説明

上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片およびそれらを含有する癌を治療するための医薬組成物

【課題】効果が高く、1回あたりの投与量が少ない、上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体を含有する癌治療薬の提供。
【解決手段】上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体、さらに、上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位を認識する当該抗体を含有する、補体依存的殺細胞活性を有する、癌を治療するための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮細胞成長因子受容体(以下、「EGFR」という)ファミリーに対する抗体に関する。さらに本発明は、EGFRファミリーの異なる2つ以上の部位を認識する当該抗体を1または複数含有する、補体依存的殺細胞:complement-dependent cytotoxicity(以下、「CDC」という)活性を有する、癌を治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトEGFR(別名erbB1, V-ERB-B AVIAN ERYTHROBLASTIC LEUKEMIA VIRAL ONCOGENE HOMOLOG, SPECIES ANTIGEN 7)遺伝子は、ヒト染色体7p14-p12に位置し、全長は約110kb,26個のエクソンからなる(非特許文献1)。遺伝子産物はシグナル配列を含む1210個のアミノ酸から構成され、糖鎖修飾受けることにより、成熟タンパク質は170kDaの分子量を有する。EGFRの細胞外領域は4つのドメイン構造からなる。N末側からドメイン1、2、3、および4と呼ばれ、ドメイン1および3はリガンドとの結合に、ドメイン2はレセプターのダイマー形成に関与し、ドメイン4は細胞膜貫通領域に連なっている。細胞膜に発現するEGFRの約5%は構造的にリガンドと結合することが出来るコンフォメーションをとっていると考えられる(非特許文献2)。
【0003】
EGFRはI型のレセプター型チロシンキナーゼであり、erbB2(非特許文献3)、erbB3 (非特許文献4)、erbB4(非特許文献5)と類似の構造をもち、遺伝子ファミリー(EGFRファミリーと称する)を構成する。
【0004】
EGFRに結合するリガンドとしては、TGF-alpha、EGF、amphiregulin、HB-EGF、epiregulin, betacellulin等が知られている。
【0005】
マウスEGFは1962年にCohenによって、マウス顎下腺抽出液中にラットの眼瞼の開裂と切歯の発生を促進する因子として報告された(非特許文献13)。EGFは約1200個のアミノ酸から構成されるプレプロ型として細胞膜に結合した型で発現する(非特許文献14,15)。ヒトEGFのプロ体は9つのEGF様構造を有し、C末端側の細胞膜に最も近いEGFドメインを分泌型として遊離する。EGFの構造的特長はCX7CX4-5CX10-13CXCX8Cで示される配列を有し、3つのジスルフィド結合を形成することである。EGFの構造はアンチパラレルベータシート構造をとり、アルファへリックス構造を持たない。ヒトEGFの遺伝子は、4q25-q27に位置している。EGFはほとんどすべての体液および分泌液に存在が知られている。具体的には羊水、血漿、血液、血清、ブルンナー腺液、乳液、卵胞液、腹膜液、膵液、前立腺液、唾液、精漿、汗、涙、尿が上げられる。EGFの生物活性については、細胞増殖活性以外にも多様な活性が報告されている(非特許文献16)。
【0006】
TGF-alphaは、1978年、レトロウイルスで形質転換した繊維芽細胞の培養上精中に、ラット腎繊維芽細胞を形質転換させる因子として見出された(非特許文献17)。その後、形質転換には2つの遺伝子産物が必要であることがわかり、それぞれTGF-alpha、TGF-betaと命名されたが、構造上の特徴から、TGF-alphaは、EGFに類似しており、共通のレセプターに結合し、活性化することがわかった。ヒトTGF-alphaは、160個のアミノ酸から構成されるプレプロ体として合成され、プロ体として細胞膜上に発現した後、プロセッシングを受けて、50個のアミノ酸からなる分泌形として、分泌される。TGF-alphaは、EGFと共通なレセプターに作用することから、ほぼ同様の生理作用を示す。腫瘍細胞において発現の上昇が報告されており、腫瘍形成に深く関与していると考えられている。
【0007】
erbB3に結合するリガンドとしては、HeregulinおよびNeuregulinが、erbB4に結合するリガンドとしては、Heregulin、Neuregulin、およびBetacellulinが、それぞれ知られている。Neuregulinは、大腸がんなどの腫瘍細胞から分泌され、腫瘍の増殖に関与することが知られている(非特許文献18)。
【0008】
一方、erbB2に結合するリガンドは今のところ同定されていない(非特許文献6)。
【0009】
EGFRファミリーの分子は、リガンドの結合後、ホモダイマーおよび/またはヘテロダイマーを形成し、活性化シグナルを伝達する。ヘテロダイマーは、EGFRとerbB2、erbB2とerbB3、erbB2とerbB4の組み合わせにより形成される(非特許文献7、8)。EGFR、erbB2、およびerbB4は細胞内にキナーゼドメインを持つが、erbB3の細胞内ドメインはキナーゼ活性をもたないことがわかっている。
【0010】
EGFRは、膀胱癌、乳がん、大腸がん、グリオーマ、すい臓癌、前立腺がん、腎臓癌、肺がんなど様々な腫瘍において、その発現が上昇していることが報告されている(非特許文献6)。腫瘍細胞に過剰発現することにより、細胞増殖にかかわるシグナルの活性化をもたらす。
【0011】
erbB2は乳がんの10〜30%で過剰発現していることが知られており(非特許文献9)、erbB2に対する抗体(trastuzumab)は、治療薬として使用されている。
【0012】
erbB3の発現上昇は、肺がんでは予後に関係するという報告がある(非特許文献10)。また、乳がんにおいても予後との関係が報告されている(非特許文献11)。
【0013】
erbB4は、erbB3とともに、膀胱癌において発現が上昇しているという報告がある(非特許文献12)。
【0014】
EGFRに結合する抗体としては、臨床応用されているものが2種(ERBITUX、Vectibix)あるほかに、さらに臨床試験を実施している抗体が複数報告されている(非特許文献19)。EGFRが過剰発現している腫瘍細胞に、抗EGFR抗体を作用させることにより腫瘍細胞の増殖が抑制されることが知られている。これらの抗EGFR抗体の作用機構としては、1)リガンドがEGFRに結合することを阻害する、2)EGFRが活性型に構造変化することを阻害する、3)細胞内に抗体結合受容体が取り込まれ細胞表面の受容体数を低減させる、などのメカニズムが報告されている。さらに、免疫が関与したADCC(抗体依存性殺細胞活性:antibody dependent cell-mediated cytotoxicity)により、免疫細胞が腫瘍細胞を攻撃して殺傷することも報告されている(非特許文献20)。
【0015】
ADCCを誘導する活性を持つ抗EGFR抗体については報告がある一方で、CDC活性を誘導する抗EGFR抗体についてはこれまで知られていない(非特許文献20、21)。CDC活性を誘導するためには、ADCC活性に比べ標的細胞上の抗原の発現量が多いことや、抗原の密度が高いことが重要であると考えられている(非特許文献22、23)。また、CDC活性は、抗体が抗原に結合した後、補体カスケードの一連の活性化によって増幅されると考えられている。さらに補体成分が細胞表面に吸着しやすいことから、CDC活性を誘導するためには、抗体が抗原に結合する部位が標的細胞の細胞膜に近いことが必要であると考えられている(非特許文献24)。EGFRは分子量が大きく、結合する抗体が細胞膜から離れてしまい、かつ、細胞表面の抗原密度もあまり高くないなどの理由から、CDC活性を有した抗体が得られていないと考えられた。
【0016】
【非特許文献1】Merlino, G. T. et. al., Mol Cell Biol., 5. 1772-1734, 1985
【非特許文献2】Li A. et. al., Cancer Cell 7, 301-311, 2005
【非特許文献3】Yamamoto, T. et. al., Nature, 309, 418-425, 1984
【非特許文献4】Kraus, M. H. et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 9193-9197, 1989
【非特許文献5】Plowman, G. D. et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 1746-1750, 1993
【非特許文献6】Harari P. M. Endocrine-Related Cancer 11, 689-708, 2004
【非特許文献7】Hynes N. E. et. al., Nature Reviews Cancer 5, 341-354, 2005
【非特許文献8】Nagy P. et. al., Pathology Oncology Research 4, 255-271
【非特許文献9】Liu, S.et. al., Proc. Nat. Acad. Sci. 99: 3770-3775, 2002
【非特許文献10】Hsuan-Yu Chen, M. Sc., et. al., N. Eng.J. Med. 356, 11-20, 2007
【非特許文献11】Bieche I. et. al., Int. J. Cancer 106, 758-765, 2003
【非特許文献12】Memon, A. A.et. al., Brit. J. Cancer 91: 2034-2041, 2004
【非特許文献13】Cohen, S. J. Biol. Chem. 237, 1555-1562, 1962
【非特許文献14】Gray, A. et. al., Nature, 303, 722-725, 1983
【非特許文献15】Scott, J. et. al., Science, 221, 236-240, 1983
【非特許文献16】Caroenter, G. & Wahl, M. I. “Peptide Growth Factors and Receptors I” pp69-171, Springer-Verlag, 1990
【非特許文献17】De Larco, J. E. & Todaro, G. J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 4001-4005, 1978
【非特許文献18】Stove C. et. al., Clin. Experimental Metastasis 21, 665-684, 2004
【非特許文献19】Baselga J. & Arteaga C. L.. J. Clin. Oncol. 23, 2445-2459, 2005
【非特許文献20】Grunwarld V. J. National Cancer Institute, 95, 851-867, 2003
【非特許文献21】Bleeker W. K. et. al., J. Immunol. 173, 4699-4707, 2004
【非特許文献22】Meerten T. et. al., Clin. Cancer Res. 12, 4027-4035, 2006
【非特許文献23】Cragg M. S. et. al., Blood, 101, 1045-1052, 2003
【非特許文献24】Roitt I., Brostoff J. Male D. IMMUNOLOGY Sixth ed. Mosby 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上皮細胞系の癌の治療薬として、上皮細胞に特異的に発現しているEGFRに対するモノクローナル抗体が従来用いられてきた。しかしながら、従来のモノクローナル抗体では、抗腫瘍効果が弱く、また1回あたりの投与量が多く、5mg/kg以上必要な場合があるという問題があった。さらに、投与量が多いことから、点滴投与に時間がかかるという欠点があった。これらの欠点を改善するために、より効果が高く、1回あたりの投与量が少ないEGFRファミリーに対する抗体を含有する治療薬が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、EGFRファミリーに対する抗体を含有する組成物がCDC活性を発揮することによって、EGFRファミリーを発現している標的細胞に対して強い殺細胞活性を有することを見出した。驚くべきことに、EGFRファミリーの細胞外領域の単一の部位を認識する抗体ではCDC活性を有しないにも関わらず、2つ以上の異なる部位を認識する抗体を含有する組成物は、EGFRファミリーを発現する標的細胞に対してCDC活性を発揮し、強い殺細胞活性を有することを見出した。
【0019】
特にEGFRファミリーのドメイン1およびドメイン3、またはドメイン3上の異なる2つの部位を共に認識する抗体を含有する組成物がEGFRファミリー発現細胞に対して強い殺細胞活性を有することを見出した。
【0020】
本発明者らは、このような組成物が医薬組成物として有効であり、特に抗腫瘍薬として有効であることを見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片を含有する、補体依存的殺細胞(CDC)活性を有する組成物であって、該1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が、上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位を共に認識する、上記組成物。
[2] 複数の抗体を含有し、それぞれが、上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位のいずれかを認識する、[1]の組成物。
【0022】
[3] 1つの抗体を有し、該抗体が上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位を共に認識する抗原認識部分を1つの抗体分子内に有する多重特異性抗体である、[1]の組成物。
[4] 上皮細胞成長因子受容体ファミリーがヒト上皮細胞成長因子受容体である[1]〜[3]のいずれかの組成物。
[5] 1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が認識する上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位が上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン1〜4のうちの異なる2つ以上である[4]の組成物。
【0023】
[6] 1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が認識する上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位が上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン1およびドメイン3である[4]の組成物。
[7] 1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が認識する上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位が上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン3上の異なる2つの部位である[4]の組成物。
[8] 抗体が遺伝子組換え抗体である[1]〜[7]のいずれかの組成物。
【0024】
[9] 以下の(i)〜(iii)からなる群から選択される重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する、上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片:
(i)配列番号39で示される重鎖可変領域および配列番号41で示される軽鎖可変領域;
(ii)配列番号43で示される重鎖可変領域および配列番号45で示される軽鎖可変領域;
(iii)配列番号47で示される重鎖可変領域および配列番号49で示される軽鎖可変領域;
(iv)配列番号51で示される重鎖可変領域および配列番号53で示される軽鎖可変領域;ならびに
(v)配列番号55で示される重鎖可変領域および配列番号57で示される軽鎖可変領域。
【0025】
[10] 上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位を認識する抗原認識部分を1つの抗体分子内に有する多重特異性抗体である、上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片。
[11] 上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン1〜4のうちの異なる2つ以上を共に認識する[10]の上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片。
【0026】
[12] 上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン1およびドメイン3を共に認識する、[10]の上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片。
[13] 上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン3上の異なる2つの部位を共に認識する、[10]の上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片。
[14] [1]〜[8]のいずれかに記載の組成物または[9]〜[13]のいずれかの抗体もしくはその機能的断片を含有する、医薬組成物。
【0027】
[15] 癌を治療するための医薬組成物である、[14]の医薬組成物。
[16] 癌が、EGFRファミリーを発現している癌である、[14]または[15]の医薬組成物。
[17] 癌が、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、黒色腫、腎細胞癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃癌、膵臓癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭頚部扁平上皮癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、きょう膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、謬芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状肉腫およびウィルムス腫瘍からなる群から選択される、[16]の医薬組成物。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るEGFRファミリーの細胞外ドメインの2つ以上の異なる部位を認識する抗体を含有する医薬組成物は、CDC活性を有し、EGFRファミリーを発現する細胞に対して強い殺細胞効果を与えることができる。EGFRファミリーは癌細胞に強く発現しているため、このような医薬組成物はEGFRファミリーが発現する癌細胞を殺すことができ、癌治療において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本願発明は、EGFRファミリーの細胞外領域のドメイン1〜4のいずれかを認識する抗体またはその機能的断片に関する。
【0030】
ここで「ヒト上皮細胞成長因子(EGF)」とは、Smith, J.ら(Smith, J.ら、 Nucleic Acids Res. 10: 4467-4482, 1982)により示されているアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。また、「ヒト上皮細胞成長因子受容体」および「EGFR」とは、Ullrich Aら(Ullrich A,et. al., Nature. 309(5967):418-25, 1984)により示されているアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。
【0031】
本発明において、「EGFRファミリー」とは、EGFRの他にerbB2 (HER2, neu)、erbB3 (HER3)、erbB4 (HER4)などのタンパク質を含む。
【0032】
EGFRファミリーの細胞外領域は、4つのドメイン構造からなり、N末側からドメイン1、2、3、および4と呼ばれ、ドメイン1および3はリガンドとの結合に、ドメイン2はレセプターのダイマー形成にそれぞれ関与し、ドメイン4は細胞膜貫通領域に連なっている。
【0033】
ヒトEGFRの細胞外領域のアミノ酸配列(1番から645番までのアミノ酸)を配列番号2に示す。当該配列中、アミノ酸の1番から24番まではシグナル配列、25番から209番まではドメイン1、210番から334番まではドメイン2、335番から525番まではドメイン3、および526番から645番までドメイン4にそれぞれ該当する。
【0034】
ヒトerbB2の細胞外領域のアミノ酸配列(1番から652番までのアミノ酸)を配列番号3に示す。当該配列中、アミノ酸の1番から22番まではシグナル配列、23番から187番まではドメイン1、188番から339番まではドメイン2、340番から498番まではドメイン3、499番から652番まではドメイン4にそれぞれ該当する。
【0035】
ヒトerbB3の細胞外領域のアミノ酸配列(1番から643番までのアミノ酸)を配列番号4に示す。当該配列中、アミノ酸の1番から19番まではシグナル配列、20番から179番まではドメイン1、180番から328番まではドメイン2、329番から487番まではドメイン3、488番から643番まではドメイン4にそれぞれ該当する。
【0036】
ヒトerbB4細胞外領域のアミノ酸配列(1番から651番までのアミノ酸)を配列番号5に示す。当該配列中、アミノ酸の1番から25番まではシグナル配列、26番から181番まではドメイン1、182番から331番まではドメイン2、332番から490番まではドメイン3、491番から651番まではドメイン4にそれぞれ該当する。
【0037】
EGFRの細胞外領域に存在するシステインリッチドメインは、erbB2, 3および4においてもよく保存されており、約50%の相同性を有している(Harari P. M. Endocrine-Related Cancer 11, 689-708, 2004)。
【0038】
本発明における「EGFRファミリーに対する抗体」とは、EGFRファミリーに反応性を有する抗体であり、EGFRファミリーを認識する抗体である。
【0039】
本発明において「認識する」とは、抗体の抗原結合部位を介して、上皮細胞成長因子受容体ファミリーのポリペプチドに特異的に結合することを意味する。
【0040】
ここで、抗体とは、イムノグロブリンを構成する重鎖可変領域及び重鎖定常領域、並びに軽鎖の可変領域及び軽鎖の定常領域を含む全ての領域が、イムノグロブリンをコードする抗体遺伝子に由来するイムノグロブリンである。
【0041】
「抗体の機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、抗体の抗原への作用を1つ以上保持するものを意味し、具体的にはF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、及びこれらの重合体等をいう(D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal Antibodies., 1998 T.J.International Ltd)。
【0042】
本願発明に係る抗体は、EGFRファミリーの細胞外領域のドメイン1〜4のいずれかまたはその一部断片を認識し得る。好ましくは、EGFRファミリーのドメイン1もしくはドメイン3、またはドメイン3上の異なる2つの部位、のいずれかを認識する。すなわち、配列番号2に記載のアミノ酸配列の25番から209番のアミノ酸からなるヒトEGFRのドメイン1のペプチドとおよび配列番号2に記載のアミノ酸配列の335番から525番のアミノ酸からなるヒトEGFRのドメイン3のペプチドを認識する。
【0043】
本願発明に係る抗体またはその機能的断片の一例として、
(a)配列番号39で示される重鎖可変領域、
(b)配列番号43で示される重鎖可変領域、
(c)配列番号47で示される重鎖可変領域、
(d)配列番号51で示される重鎖可変領域、及び
(e)配列番号55で示される重鎖可変領域、
からなる群から選択される重鎖可変領域を有する抗体またはその機能的断片が挙げられる。
【0044】
また、本願発明に係る抗体またはその機能的断片の一例として、
(f)配列番号41で示される軽鎖可変領域、
(g)配列番号45で示される軽鎖可変領域、
(h)配列番号49で示される軽鎖可変領域、
(i)配列番号53で示される軽鎖可変領域、及び
(j)配列番号57で示される軽鎖可変領域、
からなる群から選択される軽鎖可変領域を有する抗体またはその機能的断片が挙げられる。
【0045】
好ましくは、本願発明に係る抗体またはその機能的断片は、
(k)配列番号39で示される重鎖可変領域および配列番号41で示される軽鎖可変領域、(l)配列番号43で示される重鎖可変領域および配列番号45で示される軽鎖可変領域、および(m)配列番号47で示される重鎖可変領域および配列番号49で示される軽鎖可変領域、(n)配列番号51で示される重鎖可変領域及び配列番号53で示される軽鎖可変領域、および(o)配列番号55で示される重鎖可変領域及び配列番号57で示される軽鎖可変領域からなる群から選択される重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する。
【0046】
好ましくは、本願発明に係る抗体またはその機能的断片は、ヒトEGFRのドメイン1上のエピトープ:N末端側から34〜44番目、46〜47番目、50〜51番目、64番目、66〜69番目、88〜94番目、111〜127番目、147〜153番目及び174〜181番目;ドメイン3上のエピトープ:N末端側から439〜446番目、462〜470番目、472〜473番目及び489〜502番目;又はドメイン3上のエピトープ:N末端側から337〜339番目、358〜367番目、395〜403番目及び420〜426番目を認識する。ここで、「エピトープ」とは、EGFRの結晶構造解析の結果を基に規定された、特定のアミノ酸領域を示す。
【0047】
本発明の抗体には、上記抗体を構成する重鎖及び/又は軽鎖の各々のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する重鎖及び/又は軽鎖からなるモノクローナル抗体も包含される。本発明の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸の部分的改変(欠失、置換、挿入、付加)は、そのアミノ酸配列をコードする塩基配列を部分的に改変することにより導入することができる。この塩基配列の部分的改変は、既知の部位特異的変異導入法(site specific mutagenesis)を用いて周知方法により導入することができる。
【0048】
本発明における抗体は、所定の条件下でCDC活性を誘導し得るかぎり、いずれのイムノグロブリンクラス及びアイソタイプであっても良い。CDC活性とは、抗体が抗原と結合することによって、活性化された補体系によって引き起こされる細胞障害活性のことを言う。CDC活性は、抗体のサブクラスによって、その活性の強弱が異なることが解っており、それは、抗体の定常領域の構造の違いに起因することがわかっている(Charles A. Janeway et. al. Immunobiology, 1997, Current Biology Ltd/Garland Publishing Inc.)。したがって、好ましくは、本発明における抗体は、IgG1、IgG3、IgMおよび、IgG2であることが好ましい。
【0049】
本発明の抗体は、単独で投与された場合、標的細胞上のEGFRファミリーの細胞外領域ドメイン1〜4のいずれか、好ましくはドメイン1もしくはドメイン3、又はドメイン3上の異なる2つの部位のいずれかを認識して結合するが、当該標的細胞にCDC活性を誘導することはない。しかし、標的細胞上のEGFRファミリーの細胞外領域ドメイン1〜4のいずれか2つ以上、好ましくはドメイン1及びドメイン3をそれぞれ認識する抗体、又はドメイン3上の異なる2つの部位を認識する抗体を複数同時に投与した場合、当該標的細胞にCDC活性を誘導することが可能である。
【0050】
本発明の抗体は、抗原を認識する部位を2つ以上有する多価抗体であって、多重特異性を有する、すなわち、同時にそれぞれの部位が異なる抗原を認識できる、多重特異性抗体を含む。
【0051】
多重特異性抗体は一般的に、一分子内に複数の抗原結合部位を有し、同時に少なくとも二つの異なる構造の標的、例えば二つの異なる抗原、同じ抗原上の二つの異なるエピトープに結合できる抗体である。本発明においてこのような多重特異性を有する抗体は、EGFRファミリーの異なる2つ以上の部位(エピトープ)を共に認識することが可能である。当該抗体は、EGFRファミリーの細胞外領域のドメイン1〜4のいずれか2つ以上を認識することが好ましいが、同一ドメイン内の異なる2つの部位を認識しても良い。特に好ましくは、EGFRファミリーの細胞外領域のドメイン1とドメイン3、またはドメイン3上の異なる2つの部位をともに認識する。本発明において多重特異性を有する抗体またはその機能的断片は、EGFRファミリーの異なる2つ以上の部位、好ましくはEGFRファミリーの細胞外領域のドメイン1〜4のいずれか2つ以上、特に好ましくは、EGFRファミリーの細胞外領域のドメイン1とドメイン3、またはドメイン3上の異なる2つの部位をともに認識する抗体またはその機能的断片を含む抗原結合性分子である。
【0052】
好ましくは、配列番号39で示される重鎖可変領域、配列番号41で示される軽鎖可変領域、配列番号47で示される重鎖可変領域、配列番号49で示される軽鎖可変領域、配列番号43で示される重鎖可変領域、配列番号45で示される軽鎖可変領域、配列番号51で示される重鎖可変領域、配列番号53で示される軽鎖可変領域、配列番号55で示される重鎖可変領域、及び/又は配列番号57で示される軽鎖可変領域を有する抗体あるいはその機能的断片を含んでなる、抗原結合性分子が好ましい。
【0053】
好ましくは、ヒトEGFRのドメイン1上のエピトープ:N末端側から34〜44番目、46〜47番目、50〜51番目、64番目、66〜69番目、88〜94番目、111〜127番目、147〜153番目及び174〜181番目;ドメイン3上のエピトープ:N末端側から439〜446番目、462〜470番目、472〜473番目及び489〜502番目;ならびに/あるいは、ドメイン3上のエピトープ:N末端側から337〜339番目、358〜367番目、395〜403番目及び420〜426番目を認識する抗体又はその機能的断片を含む抗原結合性分子である。
【0054】
本発明の抗体は、遺伝子組換え抗体であることが好ましい。遺伝子組換え抗体としては、ヒト型キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体または抗体断片など、遺伝子組換えにより製造される抗体を包含する。遺伝子組換え抗体において、モノクローナル抗体の特徴を有し、抗原性が低く、血中半減期が延長されたものは、治療薬として好ましい。
【0055】
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域(以下、VHと表記する)および軽鎖可変領域(以下、VLと表記する)とヒト抗体の重鎖定常領域(以下、CHと表記する)および軽鎖定常領域(以下、CLと表記する)とからなる抗体をいう。
【0056】
本発明のヒト型キメラ抗体は、以下のようにして作製することができる。まず、PERP遺伝子によりコードされるポリペプチドの細胞外領域の立体構造を特異的に認識し、かつ該細胞外領域に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、その配列を鋳型として変異導入プライマーを用いてPCRを行うことにより、N結合型糖鎖が結合するコンセンサス配列を有さないVHおよびVLをコードするcDNAを作製する。作製したcDNAを、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させることにより、ヒト型キメラ抗体を製造することができる。
【0057】
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
【0058】
本発明のヒト型キメラ抗体としては、具体的には、抗体のVHが配列番号14〜19のいずれか1つで示されるアミノ酸配列および/または抗体のVLが配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むヒト型キメラ抗体などがあげられる。
【0059】
ヒト化抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体をいい、CDR移植抗体、再構成抗体(reshaped−antibody)などともいう。
【0060】
本発明のヒト化抗体は、以下のように作製することができる。まず、PERP遺伝子によりコードされるポリペプチドの細胞外領域の立体構造を特異的に認識し、かつ該細胞外領域に結合するヒト以外の動物のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから産生されるヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列から、N結合型糖鎖が結合するコンセンサス配列を有さないVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列を設計し、設計したVHおよびVLのCDRを任意のヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植した可変領域をコードするcDNAを作製する。作製したcDNAを、ヒト抗体のCHおよびCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト化抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させることにより、ヒト化抗体を製造することができる。
【0061】
ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列は、ヒト抗体由来のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列であれば、いかなるものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列、またはSequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services(1991)などに記載の、ヒト抗体のVHおよびVLのFRの各サブグループの共通アミノ酸配列などが用いられる。
【0062】
ヒト化抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト化抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
【0063】
ヒト抗体とは、ヒト由来の抗体遺伝子の発現産物である抗体を意味する。ヒト抗体は、後述のようにヒト抗体遺伝子座を導入し、ヒト由来抗体を産生する能力を有するトランスジェニック動物に抗原を投与することにより得ることができる。当該トランスジェニック動物としてマウスが挙げられ、ヒト抗体を産生し得るマウスの作出方法は、例えば、国際公開WO02/43478号公報に記載されている。
【0064】
以下本発明の抗体の作製方法を詳述する。
本発明において、モノクローナル抗体の製造にあたっては、下記の作業工程を包含する。
すなわち、(1)免疫原として使用する、生体高分子の精製及び/又は抗原タンパク質を細胞表面に過剰に発現している細胞の作製、(2)抗原を動物に注射することにより免疫した後、血液を採取しその抗体価を検定して脾臓等の摘出の時期を決定してから、抗体産生細胞を調製する工程、(3)骨髄腫細胞(以下「ミエローマ」という)の調製、(4)抗体産生細胞とミエローマとの細胞融合、(5)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群の選別、(6)単一細胞クローンへの分割(クローニング)、(7)場合によっては、モノクローナル抗体を大量に製造するためのハイブリドーマの培養、又はハイブリドーマを移植した動物の飼育、(8)このようにして製造されたモノクローナル抗体の生理活性及びその認識特異性の検討、あるいは標識試薬としての特性の検定、等である。
【0065】
以下、抗ヒトEGFRモノクローナル抗体の作製法を上記工程に沿って詳述するが、該抗体の作製法はこれに制限されず、例えば脾細胞以外の抗体産生細胞及びミエローマを使用することもできる。また動物血清由来の抗体を用いることも可能である。
【0066】
(1) 抗原の精製
抗原としては、EGFRファミリーの細胞外領域とヒトIgGのFc領域、もしくはグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質(以下EGFR-hFc、EGFR-GSTという)を用いることができる。EGFR-hFC及びEGFR-GSTは、EGFRファミリーの細胞外領域とヒトIgGのFc領域、もしくはGSTとの融合タンパク質をコードするDNAを動物細胞用発現ベクターに組み込み、この発現ベクターを動物細胞に導入し、取得した形質転換株の培養上清から抗原たんぱく質を精製することにより取得できる。また、ヒト細胞株の細胞膜上に存在するEGFRファミリーそのものを精製したものも、抗原として使用することができる。さらに、EGFRファミリーの一次構造は公知であるので(Ullrich Aら、Nature. 309(5967):418-25, 1984)、当業者に周知の方法により、EGFRファミリーのアミノ酸配列からペプチドを化学合成し、これを抗原として使用することもできる。
【0067】
(2)抗体産生細胞の調製工程
上記(1)で得られた抗原と、フロインドの完全若しくは不完全アジュバント、又はカリミョウバンのような助剤とを混合し、免疫原として実験動物に免疫する。実験動物としては、ヒト由来の抗体を産生する能力を有するトランスジェニックマウスが最も好適に用いられるが、そのようなマウスは富塚らの文献(Tomizuka.ら、Proc Natl Acad Sci USA., 2000 Vol 97:722)に記載されている。
【0068】
マウス免疫の際の免疫原投与法は、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射、足蹠注射などいずれでもよいが、腹腔内注射、足蹠注射又は静脈内注射が好ましい。
【0069】
免疫は、一回、又は、適当な間隔で(好ましくは3日間から1週間間隔で)複数回繰返し行なうことができる。その後、免疫した動物の血清中の抗原に対する抗体価を測定し、抗体価が十分高くなった動物を抗体産生細胞の供給源として用いれば、以後の操作の効果を高めることができる。一般的には、最終免疫後3〜5日後の動物由来の抗体産生細胞を、後の細胞融合に用いることが好ましい。
【0070】
ここで用いられる抗体価の測定法としては、放射性同位元素免疫定量法(以下「RIA法」という)、固相酵素免疫定量法(以下「ELISA法」という)、蛍光抗体法、受身血球凝集反応法など種々の公知技術が上げられるが、検出感度、迅速性、正確性、及び操作の自動化の可能性などの観点から、RIA法又はELISA法がより好適である。
【0071】
本発明における抗体価の測定は、例えばELISA法によれば、以下に記載するような手順により行うことができる。まず、精製又は部分精製した組換えヒトEGFRをELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係なタンパク質、例えばウシ血清アルブミン(以下「BSA」という)により覆い、該表面を洗浄後、一次抗体として段階希釈した試料(例えばマウス血清)に接触させ、上記抗原に試料中の抗EGFR抗体を結合させる。さらに二次抗体として酵素標識された抗体を加えて抗EGFR抗体に結合させ、洗浄後該酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することにより、抗体価を算出する。
【0072】
(3)ミエローマの調製工程
ミエローマとしては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ又はヒト等の哺乳動物に由来する自己抗体産生能のない細胞を用いることが出来るが、一般的にはマウスから得られた株化細胞、例えば8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)ミエローマ株P3X63Ag8U.1(P3-U1)(Yelton, D.E.ら、Current Topics in Microbiology and Immunology, 81, 1-7(1978))、P3/NSI/1-Ag4-1(NS-1)(Kohler, G.ら、 European J. Immunology, 6, 511-519 (1976))、Sp2/O-Ag14(SP-2)(Shulman, M.ら、Nature, 276, 269-270 (1978))、P3X63Ag8.653(653)(Kearney, J. F.ら、J. Immunology, 123, 1548-1550(1979))、P3X63Ag8(X63)(Horibata, K.およびHarris, A. W. Nature, 256, 495-497 (1975))などを用いることが好ましい。これらの細胞株は、適当な培地、例えば8-アザグアニン培地[グルタミン、2-メルカプトエタノール、ゲンタマイシン及びウシ胎児血清(以下「FCS」という)を加えたRPMI-1640培地に8-アザグアニンを加えた培地] 、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium;以下「IMDM」という)、又はダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium;以下「DMEM」という)などの培地で継代培養するが、細胞融合の3〜4日前に正常培地(例えば、10% FCSを含むDMEM培地)で継代培養し、融合当日に2×107以上の細胞数を確保しておく。
【0073】
(4)細胞融合
抗体産生細胞は、形質細胞、及びその前駆細胞であるリンパ球であり、これは個体のいずれの部位から得てもよく、一般には脾、リンパ節、骨髄、扁桃、末梢血、又はこれらを適宜組み合わせたもの等から得ることができるが、脾細胞が最も一般的に用いられる。
【0074】
最終免疫後、所定の抗体価が得られたマウスから抗体産生細胞が存在する部位、例えば脾臓を摘出し、抗体産生細胞である脾細胞を調製する。この脾細胞と工程(3)で得られたミエローマを融合させる手段として現在最も一般的に行われているのは、細胞毒性が比較的少なく融合操作も簡単な、ポリエチレングリコールを用いる方法である。この方法は、例えば以下の手順よりなる。
【0075】
脾細胞とミエローマとを無血清培地(例えばDMEM)、又はリン酸緩衝生理食塩液(以下「リン酸緩衝液」という)でよく洗浄し、脾細胞とミエローマの細胞数の比が5:1〜10:1程度になるように混合し、遠心分離する。上清を除去し、沈澱した細胞群をよくほぐした後、撹拌しながら1mlの50%(w/v)ポリエチレングリコール(分子量1000〜4000)を含む無血清培地を滴下する。その後、10mlの無血清培地をゆっくりと加えた後遠心分離する。再び上清を捨て、沈澱した細胞を適量のヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(以下「HAT」という)液及びヒトインターロイキン-2(以下「IL-2」という)を含む正常培地(以下「HAT培地」という)中に懸濁して培養用プレート(以下「プレート」という)の各ウェルに分注し、5%炭酸ガス存在下、37℃で2週間程度培養する。途中適宜HAT培地を補う。
【0076】
(5)ハイブリドーマ群の選択
上記ミエローマ細胞が、8-アザグアニン耐性株である場合、すなわち、ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)欠損株である場合、融合しなかった該ミエローマ細胞、及びミエローマ細胞どうしの融合細胞は、HAT含有培地中では生存できない。一方、抗体産生細胞同士の融合細胞、あるいは、抗体産生細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマは生存することができるが、抗体産生細胞同士の融合細胞には寿命がある。従って、HAT含有培地中での培養を続けることによって、抗体産生細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマのみが生き残り、結果的にハイブリドーマを選択することができる。
【0077】
コロニー状に生育してきたハイブリドーマについて、HAT培地からアミノプテリンを除いた培地(以下「HT培地」という)への培地交換を行う。以後、培養上清の一部を採取し、例えば、ELISA法により抗EGFR抗体価を測定する。ただし、ELISA用の抗原として上記融合タンパク質を用いる場合は、ヒトIgGのFc領域に特異的に結合する抗体を産生するクローンを選択しないように、該クローンを除外する操作が必要である。そのようなクローンの有無は、例えばヒトIgGのFc領域を抗原としたELISA等により確認することができる。
【0078】
以上、8-アザグアニン耐性の細胞株を用いる方法を例示したが、その他の細胞株もハイブリドーマの選択方法に応じて使用することができ、その場合使用する培地組成も変化する。
【0079】
(6)クローニング工程
上記(2)の記載と同様の方法で抗体価を測定することにより、特異的抗体を産生することが判明したハイブリドーマを、別のプレートに移しクローニングを行う。このクローニング法としては、プレートの1ウェルに1個のハイブリドーマが含まれるように希釈して培養する限界希釈法、軟寒天培地中で培養しコロニーを回収する軟寒天法、マイクロマニュピレーターによって1個ずつの細胞を取り出し培養する方法、セルソーターによって1個の細胞を分離する「ソータクローン」などが挙げられるが、限界希釈法が簡便であり、よく用いられる。
【0080】
抗体価の認められたウェルについて、例えば限界希釈法によるクローニングを2〜4回繰返し、安定して抗体価の認められたものを抗ヒトEGFRモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。
【0081】
(7)ハイブリドーマ培養によるモノクローナル抗体の調製
クローニングを完了したハイブリドーマは、培地をHAT培地から正常培地に換えて培養される。大量培養は、大型培養瓶を用いた回転培養、あるいはスピナー培養で行われる。この大量培養における上清を、ゲル濾過カラム等、当業者に周知の方法を用いて精製することにより、本発明の予防又は治療剤を有効成分として含有する抗EGFRファミリー抗体を得ることができる。また、同系統のマウス(例えばBALB/c)若しくはNu/Nuマウス、ラット、モルモット、ハムスター又はウサギ等の腹腔内で該ハイブリドーマを増殖させることにより、本発明の予防又は治療剤を有効成分として含有する抗EGFRファミリー抗体を大量に含む腹水を得ることができる。精製の簡便な方法としては、市販のモノクローナル抗体精製キット(例えば、MAbTrap GIIキット;アマシャムファルマシアバイオテク社製)等を利用することもできる。
かくして得られる抗体は、EGFRファミリーに対して高い抗原特異性を有する。
【0082】
(8)ドメイン特異的な抗体の作製
上記の方法により得られた抗体からさらにドメイン特異的なEGFRファミリーに対する抗体を作製することができる。ドメイン特異性を同定する方法としてはオクテルロニー(Ouchterlony)法、ELISA法、又はRIA法が挙げられる。オクテルロニー法は簡便ではあるが、抗体の濃度が低い場合には濃縮操作が必要である。一方、ELISA法又はRIA法を用いた場合は、培養上清をそのまま抗原吸着固相と反応させ、さらに二次抗体として各種イムノグロブリンアイソタイプ、サブクラスに対応する抗体を用いることにより抗体のアイソタイプ、サブクラスを同定することが可能である。
【0083】
さらに、タンパク質の定量は、フォーリンロウリー法、及び280nmにおける吸光度[1.4(OD280)=イムノグロブリン1mg/ml]より算出する方法により行うことができる。
【0084】
モノクローナル抗体の認識エピトープの同定は以下のようにして行なうことができる。まず、モノクローナル抗体の認識する分子の様々な部分構造を作製する。部分構造の作製にあたっては、公知のオリゴペプチド合成技術を用いてその分子の様々な部分ペプチドを作成する方法、遺伝子組換え技術を用いて目的の部分ペプチドをコードするDNA配列を好適な発現プラスミドに組み込み、大腸菌等の宿主内外で生産する方法等があるが、上記目的のためには両者を組み合わせて用いるのが一般的である。例えば、抗原タンパク質のC末端又はN末端から適当な長さで順次短くした一連のポリペプチドを当業者に周知の遺伝子組換え技術を用いて作製した後、それらに対するモノクローナル抗体の反応性を検討し、大まかな認識部位を決定する。
【0085】
その後、さらに細かく、その対応部分のオリゴペプチド、又は該ペプチドの変異体等を、当業者に周知のオリゴペプチド合成技術を用いて種々合成し、本発明の予防又は治療剤が有効成分として含有するモノクローナル抗体のそれらペプチドに対する結合性を調べるか、又は該モノクローナル抗体と抗原との結合に対するペプチドの競合阻害活性を調べることによりエピトープを限定する。多種のオリゴペプチドを得るための簡便な方法として、市販のキット(例えば、SPOTsキット(ジェノシス・バイオテクノロジーズ社製)、マルチピン合成法を用いた一連のマルチピン・ペプチド合成キット(カイロン社製)等)を利用することもできる。
【0086】
また、ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からヒトモノクローナル抗体をコードする遺伝子をクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主(例えば哺乳類細胞細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を調製することもできる(P.J.Delves., ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES., 1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean. Monoclonal Antibodies., 2000 OXFORD UNIVERSITYPRESS、J.W.Goding. Monoclonal Antibodies:principles and practice., 1993 ACADEMIC PRESS)。
【0087】
ハイブリドーマからモノクローナル抗体をコードする遺伝子を調製するには、モノクローナル抗体のL鎖V領域、L鎖C領域、H鎖V領域及びH鎖C領域をそれぞれコードするDNAをPCR法等により調製する方法が採用される。プライマーは、抗EGFRファミリー抗体遺伝子又はアミノ酸配列から設計したオリゴDNAを、鋳型としてはハイブリドーマから調製したDNAを使用することができる。これらのDNAを1つの適当なベクターに組み込み、これを宿主に導入して発現させるか、あるいはこれらのDNAをそれぞれ適当なベクターに組み込み、共発現させる。
【0088】
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドが使用される。プラスミド DNAとしては、大腸菌、枯草菌又は酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージが挙げられる。
【0089】
形質転換に使用する宿主としては、目的の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
【0090】
宿主への遺伝子の導入方法は公知であり、任意の方法(例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等)が挙げられる。また、後述の動物に遺伝子を導入する方法としては、マイクロインジェクション法、ES細胞にエレクトロポレーションやリポフェクション法を使用して遺伝子を導入する方法、核移植法などが挙げられる。
【0091】
本発明において、EGFRファミリー抗体は、形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、(a)培養上清、(b)培養細胞若しくは培養菌体又はその破砕物、(c)形質転換体の分泌物のいずれをも意味するものである。形質転換体を培養するには、使用する宿主に適した培地を用い、静置培養法、ローラーボトルによる培養法などが採用される。
【0092】
培養後、目的タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することにより抗体を採取する。また、目的抗体が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる各種クロマトグラフィーを用いた一般的な生化学的方法を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から目的の抗体を単離精製することができる。
【0093】
さらに、トランスジェニック動物作製技術を用いて、目的抗体の遺伝子が内在性遺伝子に組み込まれた動物宿主、例えばトランスジェニックウシ、トランスジェニックヤギ、トランスジェニックヒツジ又はトランスジェニックブタを作製し、そのトランスジェニック動物から分泌されるミルク中からその抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である(Wright, G.ら、 (1991) Bio/Technology 9, 830-834)。ハイブリドーマをインビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地、あるいは既知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することが可能である
【0094】
(9)多重特異性抗体の作製
多重特異性抗体は、細胞融合法または化学合成法により作製することができる。細胞融合法においては、2つの異なるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマをさらに融合し、ハイブリッドハイブリドーマを作製することによって多重特異性抗体を得ることができる。化学合成法においては、2つの抗体分子を還元し、軽鎖と重鎖に分解し、これらを混合して再度酸化することによって多重特異性抗体を得ることができる。
【0095】
本発明は、上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片を含有する、CDC活性を有する、組成物であって、該1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が、上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位を共に認識する、組成物を包含する。
【0096】
当該組成物は、EGFRファミリーの異なる2つ以上の部位を共に認識する1または複数の抗体またはその機能的断片を含有することによって、EGFRファミリーを発現する標的細胞に対してCDC活性を発揮し、強い殺細胞活性を有する。
【0097】
当該組成物は、含有される抗体またはその機能的断片によって、EGFRファミリーの異なる2つ以上の部位が共に認識され、CDC活性を発揮し得る限り、例えば、1種、2種または2種以上の抗体またはその機能的断片を含むことができる。
【0098】
当該抗体またはその機能的断片が認識し得るEGFRファミリーの異なる2つ以上の部位とは、ドメイン1〜4のうちの異なる2つのドメイン上の部位、同一ドメイン内の異なる部位、およびドメイン1〜4のうちのいずれかとシグナル配列上の部位を、少なくとも含む部位であり得る。好ましくは、EGFRファミリーの細胞外領域のドメイン1および3、又はドメイン3上の異なる2つの部位である。さらに好ましくは、配列番号39で示される重鎖可変領域および配列番号41で示される軽鎖可変領域、配列番号47で示される重鎖可変領域および配列番号49で示される軽鎖可変領域、または配列番号43で示される重鎖可変領域および配列番号45で示される軽鎖可変領域、配列番号51で示される重鎖可変領域及び配列番号53で示される軽鎖可変領域、又は、配列番号55で示される重鎖可変領域及び配列番号57で示される軽鎖可変領域によって認識され得る、ヒトEGFRのドメイン1および3である。
【0099】
好ましくは、ヒトEGFRのドメイン1上のエピトープ:N末端側から34〜44番目、46〜47番目、50〜51番目、64番目、66〜69番目、88〜94番目、111〜127番目、147〜153番目及び174〜181番目;ドメイン3上のエピトープ:N末端側から439〜446番目、462〜470番目、472〜473番目及び489〜502番目;又はドメイン3上のエピトープ:N末端側から337〜339番目、358〜367番目、395〜403番目及び420〜426番目である。
前記組成物は上記のEGFRファミリーに対する抗体を含む。該組成物は、上記抗体の2種以上を組合せて含むことにより、EGFRファミリーの異なる2つ以上の部位を認識し得る。また、前記組成物は上記の多重特異性抗体を含むことにより、EGFRファミリーの異なる2つ以上の部位を認識し得る。
【0100】
さらに、本発明は、上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片を含有する、補体依存的殺細胞(CDC)活性を有する、癌を治療するための医薬組成物であって、該1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が、上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位を共に認識する、医薬組成物を包含する。
【0101】
本発明の医薬組成物を用いて治療し得る癌としては、EGFRファミリーを発現している癌が含まれ、例えば、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、黒色腫、腎細胞癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃癌、膵臓癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭頚部扁平上皮癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、きょう膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、謬芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状肉腫及びウィルムス腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
本発明の医薬組成物は、経口投与又は非経口投与(例えば、静注、筋注、皮下投与、腹腔内投与、直腸投与、経粘膜投与など)で、ヒト又はヒト以外の動物に投与することができる。また、投与経路に応じて適当な剤形とすることができる。具体的には顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、静注、筋注用の注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの各種製剤形態に調製することができる。
【0103】
これらの各種製剤は、通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、浸潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、着色料、香味剤、及び安定化剤などを用いて常法により製造することができる。
【0104】
賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット及び結晶セルロース、滅菌水、エタノール、グリセロール、生理食塩水、緩衝液などが、崩壊剤としては、例えば澱粉、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、炭酸マグネシウム及び合成ケイ酸マグネシウムなどが、結合剤としては、例えばメチルセルロース又はその塩、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース及びポリビニルピロリドンなどが、滑沢剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール及び硬化植物油などが、安定化剤としては、例えばアルギニン、ヒスチジン、リジン、メチオニンなどのアミノ酸、ヒト血清アルブミン、ゼラチン、デキストラン40、メチルセルロース、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウムなどが、その他の添加剤としては、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硝酸ソーダ及びリン酸ナトリウムなどがそれぞれ挙げられる。
【0105】
本発明の医薬組成物は、抗体の有効量と適切な希釈剤及び薬理学的に使用し得るキャリアとの組合せとして投与される。その有効量は、患者の年齢、体重、疾患の重篤度などの要因によって変化し得るが、1回につき体重1kgあたり0.0001mg〜100mgであり、2日から8週間間隔で投与することができる。
【0106】
本発明は、さらに本発明の抗体を用いた癌の治療法を包含する。該方法により治療し得る癌としては、EGFRファミリーを発現している癌が含まれ、例えば、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、黒色腫、腎細胞癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃癌、膵臓癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭頚部扁平上皮癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、きょう膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、謬芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状肉腫及びウィルムス腫瘍などが挙げられる。
【実施例】
【0107】
以下にヒトEGFRに対する抗体の実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0108】
実施例1:ヒトEGFR抗原の作製
ヒトEGFRは、プライマー5’gcacggccccctgactccgtccagtattga3’(配列番号6) 及び、5’AGTGGCGATGGACGGGATCTTAGGCCCATT3’(配列番号7)を用いて、Human Placenta Marathon Ready cDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ(KODPlus, 東洋紡社製)を用いて、98℃1秒、55℃ 30秒、72℃ 1分の反応を35サイクル実施することにより増幅した。この遺伝子断片を鋳型として使用し、ヒトEGFRの細胞外ドメインとIgGのFc融合タンパク質(EGFR-FC)の発現ベクターを作製した。ヒトEGFR(配列番号1)の細胞外領域を、5’末端にEcoRI配列を、その3’末端にNotI配列を付加する為のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い修飾した。プライマー5’−CCGGAATTCCCACCATGAGCCAGGACACCGAGGTGGATATGA−3’(配列番号8)及び5’−AAGGAAAAAAGCGGCCGCTCATCAGGCCGCGTAGGGGAAGCGGAGCAGCAG−3’(配列番号9)を使用し、DNAポリメラーゼ(KODPlus, 東洋紡社製)及びEGFRcDNA(約20ng)を鋳型として、94℃、15秒;55℃、30秒;及び68℃、1分30秒間、30サイクルのPCR反応を行った。増幅したDNAを、EcoRIおよびNotIで消化し、あらかじめヒトIgGのFc領域が挿入されていたpTracer-CMV/Zeo(Invitrogen社製)ベクターに挿入した。
【0109】
N5KG1-Val Larkベクター(IDEC Pharmaceuticals, N5KG1(US patent 6001358)の改変ベクター)をBglIIとNheIで開裂後、Blunting high(東洋紡社製)で平滑末端処理し、Alkaline Phosphatase(BAP)(タカラバイオ)で脱リン酸化処理した。このベクターに、pTracer-CMV/Zeo に挿入したEGFR−FCをPmeI消化によって切り出したものを挿入した。得られたプラスミドをpN5KG1/hEGFRECD-Fcと命名した。
【0110】
作製した発現ベクターは、FreeStyle293細胞(Invitrogen社製)へ添付説明書に従い導入し、組み換え型タンパクを発現させた。ベクター導入後5日目の培養上清を回収し、0.2μmのフィルター(ミリポア社製)処理を行った。組み換え型Fc 融合タンパクを含む培養上清からProteinA樹脂(MabSelect、アマシャム社製)を用いて融合タンパクをアフィニティー精製した。洗浄液としてリン酸緩衝液、溶出緩衝液として20mMクエン酸ナトリウム,50mM NaCl緩衝液(pH2.7)を用いた。溶出画分は200mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を添加してpH6.0付近に調整した。調製された融合タンパク溶液は、透析膜(10000カット、Spectrum Laboratories社製)を用いてリン酸緩衝液に置換し、孔径0.22μmのメンブランフィルターMILLEX−GV(MILLIPORE製)でろ過滅菌し、ヒトEGFRの細胞外領域とヒトIgGのFc領域の融合タンパクを得た。精製組み換え型Fc 融合タンパクの濃度は280nmの吸光度を測定し、0.86 Optimal densityを示すヒトEGFRの細胞外領域とヒトIgGのFc領域の融合タンパク質溶液の濃度を1mg/mlとして算出した。
【0111】
ヒトEGFR-GST融合タンパク質の発現ベクターの作製は、EGFRcDNA(配列番号1)を鋳型として、細胞外領域の5’末端にBglII配列を、その3’末端にKpnI配列を付加する為のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い修飾した。プライマー5’−GAAGATCTCCACCATGCGACCCTCCGGGACGGCCGGGGCAGCG−3’(配列番号10)及び5’− GGGGTACCCGTTGGACAGCCTTCAAGACCTGGCCCA−3’(配列番号11)を使用し、DNAポリメラーゼ(KODPlus, 東洋紡社製)により、94℃、15秒;55℃、30秒;及び68℃、1分30秒間、25サイクルのPCR反応を行った。増幅されたDNA断片を、BglII、KpnIで酵素消化し、あらかじめGSTが挿入されていたN5KG1-Val Larkベクター(IDEC Pharmaceuticals, N5KG1(US patent 6001358)の改変ベクター)に挿入した。得られたプラスミドをpN5KG1/hEGFRECD-GSTと命名した。
【0112】
抗体の結合領域を調べるため、ヒトEGFRのドメイン1、ドメイン1+2、ドメイン3+4、およびドメイン4の各領域を、それぞれ特異的プライマーを用いてPCRで遺伝子増幅を行い、上述のGST融合タンパク質発現ベクターに挿入した。
【0113】
EGFRcDNAを鋳型として、ヒトEGFRのドメイン1領域(配列番号2、アミノ酸番号1から213番目)をプライマー5’−CGAGCTCTGGAGGAAAAGAAAGTTTGCCAAGGCA−3’(配列番号12)及び5’− GGGGTACCGATGATTTTGGTCAGTTTCTGGCAGTTCT−3’(配列番号13)を使用して、ドメイン4領域(配列番号2、アミノ酸番号526から638)は、プライマー5’−CGAGCTCTGTGCCGGAATGTCAGCCGAGGCAGGG−3’(配列番号14)及び5’− GGGGTACCCGTTGGACAGCCTTCAAGACCTGG−3’(配列番号15)を使用し、,ドメイン1+2領域(配列番号2、アミノ酸番号1から339)は、プライマー5’−CGAGCTCTGGAGGAAAAGAAAGTTTGCCAAGGCA−3’(配列番号16)及び5’− GGGGTACCTCCGTTACACACTTTGCGGCAAGGCCC−3’(配列番号17)を使用し、ドメイン3+4領域(配列番号2、アミノ酸番号334-638)はプライマー5’−CGAGCTCTGGAAGGGCCTTGCCGCAAAGTGTG−3’(配列番号18)及び5’−GGGGTACCCGTTGGACAGCCTTCAAGACCTGG−3’(配列番号19)を使用し、DNAポリメラーゼ(KODPlus, 東洋紡社製)により、94℃、15秒;55℃、30秒;及び68℃、1分30秒間、30サイクルのPCR反応を行った。増幅されたDNA断片を、BglII、KpnIで酵素消化し、あらかじめGSTが挿入されていたN5KG1-Val Larkベクター(IDEC Pharmaceuticals, N5KG1(US patent 6001358)の改変ベクター)に挿入した。得られたプラスミドをpN5KG1/hEGFR-domain1-GST, pN5KG1/hEGFR-domain4-GST, pN5KG1/hEGFR-domain1+2-GST , pN5KG1/hEGFR-domain3+4-GSTと命名した。
【0114】
作製した発現ベクターは、FreeStyle293細胞(Invitrogen社製)へ添付説明書に従い導入し、組み換え型タンパクを発現させた。ベクター導入後5日目の培養上清を回収し、0.2μmのフィルター(ミリポア社製)処理を行った。組み換え型GST 融合タンパクを含む培養上清125mlに対しGlutathione Sepharose 4B(アマシャム社製)樹脂懸濁液1mlを添加し、4℃で4時間反応させた。その後、リン酸緩衝液で洗浄し、溶出緩衝液として10mM Glutathione in 50mM Tris-HCl(pH8.0)を用いて各ドメインペプチドをアフィニティー精製した。溶出画分は、透析膜(10000カット、Spectrum Laboratories社製)を用いてリン酸緩衝液に置換し、孔径0.22μmのメンブランフィルターMILLEX−GV(MILLIPORE製)でろ過滅菌し、組み換え型GST 融合タンパクを得た。精製組み換え型GST 融合タンパクの濃度は280nmの吸光度を測定し、1mg/mlをヒトEGFR ECD-GSTは0.91、ヒトEGFR domain1-GSTは1.11、ヒトEGFR domain4-GSTは1.12、ヒトEGFR domain1+2-GSTは0.96、ヒトEGFR domain3+4-GSTは1.02を Optimal densityとして算出した。
【0115】
実施例2:抗ヒトEGFR抗体の作製
本実施例におけるモノクローナル抗体の作製は、単クローン抗体実験操作入門(安東民衛ら著作、講談社発行、1991年)等に記載されるような一般的方法に従って調製した。被免疫動物は、日本SLC社で市販されているC3H/Hej jms Slc- lpr/lprマウスを用いた。
【0116】
マウスにhEGFR -Fc等の抗原タンパク質を、MPL+TDM EMULSION(RiBi:シグマ社製Ca.No52-0177-00)と1:1で混合し、10μg/匹で右腹腔内に初回免疫した。初回免疫から以降は、10〜20μg/匹の抗原を7日間毎にマウスに免疫することを繰り返した。さらに細胞融合のために脾臓及びリンパ節を取得する3日前に同抗原を右腹腔内に免疫した。抗原免疫2回目以降から抗体価の測定を開始し、以降は計時的に抗体価の測定をおこない、脾臓等の摘出時期を判断した。
【0117】
免疫されたマウスから脾臓及びリンパ節を外科的に取得し、350mg/ml 炭酸水素ナトリウム、50単位/ml ペニシリン、50μg/ml ストレプトマイシンを含む無血清DMEM培地(ギブコ・ビーアールエル社製)(以下「無血清DMEM培地」という)10ml中に入れ、メッシュ(セルストレイナー:ファルコン社製)上でスパーテルを用いてつぶした。メッシュを通過した細胞懸濁液を遠心して細胞を沈澱させた後、この細胞を無血清DMEM培地で2回洗浄してから、無血清DMEM培地に懸濁して細胞数を測定した。一方、10% FCS(シグマ社製)を含むDMEM培地(ギブコ・ビーアールエル社製)(以下「血清入りDMEM培地」という)にて、37℃、5% 炭酸ガス存在下で細胞濃度が1×108細胞/mlを越えないように培養したミエローマ細胞 SP2/0(ATCC No.CRL-1581)を同様に無血清DMEM培地で洗浄し、無血清DMEM培地に懸濁して細胞数を測定した。回収した細胞の懸濁液とマウスミエローマ懸濁液とを細胞数5:1で混合し、遠心後、上清を完全に除去した。このペレットに、融合剤として50%(w/v) ポリエチレングリコール1500(ベーリンガーマンハイム社製)1mlを、ピペットの先でペレットを撹拌しながらゆっくり添加した後、予め37℃に加温しておいた無血清DMEM培地1mlを2回に分けてゆっくり添加し、さらに7mlの無血清DMEM培地を添加した。遠心後、上清を除去して得られた融合細胞を、以下に記載する限界希釈法によるスクリーニングに供した。ハイブリドーマの選択は、10%のウシ胎児血清(Fetal Calf Serum、FCS)とヒポキサンチン(H)、アミノプテリン(A)、チミジン(T)(以下「HAT」という。:シグマ社製)を含有するDMEM培地中で培養することにより行った。さらに、HT(シグマ社製)含有DMEM培地を用いて限界希釈法によりシングルクローンにした。培養は、96穴マイクロタイタープレート(ベクトンディッキンソン社製)中で行った。
【0118】
抗ヒトEGFRモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンの選択(スクリーニング)及び各々のハイブリドーマが産生するヒトモノクローナル抗体の特徴付けは、後述する酵素標識免疫吸着アッセイ(ELISA)および蛍光活性化セルソーター(FACS)により測定することにより行った。
【0119】
実施例3:抗EGFR抗体の結合ドメインの決定
マウス免疫グロブリン重鎖(mIgγ)を有し、ヒトEGFR及び/またはヒトEGFRの各ドメインに特異的に結合するマウスモノクローナル抗体を以下の手順に従い確認した。
【0120】
Coating buffer(50 mM carbonate buffer:pH9)にて1μg/mLに調製したanti-Glutathione -Transferase -Schistsoma-japonicum抗体(Goat)(Rockland社製 ca.No.16979)[以下anti-GST]を50μL/wellでマキシソープPlate(Nunc社製;ca.No.442404)に播き、37℃で1hr(或いは4℃で一晩)インキュベートし、固相化した。ブロッキング試薬(SuperBlock(登録商標)Blocking Buffer、PIERCE社製)を250〜300μL /well加え、室温で5〜10分間インキュベートし、ブロッキングを実施した。そこに、各種EGFR- GST 融合タンパク質を50μg/well /50μL/wellで加え、室温で1時間インキュベートし固相化した。Washing buffer(0.1% Tween20-TBS)にて3回洗浄し、培養上清を50μL/well添加し、室温にて30分間インキュベーションした。Washing buffer(0.1% Tween20-TBS)にて3回洗浄後、Assay diluent(10% Block Ace;大日本住友製薬社製、含0.1%Tween20-TBS)で希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Southern Biotech社製1030-05)、HRP標識ヤギ抗マウスIgG)抗体 (CALTAG社製M30107)、HRP標識ヤギ抗マウス IgM抗体を各ウェルに50μL加え、更に室温にて30分間反応させた。Washing bufferにて4回洗浄後、TMB(DAKO社製)発色基質液を各ウェルに50μL加え、暗所にて室温でインキュベートし、発色させた後、0.5M硫酸(50μL/well)を加え、反応を停止した。波長450nm(参照波長570 nm)での吸光度をマイクロプレートリーダー(MTP-300;コロナ電気社製)で測定した。抗EGFR抗体の結合ドメインは、前述の4種の欠失変異体への結合様式から判定した。
【0121】
EGFR-domain1-GST融合タンパク質、EGFR-domain1+2-GST融合タンパク質、EGFR-domain3-GST融合タンパク質、EGFR-domain3+4-GST融合タンパク質、への結合性を調べ、EGFR-domain1+2-GST融合タンパク質とEGFR-domain1-GST融合タンパク質に結合する抗体はドメイン1、hEGFR-domain1+2-GST融合タンパク質のみに結合する抗体はドメイン2、EGFR-domain3+4-GST融合タンパク質のみに結合する抗体はドメイン3、EGFR-domain3+4-GST融合タンパク質とEGFR-domain4-GST融合タンパク質に結合するものはドメイン4、を認識すると判定した。取得した抗体のリストと結合ドメインを表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
抗ヒトEGFR抗体の細胞結合性の測定
ヒトEGFRの発現が確認されている癌細胞Du145細胞に対する、各モノクローナル抗体の反応性の検討を、FACS解析で行った。
【0124】
Du145細胞を1%MEM非必須アミノ酸溶液(ギブコ社製)、10% FCS含有のαMEM培地にて培養し、sub-confluentに達した時点でtrypsin-EDTA (GIBCO社製)を用いて回収した。新鮮な培地に播き直したDu145細胞をリン酸緩衝液にて洗浄した後、Trypsin-EDTAを添加し、室温下で静置した。約5分程度の静置後、細胞が剥がれたら10%FCS含RPMI1640培地を3倍量加えTubeに回収した。1,500 rpmにて3分遠心した後、生細胞をカウントし、1 x 106/mLの濃度に調製し、各ウェル50μLずつを96穴U底プレート(ベクトンディッキンソン社製)に分注する。細胞に培養上清、を50μL/wellで加え、4℃下で30分静置した。2,000 rpmにて2分遠心し、上清を捨てstaining mediumを100μL/well分注した。さらに2,000 rpmにて2分遠心し、上清を捨て、FITC標識ヤギ抗マウス Ig抗体ポリクロ(DAKO;Ca. No. F0479)50倍希釈、R-PE標識ヤギ抗マウス IgG抗体ポリクロ(Southern biotech ;Ca. No. 1030-09)200倍希釈の検出抗体を50μL/wellで添加する。ボルテックスにて攪拌後、4℃遮光下で30分静置した。FACS(FACScan、ベクトンディッキンソン社製)で各細胞の蛍光強度を測定した。FACSで特異的発現が観察された抗体について、機能評価を実施した。
【0125】
実施例4:組換え型抗体の作製
抗体遺伝子のcDNAクローニングと発現ベクター作製
各ドメインを認識するマウス抗体のうち、特徴的なクローンを選択し、CDC活性を測定するために定常領域をヒト型に変換したキメラ抗体を作製した。そのためにまず、マウスハイブリドーマから、抗体遺伝子のクローニングを行った。
【0126】
ハイブリドーマを10%FCS含有DMEM培地(ギブコ社製)で培養し、遠心分離により細胞を集めた後、RNA抽出液(ISOGEN、ニッポンジーン社製))を添加し、取扱説明書にしたがってTotal RNAを抽出した。抗体cDNAの可変領域のクローニングは、SMART RACE cDNA amplification Kit(クローンテック社製)を用い、添付の説明書にしたがって行った。1μgのtotal RNAを鋳型として、1st strand cDNAを作製した。このcDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ(KODPlus, 東洋紡社製)を用いてPCRを行った。cDNA 2.5μl、10xKOD-plus Buffer 5μl、dNTP mix 5μl、KOD-plus 1μl、25mM MgSO4 2μlを混合し、それぞれ記述の特異的プライマーを添加後、再蒸留水にて最終容量50μlとし、PCRに供した。
【0127】
モノクローナル抗体1-27-2の軽鎖の遺伝子の増幅には、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmk-RvP1(5’- TTGAAGCTCTTGACAATGGGTGAAGTTGAT -3’)(配列番号20)を用い、94℃ 5秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、続いて、94℃ 5秒:70℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、さらに、94℃ 5秒:68℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを25回繰り返した。さらに、この反応液の5倍希釈液1μlを鋳型とし、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーNUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmk-RvP2(5’- GTAGGTGCTGTCTTTGCTGTCCTGATCAGT -3’)(配列番号21)を用いて、94℃ 15秒:60℃ 30秒:68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、増幅されたPCR産物をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。精製されたPCR産物をpCR4Blunt-TOPOベクターに連結し、添付説明書に従いサブクローニングした。次にT3プライマー(5’-ATTAACCCTCACTAAAGGGA-3’)(配列番号22)とT7プライマー(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’)(配列番号23)を用いて、塩基配列の決定を行った。配列情報を基に、pCR4Blunt-TOPOベクターでサブクローニングされた軽鎖遺伝子を鋳型として1-27-2LcBglII(5’-GAAGATCTCTCACCATGGAGTCACAGATTCAGGTCTTTGT -3’)(配列番号24) と1-27-2LcBsiWI(5’- AGAGAGAGAGCGTACGTCTGAGTTCCAGCTTGGTGCCTCC -3’)(配列番号25)を用い、94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、約400bpの断片をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。軽鎖増幅cDNA断片をBglII、BsiWIで消化し、同一酵素で解裂されていたN5KG1-Val Larkベクター(IDEC Pharmaceuticals, N5KG1(US patent 6001358)の改変ベクター)に導入した。得られたベクターをN5KG1-Val 1-27-2Lと命名した。
【0128】
モノクローナル抗体1-27-2の重鎖の遺伝子の増幅には、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmH-Rv1プライマー(5’-ATTTTGTCGACCKYGGTSYTGCTGGCYGGGTG -3’)(配列番号26)を用い、94℃ 5秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、続いて、94℃ 5秒:70℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、さらに、94℃ 5秒:68℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを25回繰り返した。さらに、この反応液の5倍希釈液1μlを鋳型とし、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーNUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmH-Rv2(5’-GCACACYRCTGGACAGGGATCCATCCAGAGTTCC-3’)(配列番号27)を用いて、94℃ 15秒:60℃ 30秒:68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、増幅されたPCR産物をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。精製されたPCR産物をpCR4Blunt-TOPOベクターに連結し、添付説明書に従いサブクローニングした。次にT3プライマー(5’-ATTAACCCTCACTAAAGGGA -3’)(配列番号22)とT7プライマー(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’)(配列番号23)を用いて塩基配列の決定を行った。配列情報を基に、pCR4Blunt-TOPOベクターでサブクローニングされた重鎖遺伝子を鋳型として1-27-2HcSalIu(5’- ACGCGTCGACCTCACCATGGGATGGAGCTGTATCAT -3’)(配列番号28)と1-27-2HcNheIL(5’- CTAGCTAGCTGAGGAGACGGTGACTGAGGTTCCT -3’)(配列番号29)を用い、94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、約450bpの断片をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。重鎖増幅cDNA断片をSalI、NheIで消化し、同一酵素で解裂されていたN5KG1-Val1-27-2Lに導入した。挿入部分のDNA塩基配列を決定して、PCR増幅して挿入された配列に鋳型とした遺伝子配列と相違がないことを確認した。得られたベクターをN5KG1-Val 1-27-2と命名した。
【0129】
モノクローナル抗体2-18-6の軽鎖の遺伝子の増幅には、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmk-RvP1(5’- TTGAAGCTCTTGACAATGGGTGAAGTTGAT -3’)(配列番号20)プライマーを用い、94℃5秒:72℃3分のサイクルを5回繰り返し、続いて、94℃ 5秒:70℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、さらに、94℃ 5秒:68℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを25回繰り返した。さらに、この反応液の5倍希釈液1μlを鋳型とし、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーNUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmk-RvP2(5’- GTAGGTGCTGTCTTTGCTGTCCTGATCAGT -3’)(配列番号21)を用いて、94℃ 15秒:60℃ 30秒:68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、増幅されたPCR産物をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。精製されたPCR産物をpCR4Blunt-TOPOベクターに連結し、添付説明書に従いサブクローニングした。次にT3(5’-ATTAACCCTCACTAAAGGGA-3’)(配列番号22)とT7(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’)(配列番号23)をプライマーとして、塩基配列の決定を行った。配列情報を基に、pCR4Blunt-TOPOベクターでサブクローニングされた軽鎖遺伝子を鋳型として2-18-6LcBglII(5’-GAAGATCTCTCACCATGAGTGTGCCCACTCAGGTCCTGGG -3’) (配列番号30)と2-18-6LcBsiWI(5’-AGAGAGAGAGCGTACGATTGATTTCCAGCTTGGTGCCTCC -3’)(配列番号31)を用い、94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、約400bpの断片をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。軽鎖増幅cDNA断片をBglII、BsiWIで消化し、同一酵素で解裂されていたN5KG1-Val Larkベクター(IDEC Pharmaceuticals, N5KG1(US patent 6001358)の改変ベクター)に導入した。得られたベクターをN5KG1-Val2-18-6Lと命名した。
【0130】
モノクローナル抗体2-18-6重鎖の遺伝子の増幅には、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmH-Rv1プライマー(5’-ATTTTGTCGACCKYGGTSYTGCTGGCYGGGTG -3’)(配列番号26)を用い、94℃ 5秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、続いて、94℃ 5秒:70℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、さらに、94℃ 5秒:68℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを25回繰り返した。さらに、この反応液の5倍希釈液1μlを鋳型とし、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーNUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmH-Rv2(5’-GCACACYRCTGGACAGGGATCCATCCAGAGTTCC-3’)(配列番号27)を用いて、94℃ 15秒:60℃ 30秒:68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、増幅されたPCR産物をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。精製されたPCR産物をpCR4Blunt-TOPOベクターに連結し、添付説明書に従いサブクローニングした。次にT3プライマー(5’- ATTAACCCTCACTAAAGGGA -3’)(配列番号22)とT7プライマー(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’)(配列番号23)を用いて、塩基配列の決定を行った。配列情報を基に、pCR4Blunt-TOPOベクターでサブクローニングされた重鎖遺伝子を鋳型として1-27-2HcSalIu(5’-ACGCGTCGACCTCACCATGGAATGGCCTTTGATCTTTCTCT -3’)(配列番号32)と1-27-2HcNheIL(5’-CTAGCTAGCTGCAGAGACAGTGACCAGAGTCCCT -3’)(配列番号33)を用い、94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、約450bpの断片をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。重鎖増幅cDNA断片をSalI、NheIで消化し、同一酵素で解裂されていたN5KG1-Val2-18-6に導入した。挿入部分のDNA塩基配列を決定して、PCR増幅して挿入された配列に鋳型とした遺伝子配列と相違がないことを確認した。得られたベクターをN5KG1-Val/2-18-6と命名した。
【0131】
モノクローナル抗体5-43-4-1重鎖の遺伝子の増幅には、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmH-Rv1プライマー(5’-ATTTTGTCGACCKYGGTSYTGCTGGCYGGGTG -3’)(配列番号26)を用い、94℃ 5秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、続いて、94℃ 5秒:70℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、さらに、94℃ 5秒:68℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを25回繰り返した。さらに、この反応液の5倍希釈液1μlを鋳型とし、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーNUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmH-Rv2(5’-GCACACYRCTGGACAGGGATCCATCCAGAGTTCC-3’)(配列番号27)を用いて、94℃ 15秒:60℃ 30秒:68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、増幅されたPCR産物をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。精製されたPCR産物をpCR4Blunt-TOPOベクターに連結し、添付説明書に従いサブクローニングした。次にT3プライマー(5’- ATTAACCCTCACTAAAGGGA -3’)(配列番号22)とT7プライマー(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’)(配列番号23)を用いて、塩基配列の決定を行った。配列情報を基に、pCR4Blunt-TOPOベクターでサブクローニングされた重鎖遺伝子を鋳型として5-43-4-1HcSalIu(5’-ACGCGTCGACCTCACCATGGGATGGAGCTGGATCTTTCTCTTTC -3’)(配列番号34)と5-43-4-1HcNheIL(5’-CTAGCTAGCTGAGGAGACGATGACTGAGGTTCCTT -3’)(配列番号35)を用い、94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、約450bpの断片をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。重鎖増幅cDNA断片をSalI、NheIで消化し、同一酵素で解裂されていたN5KG1-Valベクター(IDEC Pharmaceuticals, N5KG1(US patent 6001358)の改変ベクター)に導入した。挿入部分のDNA塩基配列を決定して、PCR増幅して挿入された配列に鋳型とした遺伝子配列と相違がないことを確認した。得られたベクターをN5KG1-Val/5-43-4-1Hと命名した。
【0132】
モノクローナル抗体5-43-4-1軽鎖の遺伝子の増幅には、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmk-RvP1(5’- TTGAAGCTCTTGACAATGGGTGAAGTTGAT -3’)(配列番号20)プライマーを用い、94℃ 5秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、続いて、94℃ 5秒:70℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを5回繰り返し、さらに、94℃ 5秒:68℃ 10秒:72℃ 3分のサイクルを25回繰り返した。さらに、この反応液の5倍希釈液1μlを鋳型とし、遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーNUMP(SMART RACE cDNA amplification Kit;クローンテック社製)と遺伝子クローニングキットに含まれるプライマーmk-RvP2(5’- GTAGGTGCTGTCTTTGCTGTCCTGATCAGT -3’)(配列番号21)を用いて、94℃ 15秒:60℃ 30秒:68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、増幅されたPCR産物をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。精製されたPCR産物をpCR4Blunt-TOPOベクターに連結し、添付説明書に従いサブクローニングした。次にT3プライマー(5’-ATTAACCCTCACTAAAGGGA-3’)(配列番号22)とT7プライマー(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’)(配列番号23)を用いて、塩基配列の決定を行った。配列情報を基に、pCR4Blunt-TOPOベクターでサブクローニングされた軽鎖遺伝子を鋳型として5-43-4-1LcBglII(5’-GAAGATCTCTCACCATGATGTCCTCTGCTCAGTTCCTTGGTCTCC -3’) (配列番号36)と5-43-4-1LcBsiWI(5’-AGAGAGAGAGCGTACGTTTGATTTCCAGCTTGGTGCCTCCACCG -3’)(配列番号37)を用い、94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 1分のサイクルを30回繰り返した。この反応液を2%アガロースゲル電気泳動に供し、約400bpの断片をQIAquick gel extraction kit(キアゲン社製)により精製した。軽鎖増幅cDNA断片をBglII、BsiWIで消化し、同一酵素で解裂されていたN5KG1-Val/5-43-4-1Hベクター(IDEC Pharmaceuticals, N5KG1(US patent 6001358)の改変ベクター)に導入した。得られたベクターをN5KG1-Val/5-43-4-1と命名した。
【0133】
1-27-2、2-18-6、5-43-4-1 の重鎖可変領域、及び軽鎖可変領域をコードする核酸配列並びに重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むアミノ酸配列をそれぞれ以下に示す。
【0134】


【0135】
組換え型抗体の発現
組換え型抗体発現ベクターを宿主細胞に導入し、組換え型抗体発現細胞を作製した。発現のための宿主細胞には、組換え型抗体発現ベクターをFreeStyle293細胞(Invitrogen社製)へ添付説明書に従い導入し組み換え型抗体を発現させた。
【0136】
各抗体蛋白質の精製
ヒトEGFRの各ドメインに対して特異的なキメラ抗体を含むハイブリドーマ培養上清の調製は以下の方法にて行った。回収した上清は、0.2μmのフィルター(ミリポア社製)に供し、FreeStyle293細胞等の雑排物を除去した。
【0137】
抗ヒトEGFRキメラ抗体を含む培養上清からの抗ヒトEGFRキメラ抗体の精製は以下の方法で行った。抗ヒトEGFRキメラ抗体を含む培養上清をProtein A樹脂(アマシャム社製)を用いてアフィニティー精製を行った。洗浄液としてリン酸緩衝液、溶出緩衝液として20mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3)を用いた。溶出画分は50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を添加してpH6.0付近に調整した。調製された抗体溶液は、透析膜(10000カット、Spectrum Laboratories社製)を用いてリン酸緩衝液に置換し、孔径0.22μmのメンブランフィルターMILLEX−GV(MILLIPORE製)でろ過滅菌し、精製抗ヒトEGFR抗体を得た。精製抗体の濃度は280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.45Optimal densityとして算出した。
【0138】
実施例5:ヒトEGFRの癌細胞に対する殺細胞活性
抗体を介した細胞傷害性活性は、補体と抗体の存在下でターゲット細胞への傷害活性(補体依存性細胞傷害活性(Complement-Dependent Cytotoxicity)以下、CDC)の測定を実施した。抗体は、上記方法で作成した組換え型抗体1-27-2及び2-18-6組換え型抗体を使用した。コントロールとしてヒトIgGを用いた。
【0139】
実験方法は簡単には、ターゲット細胞に放射性クロム(Cr51)を細胞質内に取り込ませ、細胞死により培養液中に遊離されるCr51量をγ線量で測定した。
【0140】
具体的には、ターゲット細胞としてヒトEGFRを発現している106個のA431(JCRB)を15μLのFetal Calf Serum (FCS)に懸濁し、50μL(37MBq/mL)のCr51ラベルされたクロム酸ナトリウム(パーキエルマー社製:以下Cr51と書く)を添加し、1時間37℃で培養した。次に、培地を10mL添加し、遠心して培地を捨てることを3回繰り返すことで、細胞内に取り込まれていないCr51を除いた。抗体1-27-2及び2-18-6を単独、または1-27-2と2-18-6、および、2-18-6と5-43-4-1をそれぞれ等量で混合し、最終濃度10μg/mlからの10倍系列で10ng/mlまで調製した。Cr51ラベルしたターゲット細胞2000個に対して、最終濃度5%のヒト血清由来補体(SIGMA社製)を、V底96ウェルプレート中全体容量200μLで、各抗体濃度とともに37℃、5% CO2存在下で2時間培養した。
【0141】
培養後、プレートを遠心して細胞を沈めた後、上清50μLを粉末シンチレーター含有の96穴プレート(LumaplateTM-96:パッカード社製)に移し、55℃、1.5時間で乾燥した。乾燥を確認後、専用カバー(TopSealTM-A:96-well Microplates:パッカード社製)でプレートをカバーし、シンチレーションカウンター(トップカウント:パッカード社製)でγ線量を測定した。
【0142】
その結果を図1に示す。抗体1-27-2及び2-18-6、5-43-4-1は、それぞれ単独では腫瘍細胞に対する殺細胞活性(CDC活性)は見出せなかった。しかしながら、驚くべきことに、ヒト上皮細胞成長因子受容体の細胞外領域のドメイン1を認識する組換え型抗体1-27-2とドメイン3を認識する組換え型抗体2-18-6を組み合わせた場合、及び、上皮細胞成長因子受容体の細胞外領域のドメイン1を認識する5-43-4-1と上皮細胞成長因子受容体の細胞外領域のドメイン3を認識する組換え型抗体2-18-6を組み合わせて投与した場合はいずれもヒトEGFRを発現するA431細胞に対して強い殺細胞活性を示し、これらの抗体を含有する組成物は強い抗腫瘍活性を有することが見出された。
【0143】
一方、同じ細胞外領域のドメイン1を認識する組換え型抗体1-27-2と5-43-4-1を同時にA431細胞に作用させても強い殺細胞活性は検出されなかった。
【0144】
実施例6 組み換え型抗体の作製(2)
実施例2と同様の手法によりモノクローナル抗体5-5-1及び6-9-5を作製し、実施例4の方法と同様に、モノクローナル抗体5-5-1及び6-9-5の遺伝子をクローニングした。5-5-1及び6-9-5の重鎖可変領域、及び軽鎖可変領域をコードする核酸配列並びに重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むアミノ酸配列をそれぞれ以下に示す。
【0145】


【0146】
実施例7 1-27-2、5-5-1及び6-9-5のエピトープ解析
実施例4で作製されたモノクローナル抗体1-27-2ならびに実施例6で作製されたモノクローナル抗体5-5-1及び6-9-5が、マウスEGFRには結合しないことを利用して、EGFRの立体構造から、抗原表面の一部をマウス配列に置換したキメラ抗原を作製した。配列番号2に示されたEGFRのアミノ酸配列のうち、34番目〜51番目、64番目、66番目〜74番目、88番目〜97番目、111番目〜133番目、147番目〜156番目、174番目〜186番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン1A、26番目〜33番目、52番目〜63番目、65番目、75番目〜87番目、98番目〜110番目、134番目〜146番目、157番目〜173番目、187番目〜189番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン1B、30番目〜44番目、46番目〜47番目、50番目〜51番目、54番目、60番目〜69番目、84番目〜94番目、106番目〜127番目、142番目〜153番目、164番目〜181番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン1C、26番目〜29番目、45番目、48番目〜49番目、52番目〜53番目、55番目〜59番目、70番目〜83番目、95番目〜105番目、128番目〜141番目、154番目〜163番目、182番目〜189番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン1D、340番目〜342番目、345番目〜354番目、368番目〜387番目、404番目〜413番目、430番目〜446番目、459番目〜470番目、472番目〜473番目、484番目〜502番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン3A、337番目〜339番目、343番目〜344番目、355番目〜367番目、388番目〜403番目、414番目〜429番目、447番目〜458番目、471番目、474番目〜483番目、503番目〜505番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン3B、337番目〜347番目、358番目〜369番目、395番目〜405番目、420番目〜438番目、450番目〜461番目、475番目〜488番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン3C、348番目〜357番目、370番目〜394番目、406番目〜419番目、439番目〜449番目、462番目〜474番目、489番目〜505番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン3D、340番目〜342番目、345番目〜354番目、368番目〜387番目、404番目〜413番目、447番目〜458番目、471番目、474番目〜483番目、503番目〜505番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン3AB、337番目〜339番目、343番目〜344番目、355番目〜367番目、388番目〜403番目、414番目〜446番目、459番目〜470番目、472番目〜473番目、484番目〜502番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン3BA、337番目〜347番目、358番目〜369番目、395番目〜405番目、420番目〜426番目、439番目〜449番目、462番目〜474番目、489番目〜505番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン3CD、348番目〜357番目、370番目〜394番目、406番目〜419番目、427番目〜438番目、450番目〜461番目、475番目〜488番目のアミノ酸残基を配列番号58に示すマウスEGFRのアミノ酸配列に相当するアミノ酸残基に置換したキメラ抗原をドメイン3DCとした。
【0147】
実施例3に記載の方法にしたがい、これらのキメラ抗原への各種遺伝子組換え抗体の結合活性を確認した。結果を以下の表2及び3に示す。
【0148】
【表2】

【0149】
【表3】

【0150】
以上の結果から、遺伝子組換え抗体1-27-2は、ヒトEGFRのN末端側から34〜44番目、46〜47番目、50〜51番目、64番目、66〜69番目、88〜94番目、111〜127番目、147〜153番目及び174〜181番目を認識し、遺伝子組換え抗体5-5-1は、ヒトEGFRのN末端側から439〜446番目、462〜470番目、472〜473番目及び489〜502番目を認識し、遺伝子組換え抗体6-9-5は、337〜339番目、358〜367番目、395〜403番目及び420〜426番目を認識していた。
【0151】
実施例8 ヒトEGFR発現癌細胞に対する殺細胞活性(2)
実施例5に記載の方法にしたがって、遺伝子組換え抗体である1-27-2、6-9-5及び5-5-1のCDC活性を測定した。
【0152】
その結果を図2に示す。抗体1-27-2、6-9-5及び5-5-1は、それぞれ単独では腫瘍細胞に対するCDC活性は見出せなかった。しかしながら、1-27-2及び5-5-1、5-5-1及び6-9-5、1-27-2及び6-9-5、ならびに1-27-2、5-5-1及び6-9-5を組み合わせて投与した場合はいずれもヒトEGFRを発現するA431細胞に対して強い殺細胞活性を示し、これらの抗体を含有する組成物は強い抗腫瘍活性を有することが見出された。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明に係るEGFRファミリーの細胞外ドメインの2つ以上の異なる部位を認識する抗体を含有する医薬組成物は、CDC活性を有し、EGFRファミリーを発現する細胞に対して強い殺細胞効果を与えることができる。EGFRファミリーは癌細胞に強く発現しているため、このような医薬組成物はEGFRファミリーが発現する癌細胞を殺すことができ、癌治療において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】ヒトEGFRの各ドメインに対する組換え型抗体を用いて、A431細胞を標的としたときのCDC活性を示す図である。
【図2】ヒトEGFRの各ドメインに対する組換え型抗体1-27-2、6-9-5及び5-5-1を用いて、A431細胞を標的としたときのCDC活性を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0155】
配列番号6〜37:合成オリゴヌクレオチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片を含有する、補体依存的殺細胞(CDC)活性を有する組成物であって、該1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が、上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位を共に認識する、上記組成物。
【請求項2】
複数の抗体を含有し、それぞれが、上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位のいずれかを認識する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
1つの抗体を有し、該抗体が上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位を共に認識する抗原認識部分を1つの抗体分子内に有する多重特異性抗体である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
上皮細胞成長因子受容体ファミリーがヒト上皮細胞成長因子受容体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が認識する上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位が上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン1〜4のうちの異なる2つ以上である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が認識する上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位が上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン1およびドメイン3である請求項4記載の組成物。
【請求項7】
1または複数の抗体もしくはそれらの機能的断片が認識する上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位が上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン3上の異なる2つの部位である請求項4記載の組成物。
【請求項8】
抗体が遺伝子組換え抗体である請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
以下の(i)〜(iii)からなる群から選択される重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する、上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片:
(i)配列番号39で示される重鎖可変領域および配列番号41で示される軽鎖可変領域;
(ii)配列番号43で示される重鎖可変領域および配列番号45で示される軽鎖可変領域;
(iii)配列番号47で示される重鎖可変領域および配列番号49で示される軽鎖可変領域;
(iv)配列番号51で示される重鎖可変領域および配列番号53で示される軽鎖可変領域;ならびに
(v)配列番号55で示される重鎖可変領域および配列番号57で示される軽鎖可変領域。
【請求項10】
上皮細胞成長因子受容体ファミリーの異なる2つ以上の部位を認識する抗原認識部分を1つの抗体分子内に有する多重特異性抗体である、上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片。
【請求項11】
上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン1〜4のうちの異なる2つ以上を共に認識する請求項10記載の上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片。
【請求項12】
上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン1およびドメイン3を共に認識する、請求項10記載の上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片。
【請求項13】
上皮細胞成長因子受容体ファミリーの細胞外領域のドメイン3上の異なる2つの部位を共に認識する、請求項10記載の上皮細胞成長因子受容体ファミリーに対する抗体またはその機能的断片。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物または請求項9〜13のいずれか1項に記載の抗体もしくはその機能的断片を含有する、医薬組成物。
【請求項15】
癌を治療するための医薬組成物である、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
癌が、EGFRファミリーを発現している癌である、請求項14または15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
癌が、大腸癌、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、黒色腫、腎細胞癌、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃癌、膵臓癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、卵巣癌、食道癌、肝臓癌、頭頚部扁平上皮癌、皮膚癌、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、きょう膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、謬芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状肉腫およびウィルムス腫瘍からなる群から選択される、請求項16記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−155329(P2009−155329A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312675(P2008−312675)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、新機能抗体創製技術開発/系統的な高特異性抗体創製技術開発/オリゴクローナル抗体創製技術開発に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001029)協和発酵キリン株式会社 (276)
【Fターム(参考)】