅かに抑えて、平常状態に復帰でき、復帰するまでの間での薬剤添加増量を充分に少なくでき、透過水中に有機物が存在しても、トリハロメタン等の生成をごく僅かにとどめ得る。
【0025】また、透過水貯槽に常に健全な透過水を貯え得、透過水逆洗時での透過側細菌汚染による膜汚損を回避でき、膜分離装置の透過速度を高く保持できるから、高い浄水処理能力を保証できる。
【0026】従って、膜破損が生じても、これに対処して当該膜分離利用の浄水プロセスの利点、即ち、トリハロメタンの生成の軽減、敷地面積の減少、原水水質に影響されない安定した水質の上水供給等の利点を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1の(イ)は、損傷膜モジユ−ルで河川水を浄化したときに透過水内の細菌数を零にするのに必要な塩素添加量(健全膜モジユ−ルでの塩素添加量との比)を示す図表、図1の(ロ)は、健全膜モジユ−ル並びに損傷膜モジュ−ルの透過水量比を示す図表である。
【図2】本発明において使用する浄化設備を示す説明図である。
【符号の説明】
1 膜分離装置
2 原水供給主管
3 透過水水質モニタ−
4 透過水貯槽
42 逆洗用配管
5 透過水合流管
7 薬剤添加ステ−ション
8 浄水池

【特許請求の範囲】
【請求項1】河川水、湖沼水または地下水等を原水とし、該原水を分離膜で濾過して浄水を生成する方法において、予備分を含めた複数台の膜分離装置を並列に接続し、平常時においては、予備分を除いた膜分離装置を、各膜分離装置ごとの透過水の水質を検出しつつ運転し、各膜分離装置の透過水を合流のうえ殺菌剤添加ステ−ションを経て浄水池に供給し、上記運転中の何れかの膜分離装置に膜破損が生じたときには、その膜分離装置の透過水の水質変化により当該膜破損を検知し、当該膜損傷を生じた膜分離装置の運転を停止すると共に上記予備の膜分離装置の運転を開始し、上記殺菌剤添加ステ−ションでの殺菌剤添加量を一時的に増加することを特徴とする上水道における浄水方式。
【請求項2】透過水の水質の検出に、濁度計を使用するか、透過水をフィルタ−で濾過して測定する懸濁物質濃度、ファウリングインデックスまたはプラッギングインデックスを使用する請求項1記載の上水道における浄水方式。
【請求項3】透過水貯槽を設け、膜洗浄を貯槽内透過水を使用しての逆洗により行い、何れかの膜分離装置の膜損傷後、当該膜分離装置の運転が停止されるまでの間、当該膜分離装置の透過側から液が流入された透過水貯槽内から貯水を排出し、健全な透過水と置換する請求項1又は2記載の上水道における浄水方式。

【図2】
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【図1】
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