説明

中性化深さ測定方法および中性化判定方法

【課題】
コンクリートドリルを用いてコンクリート表面に削孔しつつも、それによる削孔深さを抑制した上で、専用の測定器具を用いずに極めて簡易な方法により実現できる中性化深さ測定方法と中性化判定方法を提供すること。
【解決手段】
コンクリート表面23に、逆円錐状の測定凹所30が削成される(S2)。蒸留水を噴霧器等を用いて噴霧した後、測定凹所30を洗浄してコンクリート粉末を洗い流し(S3)、そこから水分を除去する(S4)。測定凹所30内のコンクリート面に中性化判定試薬を噴霧器を用いて噴霧し(S5)、測定凹所30内のコンクリート面において中性化層21と非中性化層22との境界を肉眼で視認可能に変色させて顕在化させる。この変色後、ノギスや物差し等の一般的な測長器を用いて、測定凹所30の全体直径d1の値と、非中性化領域直径d2の値とを測定する(S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの中性化深さを測定する中性化深さ測定方法と、コンクリート内の中性化の進行度を判定する中性化判定方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、道路の橋梁等のコンクリート構造物に関する劣化度の判定方法の一つとして、コンクリート中性化深さを用いた判定方法がある。このコンクリート中性化深さを用いた判定方法は、本来、強アルカリ性であるコンクリートが劣化進行に伴って、コンクリート表面から徐々に中性へと変化していく現象に着目し、この中性化したコンクリートの深さ(厚み)の大小に基づいて、コンクリートの劣化度を判定するものであり、コンクリート構造物の劣化度を判定するための一般的な方法として知られている。
【0003】
ここで、健全なコンクリートは、本来上記したように強アルカリ性(pH12程度)を示すものであり、この強アルカリ性により鉄筋鋼材の腐食が防止されているが、大気中の炭酸ガス等によるコンクリートの炭酸化したり、コンクリート中からアルカリ成分が溶出するなどして、コンクリート表面から徐々に経時的にアルカリ度が低下すると、コンクリート内の防食雰囲気が破壊されて、鉄筋鋼材の腐食を招来させてしまう。このため、コンクリートの中性化深さを測定することにより、コンクリートの中性化の進行状況を把握する必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1(特許第3342308号)及び特許文献3(特公平7−104339号)に従来技術として記載される中性化深さの測定方法は、コンクリート構造物から測定用の試料であるコンクリートコアを採取し、かかるコンクリートコアの表面にフェノールフタレイン溶液を噴霧し、コンクリートコアの表面におけるアルカリ性部分(赤色変化部分)と中性化部分(無変色部分)との境界を可視化した上で、その境界位置からコンクリートコアの端面(コンクリート構造物のコンクリート表面であった端面)までの距離を物差し等を用いて測定し、その測定値を当該測定地点におけるコンクリート中性化深さとするものである。
【0005】
これに対し、特許文献1及び特許文献2(特開2005−233819号)に記載される中性化深さ測定方法は、コンクリート構造物のコンクリート表面にコンクリートドリルにより数ミリ〜十数ミリの穴をコンクリート深部へ向けて削孔した後、その穴内にフェノールフタレイン溶液を噴霧又は塗布すると、その穴の内部表面におけるアルカリ性部分(赤色変化部分)と中性化部分(無変色部分)との境界位置を可視化した上で、その穴内部に専用の光学式測定機器を挿入して、コンクリート表面からその境界位置までの距離を測定し、この測定値を当該測定地点におけるコンクリート中性深さとするものである。
【0006】
また、特許文献3に記載されるコンクリートの劣化検査方法は、コンクリート構造物のコンクリート表面にビットにより10mm(5〜6mm程度)の穴をコンクリート深部へ向けて穿孔しならがら、その穴内に検査試薬であるフェノールフタレイン溶液を噴霧して、この検査試薬を吸着した穿孔に伴う粉塵の色がアルカリ性を示す赤色に変化した場合に、その穿孔を中止し、この中止時の穿孔深さを物差し等で測定して、この測定値を当該測定地点におけるコンクリート中性化深さとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3342308号公報
【特許文献2】特開2005−233819号公報
【特許文献3】特公平7−104339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のコンクリートコアを用いて行われる中性化深さの測定方法では、コンクリートコアをコンクリート構造物から抜き取るため、コアドリルを装備した専用のコア抜き機を使用する必要があり、その設置や操作も煩雑であり、コンクリートコア抜き取りに要する作業時間やコストが嵩むという問題点があった。また、コア採取後は、採取後に開口した穴を埋め戻す作業も必要となり、更に、作業が煩雑化し、そのコストも嵩むという問題点もあった。
【0009】
また、このようなコンクリートコアを用いた中性化深さの測定方法では、コンクリートコアの表面へのフェノールフタレイン溶液の噴霧後、アルカリ性部分(赤色変化部分)と中性化部分(無変色部分)との境界に鉛筆で線を引き、その中性化部分を鉛筆で塗り、この中性化部分にセロハンを当てて、セロハンに中性化部分に塗られた鉛筆色を転写し、このセロハンに写し取った中性化部分の面積を求めて、この面積をコンクリートコアの円周で除して平均中性化深さが求められている。
【0010】
ところが、このような測定方法では、セロハンへの転写が不鮮明となりやすく、コンクリート表面から数mm程度である中性化深さを正確に算定することが難しいという問題点がある。また、コンクリートコアの表面の性質が大気等との接触により変化する場合があることから、コンクリートコアを用いた中性化深さの測定は、コンクリートコアの採取後直ちに実施する必要があるが、円筒状のコアに鉛筆等により線引きを行い、それをセロハンに転写する処理を、採取現場で行うことが極めて煩雑であり、正確な測定結果を得づらいという問題点があった。
【0011】
また、特許文献1及び2に記載される中性化深さ測定方法についても、コンクリート表面に穴を削孔してフェノールフタレイン溶液を噴霧付着させた後、その穴へ専用の光学式測定器を挿入する必要があり、コンクリートコア抜き取りに要する作業時間やコストが嵩むという問題点があった。特に、特許文献3に記載される劣化検査方法については、ビットによる穴の穿孔を行いながら、その粉塵の色変化を同時に判断する必要があり、粉塵の着色状態の変化を判定し辛く、中性化部分を越えて非中性化部分まで穿孔が進行した後で、粉塵の着色に気付くことも危惧され、厳密な意味での中性化深さを測定できないという問題点があった。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、コンクリートドリルを用いてコンクリート表面に削孔しつつも、それによる削孔深さを抑制した上で、専用の測定器具を用いずに極めて簡易な方法によりコンクリートの中性化深さを測定することができる中性化深さ測定方法と中性化判定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために請求項1の中性化深さ測定方法は、コンクリートの中性化深さを測定するための方法であって、円錐状の刃先部を有する削孔工具によって、コンクリート表面からコンクリートの深さ方向に一定比率で内径が縮径する逆円錐状の凹所を、そのコンクリート表面に削成する削成工程と、その削成工程により削成された凹所に対し、中性化部分若しくは非中性化部分の一方若しくはその双方又はこれらの境界を視認可能に顕在化させる試薬を用いて、その凹所内のコンクリート面に現われた非中性化層を顕在化させる顕在化工程と、その顕在化工程により前記凹所内のコンクリート面に顕在化された非中性化層の平面投影像である非中性化領域の直径(d2)を測定する測定工程と、その測定工程により得られた非中性化領域の直径(d2)を用いて中性化深さ(h)を、次式により計算する演算工程とを備えている。
h=K・(d1−d2)
ここで、h:中性化深さ、K:削孔工具の工具係数(K=H/D(H:削孔工具の円錐状の刃先部の高さ、D:削孔工具の円錐状の刃先部の最大外径である。))、d1:凹所の最大径(コンクリート表面位置での凹所の内径)、d2:非中性化領域の直径である。
【0014】
なお、請求項1に記載される「非中性化層の顕在化」は、試薬を用いることで凹所内のコンクリート面において、非中性化層のみを顕在化させる場合に加え、中性化層及び非中性化層の双方を顕在化させる場合、中性化層を顕在化させることにより非中性化層を相対的に顕在化させる場合、中性化層及び非中性化層の境界を顕在化させる場合を包摂する用語として使用する。
【0015】
請求項2の中性化深さ測定方法は、請求項1の中性化深さ測定方法において、前記測定工程は、前記顕在化工程により前記凹所内のコンクリート面に非中性化層を顕在化させた後、その凹所内のコンクリート面に顕在化された非中性化層の平面投影像である非中性化領域の直径(d2)を現場で直接測定するものである。
【0016】
請求項3の中性化深さ測定方法は、請求項1の中性化深さ測定方法において、前記測定工程は、前記顕在化工程により前記凹所内のコンクリート面に非中性化層を顕在化させた後、その凹所の画像を撮像し、その画像から凹所内のコンクリート面に顕在化された非中性化層の平面投影像である非中性化領域の直径(d2)を測定するものである。
【0017】
請求項4の中性化深さ測定方法は、請求項1から3のいずれかの中性化深さ測定方法において、前記顕在化工程の前に、前記削成工程により削成された前記凹所内のコンクリート面を蒸留水により洗浄し、その後、その凹所内のコンクリート面に付着する水分を除去する洗浄除去工程を備えている。
【0018】
請求項5の中性化深さ測定方法は、請求項1から4のいずれかの中性化深さ測定方法において、前記算出工程の前に、前記凹所の最大径(d1)を測定し、削孔工具の円錐状の刃先部の高さ(H)及び当該刃先部の最大外径(D)を測定して削孔工具の工具係数(K)を計算する演算予備工程を備えている。
【0019】
請求項6の中性化深さ測定方法は、請求項1から4のいずれかの中性化深さ測定方法において、前記削成工程は、予め設定した所定の最大径を有する前記凹所を削成するものであり、その削孔工程において用いられる削孔工具の工具係数(K)が既知である。
【0020】
請求項7の中性化判定方法は、コンクリート内の中性化の進行度を判定するための方法であり、円錐状の刃先部を有する削孔工具によって、コンクリート表面からコンクリートの深さ方向に一定比率で内径が縮径する逆円錐状の凹所を、そのコンクリート表面に削成する削成工程と、その削成工程により削成された凹所に対し、中性化部分若しくは非中性化部分の一方若しくはその双方又はこれらの境界を視認可能に顕在化させる試薬を噴霧して、その凹所内のコンクリート面に現われた中性化層若しくは非中性化層の一方若しくはその双方又はこれらの境界を顕在化させる顕在化工程と、その顕在化工程の後、前記凹所内のコンクリート面に顕在化された中性化層又は非中性化層の平面投影像の大きさを現場で直接観察して、コンクリートの中性化の進行度を判定する判定工程とを備えている。
【0021】
請求項8の中性化判定方法は、請求項7の中性化判定方法において、前記判定工程に代えて、前記顕在化工程の後、前記凹所の画像を撮影し、その画像に撮像された前記凹所内のコンクリート面に顕在化された中性化層又は非中性化層の平面投影像の大きさに基づき、コンクリートの中性化の進行度を判定する判定工程を備えている。
【0022】
請求項9の中性化判定方法は、請求項7又は8の中性化判定方法において、前記顕在化工程の前に、前記削成工程により削成された前記凹所内のコンクリート面を蒸留水により洗浄し、その後、その凹所内のコンクリート面に付着する水分を除去する洗浄除去工程を備えている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の中性化深さ測定方法によれば、削孔工具によりコンクリート表面に削成凹設される凹所の形状を逆円錐状とすることで、かかる測定に伴うコンクリート表面の破壊箇所を面積的にも深さ的にも極めて狭小な範囲に抑えることができるので、測定後の当該凹所を埋め戻す補修も極めて簡便かつ低コストで行え、コンクリート構造物の強度に与える影響も極少化できるという効果がある。
【0024】
しかも、コンクリートコアのようにコア抜き機のような専用装置を用いずとも、凹所は、円錐状の刃先部を有する削孔工具、例えば、一般的なコンクリートドリルを用いてでも削成できるので、その削成作業に要する手間を簡素化でき、時間を短縮化でき、コストを削減できるという効果がある。
【0025】
また、凹所が逆円錐状となることから、その凹所内の内面がコンクリート表面に対して深さ方向に一定角度θを成して傾斜する格好となる(図1(a)参照。)。このため、凹所内に現れる非中性化層の平面投影像の幅は、中性化深さ(h)を(1/tanθ)倍に拡大した幅となるので、中性化深さを拡大観察でき、従来は測定し難かった極薄い中性化深さ(h)の測定も容易に行えるという効果がある。
【0026】
また、上記したコンクリートコアに鉛筆で線引きしてセロハンに転写する方法では、鉛筆の線引きの仕方や、その転写の仕方に測定者毎の個人差があるため、測定結果に誤差が内在し易く、より正確な中性化深さ(h)の測定結果が得られないという不具合があったが、本実施例の中性化深さ測定方法によれば、このような線引きや転写が不要となることから、これらに起因する測定結果の誤差を解消できるという効果がある。
【0027】
また、特許文献1及び2に記載の方法のように、コンクリート表面に削孔した穴へ専用の光学式測定器を挿入して穴内を観察せずとも、コンクリート表面に削成された凹所を直接目視して観察でき、かつ、その凹所をカメラなど用いて直接撮影して調査記録を保存することもできるので、コンクリートの中性化に関する調査を極めて簡易かつ低コストで行えるという効果がある。
【0028】
さらに、凹所の削成を完成させてしまった後で、試薬を用いて凹所内に現われた非中性化層を顕在化させ、それから、中性化深さ(h)を計算するために必要な測定を行えるので、特許文献3に記載の方法のように削孔と粉塵の色変化の判断とを同時に行う必要もなく、コンクリートの中性化深さの測定をより正確に行えるという効果がある。
【0029】
また、凹所内のコンクリート面に試薬を噴霧することにより、中性化層と非中性化層とを区別可能な状態でコンクリート表面上に出現させることができることから、コンクリートコアに対する線引き及びそれのセロハン転写、並びに、光学式測定器による測長及びその準備などの余分な作業を要さずとも、中性化深さの測定を速やかに行える。このため、凹所内のコンクリート面が大気に曝されることにより、大気中のアルカリ性成分や酸性成分が浸透して、中性化深さ(h)の測定精度が低下する事態を回避できるという効果がある。
【0030】
請求項4の中性化深さ測定方法によれば、削成工具を用いた凹所の削成により生じたコンクリート粉を、顕在化工程の前に、洗浄除去工程によって凹所内のコンクリート面から除去できる。このため、顕在化工程で用いられる試薬が凹所内のコンクリート面に付着したまま残存したコンクリート粉と反応することで、本来中性化層であるべき箇所が非中性化層として顕在化されたり、中性化層と非中性化層との境界が不鮮明となることを回避でき、結果、中性化深さの測定精度が低下することを防止できるという効果がある。
【0031】
しかも、洗浄除去工程による洗浄には蒸留水が使用されるので、例えば、かかる洗浄自体により凹所に現われるコンクリート面の水素イオン濃度が狂ってしまうことを回避でき、結果、中性化深さの測定精度が低下することを防止できるという効果がある。
【0032】
請求項5の中性化深さ測定方法によれば、演算工程における中性化深さの演算に必要な数値のうち、非中性化領域の直径(d2)は測定工程により取得され、残る削孔工具の工具係数(K)及び凹所の最大径(d1)は演算予備工程により取得される。よって、コンクリート構造物の形状、構造、使用環境その他の状況により、予め決められたサイズに凹所を削成することが困難であっても、その状況に応じた凹所をコンクリート面に凹設することで必要な中性化深さ(h)を取得できるという効果がある。
【0033】
請求項6の中性化深さ測定方法によれば、演算工程における中性化深さの演算に必要な数値のうち、非中性化領域の直径(d2)は測定工程により取得され、残る削孔工具の工具係数(K)及び凹所の最大径(d1)は既知であることから、コンクリート面に凹設される凹所の形状及び寸法を画一化でき、複数の凹所をコンクリート面に凹設して、各凹所から取得された中性化深さ(h)を対比評価できるという効果がある。
【0034】
本発明の中性化判定方法によれば、凹所内のコンクリート面に現われた中性化層、非中性化層又はこれらの境界が試薬により顕在化されることにより、凹所内のコンクリート面における中性化層の範囲と非中性化層の範囲とが区別可能となる。そして、コンクリートの中性化深さが大きければ、中性化層の平面投影像の面積は大きなり、相対的に非中性化層の平面投影像の面積は小さくなる。一方、コンクリートの中性化深さが小さければ、中性化層の平面投影像の面積は小さくなり、相対的に非中性化層の平面投影像の面積は大きくなる。
【0035】
つまり、凹所内の中性化層又は非中性化層の平面投影像の面積の大きさが、コンクリートの中性化の進行度、即ち、中性化度(劣化度)を示す指標となるので、現場で、かかる凹所内に現われた中性化層又は非中性化層の大きさを平面的に直接観察することにより、コンクリートの中性化度を極めて簡便に判定できるという効果がある。
【0036】
請求項8の中性化判定方法によれば、顕在化工程の後、凹所の画像を撮像し、この画像から凹所内の中性化層又は非中性化層の平面投影像の面積の大きさを、コンピュータを用いた画像処理による演算や、面積計を用いた測定等により導出すれば、その結果からもコンクリートの中性化度を極めて簡便に判定できるという効果がある。
【0037】
請求項9の中性化判定方法によれば、削成工具を用いた凹所の削成により生じたコンクリート粉を、顕在化工程の前に、洗浄除去工程によって凹所内のコンクリート面から除去できる。このため、顕在化工程で用いられる試薬が凹所内のコンクリート面に付着したまま残存したコンクリート粉と反応することで、本来中性化層であるべき箇所が非中性化層として顕在化されたり、中性化層と非中性化層との境界が不鮮明となることを回避でき、結果、中性化の進行度の判定結果が不正確となることを防止できるという効果がある。
【0038】
しかも、洗浄除去工程による洗浄には蒸留水が使用されるので、例えば、かかる洗浄自体により凹所に現われるコンクリート面の水素イオン濃度が狂ってしまうことを回避でき、結果、中性化の進行度の判定結果が不正確となることを防止できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例である中性化深さ測定方法についての概念説明図であって、(a)は、コンクリートドリルの正面図、及び、そのコンクリートドリルにより削成される測定凹所の断面図であり、(b)は、測定凹所の平面図である。
【図2】本実施例の中性化深さ測定方法の工程の一例を示したフローチャートである。
【図3】本実施例の中性化深さ測定方法を使用して実際に求められたコンクリート構造物の中性化深さについて説明した図であり、(a)は、測定凹所の平面図であって、測定凹所の測定位置を示したものであり、(b)は、(a)に示した測定位置での測定凹所の全体直径及び非中性化領域直径の測定結果と、使用されたコンクリートドリルの工具係数と、これらか計算された中性化深さとを示した図表である。
【図4】測定凹所を用いたコンクリートの中性化判定方法についての説明図であり、(a)から(d)はいずれも測定凹所の平面図であって、(a)から(d)には中性化深さの値が小さいものから順番に図示されている。
【図5】測定凹所の削成工程に関する変形例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0040】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例である中性化深さ測定方法についての概念説明図であって、図1(a)は、コンクリートドリル10の正面図、及び、そのコンクリートドリル10により削成される測定凹所30の断面図であり、図1(b)は、測定凹所30の平面図である。
【0041】
図1に示すように、コンクリート構造物20のコンクリート内部には、コンクリート表面23側の表層部分に中性化した部分21(以下「中性化層21」という。)が、この中性化部分より深層部分に未だアルカリ性を維持し続けている部分22(以下「非中性化層22」という。)が、それぞれ存在している。
【0042】
なお、図1では、中性化層21がコンクリート表面23から深さ方向(図1(a)の矢印Z方向に相当する。以下同じ。)にほぼ均一の厚み(中性化深さhに相当する。以下同じ。)で存在しているものと仮定して図示しており、中性化層21と非中性化層22との境界を2点鎖線で示している。
【0043】
コンクリートドリル10は、その円錐状の先端尖形部11(刃先部)によってコンクリートを削って削孔する回転式の工具であり、駆動機構(図示せず)によって中心軸回りに高速回転されることでコンクリート表面23に測定凹所30を削成するものである。
【0044】
このコンクリートドリル10は、その先端尖形部11の最大外径D(円錐部分の最大外径)と、その円錐状の先端尖形部11の高さH(円錐部分の高さ)とが双方とも既知のものであり、これらに基づいて、次式(1)によりコンクリートドリル10の工具係数Kが求められる。
K=H/D ・・・ (1)
ここで、式中の「/」は、除算を表わす演算子である(以下同じ。)。
【0045】
測定凹所30は、測定対象となるコンクリート構造物20のコンクリート表面23に凹設される凹部である。この測定凹所30は、コンクリートドリル10によりコンクリート表面23に削成され、このコンクリートドリル10の先端尖形部11の円錐形状に合致したものとなる。
【0046】
つまり、測定凹所30は、その内径が深さ方向(コンクリート表面23からコンクリートの深層部分へ向かう方向)に一定比率で縮径する浅い逆円錐状に形成されている。このため、測定凹所30は、その内面を成している曲面が開口部(図1(a)上側)から底部(図1(a)下側)の1点(以下「収束点」という。)Pへ向けて収束した形状となっている。
【0047】
なお、図1(a)においては、測定凹所30の曲面の収束点Pと測定凹所30の最深部とが一致している。
【0048】
また、この測定凹所30において、その全体深さh1は、コンクリート表面23から測定凹所30の収束点Pまでの深さであり、中性化深さhは、中性化層21の厚みであり、非中性化深さh2は、中性化層21と非中性化層22との境界位置から測定凹所30の曲面の収束点Pまでの深さである。
【0049】
これらの全体深さh1と中性化深さhと非中性化深さh2との間には、次式(2)に示す関係があり、中性化深さhは、測定凹所30の全体深さh1から非中性化深さh2を除した値として求められる。
h=h1−h2 ・・・ (2)
【0050】
また、測定凹所30の全体直径d1は、コンクリート表面23位置での測定凹所30の内径、即ち、測定凹所30の最大径であり、測定凹所30の非中性化領域直径d2は、非中性化領域32(測定凹所30内に現れる中性化層21及び非中性化層22の境界線を輪郭とした当該境界線の内側にある非中性化層22に相当する部分を平面投影像をという。以下同じ。)(図1(a)参照。)の直径である。
【0051】
なお、図1(a)では非中性化領域32に細かいハッチングを付し、図1(b)でも非中性化領域32に同様のハッチングを付している。この細かいハッチングは、非中性化領域32が後述する中性化判定試薬により着色された状態を表わしたものである(以下、図3及び図4においても同じ。)。これに対し、図1(a)及び図5(a)〜図5(c)において図中に付した粗いハッチングは、いずれもコンクリート構造物20の断面を表わしたものである。
【0052】
ここで、図1に示した非中性化領域32は、中性化層21の厚みがほぼ均一であることから、図1(b)示すように円形となっている。なお、コンクリート表面層における中性化の進行度は概ね一定しているものと考えられることから、極めて特殊な状況を除けば、実際の非中性化領域32も、円形となるか、又は、円形に近い形状になるものと考えられる。
【0053】
そして、このように構成される測定凹所30は、それ自体が逆円錐形状を有しており、中性化層21の厚みがほぼ均一であることから、その全体直径d1及び非中性化領域直径d2と全体深さh1及び非中性化深さh2との間に相似関係が成立し、次式(3)に示す関係が成立する。
h2=(d2/d1)・h1 ・・・ (3)
ここで、式中の「・」は、乗算を表わす演算子である(以下同じ。)。
【0054】
したがって、中性化深さhは、上記式(2)に上記式(3)を代入すれば、次式(4)により表わされることとなる。
h=h1・(1−(d2/d1)) ・・・ (4)
ここで、式中の「・」は、乗算を表わす演算子である(以下同じ。)。
【0055】
また、測定凹所30とコンクリートドリル10の円錐状の先端尖形部11とが合致することから、測定凹所30の全体深さh1は、全体直径d1とコンクリートドリル10の工具係数Kとを用いて、次式(5)により表わされる。
h1=(d1/D)・H
=K・d1 ・・・ (5)
【0056】
したがって、中性化深さhは、上記式(4)に上記式(5)を代入することにより、コンクリートドリル10の工具係数Kと、測定凹所30の全体直径d1及び非中性化領域直径d2とを用いて、次式(6)により表わされるものとなる。
h=K・(d1−d2) ・・・ (6)
【0057】
ここで、式(6)において、コンクリートドリル10の工具係数Kは、実際に使用するコンクリートドリル10を実測することにより求められるので、測定凹所30の全体直径d1及び非中性化領域直径d2を実測することにより、コンクリートの中性化深さhは、上記式(6)から算出することができる。
【0058】
図2は、本実施例の中性化深さ測定方法の工程の一例を示したフローチャートである。図2に示すように、この中性化深さ測定方法では、まず、コンクリートドリル10の先端尖形部11の形状を示す数値、即ち、その先端尖形部11の最大外径Dと、その円錐部分の先端尖形部11の高さHとが計測されて、これらの最大外径D及び高さHの計測値を用いて、上記式(1)から、コンクリートドリル10の工具係数Kの値が求められる(S1)。
【0059】
コンクリートドリル10の工具係数Kを求めた後は、コンクリートドリル10が駆動機構にセットされ、このコンクリートドリル10が駆動機構(図示せず。)により高速回転されることにより、コンクリート構造物20のコンクリート表面23に、図1に示すように逆円錐状の測定凹所30が削成される(S2)。なお、測定凹所30を削成する際、かかる測定凹所30は、その全体深さh1を特定の値に設定する必要はないが、その内径が深さ方向に一定比率で縮小する逆円錐状の形状をしている必要がある。
【0060】
測定凹所30の削成凹設後は、この測定凹所30内に削成による生じたコンクリート粉末が付着残存しているので、かかるコンクリート粉末を除去するため、測定凹所30内のコンクリート面に蒸留水を噴霧器等を用いて噴霧することにより、測定凹所30を洗浄して、コンクリート粉末を洗い流す(S3)。この洗浄後は、清浄な布地を用いて測定凹所30内のコンクリート面を拭いて、そこに付着する水分を除去する(S4)。
【0061】
この水分除去後は、測定凹所30内のコンクリート面に中性化判定試薬として酸塩基指示薬の一種であるフェノールフタレイン溶液を、噴霧器を用いて噴霧する(S5)。このフェノールフタレイン溶液の噴霧により、測定凹所30内のコンクリート面は、中性化層21に相当する部分と非中性化層22に相当する部分とで色が異なるものとなり、中性化層21と非中性化層22との境界が顕在化されて肉眼で視認可能なものとなる。
【0062】
ここで、本実施例では、中性化判定試薬としてフェノールフタレイン溶液を使用していることから、測定凹所30内のコンクリート面のうち、中性化層21に相当する部分が中性であるので変色せず、非中性化層22に相当する部分(図1、図3(a)及び図4の中の細かいハッチング部分をいう。)がアルカリ性であるので赤色(赤紫色又はピンク色の近似色を含む。以下同じ。)に変色する。このように変色すれば、ノギスや物差し等の一般的な測長器を用いて、測定凹所30の全体直径d1の値と、非中性化領域直径d2の値とを測定する(S6)。
【0063】
そして、測定凹所30に関する全体直径d1及び非中性化領域直径d2の測定値と、S1の工程で予め求めておいたコンクリートドリル10の工具係数Kの値とを、上記式(6)に代入して計算することにより、この測定凹所30が削成凹設されたコンクリート表面23の箇所における中性化深さhの値が求められる(S7)。
【0064】
図3は、本実施例の中性化深さ測定方法を使用して実際に求められたコンクリート構造物20の中性化深さhについて説明した図であり、図3(a)は、測定凹所30の平面図であって、測定凹所30の測定位置を示したものであり、図3(b)は、図3(a)に示した測定位置での測定凹所30の全体直径d1及び非中性化領域直径d2の測定結果と、使用されたコンクリートドリル10の工具係数Kと、これらか計算された中性化深さhとを示した図表である。なお、図3(a)では非中性化領域32に図1と同様のハッチングを付している。
【0065】
図3(a)に示すように、測定凹所30の非中性化領域32は、円形に近い形状であるものの厳密には円形ではないため、測定凹所30の全体直径d1及び非中性化領域直径d2の測定は、当該測定凹所30を平面視した場合の測定凹所30の収束点Pにて直交する2つの直線L1,L2上でそれぞれ行うものとした。このため、図3(b)では、直線L1上での測定結果を「測定結果1」と表記し、直線L2上での測定結果を「測定結果2」と表記している。
【0066】
図3(b)に示すように、測定結果1では、測定凹所30の全体直径d1の測定値が27.55mmであり、その非中性化領域直径d2の測定値が7.15mmであった。また、測定結果2では、測定凹所30の全体直径d1の測定値が同じく27.55mmではあるが、その非中性化領域直径d2の測定値が5.20mmであった。
【0067】
かかる場合、測定結果1及び2の測定凹所30の全体直径d1の測定値の平均値は27.55mmとなり、その非中性化領域直径d2の測定値の平均値は6.175mmとなるので、これらの平均値を、当該測定凹所30の全体直径d1及び非中性化領域直径d2の最終的な測定値として決定した。
【0068】
また、この測定凹所30の削成凹設に使用されたコンクリートドリル10の先端尖形部11は、その最大外径Dが26.0mmであり、その円錐状の部分の高さHが7.2mmであったことから、これらの値を上記式(1)に代入して計算すると、コンクリートドリル10の工具係数Kは0.277となった。
【0069】
したがって、工具係数K=0.277、測定凹所30の全体直径d1=27.55mm、及び、非中性化領域直径d2=6.175mmを、上記式(6)に代入すると、次式(7)の通りとなり、結果、当該測定凹所30が削成凹設されたコンクリート構造物20の中性化深さhの値は5.9mmとして求められた。
h=0.277×(27.55−6.175)=5.9[mm] ・・・ (7)
【0070】
ここで、測定結果1及び2において、測定凹所30の全体直径d1はコンクリートドリル10の最大外径Dに比べて大きくなっているが、これは、コンクリートが金属材料等に比べると脆いものであることから、測定凹所30の削成の際に測定凹所30における開口部周縁のコンクリートが剥離欠損したことに起因するものと考えられる。
【0071】
したがって、このように測定凹所30の全体直径d1がコンクリートドリル10の最大外径Dの大きさを超える場合(d1>D)には、測定凹所30の全体直径d1の値をコンクリートドリルの最大外径Dの値に補正した上で、上記式(6)を用いて、コンクリート構造物20の中性化深さhの値を求めても良い。
【0072】
具体的には、上記した測定結果1及び2の場合にあっては、測定凹所30の全体直径d1=26.00mmと補正されるので、かかる全体直径d1の補正値と、工具係数K=0.277と、非中性化領域直径d2=6.175mmとを、上記式(6)に代入すれば、当該測定凹所30が削成凹設されたコンクリート構造物20の中性化深さhの値は、次式(8)に示すように5.5mmとなる。
h=0.277×(26.00−6.175)=5.5[mm] ・・・ (8)
【0073】
以上説明したように、本実施例の中性化深さ測定方法によれば、コンクリートドリル10によるコンクリート表面23の破壊箇所(測定凹所30)を面積的にも深さ的にも極めて狭小な範囲に抑えることができるので、測定後の測定凹所30の補修も簡便かつ低コストで行え、コンクリート構造物20の強度に与える影響も極少化できる。
【0074】
また、測定凹所30内のコンクリート面は、コンクリート表面23に対する垂直方向である深さ方向に対して一定角度θを成して傾斜するので、中性化領域31(測定凹所30内に現れる中性化層21と非中性化層22との境界線の外側にある中性化層21に相当する部分の平面投影像をいう。以下同じ。)(図1(b)参照。)は、中性化深さhを(1/tanθ)倍に拡大した幅を有するリング状として観察される。このように測定凹所30を介すれば、中性化深さhを拡大観察できるので、従来は測定し難かった極薄い中性化層21の中性化深さhの測定も容易に行える。
【0075】
また、上記したコンクリートコアに鉛筆で線引きしてセロハンに転写する方法では、鉛筆の線引きの仕方や、その転写の仕方に測定者毎の個人差があるため、測定結果に誤差が内在し易く、より正確な中性化深さhの測定結果が得られないという不具合があったが、本実施例の中性化深さ測定方法によれば、このような線引きや転写が不要となることから、これらに起因する測定結果の誤差を解消できる。
【0076】
また、測定凹所30を削成凹設してフェノールフタレイン溶液を噴霧した後、上記した線引きやセロハンへの転写が不要であるので、速やかに測定凹所30の全体直径d1及び非中性化領域直径d2の測定を行うことができる。
【0077】
このため、測定凹所30内のコンクリート面に大気中のアルカリ性成分や酸性成分が浸透し、その結果、測定凹所30内に現れる中性化層21に相当する部分又は非中性化層22に相当する部分の範囲が変化して、本来の非中性化領域32の大きさが喪失された状態で非中性化領域直径d2の測定が行われる事態を回避でき、より正確な中性化深さhを求めることができる。
【0078】
図4は、測定凹所30を用いたコンクリートの中性化判定方法についての説明図であり、図4(a)から図4(d)はいずれも測定凹所30の平面図であって、図4(a)から図4(d)には中性化深さhの値が小さいものから順番に図示されている。なお、図4(a)から図4(d)では、非中性化領域32に図1と同様のハッチングを付している。
【0079】
ここで、図4(a)から図4(d)に示した測定凹所30はいずれも、上記した図2のS2〜S5に示した工程を経て作られたものであり、工具係数Kが等しくかつ円錐状の先端尖形部11を有したコンクリートドリル10を用いて全体直径d1及び全体深さh1が等しくなるように削成凹設され、フェノールフタレイン溶液により中性化層21と非中性化層22とが視覚的に区別可能に顕在化した状態となっている。
【0080】
図4(a)〜図4(d)に示すように、これらの測定凹所30は、中性化深さhが大きくなるに従って、非中性化領域32の面積が減少する一方で、中性化領域31が増加している。このため、測定凹所30の中性化領域31又は非中性化領域32の面積の大きさが、コンクリートの中性化度(劣化度)を示す指標となり、この測定凹所30の中性化領域31又は非中性化領域32の大きさを平面的に観察することにより、コンクリートの中性化度(劣化度)を極めて簡便に判定できるのである(請求項7記載の判定工程)。
【0081】
例えば、図4(a)は、測定凹所30内の全体が非中性化領域32となっており、中性化領域31がないので、コンクリートの中性化に伴う劣化度が低いことが判る。そして、図4(b)から図4(d)へ移行するに従って、測定凹所30内の全体に占める非中性化領域32の面積が減少し、それとは逆に中性化領域31の面積が増加していることから、コンクリートの中性化に伴う劣化が進行していることが判る。
【0082】
また、図4(a)〜図4(d)に示したような測定凹所30の画像を撮影し、この画像から中性化領域31の面積、又は、非中性化領域32の面積を、コンピュータを用いた画像処理による演算や、面積計を用いた測定等により導出すれば、この結果からもコンクリートの中性化度を極めて簡便に判定することができる(請求項8記載の判定工程)。
【0083】
次に、図5を参照して、上記実施例で説明した削成工程(S2)の変形例について説明する。図5は、測定凹所30の削成工程(S2)に関する変形例を示した説明図である。
【0084】
図5(a)に示すように、この測定凹所30の削成工程では、測定凹所30をコンクリート表面23に削成する前に、測定凹所30の全体深さh1よりも深くなるように、下穴用のコンクリートドリル110によって、下穴130がコンクリート表面23に削成される。
【0085】
なお、下穴130の深さは、必ずしも測定凹所30の全体深さh1を越える必要はなく、測定凹所30の全体深さh1と同じ程度の深さ、又は、測定凹所30の全体深さh1よりも浅くても良い。
【0086】
また、このとき削成される下穴130の内径は、測定凹所30の全体直径d1よりも十分に小さなものとされる。したがって、下穴用のコンクリートドリル110には、その外径D1がコンクリートドリル10の先端尖形部11の最大外径Dに比べて十分に小さなものを用いることが好ましい。
【0087】
そして、この下穴130の削成後は、図5(b)に示すように、この下穴130にコンクリートドリル10の先端尖形部11が合わせられ、図5(c)に示すように、このコンクリートドリル10により測定凹所30が削成される。
【0088】
また、図5(c)に示すように、下穴130の深さが測定凹所30の全体深さh1より大きな場合、下穴130が存在するがため、測定凹所30の曲面の収束点P(図5(c)中の点P’の位置に相当する。)は実在せず実測し得ないものとなる。もっとも、上記式(6)を用いた中性化深さ測定方法によれば、測定凹所30の全体深さh1を使用することなく中性化深さhを求めることができるので、何の不都合もない。
【0089】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0090】
例えば、上記実施例では、コンクリート構造物20のコンクリート表面23に作り出された測定凹所30の全体直径d1及び非中性化領域直径d2の測定に際し、実際の測定凹所30の寸法をノギス等を用いて直接測定したが、かかる測定形式は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、フェノールフタレイン溶液が噴霧されることで非中性化領域32が顕在化した後、その測定凹所30の画像を撮像して、現場以外の場所で事後的に当該画像から測長したり、当該画像をコンピュータ等を用いた画像処理により解析して測長するようにしても良い。
【0091】
そして、かかる場合、画像内に長さの基準となる物差しを一緒に撮像しておくようにしても良い。また、このように画像ならば、非中性化領域32の顕在化直後の非中性化領域32の状態を保存しておけるので、予め現場で測定凹所30の全体直径d1と工具係数Kとを測定しておけば、フェノールフタレイン溶液の噴霧後時間が経過して非中性化領域32の輪郭が不鮮明となっても、その画像を用いて事後的に正確な中性化深さhを求めることができる。
【0092】
上記実施例では、中性化判定試薬として非中性化部分であるアルカリ性部分を赤色に変色させるフェノールフタレイン溶液を用いたが、かかる中性化判定試薬の種類は必ずしもこれに限定されるものではなく、測定凹所30内に現れる中性化層21に相当する部分又は非中性化層22に相当する部分のいずれか一方若しくはその双方又はこれらの境界を視覚的に区別可能な状態で顕在化できるものであれば良い。
【0093】
例えば、チモールブルー(塩基性側)、フェノールレッド、チモールフタレイン、クレゾールレッド、ブロチモモールブルーその他の酸塩基指示薬(水素イオン濃度の高低に応じて変色する色素)であっても良い。
【符号の説明】
【0094】
10 コンクリートドリル(削孔工具)
11 先端尖形部(刃先部)
20 コンクリート構造物
21 中性化層
22 非中性化層
23 コンクリート表面
30 測定凹所(凹所)
31 中性化領域
32 非中性化領域
h 中性化深さ
d1 全体直径(凹所の最大径)
d2 非中性化領域直径(非中性化領域の直径)
K 工具係数
H 先端尖形部の高さ(削孔工具の円錐状の刃先部の高さ)
D 先端尖形部の最大外径(削孔工具の円錐状の刃先部の最大外径)
S1 演算予備工程の一部
S2 削成工程
S3,S4 洗浄除去工程
S5 顕在化工程
S6 測定工程及び演算予備工程の一部
S7 演算工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの中性化深さを測定するための中性化深さ測定方法において、
円錐状の刃先部を有する削孔工具によって、コンクリート表面からコンクリートの深さ方向に一定比率で内径が縮径する逆円錐状の凹所を、そのコンクリート表面に削成する削成工程と、
その削成工程により削成された凹所に対し、中性化部分若しくは非中性化部分の一方若しくはその双方又はこれらの境界を視認可能に顕在化させる試薬を用いて、その凹所内のコンクリート面に現われた非中性化層を顕在化させる顕在化工程と、
その顕在化工程により前記凹所内のコンクリート面に顕在化された非中性化層の平面投影像である非中性化領域の直径(d2)を測定する測定工程と、
その測定工程により得られた非中性化領域の直径(d2)を用いて中性化深さ(h)を、次式により計算する演算工程とを備えていることを特徴とする中性化深さ測定方法。
h=K・(d1−d2)
ここで、h:中性化深さ、K:削孔工具の工具係数(K=H/D(H:削孔工具の円錐状の刃先部の高さ、D:削孔工具の円錐状の刃先部の最大外径である。))、d1:凹所の最大径(コンクリート表面位置での凹所の内径)、d2:非中性化領域の直径である。
【請求項2】
前記測定工程は、前記顕在化工程により前記凹所内のコンクリート面に非中性化層を顕在化させた後、その凹所内のコンクリート面に顕在化された非中性化層の平面投影像である非中性化領域の直径(d2)を現場で直接測定するものであることを特徴とする請求項1記載の中性化深さ測定方法。
【請求項3】
前記測定工程は、前記顕在化工程により前記凹所内のコンクリート面に非中性化層を顕在化させた後、その凹所の画像を撮像し、その画像から凹所内のコンクリート面に顕在化された非中性化層の平面投影像である非中性化領域の直径(d2)を測定するものであることを特徴とする請求項1記載の中性化深さ測定方法。
【請求項4】
前記顕在化工程の前に、前記削成工程により削成された前記凹所内のコンクリート面を蒸留水により洗浄し、その後、その凹所内のコンクリート面に付着する水分を除去する洗浄除去工程を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の中性化深さ測定方法。
【請求項5】
前記算出工程の前に、前記凹所の最大径(d1)を測定し、削孔工具の円錐状の刃先部の高さ(H)及び当該刃先部の最大外径(D)を測定して削孔工具の工具係数(K)を計算する演算予備工程を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の中性化深さ測定方法。
【請求項6】
前記削成工程は、予め設定した所定の最大径を有する前記凹所を削成するものであり、その削孔工程において用いられる削孔工具の工具係数(K)が既知であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の中性化深さ測定方法。
【請求項7】
コンクリート内の中性化の進行度を判定するための中性化判定方法において、
円錐状の刃先部を有する削孔工具によって、コンクリート表面からコンクリートの深さ方向に一定比率で内径が縮径する逆円錐状の凹所を、そのコンクリート表面に削成する削成工程と、
その削成工程により削成された凹所に対し、中性化部分若しくは非中性化部分の一方若しくはその双方又はこれらの境界を視認可能に顕在化させる試薬を噴霧して、その凹所内のコンクリート面に現われた中性化層若しくは非中性化層の一方若しくはその双方又はこれらの境界を顕在化させる顕在化工程と、
その顕在化工程の後、前記凹所内のコンクリート面に顕在化された中性化層又は非中性化層の平面投影像の大きさを現場で直接観察して、コンクリートの中性化の進行度を判定する判定工程とを備えていることを特徴とする中性化判定方法。
【請求項8】
前記判定工程に代えて、前記顕在化工程の後、前記凹所の画像を撮影し、その画像に撮像された前記凹所内のコンクリート面に顕在化された中性化層又は非中性化層の平面投影像の大きさに基づき、コンクリートの中性化の進行度を判定する判定工程を備えていることを特徴とする請求項7記載の中性化判定方法。
【請求項9】
前記顕在化工程の前に、前記削成工程により削成された前記凹所内のコンクリート面を蒸留水により洗浄し、その後、その凹所内のコンクリート面に付着する水分を除去する洗浄除去工程を備えていることを特徴とする請求項7又は8に記載の中性化判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−226961(P2011−226961A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97987(P2010−97987)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(391007460)中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社 (47)