説明

不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィン及びその製造法

【課題】 プラスチック材料のみならず異種材料との接着性に優れ、広範な有用性を有する不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを提供する。
【解決手段】 140℃に加熱したキシレンに不溶のゲルを含むがその含有量は0.02重量%未満であり、かつ、不飽和カルボン酸のグラフト量が0.1〜10重量%であることを特徴とする不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィン、及びその製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィン及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは機械強度、透明性、成形性、衛生性等に優れていることから広範な分野で使用されているが、積層体としての利用においてはポリオレフィンが無極性のポリマーであるため種々の極性物質との接着性が低いという材料固有の問題を有している。この問題点を改良するため、これまで種々の改良が試みられてきているが、その接着性は充分とはいえず、接着性を更に改良するために、例えば不飽和カルボン酸、又はその誘導体をグラフトした変性ポリオレフィン樹脂が提案されている。
【0003】
例として、ポリオレフィンを溶剤に溶解させて不飽和カルボン酸をグラフト化することにより不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを製造することが知られており、この溶剤としては脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素が用いられ、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素が挙げられている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、これらの芳香族炭化水素は比較的沸点が高く、反応温度も160℃と高くエネルギーコストが高くなるばかりでなく、回収工程においても高コストになる恐れがある。一方、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素はポリオレフィンの溶解性が充分とはいえず、溶解温度を高くする必要があり、エネルギーコストはやはり高いといえる。さらに、これらの反応によって得られた生成物は、熱安定性が悪く、しばしばゲル発生の問題が指摘されている。このためゲル発生が抑制された不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィン、及び上記の溶媒を使用しない新たな不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンの製造法が望まれていた。
【0005】
また、上記のようにして製造された酸変性ポリオレフィン樹脂組成物は、接着性の改良効果はあるが、接着性ポリマーに対する要求の高度化に伴い、依然として接着性の改良が求められている。
【0006】
一方、溶剤を用いない不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンの製造方法として、ポリオレフィンを溶融させた状態で不飽和カルボン酸をグラフト化する溶融法が一般に知られており、この溶融法では経済的理由により反応器を用いず押出機を使用した方法が一般に用いられ、例えば、ベント口を有する二軸押出機を使用した方法が挙げられている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、溶融法では押出機内の滞留時間が比較的短いため、グラフト反応時間を確保できないため、反応器を用いたグラフト反応に比べると、一般的に不飽和カルボン酸の反応量を上げることが困難であるばかりでなく、グラフト反応が局所的となるため、生成物の品質は不均一となりやすいという本質的な欠点を有していた。このため、得られた生成物はゲルを含有しており、フィルムに加工した際にフィッシュアイを発生する等の改良すべき課題を有していた。また、反応に際し、樹脂を溶融させる必要があるため反応温度は例えば250℃といった高温となり、結果として不飽和カルボン酸の揮発・蒸発が起こるため、過剰の不飽和カルボン酸を仕込む必要があるばかりか、前述の反応時間の問題から、この方法で得られた不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンには充分な量の不飽和カルボン酸がグラフトされず、例えば金属材料や無機物質など異種材料との接着性が低いという問題を有していた。これらの背景から、接着性が改善された不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを得るための製造法、及び異種材料との接着性に優れ、ゲルを含有しない又はゲルの含有量が少ない不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンフィルムが望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開平9−3138号公報
【特許文献2】特開2002−187914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的はプラスチック材料のみならず異種材料との接着性に優れ、広範な有用性を有する不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至ったものである。即ち、本発明は、140℃に加熱したキシレンに不溶のゲルを含むがその含有量は0.02重量%未満であり、かつ、不飽和カルボン酸のグラフト量が0.1〜10重量%であることを特徴とする不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィン、及びその製造法である。
【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンは、140℃に加熱したキシレンに不溶のゲルを含むがその含有量は0.02重量%未満である。140℃に加熱したキシレンに不溶のゲルを含まないことが良いのであるが、140℃に加熱したキシレンに不溶のゲルを含んでいても、その含有量が0.02重量%未満の場合には、異種材料との接着性に優れるものである。140℃に加熱したキシレンに不溶のゲルの含有量が0.02重量%以上であるとフィルム化した際の製品外観を大きく損なうばかりでなく、ゲルの量によっては接着剤として接着強度、耐久性等の力学特性が低下し、剥離する等の問題が生ずる。
【0013】
しかも、本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンは、不飽和カルボン酸のグラフト量は0.1〜10重量%であり、好ましくは0.5〜8重量%である。0.1重量%未満であると充分な接着性がなく実用性に欠ける。また、10重量%を超える場合、ポリマーの溶融粘度が高く成形性が損なわれる他、接着層としての靭性にも劣るため実用性に欠ける。
【0014】
本発明における不飽和カルボン酸としては、例えば、不飽和モノカルボン酸類及びその誘導体、不飽和ジカルボン酸類及びその誘導体、不飽和ジカルボン酸の酸無水物類及びその誘導体等が挙げられる。不飽和モノカルボン酸類としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられ、不飽和モノカルボン酸類の誘導体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸類としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等が挙げられ、不飽和ジカルボン酸類の誘導体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸の酸無水物類及びその誘導体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらは単独又は2種類以上併用しても良い。特に接着性の観点から無水マレイン酸単独又は無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸エステル類の組み合わせが好ましい。
【0015】
本発明におけるポリオレフィンとしては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、超低密度ポリエチレン(V−LDPE)等が挙げられる。線状低密度ポリエチレン(L−LDPE)としては、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体などのエチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。その他、エチレン−4−メチルペンテン−1樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)およびその鹸化物、エチレン−ビニルアルコール樹脂(EVOH)、エチレン−プロピレン共重合体(EPM)等のエチレン系コポリマー、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンブロックコポリマー、ポリプロピレンランダムコポリマー等が挙げられ、さらに、これらのポリオレフィンの塩素化物も同様に用いることができる。
【0016】
これらのポリオレフィンを合成するための重合方法は通常知られている方法でよく、高圧ラジカル重合、中低圧重合、溶液重合、スラリー重合等が挙げられ、使用触媒は過酸化物系触媒、チーグラー−ナッタ触媒、メタロセン触媒が挙げられ、これらの触媒で重合されたポリオレフィンを使用することができる。
【0017】
本発明の原料となるポリオレフィンの分子量の目安となるメルトマスフローレート(MFR)は特に制限されないが、溶剤への溶解性を加温時でも良好とし、また、最終的なグラフト反応物の材料強度を維持するため、好ましくは0.01〜50000(g/10分)であり、さらに好ましくは0.01〜100(g/10分)である。
【0018】
ポリオレフィンの塩素化方法は公知であり、例えば、四塩化炭素等のハロゲン系溶剤に溶解させた溶液を、紫外線照射下で塩素含有ガスと接触させてポリオレフィンを塩素化する方法(例えば、特開昭47−8643号公報)、ポリオレフィンの粉末を水に懸濁させたスラリー中に塩素ガスを吹き込んでオレフィンを塩素化する方法(例えば、特公昭36−4745号公報)、溶剤を使用せず、ポリオレフィンを、その融点以上に加熱し、溶融させた状態で塩素ガスと接触させることで、ラジカル発生剤、紫外線照射等を用いずにポリオレフィンを塩素化する方法(例えば、特開平3−199206号公報)が開示されている。本発明で用いる塩素化したポリオレフィンはこれらの何れの方法でも製造することができ、塩素化ポリオレフィンの製造方法には何等制限はない。
【0019】
本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンの製造法は、溶剤中でポリオレフィンに不飽和カルボン酸をグラフト反応するに際し、溶剤として1,1,2−トリクロロエタンに不純物として含まれるアルコール化合物及び/又はエポキシ化合物を除去した1,1,2−トリクロロエタンを用いるものである。
【0020】
不飽和カルボン酸のグラフト化反応は、ラジカル発生剤を触媒として、1,1,2−トリクロロエタンに不純物として含まれるアルコール化合物及び/又はエポキシ化合物を除去した1,1,2−トリクロロエタン中でポリオレフィンと不飽和カルボン酸とを反応させることにより行われる。
【0021】
さらに、本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンの製造法は、反応温度が40〜130℃である。反応温度が40℃未満では十分な量の不飽和カルボン酸がグラフトされず、品質上劣ったものになるため好ましくなく、反応温度が130℃を超えるとゲルの発生による品質低下、及びエネルギーコストの両面から好ましくない。反応温度は好ましくは60〜130℃である。
【0022】
反応圧力は、高圧反応においては特殊な反応装置が必要となる上、反応操作も煩雑となるため製造コストの上昇につながるため、1MPa以下である。好ましくは0から0.7MPaである。本反応においては反応温度、及び、反応させるポリオレフィンの種類によっては均一な溶液状態からけん濁状態でグラフト反応が進行するが、できる限り均一な溶液状態でグラフト反応を進めるため、ポリオレフィンの種類によって反応温度を適宜選択することが好ましい。
【0023】
ラジカル発生剤としては、アゾ系化合物又は有機過酸化物等が用いられる。アゾ系化合物としては、α,α―アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化t−ブチル、過安息香酸t−ブチル等が挙げられる。
【0024】
アゾ系化合物又は有機過酸化物の添加量は特に制限されないが、不飽和カルボン酸のグラフト量を維持し、また、樹脂の溶融粘度の増加を防止することで成形性の低下を防止して製品品質を維持するため、ポリオレフィン100重量部に対して好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.05〜3重量部である。
【0025】
本発明の製造法で用いられる不飽和カルボン酸、ポリオレフィンは、先に述べた通りである。
【0026】
グラフト反応の終了後、必要に応じて安定剤を添加する。安定剤にはグラフト反応時に発生するラジカルを消滅させ、グラフト反応を停止させるために添加し、通常ポリオレフィンに添加する酸化防止剤を用いるのが好ましく、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、これらの複合系酸化防止剤が好適に用いられる。
【0027】
グラフト反応に使用する反応容器は通常回分式(バッチ式)反応に使用する容器を用いることができ、上記反応温度、反応圧力に耐えられるものであれば差し支えなく、材質は通常ステンレス製が用いられ、必要に応じて内面がガラスライニング、フッ素コーティング処理を施したものも使用できる。
【0028】
グラフト反応で生成した不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを溶剤と分離する方法には、水蒸気蒸留、ベント付き押出機等、通常用いられる方法により両者が分離される。
【0029】
本発明で反応溶剤として用いる1,1,2−トリクロロエタンは、1,1,2−トリクロロエタンよりアルコール化合物及び/又はエポキシ化合物を除去して反応を行うことが重要である。市販されている1,1,2−トリクロロエタンは、しばしば0.5〜2.0重量%のアルコール化合物及び/又はエポキシ化合物を不純物として含有している。ここでいうアルコール化合物とは水酸基を有する化合物であり、例えば、エチルアルコールやブチルアルコール等が挙げられる。また、ここでいうエポキシ化合物とはエポキシ基を有する化合物であり、例えば、1,2−エポキシプロパンや1,2−エポキシブタン等が挙げられる。
【0030】
アルコール化合物及び/又はエポキシ化合物を不純物として含有する1,1,2−トリクロロエタンを溶剤として合成された不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンは淡黄色に着色しており、また熱安定性が悪く、ゲル発生の傾向が強い。即ち、フィルム用途に用いられた場合、色調、透明性に劣ることから着色しにくいという問題を有しており、また、ゲルはフィルム化に際してフィッシュアイを生じるため著しくフィルム表面外観を損なう結果、その商品価値がなくなる。接着剤の原料として用いる場合においても、ゲル成分が溶剤に溶解しないことから接着剤原料として事実上利用できないことになる。
【0031】
アルコール化合物及び/又はエポキシ化合物を除去した1,1,2−トリクロロエタンを溶剤として合成された不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンは無色透明であり、熱安定性が良好でゲルの発生が無く、プラスチック材料のみならず異種材料との接着性に優れた商業的に価値を有する不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンとなる。
【0032】
本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンは、先に述べたような原料ポリオレフィンの種類に従い、例えば、不飽和カルボン酸グラフトポリエチレン、不飽和カルボン酸グラフトエチレン・プロピレン共重合体、不飽和カルボン酸グラフトエチレン・ブテン共重合体、不飽和カルボン酸グラフトエチレン・ヘキセン共重合体、不飽和カルボン酸グラフトエチレン・酢酸ビニル共重合体、不飽和カルボン酸グラフトポリプロピレンなどが挙げられる。
【0033】
本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンには、他樹脂を配合することができる。他樹脂としては、例えば、グラフト反応が施されていない上記ポリオレフィン樹脂のみならず、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、ポリスチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン樹脂などのスチレン系樹脂、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸−メチルなどのアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテル−エーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリオキシメチレン樹脂(POM)、エポキシ樹脂、ポリウレタン、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、セルロース、石油樹脂などが挙げられる。必要に応じて、反応性の官能基、又は末端基を有する他の樹脂と本発明の不飽和カルボン酸基とを化学反応させることが可能であり、これら官能基間の物理的相互作用を利用したブレンドが可能である。さらにシランカップリング剤、チタンカップリング剤などのカップリング剤を第三成分として添加し他樹脂との相溶性を向上させる、又は接着性を向上させることも可能である。
【0034】
本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンには、エラストマー又はゴム成分を配合することができる。エラストマー又はゴム成分としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。また、熱可塑性エラストマー(TPE)としてはSBS、SIS等のスチレン系TPE(SBC)、ポリオレフィン系TPE(TPO)、ウレタン系TPE(TPU)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリマミド系エラストマー(TPA)、シリコーン系TPE、フッ素系TPEが例示される。
【0035】
本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンには、以下の各種添加剤を配合することができる。酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、これらの複合系酸化防止剤等が挙げられ、その他安定剤としては有機ホスファイト系安定剤、チオエーテル系安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。また、充填剤としては、例えば、球状フィラー、板状フィラー、繊維状フィラー等が挙げられる。さらに滑剤としては高級脂肪酸金属塩として例えばステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸などの高級脂肪酸のマグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩、カドミウム塩、亜鉛塩、鉛塩、さらにはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩等が挙げられる。その他の添加剤としては、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、天然油、合成油、ワックス、可塑剤、造核剤、重金属不活性化剤等が挙げられる。
【0036】
本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンと他樹脂、エラストマー又はゴム成分、各種添加剤の混合には、通常用いられる混練方法が使用でき、単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー型インターナルミキサー、バンバリーミキサー、ロール、ニーダー、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、タンブラーミキサーなどが挙げられる。
【0037】
本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンは公知の方法によりフィルムに成形することが可能であり、フィルム成形法としては溶融押出法の他、溶液キャスト法を用いることができる。溶融成形方法を用いる場合、通常のポリオレフィン樹脂を加工する成形方法を用いることができ、インフレーションフィルム成形、キャスト成形、押出ラミネーション成形、カレンダー成形、シート成形、繊維成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、被覆成形が挙げられる。各種フィルム成形においては、本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを少なくとも片側一層に使用した共押出成形や多層積層成形が可能である。一方、溶剤を用いたキャストフィルム成形も可能である。
【0038】
多層化の基材としては、ポリアミド、ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール樹脂などの樹脂製フィルムのみならず、紙、アルミ箔、ステンレス箔、銅箔などの金属箔、ガラスなどの異種素材との積層も可能である。
【0039】
溶液キャスト法を用いる場合、例えば、本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを1,1,2−トリクロロエタン、クロロフォルム、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解させた溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上にキャストし、溶剤を揮発除去することにより成膜することができる。
【0040】
本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンの単層フィルム、または単層シートを他の樹脂、又は無機、金属材料を含む他の素材と積層させた多層フィルム、多層シート、多層押出ラミネーション成形体、多層ブロー容器、多層2色成形体、多層異形押出成形体、金属部材とのインサトート射出成形体などを製造することが可能である。具体的には、バリア層であるEVOHフィルムまたはシートを多層化した食品包装フィルム、食品容器、またはガソリンタンク、多層繊維、鋼管被覆、ステンレス鋼板、カラー鋼板、銅貼積層フィルム、銅線の表面接着剤、銅線被覆などに代表される金属素材の表面または内面を本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンでコーティングした被覆製品、又は内層に樹脂およびそれらの発泡体を有し表面が金属である多層成形体における表面金属層と内層樹脂層との中間接着層、無機ガラス同士の接着に用いる合わせガラス用中間フィルム、光学フィルムとガラスとの接着に用いる中間層フィルム、各種樹脂と無機充填材、ナノフィラーまたは顔料との親和性を高めた相溶化剤、塗料、インキなどが挙げられる。
【0041】
また、本発明の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンは、熱融着性フィルムとして用いることが可能であり、この熱融着性フィルムは各種熱可塑性樹脂と金属からなる積層体の中間接着層、又は絶縁性中間接着層として好適に利用できる。この用途においては本発明の樹脂をフィルム状に成形し、熱融着性フィルムとした上で用いることができる。接着可能な樹脂としては、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルに代表される縮合系ポリマー、EVOH等のラジカル重合により誘導されるポリマー、メタロセン触媒、チーグラー触媒等の配位重合により得られる各種ポリオレフィン等が例示され、ガラス、金属等を基材層として形成される各種積層体の中間接着層として好適に使用できる。更に必要に応じて金属素材、樹脂素材から形成された多層積層板上、又は多層積層フィルム上に本発明の樹脂を熱融着法により更に積層することにより簡便に金属素材、又は各種樹脂素材上へアッセンブル可能な多層積層板、又は多層積層フィルムを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0042】
本発明により得られる不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンは、ゲルの含有量が少なく、かつ、接着性が向上しており金属材料を含む広範な材料を簡便かつ強固に熱接着可能な特性を有していることから、産業上、極めて広い範囲に応用できる。さらに、エネルギーコストの観点から芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素を使用せず、異種材料との接着性を向上させた低コストの不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンの製造方法を提供するものである。
【実施例】
【0043】
次に実施例にもとづき本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明の理解を助けるための例であって本発明はこれらの実施例により何等の制限を受けるものではない。
【0044】
なお、これらの実施例で用いた値は以下の測定法に準拠して得られたものである。
【0045】
<原料>
本発明の実施例には下記の原料を使用した。
【0046】
(1)EVA
エチレン・酢酸ビニル共重合体:東ソー株式会社製 ウルトラセン(登録商標)751(酢酸ビニル含有量=28重量%、MFR=5.7g/10分、密度=952kg/m
(2)L−LDPE
エチレン・ヘキセン−1共重合体:東ソー株式会社製 ニポロン−Z(登録商標)ZF230(MFR=2.0g/10分、密度=920kg/m
(3)PP
ホモポリプロピレン:チッソ石油化学株式会社製 チッソポリプロ XF1811(MFR=2.5g/10分、密度=900kg/m
(4)HDPE
高密度ポリエチレン:東ソー株式会社製 ニポロンハード(登録商標)4000(MFR=5.0g/10分、密度=965kg/m
(5)ベンゾイルパーオキサイド(BPO)
日本油脂株式会社製 ナイパーB
(6)ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(DBPIB)
日本油脂株式会社製 パーブチルP
(7)2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)
株式会社エーピーアイコーポレーション ヨシノックスBHT
(8)無水マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸ブチル、1,1,2−トリクロロエタン、キシレン、メタノール、ジメチルホルムアミド、BHT、26%硫酸水溶液、チモールブルー指示薬、N/20のKOH溶液は関東化学株式会社製の1級試薬を用いた。
【0047】
<接着試験>
接着試験には下記の樹脂、金属を用いた。
【0048】
(1)ポリイミドフィルム
宇部興産株式会社製 UPILEX(登録商標)755
(2)ポリカーボネートフィルム
帝人化成株式会社製 パンライト(登録商標)PC−2151
(3)ポリフェニレンサルファイド(PPS)
東ソー株式会社製 サスティール(登録商標)GS40
(4)銅板
株式会社ニラコ製 CU−113328 0.10m
(5)アルミニウム板
東洋アルミニウム株式会社製 番手:A1N30H−H18 厚み:100μm
<酸価>
ポリマーサンプル1gを秤量し、トルエン100mlに加熱溶解させた後、メタノール10ml、ジメチルホルムアミド10ml、水0.5mlを加える。引き続き、チモールブルー指示薬1mlを加え、N/20のKOH溶液(n−プロパノール/ベンゼン溶液)で滴定し、青紫色が1分以上持続する点を終点として算出した。
【0049】
<メルトマスフローレート(MFR)>
メルトマスフローレート(MFR)はポリエチレンはJISK6922−1に、エチレン酢酸ビニル共重合体はJISK6924−1、ポリプロピレンはJISK6921−2にそれぞれ準拠して、宝工業(株)製のメルトインデクサーL244を用いて、測定温度190℃、荷重2.16kgfの条件で測定した。
【0050】
<ゲル分率の測定>
ポリマー50mgをキシレン50mlに添加し、140℃で12時間溶解させた後、この溶液を200メッシュのステンレス製のメッシュ(75μm)で濾過して金網上の未溶融分を105℃、5時間乾燥して算出した。
【0051】
<イエローインデックス(YI)の測定>
JIS K7105(1981年版)に準拠して、(株)神藤金属工業所製 復動式圧縮成形機WFA−50を用いて加熱温度150℃、圧力10MPa、10分間、冷却温度30℃、圧力10MPa、5分間の条件でプレスした厚さ100μmのフィルムのYIをスガ試験機(株)製 SMカラーコンピューターを用いて測定した。
【0052】
<1,1,2−トリクロロエタン中の1−ブタノール及び1,2−エポキシブタン量> 1,1,2−トリクロロエタン0.5μlをマイクロシリンジにより採取し、GCキャピラリーカラムDB−1301(アジレント・テクノロジーズ社製長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を取り付けたガスクロマトグラフ装置(島津製作所製GC−14A)にて、以下の条件で測定した。
【0053】
インジェクション温度:40℃
インジェクション温度保持時間:4分
昇温プログラム1:5℃/分(40℃〜90℃)
昇温プログラム2:10℃/分(90℃〜190℃)
最終温度:190℃
最終温度保持時間:20分
キャリアガス:ヘリウム
<接着試験>
プレス成形機として(株)神藤金属工業所製 復動式圧縮成形機WFA−50を用いて加熱温度150℃、圧力10MPa、10分間、冷却温度30℃、圧力10MPa、5分間のプレス条件にて厚さ100μmのプレスフィルムを得た。該100μmの厚みに成形したフィルムと被着体をテスター産業株式会社製ヒートシールテスターTP−701を用いて180℃、60秒、0.2MPaの条件で加熱接着した。引張試験機として(株)オリエンテック製テンシロン万能試験機RTE−1210を用いて引張速度(剥離速度)300mm/分の条件にてT型剥離試験により、その接着強度を評価した。
【0054】
実施例1
関東化学株式会社製の1,1,2−トリクロロエタン5000重量部と26%硫酸水溶液2500重量部とを下口付き10リッターフラスコに入れ激しく撹拌し、静置後下層の有機層を抜き出した。次に抜き出した有機層と蒸留水5000重量部とを下口付き10リッターフラスコに入れ激しく撹拌し、静置後下層の有機層を抜き出す操作を3回繰り返すことによって不純物の1−ブタノール及び1,2−エポキシブタンを除いた。さらに抜き出した有機層にモレキュラーシーブス4Aを150重量部添加しスターラーで撹拌することによって脱水した。
【0055】
2リッターのガラス製反応容器に上記の操作により1−ブタノール及び1,2−エポキシブタンを除去した1,1,2−トリクロロエタン1250重量部、EVA100重量部、並びに無水マレイン酸2.0重量部を仕込んだ。反応器を80℃に昇温し、その後80℃で3時間保持することによってEVAを均一に溶解した。またこの間、反応器に5リッター/分の流速で窒素ガスを導入し、反応器に混入した空気を排除した。次に反応器を80℃から110℃に昇温し、グラフト反応の触媒(ラジカル発生剤)として1.0重量部のBPOを1−ブタノール及び1,2−エポキシブタンを除去した1,1,2−トリクロロエタン50重量部に溶解した触媒溶液を反応器へ一括投入しグラフト反応を行った。続いて同温度で2時間反応を継続した。反応器の圧力は反応を通して1MPa以下に保った。反応の終了後、常圧に戻し反応器の温度を70℃まで低下させた。その後、安定剤として0.03重量部のBHTを添加した後、この溶液をメタノールにより再沈させて、生成物としての不飽和カルボン酸グラフトEVAを溶剤から分離した。
【0056】
生成物は、分析の結果1.8重量%の不飽和カルボン酸を有することがわかった。ゲルは0.010重量%であり、YIは3であり色相は良好であった。また、銅、アルミニウム、ポリイミド、ポリカーボネート、PPSとの接着強度はそれぞれ48、55、33、30、30N/15mmであり、種々の被着体に対し強固に接着した。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

実施例2
ラジカル発生剤の添加量を0.16重量部に変えた以外は実施例1と同一の方法で反応を行い、続いて生成物を分離した。
【0058】
生成物は、分析の結果1.5重量%の不飽和カルボン酸を有することがわかった。ゲルは0.016重量%であり、YIは2であり色相は良好であった。また、銅、アルミニウム、ポリイミド、ポリカーボネート、PPSとの接着強度はそれぞれ38、48、38、37、40N/15mmであり、種々の被着体に対し強固に接着した。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表1に示す。
【0059】
実施例3
無水マレイン酸の添加量を9.7重量部に、BPOの添加量を3.0重量部に変えた以外は実施例1と同一の方法で反応を行い、続いて生成物を分離した。
【0060】
生成物は、分析の結果3.0重量%の不飽和カルボン酸を有することがわかった。ゲルは0.011重量%であり、YIは4であり色相は良好であった。また、銅、アルミニウム、ポリイミド、ポリカーボネート、PPSとの接着強度はそれぞれ60、64、40、38、38N/15mmであり、種々の被着体に対し強固に接着した。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表1に示す。
【0061】
実施例4
無水マレイン酸の添加量を20重量部に、1,1,2−トリクロロエタンの添加量を2000重量部に、BPOの添加量を1.0重量部に変えた以外は実施例1と同一の方法で反応を行い、続いて生成物を分離した。
【0062】
生成物は、分析の結果1.8重量%の不飽和カルボン酸を有することがわかった。ゲルは0.014重量%であり、YIは4であり色相は良好であった。また、銅、アルミニウム、ポリイミド、ポリカーボネート、PPSとの接着強度はそれぞれ70、78、42、43、42N/15mmであり、種々の被着体に対し強固に接着した。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表1に示す。
【0063】
実施例5〜7
実施例1とベースポリマーをEVAからL−LDPE、HDPE、PPに変え、さらに、無水マレイン酸の添加量を30重量部、1,1,2−トリクロロエタンの添加量を2200重量部に変えた(実施例6)以外は実施例1と同一の方法で反応を行い、続いて生成物を分離した。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表1に示す。ゲルは含有するがその含有量は0.02重量%未満であり、色相、接着強度ともに優れていた。
【0064】
実施例8〜11
1,1,2−トリクロロエタン、不飽和カルボン酸、BPOの添加量を変えた以外は、実施例4〜7と同様の手法により反応を行った。生成物を分離し、ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表2に示す。ゲルは含有するがその含有量は0.02重量%未満であり、色相、接着強度ともに優れていた。
【0065】
【表2】

実施例12〜15
原料のポリオレフィンとしてEVA、L−LDPE、PP、HDPEを用い、無水マレイン酸をアクリル酸へ変え、またBPOの添加量を変えた以外は実施例1と同様の手法により反応を行った。生成物を分離し、ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表2に示す。ゲルは含有するがその含有量は0.02重量%未満であり、色相、接着強度ともに優れていた。
【0066】
実施例16〜17
無水マレイン酸を無水マレイン酸/アクリル酸ブチル混合物へ変え、BPOの添加量を変えた以外は、実施例1と同様の手法により反応を行った。生成物を分離し、ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表2に示す。ゲルは含有するがその含有量は0.02重量%未満であり、色相、接着強度ともに優れていた。
【0067】
比較例1
EVA100重量部、無水マレイン酸4.0重量部、DBPIB0.03重量部をヘンシェルミキサーを用いて事前に均一に混合した状態で、二軸押出機(東洋精機製、ラボプラストミル L/D=25、φ=20mmに供給した。回転数30rpmの条件で、第1バレルを140℃、第2バレルを200℃、第3バレルを200℃で反応を行い、無水マレイン酸変性EVAを得た。
【0068】
生成物は、分析の結果、ゲルは0.1重量%存在し、YIも15と高く黄色度も高かった。また、銅、アルミニウム、ポリイミド、ポリカーボネート、PPSとの接着強度は実施例で得られたポリマーに対し明らかに劣っていた。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

比較例2
変性に用いた樹脂をEVAからL−LDPEに変えた以外は比較例1と同様の手法により無水マレイン酸変性L−LDPEを得た。
【0070】
生成物は、分析の結果、ゲルは0.08重量%存在し、YIも13と高く黄色度も高かった。また、銅、アルミニウム、ポリイミド、ポリカーボネート、PPSとの接着強度は実施例で得られたポリマーに対し明らかに劣っていた。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表3に示す。
【0071】
比較例3
変性に用いた樹脂をEVAからPPに変えた以外は比較例1と同様の手法により無水マレイン酸変性PPを得た。
【0072】
生成物は、分析の結果、ゲルは0.04重量%存在し、YIも11と高く黄色度も高かった。また、銅、アルミニウム、ポリイミド、ポリカーボネート、PPSとの接着強度は実施例で得られたポリマーに対し明らかに劣っていた。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表3に示す。
【0073】
比較例4
変性に用いた樹脂をEVAからHDPEに変えた以外は比較例1と同様の手法により無水マレイン酸変性HDPEを得た。
【0074】
生成物は、分析の結果、ゲルは0.06重量%存在し、YIも11と高く黄色度も高かった。また、銅、アルミニウム、ポリイミド、ポリカーボネート、PPSとの接着強度は実施例で得られたポリマーに対し明らかに劣っていた。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表3に示す。
【0075】
比較例5〜8
反応溶剤を1,1,2−トリクロロエタンからキシレンに変更し、さらに無水マレイン酸の添加量、及びBPOの添加量を変えた以外は実施例1と同様の手法により不飽和カルボン酸をグラフトしたポリマーを得た。色相に優れていたが、ベースポリマーに導入された不飽和カルボン酸量が少なく、さらに、ゲルが多く存在し、実施例で得られたポリマーに対し明らかに接着性に劣っていた。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表3に示す。
【0076】
比較例9〜12
無水マレイン酸をアクリル酸に変えた以外は比較例1〜4と同様の手法によりアクリル酸をグラフトしたポリマーを得た。生成物はゲルを多く含有しており、実施例により得られたポリマーに対し明らかに色相、接着性の両面で劣っていた。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表4に示す。
【0077】
【表4】

比較例13〜16
反応溶剤を1,1,2−トリクロロエタンからトルエンに変更し、さらに、無水マレイン酸を無水マレイン酸及びアクリル酸ブチルの混合物に変え、その添加量を変えた以外は実施例1〜4と同様の手法により不飽和カルボン酸をグラフトしたポリマーを得た。ベースポリマーに導入された不飽和カルボン酸量が少なく、さらに、ゲルが多く存在し、実施例で得られたポリマーに対し明らかに接着性に劣っていた。ゲル、色相、接着強度を測定した結果を表4に示す。
【0078】
比較例17
反応溶剤を精製した1,1,2−トリクロロエタンから、未精製の1,1,2−トリクロロエタンに変更した以外は実施例1と同様の手法によりEVAへ無水マレイン酸をグラフトした。得られたポリマーの分析結果、及び接着試験結果を表4に示す。生成物はゲルを含有しており、YI値も高く、着色が見られ、製品外観に劣っていた。
【0079】
比較例18
反応温度を110℃から35℃に下げた以外は実施例1と同様の手法によりEVAへ無水マレイン酸をグラフトした。反応温度が低く、EVAが完全に溶剤に溶解せず、反応溶液全体がゼリー状となり、均一反応を行うことができなかった。また、反応後の溶液はゼリー状で流動性が低く、ドラムドライヤーで処理することができなかったため、メタノールに沈殿させた後、メタノール線状、ろ過の後、40℃で一昼夜減圧乾燥してポリマーを単離した。得られたポリマーの分析結果、及び接着試験結果を表4に示す。接着強度に劣ったものであった。
【0080】
比較例19
反応温度を110℃から135℃に上げた以外は実施例1と同様の手法によりEVAへ無水マレイン酸をグラフトした。得られたポリマーの分析結果、及び接着試験結果を表4に示す。生成物はゲルを含有しており、YI値も高く、着色が見られ、製品外観に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
140℃に加熱したキシレンに不溶のゲルを含むがその含有量は0.02重量%未満であり、かつ、不飽和カルボン酸のグラフト量が0.1〜10重量%であることを特徴とする不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィン。
【請求項2】
溶剤中でポリオレフィンに不飽和カルボン酸をグラフト反応するに際し、溶剤として1,1,2−トリクロロエタンに不純物として含まれるアルコール化合物及び/又はエポキシ化合物を除去した1,1,2−トリクロロエタンを用い、かつ、反応温度が40〜130℃で、反応圧力が1MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンの製造法。
【請求項3】
請求項1に記載の不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンからなることを特徴とする熱融着性フィルム。

【公開番号】特開2010−18750(P2010−18750A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181970(P2008−181970)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】