説明

乳化重合用乳化剤

【課題】重合安定性、化学安定性に優れるとともに、泡立ちが少なく、フィルムの光沢性に優れるポリマーエマルジョンが得られる乳化重合用乳化剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表され、多分散度Mw/Mnが1.10〜1.20である非イオン界面活性剤を含有する乳化重合用乳化剤。
【化1】


(式中、R及びRは、炭素数の合計が8であるアルキル基を表し、両者は互いに同一でも異なってもよい。POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基、mは1〜4の整数、nは1〜100の整数。POとEOの付加形態はランダム付加、ブロック付加又はこれらの混合付加。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化重合する際に用いられる乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳化重合用乳化剤としては、ノニルフェノール、オクチルフェノール等のアルキルフェノールにエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加してなるアルキルフェニルエーテル型の非イオン性界面活性剤が広く用いられていた。しかし、近年、アルキルフェノールは難生分解性であるため、環境に対する負荷が大きいという問題が指摘されている。そのため、乳化重合用乳化剤の疎水基原料としても、アルキルフェノールから脂肪族アルコールへ移行してきている。
【0003】
乳化重合用乳化剤の疎水基原料に用いられる脂肪族アルコールとして、従来は炭素数が12以上のものが多く用いられており、それ以下のものでは乳化力が不足したりすることから、乳化重合用乳化剤の原料には適さないとされていた。
【0004】
これに対し、下記特許文献1には、疎水基が脂肪族アルコール残基である乳化重合用乳化剤として、n−ペンタノールのゲルベ反応による二量体化アルコールなど、単一の分岐鎖を持つ炭素数9〜11の脂肪族アルコールに、アルキレンオキサイドを付加してなるエーテル型の非イオン又はアニオン界面活性剤が開示されている。
【特許文献1】特開2003−128709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乳化重合用乳化剤に要求される性能としては、重合時の乳化安定性、得られるポリマーエマルジョンの化学安定性等があり、上記特許文献1に開示された乳化剤であると、これらの改善効果が認められるものの、なお不十分であった。また、得られるポリマーエマルジョンを塗料用途に用いる場合には、ポリマーエマルジョンの泡立ちが少ないこと、また該エマルジョンから形成されるフィルムの光沢性に優れることが求められるが、上記従来の乳化剤で重合したポリマーエマルジョンはこれらの点でも不十分なものであった。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、重合時の乳化安定性、得られるポリマーエマルジョンの化学安定性に優れるとともに、泡立ちが少なく、更にフィルムの光沢性に優れるポリマーエマルジョンが得られる乳化重合用乳化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意検討していく中で、疎水基原料として特定の脂肪族アルコールを用いるとともに、これに付加するアルキレンオキサイド中のプロピレンオキサイドの付加モル数を規定し、更に界面活性剤の多分散度を特定の範囲内に設定することにより、上記の課題が解決されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る乳化重合用乳化剤は、下記一般式(1)で表され、多分散度Mw/Mnが1.10〜1.20である非イオン界面活性剤を含有するものである。
【化1】

【0009】
(式中、R及びRは、炭素数の合計が8であるアルキル基を表し、両者は互いに同一でも異なってもよい。POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基を表し、mは1〜4の整数、nは1〜100の整数である。POとEOの付加形態はランダム付加、ブロック付加又はこれらの混合付加である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の乳化重合用乳化剤であると、重合安定性、化学安定性が良好であり、泡立ちの少ないポリマーエマルジョンが得られる。また、得られるポリマーエマルジョンの粒子径分布が狭く、塗料用途に用いた場合に良好な光沢を有するフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記一般式(1)において、R及びRは、互いに同一又は異なるアルキル基を表し、RとRの炭素数の和は8である。従って、本発明では炭素数10の分岐脂肪族アルコールを疎水基の原料アルコールとして用いる。ここで、RとRの炭素数の和が8未満の場合では、重合安定性や化学安定性が不十分となることがある。RとRは、それぞれ炭素数1〜7のアルキル基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基が挙げられる。R、Rは分岐アルキル基でもよいが、好ましくはともに直鎖アルキル基である。また、R、Rはそれぞれ炭素数2〜6のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3〜5のアルキル基である。RとRの最も好ましい組み合わせは、Rがn−ペンチル基で、Rがn−プロピル基であり、すなわち、疎水基原料として2−プロピルヘプタノールを用いることである。特に限定はしないが、疎水基原料が2−プロピルヘプタノールと他のアルコールとの混合物であってもよい。この場合の他のアルコールとしては、上記した炭素数10の分岐脂肪族アルコールを用いることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内で炭素数が10でない分岐脂肪族アルコールを用いることもできる。炭素数が10でない分岐脂肪族アルコールを混合する場合、その比率は10重量%以下であることが好ましい。
【0012】
一般式(1)において、[(PO)(EO)]は、上記した原料アルコールに、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドを付加重合させることにより形成されるポリオキシアルキレン部分であり、POがオキシプロピレン基を、EOがオキシエチレン基をそれぞれ表す。プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの付加形態は、ランダム重合鎖でも、ブロック重合鎖でも、又はこれらの組み合わせでもよい。より好ましくは、アルコール残基側がオキシプロピレン基部分となるように、原料アルコールに対して、まずプロピレンオキサイドを付加し、次いでエチレンオキサイドをブロック付加することである。すなわち、上記非イオン界面活性剤は下記一般式(2)で表されることがより好ましい。このようなブロック付加形態を採用することにより、乳化重合時の重合安定性が良好で、得られるポリマーエマルジョンの化学安定性やフィルムの光沢性が良好なものとなる。さらに、泡立ちの少ないポリマーエマルジョンが得られる。
【化2】

【0013】
ここで、式中のR、R、PO、EO、m、nは上記一般式(1)と同じである。
【0014】
上記ポリオキシアルキレン部分において、POの付加モル数mは1〜4である。POの付加モル数が0では、得られるポリマーエマルジョンの泡立ちが多くなったり、乳化力が不足するために重合時の乳化安定性、すなわち重合安定性や化学安定性が不十分になったりする。逆に、POの付加モル数mが5以上である場合でも、乳化力が不足し、重合安定性や化学安定性が不十分になり、また得られるポリマーエマルジョンの粒子径分布が粗くなり、塗料用途に用いた場合に良好な光沢を有するフィルムが得られない。一方、EOの付加モル数nは1〜100であり、より好ましくは5〜80である。
【0015】
上記一般式(1)で表される非イオン界面活性剤は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される多分散度(Mw/Mn)が1.10〜1.20の範囲内であることを要する。多分散度Mw/Mnが1.20より大きいと、得られるポリマーエマルジョンの粒子径分布が粗くなり、塗料用途に用いた場合に良好な光沢を有するフィルムが得られない。逆に、多分散度Mw/Mnが1.10より小さいと、乳化重合に使用できるモノマーが限定されるだけでなく、乳化力不足のために重合安定性が不十分になる。多分散度を上記範囲内に設定するためには、原料アルコールにプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドを付加させる際の触媒の種類及び量、並びに反応温度等の反応条件を調整すればよい。
【0016】
本発明の乳化重合用乳化剤は、上記した一般式(1)で表される非イオン界面活性剤とともにポリエチレングリコールを含有してもよく、ポリエチレングリコールを併用することにより重合安定性を更に向上させることができる。該ポリエチレングリコールとしては、数平均分子量(Mn)が2万以下のものが用いられ、より好ましくは数平均分子量が500〜1万のものを使用することである。ポリエチレングリコールを併用する場合、上記式(1)の非イオン界面活性剤100重量部に対して、0.5〜70重量部含まれることが好ましく、より好ましくは1〜30重量部である。
【0017】
本発明の乳化重合用乳化剤は、更にアニオン界面活性剤を含有してもよく、これにより、乳化重合時の重合安定性が向上する。かかるアニオン界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩などが挙げられる。アニオン界面活性剤を併用する場合、上記式(1)の非イオン界面活性剤100重量部に対して、0.5〜100重量部含まれることが好ましく、より好ましくは5〜60重量部である。更に好ましくは10〜30重量部である。
【0018】
本発明の乳化剤は、各種モノマーの乳化重合に適用することができ、モノマーの種類は特に限定されないが、例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、メタクリル酸ヒドロキシエチルエステル、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル系モノマー、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族系モノマー、酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン系モノマー、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジオレフィン系モノマー等、その他、エチレン、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸メチル等が挙げられる。これらのモノマーは、1種または2種以上を用いることができる。
【0019】
本発明の乳化剤は、通常、モノマー総量に対して0.1〜20重量%、好ましくは、0.2〜5重量%で使用する。
【0020】
本発明の乳化剤を用いる乳化重合には、従来公知の重合開始剤が特に制限なく使用できる。代表的な例としては、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等が挙げられる。
【0021】
また、重合促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第1鉄アンモニウム等を用い、レドックス重合を行うこともできる。
【0022】
また、連鎖移動剤として、α−メチルスチレンダイマー、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類、四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素類などを用いてもよい。
【0023】
本発明の乳化剤を用いて得られるポリマーエマルジョンは、例えば、印刷インキ、塗料(建築用、家庭用、缶用、電着塗装用等)等のバインダー、インクジェット用メディアのバインダー、接着剤、粘着剤、被覆剤、含浸補強剤等として、木材、金属、紙、布、プラスチック、セラミック、その他コンクリート等に適用することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例中、「部」は特に記載がない限り質量基準である。
【0025】
<製造例1>
オートクレーブに、2−プロピルヘプタノール158部(1モル)と三フッ化ホウ素0.44部(0.006モル、対粗製物あたり0.1%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した。次に、温度を60℃、圧力を0.2MPaに維持しながらプロピレンオキサイド58部(1モル)を導入した。プロピレンオキサイドの導入後、反応温度を維持して、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。次に、温度70℃、反応圧0.25MPaでエチレンオキサイド220部(5モル)を導入した後、反応温度を維持しつつ、内圧が低下して一定になるまで熟成させ、反応液を60℃まで冷却した。次に、水酸化カリウム1.02部(0.018モル)を仕込み、温度120℃、反応圧0.25MPaでエチレンオキサイド220部(5モル)を導入した後、反応温度を維持しつつ、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。その後、反応液を70℃まで冷却した後、85重量%乳酸1.36部(0.013モル)で中和して、本発明品[1]を得た。
【0026】
<製造例2>
オートクレーブに、2−プロピルヘプタノール158部(1モル)と水酸化カリウム1.10部(0.020モル、対粗製物あたり0.1%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、撹拌しながら70℃で減圧して、反応器内の内圧が2.7kPa到達後、引き続き30分間減圧脱水を継続した。ついで110℃まで昇温した後、反応圧0.20MPaでプロピレンオキサイド58部(1モル)を導入した。プロピレンオキサイドの導入後、反応温度を維持して、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。次に、温度120℃、反応圧0.25MPaでエチレンオキサイド880部(20モル)を導入した後、反応温度を維持しつつ、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。その後、反応液を70℃まで冷却した後、85重量%乳酸2.28部(0.021モル、対水酸化カリウムあたり1.1モル等量)で中和して、本発明品[2]を得た。
【0027】
<製造例3>
オートクレーブに、2−プロピルヘプタノール158部(1モル)と水酸化カリウム2.47部(0.044モル、対粗製物あたり0.1%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、撹拌しながら70℃で減圧して、反応器内の内圧が2.7kPa到達後、引き続き30分間減圧脱水を継続した。ついで110℃まで昇温した後、反応圧0.20MPaでプロピレンオキサイド116部(2モル)を導入した。プロピレンオキサイドの導入後、反応温度を維持して、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。次に、温度120℃、反応圧0.25MPaでエチレンオキサイド2200部(50モル)を導入した後、反応温度を維持しつつ、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。その後、反応液を70℃まで冷却した後、氷酢酸2.91部(0.049モル、対水酸化カリウムあたり1.1モル等量)で中和して、本発明品[3]を得た。
【0028】
<製造例4>
プロピレンオキサイドおよびエチレンオキサイドの導入量を下記表1に記載の割合に変更し、また本発明品[6][7]については原料アルコールを下記表1に記載のものに変更し(表中の%は重量%)、それに合わせて触媒量も変更した(対粗製物あたり0.1%)という以外は製造例2と同様にして、本発明品[4][5][6][7]及び比較品[1][2]を得た。
【0029】
<製造例5>
オートクレーブに、2−プロピルヘプタノール158部(1モル)と水酸化カリウム3.79部(0.068モル、対粗製物あたり0.1%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、撹拌しながら70℃で減圧して、反応器内の内圧が2.7kPaに到達後、引き続き30分間減圧脱水を継続した。ついで150℃まで昇温した後、反応圧0.20MPaでプロピレンオキサイド116部(2モル)を導入した。プロピレンオキサイドの導入後、反応温度を維持して、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。次に、温度170℃、反応圧0.25MPaでエチレンオキサイド3520部(80モル)を導入した後、反応温度を維持しつつ、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。その後、反応液を70℃まで冷却した後、85重量%乳酸7.88部(0.074モル、対水酸化カリウムあたり1.1モル等量)で中和して、比較品[3]を得た。
【0030】
<製造例6>
オートクレーブに、2−プロピルヘプタノール158部(1モル)と三フッ化ホウ素0.66部(0.010モル、対粗製物あたり0.1%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した。次に、温度を60℃、圧力を0.2MPaに維持しながらプロピレンオキサイド58部(1モル)を導入した。プロピレンオキサイドの導入後、反応温度を維持して、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。次に、温度70℃、反応圧0.25MPaでエチレンオキサイド440部(10モル)を導入した後、反応温度を維持しつつ、内圧が低下して一定になるまで熟成させた。その後、反応液を60℃まで冷却し、比較品[4]を得た。
【0031】
<製造例7>
プロピレンオキサイドおよびエチレンオキサイドの導入量を下記表1に記載の割合に変更し、それに合わせて触媒量も変更した(対粗製物あたり0.1%)という以外は製造例6と同様にして、比較品[5]を得た。
【0032】
<製造例8>
2−プロピルヘプタノールを下記表1に記載のアルコールに変更し、プロピレンオキサイドおよびエチレンオキサイドの導入量を下記表1に記載の割合に変更し、それに合わせて触媒量も変更した(対粗製物あたり0.1%)以外は製造例4と同様にして比較品[6]〜[8]を得た。
【0033】
<製造例9>
2−プロピルヘプタノールをイソウンデカノールに変更し、それに合わせて触媒量も変更した(対粗製物あたり0.1%)以外は製造例7と同様にして比較品[9]を得た。
【0034】
<製造例10>
製造例1で得られた本発明品[1]80部と平均分子量660のポリエチレングリコール20部とを混合して、本発明品[8]を得た。
【0035】
<製造例11>
製造例3で得られた本発明品[3]90部と平均分子量2500のポリエチレングリコール10部とを混合して、本発明品[9]を得た。
【0036】
<製造例12>
製造例4で得られた本発明品[4]95部と平均分子量4000のポリエチレングリコール5部とを混合して、本発明品[10]を得た。
【0037】
上記の本発明品[1]〜[7]と比較品[1]〜[9]について、多分散度を測定した。測定方法は以下の通りであり、結果を表1に示す。
【0038】
[多分散度測定]
次の条件によるGPC測定を行うことにより、界面活性剤の分子量分布の広狭の程度である多分散度Mw/Mnを求めた。
【0039】
カラム:Megapak GEL 201FP×1+Megapak GEL 201F×2(ともに日本分光(株)製)
移動相:THF(3mL/分)
カラム温度:40℃
検出器:RI
サンプル注入:5重量%溶液100μL
【表1】

【0040】
<実施例1〜5及び比較例1〜6>
撹拌機、還流冷却機、温度計及び滴下漏斗を備えた反応容器に蒸留水131部、緩衝剤として炭酸水素ナトリウム0.5部を仕込み、80℃まで昇温させ、窒素ガスにて溶存酸素を除去した。これとは別にメタクリル酸メチル75部、アクリル酸エチル171部、アクリル酸4部、乳化剤8部、蒸留水110部とを混合して、モノマーエマルジョンを調製した。次に、上記で調製したモノマーエマルジョン40部を一括して上記反応容器に添加し、10分間撹拌後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム0.5部を加え、10分間撹拌した。次に残りのモノマーエマルジョンを3時間かけて滴下して重合反応を行い、40℃まで冷却後、アンモニア水でpH8〜9に調整してポリマーエマルジョンを得た。
【0041】
使用した乳化剤は下記表2に示す通りであり、下記アニオン界面活性剤を記載量併用した(いずれも重量%)。
【0042】
a.ポリオキシエチレンラウリルエ−テル硫酸エステルナトリウム塩(5EO)20%
b.直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩 30%
c.ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエ−テルリン酸エステル(5EO)40%。
【0043】
得られたポリマーエマルジョンについて、重合安定性、化学安定性、粒子径、粒子径分布、フィルムの光沢性をそれぞれ評価した。評価方法は以下の通りであり、結果を表2に示す。
【0044】
[重合安定性]
重合後のポリマーエマルジョンを80メッシュの濾布を用いて濾過し、濾布上の残渣を水洗後、105℃×3時間で乾燥した。乾燥後の残渣の重量を測定し、全固形分に対する重量比率(%)で表示した。
【0045】
[化学安定性]
ポリマーエマルジョン10gに6mo1/L水酸化カルシウム水溶液10mLを撹拌しつつ加え、5分間撹拌後に80メッシュの濾布を用いて濾過し、濾布を通過しない凝集ポリマーの乾燥重量を測定して、全固形分に対する重量比率(%)で表示した。
【0046】
[粒子径]
動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装製MICROTRAC UPA 9340)にて測定し、μmで表示した。
【0047】
[粒子径分布]
動的光散乱式粒度分布測定にて得られた粒子径分布から標準偏差を求め、それをメディアン径で割った値、つまり相対標準偏差(%)で表示した。
【0048】
[フィルムの光沢性]
ガラスプレート上に0.5mm(wet)のエマルジョン膜を作り、室温で18〜20時間放置してフィルムを作成した。このフィルムの光沢性を目視にて、○(優)、△(可)、×(不可)の3段階で評価した。
【表2】

【0049】
<実施例6〜9及び比較例7〜11>
撹拌機、還流冷却機、温度計及び滴下漏斗を備えた反応容器に蒸留水131部、緩衝剤として炭酸水素ナトリウム0.5部を仕込み、80℃まで昇温させ、窒素ガスにて溶存酸素を除去した。これとは別にスチレン100部、アクリル酸ブチル146部、アクリル酸4部、乳化剤8部、蒸留水110部とを混合し、乳化剤を含むモノマーエマルジョンを調製した。次に、上記で調製したモノマーエマルジョン40部を一括して上記反応容器に添加し、10分間撹拌後、重合開始剤である過硫酸カリウム0.5部を加え、10分間撹拌した。次に残りのモノマーエマルジョンを3時間かけて滴下して重合反応を行い、40℃まで冷却後、水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調整してポリマーエマルジョンを得た。
【0050】
使用した乳化剤は下記表3に示す通りであり、併用アニオン界面活性剤としては全てラウリル硫酸エステルナトリウム塩を用いた(配合量は重量%)。
【0051】
得られたポリマーエマルジョンについて、重合安定性、粒子径、粒子径分布、フィルムの光沢性、泡立ち性をそれぞれ評価した。泡立ち性の評価方法は以下の通りであり、それ以外の評価方法は上記実施例1と同じである。結果を表3に示す。
【0052】
[泡立ち]
室温でポリマーエマルジョン20mLと水10mLを100mLネスラー管に入れ、振盪(15回;1回/2秒)により起泡させ、5分間静置した後の泡量(mL)で表示した。
【表3】

【0053】
<実施例10〜15及び比較例12〜16>
撹拌機、還流冷却機、温度計及び滴下漏斗を備えた反応容器に蒸留水131部、緩衝剤として炭酸水素ナトリウム0.5部を仕込み、70℃まで昇温させ、窒素ガスにて溶存酸素を除去した。これとは別に酢酸ビニル250部、乳化剤8部、蒸留水110部とを混合し、乳化剤を含むモノマーエマルジョンを調製した。次に、上記で調製したモノマーエマルジョン40部を一括して上記反応容器に添加し、10分間撹拌後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム0.5部を加え、10分間撹拌した。次に残りのモノマーエマルジョンを3時間かけて滴下して重合反応を行い、40℃まで冷却後、アンモニア水でpH6〜7に調整してポリマーエマルジョンを得た。使用した乳化剤は下記表4に示す通りである。
【0054】
得られたポリマーエマルジョンについて、重合安定性、粒子径をそれぞれ評価した。評価方法は上記実施例1と同じである。結果を表4に示す。
【表4】

【0055】
上記実施例及び比較例により示されるように、本発明品の乳化剤は特に限定した範囲でかつ特に限定したアルキレンオキサイド付加形態であるため、従来の炭素数10の脂肪族アルコールにエチレンオキサイドを付加した界面活性剤(例えば比較品[1])よりも重合安定性、化学安定性が良好であり、泡立ちの少ないポリマーエマルジョンが得られた。また、フィルムの光沢性にも優れていた。
【0056】
これに対し、プロピレンオキサイドを付加していない比較品[1]や[5]では、比較例1,4,7,9,14に示されるように、重合安定性と化学安定性に劣っており、またポリマーエマルジョンの泡立ちが大きかった。また、プロピレンオキサイドを付加しすぎた比較品[2]では、比較例2,12に示されるように重合安定性に劣っており、またフィルムの光沢性にも劣るものであった。多分散度が1.20を越える比較品[3]では、比較例3,8に示されように、フィルムの光沢性に劣っていた。また、多分散度が1.10未満の比較品[4]では、比較例13に示されるように重合安定性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の乳化剤は、上記した優れた作用効果を有するものであるため、各種モノマーを乳化重合する際の乳化剤として好ましく使用することができ、特に泡立ちが少なく、またフィルムの光沢性に優れるポリマーエマルジョンを得ることができるため、塗料用途に用いるポリマーエマルジョンを乳化重合するための乳化剤として特に好ましく使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、多分散度Mw/Mnが1.10〜1.20である非イオン界面活性剤を含有する乳化重合用乳化剤。
【化1】

(式中、R及びRは、炭素数の合計が8であるアルキル基を表し、両者は互いに同一でも異なってもよい。POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基を表し、mは1〜4の整数、nは1〜100の整数である。POとEOの付加形態はランダム付加、ブロック付加又はこれらの混合付加である。)
【請求項2】
一般式(1)において、Rがn−ペンチル基であり、Rがn−プロピル基であることを特徴とする請求項1記載の乳化重合用乳化剤。
【請求項3】
ポリエチレングリコールを更に含有する請求項1又は2記載の乳化重合用乳化剤。

【公開番号】特開2006−232946(P2006−232946A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47950(P2005−47950)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】