説明

上着

【課題】運動機能性を落とさず、かつ背中部分が暖かく保温性の高い上着を提供する。
【解決手段】本発明の上着(10)は、身頃部(1)の少なくとも一部に詰め物(6a,6b)を充填し、前記上着(10)の内側であってかつ人体の両肩甲骨の間を埋める位置に、他の身頃部分より嵩高になるように詰め物(7)を充填した保温部(3,12)を含む。これにより、保温部(3,12)以外の部分の重量を軽くし運動機能性を高く維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温性の高い上着に関する。
【背景技術】
【0002】
冬期に着用するジャンパー、コートなどの上着には、中入綿や羽毛などの詰め物を充填したタイプのものが暖かくて好適である。従来から背中部全体を嵩高くしたり、保温当布をあてて背中部分を暖かくする提案がある(特許文献1〜2)。
【0003】
しかし、前記従来技術や一般的に販売されている上着は背中部全体が嵩高であり、運動機能性に問題があった。すなわち、運動動作がしにくく、スポーツ用上着としては問題があった。このため、背中部分の詰め物充填量を身頃と同じにすると、背中部分が寒いという問題があった。
【特許文献1】実用新案登録第3044367号公報
【特許文献2】実用新案登録第3124738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、運動機能性を落とさず、かつ背中部分が暖かく保温性の高い上着を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上着は、身頃部の少なくとも一部に詰め物を充填した上着であって、前記上着の背面であってかつ人体の両肩甲骨間の背骨付近に沿って、詰め物の充填により内側に膨出する凸構造体を含み、前記凸構造体は保温部となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の上着は、背面であってかつ人体の両肩甲骨間の背骨付近に沿って、詰め物の充填により内側に膨出する凸構造体を含み、前記凸構造体は保温部となることにより、運動機能性を落とさず、かつ背中部分が暖かく保温性の高い上着を提供できる。すなわち、運動機能を高くするためには身頃全体の詰め物充填量は下げざるを得ないが、そうすると両肩甲骨の間に隙間ができ、保温性が低下する。そこで、両肩甲骨間の背骨付近に、他の身頃部分より嵩高になるように詰め物を充填することにより、保温性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1Aは本発明の一実施例における上着の部分正面図、図1Bは図1AのI―I断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施例と比較例の上着の衣服内温度を測定したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、身頃部の少なくとも一部に詰め物を充填した上着に関する。この上着の内側であってかつ人体の背骨付近に、他の身頃部分より嵩高になるように詰め物を充填する。これにより、身頃部全体の詰め物充填量はそれほど高めなくても良いので、全体重量を軽くすることができる。この結果、運動機能を高く維持できる。
【0009】
前記凸構造体は、人体の両肩甲骨の間を埋める位置から頚椎付近に位置していることが好ましい。前記両肩甲骨の間を埋める位置とは、両肩甲骨の間を埋め、かつ背骨に沿っていることを意味する。運動機能を高くするためには身頃全体の詰め物充填量は下げて身体が動きやすくする。これは、着膨れすると動きにくく、薄着であると動きやすいことからも明らかである。しかし、単に詰め物充填量を低くして薄くすると、両肩甲骨の間に隙間ができ、保温性が低下する。そこで、両肩甲骨の間を埋める位置に、他の身頃部分より嵩高になるように詰め物を充填することにより、運動機能を高く維持したまま保温性を高めることができる。
【0010】
前記凸構造体は、周辺部に比べて3mm以上30mm以下の高さであることが好ましい。保温性と運動機能の両方をさらに満足させるためには前記範囲が好ましい。
【0011】
前記凸構造体は、さらに周辺部に比べて10mm以上20mm以下の高さであることがとくに好ましい。
【0012】
前記凸構造体は、胸鎖関節付近の水平方向に対して20mm〜400mmの幅を有することが好ましい。保温性と運動機能の両方をさらに満足させるためには前記範囲が好ましい。
【0013】
前記凸構造体は、第2頚椎から胸椎に沿っていることが好ましい。保温性と運動機能の両方をさらに満足させるためには前記範囲が好ましい。
【0014】
前記凸構造体は、段階的に高さが変わっていても良い。また、前記凸構造体は、他の身頃部分より100%を超え3000%以下の範囲の嵩高であることが好ましい。嵩を高くするには、その分目付けを大きくする、捲縮性の高い詰め物を充填する、羽毛のような見掛け比重の軽い詰め物を充填する方法などが採用できる。もちろん、耐久嵩高性があり、へたりにくい保温材料が好ましい。
【0015】
例えば前記凸構造体は、下記のようにすることもできる。
(1)直近の身生地が中綿なしで1mmの厚さの場合、10mm程度。
(2)直近の身生地が中綿ありで5mmの厚さの場合、15mm程度。
(3)直近の身生地が中綿ありで10mmの厚さの場合、20mm程度。
(4)前記凸構造体は、身生地の厚さより10〜20mm厚いことが好ましい。
【0016】
前記保温部に充填している詰め物は、ポリエステル繊維綿、アクリル系繊維綿、コットン綿、ウール綿、羽毛などが好ましい。この中でも発汗により吸湿したときに発熱するアクリル系繊維綿が好ましい。このような繊維として、ミズノ社製“ブレスサーモ”という商品がある。
【0017】
本発明の上着は、冬期のスポーツ用ジャンパー又はスポーツ用コートに好適である。
【0018】
以下図面を用いて説明する。図1Aは本発明の一実施例における上着の部分正面図である。両袖部分は省略している。図1Bは図1AのI―I断面図である。図1Aにおいて、上着10は、身頃部1の全体に軽い目付けの中綿が充填されている。背中部裏生地2の部分は前記中綿が充填されている。背中部裏生地の両肩甲骨の間を埋める位置であって背骨に沿って、背中部裏生地2の部分より膨出している嵩高部裏生地3を形成する。なお、襟部4には中綿は充填しいていない。
【0019】
図1Bにおいて、この上着10の背中部は、軽い目付けの中綿が充填されている部分11a,11bと、それよりも凸構造体(嵩高部)12で構成されている。6a,6bは軽い目付けの中綿が充填されている部分の中綿、7は凸構造体(嵩高部)12の中綿部、8は表地である。これにより、運動機能を高く維持したまま保温性を高めることができた。
【0020】
軽い目付けの中綿が充填されている部分の中綿6a,6bにはポリエステル綿を使用し、凸構造体(嵩高部)12の中綿7にはミズノ社製“ブレスサーモ”を使用した。これにより、発汗して吸湿したときに発熱するため、さらなる保温効果が発現される。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記の実施例において重さを表す%は「重量%」を意味する。
【0022】
(実施例1)
(1)表地
ポリエステル(PET)100%の織物を使用した。この織物は、タテ糸:83.3deci tex(75d)/72fの加工糸を使用し、206本/インチとし、ヨコ糸:166.7deci tex(150d)/144fの加工糸を使用し、124本/インチとし、目付け115g/m2であった。
【0023】
(2)裏地
ポリエステル(PET)100%のトリコット編物、28ゲージ品、44deci tex(40d)/24f加工糸使用、目付け115g/m2であった。
【0024】
(3)中綿
凸構造体(嵩高部)12にはポリエステル(PET)100%の中綿、繊度3.3deci tex(3d)、繊維長50mmを目付け115g/m2で充填した。
【0025】
(4)凸構造体(嵩高部)の形状
図1Aの裏地3の形状とし、大きさは最も幅が狭い部分で65mm、最も幅が広い部分で135mm、高さ290mmとなるように中綿を充填した。
【0026】
図1Bの凸構造体(嵩高部)12は、軽い目付けの中綿が充填されている部分11a,11bより、約2倍嵩高であった。嵩高性の測定方法は、JIS 2007 L1018−8.5.1にしたがった。
【0027】
以上のようにして得られた上着の衣服内温度を測定したところ図2に示すグラフのようになった。すなわち、本発明の上着は、保温部がない上着に比較して1〜5℃高くことが確認できた。
【0028】
また、従来品(凸構造体はなく、均一厚さのもの)に比べて、凸構造体(嵩高部)12が身体にフイットするため、運動時にも上下動が少なく良好な着心地であり、かつ動きやすかった。
【0029】
(実施例2)
下記のように変更した以外は、実施例1と同様に上着を作成した。
【0030】
<実験番号1>
アクリル系繊維綿(ミズノ社製“ブレスサーモ”)を含む中綿を凸構造体(嵩高部)にのみ充填した。具体的には、凸構造体(嵩高部)12にはポリエステル(PET)100%の中綿、繊度3.3deci tex(3d)、繊維長50mmを目付け115g/m2、並びにポリエステル(PET)繊維(繊度3.3deci tex(3d)、繊維長50mm)を60%と、ブレスサーモ(アクリレート系)繊維、繊度2.4deci tex(2.2d)、繊維長50mmを40%の比率で混繊した中綿、目付け100g/m2とを積層して充填した。
【0031】
<実験番号2>
“ブレスサーモ”を身生地にのみに充填し、ポリエステル中綿を凸構造体に充填した。具体的には、身生地部にはポリエステル(PET)繊維(繊度3.3deci tex(3d)、繊維長50mm)を60%と、ブレスサーモ(アクリレート系)繊維、繊度2.4deci tex(2.2d)、繊維長50mmを40%の比率で混繊した中綿、目付け100g/m2とを積層して充填した。凸構造体(嵩高部)12にはポリエステル(PET)100%の中綿、繊度3.3deci tex(3d)、繊維長50mmを目付け115g/m2で充填した。
【0032】
<実験番号3>
“ブレスサーモ”を身生地と凸構造体にどちらも充填した。具体的には、身生地部にはポリエステル(PET)繊維(繊度3.3deci tex(3d)、繊維長50mm)を60%と、ブレスサーモ(アクリレート系)繊維、繊度2.4deci tex(2.2d)、繊維長50mmを40%の比率で混繊した中綿、目付け100g/m2とを積層して充填した。凸構造体(嵩高部)12にはポリエステル(PET)100%の中綿、繊度3.3deci tex(3d)、繊維長50mmを目付け115g/m2で充填した。また、凸構造体(嵩高部)12にはポリエステル(PET)100%の中綿、繊度3.3deci tex(3d)、繊維長50mmを目付け115g/m2、並びにポリエステル(PET)繊維(繊度3.3deci tex(3d)、繊維長50mm)を60%と、ブレスサーモ(アクリレート系)繊維、繊度2.4deci tex(2.2d)、繊維長50mmを40%の比率で混繊した中綿、目付け100g/m2とを積層して充填した。
【0033】
<保温性の評価結果>
以上のようにして得られた上着の保温性の評価結果は、実施例1<実験番号1<実験番号2<実験番号3の順番であった。このような各実施例の上着は、スポーツにおける運動量差や寒さの程度に応じて使い分けできる。例えば、フルマラソンとジョギングの運動量の差、暖かい地方と寒さの厳しい地方の差に応じて使い分けできる。
【0034】
以上により、本発明の上着は、保温部以外の部分の重量を軽くし運動機能性を高く維持できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の上着は、登山、トレッキング、ハイキング、スキー、スノーボード、スケート、野球、ゴルフ、ホッケー、サッカー、ジョギング、マラソン、テニス、バドミントン、スカッシュ、卓球などあらゆるスポーツに好適であるほか、一般の上着としても有用である。
【符号の説明】
【0036】
1 身頃部
2 背中部裏生地
3 嵩高部裏生地
4 襟部
6a,6b 軽い目付けの中綿が充填されている部分の中綿部
7 嵩高部分の中綿部
8 表地
10 上着
11a,11b 軽い目付けの中綿が充填されている部分
12 凸構造体(嵩高部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身頃部の少なくとも一部に詰め物を充填した上着であって、
前記上着の背面であってかつ人体の両肩甲骨間の背骨付近に沿って、詰め物の充填により内側に膨出する凸構造体を含み、前記凸構造体は保温部となることを特徴とする上着。
【請求項2】
前記凸構造体は、人体の両肩甲骨の間を埋める位置から頚椎付近に位置している請求項1に記載の上着。
【請求項3】
前記凸構造体は、周辺部に比べて3mm以上30mm以下の高さを有する請求項1又は2に記載の上着。
【請求項4】
前記凸構造体は、周辺部に比べて10mm以上20mm以下の高さを有する請求項1又は2に記載の上着。
【請求項5】
前記凸構造体は、胸鎖関節付近の水平方向に対して20mm〜400mmの幅を有する請求項1〜4のいずれかに記載の上着。
【請求項6】
前記凸構造体は、第2頚椎から胸椎に沿っている請求項1〜5のいずれかに記載の上着。
【請求項7】
前記凸構造体は、段階的に高さが変わっている請求項1〜6のいずれかに記載の上着。
【請求項8】
前記凸構造体は、他の身頃部分より100%を超え3000%以下の範囲の嵩高である請求項1〜7のいずれかに記載の上着。
【請求項9】
前記上着は、スポーツ用ジャンパー又はスポーツ用コートである請求項1〜8のいずれかに記載の上着。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−159524(P2010−159524A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3846(P2009−3846)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】