説明

乗客コンベヤの欄干部清掃装置

【課題】手摺ガイドレールと欄干フレームとの間に形成される隙間に入り込んだ移動手摺の磨耗粉の除去を容易に行えるようにする。
【解決手段】乗客コンベヤの欄干部清掃装置40は、手摺ガイドレール33の角部と欄干フレーム32の上面32aとの間に形成されるデルタ状の隙間に入り込んだ移動手摺14の磨耗粉を掻き出す回転ブラシ42と、掻き出された磨耗粉を除去する吸引除去装置66と、回転ブラシ42および吸引除去装置66を移動手摺14上に支持しながら回転する一対の支持ローラ68a,68bとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベヤの欄干部清掃装置に係り、特に、欄干部上面に蓄積した移動手摺の磨耗粉を除去するための清掃装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗客コンベヤの一種であるエスカレータにおいて、移動手摺の内面から落ちた磨耗粉が欄干部の上面に溜まることがあることが知られている。
【0003】
具体的には、図7を参照して説明すると、エスカレータのステップの両側には欄干部90が立設されている。欄干部90は、例えば透明な樹脂板からなる側壁パネル91と、側壁パネル91の上部を支持する金属製の中空状長尺部材である欄干フレーム92とを備える。欄干フレーム92の上には、金属板を折り曲げて形成される手摺ガイドレール93が溶接、ボルト締結等によって固定されている。欄干フレーム92および手摺ガイドレール93は、上層階および下層階の乗降口において半円状をなして方向転換して、トラスと呼ばれるエスカレータ支持部材内へ延伸するように設けられている。
【0004】
手摺ガイドレール93は、エスカレータの延伸方向、すなわち乗客が載るステップの移動方向に沿って延在している。手摺ガイドレール93は、両側に略水平方向に折り曲げられたレール部93aを有している。レール部93aには、クリップガイドと呼ばれる樹脂製のカバー部材94がそれぞれ装着されている。そして、カバー部材94の外側に、略C字状断面を有する移動手摺95が手摺ガイドレール93の上部を覆って配置されている。移動手摺95の内面は、カバー部材94との摩擦抵抗を小さくするために低摩擦材料であるキャンバス材によって形成されている。
【0005】
エスカレータが運転されて移動手摺95がステップと同期して移動するとき、内面のキャンバス材がカバー部材94と摺接することにより移動手摺95からキャンバス材の磨耗粉Pが発生する。この磨耗粉Pは、移動手摺95から欄干フレーム92の上面92aに落下して、これを放置すると次第に堆積していくことになる。
【0006】
例えば、特開2007−169035号公報(特許文献1)には、欄干フレーム上の磨耗粉が乗客に付着するのを防止するための乗客コンベヤの磨耗粉付着防止装置が開示されている。この磨耗粉付着防止装置では、欄干上部に設けられた欄干フレームの踏段側端部に移動手摺の長手方向に沿って防止装置本体が取り付けられている。防止装置本体は、欄干フレームの踏段側端部に取り付けられる断面L字形の支持部材と、支持部材上に複数の弾性部材を介して変位可能に支持されている丸棒状の可動部材と、可動部材および弾性部材を覆うシート状のカバー部材とを有している。これにより、欄干フレームに取り付けた防止装置本体が欄干フレームの上方へ突出しているので、移動手摺を握る乗客の手が欄干フレームの上面に直接触れるのが阻止され、その結果、欄干フレーム上の磨耗粉が乗客に付着するのを防止することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−169035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のように欄干フレーム上に落ちた移動手摺の磨耗粉Pは、清掃員が洗浄剤や水等の液体で濡れた雑巾等を手に持って欄干フレーム92の上面92aおよび手摺ガイドレール93の側面に押し当てながら拭き取ることがある。この場合、上記磨耗粉Pが完全に拭き取られればよいが、図7に示すように欄干フレーム92と手摺ガイドレール93との間に形成されるデルタ状の隙間に磨耗粉Pが押し込まれた状態で残ることがある。そうすると、このように残った磨耗粉Pが水等の液体を含むことによって、手摺ガイドレールの下側角部付近に錆が発生する原因となる。そのため、定期的に出向いて保守点検を行う保守員が特殊な清掃器具、たとえば特殊形状のブラシで掻き出して清掃しなければならず、保守点検作業の効率を低下させる要因となっていた。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、手摺ガイドレールと欄干フレームの上面との間に形成されるデルタ状の隙間に入り込んだ移動手摺の磨耗粉の除去を容易に行えるようにする乗客コンベヤの欄干部清掃装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る乗客コンベヤの欄干部清掃装置は、コンベヤと同期して移動する移動手摺と、この移動手摺の移動を案内する手摺ガイドレールと、この手摺ガイドレールの下部を支持してコンベヤ側方にある欄干部の上部を構成する欄干フレームとを備える乗客コンベヤの欄干部清掃装置であって、前記手摺ガイドレールの角部と前記欄干フレームの上面との間に形成されるデルタ状の隙間に入り込んだ前記移動手摺の磨耗粉を掻き出す回転ブラシと、前記掻き出された磨耗粉を除去する除去部と、前記回転ブラシおよび前記除去部を前記移動手摺上に支持する支持部とを含む。
【0011】
本発明に係る乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、前記支持部は、前記移動手摺を幅方向両側から挟持する一対のローラを有し、これらローラの少なくとも一方が回転駆動されることより前記回転ブラシおよび前記除去部を支持しながら前記移動手摺上を長手方向に沿って走行することが好ましい。
【0012】
また、好ましくは、本発明に係る乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、前記ローラは、略C字状断面を有する移動手摺の湾曲した外側端部を受け入れるよう略つづみ状の外形に形成されている。
【0013】
また、好ましくは、本発明に係る乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、前記回転ブラシは、その外周部に真鍮製ブラシが植設されている。
【0014】
また、好ましくは、本発明に係る乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、前記除去部は、前記回転ブラシによって掻き出された前記移動手摺の磨耗粉を吸引除去する吸引除去装置と、前記掻き出された前記移動手摺の磨耗粉を拭き取って除去する拭き取り除去装置との少なくとも一方を含んで構成される。
【0015】
この場合、前記拭き取り除去装置は、前記ローラの軸に取り付けられて前記ローラと共に回転することにより前記隙間近傍に位置する前記手摺ガイドレールの側面および前記欄干フレームの上面に接触しつつ前記磨耗粉を拭き取る清掃ローラを含むのが好ましい。
【0016】
またこの場合、前記清掃ローラは、清掃液体を含浸することができる材料で形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る乗客コンベヤの欄干部清掃装置によれば、手摺ガイドレールの角部と欄干フレームの上面との間に形成されるデルタ状の隙間に入り込んだ移動手摺の磨耗粉を掻き出す回転ブラシと、前記掻き出された磨耗粉を除去する除去部と、上記回転ブラシおよび上記除去部を移動手摺上に支持する支持部とを含む構成としたことで、上記隙間に入り込んだ磨耗粉を容易に除去することが可能になる。これにより、上記磨耗粉の除去清掃に従来ほど手間および時間がかからなくなり、保守点検作業の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である乗客コンベヤの欄干部清掃装置が適用されるエスカレータを示す全体構成図である。
【図2】本実施形態の欄干部清掃装置が移動手摺に沿って自走する様子を示す斜視図である。
【図3】図2中におけるA−A線に沿った欄干部清掃装置の断面図である。
【図4】(a),(b)共に、回転ブラシの駆動系を示す図である。
【図5】欄干部清掃装置に含まれる支持ローラおよびその駆動系を示す図である。
【図6】欄干部清掃装置の概略構成を示す平面図である。
【図7】手摺ガイドレールと欄干フレームとの間の隙間に移動手摺の磨耗粉が入り込んだ状態を示す欄干上部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る実施の形態(以下、実施形態という)について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。
【0020】
この説明では、欄干部清掃装置40が乗客コンベヤの一種であるエスカレータに適用される例について説明するが、これに限定されるものではなく、欄干部清掃装置40がたとえば動く歩道等の他の乗客コンベヤに適用されてもよい。また、下記においては、エスカレータ10の乗降口に向かって左右方向を幅方向、エスカレータ10の移動方向を長手方向ということとする。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態である欄干部清掃装置40が適用されるエスカレータ10の概略構成図である。図2は、欄干部清掃装置40が移動手摺14に沿って自走する様子を示す斜視図である。図3は、図2中におけるA−A線に沿った欄干部清掃装置40の断面図である。
【0022】
図1に示すように、エスカレータ10は、エスカレータ自体を下方から支持する金属板製のトラス12と、トラス12の上部に設けられる移動手摺14および欄干部16とを備える。トラス12は、上階の床18に設置される上部トラス部12a、下階の床20に設置される下部トラス部12b、および上部トラス部12aと下部トラス部12bとの間を傾斜した姿勢で連結する傾斜トラス部12cを含んで構成される。
【0023】
上部トラス部12aは、上階の床18と面一をなす取り外し可能なランディングプレート13で覆われている。上部トラス部12a内には、モータおよび減速機等を含む駆動ユニット(図示せず)や、駆動ユニットによって回動駆動される駆動スプロケット22が配置されている。
【0024】
下部トラス部12bは、下階の床20と面一をなす取り外し可能なランディングプレート15で覆われている。下部トラス部12b内には、従動スプロケット24が配置されている。
【0025】
トラス12内には、多数のステップ(コンベヤ)26が設けられている。各ステップ26の幅方向両端部には、駆動スプロケット22と従動スプロケット24とに掛け渡された無端状のステップチェーン28が固定されている。これにより、駆動ユニットによって駆動スプロケット22が回転駆動されることによって、各ステップ26は階段状をなしながら下階と上階との間を上り移動または下り移動するようになっている。
【0026】
図2および図3を併せて参照すると、欄干部16は、エスカレータ10のステップ26の幅方向両側にそれぞれ立設されている(図2および図3には一方のみ図示)。欄干部16は、たとえば透明な樹脂板、ステンレス板等からなる側壁パネル31と、側壁パネル31の上部を支持する金属製の中空状長尺部材である欄干フレーム32と、欄干フレーム32の上面に固定された手摺ガイドレール33とを含む。
【0027】
手摺ガイドレール33は、金属板を折り曲げて形成されており、その下部が溶接、ボルト締結等によって欄干フレーム32の上面32aに固定されている。欄干フレーム32および手摺ガイドレール33は、上階および下階の乗降口において半円状をなして方向転換して、トラス12内へ延伸するように設けられている。
【0028】
手摺ガイドレール33は、エスカレータ10の長手方向に沿って延在している。手摺ガイドレール33は、両側に折り曲げられて突出したレール部33aを有している。レール部33aには、クリップガイドと呼ばれる樹脂製のカバー部材34がそれぞれ嵌め込まれている。そして、クリップガイド34の外側に、略C字状断面を有する移動手摺14が手摺ガイドレール33の上部を覆って配置されている。
【0029】
移動手摺14は、たとえばウレタンゴム等によって無端状に形成され、ステップ26の移動に同期して上階と下階との間で周回移動するようになっている。移動手摺14は、トラス12のうち傾斜トラス部12c内に設置される手摺駆動ローラ(図示せず)によって移動させられる。また、移動手摺14の内面は、クリップガイド34との摩擦抵抗を小さくするために、低摩擦材料であるキャンバス材によって形成されている。
【0030】
本実施形態の欄干部清掃装置40は、後述するように、エスカレータ10が運転停止中で移動手摺14が移動してないときに、移動手摺14に沿って移動可能な自走式の清掃装置である。図2には、欄干部清掃装置40が上階側へ向かって矢印B方向へ移動手摺14に沿って進行している状態が示されている。
【0031】
次に、図3を参照して、本実施形態の欄干部清掃装置40について説明する。図3に示すように、欄干部清掃装置40は、手摺ガイドレール33の下側角部と欄干フレーム32の上面32aとの間に形成されるデルタ状または楔状の隙間に入り込んだ移動手摺14の磨耗粉、より詳細には移動手摺14の内面を形成するキャンバス材の磨耗粉P(図7参照)を掻きだす回転ブラシ42を備える。回転ブラシ42は、手摺ガイドレール33の両側にそれぞれ配置されている。
【0032】
回転ブラシ42は、円板状のブラシ本体44の外周にたとえば金属細線等からなるブラシ46を植設して構成される。ブラシ46は、真鍮製の細線で形成されるのが好ましい。このように比較的柔らかい金属細線とすることで、ステンレス板で形成される欄干フレーム32の上面32aに摺擦したときに傷付けるのを防止することができる。また、ブラシ46の外周側先端は、たとえば筆のように次第に細くなっていることが好ましい。このような形状にすることで、手摺ガイドレール33の下側角部と欄干フレーム32の上面32aとの間の隙間にその先端が入り込みやすくなり、この隙間に詰まった移動手摺14の磨耗粉Pをより効果的に掻き出すことができる。なお、ブラシ46は、金属細線によるものでなくても、上記隙間に詰まった磨耗粉Pを良好に掻き出すことができる程度の細さと強さを有していれば、たとえば樹脂製ブラシまたは天然繊維ブラシであってもよい。
【0033】
本実施形態では、回転ブラシ42は、欄干フレーム32の上面32aに対してたとえば約30度程度斜めに傾斜した状態で回転するように設置されている。このように回転ブラシ42を傾斜させることで、ブラシ先端が上記隙間により入り込みやすくなり、磨耗粉Pの掻き出し効果がより良好になる。
【0034】
欄干部清掃装置40は、その外周を覆うケース部材48を備える。ケース部材48は、たとえば金属板製の直方体状筐体によって構成される。ケース部材48は、上壁部48aと、上壁部48aの周縁から垂下する側壁部48bと、側壁部48bの下壁部48cとを有する。下壁部48cの中央は開口しており、その開口部から移動手摺14および欄干部16の上部をケース部材48内に受け入れることができるようになっている。同様に、欄干部清掃装置40の移動方向に面する2つの側壁部48bにも略U字状の開口縁部をなす切り込み47がそれぞれ形成されている(図2参照)。
【0035】
また、ケース部材48の上壁部48aには、ハンドル49が設けられている。これにより、欄干部清掃装置40の持ち運びが容易となる利点がある。ハンドル49は、略コ字状をなす板状または棒状の部材によって構成され、2つの脚部がケース部材48の上壁部48aに対して回動可能に軸支されるのが好ましい。このようにすることで、ハンドル49を倒した状態で欄干部清掃装置40を収納することができ、コンパクトに収納可能になる。
【0036】
上記のようにケース部材48で欄干部清掃装置40を覆うことによって、回転ブラシ42によって掻き出された磨耗粉Pが飛散するのを抑制することができる。また、ケース部材48は、上記回転ブラシ42等を移動手摺14上に支持する支持部として機能する。
【0037】
なお、欄干部16の両側に位置するケース部材48の下壁部48cの少なくとも一方を開閉可能に構成してもよい。本実施形態では後述する支持ローラを手動操作するために図3中の右側の下壁部48cを側壁部48bに対して面一になる位置まで下方へ開くことができるようにしてもよい。あるいは、多少の磨耗粉Pの飛散があるものの上記支持ローラの操作性を考慮して、下壁部48cを省略して下方全体が開口したケース部材としてもよい。
【0038】
再び図3を参照すると、回転ブラシ42のブラシ本体44の径方向中央には、回転軸50の下端部が連結されている。回転軸50の上端部には、傘歯車52が固定されている。また、回転軸50は、その上部において、ケース部材48の上壁部48aに固定されたブラケット部材54に保持されているボールベアリング等の軸受部材56によって、回転可能に支持されている。
【0039】
ケース部材48の上壁部48aには、ブラシ用モータ58が固定されている。ブラシ用モータ58の出力軸60には、駆動ギヤ62が固定されている。この駆動ギヤ62に、上記2つの傘歯車52のうち一方(図3中の左側)が噛合している。他方(図3中の右側)の傘歯車52は、図4(a)に示すように、駆動ギヤ62に噛合して設けられる中間ギヤ63に対して噛合している。これにより、ブラシ用モータ58に給電して駆動ギヤ62が回転駆動されると、2つの傘歯車52(すなわち2つの回転ブラシ42)が互いに反対方向(矢印C,D方向)に回転するようになっている。その結果、回転ブラシ42による磨耗粉Pの掻き出し方向が揃うことになり、後述する吸引除去装置等による除去を確実に行うことが可能になる。また、上記のように傘歯車52を用いることで、回転軸50を傾斜した姿勢での回転力伝達を行うことができる。
【0040】
なお、本実施形態では、中間ギヤ63を用いて2つの回転ブラシ42の回転方向を逆方向とするよう構成したが、図4(b)に示すように、駆動ギヤ62に一方の傘歯車52を噛合させ、この一方の傘歯車52に他方の傘歯車52を噛合させてもよい。この場合、駆動ギヤ列の構成を簡素なものにできる利点がある。また、本実施形態ではギヤ列52,62によってモータ動力を回転ブラシ42に伝達するようにしたが、これに限定されるものではなく、たとえばプーリおよびベルト等の他の動力伝達機構が用いられてもよい。
【0041】
次に、図5および図6を参照して、本実施形態の欄干部清掃装置40が備える除去部および支持部について説明する。図5は、欄干部清掃装置40全体の概略構成を示す平面図である。この図5では、移動手摺14に取り付けられて矢印B方向に進んでいる欄干部清掃装置40を上方から見たときの状態で示しており、ケース部材48が一点鎖線により透視状態で描かれている。また、図6は、欄干部清掃装置40に含まれる支持ローラ68a,68bおよびその駆動系を示す図である。
【0042】
図5に示すように、欄干部清掃装置40は、バッテリ64を備えている。バッテリ64は、ブラシ用モータ58および他の電気機器に電力を供給する電源である。バッテリ64は、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池によって好適に構成される。また、バッテリ64は、ケース部材48内において欄干部清掃装置40の移動方向に関して端部側に配置されるのが好ましい。さらに、バッテリ64は、ケース部材48内において上壁部48aおよび側壁部48bの少なくとも何れかに着脱可能に取り付けられるのが好ましい。これにより、欄干部清掃装置40から取り外した状態でバッテリ64の充電作業を容易に行うことができる。ただし、バッテリは本発明における必須の要件ではなく、欄干部清掃装置は外部から給電されて動作してもよい。
【0043】
欄干部清掃装置40は、欄干フレーム32の上面32aと手摺ガイドレール33の下方角部との間に形成される楔状の隙間から回転ブラシ42によって掻き出された移動手摺14の磨耗粉Pを吸引除去する吸引除去装置66をさらに備える。この吸引除去装置66が除去部の一部を構成している。
【0044】
吸引除去装置66は、小型の掃除機によって好適に構成され、回転ブラシ42に隣接して設けられている。吸引除去装置66もまた、ケース部材48内において上壁部48aおよび側壁部48bの少なくとも何れかに取り付けられるのが好ましい。吸引除去装置66は、バッテリ64から電力供給されて吸引作動する。
【0045】
吸引除去装置66は、吸引部本体66aと吸引ノズル66bとを含む。吸引ノズル66bは、略扇状に広がる先端部を有しており、その先端部が回転ブラシ42による磨耗粉Pの掻き出し位置に近接して対向するように配置されている。吸引ノズル66bの基端部は、吸引部本体66aに接続されている。吸引ノズル66bを介して吸引された磨耗粉Pは、吸引部本体66a内にあるフィルタによって捕捉されて蓄えられ、適宜のタイミングで廃棄することができるようになっている。
【0046】
欄干部清掃装置40は、さらに、移動手摺14を幅方向両側から挟持する一対の支持ローラ68a,68bを備える。本実施形態では支持ローラ68a,68bは、吸引除去装置66に隣接して設けられている。支持ローラ68a,68bは、欄干部清掃装置40に含まれるケース部材48、回転ブラシ42とその駆動系、バッテリ64、および、吸引除去装置66を、移動手摺14上に支持する支持部を構成するものである。
【0047】
図6に示すように、一対の支持ローラ68a,68bは、それぞれ、略C字状断面を有する移動手摺14の湾曲した外側端部を受け入れるよう略つづみ状の外形に形成されている。このような支持ローラ68a,68bによって移動手摺14をその両側から挟持した状態になると、欄干部清掃装置40は移動手摺14上にしっかりと保持されることになる。
【0048】
支持ローラ68a,68bは、少なくとも移動手摺14との接触部分が摩擦抵抗の大きい例えばゴム等の材料で構成されるのが好ましい。これにより、少なくとも一方の支持ローラ68a,68bを回転駆動して欄干部清掃装置40を移動手摺14に沿って自走させるとき、移動手摺14の表面に対してスリップするのを防止することができる。ただし、支持ローラ68a,68bの全体を比較的硬い樹脂等で形成し、移動手摺14との接触面を粗面化して摩擦抵抗を大きくしてもよい。
【0049】
一対の支持ローラ68a,68bには、それぞれ、回転軸70が貫通して固定されている。回転軸70には、従動ギヤ72がそれぞれ取り付けられている。回転軸70の上部は、ブラケット部材74a,74bに保持された軸受部材76によって回転可能に支持されている。また、回転軸70の上端部は、例えばC字形リング78等の留め部材によって軸受部材76からの抜け落ちが防止されている。
【0050】
一方の支持ローラ68aのためのブラケット部材74aの上端部は、ケース部材48の上壁部48aに固定されている。これに対して、他方の支持ローラ68bのためのブラケット部材74bは、ケース部材48の上壁部48a上においてピン80により回動可能に軸支されている。そして、ブラケット部材74bを介して支持ローラ68bを移動手摺14側に押圧するための例えばコイルバネ等の付勢部材81がブラケット部材74bと側壁部48bとの間に設けられている。これにより、上記他方の支持ローラ68bは、手動操作によって付勢部材81の押圧力に抗して矢印E方向へ揺動させることにより、移動手摺14から離れさせることができるようになっている。
【0051】
ケース部材48の上壁部48aには、走行用モータ82が固定されている。走行用モータ82の出力軸83には、駆動ギヤ86が固定されている。この駆動ギヤ86に、上記2つの従動ギヤ72のうち一方(図6中の左側)が噛合している。他方(図6中の右側)の従動ギヤ72は、図4(a)に示す回転ブラシ42の場合と同様に、駆動ギヤ86に噛合して設けられる中間ギヤ(図示せず)に対して噛合している。これにより、バッテリ64から走行用モータ82に給電して駆動ギヤ86が回転駆動されると、2つの従動ギヤ72を介して一対の支持ローラ68a,68bが互いに反対方向(矢印C,D方向)に回転する。その結果、一対の支持ローラ68a,68bが移動手摺14を幅方向両側からしっかりとグリップしながら回転することによって、欄干部清掃装置40が移動手摺14に沿って自走することができる。
【0052】
上記一対の支持ローラ68a,68bの回転軸70の下端には、それぞれ、拭き取り除去装置である清掃ローラ84が固定されている。円盤状をなす清掃ローラ84は、支持ローラ68a,68bと共に回転する。清掃ローラ84は、回転ブラシ42によって掻き出された移動手摺14の磨耗粉Pのうち吸引除去装置66によって除去されずに欄干フレーム32等の表面に付着して残ったものを拭き取るためのものである。したがって、清掃ローラ84もまた、上記吸引除去装置66と共に、欄干部清掃装置40における除去部を構成する。
【0053】
清掃ローラ84は、その外周面が上記隙間の近傍に位置する手摺ガイドレール33の側面33bの下部に接触し、その下面が上記隙間の近傍に位置する欄干フレーム32の上面32aに接触している。清掃ローラ84のうち既述のように移動手摺14と接触する部分は、洗浄液、アルコール、水等の清掃液体を含浸することができる材料、たとえば、フェルト、布、スポンジ等によって形成されている。これにより、清掃ローラ84が支持ローラ68a,68bと一緒に回転することによって、欄干フレーム32および手摺ガイドレール33上に付着した磨耗粉Pをきれいに拭き取ることができる。
【0054】
清掃ローラ84は、回転軸70に対して着脱可能に取り付けられているのが好ましい。これにより、拭き取りによって汚れが蓄積してきた清掃ローラ84を欄干部清掃装置40から取り外して、洗浄や交換等を容易に行うことが可能になる。また、清掃ローラ84に対して清掃液体を滴下して供給するための供給装置を欄干部清掃装置40に付加してもよい。
【0055】
なお、本実施形態では、拭き取り除去装置を回転する清掃ローラ84によって構成したが、これに限定されるものではなく、ケース部材に固定されて欄干フレームおよび手摺ガイドレールに接触する固定式の拭き取り清掃装置としてもよい。
【0056】
次に、上記構成からなる欄干部清掃装置40の操作について説明する。
【0057】
定期的に又は異常通報に応じて、エスカレータ10の保守点検等のために出向いた保守員は、例えば下部トラス部12b内に保管されている欄干部清掃装置40を取り出し、運転停止しているエスカレータ10の移動手摺14上に装着する。
【0058】
まず、保守員は、ハンドル49を握って欄干部清掃装置40を持ち上げながら、ケース部材48の下方開口部から移動手摺14を装置40内に挿入するように降ろしていく。このとき、保守員は手動操作により、上記他方の支持ローラ68bおよびこれに連結された清掃ローラ84を矢印E方向に押し上げて開き、この状態で支持ローラ68a,68b間に移動手摺を位置させる。そして、保守員が手を離すと付勢部材81による押圧力によって上記他方の支持ローラ68bが元の位置に戻ることにより一対の支持ローラ68a,68b間に移動手摺14がしっかりと挟持され、これにより欄干部清掃装置40が移動手摺14上に装着される。
【0059】
それから、保守員は、図示しないスイッチをオンすることによって欄干部清掃装置40を作動させる。これにより、バッテリ64からの電力供給を受けて各モータ58,82および吸引除去装置66が作動し、回転ブラシ42および支持ローラ68a,68bが回転する。回転ブラシ42は比較的高速で回転し、支持ローラ68a,68bは比較的低速で回転する。
【0060】
一対の支持ローラ68a,68bの回転によって、欄干部清掃装置40が移動手摺14に沿って自走する。そして、欄干部清掃装置40は、自走しながら、回転する回転ブラシ42によって、欄干フレーム32の上面32aと手摺ガイドレール33の角部との間に形成される楔状の隙間に入り込んでいる移動手摺14の磨耗粉Pを掻き出す。掻き出された磨耗粉Pの大部分は、吸引ノズル66bを介して吸引除去装置66に吸引されて除去される。また、欄干フレーム32の上面32a等に付着して残った磨耗粉Pは、回転する清掃ローラ84によって拭き取られて除去される。
【0061】
上述したように本実施形態の欄干部清掃装置40によれば、停止した移動手摺14に沿って自走させながら手摺ガイドレール33と欄干フレーム32との間に入り込んだ移動手摺14の磨耗粉Pを自動的にきれいに除去することができる。したがって、保守員は、上記のような磨耗粉の除去に手間や時間をかける必要がなく、その自動清掃の間に保守点検作業を行うことができ、作業効率を大幅に向上させることができる。
【0062】
なお、上記において本実施形態の欄干部清掃装置40について説明してきたが、本発明に係る欄干部清掃装置は上記の構成に限定されるものではなく、種々の変更や改良が可能である。
【0063】
たとえば、図5に示すように、欄干部清掃装置40の移動方向前後に位置するケース部材48の側壁部48bの外面に、距離センサ88a,88bを取り付けてもよい。この距離センサ88a,88bは、移動手摺14に沿って自走してきた欄干部清掃装置40が上階または下階の乗降口まで来て移動手摺14のUターン領域に沿ってランディングプレート13,15に接近したことを検知するためのものである。距離センサ88a,88bによりランディングプレート13,15に所定距離まで接近したことを検知したとき、走行用モータ82への電流の流れ方向を反転させて支持ローラ68を逆転させることにより、欄干部清掃装置40を移動手摺14に沿って下階と上階との間で自動的に往復移動させることができる。その結果、自動的に行われる複数回の清掃によって移動手摺の磨耗粉の清掃除去を自動的により確実に行うことができる。
【0064】
また、上記実施形態では、欄干部清掃装置40を自走させながら移動手摺の磨耗粉の清掃作業を行うものとして説明したが、これに限定されるものではなく、一対の支持ローラ68a,68b間に移動手摺14を挟持した状態で、エスカレータ10を運転して移動手摺14を移動させることにより磨耗粉の清掃除去を行ってもよい。この場合、欄干部清掃装置40は自走する必要がないので、走行用モータ82だけに電力を供給しないように例えばスイッチ切換えを行えばよい。
【0065】
さらに、上記実施形態では、掻き出された移動手摺の磨耗粉を除去するための除去部として、吸引除去装置および拭き取り除去装置の両方を設けた例について説明したが、いずれか一方だけで足りる場合には他方を省略してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 エスカレータ、12 トラス、12a 上部トラス部、12b 下部トラス部、12c 傾斜トラス部、13,15 ランディングプレート、14 移動手摺、16 欄干部、18,20 床、22 駆動スプロケット、24 従動スプロケット、26 ステップ、28 ステップチェーン、31 側壁パネル、32 欄干フレーム、32a 上面、33 手摺ガイドレール、33a レール部、33b 側面、34 カバー部材またはクリップガイド、40 欄干部清掃装置、42 回転ブラシ、44 ブラシ本体、46 ブラシ、48 ケース部材、48a 上壁部、48b 側壁部、48c 下壁部、49 ハンドル、50,70 回転軸、52 傘歯車、54,74a,74b ブラケット部材、56,76 軸受部材、58 ブラシ用モータ、60,83 出力軸、62,86 駆動ギヤ、63 中間ギヤ、64 バッテリ、66 吸引除去装置、66a 吸引部本体、66b 吸引ノズル、68,68a,68b 支持ローラ、72 従動ギヤ、78 C字形リング、80 ピン、81 付勢部材、82 走行用モータ、84 清掃ローラ、88a,88b 距離センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンベヤと同期して移動する移動手摺と、この移動手摺の移動を案内する手摺ガイドレールと、この手摺ガイドレールの下部を支持してコンベヤ側方にある欄干部の上部を構成する欄干フレームとを備える乗客コンベヤの欄干部清掃装置であって、
前記手摺ガイドレールの角部と前記欄干フレームの上面との間に形成されるデルタ状の隙間に入り込んだ前記移動手摺の磨耗粉を掻き出す回転ブラシと、前記掻き出された磨耗粉を除去する除去部と、前記回転ブラシおよび前記除去部を前記移動手摺上に支持する支持部とを含む、乗客コンベヤの欄干部清掃装置。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、
前記支持部は、前記移動手摺を幅方向両側から挟持する一対のローラを有し、これらローラの少なくとも一方が回転駆動されることより前記回転ブラシおよび前記除去部を支持しながら前記移動手摺上を長手方向に沿って走行することを特徴とする、乗客コンベヤの欄干部清掃装置。
【請求項3】
請求項2に記載の乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、
前記ローラは、略C字状断面を有する移動手摺の湾曲した外側端部を受け入れるよう略つづみ状の外形に形成されていることを特徴とする、乗客コンベヤの欄干部清掃装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、
前記回転ブラシは、その外周部に真鍮製ブラシが植設されていることを特徴とする、乗客コンベヤの欄干部清掃装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、
前記除去部は、前記回転ブラシによって掻き出された前記移動手摺の磨耗粉を吸引除去する吸引除去装置と、前記掻き出された前記移動手摺の磨耗粉を拭き取って除去する拭き取り除去装置との少なくとも一方を含んで構成されることを特徴とする、乗客コンベヤの欄干部清掃装置。
【請求項6】
請求項5に記載の乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、
前記支持部は、前記移動手摺を幅方向両側から挟持する一対のローラを有し、これらローラの少なくとも一方が回転駆動されることより前記回転ブラシおよび前記除去部を支持しながら前記移動手摺上を長手方向に沿って走行するものであり、前記拭き取り除去装置は、前記ローラの軸に取り付けられて前記ローラと共に回転することにより前記隙間近傍に位置する前記手摺ガイドレールの側面および前記欄干フレームの上面に接触しつつ前記磨耗粉を拭き取る清掃ローラを含むことを特徴とする、乗客コンベヤの欄干部清掃装置。
【請求項7】
請求項6に記載の乗客コンベヤの欄干部清掃装置において、
前記清掃ローラは、清掃液体を含浸することができる材料で形成されていることを特徴とする、乗客コンベヤの欄干部清掃装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−176823(P2012−176823A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40321(P2011−40321)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】