説明

乗用型水田走行作業機の変速操作装置

【構成】 エンジン5出力をテンション付与手段24を有するベルト変速装置16でミッションケース側伝動軸18に伝達可能にしており、ベルト変速装置16を操作する変速レバー35を乗車位置から操作可能に設ける。前記ベルト変速装置16を操作する補助変速レバー46を、変速レバー35から離れていて降車位置から操作可能な位置に設ける。
【効果】 乗車位置からベルト変速装置16を操作する変速レバー35とは別個に、降車位置から操作可能な補助変速レバー46を設けているので、乗用型水田走行作業機を圃場に出し入れするとき等に、作業員は降車してこの補助変速レバー46を回動操作することができ、走行速度を調整しながら容易に作業を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、乗用型の田植機、湛水直播機等の乗用型水田走行作業機の変速操作装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば乗用型田植機において、エンジンからトランスミッションへの動力伝達は、テンション付与手段を有するベルト式変速装置で行われており、このベルト変速装置を操作する変速レバーは操縦ハンドルの側方に配置されていて、運転席に座った乗車位置から操作可能になっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】田植機は通常、田植作業及び路上走行等は乗車したまま行うが、圃場への出入り及びトラックへの積み卸し等では降車して行う方がやり易いことがある。田植機を降車して操作する場合、変速レバーを回動して走行速度を変更しながら行われる。
【0004】この変速レバーは走行車体の略中央の操縦ハンドルの近傍にあるため、背が高く手の長い人にはその回動操作は可能であるが、背が低く手の短い人には手が届き難く、操作が困難になっている。本発明は、乗車位置から操作する変速レバーとは別個に、ベルト変速装置を操作する補助変速レバーを設け、この補助変速レバーを降車位置から操作できるようにすることにより、前記従来技術の問題点を解決できるようにした乗用型水田走行作業機の変速操作装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明における課題解決のための具体的手段は、エンジン出力をテンション付与手段を有するベルト変速装置でミッションケース側伝動軸に伝達可能にしており、ベルト変速装置を操作する変速レバーを乗車位置から操作可能に設けている乗用型水田走行作業機の変速操作装置であって、前記ベルト変速装置を操作する補助変速レバーを、変速レバーから離れていて降車位置から操作可能に設けていることである。
【0006】
【作用】乗用型田植機1は乗車位置から変速レバー35を介してベルト変速装置16を操作することにより、作業時の走行速度を高低及び停止に変更することができる。前記変速レバー35と別個に補助変速レバー46が設けられており、この補助変速レバー46は変速レバー35から離れて位置し、背の低い人でも降車位置から回動操作することが可能である。
【0007】乗用型田植機1を圃場に出し入れするとき、作業員は降車してこの補助変速レバー46を回動操作し、ベルト変速装置16を操作して走行速度を調整しながら作業を行う。
【0008】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図4において、1は乗用型水田走行用作業機としての乗用型田植機であり、前輪2と後輪3とを装備した走行車体4の前部にエンジン5が搭載されている。走行車体4の前後中間には、操縦ハンドル6および運転席7を含む操縦部8が備えられ、操縦部8の後方には、昇降シリンダ9及び昇降リンク機構10を介して苗植付装置11が昇降自在に連結されている。12はエンジン5を覆うボンネット、13は運転席7の左右側方の後輪フェンダをそれぞれ示している。
【0009】図1〜4に示す第1実施例において、エンジン5の出力軸15の動力は、副変速装置としての多段式ベルト変速装置16を介して、ミッションケース17の入力軸となっている伝動軸18に伝達され、ミッションケース17内の主変速装置等のトランスミッションを介して前輪2及び後輪3に伝達されると共に、苗植付装置11等にも伝達される。
【0010】前記多段式ベルト変速装置16はダブルテンション方式を示しており、エンジン5の出力軸15とミッションケース17の伝動軸18とにはそれぞれ2組のプーリ20、21が設けられており、プーリ20L、21Lとそれらに巻き掛けられたベルト22Lとは低速用であり、プーリ20H、21Hとそれらに巻き掛けられたベルト22Hとは高速用であり、各ベルト22L、22Hにはテンションプーリ23L、23Hが押し付け可能になっている。
【0011】各テンションプーリ23L、23Hを取り付けたテンションアーム26L、26Hは支持軸27に枢支されており、各テンションアーム26L、26Hには支持軸27の前後位置にピン28、29が突設されていて、各前ピン28には切り換えリンク30L、30Hの一端の長孔30Aが嵌合し、各後ピン29には戻しバネ31L、31Hとクラッチリンク32の各一端が連結されている。
【0012】前記各テンションプーリ23、テンションアーム26、戻しバネ31等によって、ベルト変速装置16のベルト22にテンションを付与するテンション付与手段24が構成されている。また、前記支持軸27には変速レバー35も枢支されており、その長手方向中途には係合ピン36が設けられている。37は支軸38に枢支された切り換え具で、2本のピン39L、39Hを突設し、この2本のピン39L、39H間に長孔40が形成されており、この長孔40は変速レバー35の係合ピン36に嵌合している。前記2本のピン39L、39Hにはそれぞれ切り換えリンク30L、30Hの他端が連結されている。
【0013】図1は低速動力伝達状態を示しており、低速側テンションアーム26Lは戻しバネ31Lの引っ張り力によってテンションプーリ23Lを低速側ベルト22Lに押し付けている。この状態から変速レバー35を反時計方向(図1矢印方向)に揺動すると、切り換え具37が支軸38を中心に回動して低速側切り換えリンク30Lを引き上げ、戻しバネ31Lに抗して低速側テンションアーム26Lを持ち上げ、ベルト22Lのテンションを減少して動力を切る。
【0014】これと同時に、高速側切り換えリンク30Hは下降可能になり、戻しバネ31Hによって高速側テンションアーム26Hは回動し、ベルト22Hにテンションプーリ23Hを押し付けることになり、ベルト22Hにはテンションが付与されて高速動力を伝達するようになる。クラッチリンク32の一端には高低両速のテンションアーム26の後ピン29に遊嵌した遊嵌部32Aが形成され、他端はクラッチペダル42と連動連結されている。
【0015】クラッチペダル42は走行車体4に固定の枢支軸43に枢支され、ステップ44から上方へ突出しており、そのボス部から爪部42Aが突出している。また、枢支軸43にはリンク45が枢支され、その先端はクラッチリンク32に連結され、このリンク45に前記爪部42Aが上から係合可能になっている。前記クラッチペダル42を踏み込むことにより、爪部42Aが回動してリンク45に上から係合し、クラッチリンク32を図1下方向に引っ張り、戻しバネ31に抗して低速側と高速側の両テンションアーム26を持ち上げ方向に回動して、高低速両方の動力を切ることができる。
【0016】46は枢支軸43に枢支された補助変速レバーで、その上部は変速レバー35より充分に前側に位置し、降車した作業員が容易に回動操作可能な位置に配置されている。この補助変速レバー46のボス部には、クラッチペダル42と同様に爪部46Aが突出されており、この爪部46Aもリンク45に上方から係合して、クラッチリンク32を図1下方向に引っ張り、戻しバネ31に抗して低速側と高速側の両テンションアーム26を持ち上げ方向に回動して、高低速両方の動力を切ることが可能になっている。47は補助変速レバー46のガイド板を示しており、ボンネント12等に固定されている。
【0017】前記持ち上げるテンションアーム26は、実際には、テンションプーリ23がベルト22を弾圧している入り側だけであり、テンションアーム26の持ち上げ量を調整することにより、テンションプーリ23によるベルト22の張り具合を変更できる。補助変速レバー46を図2のガイド板47の入り位置に配置していると、テンションアーム26はテンションプーリ23を正規の力でベルト22に弾圧して、低速又は高速の動力を正常に伝達可能にし、1位置に配置すると、テンションプーリ23によるベルト22を押圧する力が減少し、ベルト22の張りを緩めてスリップを生じさせることになり、2位置では更にベルト22の張りを緩めてスリップ率が多くなるようになっており、このスリップにより、ベルト変速装置16が伝達する動力が減少し、走行速度が変速レバー35で設定された速度より減速側に調整される。
【0018】更に、補助変速レバー46を切り位置まで回動すると、両テンションプーリ23はベルト22から離れ、クラッチペダル42を踏み込むのと同じように、ベルト変速装置16による動力伝達を切る状態が得られる。従って、乗用型田植機を圃場に出し入れするため、ベルト変速装置16を低速側にしてゆっくりと乗用型田植機を移動しているときに、補助変速レバー46と操作すると移動速度を更に低速にしたり又は停止したりできる。
【0019】図1、3、4には動力伝達系のブレーキ装置51が示されている。このブレーキ装置51はミッションケース17から後輪デフ装置52へ動力を伝達する回転軸53を制動するブレーキ手段54と、このブレーキ手段54を変速レバー35で操作する操作手段55とを有している。前記ブレーキ手段54は走行車体4に取り付けられたバンドブレーキ又はディスクブレーキであり、その操作レバー56は操作手段55のボーデンワイヤ57で回動操作される。このボーデンワイヤ57のインナワイヤ57Aの一端は補助変速レバー46に固定の作動体58に挿通され、先端の掛止具59が作動体58と掛止可能になっている。
【0020】従って、補助変速レバー46を切り位置以上に回動してブレーキ位置にすると、作動体58が掛止具59を介してインナワイヤ57Aを引っ張り、操作レバー56を介してブレーキ手段54を作動させ、回転軸53を制動することができ、補助変速レバー46で走行車体4の停止を行うことができるようになる。図5は第2実施例を示しており、補助変速レバー46は変速レバー35と同様に支持軸27に枢支されており、この補助変速レバー46には係合体48が突出され、この係合体48は高低両テンションアーム26の後ピン29と係合可能であり、クラッチリンク32を介さずに高低両テンションアーム26の位置を変更して、ベルト22の張力を微調整し、走行車体4の変速操作をすることが可能になる。尚、この第2実施例でも前記ブレーキ装置51を併設することが可能である。
【0021】図6、7は第3実施例を示しており、この補助変速レバー46は支持軸27に枢支されていて、長手方向中途部に支持軸27を中心とする円弧状の板49が固着され、この円弧板49には係止孔49Aが形成されており、変速レバー35には係止孔49Aと係脱可能な係止ピン50が突設されている。この第3実施例の補助変速レバー46は若干左右に揺動可能であり、円弧板49を移動して係止孔49Aを係止ピン50に対向させかつ係合させると、補助変速レバー46を回動することにより変速レバー35を回動操作することができる。
【0022】即ち、降車位置から変速レバー35を操作するのと同様に、補助変速レバー46でベルト変速装置16を変速操作でき、しかも変速レバー35に手が届かない背の低い人でも容易に操作できる。図7に示すガイド板47には、変速レバー35用のガイド溝47Aの他に補助変速レバー46用のガイド溝47Bが形成され、ガイド溝47Bにはガイド溝47Aと同様に高速、低速及び中立の各作用位置がある他に、円弧板49を移動して係止孔49Aを係止ピン50に離脱させかつ離脱位置で退避させておく退避位置が形成されている。
【0023】尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、種々変形することができる。例えば、ベルト変速装置16はベルト伝動手段が3組あるトリプルテンション型ベルト変速装置又は、割プーリを使ったベルト伝動手段が1組だけの無段変速型のベルト変速装置でも良い。また、補助変速レバー46はボンネット12の前側、フェンダ13の近傍等に配置することも可能であり、変速レバー16は降車位置から最も操作し難い位置に配置されているので、この変速レバー16から離れた位置にあれば、ほとんどの場合、変速レバー16よりも降車位置から操作し易い位置となる。
【0024】
【発明の効果】以上詳述した本発明によれば、乗車位置からベルト変速装置を操作する変速レバーとは別個に、降車位置から操作可能な補助変速レバーを設けているので、乗用型水田走行作業機を圃場に出し入れするとき等に、作業員は降車してこの補助変速レバーを回動操作することができ、走行速度を調整しながら容易に作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例の要部を示す側面図である。
【図2】同ベルト変速装置の分解斜視図である。
【図3】同要部の分解斜視図である。
【図4】乗用型田植機の側面図である。
【図5】第2実施例を示す側面図である。
【図6】第3実施例の側面図である。
【図7】図6のX−X線断面図である。
【符号の説明】
1 乗用型田植機
5 エンジン
15 出力軸
16 ベルト変速装置
17 ミッションケース
18 伝動軸
23 テンションプーリ
26 テンションアーム
35 変速レバー
42 クラッチペダル
46 補助変速レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジン出力をテンション付与手段を有するベルト変速装置でミッションケース側伝動軸に伝達可能にしており、ベルト変速装置を操作する変速レバーを乗車位置から操作可能に設けている乗用型水田走行作業機の変速操作装置であって、前記ベルト変速装置を操作する補助変速レバーを、変速レバーから離れていて降車位置から操作可能な位置に設けていることを特徴とする乗用型水田走行作業機の変速操作装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平6−70623
【公開日】平成6年(1994)3月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−228854
【出願日】平成4年(1992)8月27日
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)