説明

中通しウキ

【課題】内径が変化する道糸挿通孔を備える中通しウキの製造効率を向上させる。
【解決手段】上側貫通孔部とこれより大きい内径の下側貫通孔部とにより形成される貫通孔が形成されたウキ本体と、金属を材料とし、道糸の挿通する方向に沿って内径が変化するように道糸挿通孔が形成されるとともに、上側貫通孔部に対応した外径を有し、ウキ本体の貫通孔を貫通して設けられる金属パイプと、この金属パイプの下側先端部において下側貫通孔部の開口部にはめ込まれるように設けられ、金属パイプと別体または一体に形成されるウキ先端金属部とから成る金属部材と、金属パイプに挿通して設けられ、金属パイプがウキ本体の貫通孔を貫通している状態では下側貫通孔部において位置するリング型重りとを備えて中通しウキを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウキ釣りに使用する中通しウキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウキ釣り用の中通しウキとして、上部のビーズ玉を挿通しうる大径部と、下部のビーズ玉を挿通させない小径部から成る管を浮本体に縦貫させ、浮本体の下部の空洞内に金属を充填してなるものが知られている。(例えば、特許文献1(図3)参照)。なお、管は道糸が挿通されるために形成されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−23844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の中通しウキの構造は、例えば次のようにして製造することになる。まず、浮本体を、その上部からくり抜いて空洞部を形成する。そのうえで、この空洞部に対して、浮本体の上側から金属および木材を埋め込む工程を行う。また、大径部と小径部のそれぞれに対応する樹脂パイプは、内径に応じてその外径も異なる。そこで、管のために浮本体そのものに対して形成する貫通孔についても、上側を大径部に対応させ、下側を小径部に対応させるようにして2段に形成する。このように、従来の中通しウキでは、道糸が挿通される管の内径を2段とするために、製造工程が複雑で難しいという問題がある。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたもので、上側と下側とでその内径が異なるように形成される道糸挿通孔を備える中通しウキについて、効率よく製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、上側貫通孔部と当該上側貫通孔部より大きい内径の下側貫通孔部とにより形成される貫通孔が形成されたウキ本体と、金属を材料とし、道糸の挿通する方向に沿って内径が変化するように道糸挿通孔が形成されるとともに、前記上側貫通孔部に対応した外径を有し、前記ウキ本体の貫通孔を貫通して設けられる金属パイプと、当該金属パイプの下側先端部において前記下側貫通孔部の開口部にはめ込まれるように設けられ、前記金属パイプと別体または一体に形成されるウキ先端金属部とから成る金属部材と、金属パイプに挿通して設けられ、前記金属パイプが前記ウキ本体の貫通孔を貫通している状態では前記下側貫通孔部において位置するようにされたリング型重りとを備えることを特徴とする中通しウキである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では上側と下側とでその内径が異なるように形成される道糸挿通孔を備える中通しウキを効率よく製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】完成した中通しウキ1を示す図である。
【図2】ウキ本体11を示す図である。
【図3】ウキ先端金属部21を示す図である。
【図4】金属パイプ31を示す図である。
【図5】リング型重り41を示す図である。
【図6】ウキ先端金属部21とリング型重り41を取り付けた金属パイプ31を示す図である。
【図7】ウキ先端金属部21とリング型重り41を取り付けた金属パイプ31を、さらにウキ本体11に取り付けた形態を示す図である。
【図8】図7に示したウキ本体11の上部と下部を拡大して示す図である。
【図9】実釣時の中通しウキ1の状態を示す図である。
【図10】金属パイプ31の孔部の他の形状例を示す図である。
【図11】金属部材の他の構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本実施の形態の中通しウキ1の断面構造を示している。中通しウキ1は、ウキ本体11と、ウキ先端金属部21と、金属パイプ31と、リング型重り41の部品から成り、全体に塗料51が塗布される。
【0010】
図2(a)および図2(b)は、ウキ本体11の平面図と側面図である。ウキ本体11は、例えば桐などの木材を材料とし、同図のような形状に形成される。また、ウキ本体11には、同図のようにして上から下にかけて貫通孔12が形成される。貫通孔12は、上側貫通孔部12aと、これよりも径の大きい下側貫通孔部12bとが連結されるようにして形成されている。なお、下側貫通孔部12bは、後述するようにして重り41が格納されるための空間としても利用される。この貫通孔12は、例えば上側貫通孔部12aと下側貫通孔部12bの径に対応したサイズの段付きドリル刃を用いて孔空けを行うことで簡単に形成することができる。また、上側貫通孔部12aと下側貫通孔部12bの径のそれぞれに対応した2種類のドリル刃を用いて孔空けを行っても簡単に形成できる。また、ウキ本体11において下側貫通孔部12bの開口部の周辺縁部に位置する開口縁部13は水平面として形成される。なお、ウキ本体11の材料は、木材以外にも例えば樹脂などが採用されても良い。
【0011】
図3(a)および図3(b)は、ウキ先端金属部21の平面図と側面図である。ウキ先端金属部21は、例えばステンレスなどの金属を材料として、円柱部分とその下のテーパー部分とが一体的に形成される。このウキ先端金属部21には同図に示すようにパイプ挿入孔22が形成されている。テーパー部分の端部において円柱部分よりはみ出したリング状の外周縁部21aは水平に形成される。
【0012】
図4(a)および図4(b)は、金属パイプ31の平面図と側面図である。金属パイプ31は、例えばステンレスなどの金属から成り、図に示すように、細長い円柱状に形成される。金属パイプ31には、上から下にかけて道糸挿通孔32が形成される。この道糸挿通孔32は、上側の大径部32aと、これより直径の小さな下側の小径部32bとから成る。また、金属パイプ31の下部にはテーパー部分が形成されている。テーパー部分は、ウキ先端金属部21と合体して中通しウキ1の下側先端部となる。
【0013】
また、図4(b)に示すように、道糸挿通孔32において大径部32aと小径部32bとで径が変化する境界部分である段部32cは、テーパー状に形成している。仕掛けを作る際、道糸挿入孔32に対しては、上側の大径部32aの開口部から道糸を挿通させ、下側の小径部32bの開口部側から引き出すようにする。この際、段部32cがテーパー状に形成されていることで、段部32cにおいて道糸の先端が引っかかりにくくなり、スムーズに道糸を通すことが可能になる。
【0014】
上記の構造の金属パイプ31は、道糸挿通孔32の上側と下側とでその内径が異なる構造を有しているといえる。なお、この構造については、以降において、「2段内径構造」ともいうことにする。本実施の形態における道糸挿通孔32の2段内径構造は、大径部32aと小径部32bのそれぞれに対応した径の2種類のドリル刃または段付きのドリル刃を用いて、金属パイプ31の元となる部材に孔空けを行うことで形成することができる。従来において、このような2段内径構造を形成しようとした場合には、内径および外径の異なる2種類の樹脂パイプを用意する必要がある。つまり、2つの部品が必要となる。これに対して、本実施の形態では、1つの金属パイプ31で済む。
【0015】
図5(a)および図5(b)は、リング型重り41の平面図と側面図である。リング型重り41は、例えば真鍮などの金属から成り、図のように貫通孔42を有するリング形状に形成される。
【0016】
本実施の形態の中通しウキの構造について、その製造の手順にしたがって説明する。まず、図6に示すようにウキ先端金属部21のパイプ挿入孔22に金属パイプ31の下部を挿入する。このとき金属パイプ31のテーパー部分と、ウキ先端金属部21のテーパー部分とが同じ1つのテーパー面を形成するように位置させる。また、パイプ挿入孔22と金属パイプ31との接合面同士は、後述の図8(b)に示すように接着剤sによって固定される。これにより、ウキ先端金属部21と金属パイプ31が一体となった金属部材が形成される。この接着剤sは、パイプ挿入孔22と金属パイプ31との接合面を目止めして外部からの浸水を防止する機能も有している。
【0017】
次に、同じ図6に示すように、リング型重り41の貫通孔42に金属パイプ31を挿通させ、この状態で、金属パイプ31に対してリング型重り41を接着剤等で固定する。このとき、金属パイプ31に固定されるリング型重り41の位置を高くしたり低くしたりして変更することで、中通しウキ1に設定すべき重心の位置を細かく調節することができる。また、金属パイプ31に固定するリング型重り41の数あるいはサイズ(厚さ(径方向における幅)および高さ)は、中通しウキ1に設定すべき重り負荷に応じて変更することができる。すなわち、リング型重り41の位置、数、サイズ(厚さおよび高さ)の組み合わせにより、ウキ本体11自体については同一構造のものを用いながら、多様な重心位置と重り負荷の組み合わせを設定することができる。この際、リング型重り41のサイズを微細に設定すれば重り負荷を高い精度で設定することも可能になる。
【0018】
次に、ウキ本体11の下側貫通孔部12bの側から、図6に示したウキ先端金属部21とリング型重り41とが固定された金属パイプ31を差し込んでいく。図7の断面図は、先に図6に示したウキ先端金属部21とリング型重り41とが固定された金属パイプ31がウキ本体11に完全に差し込まれた状態を示している。この状態では、図に示すように、ウキ本体11の下側貫通孔部12bから上側貫通孔部12aにかけて、金属パイプ31が貫通する。この際、金属パイプ31の上端部は、上側貫通孔部12aから所定の高さだけ突出した状態となる。この金属パイプ31の上端部が突出する高さは、後の塗装の工程により塗布される塗料の厚さに対応している。
【0019】
また、金属パイプ31の直径は、ウキ本体11の上側貫通孔部12aの内径と対応しているので、図7および図8(a)に示すように、金属パイプ31の上部はウキ本体11の上側貫通孔部12aにはめ込まれた状態となる。また、図7に示すように、金属パイプ31に固定されたリング型重り41は、ウキ本体11の下側貫通孔部12bに収まるようにして位置する。
【0020】
さらに、図8(b)に拡大して示すように、ウキ先端金属部21は、その円柱部分がウキ本体11の下側貫通孔部12bにはめ込まれた状態で密着する。これと同時に、ウキ先端金属部21における外周縁部21aの水平面が、ウキ本体11の下端部の開口縁部13の水平面と密着する。つまり、ウキ本体11の下側貫通孔部12bの開口部は、ウキ先端金属部21によって塞がれた状態となる。
【0021】
上記の状態のもとで、図8(a)に示すように、ウキ本体11の上側貫通孔部12aと金属パイプ31の上部とが密着して接合する部分は接着剤sによって目止めされるようにして固定される。また、図8(b)において示すように、ウキ先端金属部21とウキ本体11とが密着して接合する部分は、接着剤sによって目止めされるようにして固定される。つまり、金属部材(ウキ先端金属部21および金属パイプ31)とウキ本体11の接合面が接着剤sによって固定される。さらに、金属パイプ31とウキ先端金属部21のパイプ挿入孔22とが密着して接合する部分も接着剤sによって目止めされるようにして固定される。この図8(b)に示す構造の中通しウキは優れた止水機能を持つことになるが、この点については後述する。
【0022】
次に、上記図7に示す状態から全体に塗料51を塗布することで、図1で示すように中通しウキ1が完成する。なお、塗料51は、実際には下地塗りを含めて何層かに分けて塗布される。また、塗装前の状態において図7に示したようにウキ本体11から突出していた金属パイプ31の上端部分の周囲は塗料51の層によって覆われ、図1のように突出しない状態になる。
【0023】
図9は、遊動仕掛けで使用されている中通しウキ1が水面に浮かんでいる状態を示している。なお、この図では、中通しウキ1は金属パイプ31の道糸挿通孔32(大径部32a、小径部32b)だけを示した断面図として表し、詳しい構造は省略している。中通しウキ1の道糸挿通孔32(大径部32a、小径部32b)には、道糸61が貫通している。道糸61にはシモリ玉71が通され、ウキ止め糸81が結ばれている。また、図には示していないが、中通しウキ1の小径部32bから水中に出ている道糸61の先には、ハリス、釣り針などを結んだ仕掛けが結ばれている。図9は、仕掛けの遊動が完了している状態で、シモリ玉71はウキ止め糸81で押さえられるようにして中通しウキ1の大径部32aに入り込んで小径部32bの入り口で止まっている。
【0024】
遊動仕掛けは、道糸61に結ぶウキ止め糸81の位置によって遊動幅が決まり、その仕掛け全体の浮き下の長さが決まる。遊動仕掛けを投入すると、仕掛けの重みや仕掛けに作用する潮の抵抗を受けることにより、道糸61が道糸挿通孔32を通過していきながら仕掛け全体が沈んでいく。この仕掛けが沈んでいく過程を「糸落ち」という。
【0025】
そして、本実施の形態の中通しウキ1は、先に述べたように、道糸挿通孔32について上側の大径部32aと小径部32bから成る2段内径構造としている。そのうえで、上側の大径部32aについて、シモリ玉71が入る程度の大きな径としている。これにより、仮に道糸挿通孔32をすべて小径部32bと同じ径により形成した場合と比較して糸落ちは格段にスムーズになる。
【0026】
このように、本実施の形態の中通しウキ1は道糸が挿通する孔部について2段内径構造としている。つまり、上側の大径部32aと下側の小径部32bから成る道糸挿通孔32を有する。この2段内径構造そのものは、特許文献1にも示しているように従来の中通しウキにおいても採用されているが、本実施の形態の中通しウキ1は、従来よりも効率よく製造できるように配慮されている。以下、この点について説明する。
【0027】
従来においては、2段内径構造とするために内径が異なる2つの樹脂パイプを用いていた。また、この2つの樹脂パイプは、それぞれ、内径に応じて外径も異なっている。このため、2段内径構造を有する従来の中通しウキの実際の製造工程は複雑で手間のかかるものとなる。具体的には、例えば中通しウキの本体を上部からくり抜くことで空洞部を形成する。次に、この空洞部の下側に重りの金属を配置し、その上から木材により残りの空洞部を埋め直す。そして、この中通しウキ本体の上下方向において、上側の径が大きく下側の径が小さい貫通孔を形成する。そして、この貫通孔の上側に径の大きい方の樹脂パイプをはめ込み、下側に径の小さい方の樹脂パイプをはめ込んで道糸挿通孔を形成する、というものになる。
【0028】
上記のように2段内径構造を有する従来の中通しウキを製造する工程が複雑になるのは、2段内径構造とするために樹脂パイプを入れる貫通孔について上側の径よりも下側の径の方を小さくしていることに起因していると考えられる。この貫通孔の形状では、径の大きい方に対応する樹脂パイプをウキ本体の下側から差し込んでいくことができず、上側から差し込む必要がある。これに伴って、重りの金属もウキ本体の上側から入ることとしており、この結果、ウキ本体をくり抜いて形成した空洞部に金属を入れ、この後に空洞部を木材によってさらに埋めるという面倒な工程となってしまっている。
【0029】
これに対して、本実施の形態の中通しウキ1は、金属パイプ31に孔空け加工を施すことで2段内径構造の道糸挿通孔32を形成している。これにより、2段内径構造を得るためのパイプとしての部品は1つで済み、かつ、この金属パイプ31の外径は、上側から下側にかけて同一とすることができる。これとともに、ウキ本体11に形成する貫通孔12は、その下側(下側貫通孔12b)の径を上側(上側貫通孔部12a)よりも大きくして形成している。これにより、本実施の形態では、先に説明したように、ウキ先端金属部21と重り41とを取り付けた状態の金属パイプ31をウキ本体11の貫通孔12の下側から差し込むという簡単な工程とすることができる。この工程を行うことによって、中通しウキ1において2段内径構造が得られ、これと同時に、重り41の埋め込みも完了してしまう。
【0030】
また、2段内径構造を得るにあたり、従来においては2つの部品が必要であった。すなわち、径が異なる2つの樹脂パイプが必要であった。これに対して、本実施の形態においては金属パイプ31としての1つの部品で済むものであり、例えばより効率よく部品を管理できる。なお、本実施の形態における2段内径構造は、大径部32aと小径部32bのそれぞれに対応した径の2種のドリル刃または段付きドリル刃を用いて、金属パイプ31の元となる部材に孔空けを行うことで簡単かつ正確に形成することができる。
【0031】
また、本実施の形態の中通しウキ1は、特許文献1に記載されている本体の下側のみに重りが配置された低重心のウキと比較して、重心の位置が高くなる。つまり、高重心のウキとなる。高重心のウキは次のような利点がある。
【0032】
一般的にウキ釣りでは、魚の喰いをよくしたり、魚のアタリを取りやすくしたり、さらにはアタリがあったときに合わせやすくするために、仕掛けをたるませずに、ある程度「仕掛けを張りながら流す」ことが効果的であるとされている。この「仕掛けを張りながら流す」状態において、中通しウキ1の上側から出ている道糸61は、緩んでいる状態ではなく、釣り人側の方向、つまり、図9の矢印Aで示す方向に或る程度の力で張られている状態になる。一方、中通しウキ1の下側は、潮流の抵抗を受けて仕掛けが引かれるのに応じて、矢印Bで示すように潮上の方向に引っ張られる。このため、中通しウキ1は、図9のようにして、海水に浮かんでいるときに斜めの姿勢を取ろうとする。
【0033】
しかし、低重心のウキの場合には、斜めの姿勢を取ろうとしても起き上がり小法師のように直立しようとする。このため、ウキの頭がふらつきやすくなり、水中で安定した斜めの姿勢をとることができない。このような状態では仕掛けを不用意に動かすことになり、魚がくわえようとしたエサをはき出したり、アタリが出にくくなるなどの不具合が生じる。これに対して本実施の形態の中通しウキ1のように高重心であれば、ウキの頭がふらつくことがなくなって、図9に示したような斜めの姿勢で安定することが可能となる。これにより、魚の喰いがよくなり、アタリも出やすくなる。
【0034】
そして、本実施の形態の中通しウキ1は、高重心とするために次のように工夫されている。まず、特許文献1などに代表される従来の中通しウキは、道糸挿通孔に樹脂パイプを使用する。これに対して、本実施の形態の中通しウキ1の道糸挿通孔32には金属パイプ31を使用している。金属パイプ31は、金属であるために樹脂パイプよりも比重が高く、したがって重い。つまり、金属パイプ31自体が重りとしての役割を持つことになる。そして、このような金属パイプ31が、道糸貫通孔のパイプとしてウキ本体11を貫通していることで、重りがウキ本体11の下部のみに埋め込まれているのではなく、ウキ本体11の上下方向においてほぼ均等に埋め込まれているのと同じ状態になる。つまり、本実施の形態の中通しウキ1は、金属パイプ31が貫通して取り付けられていることですでに高重心の傾向に設定される。
【0035】
そのうえで、リング型重り41が金属パイプ31に挿入された状態にあることで、図7に示したように、中通しウキ1の下側貫通孔部12bの空洞内において中間的な高さの位置に配置される。これにより、上記の金属パイプ31と併せて的確に高重心が設定された状態で重り負荷が設定される。
【0036】
また、リング型重り41は、金属パイプ31に対して取り付けられる際に、その固定位置を好みに応じて変更することができる。これにより、重心位置を使用者の好みに応じて微妙に調整することが可能になる。
【0037】
また、本実施の形態の中通しウキ1は、次に説明するように非常に優れた止水性能を有している。例えば従来の中通しウキにおいては、ウキ本体中央の空洞部の樹脂パイプを接着して固定することにより、道糸の挿入孔を形成する。このような樹脂パイプには、通常塩化ビニールが用いられることが多いが、この塩化ビニールなどの樹脂は熱などの影響による伸縮が非常に大きい。このために、ウキを使用している間に樹脂パイプとウキ本体の接着面が剥離しやすかった。この接着面が剥離してしまうと、樹脂パイプとウキ本体や重りの境目から浸水することで浮力が変わってしまい、非常に使いづらくなる。
【0038】
これに対して、本実施の形態の中通しウキ1の場合、ウキ本体11と接着剤sにより固定されるのは、例えばステンレスなどによる金属部材(ウキ先端金属部21および金属パイプ31)となる。このステンレスなどの金属は、樹脂と比較して熱などによる伸縮が非常に小さい。これにより、金属部材(ウキ先端金属部21および金属パイプ31)とウキ本体11との接合面における接着剤の剥離は非常に起こりにくくなる。したがって、本実施の形態の金属部材(ウキ先端金属部21および金属パイプ31)とウキ本体11との接合面は、非常に高い止水性を有することになる。
【0039】
なお、本実施の形態の中通しウキ1おいてウキ本体11と金属部材が接着剤sにより固定(目止め)される箇所は次のようになる。つまり、ウキ本体11(下側貫通孔部12bの下側内周および開口縁部13の水平面)とウキ先端金属部21(円柱部分外周および外周縁部21a)との接合面、また、ウキ本体11の上側貫通孔部12aと金属パイプ31の外周との接合面となる。さらに、金属部材において、ウキ先端金属部21の内周面と金属パイプ31の外周面との接合面も接着剤sによって固定される。
【0040】
接着材sによる接合面は、止水性能の点からすればできるだけ大きな面積が確保される方が有利である。ウキ本体11とウキ先端金属部21との接合面においては、ウキ先端金属部21の外周縁部21aと下側貫通孔部12bの開口縁部13の水平面同士だけではなく、さらにこれに続いて、ウキ先端金属部21の円柱部分外周と下側貫通孔部12bの内周部分との接合面も接着剤sにより目止めされている。このように、ウキ本体11とウキ先端金属部21との接合面は、広い接着面積が確保されている。
【0041】
また、ウキ本体11の上側貫通孔部12aと金属パイプ31の外周との接合面も、上側貫通孔部12aの長さの分を接着面積として確保することが可能であり、それだけ浸水に対して強いものとすることができる。
【0042】
これに加えて、金属部材におけるウキ先端金属部21の内周面と金属パイプ31の外周面との接合面も、高さ方向において例えば8mm程度もの幅が確保されている。このために、例えば衝撃などによって、仮にウキ先端金属部21と金属パイプ31の接合面の先端側において若干の接着剤sの剥離が生じたとしても、これより奥側の残る接合面に余裕があるため浸水に対して強いものとなっている。
【0043】
また、接着面ではないが、本実施の形態の中通しウキ1は、さらにもう1つ構造的に有効な止水性能を有する箇所がある。すなわち、本実施の形態の金属パイプ31は、図7に示すように塗装前においてその上側がウキ本体11から所定の高さだけ突出している。そして、塗装を施すことで、図1に示すように、塗料51の厚みによって金属パイプ31の突出部分が隠れるようになっている。そして、このような構造により、上側貫通孔部12aの上側の開口部分と金属パイプ31との境目を塗料51によって覆い、水に直接浸からないようにしている。
【0044】
塗装により形成される塗膜の層は、それ自体が浸水を防ぐ。このことからすれば、塗装を厚くすることにより止水性能を向上させることができる。しかし、塗装を厚くするということは中通しウキ自体の重量が増えるということなので残浮力が小さくなってしまい、重り負荷に応じた浮力設定が難しくなるという側面がある。この問題は、特に重り負荷の軽い中通しウキで顕著になる。しかし、本実施の形態の中通しウキ1は、塗料51による塗膜の層を厚く形成してその分の重量が増加したとしても、リング型重り41のサイズを変更することで、上記の増加分に対する調整を容易に行うことができる。すなわち、本実施の形態は、塗装を厚くするという手法を併用して止水性能を向上させることも容易に可能とされている。
【0045】
なお、ウキ先端金属部21と金属パイプ31の金属としての材質が異なっていても、樹脂と金属との間での熱による伸縮率の差と比較した場合には、互いの熱による伸縮率ははるかに近い。この点で、ウキ先端金属部21と金属パイプ31の金属の材質が異なっていても高い止水性能を維持することはできる。ただし、同じ金属の材質とすれば熱による伸縮率は完全に一致するので、さらに高い止水性能を得ることができる。本実施の形態では、ウキ先端金属部21と金属パイプ31の材質について、例えば同じステンレスなどとしていることで、互いの熱による伸縮率を一致させている。
【0046】
また、金属パイプ31の道糸挿通孔32については、図10(a)に示すように、大径部32aのほうを短くし、小径部32bを長くするように形成することができる。また、これとは逆に、図10(b)に示すように、大径部32aの方を長くし、小径部32bを短くするように形成することができる。つまり、道糸挿通孔32の大径部32aと小径部32bの長さの比については任意に設定できる。
【0047】
道糸挿通孔32の大径部32aと小径部32bの長さの比は、例えば魚が付けエサを咥えて走ったことによって中通しウキ1が水中に引き込まれるときの姿勢の安定性と感度に影響を与える。なお、ここでの「感度」とは、魚が付け餌をついばんだ際に生じる中通しウキ1の動きの反応の敏感さをいう。すなわち、魚が付け餌をついばんだ際、それに応じた動きが中通しウキ1に出るほど、感度はよいということになる。図9で説明したように、通常、実釣において仕掛けを流しているときは、中通しウキ1は斜めの姿勢を取る。そして、本願の発明者が調べたところによれば、大径部32aと小径部32bの長さの比が1:1であるときに、この姿勢が最も安定し、魚がエサを咥えて走ったときも中通しウキ1は、この斜めの姿勢で安定して水中に引き込まれていく。水中に引き込まれていくときの中通しウキ1の斜めの姿勢が安定しているほど魚の喰い込みはよくなる。つまり、水中に引き込まれていくときの中通しウキ1の姿勢が安定していないと、魚はウキの揺れによるエサの不自然な動きを感じて咥えたエサを離しやすい。なお、大径部32aが小径部32bより長くなるほど、中通しウキ1の斜めの姿勢が不安定になる傾向にあるが、不安定になるほど、魚が付け餌をついばんだ際、それに応じた動きが中通しウキ1に敏感に出るため、ウキの感度は高くなる。すなわち、道糸挿通孔32の大径部32aと小径部32bの長さの比は、中通しウキ1が水中に引き込まれるときの姿勢の安定性と感度のバランスを考慮して、使用者の技量、感覚や好みに応じて設定すればよい。
【0048】
また、図10(c)は、道糸挿通孔32をテーパー状に形成した変形例である。道糸挿通孔32を上側から下側にかけて径が小さくなるテーパー状とすることで、例えば大径部32aと小径部32bとの段差部分がなくなり道糸61を通しやすくなる。
【0049】
また、図10(d)のように、金属パイプ31の上側と下側に大径部32a、32aを形成し、これらの大径部32a、32aの中間に小径部32bを形成するという変形例も考えることができる。さらに、図示は省略するが、道糸挿通孔32の内径を上側から下側にかけて同じに形成することも当然可能である。
【0050】
また、図11を参照して、ウキ先端金属部21および金属パイプ31とから成る金属部材の他の構造例について説明する。まず、図11(a)に示されるように、ウキ先端金属部21には、パイプ挿入孔22と、その下側の道糸挿通孔部22aと連結されるように形成されている。このパイプ挿入孔22は、金属パイプ31の下側先端部に対応した形状を有している。また、道糸挿通孔部22aは、金属パイプ31の小径部32bと同じ内径を有している。そして、ウキ先端金属部21のパイプ挿入孔22に対して金属パイプ31の下側先端部を差し込むようにする。これにより、図11(b)に示すように、金属パイプ31の下側先端部は、ウキ先端金属部21のパイプ挿入孔22にはめ込まれた状態となる。この状態において、金属パイプ31の小径部32bとウキ先端金属部21の道糸挿通孔部22aは連結されて1つの孔部として形成される。なお、ウキ先端金属部21のパイプ挿入孔22と金属パイプ31の下側先端部との接合面は接着剤sによって目止めされるように固定される。
【0051】
先に図6に示したように、金属パイプ31がウキ先端金属部21を貫通する構成では、中通しウキ1の使用中において金属部材の先端部分を強くぶつけたような場合に金属パイプ31とウキ先端金属部21に大きな力がかかり、金属パイプ31とウキ先端金属部21との接着がはがれる可能性がないとはいえない。これに対して、上記図11に示す金属部材の場合、金属パイプ31がウキ先端金属部21を貫通せずに、金属パイプ31の先端部がウキ先端金属部21の中に埋め込まれるような構造となっている。この場合、金属部材の先端部分において、外部と直接ぶつかる部分はウキ先端金属部21だけであり、したがって、金属パイプ31がずれてしまうことはない。つまり、図6の構造よりも浸水に強い構造となっている。
【0052】
さらに、図6および図11(b)に示した金属部材の全体形状を、1つのステンレスなどの金属材料から一体的に形成してもよい。このように形成すれば、金属パイプ31とウキ先端金属部21との接合面はなくなるため、さらに浸水に強くなる。このような金属部材は、既存の金属加工技術を用いることで形成可能である。
【0053】
また、中通しウキ1の全体の形状は、図に示した以外の形状であっても良い。たとえば、より楕円に近い断面形状とすることもできるし、円に近い断面形状とすることもできる。
【符号の説明】
【0054】
11 ウキ本体
12 貫通孔
13 開口縁部
12a 上側貫通孔部
12b 下側貫通孔部
21 ウキ先端金属部
21a 外周縁部
22 パイプ挿入孔
22a 道糸挿通孔部
31 金属パイプ
32 道糸挿通孔
32a 大径部
32b 小径部
41 リング型重り
42 貫通孔
51 塗料
61 道糸
71 シモリ玉
81 ウキ止め糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側貫通孔部と当該上側貫通孔部より大きい内径の下側貫通孔部とにより形成される貫通孔が形成されたウキ本体と、
金属を材料とし、道糸の挿通する方向に沿って内径が変化するように道糸挿通孔が形成されるとともに、前記上側貫通孔部に対応した外径を有し、前記ウキ本体の貫通孔を貫通して設けられる金属パイプと、当該金属パイプの下側先端部において前記下側貫通孔部の開口部にはめ込まれるように設けられ、前記金属パイプと別体または一体に形成されるウキ先端金属部と、から成る金属部材と、
前記金属パイプに挿通して設けられ、前記金属パイプが前記ウキ本体の貫通孔を貫通している状態では前記下側貫通孔部において位置するようにされたリング型重りと、
を備えることを特徴とする中通しウキ。
【請求項2】
前記金属部材と前記ウキ本体の接合面が接着剤によって目止めされた状態で固定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の中通しウキ。
【請求項3】
前記金属パイプの道糸挿通孔は、上側の大径部と、当該大径部よりも小さい内径を有する下側の小径部とにより内径が変化するように形成されている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の中通しウキ。
【請求項4】
前記金属パイプの道糸挿通孔は、上側および下側の大径部と、当該上側および下側の大径部の中間において前記大径部よりも小さい内径を有する小径部とにより内径が変化するように形成されている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の中通しウキ。
【請求項5】
所望の水中での姿勢の安定性または感度に応じて、前記金属パイプの道糸挿通孔における前記上側の大径部と前記小径部の境界における段部の位置を設定する、
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の中通しウキ。
【請求項6】
前記金属パイプに挿通して設けられる前記リング型重りの取り付け位置は、設定すべき重心に応じて設定される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の中通しウキ。
【請求項7】
前記金属パイプに挿通して設けられる前記リング型重りの数またはサイズは、設定すべき重り負荷に応じて設定される請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の中通しウキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−196185(P2012−196185A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63456(P2011−63456)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(710014487)
【Fターム(参考)】