説明

不飽和ポリエステル樹脂組成物及び繊維強化プラスチック成形体

【課題】人工大理石等に用いられるFRPの意匠性を向上させるための透明性の付与を、不飽和ポリエステル樹脂と無機充填剤の屈折率の差を考慮せずに、不飽和ポリエステル樹脂の特性を最大限に生かすことができる意匠性に優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物と、それを用いたFRP成形体を提供する。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤、及び無機充填剤を必須の成分とする不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、無機充填剤の平均粒径が0.2μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂組成物及びその不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて成形した繊維強化プラスチック成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、注型法等により成形される人工大理石は、その高い意匠性から、浴槽、洗面化粧台、カウンター(例えば、キッチンカウンター)、浴槽等に多く使用されている。これらは、通常、強化繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて加熱硬化させた繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)(以下、FRPと略称する)により成形されている。
【0003】
これらの成形体に用いる熱硬化性樹脂組成物は、通常、樹脂、無機充填剤、柄材、着色剤等から構成され、近年では、より高い意匠性が求められている。そこで、より意匠性を高める方法として、樹脂と無機充填剤の屈折率を合わせて成形体に透明性を付与することにより、柄材による効果を現出するものが数多く提案されている。
【0004】
それらの中でも、樹脂の硬化後の屈折率が約1.57であるビニルエステル系樹脂と、屈折率が1.57の無機充填剤である水酸化アルミニウムとを組み合わせて使用して透明性を高めたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
このものは、人工大理石として用いるものであり、樹脂硬化物自体の光線透過率は90%前後と優れているのに対し、これを人工大理石として用いるFRP成形体とした場合には、光線透過率が10%前後となっているのが現状である。
【0006】
また、シートモールディングコンパウンド(Sheet Molding Compounds)(以下、SMCと略称する)、バルクモールディングコンパウンド(Bulk Molding Compounds)(以下、BMCと略称する)等から作製されるFRP成形体は、耐水性や低生産コスト等を要求される部位に使用されることが多く、そのため無機充填剤として、炭酸カルシウムや、水酸化アルミニウムが多く用いられる。通常、SMC、BMC等には、樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂が用いられるが、不飽和ポリエステル樹脂の屈折率と差のある、炭酸カルシウムや水酸化アルミニウム等の無機充填剤を用いた場合、着色剤が添加されていない状況でも光線透過率が5%以下となっているのが現状であり、さらに低収縮剤等の添加により、部分的な白濁が色ムラとなって生じるために、着色剤で外観を隠蔽させることが一般的となっている。
【0007】
このような状況から、不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いた、透明性を有する意匠性に優れたFRP成形体が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−298377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、人工大理石等に用いられるFRP成形体の意匠性を向上させるための透明性の付与を、不飽和ポリエステル樹脂と無機充填剤の屈折率の差を考慮せずに、不飽和ポリエステル樹脂の特性を最大限に生かすことができる意匠性に優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物と、それを用いたFRP成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0011】
第1に、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤、及び無機充填剤を必須の成分とする不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、無機充填剤の平均粒径が0.2μm以下である。
【0012】
第2に、上記第1の不飽和ポリエステル樹脂組成物において、無機充填剤が、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、及びアルミナから選ばれる少なくとも1種類である。
【0013】
第3に、上記第1または第2の不飽和ポリエステル樹脂組成物において、無機充填剤の表面が、脂肪酸及び/または、カップリング剤で表面処理されている。
【0014】
第4に、上記第1から第3のいずれかの不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて成形したFRP成形体である。
【発明の効果】
【0015】
上記第1の発明によれば、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤、及び無機充填剤を必須の成分とする不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、無機充填剤の平均粒径を、従来一般的に用いられる1〜15μmより極めて小さい0.2μm以下としたので、FRP成形体としたときに優れた透明性を得ることができる不飽和ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0016】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物において、無機充填剤が、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、及びアルミナから選ばれる少なくとも1種類と選択的に限定したので、より優れた透明性を得ることができる不飽和ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0017】
上記第3の発明によれば、上記第1または第2の発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物において、無機充填剤の表面が、脂肪酸及び/または、カップリング剤で表面処理されているので、無機充填剤の凝集を防止することができ、前記第1または第2の発明の効果をより確実に実現させることができる。
【0018】
上記第4の発明によれば、上記第1から第3のいずれかの発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて成形したFRP成形体であるので、透明性を有する不飽和ポリエステル樹脂の特性を最大限に生かすことができる高意匠性を有するFRP成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
本発明で用いられる不飽和ポリエステル樹脂は、脂肪族不飽和ポリカルボン酸、脂肪族飽和ポリカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸等の不飽和、飽和のポリカルボン酸とジオール、トリオール、テトラオール等の有機ポリオールとの縮合反応によって得られる熱硬化性樹脂である。
【0021】
脂肪族不飽和ポリカルボン酸としては、(無水)マレイン酸、フマル酸等、脂肪族飽和ポリカルボン酸としては、セパシン酸、(無水)コハク酸、アジピン酸等、芳香族ポリカルボン酸としては、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等を挙げることができる。
【0022】
有機ポリオールとしては、脂肪族ポリオール、芳香族ポリオールを用いることができる。
【0023】
脂肪族ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、トリメチレングリコール、グリセリン、水素化ビスフェノールA等を挙げることができる。
【0024】
芳香族ポリオールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールS等を挙げることができる。
【0025】
また、これらのポリカルボン酸、有機ポリオールは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0026】
本発明で不飽和ポリエステル樹脂を架橋重合させてFRP成形体にするために用いられる重合性単量体は、本発明の効果を損なわない範囲で、通常、不飽和ポリエステル樹脂に対して使用されているものであれば特に制限することなく用いることができる。これらのものとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル)、メタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル)を挙げることができ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0027】
本発明で用いられる低収縮剤は、不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を低減させる目的で使用されるものであり、通常、熱可塑性樹脂が用いられる。
【0028】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、飽和ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン変性共重合体等を挙げることができる。
【0029】
低収縮剤の添加量は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤の混合物を100重量部として、5〜20重量部、好ましくは8〜18重量部の範囲である。5重量部未満の添加量では、不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を十分に抑制することができず、その結果、成形時のクラック発生、表面外観不良となることがある。また、20重量部を超える添加量では、不飽和ポリエステル樹脂との相溶性が悪くなり、分離を生じ、SMC、BMC等のベタつきの発生、成形体の色むら等の問題が生じることがある。
【0030】
本発明で用いられる無機充填剤としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、アルミナを用いることができ、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0031】
これら無機充填剤の平均粒径は、0.2μm以下、好ましくは0.01〜0.2μm、更に好ましくは0.015〜0.15μmの範囲のものを用いることができる。
【0032】
1次粒子径は可視光における光の波長350〜800nmに対して、半分以下の波長であれば、屈折率の影響を受けずに透明性を維持することが可能であるため、0.2μmよりも小さいことが好ましい。また、平均粒径が0.01μm以下の粒子は、現状では製造が極めて困難であり、また表面処理等を合わせて実施することも困難である。
【0033】
無機充填剤の添加量は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤の混合物を100重量部とした場合に、100〜250重量部が好ましい。添加量が、100重量部未満では、SMC、BMC等による成形体中のガラス繊維等の強化繊維への流動時の分散が均一になりにくいため、強度のバラツキが大きくなりやすく、また250重量部を超えると、不飽和ポリエステル樹脂組成物の粘性が高くなりすぎ、ガラス繊維等の強化繊維への含浸が悪くなり、FRP成形体としての強度が発現されにくくなる。
【0034】
また、無機充填剤は、より微粒になるほど、凝集や、吸油等が生じやすく、充填が困難になることがあるため、表面を脂肪酸やカップリング剤等で表面処理されていることが好ましい。
【0035】
脂肪酸としては、一般式CnHmCOOHで示されるもので、nは3〜23、mは7〜47であり、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸、α−リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸等の不飽和脂肪酸のどちらでも用いることができる。
【0036】
カップリング剤としては、一般式R−Si(OR’)で示されるシランカップリング剤等が用いられ、Rは官能基で、アミノプロピル基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基、N−フェニルアミノプロピル基、メルカト基、ビニル基等、R’はメチル基またはエチル基のものを用いることができる。
【0037】
本発明のFRPに用いられる強化繊維は、通常、不飽和ポリエステル樹脂組成物の強化繊維として使用されるものを用いることができ、これらのものとしては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等を挙げることができる。
【0038】
これらの中でも、透明性の観点からガラス繊維を好適に用いることができる。
【0039】
また、これら強化繊維の配合量は、最終成形体において10〜40重量%の範囲内であることが好ましい。
【0040】
本発明においては、上記成分以外に、不飽和ポリエステル樹脂の硬化条件を調整するための、硬化触媒及び重合禁止剤、着色剤、増粘剤、その他有機系添加剤、無機系添加剤を必要に応じて適宜配合することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<不飽和ポリエステル樹脂組成物の成分材料>
不飽和ポリエステル樹脂組成物の各成分材料及びガラス繊維は以下のものを使用した。
不飽和ポリエステル樹脂:昭和高分子(株)社製M−580
重合性単量体:スチレン(三菱化学(株)社製CAS(100−42−5)準拠スチレンモノマー)
低収縮剤:昭和高分子(株)社製 M−5590−2
無機充填剤:表1に示す各無機充填剤を用いた。
【0042】
【表1】

【0043】
増粘剤:酸化マグネシウム(協和化学(株)社製 キョーマグ#40)
ガラス繊維:(日東紡製(株)社製 RS480PB−549)
<実施例1>
<不飽和ポリエステル樹脂組成物の調製>
不飽和ポリエステル樹脂80重量部、低収縮剤15重量部(重量比35/65)、重合性単量体5重量部、無機充填剤(表1に示す炭酸カルシウム1)150重量部を混合して、不飽和ポリエステル樹脂組成物Aを調製した。
【0044】
また、酸化マグネシウム1重量部、低収縮剤5重量部を予備混合して、増粘材料を調製した。
【0045】
不飽和ポリエステル樹脂組成物Aと増粘材料を250:6の割合で混合して不飽和ポリエステル樹脂組成物Bを調製した。
<FRP板の作成>
調製した不飽和ポリエステル樹脂組成物Bに、全重量の25wt%となるようにガラス繊維を含浸させることによりSMCを作成した。
【0046】
作成したSMCを、40℃、24時間養生させた後、平板プレス機により140℃、4分の条件で、200mm角、厚み3mmのFRP板を作製した。
<実施例2>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示す炭酸カルシウム2に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<実施例3>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示す炭酸カルシウム3に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<実施例4>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示す炭酸カルシウム4に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<実施例5>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示すシリカ1に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<実施例6>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示すシリカ2に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<実施例7>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示すアルミナ1に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<実施例8>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示すアルミナ2に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<比較例1>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示す炭酸カルシウム5に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<比較例2>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示す水酸化アルミニウム2に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<比較例3>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示すシリカ3に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<比較例4>
実施例1の無機充填剤である炭酸カルシウム1を、表1に示すアルミナ3に変更した以外は実施例1と同様の方法でFRP板を作成した。
<評価方法>
上記の方法で得られた実施例1〜8及び比較例1〜4の各FRP板の光線透過率を、日立社製U−4000分光光度計を用いて測定した。測定値は350〜800nmの測定域のうち、550nmの値を測定値とした。
【0047】
また、意匠性評価としては、光線透過率が0〜5%:×、5〜20%:△、20〜90%:○を基準として、従来作製された人工大理石と、目視にて柄表現性の点でさらに比較し決定した。
【0048】
実施例1〜8及び比較例1〜4の評価結果を表2及び表3に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
<評価結果>
無機充填剤の平均粒径が0.2μm以下である実施例1〜8の光線透過率は、無機充填剤の平均粒径がこの範囲から外れる比較例1〜4の光線透過率と比較して、全てが高い値を示した。
【0052】
意匠性評価についても実施例1〜8は、比較例1〜4と比較して、全てが意匠性に優れたものであり、本発明の効果が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤、及び無機充填剤を必須の成分とする不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、無機充填剤の平均粒径が0.2μm以下であることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
無機充填剤が、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、及びアルミナから選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
無機充填剤の表面が、脂肪酸及び/または、カップリング剤で表面処理されていることを特徴とする請求項1または2に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて成形したことを特徴とする繊維強化プラスチック成形体。

【公開番号】特開2011−153197(P2011−153197A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14848(P2010−14848)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】