説明

不活性ガス充てん密閉式貯水タンク

【課題】貯水タンクに貯留される貯水中の溶存元素の酸化、外気中の埃などの貯水タンク内への侵入、および貯水中における好気性細菌類の繁殖を防ぐ貯水タンクを提供する。
【解決手段】貯水タンクを密閉式とし、不活性ガス供給手段からタンク内に窒素などの不活性ガスを必要量だけ送り込むとともに貯水タンク内の余剰のガスを大気中に一方向に排出する排気管を設けることで、貯留中の貯水を酸素に触れさせず、有害溶存ガスが含まれる場合は大気中に逃がし、外気から埃などが侵入しない貯水タンクが実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温泉源泉水や地下水などを貯水する貯水タンクに関し、特に貯留された貯水中の溶解元素が空気中の酸素などの活性ガスに触れて酸化などの変化を受けたり、外気中の埃などに含まれる細菌が貯水タンク中に流入したり、流入した好気性の細菌類が貯水中で繁殖して貯水を汚染することのない貯水タンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から温泉源泉水や地下水などの地中から自噴または揚水される原水を有効に利用するために、一定量の原水を一旦貯留し需要に応じて供給するための貯水タンクが一般的に使われてきた。これらの貯水タンクには一定水量の貯留により、流出量が流入量を上回った時に貯留されている貯水を供給して短期的に需要を満たすと言う機能に加えて、貯水中にメタンや硫化水素などの有害な溶存ガスを抜気する機能も併せ持っている。
【特許文献1】特許公開平8−141551号広報
【特許文献2】実用新案登録第3150115号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の貯水タンクは、貯留されている水量が変化した時にも水面の気圧を外気圧と等しく保って給水を妨げないために、あるいは抜気した溶存ガスを外部に逃すために外気との間で遮蔽されない開放型となっており、貯水している間に空気と触れて原水中に溶解している元素が空気中の酸素と結合して酸化されてしまい、源泉の効能が失われるという問題があった。
【0004】

さらに、貯水タンクが外気開放式であるため外気中の埃などに混じって細菌が流入し、一旦水中に細菌類が混入すると空気中の酸素が自由に供給されるために、好気性の細菌類が水中で繁殖して貯水が細菌汚染されるという問題があり、これが問題となる場合には塩素系の薬剤などの殺菌剤を常時貯水に添加せざるを得ず、塩素添加によって源泉の効能が一層損なわれるばかりでなく、塩素を印加すると下流の配管や装置が塩素によって腐食する、あるいは下流の配管に塩素や酸素と結合しやすい源泉中のカルシウムや硫黄などの成分が析出してスケールとして配管内部に付着し通水を妨げる、などという多くの問題があった。
【0005】
本発明の目的は上記問題点に鑑みて、貯水タンク内の貯水を外気に触れない密閉式とした上で貯水タンク中に窒素や二酸化炭素などの不活性ガスを外気圧と略等しい圧力まで供給して満たすことにより、原水中の溶存元素の酸素との結合による変化を防ぐと共に、外気中の埃などに混入して有害細菌が流入することを防ぎ、塩素などの殺菌薬剤によらなくとも細菌類の流入・繁殖を抑えることが可能な貯水タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、貯水タンク内を外気に対して密閉式とし、外気圧の変化や入出水量に応じた必要量の不活性ガスを供給するガス供給手段を設け貯水タンク内を略大気圧に保つとともに、危険な溶存ガスが含まれる原水には必要量の不活性ガス供給をすることで抜気した溶存ガスを含んだ余剰の不活性ガスを貯水タンク外に一方行に排気する手段を設けることにより実現される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の不活性ガス充てん密閉式貯水タンクは、貯水が酸素に晒されずに源泉水中の活性イオン物質が貯水中もほぼそのまま保存されるので温浴効果を減ずることがないだけでなく、貯水タンクや配管、熱交換器などの設備壁面に源泉中の溶存成分がスケールとして析出してそれらの機器を痛めることもなく、さらに密閉式であるため外気の流入による有害細菌の流入がなく、好気性細菌の繁殖も防げるので塩素などの殺菌剤を使わずに衛生面の問題も皆無に出来ると言う多くの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
貯水タンク本体および蓋を気密密閉式とし、不活性ガス供給手段から貯水タンクに対して必要量の不活性ガスを供給するように構成するとともに、外気圧以上になった不活性ガスを貯水タンク内から貯水タンク外に一方向に排出する排気管と、排水トラップ構造などを有する余剰水排水管によって貯水タンク内を外気と遮断することにより、貯水タンク内を密閉し不活性ガスで充てんすることが出来る。
【実施例1】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の好ましい第1の実施形態による不活性ガス充てん密閉式貯水タンク装置の構成を示す構成図である。
貯水タンク本体10には従来の貯水タンクと同様に原水の流入管30と流出管40が設置されており図示しない水源から流入管30によって自噴あるいはポンプで揚水された原水が貯水タンク本体10に供給され貯留され、一旦貯留された貯水を流出管40から図示しないポンプか自由流下によって浴槽あるいはその他の湯水利用設備に対して給水するようになっている。
【0011】
貯水タンク本体10中には上部を気体流通可能にした仕切り板11が設置されており、流入管から給水された水は貯水タンク内の第一水槽12から仕切り版11の下部を通って第二水槽13に流れたのち利用のために流出管40によって外部に排出される。
【0012】
貯水タンク本体10にはさらに窒素などの不活性ガスを圧縮貯蔵したタンク54から電磁弁53と減圧弁52を経て給気管51によって不活性ガスが供給される不活性ガス供給装置50が接続されており、気体圧検出手段60の出力56により貯水タンク内の気圧が外気圧よりも下がるか、流出管40中に設けられた流量検出手段41の出力信号59に応じて不活性ガス供給制御装置58が電磁弁53を解放しタンク内に新しい不活性ガスを供給し、貯水タンク内の不活性ガスの気圧が外気圧よりも高くなった場合には逆止弁71が接続された排気管70を経て余剰のガスが外気中に排出されるようになっている。
【0013】
また、給水された原水中に有害ガスが溶存している場合は、流量検出手段31によって流入管30から給水された原水の流量に応じた信号57が流量制御手段58に加えられ、流量制御手段58の出力55によって電磁弁53が解放され略一定量の不活性ガスが貯水タンクに供給され、貯水タンク内の気体中に占める有害ガスの分圧が高くなり過ぎないように制御するようになっている。
【0014】
さらに貯水タンク本体10の壁面にはタンク内の貯水が一定レベルよりも多くなった場合に余剰の貯水を排水する排水トラップ構造を有する排水管80が接続されている。
排水トラップは図のようにU字構造となっており、常に排水される貯水がU字部分に溜まっているためにタンク内を気密にして外部から貯水タンク内に埃や酸素が流入することを防ぐ事が出来る。
【0015】
このように構成された不活性ガス充てん密閉式貯水タンクでは、貯水された水や湯などの液体中のイオンなどの成分が空気中の酸素などの活性気体に触れることがないので貯留中にイオンなどの活性物質成分が減じられたり、貯水タンクや流出管或いはより下流に設けられる熱交換器などの壁面にイオンが酸素と反応析出していわゆるスケールとなって付着することを防げる。
【0016】
また、貯水量の増減があっても外気が流入することはなく、外気中の埃などに混じって細菌が貯水中に混入することがない。さらにもし仮に源泉中に細菌が混入したとしても貯水タンク中の気体中に酸素が含まれないので貯水中の好気性細菌は繁殖しない。
【実施例2】
【0017】
図2には第2の実施例を示し図1と同じ要素には同じ番号を付して説明を省略する。
この実施形態においては、本案の最も簡単な実施例を示す。密閉式貯水槽に接続されるガス供給手段50は減圧弁52を介して常時一定量の不活性ガスを貯水タンク10に対して供給するとともに、排気管70にはエアフィルターあるいは流路を狭窄して制限した気体抵抗を有する流路制限手段61が接続されている。
【0018】
流入管30、流出管40、およびU字構造の排水トラップ80は第1の実施例と同じように設けられている。
【0019】
このように構成された貯水タンクに源泉から流入管30を経て原水が供給されると、流出管40で使用されるより多い供給水は排水トラップ80から外部に排水され、一方流入管から給水される以上の水を流出管40によって供給した場合は、貯水タンク内の貯水量は低下するが不活性ガス供給装置から排水量を上回る量の不活性ガスが供給され、貯水タンク内の不活性ガス気圧は外気圧に対して若干の正圧となって排気管70から外気が流入することはない。
【0020】
この例では、不活性ガスが常時一定量消費されるものの、流量検出手段や気圧検出手段、逆止弁などを必要とせず安価な設備によってほぼ同様の効果が達成できる。
【実施例3】
【0021】
図3には第3の実施例を示し、図1と同じ要素には同じ番号を付して説明を省略する。
【0022】
この実施例では本案のより実用的な構成を示す。
【0023】
貯水タンク本体10には水源から貯水タンクに給水するためのポンプ32を経由した流入管30が接続され先端部のシャワーヘッドから貯水タンクの上部空間中に源泉水を噴出させ、仕切り板11の下部から第二水槽13に、続けて仕切り板14の上部を通って第三水槽15に流し、流出管40経由で図示しない排水ポンプによって貯水を利用する浴槽に供給する。
【0024】
貯水タンク内に噴出する源泉水はシャワーヘッドから噴出する際に空中を小さな水滴状になって流下するので表面積が増え周りの気体中に溶存ガスを放出し易くなる。
【0025】
不活性ガス供給装置50は不活性ガス圧縮貯蔵タンク54とその不活性ガスを開閉する電磁弁53、給気管51の途中に接続された伸縮自在なベローズ状のバッファタンク91、バッファタンクの容積が一定容量の間信号を出す容積検出手段92、容積検出手段92の出力93とポンプ32の駆動信号を入力され、電磁弁53の制御信号55を出力する不活性ガス供給制御回路58からなる。
【0026】
貯水タンク内の余剰の貯水を排出する排水管80には逆止弁81が接続され、貯水タンクの貯水量が一定以上になった場合は余剰の貯水を逆止弁を通じて排水し外気の流入を防ぎ、排気管70には同様に空気用の逆止弁71が挿入され、貯水タンク内の不活性ガスの気圧が外気圧より一定値以上高くなった場合には貯水タンク内の不活性ガスが外部に排出されるようになっている。また排気管に接続される逆止弁71の作動圧はバッファタンクの収縮力よりも若干高く設定されている。
【0027】
不活性ガス供給装置50から貯水タンク内に供給される不活性ガスは給気管51の先端に取り付けられた微小な穴の空いた多孔体17から貯水中に供給されるので、水中では微小な気泡となって貯水との接触面積が大きくなり溶存ガスを放出し易くなっている。
【0028】
このような構成にすることによって、バッファタンク91が貯水量の増減に応じて伸縮自在にタンク内の不活性ガスを外気圧と略等しく維持し、著しく水量が減ってバッファタンクの容積が小さくなった時だけ容積検出手段92の出力93により不活性ガス供給制御装置58が電磁弁53を一定時間解放して一定量の不活性ガスをバッファタンク91と貯水タンク内に供給し貯水タンク内の気圧を維持するので、不活性ガスの消費量は少なくて済む。
【0029】
また、供給される源泉水中に有害な溶存ガスが含まれている時は供給水がシャワーヘッド16から水滴となって噴出するので気体との接触面積が増えて溶存ガスの放出を促進すると同時に、不活性ガス制御回路58の制御により流入管に接続されたポンプ32の駆動信号の出力に応じて不活性ガス供給制御装置58が必要量の不活性ガスを不活性ガス圧縮貯蔵タンクから貯水タンク方向に送り出し多孔体17から貯水中に微細気泡として供給するので、源泉水と不活性ガスの接触面積は第1の実施例に比べると非常に大きくなり、溶存ガスの放出が促進される。
【0030】
尚、実施例1において、排水管の排水トラップのU字構造の折り返し高さによる排水圧力は排気管の逆止弁71の排気圧力よりも大きく設定されるので、余剰のガス排出によりU字構造部分の水が排出されないことは言うまでもない。
【0031】
さらに、本案特に第3の実施例によれば設置済みの従来の開放型の貯水タンク本体に対して、蓋部分を密閉式とし給気管や排気管を付加し不活性ガス供給手段を増設し、排水管の外部に排水トラップなどの外気との遮蔽手段を取り付けて改造することにより同様の効果が得られるので、既存の貯水タンク本体設置をやり直す必要がないため改造費用が少なくて済むと言う利点がある。
【0032】
上記説明では、溶存ガスを気化排出するために不活性ガスの流量を一定量としたが、不活性ガス中の溶存ガス濃度が一定値以下に保たれさえするなら原水の給水中は一定時間ごとに電磁弁開放を繰り返し行うような断続的な不活性ガスの供給でも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の好ましい第1の実施形態による不活性ガス充てん密閉式貯水タンクの構成を示す構成図である。
【図2】図2は、本発明の簡易的な実施形態による不活性ガス充てん密閉式貯水タンクの校正を示す構成図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい第3の実施形態による不活性ガス充てん密閉式貯水タンクの構成を示す構成図である。
【符号の説明】
【0034】
10 貯水タンク本体
11 第一仕切り板
12 第一水槽
13 第二水槽
14 第二仕切り板
15 第三水槽
16 シャワーヘッド
17 多孔体
20 蓋
30 流入管
40 流出管
50 不活性ガス供給装置
51 給気管
52 減圧弁
53 電磁弁
54 窒素タンク
70 排気管
71 逆止弁
80 排水管
81 逆止弁
91 バッファタンク
92 容積検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温泉源泉水や地下水などの地下から空気に触れずに直接湧出する原水を貯蔵する少なくとも一対の流入管と流出管が接続された貯水タンクにおいて、該貯水タンクは貯水用の本体と密閉式の蓋と、窒素などの不活性ガスを貯水タンク内に供給する不活性ガス供給手段と、貯水タンク内の気圧が略外気圧以上になった時に貯水タンク内の気体を外部に向かってのみ排出する逆流防止機能を備えた排気管と、貯水タンク内に所定量以上の原水が流入した場合に余剰の水を外部に排出するための外気を遮蔽可能な排水構造を備えた排水口と、を備えたことを特徴とする不活性ガス充てん密閉式貯水タンク
【請求項2】
請求項1の貯水タンクにおいて、タンク内の気体を外部に排出する排気口の逆流防止機能を有する排気機構の代わりにエアフィルター若しくは配管の一部を狭窄状にすることにより一定の空気抵抗部を設ける一方、不活性ガス供給手段は常時一定量以上の不活性ガスを供給することを特徴とする不活性ガス充てん密閉式貯水タンク
【請求項3】
請求項1の貯水タンクにおいて、不活性ガス供給手段は少なくともタンク内の気圧が所定値以下に低下したことを検知して第1の信号出力を行う気圧検出手段か若しくは貯水タンク内の空間容積が所定値以上になった場合に第2の検出信号を出力する空間容積検出手段のどちらか一方を有し貯水の流出などにより前記第1若しくは第2の出力信号に応じて不活性ガスを不活性ガス供給手段から供給すると共に、流入管から給水される原水の供給を検知して第3の信号出力を行う給水検知手段を設け、該第3の信号出力に応じて所定量の不活性ガスを不活性ガス供給手段から貯水タンクに供給する不活性ガス流量制御手段を設けたことを特徴とする不活性ガス充てん密閉式貯水タンク
【請求項4】
請求項1の貯水タンクにおいて、少なくとも貯水タンク内の気圧が所定値以下になった場合に第1の信号出力を行う気圧検出手段か、流出管からの貯水流出を検出して第2の信号出力を行う流出検出手段のどちらか一方を有し、不活性ガス供給手段は前記第1若しくは第2の信号に応じて所定量の不活性ガスを貯水タンク内に供給する流量制御手段を設けたことを特徴とする不活性ガス充てん密閉式貯水タンク
【請求項5】
請求項2あるいは請求項3の貯水タンクにおいて、不活性ガス流量制御手段は流入管から給水される原水の量に応じた量の不活性ガスを供給する場合に、原水中に溶存する有害ガスの量に応じて予め設定した量の不活性ガスを供給するように設定した不活性ガス流量制御手段を備えたことを特徴とする不活性ガス充てん密閉式貯水タンク
【請求項6】
請求項5の貯水タンクにおいて、不活性ガスの給気管の貯水タンク内の先端部を貯水面よりも低くすると共に微細孔を多数有する気泡発生手段を設け、不活性ガスが供給された場合給気管の先端部から貯水中に不活性ガスの微細気泡が発生するように構成したことを特徴とした不活性ガス充てん密閉式貯水タンク
【請求項7】
請求項3の貯水タンクにおいて、貯水タンク内の空間容積検出手段は伸縮自在なバッファタンクと該バッファタンクの容積検知手段からなることを特徴とする不活性ガス充てん密閉式貯水タンク
【請求項8】
少なくとも一対の流入管と流出管および余剰水の排水管を備えた既設の外気開放式貯水タンク本体に対して、蓋を密閉方式とし、貯水タンク内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、貯水タンク内の気圧が外気圧よりも高くなった場合に貯水タンク内の不活性ガスを外部に廃棄する逆流防止機能を備えた排気手段とを取り付け、さらに余剰水の排水管に外気との遮蔽機能がない場合は排水管の経路に外気との遮蔽手段を取り付けることにより、開放式貯水タンクを不活性ガス充てん密閉式タンクに改造する改造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122189(P2012−122189A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270985(P2010−270985)
【出願日】平成22年12月5日(2010.12.5)
【出願人】(708000627)
【出願人】(510241269)
【出願人】(508220700)