説明

中空糸多孔膜の利用効率の高い中空糸多孔膜モジュール

【課題】使用する中空糸多孔膜の利用効率が高い中空糸多孔膜モジュールを提供すること。
【解決手段】中空糸多孔膜と、中空糸多孔膜を格納するモジュールと、を備え、モジュール内に中空糸多孔膜の両端が接着剤によって固定されており、モジュールが、筒状のパイプ部分50と、パイプ部分50の両端部にそれぞれ接続される、側面にそれぞれヘッダー貫通管111が設けられた、筒状のヘッダー部分100と、該筒状のヘッダー部分100のパイプ部分50に接続する側の反対側に接続される、パイプ部分50内に格納された中空糸多孔膜の内側と連通するためのキャップ貫通管211が設けられたキャップ部分200と、を備え、キャップ部分200の側壁に、ヘッダー部分100のヘッダー貫通管111と勘合する凹部が設けられた、中空糸多孔膜モジュールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜として使用される中空糸多孔膜を格納した中空糸多孔膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸多孔膜は分離膜として、さまざまな分野に広く使用されている。その主な分離のメカニズムは、液体を中空糸多孔膜の内側から外側、あるいは外側から内側に透過するように通液させることにより、制御された細孔径を利用して、その細孔径より大きな対象物質が多孔膜を通過することを阻害し、不要な成分が除去された精製液を得ることである。細孔により不要物を除去するメカニズムは、平膜の多孔膜と同様である。しかし、中空糸多孔膜を一般工業的な用途に応用するためには、中空糸構造をとることのみでは不十分であり、供給した溶液が必ず中空糸多孔膜を通過したろ液として得られるような構造とすることが求められる。そのため、中空糸多孔膜をモジュールに格納した後、中空糸多孔膜の内側と外側とをつなぐ流路が、中空糸多孔膜を透過する流路以外には形成されえないような構造をとる必要がある。
【0003】
この目的のために、一般に中空糸多孔膜モジュールは円筒形をしており、モジュール内の中空糸多孔膜は、この円筒内の両端において、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコンゴムなどの接着剤により固定される。この接着剤は中空糸多孔膜をモジュールに物理的に固定すると同時に、中空糸多孔膜を通過する以外の、中空糸多孔膜の内側領域から外側領域あるいはその逆方向への流路を確実に遮断する隔壁としての重要な機能を有する。
【0004】
中空糸多孔膜モジュールは工業的にも極めて一般的なものであり、水処理などに代表される液体の精製、ガス分離、逆浸透法、パーベーパレーションなどに広く使われており、技術専門書などにも紹介されている。例えば非特許文献1には、液体又は気体の供給方法として、中空糸多孔膜の内側あるいは外側から供給し、外側あるいは内側に透過させて、液体又は気体を精製する方法が紹介されている。また、中空糸多孔膜モジュールの利点として、モジュールケースへの膜充填密度が高いという特徴が上げられ、体積当たりの膜面積が約30,000m2/m3にも達することが紹介されている。
【0005】
また近年、非特許文献2のように、タンパク質と相互作用する官能基を付与された、タンパク質を吸着する能力を有する中空糸多孔膜の例も報告されている。このような性質を有する中空糸多孔膜は、タンパク質の精製プロセスにおいて、従来のカラムクロマトグラフィーに比べ、高流速での通液が可能となるため、特に近年での抗体医薬品の生産量が大幅に増大している状況において、その実用化が強く望まれている。即ち、中空糸多孔膜を工業的に実用可能とするためには、モジュール化した形態として提供することが求められている。
【0006】
タンパク質を吸着する能力を有する中空糸多孔膜モジュールの例として、非特許文献3には、電荷相互作用によりタンパク質を吸着する性質を有する中空糸多孔膜を用いて、ペンシル型の中空糸多孔膜モジュールを作成し、タンパク質を吸着、回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Marcel Mulder著、「膜技術」、株式会社アイピーシー
【非特許文献2】Journal of Chromatography A, 1995年,第689巻,p.211−218
【非特許文献3】Journal of Chromatography A,1997年,第782巻,p.159−165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、中空糸多孔膜モジュールは、モジュール体積当たりの膜面積が極めて高く設計できるという、平膜モジュールにはない優れた特長を有する。一方で、中空糸多孔膜はモジュール内の両端あるいは片端において接着剤により固定される必要があるが、中空糸多孔膜の接着剤で固定された部分は、液体が透過できないため、分離膜としての機能を果たし得ない。即ち、中空糸多孔膜の固定部分はデッドスペースとなる。デッドスペースとなる部分の中空糸多孔膜の長さは、通常数cmから大型モジュールでは10cmを大きく超えることもある。また小型のモジュールであっても、1cm以下にすることは難しい。
【0009】
これは、通常、中空糸多孔膜の固定が、中空糸多孔膜を筒状のモジュール内に入れた後、モジュール側面のアウトレットと呼ばれる貫通管から接着剤を流し込み、モジュール端面からアウトレットの位置までに接着剤を充満することにより中空糸多孔膜を固定する、遠心接着あるいは静置接着と呼ばれる方法によるためである。モジュールを実用可能な形体とするためには、筒状のモジュールの端面に、アウトレットを備えたヘッダーあるいはキャップと呼ばれる部品を接続する必要がある。通常のモジュール形成においては、ヘッダーあるいはキャップはモジュール端面からモジュール側面のアウトレットまでの部分にその外周に沿ってはめ込むようにして接着固定される。その場合、モジュールの長手方向における接着層の長さ、即ち中空糸多孔膜のデッドスペースの長さは、最短でも約1cm以上は必要となる場合がある。特に、全体の長さが20cm以下の小型モジュールの場合、数cmものデッドスペースが存在することは、モジュールに使われている中空糸多孔膜において少なからぬ割合の部分が無駄にされていることを意味し、効率上好ましくない。
【0010】
水処理などに利用されている、サイズ分割により夾雑物を除去することにより、精製された液体をろ液として回収することを目的とした中空糸多孔膜モジュールにおいては、除去された夾雑物は中空糸多孔膜の細孔を通過することが出来ないことから、かかるデッドスペースは実用上の大きな問題とはならないものの、中空糸多孔膜の有効利用率を低下させるというデメリットがあることは否定できない。
【0011】
さらにサイズ分割する通常の分離膜でなく、対象物をイオン相互作用などの原理による吸着により捕捉する吸着膜の場合、接着剤によって固定された中空糸多孔膜部分に吸着した対象物が有効に回収されない結果となる。また、洗浄工程等において、透過させる液体の種類を切り替える際に、デッドスペースに吸着されていた対象物がろ液内に流出し、本来想定していない状況において透過液中に対象物が含まれるという不具合が生じる場合があり、実使用において解決すべき課題となる。
【0012】
また、非特許文献3に記載されているタンパク質吸着中空糸多孔膜モジュールの場合、モジュール内での中空糸多孔膜の有効長は7.5cmであり、接着剤に固定された両端のデッドスペース部分は各1.5cmであり、合計すると3cmになる。即ち、全中空糸多孔膜長の約30%が活用されていない部分となる。実際の使用においては、タンパク質を含む溶液を通液し、そのタンパク質を吸着した後、タンパク質の吸着を解除する塩溶液を通液して吸着されたタンパク質を溶出回収するプロセスが記載されている。しかしながら、タンパク質はデッドスペース部分の中空糸多孔膜にも吸着されており、この中空糸多孔膜部分には塩溶液が十分に通液されないため、吸着したタンパク質を充分に回収することができない。即ち、吸着したタンパク質の内、最大30%を有効に回収することが出来ないこととなり、実用上問題となる。さらに、塩溶液通液後に塩を含まない緩衝液を通液してモジュールを洗浄する際に、塩濃度勾配によりデッドスペース部分に吸着されていたタンパク質が脱離し、洗浄液中に含まれて流出される。そのため、デッドスペース部分の割合が高い場合には、洗浄効率が極めて低下し、大量の洗浄液が必要となる。
【0013】
かかる状況に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、中空糸多孔膜の接着剤によって固定された部分の長さを短くして、使用する中空糸多孔膜の利用効率を高めると同時に、特にタンパク質の吸着回収の際に、デッドスペースによって生じる回収率の低下、及び洗浄液等のろ液への吸着対象物の混入を抑制する、モジュール並びにその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の態様は、中空糸多孔膜と、中空糸多孔膜を格納するモジュールと、を備え、モジュール内に中空糸多孔膜の両端が接着剤によって固定されており、モジュールが、筒状のパイプ部分と、パイプ部分の両端部にそれぞれ接続される、側面にそれぞれヘッダー貫通管が設けられた、筒状のヘッダー部分と、筒状のヘッダー部分のパイプ部分に接続する側の反対側に接続される、パイプ部分内に格納された中空糸多孔膜の内側と連通するためのキャップ貫通管が設けられたキャップ部分と、を備え、キャップ部分の側壁に、ヘッダー部分のヘッダー貫通管と勘合する凹部が設けられた、中空糸多孔膜モジュールであることを要旨とする。
【0015】
また、本発明の他の態様は、筒状のパイプ部分と筒状のヘッダー部分とを接続することと、接続されたパイプ部分とヘッダー部分との内部に、中空糸多孔膜を挿入することと、接着剤を、ヘッダー部分に設けられたヘッダー貫通管から、中空糸多孔膜の外面とヘッダー部分の内壁との間に注入して、中空糸多孔膜をヘッダー部分に固定することと、ヘッダー部分のパイプ部分と接続した端部と反対側の端部を、ヘッダー貫通管を残すようにして切断することと、ヘッダー貫通管の外壁と勘合する凹部が設けられたキャップ部分を、ヘッダー部分に接続することと、を含む、中空糸多孔膜モジュールの製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の中空糸多孔膜モジュール及びその製造方法を用いることにより、接着剤によって固定される中空糸多孔膜のデッドスペースが少ない中空糸多孔膜モジュールを提供することが可能となる。また、モジュールにおける中空糸多孔膜の有効活用率を大幅に向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る中空糸多孔膜モジュールの断面図である。
【図2】本実施の形態に係るヘッダー部分の断面図である。
【図3】本実施の形態に係るヘッダー部分をパイプ接続部分の方から見た側面図である。
【図4】本実施の形態に係るヘッダー部分をキャップ部分に接続される方向から見た側面図である。
【図5】本実施の形態に係るキャップ部分の断面図である。
【図6】本実施の形態に係るキャップ部分の上面図である。
【図7】本実施の形態に係るキャップ部分のヘッダー部分に接続される端部の反対側の端部の側面図である。
【図8】本実施の形態に係るキャップ部分のヘッダー部分に接続される端部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。本実施の形態に係る中空糸多孔膜モジュールは、中空糸多孔膜と、中空糸多孔膜を格納するモジュールと、を備える。モジュール内に、中空糸多孔膜の両端が接着剤によって固定されている。本実施の形態に係るモジュールは、図1に示すように、筒状のパイプ部分50と、パイプ部分50の両端部にそれぞれ接続される、側面にそれぞれヘッダー貫通管111が設けられた、筒状のヘッダー部分100と、筒状のヘッダー部分100のパイプ部分50に接続する側の反対側に接続される、パイプ部分50内に格納された中空糸多孔膜の内側と連通するためのキャップ貫通管211が設けられたキャップ部分200と、を備える。ここで、キャップ部分200の側壁には、ヘッダー部分100のヘッダー貫通管111と勘合する凹部が設けられている。
【0019】
本実施の形態における「中空糸多孔膜」とは、細孔を有する中空糸状の多孔質分離膜をいう。中空糸多孔膜の素材、多孔膜の細孔径は限定されるものではない。
【0020】
本実施の形態における「中空糸多孔膜モジュール」は、筒状のモジュールと、モジュールに格納された中空糸多孔膜であって、モジュール内に接着剤によって両端を固定された中空糸多孔膜と、を備える。さらに、モジュールの端面及び側面には、少なくとも1つ以上のアウトレットと呼ばれる貫通管又はインレットと呼ばれる貫通管が設けられている。円筒状のモジュールの端面の貫通管から導入された液体は、モジュール内の中空糸多孔膜の内側から外側に透過し、さらにモジュールの側面の貫通管を経て外部に通液される。あるいは、円筒状のモジュールの側面の貫通管から導入された液体が、モジュール内の中空糸多孔膜の外側から内側に透過し、さらにモジュールの端面の貫通管を経て外部に通液される。このように、中空糸多孔膜モジュールとは、液体が中空糸多孔膜を通過したろ液として回収されるように通液し、液体の精製あるいは液体に含まれる目的物の回収に利用される形態のものをいう。モジュール及び接着剤の材質は限定されるものではない。
【0021】
モジュール内において、中空糸多孔膜の接着剤によって固定された部分の長さの、中空糸多孔膜の全体の長さに対する割合は、中空糸多孔膜の有効に活用される部分をより多く確保するという観点から、1%以上30%以下が好ましく、より好ましくは1%以上20%以下、さらに好ましくは1%以上10%以下である。30%を超える場合は、中空糸多孔膜の有効に活用可能な部分の、中空糸多孔膜全体に対する割合が低下するため、非効率になる傾向にある。また1%未満では、モジュール内において、中空糸多孔膜の固定が有効になされない場合がありうる。
【0022】
モジュール内に格納されている中空糸多孔膜の長さは、中空糸多孔膜の処理能力の観点から、3cm以上200cm以下が好ましく、より好ましくは3cm以上150cm以下、さらに好ましくは5cm以上100cm以下である。中空糸多孔膜長が3cm未満の場合、処理できる液体の量が少ないため実用性が低くなる場合がある。200cmを超える場合、モジュールの力学的強度が低下するため実用的に利用することが容易でなくなる場合がある。
【0023】
本実施の形態におけるモジュールは、上記の好ましい条件を満たすために、5個の部品より構成され、これらを組み合わせて形成されるモジュールが好ましい。即ち、5個の部品とは、(1)モジュールの中央部分に位置し、中空糸多孔膜有効長の殆どが格納される図1に示す「パイプ部分50」、(2)「パイプ部分50」の両端部分にそれぞれ接続される2個の部分であって、図2乃至図4に示すように、側面112に中空糸多孔膜外側からモジュール外部へののアウトレット又はモジュール外部から中空糸多孔膜外側へのインレットとなるヘッダー貫通管111を有し、中空糸多孔膜の接着部分が主に格納される「ヘッダー部分100」、並びに(3)2個の「ヘッダー部分100」のそれぞれの、パイプ部分への接続部分113の反対側に接続される、図5乃至図8に示すように、モジュール外部から中空糸多孔膜内側へのインレット又は中空糸多孔膜内側からモジュール外部へのアウトレットとなるキャップ貫通管211を有する「キャップ部分200」である。
【0024】
ここで(1)の図1に示す「パイプ部分50」は、格納すべき中空糸多孔膜の長さに応じて任意にその長さを変えることができる。また、(3)の図5及び図6に示す「キャップ部分200」は、(2)の図2に示す「ヘッダー部分100」に接続される際、ヘッダー部分100が有するヘッダー貫通管111が接続の障壁となることにより、その分接着剤で固定された中空糸多孔膜のデッドエンド部分が長くなってしまうことを避けるために、図6に示すキャップ部分200の図2に示すヘッダー部分100にはめ合わされる側面部分には、ヘッダー部分100が有するヘッダー貫通管111の形状に合わせた切れ込みである、図6及び図8に示す凹部212が設けられている。キャップ部分200の凹部212が図2に示すヘッダー部分100のヘッダー貫通管111と勘合することにより、図6に示すキャップ部分200と図2に示すヘッダー部分100との接続に要する長さがその分短くなり、中空糸多孔膜のデッドスペース部分の長さが短くなる。このような部品の構成によりモジュールを組み立てることにより、中空糸多孔膜のモジュール内におけるデッドスペースを、従来のモジュールより低減することが可能となる。さらに、本実施の形態に係る図2に示すヘッダー部分100及び図6に示すキャップ部分200の形状によれば、モジュールの図2に示すヘッダー部分100の側面のヘッダー貫通管111の直径が大きい場合、あるいは、モジュールの長さが短く、通常の方法ではデッドスペース部分を減らすことが困難なモジュールを組み立てる場合にも、デッドスペース部分の長さを短くしうるという、顕著な効果を奏する。
【0025】
本実施の形態において、図2に示すヘッダー部分100の形状は、側面のヘッダー貫通管111が、パイプ部分への接続部分113の反対側の、図6に示すキャップ部分200への接続部分の端面により近い位置にあることが好ましい。しかしながら、図2に示すヘッダー貫通管111が図6に示すキャップ部分200への接続部分の端面の直近にあると、実際のモジュール作成時に困難が生じる場合がある。これは、モジュール作成において、まず図2に示すヘッダー部分100をパイプ部分の両端に接続して接着剤にて固定し、次いで中空糸多孔膜を挿入した後に、ヘッダー部分100の側面のヘッダー貫通管111から、中空糸多孔膜を固定するための接着剤を注入する際に、固定される部分の中空糸多孔膜の長さに相当するヘッダー部分100に十分な長さがないと、接着剤が中空糸多孔膜内側に侵入し、中空糸多孔膜の通液を閉塞する可能性が高くなる傾向にあるためである。
【0026】
このため、中空糸多孔膜の接着剤による固定の際にはかかる閉塞が生じないように、接着剤が注入されるヘッダー部分100の長さは十分に長くあることが要求される。しかしながら、かかる作製に適したヘッダー部分100の構造は、本実施の形態の主旨である、デッドスペース部分の長さの割合を30%以下に抑制するという目的の上では、好ましくない。このため、本実施の形態においては、ヘッダー部分100の内壁と中空糸多孔膜の外面を接着剤にて固定する際のヘッダー部分100の接着剤が注入される部分の長さは、接着剤が中空糸多孔膜内側に浸透しない、あるいは浸透しても中空糸多孔膜の奥深くまで浸透しない程度に長くあり、中空糸多孔膜の接着剤による固定後、ヘッダー部分100の図6に示すキャップ部分200に接続される方向の端部を、図2に示すように、ヘッダー貫通管111の直近まで切断し、その後、ヘッダー部分100のヘッダー貫通管111の形状に合致した図6に示す凹部212を有するキャップ部分200を図2に示すヘッダー部分100に接続して、接着剤にて固定する方法にて、図1に示すモジュールを製造する方法が望ましい。この方法に従ってモジュール作成することにより、中空糸多孔膜のモジュールへの固定の際に、固定に用いる接着剤が中空糸多孔膜内側に侵入し、中空糸多孔膜を閉塞する不都合を抑制することが可能となると同時に、本実施の形態の主旨である、デッドスペース部分の比率の小さなモジュールの作成が可能となる。
【0027】
本実施の形態において、それぞれモジュールと外部配管とを接続するための、ヘッダー貫通管111の形状と、図5に示すキャップ貫通管の形状とは、同じであることが好ましい。これにより、モジュール使用に当たって、中空糸多孔膜の内側から液体を供給して、外側に通液するいわゆる内側供給(Inside−out)の流路、あるいは、その反対に中空糸多孔膜の外側から液体を供給して、内側に通液するいわゆる外側供給(Outside−in)の流路の、どちらの流路採用する場合でも、外部配管の同一形状の接続部分を使用することが可能となり、配管接続部分の交換の必要がなく、実際の使用において有効である。
【0028】
さらに、本実施の形態に係るモジュールのサイズが、実験用に用いるに適したほどに小さい場合、即ち、モジュールに格納された中空糸多孔膜の長さが数cmから数10cm程度までの場合には、通液する液体の単位時間当たりの流量、即ち流速は小さいことが想定されるため、モジュールが有する図2に示すヘッダー貫通管111及び図5に示すキャップ貫通管は、その実用流速に適応した形態であることが好ましく、具体的には、当業者が用いる実験室において配管の接続に多用される、ルアーロックの形状であることが好ましい。
【0029】
本実施の形態に係るモジュールは、サイズによるろ過によって夾雑物を除去する中空糸多孔膜を用いたモジュールの場合にも有効であるが、相互作用によって、イオン、分子、あるいは微粒子状の目的物を吸着することを目的とした、中空糸多孔膜の一種である、いわゆる中空糸吸着膜の場合にも有効である。これは、課題の説明において詳述したように、吸着する対象が目的物であって、吸着後に溶出、回収する場合には、中空糸のデッドスペースの割合が大きいと、回収される目的物の回収効率がその割合に応じて低下するためであり、また吸着する対象が夾雑物であって、ろ液中から除去することが目的の場合に、液の切り替えなどの際に吸着された目的物が溶出し、ろ液中に混入する可能性が生じるためにある。
【0030】
このような対象物との相互作用によって、対象物を吸着する性質を有する中空糸多孔膜としては、非特許文献2及び3に記載されている、アニオン交換基を有する中空糸多孔膜がその例として挙げられるが、これに限定されるものではなく、それ以外にカチオン交換基、疎水性基あるいは、そのたプロテインAなどのアフィニティ型の官能基を有する、中空糸多孔膜であっても同様である。吸着する対象物としては、その単価が効果であり、医薬品及び食品として有効に活用される、タンパク質が好適であり、したがって、タンパク質を吸着する性質を有する中空糸多孔膜を、本実施の形態に適用することが好適である。
【0031】
このように、本実施の形態に係る中空糸多孔膜モジュール及びその製造方法を用いることにより、中空糸の有効利用率が高く、工業使用並びに実験室レベルでの使用のどちらにも適切に対応した、特に吸着相互作用を有する多孔質中空糸膜のモジュールを効率的に製造することが可能となる。また、本実施の形態に係るモジュールを用いることにより、医薬品あるいは食品として有用なタンパク質の精製及び回収を効率的に行うことも可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、製造例及び実施例(本明細書中において、単に「実施例等」ともいう。)に基づいて本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例のみに限定されない。また、以下の全ての実施例等において、中空糸多孔膜は、基材に細孔が設けられた中空糸状の多孔膜である。
【0033】
[製造例1]アニオン交換基を有する中空糸多孔膜
(1)中空糸多孔膜へのグラフト鎖の導入
外径3.0mm、内径2.0mm、バブルポイント法で測定した最大細孔径が0.3μmのポリエチレン多孔質中空糸膜(中空糸多孔膜)の重量を測定した。次に、中空糸多孔膜を密閉容器に入れ、密閉容器内の空気を窒素で置換した。その後、密閉容器の外側からドライアイスで冷却しながら、中空糸多孔膜に200kGyのγ線を照射し、ラジカルを発生させた。次に、ラジカルを発生させた中空糸多孔膜をガラス反応管に入れ、ガラス反応管内部を200Pa以下に減圧し、ガラス反応管内部の酸素を除いた。次に、ガラス反応管内部に、グリシジルメタクリレート3体積部、メタノール97体積部からなる、40℃に調整したグリシジルメタクリレートのメタノール混合溶液からなる反応液を、10重量部の中空糸多孔膜に対して、100重量部注入した。なお、メタノール混合溶液を予め窒素でバブリングし、メタノール混合溶液内の酸素を窒素置換しておいた。その後、12分間ガラス反応管を密閉した状態で静置してグラフト重合反応を進行させ、中空糸多孔膜にグラフト鎖を導入した。
【0034】
グラフト重合反応後、ガラス反応管内の反応液を捨てた。さらに、ガラス反応管内にジメチルスルホキシドを入れ、中空糸多孔膜を洗浄した。洗浄後、ジメチルスルホキシドを捨てた後、再度ガラス反応管内にジメチルスルホキシドを入れ、中空糸多孔膜を洗浄した。これを3回繰り返した後、メタノールを用いて同様に洗浄を3回行った。洗浄後、ガラス反応管から中空糸多孔膜を取り出し、40℃に調整した真空乾燥機に入れ6時間以上乾燥することにより、グリシジルメタクリレートのグラフト鎖が導入された中空糸多孔膜を得た。得られた中空糸多孔膜のグラフト鎖の導入量を示すグラフト率は47%であった。ここでグラフト率(dg)は下記(1)式で算出した。
dg=(w1−w0)/w0 ・・・(1)
ここでw0は反応前の中空糸多孔膜の重量、w1はグラフト鎖が導入された中空糸多孔膜の重量である。
【0035】
(2)グラフト鎖へのアニオン交換基の固定
グラフト鎖を導入した後、乾燥した中空糸多孔膜を、10分以上メタノールに浸漬して膨潤させた後、純水に浸漬して水置換しておいた。また、50体積部のジメチルアミン及び50体積部の純水を混合して得た反応液を用意した。次に、グラフト鎖が導入された中空糸多孔膜の20重量部の反応液をガラス反応管に入れ、30℃に調整した。その後、グラフト鎖が導入された中空糸多孔膜をガラス反応管に挿入し、210分間静置して、グラフト鎖のエポキシ基をジエチルアミノ基に置換し、実施例に係るアニオン交換基を有する中空糸多孔膜を得た。得られた中空糸多孔膜のアニオン交換基の導入程度を示すモル転化率は93%であった。ここで、エポキシ基のモル数N2のうち、ジエチルアミノ基に置換されたモル数N1をモル転化率Tと呼び、下記(2)式で算出した。
T=100×N1/N2
=100×{(w2−w1)/M1}/{w1(dg/(dg+100))/M2}・・・(2)
ここで、M1はジエチルアンモニウムの分子量(73.14)、w1はグラフト重合反応後の中空糸多孔膜の重量、w2はジエチルアミノ基置換反応後の中空糸多孔膜の重量、dgはグラフト率、M2はグリシジルメタクリレートの分子量(142)である。
この製造例1にて得られた中空糸多孔膜をタンパク質を吸着する性質を有する中空糸多孔膜として実施例に用いた。
【0036】
[製造例2]
テイヨー株式会社に製造依頼することにより、内径5mm、外径8mm、長さ10000mmのポリスルホン製のパイプ部分50を押出し成型にて製造した。
[製造例3]
村角株式会社に製造依頼することにより、図2乃至図4に示すようなポリスルホン製のヘッダー部分100を、金型成型により製造した。また、図5乃至図8に示すようなポリスルホン製のキャップ部分200を、金型成型により同様に製造した。
【0037】
[実施例1]
製造例2で得られたポリスルホン製のパイプ部分50を長さ8cmに切断し、この両端に製造例3で得られた図2に示すヘッダー部分100を接着剤で固定した。ここに製造例1で得られた中空糸多孔膜を挿入し、片方のヘッダー部分100を下(重力方向)にしてヘッダー部分100の側面112のヘッダー貫通管111から接着剤を注入することにより、このヘッダー部分100の内壁の中空糸多孔膜の外面とを固定した。次に、もう一方のヘッダー部分100を下(重力方向)にして同様に接着剤を注入し、中空糸多孔膜の両端を固定した。固定後、両方のヘッダー部分100のそれぞれの端を10mm切断し、ヘッダー部分100の側面のルアーロックアウトレット状のヘッダー貫通管111がヘッダー部分100の端面の直近に位置するようにした。ここに製造例3で得られた図5及び図6に示すキャップ部分200を、その凹部212が図2に示すヘッダー部分100のヘッダー貫通管111の外壁と勘合するようにして、両端のヘッダー部分100にはめ合わせ、接着剤で固定した。これによりモジュール内における中空糸多孔膜の全長が107mm、有効長が96.8mm、接着剤で固定されたデッドスペース部分の長さが両端とも5.1mmの、図1に示すようなタンパク質吸着モジュールが得られた。得られた中空糸多孔膜モジュールにおいて、中空糸多孔膜の固定された部分の長さの、中空糸多孔膜の全長に対する割合は9.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本実施の形態に関わる中空糸多孔膜モジュール並びにその製造方法を用いることにより、中空糸の有効利用率が高く、工業使用並びに実験室レベルでの使用のどちらにも適切に対応した、特に吸着相互作用を有する多孔質中空糸膜のモジュールを効率的に製造することが可能となる。また、本発明のモジュールを用いることにより、医薬品あるいは食品として有用なタンパク質の精製及び回収が効率的になされることが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
50 パイプ部分
100 ヘッダー部分
111 ヘッダー貫通管
112 側面
113 接続部分
200 キャップ部分
211 キャップ貫通管
212 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸多孔膜と、
前記中空糸多孔膜を格納するモジュールと、
を備え、
該モジュール内に前記中空糸多孔膜の両端が接着剤によって固定されており、
前記モジュールが、
筒状のパイプ部分と、
該パイプ部分の両端部にそれぞれ接続される、側面にそれぞれヘッダー貫通管が設けられた、筒状のヘッダー部分と、
該筒状のヘッダー部分の前記パイプ部分に接続する側の反対側に接続される、前記パイプ部分内に格納された前記中空糸多孔膜の内側と連通するためのキャップ貫通管が設けられたキャップ部分と、
を備え、
前記キャップ部分の側壁に、前記ヘッダー部分の前記ヘッダー貫通管と勘合する凹部が設けられた、中空糸多孔膜モジュール。
【請求項2】
前記中空糸多孔膜の固定された部分の長さの、前記中空糸多孔膜の全長に対する割合が、1%以上30%以下であり、
前記中空糸多孔膜の全長が3cm以上200cm以下である、
請求項1に記載の中空糸多孔膜モジュール。
【請求項3】
前記ヘッダー貫通管と前記キャップ貫通管の形状が同じである、請求項1又は2に記載の中空糸多孔膜モジュール。
【請求項4】
前記ヘッダー貫通管及び前記キャップ貫通管のそれぞれの形状が、ルアーロックである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の中空糸多孔膜モジュール。
【請求項5】
前記中空糸多孔膜がタンパク質を吸着する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の中空糸多孔膜モジュール。
【請求項6】
筒状のパイプ部分と筒状のヘッダー部分とを接続することと、
前記接続されたパイプ部分とヘッダー部分との内部に、中空糸多孔膜を挿入することと、
接着剤を、前記ヘッダー部分に設けられたヘッダー貫通管から、前記中空糸多孔膜の外面と前記ヘッダー部分の内壁との間に注入して、前記中空糸多孔膜を前記ヘッダー部分に固定することと、
前記ヘッダー部分の前記パイプ部分と接続した端部と反対側の端部を、前記ヘッダー貫通管を残すようにして切断することと、
前記ヘッダー貫通管の外壁と勘合する凹部が設けられたキャップ部分を、前記ヘッダー部分に接続することと、
を含む、中空糸多孔膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−36780(P2011−36780A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185650(P2009−185650)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】