下地材
【課題】石膏ボード等の取り付け強度の得られない壁体を補強して重量物を取り付けられるようにする。
【解決手段】 可撓性のある短冊形状の下地材10を曲げることにより、これよりも小さく形成した壁体7の孔8から挿入し、表側から打ち込んだフィニッシャーネイル12を当て部材11で引っ張って保持しながら仮止めねじ14をねじ込み、下地材を壁体の裏側に仮固定する。紐5と当て部材11とフィニッシャーネイル12を除去し、孔を埋める。壁体の表側から取り付け金具を壁体及び下地材にねじ込んで固定し、この取り付け金具に壁掛けテレビを取り付ける。
【解決手段】 可撓性のある短冊形状の下地材10を曲げることにより、これよりも小さく形成した壁体7の孔8から挿入し、表側から打ち込んだフィニッシャーネイル12を当て部材11で引っ張って保持しながら仮止めねじ14をねじ込み、下地材を壁体の裏側に仮固定する。紐5と当て部材11とフィニッシャーネイル12を除去し、孔を埋める。壁体の表側から取り付け金具を壁体及び下地材にねじ込んで固定し、この取り付け金具に壁掛けテレビを取り付ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁体に種々の物品を安全に取り付けるため、該壁体を補強するべく壁体の裏面側に設けられる下地材に関する。また、本発明は、係る下地材を用いて物品を壁体に安全に取り付けるための固定装置と、係る下地材を利用した壁体の補強方法に関するものである。本発明は、壁体に設置する物品であれば、どのような種類の物品であっても安全確実に取り付けることができるが、例えば、壁掛け型の薄型テレビ、エアコン、吊戸棚等のようにそれ自体に相当の重量がある物品や、壁体に取り付ける手摺りや地震対策で壁体に固定する家具等のように、使用時や地震発生時に特に大きな荷重が加わるような物品等については、特に本発明は有効である。
【背景技術】
【0002】
例えば、壁掛け型の薄型テレビを室内の壁に取り付ける場合、壁に取り付け金具を固定し、この取り付け金具に薄型テレビを係止して取り付ける手法が一般的である。ここで、一般的な家屋における室内の壁は石膏ボード等で構成されている場合が多いが、石膏ボードの強度は重量物を取り付けるには必ずしも十分ではないため、前記取り付け金具を石膏ボードからなる壁のみを対象としてボルト等で固定しても十分な取り付け強度が得られない場合があった。従って、相当の重量がある薄型テレビのような物品を、このような強度不足の固定状態にある取り付け金具に取り付けても、安全な取り付けができるものではなく、薄型テレビの重量に負けて取り付け金具が壁から外れてしまい、薄型テレビごと落下してしまう恐れがある。
【0003】
そこで、このように石膏ボードのような強度が十分とはいえない壁体に対して重量物を取り付けようとする場合には、壁の裏面側にある下地材を利用して取り付け金具を固定することができる。すなわち、室内の壁に石膏ボードが用いられている一般的な家屋の構造においては、石膏ボードからなる室内壁と、隣室の壁又は外壁との間の空間に、間柱と呼ばれる構造部材が所定間隔で設けられており、室内壁はこの間柱に取り付けられている場合が多い。従って、取り付け金具を挿通した取り付けボルトを、壁体を貫通して間柱にねじ込めば、取り付け金具を十分な強度で壁体に固定することが可能となる。
【0004】
しかしながら、薄型テレビにしても、エアコンその他の家電にしても、下地材となる間柱が裏側に存在する位置でしか壁に取り付けられないというのでは好ましくない。これらの家電製品はもちろん、その他のいかなる物品であっても、使用する一定の目的があって壁に設置するのであるから、下地材の有無とは関係なく、所望の位置で壁に安全に固定したいというのがユーザーの一般的な要望である。
【0005】
そこで、壁体の裏側にある間柱を、物品を固定する対象である下地材として利用できない場合には、物品を取り付けようとする位置の壁体を切り取って除去し、そこに現れた間柱と間柱の間に構造用合板を取り付けて固定し、この構造用合板を下地材として物品又は物品の取り付け金具を固定する工事が行なわれることがあった。
【0006】
また、特許文献1には、下地材としての強度が弱く、固着具を嵌入しても十分な固定状態が得られない石膏ボードの欠点を解消するために、石膏ボードの裏面に有機質繊維により形成された繊維板からなる補強層を積層して一体化する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−281979号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、強度が十分とはいえない石膏ボード等の壁体に対して、任意の位置で物品を安全な状態で取り付けることは難しいため、特に重量物を壁体の所望の位置に取り付ける場合には、壁体を大きく切り取って構造用合板に置き換える工事を行い、これを取り付け対象として物品を固定する場合があったが、このような工法は大掛かりで工費も嵩み、また、そもそも間柱がない又は少ない構造の場合には利用することができないという問題があった。
【0009】
また、前記特許文献1に開示されたように、下地材としての高い強度を有し、固着具を嵌入しても十分な固定状態が得られるような補強層を有する石膏ボードが提案されてはいるが、このような補強タイプの石膏ボードは価格が高いだけでなく、新築時等、壁を新たに構築する場合にのみ利用するのが一般的であり、既設の石膏ボードの壁体に対して物品を取り付ける場合にこの補強タイプの石膏ボードを利用するとすれば、壁体自体をこの補強タイプの石膏ボードに置き換える工事を行なう必要があることから、材料費が嵩むことはもちろん、構造用合板に置き換える工事の場合と同様、高額な工費も必要となり、現実には実現が難しかった。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであり、一般的な石膏ボードのように十分な取り付け強度の得られない壁体に対して物品を取り付ける場合や、さらに間柱等の下地材が存在せず又は少ないために従来のような補強工事を行うことが難しい場合であっても、壁体の所望の位置に十分な強度で安全確実に物品を取り付けることができるようにするための下地材と、係る下地材を利用した物品の固定装置及び壁体の補強方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載された下地材は、
壁体の表面に被取り付け体を安定的に固定するために、前記壁体の裏面に設けられる下地材であって、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記被取り付け体を前記壁体の表面に固定するために前記壁体を貫通させた固定手段によって前記壁体の裏面に固定されることを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載された下地材は、
壁体の表面に被取り付け体を安定的に固定するために、前記壁体の裏面に設けられる下地材であって、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記壁体を貫通する仮固定手段によって前記壁体の裏面に仮固定され、前記壁体の表面に設けた前記被取り付け体を挿通して前記壁体を貫通する固定手段によって前記壁体の裏面に固定され、前記被取り付け体とともに前記壁体を挟持して前記被取り付け体の荷重を支えることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載された下地材は、請求項1又は2に記載の下地材において、
長矩形状の平板である第1板と、前記第1板と実質的に同一形状であり、前記第1板の一面に貼付され、前記第1板と反対側の面に前記長矩形状の長手方向と交差する方向に沿った複数の溝が所定間隔で形成された第2板とを有し、前記第1板の他面が凸となるような可撓性を有する本体と、
前記本体に取り付けられ、前記壁体の前記孔から前記壁体の裏面側に挿入された前記本体を前記壁体の裏面の所定位置に保持するための長体と、
を有することを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載された固定装置は、
壁体の表面に被取り付け体を取り付けるための固定装置であって、
前記壁体の表面に所定の面積をもって接するように設けられて前記被取り付け体の荷重が加わる取り付け部と、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記取り付け部の位置に対応して前記壁体の裏面に設けられる下地材と、
前記壁体を貫通して設けられ、前記取り付け部と前記下地材を前記壁体を挟持した状態で固定する固定手段とを有し、
前記壁体を補強して前記前記被取り付け体の荷重を支えることを特徴としている。
【0015】
請求項5に記載された壁体の補強方法は、
壁体の表面に被取り付け体を取り付けるための取り付け部を、前記壁体の表面に安定的に固定するための壁体の補強方法において、
可撓性を備える本体と、前記本体を前記壁体の裏面側の所定位置に保持するための長体とを備えた下地材を用意し、
前記下地材よりも小さい孔を前記壁体に形成し、
前記長体を持ちながら前記下地材の前記本体を曲げて前記孔から前記壁体の裏面側に前記本体を挿入し、前記孔から前記壁体の外に出された前記長体を保持することにより前記本体を前記壁体の裏面の所定位置に保持し、
当て部材を介して貫通材を前記壁体及び前記下地材に打ち込み、
前記当て部材を掴んで引きながら、前記壁体に表面から仮固定部材をねじ込んで前記下地材を前記壁体の裏面に仮固定し、
前記長体と、前記当て部材と、前記貫通材を除去し、
前記孔を修復することにより、
前記下地材に対応する前記壁体の表面に被取り付け体を安定して取り付けられるようにすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された下地材によれば、この下地材よりも小さい孔を壁体に形成し、下地材を曲げてこの孔から壁体の奥に入れ込み、この下地材が配置された壁体の裏面の所定位置に対応する壁体の表面の所定位置に被取り付け体を設け、この被取り付け体を挿通した固定手段を壁体を貫通させ、裏側の下地材に固定する。これによって、被取り付け体と下地材は壁体を挟んだ状態で固定されるので、被取り付け体の重量は下地材及びこれに補強された壁体によって安定的に支持される。
【0017】
請求項2に記載された下地材によれば、この下地材よりも小さい孔を壁体に形成し、下地材を曲げてこの孔から壁体の奥に入れ込み、仮固定手段で壁体の裏面に下地材を仮固定することができる。その後、仮固定された下地材に対応する壁体の表面の所定位置に被取り付け体を設け、この被取り付け体を挿通した固定手段を壁体を貫通させ、裏側の下地材に固定する。この作業は、下地材が壁体の裏面に仮固定されているので、一人で支障なく行なうことができる。これによって、被取り付け体と下地材は壁体を挟んだ状態で固定されるので、被取り付け体の重量は下地材及びこれに補強された壁体によって安定的に支持される。
【0018】
請求項3に記載された下地材によれば、請求項1又は2に記載の下地材による効果において、下地材は、第2板の溝の開口側が狭まり第1板の他面が凸になるように長矩形状の長手方向が湾曲する方向に曲がることができる。従って、壁体の孔から長矩形状の下地材を入れ込む際、例えば下地材の短手方向の寸法程度の小さな孔を壁体に形成すれば、下地材を曲げてこの孔から壁体の奥に入れ込むことができる。また、下地材の長体を孔から外に導出して手で保持しておけば、壁体の孔から壁体の裏面側に挿入した本体を壁体の裏面の所定位置に保持しておくことができるので、その後の仮固定乃至被取り付け体の固定を容易に行なうことができる。
【0019】
請求項4に記載された固定装置によれば、下地材よりも小さい孔を壁体に形成し、下地材を曲げてこの孔から壁体の奥に入れ込み、この下地材が配置された壁体の裏面の所定位置に対応する壁体の表面の所定位置に取り付け部を設け、この取り付け部を挿通して固定手段を壁体を貫通させ、裏側の下地材に固定する。これによって、取り付け部と下地材は壁体を挟んだ状態で固定されるので、取り付け部に被取り付け体を取り付けた場合には、取り付け部及び被取り付け体の重量は、下地材及びこれに補強された壁体によって安定的に支持される。
【0020】
請求項5に記載された壁体の補強方法によれば、下地材よりも小さい孔を壁体に形成し、長体を持ちながら下地材の本体を曲げれば孔から壁体の裏面側に挿入することができる。そして、孔から出た長体を保持して本体を壁体の裏面の所定位置に保持した状態で、当て部材を介して貫通材を壁体と下地材に打ち込み、この当て部材を掴んで手前に引けば、下地材を壁体の裏面に当接させることができる。この状態において、壁体の表面から仮固定部材をねじ込めば、下地材を壁体の裏面に仮固定することができる。そして、長体と、当て部材と、貫通材を除去して孔を修復すれば、下地材の取り付けが完了する。ここで、被取り付け体の取り付け部を下地材に対応した壁体の表側に固定手段で取り付ける。この作業は、下地材が壁体の裏面に仮固定されているので、一人で支障なく行なうことができる。これによって、取り付け部と下地材は壁体を挟んだ状態で固定されるので、取り付け部に被取り付け体を取り付けた場合には、取り付け部及び被取り付け体の重量は、下地材及びこれに補強された壁体によって安定的に支持される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る下地材を表側から見た斜視図、(b)は本発明の実施形態に係る下地材を裏側から見た斜視図であり、いずれも溝の構造が視認できる程度のスケールで表現した図である。また、(c)は本発明の実施形態に係る下地材を曲げた状態を示す正面図(厚さ方向を正面とした図)であり、溝付近が変形した状態を表した部分拡大図をあわせ図示したものである。
【図2】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に下地材を入れ込む工程を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を壁裏面に保持する工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材に当て木をしてフィニッシャーネイルを打ち込む工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定する工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定する工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定する工程を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定した後、当て木とフィニッシャーネイルを除去する工程を示す断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定した後、紐を除去する工程を示す断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定した後、壁体の孔を復旧する工程を示す断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法が完了した状態を示す正面図である。
【図12】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体にテレビ掛用金具を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図13】図12で取り付けたテレビ掛用金具にテレビを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図14】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体にエアコン掛用金具を取り付け、さらにエアコンを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図15】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体に吊り戸棚を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図16】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体に絵画を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図17】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体に家具転倒防止金具を取り付け、これに家具を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図18】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体に手摺りを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図19】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に断熱材がある場合に壁内部に下地材を入れ込む工程の前半を示す断面図である。
【図20】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に断熱材がある場合に壁内部に下地材を入れ込む工程の後半を示す断面図である。
【図21】本発明の実施形態に係る補強方法で補強した壁体に取り付け部を取り付け、壁体に平行な圧縮荷重を該取り付け部に試験機で与える試験を行なった場合の試験結果を示す図であって、該試験機における試験力とストロークの関係を示すグラフを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態は、壁体に物品を安全に取り付けるため、該壁体を補強するべく壁体の裏面側に固定される下地材等と、該下地材等を用いて壁体を補強し、壁掛けテレビを壁体に安全に取り付ける工法に関するものである。
【0023】
1.下地材の構造
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態の下地材10は、全体として長矩形状の平板であり、可撓性を有する第1板1を基材としている。この第1板1と実質的に同一形状である第2板2が、第1板1の一面に貼付されている。第2板2の第1板1と反対側の面には、前記長矩形状の長手方向と直交する方向に沿い、下地材10に可撓性を与えるための構造として、複数の溝3が所定間隔で形成されている。各溝3は、第2板2を厚さ方向に貫通しておらず、従って第2板2を前記長矩形状の長手方向に沿った断面で見ると矩形波の鋸歯状になっている。この第2板2の溝3が形成されている側の面には、溝3を覆うようにスポンジ層4が貼着されている。この板材の一端部に近いスポンジ層4の一部は除去されており、その部分では第2板2の溝3が露出している。このスポンジ層4は、後述するように固定手段をねじ込む際に、固定手段の先端部に絡んで固定手段を第2板2にねじ込みやすく案内するための導入手段として機能する。
【0024】
以上の構成によれば、下地材10は、図1(c)に示すように、第1板1が凸状に変形するとともにスポンジ層4が凹状となるように外力を加えると、第2板2は溝3の開口が狭まる方向に変形するので、全体として外力に耐えつつ前記長矩形状の長手方向に沿って曲がることができる。逆に、第1板1が凹状に変形するとともにスポンジ層4が凸状となるように外力を加えると、第2板2は図1(c)の拡大図とは逆に溝3の開口が開く方向に変形するので、全体として外力に耐えにくくなり、前記長矩形状の長手方向に沿って破損なく大きく曲がることは困難となる。なお、本例では下地材10の第1板1及び第2板2は木材であるが、適当な可撓性構造乃至材質を有するものであり、長矩形等の細長い形状であれば、材質及び構造を特に限定する必要はない。
【0025】
図1(b)、(c)に示すように、このスポンジ層4が一部除去されて露出した第2層には、長体である紐5の一端が取り付けられており、後に説明する工程において、壁体内に入れ込んだ下地材10を壁体の裏面の所定位置に保持するために、壁体の孔から外側に突出した紐5の他端側を作業者が保持できるようになっている。
【0026】
2.壁体の補強方法
次に、図2〜図13を参照して、本例に係る下地材10を用いて壁掛けテレビを壁体に設置する工程について具体的に説明する。図2等に示すように、本例における壁体6は、例えば隣室の壁体7との間に、図示しない間柱及び空間を挟んで設置されたものであり、例えば石膏ボード等からなる。なお、図2以降の図では、下地材10の第2板2に形成された溝3については構造の詳細は示さず、概略的な表現に留めるものとする。
【0027】
図2に示すように孔8を壁体6に形成する。この孔8を形成する位置は、テレビの取り付け体となる取り付け金具乃至テレビ自体を取り付けたいとユーザーが望んでおり、下地材10となりうる間柱がないために通常の手法では取り付けができない位置であり、後述する工程からわかるように、下地材10が設けられる範囲内では相対的に上方の位置となる。
【0028】
図2及び図11に示すように、この孔8は、下地材10を曲げて壁体6の裏面側に挿入しうる形状・寸法とされている。具体的には、この孔8は矩形であり、その横寸法は、下地材10の短手方向の長さ(幅)を受け入れられるものであり、その縦寸法は、下地材10の長手方向の長さよりもはるかに小さくなっている。さらに具体的には、図11に例示するように、下地材10は縦横比が概ね5:1の矩形であり、孔8の横寸法は下地材10の幅と同等であり、孔8の縦寸法は下地材10の幅の半分程度である。このような孔8の縦寸法は、前述した下地材10が長手方向に安全に曲がる程度を考慮し、下地材10を曲げて孔8から壁体6の奥に入れ込める条件でなるべく小さくなるように設定したものである。
【0029】
図2に示すように、紐5を持ちながら、紐5が取り付けられている側の端部を上にして、スポンジ層4を下にした姿勢で下地材10を手前に曲げながら孔8から通し、壁体6の奥に送り込んでいく。下地材10の全長に比べて壁体6の孔8は小さいが、下地材10は十分に変形して支障なく壁体6の奥に送り込むことができる。
【0030】
図3に示すように、下地材10の全体を壁体6の孔8から壁体6の裏面側に挿入する。この時点で下地材10を湾曲させるために加えられている外力はなくなり、下地材10は湾曲変形が回復して元の平板状に復帰する。さらに、下地材10の上端部に固定されている紐5は壁体6の孔8から外に出ているので、作業者が外から紐5を引っ張れば、下地材10は壁体6の裏面の所定位置(取り付けようとする位置)にスポンジ層4で接した状態で保持される。
【0031】
図4に示すように、紐5を引っ張って下地材10を壁体6の裏面に保持した状態を維持し、壁体6の表面側に当て部材11を当て、貫通材としてのフィニッシャーネイル12を、当て部材11を介して打ち込み機13で壁体6に打ち込む。
【0032】
図5に示すように、当て部材11を掴んで引くことにより下地材10を手前方向に引きながら、壁体6の表面から仮固定部材としての仮止めねじ14をドライバ15でねじ込み、下地材10を壁体6の裏面に仮固定する。仮止め時、下地材10は仮止めねじ14のねじ込み方向とは逆方向の手前に引かれているので、仮止めねじ14のねじ込みによって奥に逃げることがなく、仮止めねじ14は確実に下地材10にねじ込まれる。また、仮止めねじ14は、壁体6を貫通した後、下地材10のスポンジ層4に当たり、柔らかいスポンジ層4に絡んで下地材10を捉えるので、当て部材11及びフィニッシャーネイル12を引いて下地材10を引き寄せる作用と相俟って、下層にある第2板2及び第1板1にねじ込みやすくなる。
【0033】
図4乃至図5を参照して説明したフィニッシャーネイル12の打ち込みから仮止めねじ14による仮固定までの工程を、打ち込み位置を違えて複数回行なう。具体的には、図4乃至図5で説明した下地材10の上端部である上段の位置を始めとして、図6に示すような下地材10の中段の位置、そして図7に示すような下地材10の下段の位置まで、合計3箇所で適当な間隔をおいて長手方向の略全長にわたって仮止めを行なう。なお、仮固定の箇所数は下地材の長さに応じて適宜定めればよい。
【0034】
図8に示すように、ペンチ16で当て部材11とフィニッシャーネイル12を抜き取り、図9に示すように、孔8から飛び出ている紐5をカッター17で切り取る。
【0035】
図10に示すように、壁体6の孔8を修復材料乃至充填材としての速乾パテ20で埋める。図11に示すように、速乾パテ20で埋められた壁体6の孔8(図中斜線を付した部分)は、周囲の壁体6と同一高さになって、修復される。なお、本例では、壁体6の横方向に離れた同一高さの2箇所に下地材10を設置した。
【0036】
図12に示すように、下地材10で補強された壁体6の当該位置に、壁掛けテレビ用の取り付け部である取り付け金具25を固定手段としての固定ボルト26で取り付ける。取り付け金具25は、壁体6に対する取り付け部分において、壁体6の表面に所定の面積をもって接するように設けられる。固定ボルト26は、取り付け金具25の取り付け部分のボルト孔を挿通して壁体6にねじ込まれ、その裏面側に仮固定された下地材10にさらにねじ込まれる。壁体6は、裏面に接して取り付けられた下地材10と、表面に所定の面積をもって接している取り付け金具25の取り付け部分とに挟まれ、これら3者は固定ボルト26によって強固に固定されて一体化されるので、壁体6は補強されて取り付け金具25は壁体6に安定して取り付けられる。
【0037】
図13に示すように、壁体6に強固に固定された取り付け金具25に壁掛けテレビ27を取り付ける。壁掛けテレビ27の重量は取り付け金具25と固定ボルト26を介して下地材10によって安定して安全に支えられる。
【0038】
以上説明した実施形態では、下地材10で補強した壁体6に取り付け金具25を取り付け、これに壁掛けテレビ27を取り付けることとしていたが、取り付け部である取り付け金具25と、被取り付け体である壁掛けテレビ27を分けず、壁掛けテレビ27に一体に設けられている取り付け部を壁体6の下地材10に直接ボルトで固定するものと考えたとしても同様の効果が得られる。
【0039】
また、本実施形態での説明のように、本例の下地材10で壁体6を補強し、補強された壁体6に前記取り付け金具25を取り付け、この取り付け金具25に壁掛けテレビ27を取り付けると考えても良いし、また、壁体6を挟んで固定された前記取り付け金具25と前記下地材10とによって壁掛けテレビ27の固定装置が構成され、この固定装置によって壁掛けテレビ27を壁体6に取り付けるものと考えても良い。
【0040】
また、本実施形態での説明では、下地材10は屈曲可能なように一部に溝3を有する2層構造の板材で構成したが、必要な屈曲が得られるのであれば、特に多数の溝3で可撓性を得る構造が必須というわけではなく、また固定ボルト26のねじ込み対象として十分な強度が得られる素材であれば、特に素材を木に限る必要もない。要するに、その全長よりも小さくなるように壁体6に形成された孔8から壁体6の裏面側に挿入しうるだけの可撓性があり、壁体6を貫通させた固定ボルト26がねじ込まれて荷重を支えることができればよい。また、スポンジ層4は、仮止めねじ14との絡みを生じて下地材10を仮固定する工程では有効であるが、必ずしも必須ではない。
【0041】
3.被取り付け体のその他の例について
本実施形態によれば、壁体6に設置する物品であれば、壁掛けテレビ27だけでなく、どのような種類の物品であっても安全確実に取り付けることができるが、例えば、前述した壁掛けテレビ27以外では、図14に示すような取り付け金具30で取り付けるエアコン31等の家電製品や、図15に示す吊戸棚32等のようにそれ自体に相当の重量がある物品や、エアコン31ほどの重量はないが、図16に示すような落下による破損が特に許されない貴重な絵画33の取り付けに本発明は有効である。
【0042】
また、地震対策として取り付け部fらるL字形の金具34で壁体6に固定する図17に示すような家具35等や、壁体6に固定される図18に示す階段37の手摺り36のように、地震発生時や使用時に特に大きな荷重が加わるような物品等についても、本発明は有効である。
【0043】
4.壁体の補強方法における変形例について
前述した壁体6の補強方法においては、図2及び図3に示したように、壁体6と壁体7の間は間柱のある空間であったが、この空間には図19及び図20に示すように断熱材38が充填されている場合がある。
【0044】
そのような場合には、壁体6に形成した孔8から下地材10を曲げて入れ込もうとしても、断熱材38が邪魔になってうまく挿入できない場合がある。そこで、このように断熱材38が壁間にある場合に、下地材10を壁体6の裏側に入れ込む工程を、前述した実施形態の図2で示した工程の変形例として、図19及び図20を参照して説明する。
【0045】
図19に示すように、壁体6に形成した孔8から下地材10を入れる前に、壁体6の裏面への案内・導入部材として、滑りのよい材質からなる弾性板状の押さえ部材40を先に孔8内に挿入する。次に、下地材10を孔8内に差し込み、押さえ部材40を案内として下地材10を壁体6の裏側に挿入していく。
【0046】
図20に示すように、下地材10の大半が壁体6の裏面側に入ったら、下地材10の紐5を手前に引っ張りながら押さえ部材40を手前上方に引き抜き、最後に下地材10の上端部を孔8の内部に入れる。後の工程は、前記実施形態における図3以降と同様である。
【0047】
5.本例における取り付け金具25の固定強度について
本例による下地材10を用いて補強した壁体6に、壁掛けテレビ27の取り付け金具25を固定し、その取り付け強度を実際に測定した。9mmの石膏ボードを供試体とし、次に示す(1)〜(3)の3種類の下地材10及び取り付け金具25を石膏ボードに取り付け、試験対象とした。
(1)は、60cm×14cm、厚さ13mmである板材がラワン材製の下地材10を2個と、厚さ2mm、重量15kgの金属製の1枚の取り付け金具25を、前述したような取り付け工程でM5.5のボルトを1個の下地材10につき9本、合計18本使用して石膏ボードに取り付けて補強する。
(2)は、60cm×14cm、厚さ13mmである板材がラワン材製の下地材10を2個と、厚さ1.6mm、重量6kgの金属製の1枚の取り付け金具25を、前述したような取り付け工程でM5.5のボルトを1個の下地材10につき9本、合計18本使用して石膏ボードに取り付けて補強する。
(3)は、45cm×7cm、厚さ13mmである板材がラワン材製の下地材10を2個と、厚さ1.2mm、重量4kgの金属製の1枚の取り付け金具25を、前述したような取り付け工程でM4.8のボルトを1個の下地材10につき9本、合計18本使用して石膏ボードに取り付けて補強する。
このように下地材10及び取り付け金具25が取り付けられた石膏ボードを、圧縮試験機の所定の試験位置に固定する。そして、圧縮試験機により、石膏ボードの表面に平行で鉛直下向きの力を取り付け金具25に対して加える。
【0048】
図21は、上記試験の結果を示すグラフであり、圧縮試験機が示す駆動部のストローク(mm)と、その時の試験力(kgf)との関係を示すものである。(1)から(3)の試験対象に対してそれぞれ試験を行い、図示のような結果を得た。試験対象(1)では試験力の最大点が536.944kgf、変位の最大点が4.82700mmであり、試験対象(2)では試験力の最大点が552.877kgf、変位の最大点が8.73100mmであり、試験対象(3)では試験力の最大点が291.575kgf、変位の最大点が5.04700mmであった。いずれの試験においても、試験後の供試体には損傷、変形等はみられなかった。壁掛けテレビやエアコン、吊り戸棚等は、一般的には最大でも100kg以下の重量であり、今回の試験荷重よりもはるかに小さい。例えば、業務用として会議室等のモニター等に使用されることが多い72型の大型の壁掛けテレビは約93kg程度である。この試験結果は、本実施形態の下地材10で補強された壁体6に対し、取り付け金具25が十分な強度で固定されていること又は壁体が十分な強度に補強されていることを実証している。
【符号の説明】
【0049】
1…第1板
2…第2板
3…溝
4…スポンジ層
5…紐
6…壁体
8…孔
10…下地材
12…貫通材としてのフィニッシャーネイル
14…仮固定部材としての仮止めねじ
25、30…取り付け部としての取り付け金具
26…固定手段としての固定ボルト
27…被取り付け体としての壁掛けテレビ
31…被取り付け体としてのエアコン
32…被取り付け体としての吊戸棚
33…被取り付け体としての絵画
34…取り付け部としての金具
35…被取り付け体としての家具
36…被取り付け体としての手摺り
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁体に種々の物品を安全に取り付けるため、該壁体を補強するべく壁体の裏面側に設けられる下地材に関する。また、本発明は、係る下地材を用いて物品を壁体に安全に取り付けるための固定装置と、係る下地材を利用した壁体の補強方法に関するものである。本発明は、壁体に設置する物品であれば、どのような種類の物品であっても安全確実に取り付けることができるが、例えば、壁掛け型の薄型テレビ、エアコン、吊戸棚等のようにそれ自体に相当の重量がある物品や、壁体に取り付ける手摺りや地震対策で壁体に固定する家具等のように、使用時や地震発生時に特に大きな荷重が加わるような物品等については、特に本発明は有効である。
【背景技術】
【0002】
例えば、壁掛け型の薄型テレビを室内の壁に取り付ける場合、壁に取り付け金具を固定し、この取り付け金具に薄型テレビを係止して取り付ける手法が一般的である。ここで、一般的な家屋における室内の壁は石膏ボード等で構成されている場合が多いが、石膏ボードの強度は重量物を取り付けるには必ずしも十分ではないため、前記取り付け金具を石膏ボードからなる壁のみを対象としてボルト等で固定しても十分な取り付け強度が得られない場合があった。従って、相当の重量がある薄型テレビのような物品を、このような強度不足の固定状態にある取り付け金具に取り付けても、安全な取り付けができるものではなく、薄型テレビの重量に負けて取り付け金具が壁から外れてしまい、薄型テレビごと落下してしまう恐れがある。
【0003】
そこで、このように石膏ボードのような強度が十分とはいえない壁体に対して重量物を取り付けようとする場合には、壁の裏面側にある下地材を利用して取り付け金具を固定することができる。すなわち、室内の壁に石膏ボードが用いられている一般的な家屋の構造においては、石膏ボードからなる室内壁と、隣室の壁又は外壁との間の空間に、間柱と呼ばれる構造部材が所定間隔で設けられており、室内壁はこの間柱に取り付けられている場合が多い。従って、取り付け金具を挿通した取り付けボルトを、壁体を貫通して間柱にねじ込めば、取り付け金具を十分な強度で壁体に固定することが可能となる。
【0004】
しかしながら、薄型テレビにしても、エアコンその他の家電にしても、下地材となる間柱が裏側に存在する位置でしか壁に取り付けられないというのでは好ましくない。これらの家電製品はもちろん、その他のいかなる物品であっても、使用する一定の目的があって壁に設置するのであるから、下地材の有無とは関係なく、所望の位置で壁に安全に固定したいというのがユーザーの一般的な要望である。
【0005】
そこで、壁体の裏側にある間柱を、物品を固定する対象である下地材として利用できない場合には、物品を取り付けようとする位置の壁体を切り取って除去し、そこに現れた間柱と間柱の間に構造用合板を取り付けて固定し、この構造用合板を下地材として物品又は物品の取り付け金具を固定する工事が行なわれることがあった。
【0006】
また、特許文献1には、下地材としての強度が弱く、固着具を嵌入しても十分な固定状態が得られない石膏ボードの欠点を解消するために、石膏ボードの裏面に有機質繊維により形成された繊維板からなる補強層を積層して一体化する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−281979号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、強度が十分とはいえない石膏ボード等の壁体に対して、任意の位置で物品を安全な状態で取り付けることは難しいため、特に重量物を壁体の所望の位置に取り付ける場合には、壁体を大きく切り取って構造用合板に置き換える工事を行い、これを取り付け対象として物品を固定する場合があったが、このような工法は大掛かりで工費も嵩み、また、そもそも間柱がない又は少ない構造の場合には利用することができないという問題があった。
【0009】
また、前記特許文献1に開示されたように、下地材としての高い強度を有し、固着具を嵌入しても十分な固定状態が得られるような補強層を有する石膏ボードが提案されてはいるが、このような補強タイプの石膏ボードは価格が高いだけでなく、新築時等、壁を新たに構築する場合にのみ利用するのが一般的であり、既設の石膏ボードの壁体に対して物品を取り付ける場合にこの補強タイプの石膏ボードを利用するとすれば、壁体自体をこの補強タイプの石膏ボードに置き換える工事を行なう必要があることから、材料費が嵩むことはもちろん、構造用合板に置き換える工事の場合と同様、高額な工費も必要となり、現実には実現が難しかった。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであり、一般的な石膏ボードのように十分な取り付け強度の得られない壁体に対して物品を取り付ける場合や、さらに間柱等の下地材が存在せず又は少ないために従来のような補強工事を行うことが難しい場合であっても、壁体の所望の位置に十分な強度で安全確実に物品を取り付けることができるようにするための下地材と、係る下地材を利用した物品の固定装置及び壁体の補強方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載された下地材は、
壁体の表面に被取り付け体を安定的に固定するために、前記壁体の裏面に設けられる下地材であって、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記被取り付け体を前記壁体の表面に固定するために前記壁体を貫通させた固定手段によって前記壁体の裏面に固定されることを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載された下地材は、
壁体の表面に被取り付け体を安定的に固定するために、前記壁体の裏面に設けられる下地材であって、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記壁体を貫通する仮固定手段によって前記壁体の裏面に仮固定され、前記壁体の表面に設けた前記被取り付け体を挿通して前記壁体を貫通する固定手段によって前記壁体の裏面に固定され、前記被取り付け体とともに前記壁体を挟持して前記被取り付け体の荷重を支えることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載された下地材は、請求項1又は2に記載の下地材において、
長矩形状の平板である第1板と、前記第1板と実質的に同一形状であり、前記第1板の一面に貼付され、前記第1板と反対側の面に前記長矩形状の長手方向と交差する方向に沿った複数の溝が所定間隔で形成された第2板とを有し、前記第1板の他面が凸となるような可撓性を有する本体と、
前記本体に取り付けられ、前記壁体の前記孔から前記壁体の裏面側に挿入された前記本体を前記壁体の裏面の所定位置に保持するための長体と、
を有することを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載された固定装置は、
壁体の表面に被取り付け体を取り付けるための固定装置であって、
前記壁体の表面に所定の面積をもって接するように設けられて前記被取り付け体の荷重が加わる取り付け部と、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記取り付け部の位置に対応して前記壁体の裏面に設けられる下地材と、
前記壁体を貫通して設けられ、前記取り付け部と前記下地材を前記壁体を挟持した状態で固定する固定手段とを有し、
前記壁体を補強して前記前記被取り付け体の荷重を支えることを特徴としている。
【0015】
請求項5に記載された壁体の補強方法は、
壁体の表面に被取り付け体を取り付けるための取り付け部を、前記壁体の表面に安定的に固定するための壁体の補強方法において、
可撓性を備える本体と、前記本体を前記壁体の裏面側の所定位置に保持するための長体とを備えた下地材を用意し、
前記下地材よりも小さい孔を前記壁体に形成し、
前記長体を持ちながら前記下地材の前記本体を曲げて前記孔から前記壁体の裏面側に前記本体を挿入し、前記孔から前記壁体の外に出された前記長体を保持することにより前記本体を前記壁体の裏面の所定位置に保持し、
当て部材を介して貫通材を前記壁体及び前記下地材に打ち込み、
前記当て部材を掴んで引きながら、前記壁体に表面から仮固定部材をねじ込んで前記下地材を前記壁体の裏面に仮固定し、
前記長体と、前記当て部材と、前記貫通材を除去し、
前記孔を修復することにより、
前記下地材に対応する前記壁体の表面に被取り付け体を安定して取り付けられるようにすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された下地材によれば、この下地材よりも小さい孔を壁体に形成し、下地材を曲げてこの孔から壁体の奥に入れ込み、この下地材が配置された壁体の裏面の所定位置に対応する壁体の表面の所定位置に被取り付け体を設け、この被取り付け体を挿通した固定手段を壁体を貫通させ、裏側の下地材に固定する。これによって、被取り付け体と下地材は壁体を挟んだ状態で固定されるので、被取り付け体の重量は下地材及びこれに補強された壁体によって安定的に支持される。
【0017】
請求項2に記載された下地材によれば、この下地材よりも小さい孔を壁体に形成し、下地材を曲げてこの孔から壁体の奥に入れ込み、仮固定手段で壁体の裏面に下地材を仮固定することができる。その後、仮固定された下地材に対応する壁体の表面の所定位置に被取り付け体を設け、この被取り付け体を挿通した固定手段を壁体を貫通させ、裏側の下地材に固定する。この作業は、下地材が壁体の裏面に仮固定されているので、一人で支障なく行なうことができる。これによって、被取り付け体と下地材は壁体を挟んだ状態で固定されるので、被取り付け体の重量は下地材及びこれに補強された壁体によって安定的に支持される。
【0018】
請求項3に記載された下地材によれば、請求項1又は2に記載の下地材による効果において、下地材は、第2板の溝の開口側が狭まり第1板の他面が凸になるように長矩形状の長手方向が湾曲する方向に曲がることができる。従って、壁体の孔から長矩形状の下地材を入れ込む際、例えば下地材の短手方向の寸法程度の小さな孔を壁体に形成すれば、下地材を曲げてこの孔から壁体の奥に入れ込むことができる。また、下地材の長体を孔から外に導出して手で保持しておけば、壁体の孔から壁体の裏面側に挿入した本体を壁体の裏面の所定位置に保持しておくことができるので、その後の仮固定乃至被取り付け体の固定を容易に行なうことができる。
【0019】
請求項4に記載された固定装置によれば、下地材よりも小さい孔を壁体に形成し、下地材を曲げてこの孔から壁体の奥に入れ込み、この下地材が配置された壁体の裏面の所定位置に対応する壁体の表面の所定位置に取り付け部を設け、この取り付け部を挿通して固定手段を壁体を貫通させ、裏側の下地材に固定する。これによって、取り付け部と下地材は壁体を挟んだ状態で固定されるので、取り付け部に被取り付け体を取り付けた場合には、取り付け部及び被取り付け体の重量は、下地材及びこれに補強された壁体によって安定的に支持される。
【0020】
請求項5に記載された壁体の補強方法によれば、下地材よりも小さい孔を壁体に形成し、長体を持ちながら下地材の本体を曲げれば孔から壁体の裏面側に挿入することができる。そして、孔から出た長体を保持して本体を壁体の裏面の所定位置に保持した状態で、当て部材を介して貫通材を壁体と下地材に打ち込み、この当て部材を掴んで手前に引けば、下地材を壁体の裏面に当接させることができる。この状態において、壁体の表面から仮固定部材をねじ込めば、下地材を壁体の裏面に仮固定することができる。そして、長体と、当て部材と、貫通材を除去して孔を修復すれば、下地材の取り付けが完了する。ここで、被取り付け体の取り付け部を下地材に対応した壁体の表側に固定手段で取り付ける。この作業は、下地材が壁体の裏面に仮固定されているので、一人で支障なく行なうことができる。これによって、取り付け部と下地材は壁体を挟んだ状態で固定されるので、取り付け部に被取り付け体を取り付けた場合には、取り付け部及び被取り付け体の重量は、下地材及びこれに補強された壁体によって安定的に支持される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る下地材を表側から見た斜視図、(b)は本発明の実施形態に係る下地材を裏側から見た斜視図であり、いずれも溝の構造が視認できる程度のスケールで表現した図である。また、(c)は本発明の実施形態に係る下地材を曲げた状態を示す正面図(厚さ方向を正面とした図)であり、溝付近が変形した状態を表した部分拡大図をあわせ図示したものである。
【図2】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に下地材を入れ込む工程を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を壁裏面に保持する工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材に当て木をしてフィニッシャーネイルを打ち込む工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定する工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定する工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定する工程を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定した後、当て木とフィニッシャーネイルを除去する工程を示す断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定した後、紐を除去する工程を示す断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に入れ込んだ下地材を仮固定した後、壁体の孔を復旧する工程を示す断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法が完了した状態を示す正面図である。
【図12】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体にテレビ掛用金具を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図13】図12で取り付けたテレビ掛用金具にテレビを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図14】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体にエアコン掛用金具を取り付け、さらにエアコンを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図15】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体に吊り戸棚を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図16】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体に絵画を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図17】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体に家具転倒防止金具を取り付け、これに家具を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図18】本発明の実施形態に係る壁体の補強方法が完了した後に、壁体に手摺りを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図19】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に断熱材がある場合に壁内部に下地材を入れ込む工程の前半を示す断面図である。
【図20】本発明の実施形態に係る下地材を用いた壁体の補強方法において、壁内部に断熱材がある場合に壁内部に下地材を入れ込む工程の後半を示す断面図である。
【図21】本発明の実施形態に係る補強方法で補強した壁体に取り付け部を取り付け、壁体に平行な圧縮荷重を該取り付け部に試験機で与える試験を行なった場合の試験結果を示す図であって、該試験機における試験力とストロークの関係を示すグラフを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態は、壁体に物品を安全に取り付けるため、該壁体を補強するべく壁体の裏面側に固定される下地材等と、該下地材等を用いて壁体を補強し、壁掛けテレビを壁体に安全に取り付ける工法に関するものである。
【0023】
1.下地材の構造
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態の下地材10は、全体として長矩形状の平板であり、可撓性を有する第1板1を基材としている。この第1板1と実質的に同一形状である第2板2が、第1板1の一面に貼付されている。第2板2の第1板1と反対側の面には、前記長矩形状の長手方向と直交する方向に沿い、下地材10に可撓性を与えるための構造として、複数の溝3が所定間隔で形成されている。各溝3は、第2板2を厚さ方向に貫通しておらず、従って第2板2を前記長矩形状の長手方向に沿った断面で見ると矩形波の鋸歯状になっている。この第2板2の溝3が形成されている側の面には、溝3を覆うようにスポンジ層4が貼着されている。この板材の一端部に近いスポンジ層4の一部は除去されており、その部分では第2板2の溝3が露出している。このスポンジ層4は、後述するように固定手段をねじ込む際に、固定手段の先端部に絡んで固定手段を第2板2にねじ込みやすく案内するための導入手段として機能する。
【0024】
以上の構成によれば、下地材10は、図1(c)に示すように、第1板1が凸状に変形するとともにスポンジ層4が凹状となるように外力を加えると、第2板2は溝3の開口が狭まる方向に変形するので、全体として外力に耐えつつ前記長矩形状の長手方向に沿って曲がることができる。逆に、第1板1が凹状に変形するとともにスポンジ層4が凸状となるように外力を加えると、第2板2は図1(c)の拡大図とは逆に溝3の開口が開く方向に変形するので、全体として外力に耐えにくくなり、前記長矩形状の長手方向に沿って破損なく大きく曲がることは困難となる。なお、本例では下地材10の第1板1及び第2板2は木材であるが、適当な可撓性構造乃至材質を有するものであり、長矩形等の細長い形状であれば、材質及び構造を特に限定する必要はない。
【0025】
図1(b)、(c)に示すように、このスポンジ層4が一部除去されて露出した第2層には、長体である紐5の一端が取り付けられており、後に説明する工程において、壁体内に入れ込んだ下地材10を壁体の裏面の所定位置に保持するために、壁体の孔から外側に突出した紐5の他端側を作業者が保持できるようになっている。
【0026】
2.壁体の補強方法
次に、図2〜図13を参照して、本例に係る下地材10を用いて壁掛けテレビを壁体に設置する工程について具体的に説明する。図2等に示すように、本例における壁体6は、例えば隣室の壁体7との間に、図示しない間柱及び空間を挟んで設置されたものであり、例えば石膏ボード等からなる。なお、図2以降の図では、下地材10の第2板2に形成された溝3については構造の詳細は示さず、概略的な表現に留めるものとする。
【0027】
図2に示すように孔8を壁体6に形成する。この孔8を形成する位置は、テレビの取り付け体となる取り付け金具乃至テレビ自体を取り付けたいとユーザーが望んでおり、下地材10となりうる間柱がないために通常の手法では取り付けができない位置であり、後述する工程からわかるように、下地材10が設けられる範囲内では相対的に上方の位置となる。
【0028】
図2及び図11に示すように、この孔8は、下地材10を曲げて壁体6の裏面側に挿入しうる形状・寸法とされている。具体的には、この孔8は矩形であり、その横寸法は、下地材10の短手方向の長さ(幅)を受け入れられるものであり、その縦寸法は、下地材10の長手方向の長さよりもはるかに小さくなっている。さらに具体的には、図11に例示するように、下地材10は縦横比が概ね5:1の矩形であり、孔8の横寸法は下地材10の幅と同等であり、孔8の縦寸法は下地材10の幅の半分程度である。このような孔8の縦寸法は、前述した下地材10が長手方向に安全に曲がる程度を考慮し、下地材10を曲げて孔8から壁体6の奥に入れ込める条件でなるべく小さくなるように設定したものである。
【0029】
図2に示すように、紐5を持ちながら、紐5が取り付けられている側の端部を上にして、スポンジ層4を下にした姿勢で下地材10を手前に曲げながら孔8から通し、壁体6の奥に送り込んでいく。下地材10の全長に比べて壁体6の孔8は小さいが、下地材10は十分に変形して支障なく壁体6の奥に送り込むことができる。
【0030】
図3に示すように、下地材10の全体を壁体6の孔8から壁体6の裏面側に挿入する。この時点で下地材10を湾曲させるために加えられている外力はなくなり、下地材10は湾曲変形が回復して元の平板状に復帰する。さらに、下地材10の上端部に固定されている紐5は壁体6の孔8から外に出ているので、作業者が外から紐5を引っ張れば、下地材10は壁体6の裏面の所定位置(取り付けようとする位置)にスポンジ層4で接した状態で保持される。
【0031】
図4に示すように、紐5を引っ張って下地材10を壁体6の裏面に保持した状態を維持し、壁体6の表面側に当て部材11を当て、貫通材としてのフィニッシャーネイル12を、当て部材11を介して打ち込み機13で壁体6に打ち込む。
【0032】
図5に示すように、当て部材11を掴んで引くことにより下地材10を手前方向に引きながら、壁体6の表面から仮固定部材としての仮止めねじ14をドライバ15でねじ込み、下地材10を壁体6の裏面に仮固定する。仮止め時、下地材10は仮止めねじ14のねじ込み方向とは逆方向の手前に引かれているので、仮止めねじ14のねじ込みによって奥に逃げることがなく、仮止めねじ14は確実に下地材10にねじ込まれる。また、仮止めねじ14は、壁体6を貫通した後、下地材10のスポンジ層4に当たり、柔らかいスポンジ層4に絡んで下地材10を捉えるので、当て部材11及びフィニッシャーネイル12を引いて下地材10を引き寄せる作用と相俟って、下層にある第2板2及び第1板1にねじ込みやすくなる。
【0033】
図4乃至図5を参照して説明したフィニッシャーネイル12の打ち込みから仮止めねじ14による仮固定までの工程を、打ち込み位置を違えて複数回行なう。具体的には、図4乃至図5で説明した下地材10の上端部である上段の位置を始めとして、図6に示すような下地材10の中段の位置、そして図7に示すような下地材10の下段の位置まで、合計3箇所で適当な間隔をおいて長手方向の略全長にわたって仮止めを行なう。なお、仮固定の箇所数は下地材の長さに応じて適宜定めればよい。
【0034】
図8に示すように、ペンチ16で当て部材11とフィニッシャーネイル12を抜き取り、図9に示すように、孔8から飛び出ている紐5をカッター17で切り取る。
【0035】
図10に示すように、壁体6の孔8を修復材料乃至充填材としての速乾パテ20で埋める。図11に示すように、速乾パテ20で埋められた壁体6の孔8(図中斜線を付した部分)は、周囲の壁体6と同一高さになって、修復される。なお、本例では、壁体6の横方向に離れた同一高さの2箇所に下地材10を設置した。
【0036】
図12に示すように、下地材10で補強された壁体6の当該位置に、壁掛けテレビ用の取り付け部である取り付け金具25を固定手段としての固定ボルト26で取り付ける。取り付け金具25は、壁体6に対する取り付け部分において、壁体6の表面に所定の面積をもって接するように設けられる。固定ボルト26は、取り付け金具25の取り付け部分のボルト孔を挿通して壁体6にねじ込まれ、その裏面側に仮固定された下地材10にさらにねじ込まれる。壁体6は、裏面に接して取り付けられた下地材10と、表面に所定の面積をもって接している取り付け金具25の取り付け部分とに挟まれ、これら3者は固定ボルト26によって強固に固定されて一体化されるので、壁体6は補強されて取り付け金具25は壁体6に安定して取り付けられる。
【0037】
図13に示すように、壁体6に強固に固定された取り付け金具25に壁掛けテレビ27を取り付ける。壁掛けテレビ27の重量は取り付け金具25と固定ボルト26を介して下地材10によって安定して安全に支えられる。
【0038】
以上説明した実施形態では、下地材10で補強した壁体6に取り付け金具25を取り付け、これに壁掛けテレビ27を取り付けることとしていたが、取り付け部である取り付け金具25と、被取り付け体である壁掛けテレビ27を分けず、壁掛けテレビ27に一体に設けられている取り付け部を壁体6の下地材10に直接ボルトで固定するものと考えたとしても同様の効果が得られる。
【0039】
また、本実施形態での説明のように、本例の下地材10で壁体6を補強し、補強された壁体6に前記取り付け金具25を取り付け、この取り付け金具25に壁掛けテレビ27を取り付けると考えても良いし、また、壁体6を挟んで固定された前記取り付け金具25と前記下地材10とによって壁掛けテレビ27の固定装置が構成され、この固定装置によって壁掛けテレビ27を壁体6に取り付けるものと考えても良い。
【0040】
また、本実施形態での説明では、下地材10は屈曲可能なように一部に溝3を有する2層構造の板材で構成したが、必要な屈曲が得られるのであれば、特に多数の溝3で可撓性を得る構造が必須というわけではなく、また固定ボルト26のねじ込み対象として十分な強度が得られる素材であれば、特に素材を木に限る必要もない。要するに、その全長よりも小さくなるように壁体6に形成された孔8から壁体6の裏面側に挿入しうるだけの可撓性があり、壁体6を貫通させた固定ボルト26がねじ込まれて荷重を支えることができればよい。また、スポンジ層4は、仮止めねじ14との絡みを生じて下地材10を仮固定する工程では有効であるが、必ずしも必須ではない。
【0041】
3.被取り付け体のその他の例について
本実施形態によれば、壁体6に設置する物品であれば、壁掛けテレビ27だけでなく、どのような種類の物品であっても安全確実に取り付けることができるが、例えば、前述した壁掛けテレビ27以外では、図14に示すような取り付け金具30で取り付けるエアコン31等の家電製品や、図15に示す吊戸棚32等のようにそれ自体に相当の重量がある物品や、エアコン31ほどの重量はないが、図16に示すような落下による破損が特に許されない貴重な絵画33の取り付けに本発明は有効である。
【0042】
また、地震対策として取り付け部fらるL字形の金具34で壁体6に固定する図17に示すような家具35等や、壁体6に固定される図18に示す階段37の手摺り36のように、地震発生時や使用時に特に大きな荷重が加わるような物品等についても、本発明は有効である。
【0043】
4.壁体の補強方法における変形例について
前述した壁体6の補強方法においては、図2及び図3に示したように、壁体6と壁体7の間は間柱のある空間であったが、この空間には図19及び図20に示すように断熱材38が充填されている場合がある。
【0044】
そのような場合には、壁体6に形成した孔8から下地材10を曲げて入れ込もうとしても、断熱材38が邪魔になってうまく挿入できない場合がある。そこで、このように断熱材38が壁間にある場合に、下地材10を壁体6の裏側に入れ込む工程を、前述した実施形態の図2で示した工程の変形例として、図19及び図20を参照して説明する。
【0045】
図19に示すように、壁体6に形成した孔8から下地材10を入れる前に、壁体6の裏面への案内・導入部材として、滑りのよい材質からなる弾性板状の押さえ部材40を先に孔8内に挿入する。次に、下地材10を孔8内に差し込み、押さえ部材40を案内として下地材10を壁体6の裏側に挿入していく。
【0046】
図20に示すように、下地材10の大半が壁体6の裏面側に入ったら、下地材10の紐5を手前に引っ張りながら押さえ部材40を手前上方に引き抜き、最後に下地材10の上端部を孔8の内部に入れる。後の工程は、前記実施形態における図3以降と同様である。
【0047】
5.本例における取り付け金具25の固定強度について
本例による下地材10を用いて補強した壁体6に、壁掛けテレビ27の取り付け金具25を固定し、その取り付け強度を実際に測定した。9mmの石膏ボードを供試体とし、次に示す(1)〜(3)の3種類の下地材10及び取り付け金具25を石膏ボードに取り付け、試験対象とした。
(1)は、60cm×14cm、厚さ13mmである板材がラワン材製の下地材10を2個と、厚さ2mm、重量15kgの金属製の1枚の取り付け金具25を、前述したような取り付け工程でM5.5のボルトを1個の下地材10につき9本、合計18本使用して石膏ボードに取り付けて補強する。
(2)は、60cm×14cm、厚さ13mmである板材がラワン材製の下地材10を2個と、厚さ1.6mm、重量6kgの金属製の1枚の取り付け金具25を、前述したような取り付け工程でM5.5のボルトを1個の下地材10につき9本、合計18本使用して石膏ボードに取り付けて補強する。
(3)は、45cm×7cm、厚さ13mmである板材がラワン材製の下地材10を2個と、厚さ1.2mm、重量4kgの金属製の1枚の取り付け金具25を、前述したような取り付け工程でM4.8のボルトを1個の下地材10につき9本、合計18本使用して石膏ボードに取り付けて補強する。
このように下地材10及び取り付け金具25が取り付けられた石膏ボードを、圧縮試験機の所定の試験位置に固定する。そして、圧縮試験機により、石膏ボードの表面に平行で鉛直下向きの力を取り付け金具25に対して加える。
【0048】
図21は、上記試験の結果を示すグラフであり、圧縮試験機が示す駆動部のストローク(mm)と、その時の試験力(kgf)との関係を示すものである。(1)から(3)の試験対象に対してそれぞれ試験を行い、図示のような結果を得た。試験対象(1)では試験力の最大点が536.944kgf、変位の最大点が4.82700mmであり、試験対象(2)では試験力の最大点が552.877kgf、変位の最大点が8.73100mmであり、試験対象(3)では試験力の最大点が291.575kgf、変位の最大点が5.04700mmであった。いずれの試験においても、試験後の供試体には損傷、変形等はみられなかった。壁掛けテレビやエアコン、吊り戸棚等は、一般的には最大でも100kg以下の重量であり、今回の試験荷重よりもはるかに小さい。例えば、業務用として会議室等のモニター等に使用されることが多い72型の大型の壁掛けテレビは約93kg程度である。この試験結果は、本実施形態の下地材10で補強された壁体6に対し、取り付け金具25が十分な強度で固定されていること又は壁体が十分な強度に補強されていることを実証している。
【符号の説明】
【0049】
1…第1板
2…第2板
3…溝
4…スポンジ層
5…紐
6…壁体
8…孔
10…下地材
12…貫通材としてのフィニッシャーネイル
14…仮固定部材としての仮止めねじ
25、30…取り付け部としての取り付け金具
26…固定手段としての固定ボルト
27…被取り付け体としての壁掛けテレビ
31…被取り付け体としてのエアコン
32…被取り付け体としての吊戸棚
33…被取り付け体としての絵画
34…取り付け部としての金具
35…被取り付け体としての家具
36…被取り付け体としての手摺り
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体の表面に被取り付け体を安定的に固定するために、前記壁体の裏面に設けられる下地材であって、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記被取り付け体を前記壁体の表面に固定するために前記壁体を貫通させた固定手段によって前記壁体の裏面に固定されることを特徴とする下地材。
【請求項2】
壁体の表面に被取り付け体を安定的に固定するために、前記壁体の裏面に設けられる下地材であって、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記壁体を貫通する仮固定手段によって前記壁体の裏面に仮固定され、前記壁体の表面に設けた前記被取り付け体を挿通して前記壁体を貫通する固定手段によって前記壁体の裏面に固定され、前記被取り付け体とともに前記壁体を挟持して前記被取り付け体の荷重を支えることを特徴とする下地材。
【請求項3】
長矩形状の平板である第1板と、前記第1板と実質的に同一形状であり、前記第1板の一面に貼付され、前記第1板と反対側の面に前記長矩形状の長手方向と交差する方向に沿った複数の溝が所定間隔で形成された第2板とを有し、前記第1板の他面が凸となるような可撓性を有する本体と、
前記本体に取り付けられ、前記壁体の前記孔から前記壁体の裏面側に挿入された前記本体を前記壁体の裏面の所定位置に保持するための長体と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の下地材。
【請求項4】
壁体の表面に被取り付け体を取り付けるための固定装置であって、
前記壁体の表面に所定の面積をもって接するように設けられて前記被取り付け体の荷重が加わる取り付け部と、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記取り付け部の位置に対応して前記壁体の裏面に設けられる下地材と、
前記壁体を貫通して設けられ、前記取り付け部と前記下地材を前記壁体を挟持した状態で固定する固定手段とを有し、
前記壁体を補強して前記前記被取り付け体の荷重を支えることを特徴とする固定装置。
【請求項5】
壁体の表面に被取り付け体を取り付けるための取り付け部を、前記壁体の表面に安定的に固定するための壁体の補強方法において、
可撓性を備える本体と、前記本体を前記壁体の裏面側の所定位置に保持するための長体とを備えた下地材を用意し、
前記下地材よりも小さい孔を前記壁体に形成し、
前記長体を持ちながら前記下地材の前記本体を曲げて前記孔から前記壁体の裏面側に前記本体を挿入し、前記孔から前記壁体の外に出された前記長体を保持することにより前記本体を前記壁体の裏面の所定位置に保持し、
当て部材を介して貫通材を前記壁体及び前記下地材に打ち込み、
前記当て部材を掴んで引きながら、前記壁体に表面から仮固定部材をねじ込んで前記下地材を前記壁体の裏面に仮固定し、
前記長体と、前記当て部材と、前記貫通材を除去し、
前記孔を修復することにより、
前記下地材に対応する前記壁体の表面に被取り付け体を安定して取り付けられるようにすることを特徴とする壁体の補強方法。
【請求項1】
壁体の表面に被取り付け体を安定的に固定するために、前記壁体の裏面に設けられる下地材であって、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記被取り付け体を前記壁体の表面に固定するために前記壁体を貫通させた固定手段によって前記壁体の裏面に固定されることを特徴とする下地材。
【請求項2】
壁体の表面に被取り付け体を安定的に固定するために、前記壁体の裏面に設けられる下地材であって、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記壁体を貫通する仮固定手段によって前記壁体の裏面に仮固定され、前記壁体の表面に設けた前記被取り付け体を挿通して前記壁体を貫通する固定手段によって前記壁体の裏面に固定され、前記被取り付け体とともに前記壁体を挟持して前記被取り付け体の荷重を支えることを特徴とする下地材。
【請求項3】
長矩形状の平板である第1板と、前記第1板と実質的に同一形状であり、前記第1板の一面に貼付され、前記第1板と反対側の面に前記長矩形状の長手方向と交差する方向に沿った複数の溝が所定間隔で形成された第2板とを有し、前記第1板の他面が凸となるような可撓性を有する本体と、
前記本体に取り付けられ、前記壁体の前記孔から前記壁体の裏面側に挿入された前記本体を前記壁体の裏面の所定位置に保持するための長体と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の下地材。
【請求項4】
壁体の表面に被取り付け体を取り付けるための固定装置であって、
前記壁体の表面に所定の面積をもって接するように設けられて前記被取り付け体の荷重が加わる取り付け部と、
その全長よりも小さく前記壁体に形成された孔から前記壁体の裏面側に挿入しうる可撓性を備えるとともに、前記取り付け部の位置に対応して前記壁体の裏面に設けられる下地材と、
前記壁体を貫通して設けられ、前記取り付け部と前記下地材を前記壁体を挟持した状態で固定する固定手段とを有し、
前記壁体を補強して前記前記被取り付け体の荷重を支えることを特徴とする固定装置。
【請求項5】
壁体の表面に被取り付け体を取り付けるための取り付け部を、前記壁体の表面に安定的に固定するための壁体の補強方法において、
可撓性を備える本体と、前記本体を前記壁体の裏面側の所定位置に保持するための長体とを備えた下地材を用意し、
前記下地材よりも小さい孔を前記壁体に形成し、
前記長体を持ちながら前記下地材の前記本体を曲げて前記孔から前記壁体の裏面側に前記本体を挿入し、前記孔から前記壁体の外に出された前記長体を保持することにより前記本体を前記壁体の裏面の所定位置に保持し、
当て部材を介して貫通材を前記壁体及び前記下地材に打ち込み、
前記当て部材を掴んで引きながら、前記壁体に表面から仮固定部材をねじ込んで前記下地材を前記壁体の裏面に仮固定し、
前記長体と、前記当て部材と、前記貫通材を除去し、
前記孔を修復することにより、
前記下地材に対応する前記壁体の表面に被取り付け体を安定して取り付けられるようにすることを特徴とする壁体の補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−185254(P2010−185254A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31444(P2009−31444)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【特許番号】特許第4430729号(P4430729)
【特許公報発行日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(509044305)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【特許番号】特許第4430729号(P4430729)
【特許公報発行日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(509044305)
【Fターム(参考)】
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