説明

中性子検出器出力の監視装置

【目的】中性子検出器出力をデジタル化すると共に、多数の周波数帯域に分割し、ノイズを含む周波数帯域を特定排除して、信号応答の早い出力を得て、ノイズの影響の少ない中性子検出器出力の監視装置を提供する。
【構成】中性子検出器の出力信号を入力して初段信号のデジタル化等の処理を行う信号入力装置と、この信号入力装置から入力した信号を複数の周波数帯域の信号に分割する帯域分割装置と、各周波数帯域の信号を比較する信号比較器と、この信号比較器の演算結果から特定周波数帯域を選択して演算出力する信号出力装置を具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電離箱型中性子検出器における交流出力を監視する中性子検出器出力の監視装置装置に関する。
【0002】
【従来の技術】電離箱型中性子検出器は公知であって、電気的に絶縁した1対の電極および、それらの間に配置した中性子反応物質と電離性気体から構成されている。例えば、核分裂電離箱の場合は、中性子反応物質は中性子によって核分裂が加能なウラン等を用いており、この電離箱内に中性子が入射した場合には、ウランが核分裂して、その核分裂片によって電離性気体を電離する。この電離量を電離箱の電極間に電圧を印加することで収集し、電離量すなわち電離箱内の中性子束に比例した出力電流が生じる。
【0003】この電離箱の出力を測定して中性子束を求めるには、核分裂毎に発生する電流パルスを数えるパルス測定、電離箱を通って流れる平均電流を測定して得られる直流測定(DC信号)、あるいは適当な周波数範囲において電離箱内の平均2乗交流を測定することによって得られる交流測定(MSV測定)が用いられている。
【0004】一般に沸騰水型原子炉においては、原子炉の出力領域の中性子束は直流測定を行い、原子炉の起動時は、低い中性子束レベルではパルス計測を、出力領域に至るまでの高い中性子束レベルでは交流測定を採用している。このうちの交流測定については、図6のブロック構成図に示すように、中性子検出器1の出力は、信号入力装置2に入力されて信号の増幅とノイズの除去等が行われる。
【0005】次に、その出力の交流信号を、ある周波数帯域に制限するためにバンドパスフィルタ3(帯域通過フィルタ)に通し、2乗平均回路4において中性子束に比例する2乗平均出力電圧(MSV出力)を得ている。ここで、中性子検出器出力の周波数帯域は図7の周波数帯域特性図に示すように、中性子検出器の出力成分は実線の特性曲線5のように、電子およびイオンの異なる粒子の移動でできるため、低周波数帯域6(例えば0〜10kHz )と、高周波数帯域7(例えば1kHz 〜1MHz )では出力が異なって得られる。
【0006】すなわち、低周波数帯域6での出力は、高い周波数帯域7より単位周波数あたりの中性子検出器出力成分が大きくなる。このため全周波数帯域において特性曲線8で示すほぼ一定のノイズ成分(ホワイトノイズ)が加わった場合は、低周波バンドパスフィルタ9による低周波数帯域6における出力信号を採用した方が、高周波数帯域7における出力信号を用いるよりも中性子検出器出力成分とノイズ成分との割合(以下S/N比と呼ぶ)が中性子検出器の出力(MSV出力)大きい分だけ改善される。
【0007】しかしながら、この場合に低い周波数を用いるため出力信号の応答性は、高周波バンドパスフィルタ10による高周波数帯域7の出力信号を用いた場合に比較して低下する。従って、原子炉の安全保護系などに交流測定(MSV測定)を適用する場合には、原子炉を緊急停止する信号(トリップ信号)等の応答が早い信号が必要であるため、前記図6に示す、従来の実施例におけるバンドパスフィルタ3の周波数帯域を、図7に示すバンドパスフィルタ10に示すように高周波数帯域7信号を選択し、処理している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】早い応答が必要なシステムでは周波数帯域の高い帯域のみを用いているため、得られる信号のS/N比が悪くなる。しかも交流測定の中性子束測定範囲の下限は、前記S/N比によって決まるため、測定下限が高くなり、中性子測定範囲が狭くなるという課題があった。また従来は、この帯域制限にアナログ式のバンドパスフィルタ3を用いているために、バンドパスフィルタ3の構成が複雑になると共に、1乃至2の周波数帯域しか分割できず、またバンドパスフィルタ3で設定した周波数帯域の信号以外は排除していた。
【0009】このために選択した周波数帯域において、装置外から侵入したノイズ(外来ノイズ)の周波数帯域とが一致すると誤信号が発生する恐れがあった。特に、上記のように早い信号応答を必要とするシステム、例えば原子炉の安全保護系等では、その測定周波数帯域のS/N比が悪いことによる誤動作を防止する観点から、さらに耐ノイズ性に優れた中性子検出器出力の監視装置が要望されていた。
【0010】本発明の目的とするところは、中性子検出器出力をデジタル化すると共に、多数の周波数帯域に分割し、ノイズを含む周波数帯域を特定排除して、信号応答の早い出力を得て、ノイズの影響の少ない中性子検出器出力の監視装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】中性子検出器の出力信号を入力して初段信号のデジタル化等の処理を行う信号入力装置と、この信号入力装置から入力した信号を複数の周波数帯域の信号に分割する帯域分割装置と、各周波数帯域の信号を比較する信号比較器と、この信号比較器の演算結果から特定周波数帯域を選択して演算出力する信号出力装置を具備したことを特徴とする。
【0012】
【作用】中性子検出器の出力信号は、信号入力装置において波形の増幅、整形とデジタル化が行なわれる。この信号を帯域分割装置において複数の周波数帯域に分割され、各周波数帯域における信号は信号比較器と信号出力装置に出力される。信号比較器においては、各周波数帯域における信号の変化率を比較し、変化率の著しく異なる周波数帯域の信号はノイズが加わったものと判定する。また各周波数帯域の中性子出力分布、および回路ノイズを監視して、その変化により中性子検出器および回路における異常を検出して異常信号を出力する。
【0013】また前記信号出力装置では、前記信号比較器においてノイズ在りと判定された周波数帯域、および事前にホワイトノイズ等内部ノイズが多いと判定された周波数帯域を除いた周波数帯域の信号から中性子検出器の出力信号を演算し、出力する。また応答の早い信号が必要なシステムについては、正常として選択された周波数帯域のうち、応答性の早い高周波数帯域における信号出力を選択して出力し、一方、中性子束レベルが低く検出器出力が小さい場合は、S/N比の優れた低周波数帯域における信号を出力する。
【0014】
【実施例】本発明の一実施例を図面を参照して説明する。なお、上記した従来技術と同じ構成部分については同一符号を付して詳細な説明を省略する。本発明の監視装置は、図1のブロック構成図に示すように、中性子検出器1と、この出力信号1aを入力して増幅し、ノイズの除去とデジタル変換等を行う信号入力装置20と、この信号入力装置20からの出力信号を周波数帯域毎の信号に分割する帯域分割装置21を備える。
【0015】この帯域分割装置21からの周波数帯域ごとに分割された信号を入力して、信号の変化率を夫々計算、比較し、その変化率が他の周波数帯域の信号と異なる周波数帯域の信号をノイズによる影響とし、また各周波数帯域の出力の比較、すなわち周波数特性を監視して特性の変化により中性子検出器1等の異常を診断して、異常信号e1 を出力する信号比較装置23を設ける。
【0016】また前記帯域分割装置21において周波数帯域ごとに分割された信号を入力して、中性子出力成分に比べてノイズ成分の大きな周波数帯域の信号を除き、正常として選択された周波数帯域における信号の2乗平均出力信号と、正常として選択された周波数帯域のうち、高周波数帯域における信号を選択した出力信号と、さらに、中性子束レベルが低く検出器出力が小さい場合は、正常として選択された周波数帯域のうちのS/N比の優れた低周波数帯域における信号を選択した出力信号を出力する信号出力装置22とで構成されている。
【0017】前記信号入力装置20はその詳細を図2の構成図で示すように、中性子検出器1の出力を増幅する電流アンプ30と、アンチエジアリングフィルタとしてのアナログフィルタ31、および信号をサンプリングするサンプリング装置32、さらにデジタル信号に変換するA/D変換器33とから構成されていて、電流アンプ30により出力信号1aを増幅し、その出力をデジタル化するものである。
【0018】また帯域分割装置21は、信号入力装置20でデジタル化した信号を入力し、周波数帯域F1 ,F2 ,F3 …Fn毎に分割して、図3の周波数帯域特性図に示すように、信号f1 ,f2 ,f3 …fnに分割するが、この周波数帯域の分割方法は、例えば公知のフィルタバンクというデジタル演算処理を用いることで、従来のアナログフィルタ処理に比べ、さらに細かく分割した複数の信号が得られる。
【0019】特に従来のアナログで周波数帯域制限を行う場合は選択した帯域以外の検出器出力は失われ、また複数の帯域を処理するには帯域分割装置3の構成が複雑になる等の支障があったが、デジタル演算で分割をすることで、中性子検出器出力の全ての周波数帯域を失うことなく利用できる。この帯域分割装置21において周波数帯域F1 ,F2 ,F3 …Fn毎に分割した信号f1 ,f2 ,f3 …fnは、信号出力装置22、および信号比較装置23に出力される。
【0020】信号比較装置23は、入力された信号f1 ,f2 ,f3 …fnの変化率を夫々計算、比較して、その変化率が、他の周波数帯域の信号と異なる信号をノイズによる影響と判定して、信号s1 ,s2 ,s3 …snを信号出力装置22に出力する。また各周波数帯域の出力の比較、すなわち周波数特性を監視し、特性の変化により中性子検出器1の異常を診断して異常信号e1 を出力する。
【0021】信号出力装置22においては、定常的に帯域分割装置21からの信号により、例えば図3の周波数帯域特性図に示すように、特性曲線5に示す中性子出力成分に比べて特性曲線11に示すノイズ成分が大きな周波数帯域F1 ,F2 ,F7 ,Fn−1 ,Fnの信号f1 ,f2 ,f7 ,fn−1 ,fnを除いた周波数帯域F3 …F6 ,F8 …Fn−2 の信号f3 …f6 ,f8 …fn−2 の2乗平均演算をして信号a1 を出力する。
【0022】なお、前記信号比較装置23からノイズの影響があると判断した、例えば周波数帯域F1 ,F2 ,F7 ,F10,Fn−1 ,Fnの信号s1 ,s2 ,s7 ,s10,s−1 ,snを受けると、さらに信号f10を含めた信号f1 ,f2 ,f7 ,f10,fn−1 ,fnを除いた周波数帯域の信号f3 …f6 ,f8 ,f9 ,f11…fn−2 について2乗平均演算し、信号a1 を出力する。さらに、信号出力装置22における定常時および信号比較装置23からの信号入力時における演算と信号出力は、前記全周波数帯域に対する信号a1 の場合と同様に、低周波数帯域6に限定した信号a2 、および高周波数帯域7における信号a3 を共に出力する。
【0023】次に上記構成による作用について説明する。中性子検出器1の出力信号1aは、信号入力装置20において増幅されると共に、デジタル変換されて帯域分割装置21の出力される。帯域分割装置21においては、入力信号を多数の周波数帯域F1 ,F2 ,F3 …Fn毎の信号f1 ,f2 ,f3 …fnに分割して、信号出力装置22、および信号比較装置23に出力する。
【0024】信号比較装置23は、入力された多数の周波数帯域毎の信号f1 ,f2 ,f3 …fnから、ノイズ、特に周波数帯域により異なる強度を持つノイズが発生した場合には、そのノイズの加わった周波数帯域の信号の変化率が他の帯域と著しく異なることから、その周波数帯域を同定し、その結果を信号出力装置22に信号s1,s2 ,s3 …snとして出力する。さらに、中性子検出器1の出力の周波数特性を監視することにより、中性子検出器1の異常を診断して異常発生時には異常信号e1 を出力する。
【0025】信号出力装置22では、例えば図3の周波数帯域特性図に示すように、定常的に特性曲線5に示す中性子出力成分に比べて特性曲線11に示すノイズ成分が大きな周波数帯域F1 ,F2 ,F7 ,Fn−1 ,Fnを除いた周波数帯域F3 …F6 ,F8 …Fn−2 の信号f3 …f6 ,f8 …fn−2 の2乗平均演算をして信号a1 と低周波帯域での信号a2 、および高周波帯域での信号a3 を出力する。さらに、信号比較装置23によりノイズの影響と判断した周波数帯域についても、その信号s1 ,s2 ,s3 …snの入力により随時ノイズを含む信号として削除した上で2乗平均演算して信号a1 として出力する。
【0026】また上記2乗平均演算とその出力は、低周波数帯域6および高周波数帯域7についても実施して、夫々信号a2 と信号a3 を共に出力する。これにより、中性子検出器1からの交流測定による出力の信号a1 および信号a2 と信号a3 から、ノイズ、特に周波数帯域により異なる強度をもつノイズが発生した場合は、そのノイズの加わった周波数、すなわち信号の変化率が他の帯域と著しく異なる帯域を信号比較装置23により特定し、その信号s1 ,s2 ,s3…snから信号出力装置22の出力から省いてノイズの影響を最小限にする。
【0027】なお、これは、中性子検出器1の出力信号1aである中性子束が増加した場合に、通常全ての周波数帯域で、ほぼ同じ信号変化率を示すという特徴を利用して、外来ノイズを削除するものである。図4の周波数帯域特性図は、例として中性子検出器1における封入ガス圧が低下した場合の出力の周波数特性の変化を示したものである。正常状態の中性子検出器1の出力特性曲線5に対して、封入ガス圧が低下した場合の出力特性曲線12は、従来、中性子による出力のない周波数帯域fn,fn+1 において、中性子による出力が発生していることから、中性子検出器1の異常が容易に検出できる。
【0028】またS/N比特性のよい低周波数帯域6の信号と信号応答性のよい高周波数帯域7の信号を信号出力装置22より同時に出力するために、S/N比の優れた信号a2 と共に、トリップ信号等に適する応答の早い信号a3 も同時に出力することができる。すなわち、上記した従来例のように高周波数帯域のみの測定に比べて、応答性は従来と同じ高周波数帯域を用いるため同等の応答性が得られると共に、同時に低周波数帯域の信号も出力するためS/N比特性が改善され、さらに低い中性子束レベルまで測定が可能となる。
【0029】以上から、特定の周波数帯域に発生するノイズは、自動的に2乗平均演算の周波数帯域から削除されて、ノイズに影響されない中性子束レベルに比例した2乗平均出力信号が得られる。また中性子検出器1における異常も早期に検出できるため、中性子検出器1の故障による誤信号の発生を防止することがで、さらに、信号応答性の早い信号と、S/N比のよい信号を区別して出力するために、従来と比較して高い信号応答性を維持しながら、中性子束範囲を拡張することができる。
【0030】図5は本発明の他の実施例のブロック構成図で、信号比較装置23の出力を信号入力装置24の電流アンプ34のゲイン調整に用いる構成としたものである。中性子検出器1に電圧を印加しない場合に測定される信号は、主に入力段の抵抗によって発生するホワイトノイズ成分であり、入力段の抵抗が同じならばその成分の大きさは、電流アンプ34以降の回路での増幅度の違いが原因である。
【0031】従って、ホワイトノイズ成分を測定すること、すなわち、適当な周波数帯域のノイズ成分を測定し、これにより電流アンプ34のゲインを調整することにより、増幅度の校正が自動的に行える。また中性子束測定中でも、図3に示す各周波数帯域fnの信号等、中性子による出力成分の周波数帯域の信号を用いることで、増幅度または回路の動作状態の検証が常に行うことができるので信頼性が向上する。
【0032】
【発明の効果】以上本発明によれば、特定の周波数帯域に発生するノイズは、その周波数帯域を自動的に2乗平均演算の周波数帯域から削除することにより、演算結果に影響させず、耐ノイズ性が向上する。また中性子出力および回路のホワイトノイズの周波数特性が測定できるため、中性子検出器および回路の異常を早期に検出でき、中性子検出器および監視装置の故障による誤信号の発生を未然に防止できる。さらに、信号応答性の早い信号とS/N比の良い信号を区別して出力するために、早い信号応答性を維持しながら、中性子束の測定範囲を拡張できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例のブロック構成図。
【図2】本発明の一実施例の信号入力装置の詳細構成図。
【図3】本発明の一実施例に係る中性子検出器の出力信号の周波数帯域特性図。
【図4】本発明の一実施例に係る異常中性子検出器の出力信号の周波数帯域特性図。
【図5】本発明の他の実施例のブロック構成図。
【図6】従来の中性子検出器出力の監視装置のブロック構成図。
【図7】従来の中性子検出器出力の監視装置における周波数帯域特性図。
【符号の説明】
1…中性子検出器、1a…出力信号、5…中性子出力成分の特性曲線、6…低周波数帯域、7…高周波数帯域、11…ノイズ成分の特性曲線、12…中性子異常出力成分の特性曲線、20,24…信号入力装置、21…帯域分割装置、22…信号出力装置、23…信号比較装置、30,34…電流アンプ、31…アナログフィルタ、32…サンプリング装置、33…A/D変換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 中性子検出器の出力信号を入力して初段信号のデジタル化等の処理を行う信号入力装置と、この信号入力装置から入力した信号を複数の周波数帯域の信号に分割する帯域分割装置と、各周波数帯域の信号を比較する信号比較器と、この信号比較器の演算結果から特定周波数帯域を選択して演算出力する信号出力装置を具備したことを特徴とする中性子検出器出力の監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平5−215860
【公開日】平成5年(1993)8月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−18898
【出願日】平成4年(1992)2月4日
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)