説明

上皮癌の診断および予後診断のための方法

本発明は、シスタチンB、シャペロニン10、およびプロフィリンの3種のタンパク質が、上皮起源の癌である膀胱癌の患者の尿中に存在するという発見に基づいている。したがって、本発明は、生体試料中でのこれらのマーカーの存在をモニターすることにより、上皮起源の癌の予後評価を行う方法および上皮起源の癌の診断を容易にする方法に関する。本発明はまた、治療有効性についてのマーカーに関する。例えば、上皮起源の癌についての患者の診断を容易にするための方法であって、a.該患者から生体試料を得るステップと、b.該生体試料中での少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーの存在の有無を検出するステップとを含み、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーの存在は、上皮起源の癌を示し、該上皮性癌バイオマーカーが、シスタチンB、シャペロニン10、およびプロフィリンからなる群から選択される、方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、35U.S.C.第119条(e)の下で、2005年1月28日に出願された米国仮特許出願第60/648,110号の利益を主張するものである。
【0002】
(政府の援助)
本研究は、米国国立衛生研究所助成金番号2R37 CA37393により援助を受けたものである。政府は、本発明に対して特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
癌の生存において最も重要なファクターの1つは、初期段階での検出である。癌の初期事象を検出する臨床検査は、癌の進行に介入しそれを防止する機会を提供する。遺伝子プロファイル作成およびプロテオミクスの開発とともに、特定の癌の診断および予後診断に使用することができる分子マーカーまたは「バイオマーカー」の同定における著しい進歩が認められている。例えば、前立腺癌の場合、(前立腺特異的抗原の)抗原PSAを血中で検出することができ、その抗原により、前立腺癌の存在が示唆される。したがって、前立腺癌のリスクがある男性の血液を、PSAレベルの上昇について迅速、容易、かつ安全にスクリーニングすることができる。
【0004】
癌の検出の分野で著しい進歩が認められていても、臨床応用の際に容易に使用することができる、様々な癌についての新たなバイオマーカーを同定する必要が当技術分野において依然としてある。例えば、今まで、容易に検出可能なバイオマーカーを使用する乳癌の診断に利用可能な選択肢は比較的少数しかない。特にエストロゲン受容体の下方制御と連動したEGFRの過剰発現は、乳癌患者における予後不良のマーカーである。知られている他の乳癌のマーカーには、血中での高レベルのM2ピルビン酸キナーゼ(M2 PK)(特許文献1)、血中での高ZNF217タンパク質レベル(特許文献2)、診断に有用である、乳癌で新たに同定されたタンパク質PDEBCの差次的発現(特許文献3)がある。CEA、CA−125やHCGなどの細胞表面マーカーは、局所進行性および転移性の膀胱癌患者の血清中で頻繁に上昇し(非特許文献1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ−2(非特許文献2)、肝細胞成長因子(非特許文献3)、組織ポリペプチド抗原(非特許文献4)などの腫瘍関連タンパク質の循環レベルに関与する研究から展望が示されている。これらのバイオマーカーは、診断の代替方法を提供するが、それらは広範には使用されない。さらに、いくつかの組織化学的マーカー、遺伝子マーカー、および免疫学的マーカーの使用にもかかわらず、臨床家は、どの腫瘍が他の臓器に転移するかを予測するのに依然として苦労している。
【特許文献1】米国特許第6,358,683号明細書
【特許文献2】国際公開第98/02539号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0124543号明細書
【非特許文献1】Izesら、J Urol.、Jun;165(6 Pt 1):1908〜13、2001年
【非特許文献2】Gohjiら、Cancer Research、56:3196、1996年
【非特許文献3】Gohjiら、J. Clin. Oncol.、18:2963、2000年
【非特許文献4】Maulard−Durduxら、J. Clin. Oncol.、15:3446、1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
癌のバイオマーカーの同定は、その疾患の診断、予後診断および治療の向上にとって特に重要である。したがって、当技術分野において、迅速、容易、かつ安全に検出することができる代替のバイオマーカーを同定する必要がある。そのようなバイオマーカーは、膀胱癌であり、特に、その疾患の浸潤性かつ潜在的に転移性の段階にある対象の進行または治療の診断、病期判定、またはモニターに使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、シスタチンB、シャペロニン10、およびプロフィリンの3種のタンパク質(「上皮性癌マーカー」とも称される)が、上皮起源の癌である膀胱癌の患者の尿中に存在するという驚くべき発見に基づいている。したがって、本発明は、生体試料中でのこれらのマーカーの存在をモニターすることにより、上皮起源の癌の予後評価を行う方法および上皮起源の癌の診断を容易にする方法を対象とする。本発明はまた、治療有効性についてのマーカーをも対象とする。特に、尿中で検出されるシスタチンBの量は疾患状態と相関し、その結果、シスタチンBレベルを使用して、浸潤性膀胱癌の存在を予測することができる。したがって、尿中のシスタチンB、シャペロニン10、および/またはプロフィリンタンパク質のレベルを測定することにより、患者における膀胱癌の診断および予後診断の両方に使用することができる、迅速、容易、かつ安全なスクリーニングがもたらされる。あるいは、これらのマーカーが存在しないことにより、患者が膀胱癌でないことも示唆され得る。
【0007】
一実施形態では、患者における上皮起源の癌の診断を容易にする方法を提供する。その方法は、患者から生体試料、好ましくは排出尿検体を得るステップと、試料中での少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー(シスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリン)の存在の有無を検出するステップとを含み、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーの存在から、上皮起源の癌が示唆される。
【0008】
生体試料は、例えば、血液、組織(例えば腫瘍または胸部)、血清、糞便、尿、喀痰、脳脊髄液、乳頭吸引液および細胞溶解液の上清から得ることができる。好ましい生体試料の1つは尿である。
【0009】
本明細書において、「上皮起源の癌」とは、上皮細胞から生じる癌を指し、その癌には、それだけに限らないが、乳癌、基底細胞癌、腺癌、胃腸の癌、口唇癌、口腔癌、食道癌、小腸癌および胃癌、結腸癌、肝癌、膀胱癌、膵癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、扁平上皮癌や基底細胞癌などの乳癌および皮膚癌、前立腺癌、腎細胞癌、ならびに全身の上皮細胞に影響を及ぼす他の既知の癌がある。
【0010】
一実施形態では、患者における膀胱癌の診断を容易にする方法を提供する。その方法は、患者から生体試料、好ましくは排出尿検体を得るステップと、試料中での少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー(シスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリン)の存在の有無を検出するステップとを含み、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーの存在から、膀胱癌が示唆される。
【0011】
他の実施形態では、上皮起源の癌を診断する方法を提供する。その方法は、患者由来の生体試料(試験試料)中に存在する少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルを測定するステップと、少なくとも1種のマーカー(シスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリン)の観察されたレベルを、同じ型の対照試料中に存在するマーカーのレベルと比較するステップとを含む。対照試料と比較して試験試料中のマーカーのレベルが高いことにより、上皮起源の癌が示唆される。
【0012】
好ましい一実施形態では、本発明の方法を癌の初期検出に使用する。例えば、身体検査の間に、医師により患者をスクリーニングすることができる。
【0013】
一実施形態では、膀胱癌を診断する方法を提供する。その方法は、患者由来の生体試料(試験試料)中に存在する少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー(シスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリン)のレベルを測定するステップと、少なくとも1種のマーカーの観察されたレベルを、同じ型の対照試料中に存在するマーカーのレベルと比較するステップとを含む。対照試料と比較して試験試料中のマーカーのレベルが高いことにより、膀胱癌が示唆される。
【0014】
一実施形態では、患者において浸潤性膀胱癌を診断する方法を提供する。その方法は、患者から得られた生体試料(試験試料)中に存在するシスタチンB上皮性癌バイオマーカーのレベルを測定するステップと、試験試料中のシスタチンBのレベルを、非浸潤性癌の対照試料中に存在するシスタチンBのレベルと比較するステップとを含む。対照試料中のシスタチンBのレベルと比較して試験試料中のシスタチンBのレベルが高いことにより、浸潤性膀胱癌が示唆される。
【0015】
「対照試料」という用語は、癌でないと考えられる「正常な」または「健常な」(複数の)個人から得られた生体試料(例えば、血液、尿、腫瘍)を指す。対照は、当技術分野で周知である方法を使用して選択することができる。対照集団についてレベルが確立した後、試験生体試料からの多数の結果を、既知のレベルと直接比較することができる。
【0016】
「非浸潤性の対照試料」という用語は、非浸潤型の癌である(複数の)個人から得られた生体試料を指す。対照集団についてレベルが確立した後、試験生体試料からの多数の結果を、既知のレベルと直接比較することができる。
【0017】
「試験試料」という用語は、上皮起源の癌について試験する患者から得られた生体試料を指す。
【0018】
本発明はまた、同じ患者から得られた複数の試験試料中に存在する上皮性癌バイオマーカーのレベルの評価をも意図するものであり、経時的なマーカーの量の直進的増大により、癌の腫瘍の攻撃性(例えば、転移能)の増大が示唆される。したがって、上皮性癌バイオマーカーのレベルは、疾患状態および病期の予測因子として働く。
【0019】
本発明はさらに、上皮起源の癌(例えば、膀胱癌)である患者を治療するために計画された治療法の治療有効性をモニターする上皮性癌バイオマーカーの評価を意図するものである。
【0020】
本発明の一態様では、試験生体試料中に存在する上皮性癌バイオマーカーレベル(例えば、シスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリン)は、試験試料、またはその調製物を、上皮性癌バイオマーカーと特異的に結合する抗体に基づく結合部分、またはその一部分と接触させることによって測定する。
【0021】
抗体に基づくイムノアッセイは、バイオマーカーのレベルを測定するのに好ましい手段である。しかし、当業者に知られている任意の手段を使用して、バイオマーカーのレベルを評価することができる。例えば、SELDI質量分析法を含めた質量分析法によって、バイオマーカーのレベルを評価することができる。
【0022】
さらなる実施形態では、本発明は、生体試料中で少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーを測定する手段を含むキットを提供する。そのキットは、生体試料(例えば、尿試料)を保持する容器、および上皮性癌バイオマーカーと特異的に結合する少なくとも1つの抗体を含む。
【0023】
一実施形態では、キットは、上皮性癌バイオマーカーと特異的に結合する2つの抗体を含む。一実施形態では、1つの抗体を固相上に固定化し、1つの抗体を検出可能となるように標識する。キットは、抗シスタチンB、抗シャペロニン10、および/または抗プロフィリン抗体を含んでよい。
【0024】
本発明の他の態様を下記で開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本明細書に組み込まれその一部を構成する添付図面は、本発明の実施形態を示すものであり、記載とともに、本発明の目的、利点、および原理を説明するのに役立つ。
【0026】
(発明の詳細な説明)
シスタチンB、シャペロニン10、およびプロフィリンの3種のタンパク質(本明細書において「上皮性癌マーカー」と称する)が、上皮起源の癌である患者の尿中に存在することを発見した。患者の尿試料中に存在するシスタチンBのレベルは、膀胱癌、特に浸潤性膀胱癌の存在と相関する。
【0027】
癌に関して「攻撃的な」または「浸潤性の」という用語は、その境界を越えて隣接組織中へと広がる腫瘍の傾向を指す(Darnell, J.(1990年)、Molecular Cell Biology, Third Ed.、W. H. Freeman、NY)。浸潤性の癌は、腫瘍が特定の臓器に限局している臓器限局性の癌と対比することができる。腫瘍の浸潤性は、腫瘍が被膜の境界および腫瘍が位置する特定の組織の境界を越えて広がることができるようにマトリックス物質および基底膜物質を分解するコラゲナーゼなどのタンパク質分解酵素の合成をしばしば伴う。浸潤性膀胱癌は、筋固有層および/または粘膜固有層中への浸潤性を含む。
【0028】
本明細書において、「転移」という用語は、患者中で元の臓器からさらなる遠隔部位へと癌が広がる状態を指す。腫瘍転移の過程は、局所浸潤および細胞間マトリックスの破壊、血管、リンパ管または他の輸送経路中への侵入、循環中での生存、第2の部位中の管外への遊出および新たな場所での増殖を伴う多段階の事象である(Fidlerら、Adv. Cancer Res.、28、149〜250(1978年)、Liottaら、Cancer Treatment Res.、40、223〜238(1988年)、Nicolson、Biochim. Biophy. Acta、948、175〜224(1988年)およびZetter, N.、Eng. J. Med.、322、605〜612(1990年))。悪性細胞の運動性の増大は、動物ならびにヒトの癌での転移能の亢進と関係している(Hosakaら、Gann、69、273〜276(1978年)およびHaemmerlinら、Int. J. Cancer、27、603〜610(1981年))。
【0029】
本明細書において、「生体試料」とは、患者から得られた尿試料を指す。生体試料は、例えば、血液、組織(例えば腫瘍または胸部)、血清、糞便、尿、喀痰、脳脊髄液、乳頭吸引液および細胞溶解液の上清から得ることができる。好ましい生体試料の1つは尿である。
【0030】
好ましい実施形態では、上皮性癌バイオマーカーの分解を防止するように生体試料を処理する。分解を阻害または防止する方法には、それだけに限らないが、プロテアーゼで試料を処理すること、試料を凍結すること、または氷上に試料を置くことがある。好ましくは、分析の前に、マーカーの分解を防止するような条件下で試料を常に維持する。
【0031】
本明細書において、「腫瘍試料」とは、腫瘍、例えば、対象、好ましくはヒト対象から得られまたは取り出された(例えば、対象の組織から取り出されまたは抽出された)腫瘍の一部分、一片、一部、一セグメントまたは一画分を指す。
【0032】
本明細書において、シスタチンBとは、GenebankアクセッションNM_000100.2、NP_000091(ヒト(Homosapiens))のタンパク質を指す。その用語はまた、種の変異体、相同体、対立形質の形態、突然変異形態、およびその同等物をも包含する。
【0033】
本明細書において、シャペロニン10とは、Genebankアクセッション、タンパク質、AAA50953(ヒト(Homosapiens))のタンパク質を指す。その用語はまた、種の変異体、相同体、対立形質の形態、突然変異形態、およびその同等物をも包含する。
【0034】
本明細書において、プロフィリンとは、Genebankアクセッション、タンパク質、A28622(ヒト(Homosapiens))のタンパク質を指す。その用語はまた、種の変異体、相同体、対立形質の形態、突然変異形態、およびその同等物をも包含する。
【0035】
本発明は、患者における上皮起源の癌の診断を容易にする方法を対象とする。一実施形態では、その方法は、患者から生体試料を得るステップと、試料中での少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー(シスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリン)の存在の有無を検出するステップとを含み、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーの存在から、上皮起源の癌が示される。
【0036】
他の実施形態では、その方法は、癌について試験する患者から得られた試験試料中の少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー(シスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリン)のレベルを測定するステップと、観察されたレベルを、対照試料、例えば癌でない個々の患者または個人の集団から得られた試料中で認められた上皮性癌バイオマーカーのレベルと比較するステップとを含む。少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルが正常な対照中で観察されるレベルより高いことにより、上皮起源の癌の存在が示唆される。バイオマーカーのレベルは、任意の単位で、例えば、デンシトメーター、ルミノメーター、またはElisaプレートリーダーから得られた単位として表すことができる。
【0037】
本明細書において、「対照試料中のレベルと比較して高いレベルの試験試料中の少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー」とは、対照試料中に存在する同じバイオマーカーの量より多い、少なくとも1種のバイオマーカーの量を指す。「高いレベル」という用語は、統計上有意なレベル、または対照試料中で認められるレベルを有意に上回るレベルを指す。「高いレベル」は、例えば、1.2倍〜1.9倍高いことであり得る。好ましくは、「高いレベル」は、少なくとも2倍大きく、またはさらに3倍大きい。
【0038】
「統計上有意な」または「有意に」という用語は、統計上の有意差を指し、一般に、正常を標準偏差の2倍(2SD)上回る、またはそれより高いマーカーの濃度を意味する。
【0039】
比較の目的で、試験試料および対照試料は、同じ型のものであり、すなわち同じ生物学的供給源から得られる。対照試料はまた、健常人から得られる生体試料中で正常に認められる同じ濃度の上皮性癌バイオマーカーを含む標準試料でもよい。
【0040】
本発明の一態様では、第2の診断ステップを行うことができる。例えば、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルから癌の存在が示唆されることが分かっている場合、癌を検出するさらなる方法を行って、癌の存在を確認することができる。超音波、PET走査、MRIまたは任意の他の画像化技術、生検、臨床検査、ダクトグラム(ductogram)や任意の他の方法など、種々のさらなる診断ステップのいずれかを行うことができる。
【0041】
本発明はさらに、上皮起源の癌であることが疑われ、または上皮起源の癌である患者の予後評価を行う方法を提供する。その方法は、患者から得られた試験生体試料中に存在する少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー(シスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリン)のレベルを測定するステップと、観察されたレベルを、健常人の(同じ型の)生体試料中で正常に認められる少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーレベルの範囲と比較するステップとを含む。高いレベルから、例えば、転移活性についての潜在性が高いことが示唆され、それは予後不良と対応するが、低いレベルから、腫瘍の攻撃性が低いことが示唆され、それは予後良好と対応する。
【0042】
さらに、個々の患者において少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルを追跡することにより、疾患の進行を評価することができる。例えば、患者におけるシスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリンの発現レベルの変化を経時的に比較することにより、患者の状態の変化をモニターすることができる。少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルの直進的増大により、腫瘍の浸潤および転移についての潜在性の増大が示唆される。
【0043】
本発明の予後診断方法はまた、癌である患者に適した治療コースの決定にも有用である。治療コースとは、癌の診断または治療後の患者について取られる治療処置を指す。例えば、癌の再発、広がり、または患者の生存の可能性の判定は、より保存的なまたはより根治的な治療の手法を取るべきかどうか、または治療様式を併用すべきかどうかを決定する際の助けとなり得る。例えば、癌の再発の可能性が高いとき、外科的治療の前にまたは後に化学療法、放射線照射、免疫療法、生物学的修飾因子療法、遺伝子治療、ワクチンなどを行い、あるいは患者が治療を受ける期間を調節すると有利となり得る。
【0044】
本発明の方法は、それだけに限らないが、乳癌、基底細胞癌、腺癌、胃腸の癌、口唇癌、口腔癌、食道癌、小腸癌および胃癌、結腸癌、肝癌、膀胱癌、膵癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、扁平上皮癌や基底細胞癌などの乳癌および皮膚癌、前立腺癌、腎細胞癌、ならびに全身の上皮細胞に影響を及ぼす他の既知の癌を含めた上皮起源の任意の癌の診断または予後診断に適する。
【0045】
好ましい一実施形態では、上皮起源の癌は膀胱癌である。
【0046】
(少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルの測定)
本明細書に記載の少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルは、当業者に知られている任意の手段によって測定することができる。本発明では、抗体、または抗体の同等物を使用して、生体試料中で少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカータンパク質のレベルを検出することが一般に好ましい。
【0047】
一実施形態では、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカータンパク質のレベルは、生体試料を、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー、または少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーの断片と特異的に結合する抗体に基づく結合部分と接触させることによって測定する。次いで、抗体と上皮性癌バイオマーカーの複合体の形成を、上皮性癌バイオマーカーのレベルの尺度として検出する。
【0048】
「抗体に基づく結合部分」または「抗体」という用語には、イムノグロブリン分子およびイムノグロブリン分子の免疫活性のある決定基、例えば、検出する上皮性癌バイオマーカー、例えばシスタチンB、シャペロニン10、またはプロフィリンと特異的に結合する(それと免疫反応する)抗原結合部位を含む分子が含まれる。「抗体に基づく結合部分」という用語には、例えば、任意のアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgEなど)の抗体全体が含まれるものとし、上皮性癌バイオマーカータンパク質とやはり特異的に反応するその断片が含まれる。従来の技術を使用して、抗体を断片化することができる。したがって、その用語は、特定のタンパク質と選択的に反応することができる抗体分子のタンパク質分解で切断された部分または組換えにより調製された部分のセグメントを含む。そのようなタンパク質分解性断片および/または組換え断片の非限定的な例には、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、dAbs、ならびにペプチドリンカーにより結合したVLおよびVHドメインを含む単鎖抗体(scFv)がある。scFvを共有結合または非共有結合して、2種以上の結合部位を有する抗体を形成することができる。したがって、「抗体に基づく結合部分」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、または抗体の他の精製調製物、および組換え抗体がある。「抗体に基づく結合部分」という用語にはさらに、抗体分子に由来する少なくとも1つの抗原結合決定基を有するヒト化抗体、二重特異性抗体、およびキメラ分子が含まれるものとする。好ましい実施形態では、抗体に基づく結合部分を検出可能となるように標識する。
【0049】
本明細書において「標識抗体」は、検出可能な手段によって標識された抗体を含み、それには、それだけに限らないが、酵素標識、放射標識、蛍光標識、および化学発光標識された抗体がある。抗体はまた、c−Myc、HA、VSV−G、HSV、FLAG、V5やHISなどの検出可能なタグで標識することもできる。
【0050】
少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーの検出に、抗体に基づく結合部分を使用する本発明の診断および予後診断方法では、生体試料中に存在する少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルは、検出可能となるように標識された抗体から放出されたシグナルの強度と相関する。
【0051】
好ましい一実施形態では、抗体を酵素と結合することによって、抗体に基づく結合部分を検出可能となるように標識する。その酵素は、その基質にさらしたとき、例えば、分光光度的、蛍光的または視覚的な手段によって検出することができる化学的部分が生じるような形で基質と反応する。本発明の抗体を検出可能となるように標識するのに使用することができる酵素には、それだけに限らないが、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌性ヌクレアーゼ、δ−V−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−VI−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼがある。化学発光は、抗体に基づく結合部分を検出するのに使用することができる他の方法である。
【0052】
様々な他のイムノアッセイのいずれかを使用して検出を行うこともできる。例えば、抗体を放射標識することにより、放射免疫アッセイの使用を介して抗体を検出することが可能である。γカウンターやシンチレーションカウンターの使用などの手段、またはオートラジオグラフィーによって放射性同位体を検出することができる。本発明の目的に特に有用な同位体は、H、131I、35S、14Cであり、好ましくは125Iである。
【0053】
蛍光化合物で抗体を標識することも可能である。蛍光標識抗体を適当な波長の光にさらしたとき、次いでその存在を蛍光により検出することができる。最も一般に使用される蛍光標識化合物は、CYE色素、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド(phthaldehyde)およびフルオレスカミンである。
【0054】
抗体はまた、152Euや、ランタニド系列の他のものなどの蛍光放出金属を使用して、検出可能となるように標識することもできる。ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート基を使用して、これらの金属を抗体と結合することができる。
【0055】
抗体はまた、それを化学発光化合物と結合することによって、検出可能となるように標識することもできる。次いで、化学反応の経過中に生じる発光の存在を検出することによって、化学発光抗体の存在を判定する。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、ルシフェリン、イソルミノール、セロマチックアクリジニウムエステル(theromatic acridinium ester)、イミダゾール、アクリジニウム塩およびシュウ酸エステルである。
【0056】
上記で述べたように、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫放射測定アッセイ(IRMA)、ウェスタンブロット法や、免疫組織化学などのイムノアッセイによって、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカータンパク質のレベルを検出することができ、これらはそれぞれ、下記でより詳細に説明する。極めて迅速であり得るELISAやRIAなどのイムノアッセイがより一般には好ましい。抗体アレイまたはタンパク質チップを使用することもでき、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、米国特許出願第20030013208A1号;第20020155493A1号;第20030017515号および米国特許第6,329,209号;第6,365,418号を参照されたい。
【0057】
(イムノアッセイ)
「ラジオイムノアッセイ」とは、標識された(例えば、放射標識された)形態の抗原を使用して、抗原である検出するバイオマーカーの濃度を検出し測定する技術である。抗原の放射標識の例には、H、14C、および125Iがある。抗原と特異的に結合する抗体との結合について生体試料中の抗原を(例えば放射)標識された抗原と競合させることによって、生体試料中の抗原の濃度を測定する。標識抗原と非標識抗原の間での競合的結合を確実に行うために、標識抗原は、抗体の結合部位を飽和させるのに十分な濃度で存在する。試料中の抗原の濃度が高いほど、抗体と結合する標識抗原の濃度が低い。
【0058】
ラジオイムノアッセイでは、抗体と結合した標識抗原の濃度を決定するために、抗原と抗体の複合体を遊離抗原から分離しなければならない。遊離抗原から抗原と抗体の複合体を分離する1つの方法は、抗同位体抗血清で抗原と抗体の複合体を沈殿させることによるものである。遊離抗原から抗原と抗体の複合体を分離する他の方法は、ホルマリンで死滅させた黄色ブドウ球菌(S. aureus)で抗原と抗体の複合体を沈殿させることによるものである。遊離抗原から抗原と抗体の複合体を分離するさらに他の方法は、セファロースビーズ、ポリスチレン穴、ポリ塩化ビニル穴、またはマイクロタイター穴と抗体を(例えば、共有)結合する「固相ラジオイムノアッセイ」を行うことによるものである。抗体と結合した標識抗原の濃度を、既知濃度の抗原を有する試料に基づく標準曲線と比較することによって、生体試料中の抗原の濃度を決定することができる。
【0059】
「免疫放射測定アッセイ」(IRMA)とは、抗体試薬を放射標識したイムノアッセイである。IRMAは、タンパク質、例えばウサギ血清アルブミン(RSA)との結合などの技術による多価抗原結合体の作製を必要とする。多価抗原結合体は、1分子当たりに少なくとも2つの抗原残基を有さなければならず、抗原残基は、少なくとも2つの抗体による抗原との結合が可能であるほど十分に離れていなければならない。例えば、IRMAでは、多価抗原結合体を、プラスチック球体などの固体表面と結合することができる。標識していない「試料の」抗原、および抗原に対する放射標識した抗体を、多価抗原結合体で被覆した球体を含む試験管に添加する。試料中の抗原は、抗原抗体結合部位について多価抗原結合体と競合する。適当なインキュベーション時間の後、非結合反応物を洗浄により除去し、固相上の放射活性の量を決定する。結合した放射性抗体の量は、試料中の抗原の濃度に反比例する。
【0060】
最も一般的なエンザイムイムノアッセイは、「酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)」である。ELISAは、標識された(例えば、酵素が結合した)形態の抗体を使用して抗原の濃度を検出し測定する技術である。様々な形のELISAがあり、それらは当業者に周知である。ELISAについて当技術分野で知られている標準的な技術は、”Methods in Immunodiagnosis”, 2nd Edition、RoseおよびBigazzi編、John Wiley & Sons、1980年;Campbellら、”Methods and Immunology”、W. A. Benjamin, Inc.、1964年;およびOellerich, M.、1984年、J. Clin. Chem. Clin. Biochem.、22:895〜904に記載されている。
【0061】
「サンドイッチELISA」では、抗体(例えば、抗シスタチンB、抗シャペロニン10、または抗プロフィリン)を固相(すなわち、マイクロタイタープレート)に結合し、抗原(例えば、シスタチンB、シャペロニン10、および/またはプロフィリン)を含む生体試料にそれをさらす。次いで、固相を洗浄して、結合しなかった抗原を除去する。次いで、(例えば、酵素が結合した)標識抗体を、(存在する場合)結合している抗原と結合して、抗体−抗原−抗体のサンドイッチを形成させる。抗体と結合することができる酵素の例は、アルカリ性ホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、ウレアーゼ、およびB−ガラクトシダーゼである。酵素結合抗体が基質と反応して、測定することができる着色反応産物が生じる。
【0062】
「競合的ELISA」では、抗体を、抗原(すなわち、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー)を含む試料とともにインキュベートする。次いで、抗原と抗体の混合物を、抗原(すなわち、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカー)で被覆した固相(例えば、マイクロタイタープレート)と接触させる。試料中に存在する抗原が多いほど、固相との結合に利用可能となる遊離抗体が少ない。次いで、標識された(例えば、酵素が結合した)二次抗体を固相に添加して、固相に結合した一次抗体の量を決定する。
【0063】
「免疫組織化学アッセイ」では、アッセイを行うタンパク質に特異的な抗体に組織をさらすことにより、特定のタンパク質について組織切片を試験する。次いで、存在するタンパク質の存在および量を決定するいくつかの方法のいずれかによって抗体を視覚化する。抗体の視覚化に使用する方法の例は、例えば、抗体と結合した酵素(例えば、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、またはβ−ガラクトシダーゼ)による方法、または化学的方法(例えば、DAB/基質色素原)である。組織マイクロアレイを本発明の方法で使用することができることも意図されている。
【0064】
実施者の好みに従って、本開示に基づいて、他の技術を使用して少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーを検出することができる。そのような技術の1つは、ウェスタンブロット法(Towbin et at., Proc. Nat. Acad. Sci. 76:4350 (1979年))であり、適切に処理した試料をSDS−PAGEゲル上で泳動し、その後それをニトロセルロースフィルターなどの固体支持体に移す。次いで、検出可能となるように標識した抗バイオマーカー抗体を使用して、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルを評価することができ、検出可能な標識のシグナルの強度は、存在するバイオマーカーの量に対応する。例えば、デンシトメトリーによってレベルを定量化することができる。
【0065】
(質量分析法)
さらに、MALDI/TOF(飛行時間)、SELDI/TOF、液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)、ガスクロマトグラフィー−質量分析法(GC−MS)、高速液体クロマトグラフィー−質量分析法(HPLC−MS)、キャピラリー電気泳動−質量分析法、核磁気共鳴分析法、タンデム質量分析法(例えば、MS/MS、MS/MS/MS、ESI−MS/MSなど)などの質量分析法を使用して、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーを検出することができる。例えば、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許出願第20030199001号、第20030134304号、第20030077616号を参照されたい。
【0066】
質量分析法は、当技術分野で周知であり、タンパク質などの生体分子の定量および/または同定に使用されている(例えば、Liら、(2000年)、Tibtech、18:151〜160;Rowleyら、(2000年)、Methods、20:383〜397;ならびにKusterおよびMann、(1998年)、Curr. Opin. Structural Biol.、8:393〜400を参照)。さらに、単離されたタンパク質の少なくとも部分的なde novo配列決定を可能にする質量分析技術が開発されている。Chaitら、Science、262:89〜92(1993年);Keoughら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA.、96:7131〜6(1999年);Bergman、EXS、88:133〜44(2000年)での総説。
【0067】
特定の実施形態では、気相イオン分光光度計を使用する。他の実施形態では、レーザー脱離/イオン化質量分析法を使用して試料を分析する。現代のレーザー脱離/イオン化質量分析法(「LDI−MS」)は、2つの主要な変法:マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(「MALDI」)質量分析法および表面増強レーザー脱離/イオン化(「SELDI」)で実施することができる。MALDIでは、分析対象を、マトリックスを含む溶液と混合し、1滴の液体を基質の表面上に置く。次いでマトリックス溶液を生体分子と同時に結晶化する。基質を質量分析計中に挿入する。レーザーエネルギーを基質表面に誘導し、そこでそれは脱離し、著しく断片化せずに生体分子をイオン化する。しかし、MALDIは、分析手段としての限界を有する。それは、試料を分画化する手段をもたらさず、マトリックス物質は、特に低分子量の分析対象の検出を干渉し得る。例えば、米国特許第5,118,937号(Hillenkampら)、および米国特許第5,045,694号(BeavisおよびChait)を参照されたい。
【0068】
SELDIでは、基質表面を、それが脱離の過程に積極的に関与するものとなるように修飾する。1つの変法では、対象とするタンパク質と選択的に結合する吸着および/または捕捉用試薬で表面を誘導体化する。他の変法では、レーザーを当てたときに脱離されないエネルギー吸収分子で表面を誘導体化する。他の変法では、対象とするタンパク質と結合し、レーザーと衝突した後に壊れる光分解性の結合を含む分子で表面を誘導体化する。これらの各方法で、誘導体化作用物質は一般に、試料を適用する基質表面上の特定の位置に局在する。例えば、米国特許第5,719,060号およびWO98/59361を参照されたい。例えば、SELDI親和性表面を使用して分析対象を捕捉し、捕捉された分析対象にマトリックスを含む液体を添加してエネルギー吸収物質を供給することによって、その2つの方法を併用することもできる。
【0069】
質量分析計に関するさらなる情報を得るには、例えば、Principles of Instrumental Analysis, 3rd edition.、Skoog、Saunders College Publishing、Philadelphia、1985年;およびKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, 4th ed. Vol. 15(John Wiley & Sons、New York、1995年)、1071〜1094頁を参照されたい。
【0070】
マーカーの存在の検出では通常、シグナル強度の検出を行う。これは、基質と結合したポリペプチドの量および特徴を反映し得る。例えば、特定の実施形態では、第1の試料および第2の試料のスペクトルからのピーク値のシグナル強度を(例えば、視覚的に、コンピュータ分析により、などで)比較して、特定の生体分子の相対量を決定することができる。Biomarker Wizardプログラム(Ciphergen Biosystems, Inc.、カリフォルニア州Fremont)などのソフトウェアプログラムを使用して、質量スペクトルを分析する際の助けとすることができる。質量分析計およびその技術は当業者に周知である。
【0071】
当業者は、質量分析計の任意の構成要素(例えば、脱離供給源、質量分析器、検出など)および様々な試料調製物を、本明細書に記載されている他の適切な構成成分または調製物、あるいは当技術分野で知られているものと組み合わせることができることを理解している。例えば、いくつかの実施形態では、対照試料は重原子(例えば、13C)を含んでもよく、それによって、同じ質量分析法の実行中に試験試料を既知の対照試料と混合することが可能となる。
【0072】
好ましい一実施形態では、レーザー脱離飛行時間型(TOF)質量分析計を使用する。レーザー脱離質量分析法では、マーカーが結合した基質を注入系に導入する。イオン化源からのレーザーによりマーカーを脱離させ、気相中へとイオン化する。イオンの光学的な集合によって、生じたイオンを収集し、次いで、飛行時間型質量分析器中で、短い高電圧の領域を介してイオンを加速させ、それを高真空チャンバー中へと押し流す。高真空チャンバーの遠端では、加速されたイオンが異なる時間に感度のよい検出器表面に衝突する。飛行時間はイオンの質量の関数であるので、イオンの形成とイオンの検出器衝突との間の経過時間を使用して、特定の質量対電荷比を有する分子の存在の有無を確認することができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、部分的に、プログラム可能なデジタルコンピュータでアルゴリズムを実行することによって、第1または第2の試料中に存在する1種または複数種の生体分子の相対量を決定する。そのアルゴリズムは、第1の質量スペクトルおよび第2の質量スペクトルにおける少なくとも1つのピーク値を識別する。次いで、そのアルゴリズムは、第1の質量スペクトルのピーク値のシグナル強度を、質量スペクトルの第2の質量スペクトルのピーク値のシグナル強度と比較する。相対シグナル強度は、第1および第2の試料中に存在する生体分子の量を示すものである。既知の量の生体分子を含む標準試料を第2の試料として分析して、第1の試料中に存在する生体分子の量をよりうまく定量化することができる。特定の実施形態では、第1および第2の試料中の生体分子の同一性を決定することもできる。
【0074】
好ましい一実施形態では、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルを、MALDI−TOF質量分析法によって測定する。
【0075】
(抗体)
本発明で使用する抗体は、商業的供給源から得ることができる。あるいは、上皮性癌バイオマーカーポリペプチド、または上皮性癌バイオマーカーポリペプチドの一部分に対して、抗体を産生させることができる。
【0076】
本発明で使用する抗体は、例えば、モノクローナル抗体の作製(Campbell, A. M.、Monoclonal Antibodies Technology: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology、Elsevier Science Publishers、オランダAmsterdam(1984年);St. Grothら、J. Immunology、(1990年)35:1〜21;およびKozborら、Immunology Today、(1983年)4:72)により抗体を作製する標準的な方法を使用して作製することができる。抗体はまた、タンパク質の抗原性のある部分を使用して、当技術分野で周知の方法によりファージディスプレイライブラリーなどの抗体ライブラリーをスクリーニングすることによって容易に得ることもできる。例えば、米国特許第 5,702,892号(U.S.A.Health & Human Services)およびWO01/18058(Novopharm Biotech Inc.)は、バクテリオファージディスプレイライブラリーおよび抗体の結合ドメイン断片を作製するための選択法を開示している。
【0077】
(検出キット)
本発明はまた、膀胱癌を検出し、その予後評価を行い、浸潤性膀胱癌を診断するための市販キットをも対象とする。キットは、当業者に周知のどんな構成のものでもよく、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーを検出する本発明に記載の1つまたは複数の方法を行うのに有用である。キットは、それが生体試料中の少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーを検出するアッセイを行うための全部ではないが多くの不可欠な試薬を供給する点で便利である。さらに、好ましくは、試験の結果を定量化し、または検証することができるように、所定の量の少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのタンパク質や核酸など、キット中に含まれる1種または複数種の標準物質と同時にアッセイを行う。
【0078】
キットは、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカータンパク質と選択的に結合する抗体や抗体の断片などの少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルを検出する手段を含む。診断アッセイキットは、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーに特異的な抗体が患者試料中のバイオマーカーを捕捉し、他のADAM特異的抗体を使用して、捕捉された少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーを検出する標準的な2種の抗体が結合する形式で優先的に処方される。例えば、捕捉用抗体を、固相、例えば、アッセイプレート、アッセイ穴、ニトロセルロース膜、ビーズ、試験紙、または溶出カラムの構成成分の上に固定化する。二次抗体、すなわち検出用抗体には通常、熱量測定用作用物質や放射性同位体などの検出可能な標識でタグを付けている。
【0079】
好ましい一実施形態では、キットは、尿の試料中の少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルを検出する手段を含む。具体的な実施形態では、キットは、上皮性癌バイオマーカータンパク質と特異的に結合する少なくとも1種の抗上皮性癌バイオマーカー抗体または断片がその上に固定化された「試験紙」を含む。次いで、特異的に結合した上皮性癌バイオマーカータンパク質を、例えば、熱量測定用作用物質または放射性同位体で検出可能となるように標識された二次抗体を使用して検出することができる。
【0080】
他の実施形態では、アッセイキットは、(それだけに限らないが)下記の技術:競合的なアッセイおよび非競合的なアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、生物発光および化学発光アッセイ、蛍光アッセイ、サンドイッチアッセイ、免疫放射測定アッセイ、ドットブロット、ELISAを含めた酵素結合アッセイ、マイクロタイタープレート、および免疫組織化学を使用してよい。各キットについて、アッセイの範囲、感度、正確性、信頼性、特異性および再現性は、当業者に周知の手段によって確立されている。
【0081】
上記に記載のアッセイキットはさらに、使用説明書、および尿試料を保持する容器を提供する。
【0082】
上記または下記で引用した参照文献はすべて、参照により本明細書に組み込まれている。
【0083】
下記の実施例により、本発明をさらに説明する。
【0084】
これらの実施例は、本発明を理解する際の助けとなるように提供するものであり、それを限定するものとは解釈されない。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
(移行上皮癌におけるバイオマーカー発見のための排出尿、膀胱癌の組織および細胞系統のプロテオーム分析)
(序論)
上皮起源の癌の診断および管理の際に助けとなる新たなバイオマーカーが必要である。上皮性癌バイオマーカーを発見し分析するための優秀な媒体として尿を使用することができる。二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D PAGE)によるプロテオーム分析は、ヒト検体のプロテオームを分析するのに有効な手段の1つである。2D PAGEを利用して、バイオマーカー発見の方法として排出尿、ヒト膀胱の腫瘍および正常組織、およびヒト由来の膀胱癌細胞系統を分析する。
【0086】
(方法)
(尿)
IRBにより承認された治験計画書の下で、生検を伴う、診断のための膀胱鏡検査前の患者63名、および膀胱癌である臨床的証拠が認められず悪性腫瘍の病歴がない、年齢を合わせた対照患者22名から排出尿検体を収集した。全尿タンパク質を単離し定量した。個々の患者から同量のタンパク質を貯留し、3つの群にした:1.Ta期、高悪性度;2.Ta期、低悪性度;3.正常対照。8名の患者が各群に含まれていた。各群から合計40ngのタンパク質(患者1名当たり5ng)を、2D PAGEによって分析し比較した。
【0087】
(組織)
IRBにより承認された治験計画書の下で、膀胱腫瘍組織および正常な尿路上皮を、T3N1M0期の移行上皮癌患者の膀胱切除検体から採取した。組織検体を液体窒素中で直ちに凍結し、次いで全タンパク質を単離し定量した。それぞれの腫瘍および正常組織から40ngのタンパク質を、2D PAGEによって分析し比較した。
【0088】
(細胞系統)
以前に記載されている2種の細胞系統から分画化タンパク質を単離した:1.MGH−U1、膀胱の高悪性度移行上皮癌から培養され、ヌードマウス中で高度な腫瘍原性がある;2.MGH−U4、重度の尿路上皮異型を有する患者から培養され、ヌードマウス中で非腫瘍原性である。各細胞系統の細胞質、核および膜タンパク質の各分画40ngを、2D PAGEによって分析し比較した。
【0089】
上記の検体すべてで、独特のタンパク質のスポットを単離し、液体クロマトグラフィー質量分析−質量分析法(LCMS−MS)によってそれを分析した。
【0090】
(結果)
2D PAGEによる分析から、尿検体の3群を通じて、通常のまたは正常な尿のプロテオームを表す、通常の分子量(MW)および等電点(pI)にあるいくつかのタンパク質のスポットが明らかとなった。同様に、組織検体について、また細胞系統についても通常のプロテオームスペクトルが示された。Ta高悪性度の患者の尿、腫瘍組織およびMGH−U1細胞系統のプロテオームスペクトルから、MW10〜15kD、pI8〜10にあるいくつかの類似したペプチドのスポットが明らかとなり、それらは存在せず、またはそれから、これらのタンパク質のうち3つが、シスタチンBという内因性システインタンパク質分解酵素阻害因子、シャペロニン10という熱ショックタンパク質、およびプロフィリンという細胞骨格タンパク質であると同定された。
【0091】
(結論)
本発明者らは、上皮起源の癌の新規バイオマーカー3種の発見を実証した。
【0092】
(実施例2)
(膀胱癌組織中でのシスタチンBの免疫染色)
(方法)
正常な膀胱および膀胱癌組織を、マウスモノクローナル抗シスタチンB抗体を使用して免疫染色し、ヘマトキシリンで対比染色した。膀胱癌組織マイクロアレイBL801(US Biomax Inc、メリーランド州Rockville)を使用して免疫染色を行った。組織に脱パラフィン処理を行い、3%過酸化水素のメタノール溶液中で内因性過酸化物のブロッキング処理を行い、Antigen Unmasking Solutionを使用してマイクロウェーブ抗原賦活化を行った。5%正常ウマ血清を使用してブロッキング処理を行い、アビジン/ビオチンキットを使用して内因性ビオチンのブロッキング処理を行った。マウスモノクローナル抗シスタチンB/ステフィンB抗体、クローンA6/2(GeneTex, Inc、テキサス州San Antonio)、その後抗マウスビオチン化二次抗体とともに組織をインキュベートし、ABCキットを使用してそれを増幅し、DABを使用して発色させた。Gill’s Hematoxylin #3(Sigma−Aldrich、ミズーリ州St. Louis)を使用して組織を対比染色し、Tacha’s Bluing Solution(Biocare、カリフォルニア州Concord)を使用して青色に染色した。言及したもの以外、試薬はすべて、Vector Laboratories、カリフォルニア州Burlingameから購入した。画像はすべて、同じ露出時間で取得した。
【0093】
(結果)
膀胱癌である個人の試料中のシスタチンBのレベルは、正常な膀胱組織の試料中で観察されるレベルより有意に高かった。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、上皮性癌バイオマーカーの発見に対するアプローチを示す流れ図である。
【図2】図2は、多数の潜在的なスポットを明らかにする浸潤性膀胱腫瘍組織と正常膀胱組織の比較2Dpageを示す。円で囲ったスポットは、質量分析法によりシスタチンBであると同定された。
【図3】図3は、排出尿検体中で検出されたシスタチンBの半定量ウェスタンブロット分析の結果を描くグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮起源の癌についての患者の診断を容易にするための方法であって、
a.該患者から生体試料を得るステップと、
b.該生体試料中での少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーの存在の有無を検出するステップと
を含み、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーの存在は、上皮起源の癌を示し、該上皮性癌バイオマーカーが、シスタチンB、シャペロニン10、およびプロフィリンからなる群から選択される、方法。
【請求項2】
患者における上皮起源の癌を診断するための方法であって、
a.該患者から得られた生体試料である試験試料中に存在する少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルを測定するステップと、
b.該試験試料中の少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルを、対照試料中に存在する上皮性癌バイオマーカーのレベルと比較するステップと
を含み、該対照試料中の上皮性癌バイオマーカーのレベルと比較して該試験試料中の少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーのレベルが高いことは、上皮起源の癌を示し、該上皮性癌バイオマーカーが、シスタチンB、シャペロニン10、およびプロフィリンからなる群から選択される、方法。
【請求項3】
上皮起源の癌が、乳癌、基底細胞癌、腺癌、胃腸の癌、口唇癌、口腔癌、食道癌、小腸癌、胃癌、結腸癌、肝癌、膀胱癌、膵癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌、皮膚癌、前立腺癌、および腎細胞癌からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
患者における膀胱癌の診断を容易にするための方法であって、
a.該患者から生体試料を得るステップと、
b.該生体試料中でのシスタチンBの存在の有無を検出するステップと
を含み、シスタチンB上皮性癌バイオマーカーの存在が、膀胱癌を示す、方法。
【請求項5】
患者において膀胱癌を診断するための方法であって、
a.該患者から得られた生体試料である試験試料中に存在するシスタチンBのレベルを測定するステップと、
b.該試験試料中のシスタチンBのレベルを、対照試料中に存在するシスタチンB上皮性癌バイオマーカーのレベルと比較するステップと
を含み、該対照試料中のシスタチンBのレベルと比較して該試験試料中のシスタチンBのレベルが高いことは、膀胱癌を示す、方法。
【請求項6】
患者において浸潤性膀胱癌を診断するための方法であって、
a.該患者から得られた生体試料である試験試料中に存在するシスタチンBのレベルを測定するステップと、
b.該試験試料中のシスタチンBのレベルを、非浸潤性対照試料中に存在するシスタチンBのレベルと比較するステップと
を含み、該非浸潤性対照試料中のシスタチンBのレベルと比較して該試験試料中のシスタチンBのレベルが高いことは、浸潤性膀胱癌を示す、方法。
【請求項7】
前記生体試料が尿である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーまたはシスタチンBと特異的に結合する抗体に基づく結合部分を使用して、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーまたはシスタチンBの存在の有無を検出する、請求項1または4に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカータンパク質またはシスタチンBのタンパク質レベルを測定することによって、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーまたはシスタチンBのレベルを測定する、請求項2、5または6のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
上皮性癌バイオマーカーのタンパク質レベルまたはシスタチンBのレベルを、
a.試験試料、またはその調製物を、上皮性癌バイオマーカーまたはシスタチンBと特異的に結合する抗体に基づく結合部分と接触させて、抗体−上皮性癌バイオマーカー複合体を形成させるステップと、
b.該複合体の存在を検出し、それによって、存在する上皮性癌バイオマーカーのレベルを測定するステップと
を含む方法によって測定する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体に基づく結合部分を検出可能な標識で標識する、請求項8または10に記載の方法。
【請求項12】
前記標識が、放射性標識、ハプテン標識、蛍光標識、および酵素標識からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体に基づく結合部分が抗体である、請求項8または10に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
尿試料中で少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーを検出するためのキットであって、尿試料を保持するための容器、および上皮性癌バイオマーカーと特異的に結合する少なくとも1つの抗体を含む、キット。
【請求項16】
前記キットが、少なくとも1種の上皮性癌バイオマーカーと特異的に結合する2つの抗体を含み、1つの抗体を固相上に固定化し、1つの抗体を検出可能となるように標識する、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
尿試料中でシスタチンBを検出するためのキットであって、尿試料を保持する容器、およびシスタチンBと特異的に結合する少なくとも1つの抗体を含む、キット。
【請求項18】
前記キットが、シスタチンBと特異的に結合する2種の抗体を含み、1種の抗体は固相上に固定化されており、1種の抗体は検出可能に標識されている、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
使用説明書をさらに含む、請求項15または17に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−529008(P2008−529008A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553289(P2007−553289)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/003049
【国際公開番号】WO2006/081473
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(591044027)チルドレンズ メディカル センター コーポレイション (12)
【氏名又は名称原語表記】CHILDREN’S MEDICAL CENTER CORPORATION
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)