説明

不連続性の脱進機によって同期される発振子

【課題】発振の維持と共にパワーリザーブも向上した時計を提案する。
【解決手段】本発明は、第1の周波数(f1)で発振し、主歯車列(T2)によって主脱進機(D2)を介して主エネルギー源(B2)に接続された第1の共振子(R1)を備える時計(1)に関する。本発明によると、この時計(1)は、第1の周波数(f1)より低い周波数である第2の周波数(f2)で発振する第2の共振子(R2)であって、主脱進機(D2)と協働し、それによって第1の共振子(R1)の維持を第2の周波数(f2)と同期する、第2の発振子(R2)を備える。本発明は、連結された発振子の分野に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱進機によって断続的に同期される複数の発振子を含む時計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、腕時計の調節部材は、高調波の、減衰した、ほぼ等時性の共振子で形成されており、その発振は脱進機システムで維持する。脱進機システムは、(レバー脱進機の場合)発振振動ごとに、又は(デテント脱進機の場合)発振周期ごとに、エネルギーを共振子に伝達する。
【0003】
共振子とも呼ばれる調節部材の発振の維持には、いくつかの問題が存在する。よって、共振子へのエネルギーの伝達は、その伝達が共振子の静止点に関して対称でない全ての場合において、共振子の周波数(従って腕時計の進度)を妨害する。更に、振動ごと(又は周期ごと)に脱進機が消費するエネルギーと、共振子の周波数とが、腕時計のパワーリザーブを決定するため、これが制限される。
【0004】
その上、発振子の振幅が幾何学的な理由で制限されるため、発振子のエネルギー(及び、従って発振子の外的妨害に対する安定性)を増大させるためには、発振子の弾性定数を増大させなければならず、これは高周波数の発振子を始動させることが不可能であることを意味し得る。
【0005】
最後に、脱進機の平均効率及び効率の変動は、とりわけ脱進機の構成要素の加速の影響を受ける。そのため、共振子が素早く元に戻るほど、効率と時定数は高くなることになる。したがって、非常に周波数の高い共振子においては、必然的に損失が増加し(かつパワーリザーブが減少し)、及び/又は効率の変動が増大する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、周波数(向上した表示分解能)と機械的エネルギー(向上した安定性と正確性)が増大し、発振の維持とパワーリザーブも向上した時計を提案することによって、上述の欠点の全て又は一部を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、第1の周波数で発振し、主歯車列によって主脱進機を介して主エネルギー源に接続された、第1の共振子と、第1の周波数と有理数である係数との積である第2の周波数で発振する第2の共振子と、を含む時計に関し、第2の共振子は主脱進機とも協働し、それによって、第2の共振子が発振する時のみ、主脱進機を解放して第1の共振子を維持することを特徴とする。
【0008】
本発明によって、共振子の維持周波数を、共振子の周波数より低く低減することができることは明らかである。また、本発明によって、特に、脱進機の機能の効率を向上させることによって、パワーリザーブのプリザーブ中に高周波数ムーブメントを確実にオートスタートさせることができる。さらに、本発明は、時計の外部からの妨害によって発生する進度誤差を実質的に削減する。
【0009】
本発明の他の有利な特徴については、以下の通りである。
・第1の実施形態によると、主脱進機はデテント脱進機であり、第1の共振子によって制御される第1のデテントばね及び第2の共振子によって制御される第2のデテントと協働する、単一のガンギ車を備える。
・第2の実施形態によると、主脱進機はデテント脱進機であり、第1の共振子によって制御される第1のデテントと協働する第1のガンギ車と、第2の共振子によって制御される第2のデテントと協働する第2のガンギ車とを備え、第1及び第2のガンギ車は互いに噛み合っている。
・これらの実施形態の変形形態によると、第2の共振子はまた、副歯車列によって、第2の脱進機を介して副エネルギー源に接続されている。
・第2の脱進機は、Swissレバー脱進機である。
・変形形態は、デテントによって形成され主共振子によって制御される配分機構に固定された表示部のための歯車列に接続された表示エネルギー源を備える時間表示デバイス、又は主歯車列に接続された時間表示デバイスを含む。
・変形形態の特定の代替形態によると、時計は、主脱進機を選択的にロックするための手段を含み、この選択的ロック手段を解放することによって、第1の共振子を使用する時間を計測する。
・この特定の代替形態は、上述の計測した時間を表示するためのデバイスを含み、このデバイスは、主共振子で制御された配分機構に固定されたディスプレイのための歯車列に接続された表示エネルギー源、及び副歯車列に接続された時間表示デバイスを備える。
【0010】
他の特徴及び利点は、添付の図面を参照して、非限定的な説明として以下に与えられる説明から明確となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明による時計のエレメントの概略図である。
【図2】図2は、第1の実施形態による主脱進機の概略図である。
【図3】図3は、第2の実施形態による主脱進機の概略図である。
【図4】図4は、図3の点線部分の詳細図である。
【図5】図5は、本発明による複数の共振子の同期を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明による時計の、共振子の同期に続く低い衝撃依存性を示すグラフであり、共振子の振幅に関するものである。
【図7】図7は、本発明による時計の、共振子の同期に続く低い衝撃依存性を示すグラフであり、共振子の速度変化に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述したように、本発明の目的は、機械式腕時計に、高い周波数の共振子(例えば10ヘルツ又は50ヘルツ又はそれ以上)を組み込むことであり、この共振子の発振維持は低い周波数の共振子(例えば1ヘルツ又は2ヘルツ)によって同期され、それによって共振子が、その周波数より高い周期にわたって維持される。
【0013】
従って、図1に示す例示的な実施形態において、時計1は、第1の周波数f1で発振し、主歯車列T2によって主脱進機D2を介して主エネルギー源B2に接続された、第1の共振子R1を含む。有利には、時計1は更に、第1の周波数より低い第2の周波数f2で発振し、同じ主脱進機D2と協働して、第1の共振子R1の維持を該第2の周波数f2に同期する、第2の共振子R2を含む。
【0014】
好ましくは、本発明によると、第2の周波数f2は第1の周波数の分数である(Nを1より大きい整数として、f2=f1/N又はf2=f1/2N)。よって、主共振子R1は副共振子の周期によってのみ維持されることが明白である。
【0015】
しかし、各発振子で歯車比Riが異なる場合、因数は有理数N’でもあり得る。実際、この変形形態では、2つの脱進機を固定しているホイール上の周波数は、複数の整数によってリンクされていなければならない。しかし、歯車比は任意に、かつ独立して、発振子の周波数を細分することができる。すると、発振子の周波数は整数によってではなく、有理数(N’をN*1/R2とし、Nを1より大きい整数として、f2 = f1/N’)によってリンクされることになる。
【0016】
この構成は、有利には、高い分解能(例えば1/20秒又は1/100秒)の基本ムーブメント(又はクロノグラフムーブメント)の製作が可能であることを意味する。また、この構成によって、主共振子の正確性や耐衝撃性が増大し、極めて高い周波数(例えば50ヘルツ)のムーブメントが確実にオートスタートできるようにしながら、パワーリザーブが増大する。最後に、この構成により、振幅の小さい共振子を維持することができ、また、表示用歯車列及び/又は維持用歯車列を部分的又は全体的に省くことができる。
【0017】
図2に示す第1の実施形態によると、主脱進機D2はデテント脱進機であり、第1のデテント5と協働し、第1の共振子R1によって制御される単一のガンギ車3、及び第2の共振子R2によって制御される第2のデテント7を備える。
【0018】
例えば、2つの共振子R1及びR2が静止点の周囲に、−20°、+20°の角度間隔で位置している場合、ガンギ車3は自由であると考えることができる。主共振子R1を確実に維持するために、2つの共振子が大いに異なる位相を有している場合、即ち、それらが2つの異なるモーメントにおいて静止点を通過する場合、副共振子R2によって主脱進機D2が解放される角度間隔が増大するように、副共振子R2のデテント7に工夫してもよい。従って、副共振子R2のデテント7は、主共振子R1がガンギ車3をリリースするデテント5の角度よりも大きい角度間隔にわたる解放を含むことが好ましいことは、明らかである。
【0019】
その結果、デテントが解放されるや否や、発振子に作用するブレーキ力が、発振子の回転の中心にごく近接して適用されるため、これを原因とする摂動トルクは極めて低く、即ち、これにより、副共振子R2の解放角度を、速度に影響を与えることなく相当に増加させることができる。
【0020】
衝撃の後、共振子の位相の差が余りに大きく、発振が維持できない場合、主共振子R1の等時性カーブの増加又は減少によって、数回の発振の後、2つの共振子の間で位相を合わせることができることは明らかである。実際、副共振子R2の発振と主共振子R1のN回の発振のうちの1つとの間で整相が再確立されるまで、主共振子R1は振幅を失うことになる。よって、表示の更なる進度誤差が、主共振子R1の1周期より小さくなるか又はこれと等しくなることは明らかであり、周波数f1が高くなるほど、誤差が小さくなることを意味している。
【0021】
図3及び図4に示す第2の実施形態によると、主脱進機D2はデテント脱進機であり、第1の共振子R1によって制御される第1のデテント13と協働する第1のガンギ車11と、第2の共振子R2によって制御される第2のデテント17と協働する第2のガンギ車15とを備え、第1及び第2のガンギ車11、15は互いに噛み合っている。よって、構造的に、特に元来の又は衝撃によって誘導される位相差の間に、第1の実施形態と同様の利点が得られることは明らかである。
【0022】
しかし、第1の実施形態と比べて、共振子R1及びR2は、デテントによって、主歯車列T2と(並列又は直列で)噛み合っている2つの異なるガンギ車11及び15を解放することに注意されたい。ひとたび解放されると、ガンギ車15は、ガンギ車11及び従って脱進機D2がリリースされるまで、再びロックされることはない。この場合、脱進機D2は、主共振子R1の発振周期(又は振動)ごと、及び副共振子R2の発振ごとに解放され、共振子R1及びR2の位相差の維持は独立して保証される。
【0023】
図4に示す例は、ガンギ車11,12,15,16とデテント13,17との噛み合いを示している。ガンギ車15は、デテント17によって副共振子R2の各発振において頂点の歯部16で解放され、副共振子R2のデテントばね17を介して頂点の歯部16により再びロックされる前に小さな角度を描く。しかし、ガンギ車15の動作の間、ガンギ車11は主共振子R1のデテント13によって頂点の歯部12でロックされたままである。
【0024】
主共振子R1が通過すると、ガンギ車11は、デテント13によって、頂点の歯部12で解放され、デテントばね13によって頂点の歯部12で、及び/又は、今度は停止デバイスに相当する役割を果たすガンギ車15によって再びロックされる前に、主共振子R1が維持されるようにする。勿論、主共振子R1が通過するとき、副共振子R2がそれ以前にガンギ車15を解放していなければ、ガンギ車11はロックされたままである。
【0025】
よって、主脱進機D2のこの2つの実施形態が実質的に同じ利点を提供し、かつ、2つの共振子R1及びR2に対して単一の主脱進機D2を使用する、即ち、2つの共振子は同一の主エネルギー源B2を用いて主脱進機D2によって維持されることは明らかである。
【0026】
上記2つの実施形態の変形形態によると、第2の共振子R2はまた、第2の脱進機D3を介して、副歯車列T3、副エネルギー源B3に接続されている。実際、副共振子R2を主脱進機D2の外で維持する必要が生じた場合、第2の脱進機D3(好ましくはSwissレバー脱進機)が副共振子R2を維持する。よって、副共振子R2の各振動において、副共振子は、副歯車列T3を介して副エネルギー源B3によって(又は代替として、歯車を用いて主エネルギー源B2によって)、動力を供給される。
【0027】
副共振子R2を主脱進機D2の外で維持する必要があるこの変形形態の、特定の代替形態が、図1に示されている。この代替形態において、時計1は、主脱進機D2を選択的にロックする手段Cを含み、これは、該選択的ロック手段を解放することによって、第1の共振子R1を用いて時間を計測するためのものである。よって、構造的に、主共振子R1がクロノグラフデバイスになり、即ち主共振子R1は期間の計測中しか動作せず、副共振子R2が基本ムーブメントである、即ち副共振子R2は常に動作することは明らかである。当然、この代替形態において、副共振子R2は好ましくは良好な等時性を有し、上記選択的ロック手段Cの解放の後の適切な表示が可能となる。
【0028】
本発明の利点は、主脱進機D2の第1の実施形態の変形形態から示された。共振子の弾性定数をkj、慣性をmjとすると、その発振周波数は以下の通りである。
【0029】
【数1】

【0030】
定常振幅Ajに関して、共振子の機械的エネルギーjは、以下の通りである。
【0031】
【数2】

【0032】
各発振における共振子のエネルギー損失jは、以下の通りであり、共振子の性質係数Qj(これは粘性摩擦に関して、周波数とともに増大する)に依存する。
【0033】
【数3】

【0034】
脱進機は、同一のエネルギー量を供給しなければならない。共振子に適用されるトルクが所与の角度θjにわたって一定である場合、維持エネルギーは以下の通りである。
【0035】
【数4】

【0036】
共振子の周波数を増大させることで性質係数Qjは増加し、これは時間調整の向上をもたらす。共振子のエネルギーが一定の場合、損失は減少し、維持エネルギーもまた減少する。エネルギー伝達角度を無期限に減少させることはできないため、維持トルクを減少させなければならない。
【0037】
その上、開始に必要な条件は、維持トルクが共振子の弾性戻りトルクを、その出口角において超えることである。
【0038】
【数5】

【0039】
これは、共振子の自動開始特性を維持したまま、また同時に、外的妨害に対する安定性が低下している共振子の機械的エネルギーを減少させることなく、維持トルクを無期限に減少させることはできないことを意味する。
【0040】
また、周波数の増大と維持トルクの減少は、静止点における、即ち、一連のガンギ車の加速が遅い間で、維持が進度誤差をもたらさない瞬間における、より高い共振子速度(v=2πfA、(6))をもたらすということも認識しなければならない。よって、脱進機が共振子を捕らえられないことによって脱進機の効率が低下するのが観察される。よって、一連のガンギ車は、維持に利用可能な時間の間、共振子のスピードに着いていかなければならない、ということは明らかである。
【0041】
【数6】

【0042】
ここでmechは、脱進機の等価慣性である。
【0043】
最後に、周波数及び共振子のエネルギーが増大する場合、パワーリザーブは必然的に減少するだろう。なぜなら、脱進機が共振子をより頻繁に維持しなければならず、その各場合においてより大きなエネルギーが必要であるからである。
【0044】
よって、定量的に、周波数fが10Hz、慣性mが2 mg・cm2、弾性係数kが0.79μNm・rad-1、性質係数Qが600である通常の共振子について、維持エネルギーEechは実質的に25nJである。従って、関係式(4)によれば、維持トルクCechは、50°の維持角度θjに対して実質的に28nNmである。関係式(5)によると項k・qj / 2が維持トルクEechより大きいため、このシステムは自動開始しない。
【0045】
その一方、静止点を通過する共振子に対応する維持に利用可能な周期は、40°のdtech、即ち、関係式(6)によると、280°の振幅Aに対して2.3ミリ秒にまで減少する。一連のガンギ車の十分な加速を、このような低い維持トルクで達成するために、関係式(7)によると、一連の維持ホイールの慣性を、ほぼ2.10-3mg・cm2の等価慣性にまで相当削減しなければならない。
【0046】
同じタイプの共振子を本発明による脱進機D2で維持する場合、周波数f2が1Hzだと、各維持機能において補償されることになる損失エネルギーは20倍高くなる。同様に、維持角度θjが50°だと、維持トルクCechは20倍高い約0.7μNmとなり、自己開始システムは関係式(5)に合う。
【0047】
同様に、一連の維持ホイールの加速は20倍に増大し、効率は自由に最適化でき、制約は幾何学的及び摩擦学的なものだけで、力学的なもの及びエネルギー平衡に関する制約はもはや無い。結果として、効率が向上するため、パワーリザーブは必然的に向上する。
【0048】
本発明の時計の利点を論証するために、連結した運動方程式を数値的に解いた。慣性m2が10 mg・cm2、周波数f2が1ヘルツ、及び性質係数Q2が150の副共振子R2について考察した。また、主共振子R1は9.6μJの機械的エネルギーを有し、副共振子R2は0.5μJのエネルギーを有する。
【0049】
図5は、2つの共振子R1及びR2の開始のシミュレーションを示す。高い周波数の主共振子R1は、約50秒後に、その静止周波数に戻る。低い周波数の副共振子R2は、その定常振幅によりゆっくりと戻ることに留意されたい。しかし、これは有意な影響を及ぼすものではない。なぜなら、主共振子R1へのエネルギーの伝達を調整する機能は、副共振子R2が数十度だけ元に戻ればすぐに完全に運転可能となるからである。結果として、時計はうまく自動開始でき、また、主共振子R1に関する定常振幅が10ヘルツ以上であっても、ほぼこの定常振幅で安定化される。
【0050】
図6は、2つの共振子R1及びR2が安定化されている時に時計に及ぼされる妨害Pのシミュレーションを示す。0.1 mJの妨害Pは、モーメントt=0の時に、ガウス形20ミリ秒のガウス幅を有する50rad・s-2の瞬間角度加速によって発生する。共振子R1及びR2は、妨害Pの前後において、いかなる有意な位相差も生じなかったことに留意すべきである。
【0051】
更に、図7は、2つの共振子R1及びR2が安定化されている時に時計に及ぼされる、同じ妨害Pのシミュレーションを示す。今回は、単一の共振子Rxの速度に対して、各共振子の速度を測定する。本発明による脱進機D2の存在により、単一の共振子Rxと比較して進度誤差が増幅されていないことがわかる。従って、主共振子R1への直接的影響、及び主共振子R1の維持による共振子R2への間接的影響は、互いに部分的に補償し合っていることが明らかである。
【0052】
結果として、本発明の時計の所与の妨害Pに対する反応は、同等の、即ち同じエネルギーEx、同じ周波数fx及び同じ振幅Axを有する単一の共振子Rxの反応と同一であるか、又はそれよりも良好でありさえする。更に、有利には、副共振子R2は、特に二重の維持に起因する進度誤差を回避することにより、維持機能のトリッピング防止システムを形成する。
【0053】
上で選択した実施形態、変形形態及び/又は代替形態によると、本発明による時計1は3つのタイプの表示デバイスA1、A2及び/又はA3を提案する。
【0054】
第1の表示タイプは、主共振子R1によって制御される配分機構D1に固定されたディスプレイT1のための歯車列に接続された表示エネルギー源B1を備える表示デバイスA1を含む。本発明によると、好ましくは、配分機構D1は、主共振子R1によって制御されるデテント9によって形成され、これによって、主共振子R1の各周期又は振動において、歯車列T1に接続されたホイール10を、第1の共振子R1に更なる維持トルクを供給することなく解放する。
【0055】
よって、表示デバイスA1は、例えばホイール10のムーブメントを、例えば最高1/20秒、又は最高1/100秒など、向上した分解能で表示することにより、主共振子R1の高い周波数を生かしていることは明らかである。結果として、上述の2つの実施形態及び/又は変形形態において、表示デバイスA1は、向上した分解能で時間を表示することができる。更に、上述の代替形態の場合、表示デバイスA1は、計測した時間を向上した分解能で表示することができる。
【0056】
第2の表示タイプは、副歯車列T2に接続された時刻表示デバイスA2を含む。従って、この表示は、主共振子R1が維持されているのと同時に起こることが明らかである。この場合、分解能を向上させるためでなく、安定性を向上させるために、高い周波数が使われる。また、この構成は、どの実施形態を使用するかに関わらず、デテント脱進機D2のための非常に効率的なトリッピング防止システムを形成することも明らかである。
【0057】
最後に、第3の表示タイプは、副歯車列T3に接続された時刻表示デバイスA3を含む。この第3のタイプは完全に、主共振子R1が時間計測のためだけに使用される上述の代替形態のためのものである。実際、副共振子R2が常に動作している唯一のものであるため、時刻表示は副歯車列T3を用いてしか行うことができない。
【0058】
以上の説明に鑑みて、本発明により、共振子の維持周波数が、共振子の周波数より小さい値へと減少することは明らかである。また、本発明により、特に脱進機の機能の効率を向上させることによって、高い周波数のムーブメントが、そのパワーリザーブを保護しながら確実に自動開始できる。最後に、本発明により、時計の外部からの妨害によって発生する進度誤差が実質的に減少する。
【0059】
当然ながら、本発明は上に説明した例に限定されるものではなく、当業者が思いつくであろう様々な変形形態及び代替形態が可能である。特に、本発明の精神から逸脱することなく、他のタイプの共振子及び/又は脱進機が想定可能である。例えば、いくつかの機械的構成要素は、有利には、磁性構成要素で置き換えたり、及び/又は、機能を補助したりすることもできる。
【0060】
最後に、時計は単一のエネルギー源を備えていてもよく、即ち、装置に装着された単一のエネルギー源がそれぞれ上述のエネルギー源sB1及び/又はB2及び/又はB3を形成してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の周波数(f1)で発振し、主歯車列(T2)によって主脱進機(D2)を介して主エネルギー源(B2)に接続された第1の共振子(R1)と、
前記第1の周波数(f1)と有理数である係数(N、N’)との積である第2の周波数(f2)で発振する第2の共振子(R2)と、を備える時計(1)であって、
前記第2の共振子(R2)は前記主脱進機(D2)とも協働し、それによって、前記第2の共振子(R2)が発振する時のみ、前記主脱進機(D2)を解放して前記第1の共振子(R1)を維持することを特徴とする、時計(1)。
【請求項2】
前記主脱進機(D2)はデテント脱進機であり、前記第1の共振子(R1)によって制御される第1のデテント(5)及び前記第2の共振子(R2)によって制御される第2のデテント(7)と協働する、単一のガンギ車(3)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の時計(1)。
【請求項3】
前記主脱進機(D2)はデテント脱進機であり、前記第1の共振子(R1)によって制御される第1のデテント(13)と協働する第1のガンギ車(11)と、前記第2の共振子(R2)によって制御される第2のデテント(17)と協働する第2のガンギ車(15)と、を備え、前記第1及び第2のガンギ車(11、15)は互いに噛み合っていることを特徴とする、請求項1に記載の時計(1)。
【請求項4】
前記第2の共振子(R2)はまた、副歯車列(T3)によって第2の脱進機(D3)を介して副エネルギー源(B3)に接続されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の時計(1)。
【請求項5】
前記第2の脱進機(D3)は、Swissレバー脱進機であることを特徴とする、請求項4に記載の時計(1)。
【請求項6】
前記主共振子(R1)によって制御されるデテント(9)によって形成された配分機構(D1)に固定された表示部のための歯車列(T1)に接続された表示エネルギー源(B1)を備える時間表示デバイス(A1)を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の時計(1)。
【請求項7】
前記主歯車列(T2)に接続された時間表示デバイス(A2)を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の時計(1)。
【請求項8】
前記主脱進機(D2)を選択的にロックするための手段(C)を含み、前記選択的ロック手段(C)を解放することによって、前記第1の共振子(R1)を使用する時間を計測することを特徴とする、請求項4又は5に記載の時計(1)。
【請求項9】
計測した前記時間を表示するためのデバイス(A1)を含み、前記主共振子(R1)によって制御される配分機構(D1)に固定された前記表示部のための歯車列(T1)に接続された表示エネルギー源(B1)を備えることを特徴とする、請求項8に記載の時計(1)。
【請求項10】
前記副歯車列(T3)に接続された時間表示デバイス(A3)を含むことを特徴とする、請求項8又は9に記載の時計(1)。
【請求項11】
単一のエネルギー源(B1、B2、B3)を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の時計(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−64739(P2013−64739A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−203956(P2012−203956)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【出願人】(506425538)ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド (46)