説明

乳化剤無添加チョコレート及びその製造方法

【課題】本発明は、チョコレート成形作業環境中の湿度管理を特に要せず、溶解・固化を繰り返しても「ボテ」が発生せず、且つ添加物表示の不要で、風味良好な乳化剤無添加チョコレートを低価格で提供することを目的とするものである。
【解決手段】上記課題を解決するために、チョコレートの原料組成物中に、卵黄粉末が1.0重量%〜5.0重量%添加され、他の乳化剤が添加されていないことを特徴とする乳化剤無添加チョコレートの構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤を含まない乳化剤無添加チョコレート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、消費者は、食品の安全に対する関心が高く、保存料をはじめ添加物が使用されている食品を倦厭し、無添加食品を求める傾向が一層強くなってきた。
【0003】
チョコレートにおいても、添加物を除いた製品が求められている。チョコレートにおいて使用される添加物として、食品用の乳化剤がある。
【0004】
食品用の乳化剤には、卵黄、大豆から抽出・精製されるレシチン、牛乳から分離されたリポタンパク質、天然油脂などを原料として誘導されるグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが広く食品に使用されている。
【0005】
乳化剤の機能として、乳化のみならす起泡や消泡、でんぷんの老化防止などをはじめとするさまざまな機能を有しており、これらの機能を生かして食品加工分野でいろいろな使い方がされている。
【0006】
しかし、チョコレートにおける乳化剤の除去は容易ではない。チョコレートに乳化剤を添加する目的は、結晶調整(ファットブルーム防止)、粘度調整機能(ボテ防止)を付与することである。
【0007】
結晶調整としては、ノンテンパリング油脂を使用すること、チョコレートの冷却固化時にテンパリングをすることでも対応できる。なお、テンパリングとは、ココアバターの結晶を安定した型に統一するために行う温度調節のことである。
【0008】
しかし、粘度調整としての乳化剤を除去することは、特に困難であるとされている。チョコレートは、溶解工程で水(水分)が混入すると「ボテ」た状態になる。「ボテ」とは、ペースト状の流れるような物性(流動性)が失われ、ボテボテして流れない状態になることである。特に、ホワイト系チョコレートで顕著である。
【0009】
また、業務用のチョコレートは、繰り返し溶解、固化され、その間に、作業環境中の水分(湿度)を糖類等が吸収し、チョコレートの粘度が上昇(これもボテた状態という。)し、固化しないことがある。特に、業務用チョコレートにおいては、繰り返し溶解・固化中の「ボデ」の発生も防止しなければならない。
【0010】
「ボテ」が発生すると、作業性・歩留まりが低下するため、チョコレートには、粘度調整(上昇抑制)機能を有した乳化剤を添加しなければならない。
【0011】
チョコレートに粘度調整の目的で添加される乳化剤として、レシチンが最も使用されている。レシチンには、卵黄から精製された卵黄レシチン、大豆から精製された大豆レシチン、及び酵素処理などそれら加工品が知られている。
【0012】
卵黄レシチンを用いたチョコレートとしては、特許文献1に記載の口中低粘着性チョコレートがある。特許文献1記載の口中低粘着性チョコレートは、高純度の卵黄レシチンをチョコレート中に混合・分散させてなる。
【特許文献1】特開平09−121771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1記載の卵黄レシチン添加チョコレートでは、卵黄レシチンの原価が高いことから、チョコレートの販売価格も高くなってしまう。また、卵黄レシチンも抽出・精製されることにより、卵黄レシチン独特の嫌味がチョコレート本来の味をマスクしてしまう。
【0014】
一方、大豆レシチンを使用することとすると、特許文献1段落[0043]には、おいしさ、後味のさっぱり感共に卵黄レシチン使用品の方が大豆レシチンよりも評価が高く、とあることからも分かるように、風味について大豆レシチンがさらに劣り、とても採用することはできない。
【0015】
更に、上記大豆レシチンを、チョコレートに使用した場合は、現在の法律では、添加物として「乳化剤又はレシチン」の表示が必要になってしまう。
【0016】
そこで、チョコレート成形作業環境中の湿度管理を特に要せず、溶解・固化を繰り返しても「ボテ」が発生せず、且つ添加物表示の不要で、風味良好な乳化剤無添加チョコレートを低価格で提供することを目的とするものである。なお、ここでいう乳化剤とは、食品用の乳化剤であり、且つ、法律上、添加物表示が義務付けられている乳化剤のことである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、チョコレートの原料組成物中に、卵黄粉末が1.0重量%〜5.0重量%添加され、他の乳化剤が添加されていないことを特徴とする乳化剤無添加チョコレートの構成とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明である乳化剤無添加チョコレートによれば、チョコレート成形作業環境の湿度管理を特に要せず、溶解・固化を繰り返しても「ボテ」が発生せず、且つ添加物表示の不要で風味良好なチョコレートを低価格で提供することができることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明である乳化剤無添加チョコレートは、加熱撹拌機で油脂成分を溶解し、前記油脂の一部に糖類、1.0重量%〜5.0重量%の範囲になるよう卵黄粉末、その他粉体、及び他の乳化剤を含まない添加物を添加し、加熱、撹拌・混合し、次にロール掛けし、次に残りの油脂成分を加え混合、続けて冷却、固化することによって実現した。
【実施例1】
【0020】
以下、添付図面に基づいて、本発明である乳化剤無添加チョコレートについて、詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明である乳化剤無添加チョコレートの配合組成である。実施例1は、卵黄粉末(キューピュー(株)製、乾燥卵黄NO.1)が、チョコレートの原料組成物中に、1.0重量%になるように添加され、他の乳化剤が添加されていないホワイトチョコレートである。
【0022】
なお、実施例1、2、3に使用した粉末卵黄の組成は、脂肪55〜61%(内リン脂質約15%)、タンパク質28〜34%、水分5%以下であった。
【0023】
卵黄粉末とは、鶏卵の卵黄のみをスプレードライ法にて乾燥させた粉末で、リン脂質含量が約15%程度である。なお、乾燥方法は特に問題ではなく、他の食品の乾燥に一般に使用されている乾燥方法を採用しても、水分5%以下程度に乾燥できればよい。
【0024】
また、液体(生)卵黄は水分が約50%であり、販売用チョコレートに添加することはできない。保存性が低下し、液体卵黄の水分によって、ボテが生じてしまうからである。さらに、茹で卵黄(黄身)であっても、水分は生卵黄とさほど変わらないことから、同様に販売用チョコレートに使用することはできない。
【0025】
実施例1の乳化剤無添加チョコレートは、加熱撹拌機に硬化油脂36.8重量%の一部、ココアバター7.0重量%の油脂成分を投入、溶解し、前記溶解した油脂成分に砂糖
31.3重量%、乳糖11.4重量%、全粉乳12.5重量%、卵黄粉末1.0重量%の粉体を順次投入し、加熱、撹拌・混合し、次にロール掛けし、次に残りの油脂成分を加え混合、続けて冷却、固化して得た。なお、試作工程中の室内の湿度環境は特別管理しなかった。
【0026】
加熱撹拌機は、ニーダーが望ましいが、その他加熱、撹拌・混合できる装置であれば特に限定されない。
【0027】
ここでは、油脂成分として、硬化油脂及びココアバターを使用したが、その他、チョコレートに一般に使用されている植物油脂、動物性油脂、それら硬化油でもよい。
【0028】
また、糖類として、砂糖、乳糖を採用したが、その他、チョコレートに一般に使用されている麦芽糖、トレハロース、デキストリン、水飴、澱粉分解物、水素添加物などのそれら加工品でもよい。
【0029】
さらに、乳製品として、全粉乳を使用したが、その他、チョコレートに一般に使用されている脱脂粉乳、カゼイン、WPC、それら酵素処理品などの加工品、或いは調整品、バター、チーズそれら酵素処理などの加工品、或いは調整品を使用してもよい。
【0030】
なお、ココアパウダー、カカオマス及びその調整品であるココア成分を添加してもよいことは勿論である。
【実施例2】
【0031】
実施例2は、実施例1の卵黄粉末の添加量を3.0重量%にし、乳糖を9.4重量%に減じて、合計(重量%)を一定にし、その他組成物、製造方法は同一である。
【実施例3】
【0032】
実施例3は、実施例1の卵黄粉末の添加量を5.0%にし、乳糖を7.4重量%に減じて、合計(重量%)を一定にし、その他組成物、製造方法は同一である。
【0033】
なお、[比較例1]は、実施例1の卵黄粉末の添加量を0.5重量%にし、乳糖の投入量を調整して合計(重量%)を一定にした。その他組成物、製造方法は同一である。
【0034】
図2は、本発明の比較例(大豆レシチン)の配合組成である。[比較例2]は実施例1の卵黄粉末に替えて、大豆レシチン0.1重量%、[比較例3]は実施例1の卵黄粉末に替えて、大豆レシチン0.3重量%、[比較例4]は実施例1の卵黄粉末に替えて、大豆レシチン0.5重量%を添加し、乳糖の添加量を調整して合計(重量%)を一定にした。その他の配合物、製造方法は、同一である。
【0035】
なお、大豆レシチンは、リン脂質含量約65%の、日清オイリオ(株)製、「レシチンDX」を使用した。
【0036】
図3は、本発明の比較例(卵黄レシチン)の配合組成である。[比較例5]は実施例1の卵黄粉末に替えて、卵黄レシチン0.3重量%、[比較例6]は実施例1の卵黄粉末に替えて、卵黄レシチン0.5重量%、[比較例7]は実施例1の卵黄粉末に替えて、卵黄レシチン1.0重量%を添加し、乳糖の添加量を調整して合計(重量%)を一定にした。その他の配合物、製造方法は、同一である。
【0037】
なお、卵黄レシチンは、リン脂質含量約32%の、キューピー株式会社製、卵黄レシチンPL−30Sを使用した。
【0038】
図4は、溶解・固化を繰り返したときの粘度変化、及び物性の観察結果である。実施例1〜3及び比較例1〜7の結果を示した。図5は、粘度変化のグラフである。図5には、図4で示した実施例1〜3及び比較的良好なペースト状態を維持した比較例3、4、及び比較例6、7の粘度変化のみを表した。
【0039】
ここで、固化前とは、実施例、比較例いずれも試作直後に、一端50℃に昇温した後、45℃に自然に冷却された時点をいう。再溶解後とは、一旦5〜10℃で冷却固化したものを再度50℃に昇温し溶解後、45℃に自然に冷却された時点をいう。
【0040】
また、加熱放置とは、再溶解後の測定・観察が終了した後、50℃恒温器内に次回測定時までの所定時間(6時間、12時間、24時間)静地し、測定時に45℃に冷却したときをいう。製造工程のコンチング工程中の粘度変化を想定している。
【0041】
粘度(cP)は、BROOKFIELD社製、DV−II+型粘度計、ローターNo4、回転スピード12rpm、チョコレート温度45℃の条件で測定したときの結果である。なお、−は粘度が高く粘度の測定が不能であったこと意味する。
【0042】
物性は、経験豊富な技術者の目視により、ペースト状態を観察した結果である。ペースト状態の○はボテのないきれいなペーストであること、△はボテた状態であることを意味する。なお、卵黄粉末、乳化剤を全く添加しないコトールは、結果は示していないが、ボテがひどく、ばさばさな状態であった。
【0043】
試験の結果以下のことが明らかになった。先ず、大豆レシチンを添加した比較例について説明する。比較例2(大豆レシチン0.1重量%添加)では、試作直後では粘度測定可能であったが、再溶解以降、粘度測定不可能な状態であった。ペースト状態は、ボテた状態であるが、大豆レシチンを添加していないコントロールと比較すると、改善が見られた。
【0044】
比較例3(大豆レシチン0.3重量%添加)では、試験期間において、粘度上昇が抑えられ、ボテがなくきれいなペースト状態であった。
【0045】
比較例4(大豆レシチン0.5重量%添加)では、試験期間において、粘度上昇は、大豆レシチン0.3重量%添加より、さらに抑えられ、ボテかなくきれいなペースト状態であった。なお、経験的に、0.5重量%より大豆レシチンを多く添加すると、逆に粘度上昇することが分かっている。
【0046】
さらに、風味については、比較例2〜4の順に大豆レシチン独特の風味が強くなり、チョコレートの風味を低下させている。
【0047】
次に、卵黄レシチンを添加した比較例について説明する。比較例5(卵黄レシチン0.3重量%添加)では、チョコレート試作直後から、粘度が高く粘度を測定することができなかった。ペースト状態は、ボテた状態であるが、卵黄レシチンを添加していないコントロールと比較すると、改善が見られた。
【0048】
比較例6(卵黄レシチン0.5重量%添加)では、試験期間において、粘度上昇が抑えられ、ボテがなくきれいなペースト状態であった。
【0049】
比較例7(卵黄レシチン1.0重量%添加)では、試験期間において、粘度上昇が抑えられ、ボテがなくきれいなペースト状態であった。特に、再溶解後の粘度上昇の抑制力は、卵黄レシチン0.3重量%添加に比べ、顕著に改善されている。またよりきれいなペースト状態であった。
【0050】
しかし、大豆レシチンと同様な、粘度調整機能を発揮する卵黄レシチンであるが、大豆レシチンと同量添加したときで比較すると改善はみられるものの、比較例5〜7の順にやはり、卵黄レシチン独特の風味がチョコレート本来の風味を低下させていた。
【0051】
最後に、卵黄粉末を添加したチョコレートについて説明する。比較例1(卵黄粉末0.5%重量%添加)では、試作直後では粘度測定可能であったが、再溶解以降、粘度測定不可能な状態であった。ペースト状態は、ボテた状態であるが、卵黄粉末を添加していないコントロールと比較すると、改善が見られた。
【0052】
実施例1(卵黄粉末1.0重量%添加)では、試験期間において、粘度上昇は抑えられ、ボテかなくきれいなペースト状態であった。なお、大豆レシチン、卵黄レシチンの粘度調整機能と同程度の効果を発揮した。
【0053】
実施例2(卵黄粉末3.0重量%添加)では、試験期間において、粘度上昇は、卵黄粉末1.0重量%添加より、さらに抑えられ、ボテかなくきれいなペースト状態であった。
【0054】
実施例3(卵黄粉末5.0重量%添加)では、試験期間において、粘度上昇は、卵黄粉末3.0重量%添加と同程度に抑えられ、ボテかなくきれいなペースト状態であった。
【0055】
図5のグラフからも分かるように、実施例1〜3において、実施例2の卵黄粉末3.0%が最も効果的に、チョコレートの粘度調整を行えた。一方、結果は示さないが、卵黄粉末の添加量が0.5%以下では、殆ど粘度を調節することができず、程なく粘度が増し、ほぼ卵黄粉末無添加チョコレートと、同様であった。
【0056】
なお、卵黄粉末の添加量が5.0%以上では、卵黄レシチンを添加する場合と、と同程度のコストになること、また、卵黄の風味が強く感じられ、チョコレートがマイルドな風味になってしまいころから、粘度試験は行わなかった。
【0057】
ところで、卵黄粉末を添加した、チョコレートでは、全体的に粘度が高いが、全粉乳の添加量を低下させることで、初期粘度を低下させることができる。この現象は単に粉体が増加されたことによる粘度上昇であり、大豆レシチン、卵黄レシチンのような粘度調整能力がないことを意味するものではない。
【0058】
また、風味改善としては、一部の粘度調整に寄与するリン脂質が、卵黄粉末内で、他の物質と結合し、完全にチョコレート中に溶出されてこないこと、或いは、リン脂質以外の17%弱含有されている蛋白質が、チョコレート成分と結びつき、相乗効果により、逆に風味を向上していると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明である乳化剤無添加チョコレートの配合組成である。
【図2】本発明の比較例(大豆レシチン)の配合組成である。
【図3】本発明の比較例(卵黄レシチン)の配合組成である。
【図4】溶解・固化を繰り返したときの粘度変化、及び物性の観察結果である。
【図5】粘度変化のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョコレートの原料組成物中に、卵黄粉末が添加され、乳化剤が添加されていないことを特徴とする乳化剤無添加チョコレート。
【請求項2】
チョコレートの原料組成物中に、卵黄粉末が1.0重量%〜5.0重量%添加され、乳化剤が添加されていないことを特徴とする乳化剤無添加チョコレート。
【請求項3】
加熱撹拌機で油脂成分を溶解し、前記油脂の一部に糖類、1.0重量%〜5.0重量%の範囲になるよう卵黄粉末、その他粉体、及び他の乳化剤を含まない添加物を添加し、加熱、撹拌・混合し、次にロール掛けし、次に残りの油脂成分を加え混合、続けて冷却、固化してなる乳化剤無添加チョコレート。
【請求項4】
加熱撹拌機で油脂成分を溶解し、前記油脂の一部に糖類、1.0重量%〜5.0重量%の範囲になるよう卵黄粉末、その他粉体、及び他の乳化剤を含まない添加物を添加し、加熱、撹拌・混合し、次にロール掛けし、次に残りの油脂成分を加え混合、続けて冷却、固化する乳化剤無添加チョコレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−289071(P2007−289071A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121012(P2006−121012)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(391005569)東京フード株式会社 (6)
【Fターム(参考)】