説明

下肢筋力測定装置

【課題】 一般住民、特に高齢者や障害者にとって、下肢の筋力を測定することは、病院や専門的な施設で第三者の手助けを受けて測定する必要があり、現在に至っても身近だとは言いがたい。本発明は、体重計という身近な計測機器を利用し、簡便でかつ生活し即した下肢筋力の評価装置を提供するものである。
【解決手段】 本発明の構造は、基盤フレームの一端に体重計を固定し、その対岸に座席を設置、基盤フレームと座席の間にシートレールを設置し、座席の位置を調整できるものである。測定にかかる動作については、座席に座り、両足を体重計に乗せ、体重計と座席の距離を膝屈曲90度位に調整固定し、体重計に乗せた足を突っ張るように踏みつける。評価値については体重計の針を読みとることで、測定者はもちろん、利用者本人が自身の下肢筋力を自分の目で確認することができる装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常一般的に使われている体重計を利用し、一般住民、特に高齢者や障害者に対して、利用者の下肢筋力を簡便に測定するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国は、ハイスピードで超高齢化社会に向かっており、2015年には高齢化率が26.0%、2050年には35.7%にも達すると見積もられている。これに対して、近年様々な地域および方法で介護予防の取り組みが行われており、その中でも特に下肢筋力は介護予防において重要なキーワードとなっている。
【0003】
現在、簡便に下肢筋力を測定する装置としては、握力計を利用・工夫し、腰掛け座位にて下肢の蹴り上げ筋力を測定する装置(非特許文献1参照)や、体重測定と、その載せ台上で動作を行った時のピーク値を用いて評価値を算出する下肢筋力の測定装置(特許文献1参照)、座位にて圧力センサに接続された踏み付け板を踏みつけることで、その出力を解析し、下肢筋力について閉鎖性運動連鎖並びに開放性運動連鎖の評価が可能な装置(特許文献2参照)などがあり、種々の側面から研究や開発が進められている。トレーニングマシーンで下肢筋力を測定する機能を備えた装置としては、ウェルトニックWT−L01(非特許文献2参照)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許公開2007−130190号
【特許文献2】特許公開2008−092979号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】実用新案第3124888号
【非特許文献2】「ミナト医科学 総合カタログ2009」,ミナト医科学株式会社,2009年,p126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般住民にとって、下肢筋力を測定することは、病院や専門的な施設で第三者の手助けを受けて測定する必要があり、現在に至っても身近だとは言いがたい。介護予防事業においても握力測定や歩行能力(Time up and goなど)の測定は行われているが、直接的な下肢筋力の測定は、手をこまねいている状況である。
【0007】
先行技術に挙げた文献について、非特許文献1では、簡便で汎用性が期待できる考案であるが、評価動作が腰掛け座位にて膝を伸ばすという下肢の開放性運動連鎖であり、日常生活動作ではあまり現れない動作である。したがって「生活に即した筋力の評価」とは言い難い。特許文献1では、評価動作はスクワット動作に似た閉鎖性運動連鎖の筋力測定であるが、評価過程において「評価値の算出」など分かりにくく、簡便とは言い難い部分があり、汎用性に問題があると思われる。特許文献2は、評価動作はほぼ膝を伸ばした姿勢での下肢伸展であり、閉鎖性運動連鎖の筋力測定である。形態的に最も本発明に類似しているが、本発明が膝屈曲90度位での下肢伸展(立ち上がり動作に似た動作)を評価動作にしているのに対し、特許文献2ではほぼ膝を伸ばした姿勢を評価動作にしており、「生活に即した筋力の評価」という視点から本発明の方が優れていると思われる。また、本発明が体重計の針を読みとるという簡便な評価であるのに対し、特許文献2では特許文献1同様「出力の解析」などの高機能な評価過程があり、「簡便性」並びに「汎用性」について問題がある。
【0008】
現在、非特許文献2のごとく、トレーニングマシーンに下肢筋力の測定機能が付加された装置が商品化されているが、外形寸法は幅690×奥行き2,200×高さ1,130(mm)、質量90kgと大きくて重く、設置スペースや持ち運びには困難が生じる。また、もともとトレーニングマシーンとしての設定なので、定価980,000円と高価であり、購入は容易くない。
【0009】
本発明は以上のような問題点を解決し、一般住民、特に高齢者や障害者にとって、簡便かつ生活に即した身近な下肢筋力の測定装置を開発するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
基盤フレームに75度傾斜の踏み板を設け、その踏み板に体重計を固定し、踏み板の対岸に背もたれが60度傾斜の座席を置き、基盤フレームと座席の間に座席の位置を調節するシートレールを設ける。以上の構成よりなる下肢筋力測定装置を考案した。
【0011】
尚、本発明の試作にあたっては、矢崎加工株式会社のイレクターにてフレームを作製し、フレームの強度が測定筋力の最大値(150kg)に十分耐えられることを確認した。また、酒井医療株式会社のCompassトレーニング(機種:ホリゾンタルレッグプレス)にて、75度傾いた踏み台に体重計をおいた状態で、体重計が正常に機能することを確認した。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、試作の段階で総重量18.5kgと軽量で、男性であれば一人で運搬することができる程度である。また、大きさは幅520×奥行き1,270×高さ820(mm)で公民館などの施設に置いても大きな場所をとらず、バンタイプの自家用車であれば後部に乗せて運ぶことも可能な装置である。また、試作の段階での材料費は20,000円前後と安価な価格設定が想定される装置である。このようにコンパクトな設定の装置であり、公民館や薬局などの施設でも気軽く設置することができ、汎用性に優れている。
【0013】
本発明は、病院や専門的な施設に出向くことなく、公民館や薬局などで簡便に自分の下肢の筋力を自分で測定・確認することができる評価装置である。早期に筋力低下に気がついたり、リハビリや運動による時系列的な筋力の変化も確認することもできる。
【0014】
本発明は、簡単な下肢の筋力トレーニングにも利用することができる。等尺性運動であり、動きを見せることはできないが、より簡明に筋力の実力を発揮することができ、十分に筋力増強練習となる。たとえば、「今日は50kgを30回やろう」など筋力向上プログラムを立てて、その都度、筋力測定を行い、フィードバックしながら練習を行うことができる。また、本発明は、一方の足を体重計から下ろすことで片側下肢の筋力も計測することができ、骨折や麻痺などの疾患を持った利用者の筋力評価や荷重トレーニングにも応用することができる。
【0015】
本装置(試作)で得られた下肢筋力データは、高齢者の日常関連動作と有意な関係が示された。例として図4に下肢筋力と階段昇降の関係を示す。「生活に即した動作」を測定動作としていることで、下肢筋力と日常生活を結びつけることができたと考える。今後、高齢者や障害者の早期機能低下の指標に活用が期待される。
【0016】
本装置に使用される体重計は、簡単に取り外すことができ、通常の体重計として使用することができる。
【0017】
本装置で使用されるシートレールは、自家用車のシートレールをリサイクルして活用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の分解斜視図
【図2】本発明の斜視図
【図3】本発明の使用状態を示す斜視図
【図4】下肢筋力と階段昇降の関係を示すグラフ
【本発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(イ) 基盤フレーム(1)の踏みつけ部分に踏み板固定具(2)にて75度傾斜の踏み 板(3)を取り付ける。踏み板(3)に4個のL型体重計固定具(4)を設ける。 L型体重計固定具(4)の突起部分を体重計(5)の内側フレームと外側フレーム の隙間に挿入し、体重計(5)を固定する。
(ロ) 基盤フレーム(1)の座席部分に座席の位置を調整するシートレール(6)をシ ートレール固定具(7)を用いて取り付け、同じく、その上に座席フレーム(8) を取り付ける。
(ハ) 座席フレーム(8)は背もたれが60度傾斜であり、座面に座板固定具(9)を 用い座板(10)を、背もたれに背板固定具(11)を用い背板(12)を固定す る。座席フレーム(8)の最後部に、シートレールへの挟み込みを防止するためシ ートレールカバー(13)を設ける。
(ニ) 座板(10)および背板(12)にはスポンジとカバーを設ける。
本発明は以上のような構造である。
【0020】
本発明の使用に関しては、座板(10)に座り、背板(12)に背中をつけ、両足を体重計(5)に乗せる。座席調整レバー(14)を使って、測定肢位を膝屈曲90度位に調整する。測定肢位を設定したら、ゆっくりと最大筋力まで踏みつけていく。最大筋力時の目盛りを目視で読みとる。同じく、片足を乗せて、片足の筋力を測定することも可能である。また、荷重と回数を決めて、トレーニングに用いることも可能である。
【符号の説明】
【0021】
1.基盤フレーム
2.踏み板固定具
3.踏み板
4.L型体重計固定具
5.体重計
6.シートレール
7.シートレール固定具
8.座席フレーム
9.座板固定具
10.座板
11.背板固定具
12.背板
13.シートレールカバー
14.座席調整レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤フレームに踏み板固定具にて75度傾斜の踏み板を設け、その踏み板にL型体重計固定具にて体重計を固定し、踏み板の対岸に背もたれが60度傾斜の座席フレームを設け、座席フレームに座板固定具にて座板を、背板固定具にて背板を固定し、基盤フレームと座席フレームの間に座席の位置を調節するシートレールを設け、座席フレームの最後部にシートレールカバーを設けた下肢筋力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−99492(P2013−99492A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259534(P2011−259534)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(511288175)